第七十六話 脅威、魔王ベルゼ


「あの気配と目。どうやら彼女も邪神の力で操られているみたいだ」

「アンデッド化されてやがるってわけか」


 いつもひょうひょうとしているイシュトバーンが、珍しく怒りの表情を見せる。

 もし魔王ベルゼを操っている者が、ドラゴンストルのときと同じ術者だとしたら……。


「オリヴィアさん! 早くみなさんを避難させてください! 彼女はおそらく邪神クラスだ」


 先ほどのドラゴンストルでさえ、相当な強さだった。

 魔王の場合、どれだけ強くなるのか想像できない。


「心得た!」


 オリヴィアはそう言ってくれたが、まともに動ける第二部隊の人間は彼女とレックス、そしてフェリックスの三人のみ。

 とにかく全員が部屋から出るまで、魔王ベルゼを引き付けなければ!


 ついにベルゼが、魔力で形成した刃を右手に出現させて構えた。


「チッ……! 来るぜ!」

「みんな! 急いで!」


 こちらの都合を待つわけもなく、ベルゼが一直線に突っ込んでくる。


「早い!」


 魔力の刃を形成した右手で、ベルゼが俺の喉に抜き手を放つ。

 ミスティローズブレイドで、その攻撃をギリギリで受け流す。


 しかしベルゼはそのまま体を回転させて、後ろ蹴りを仕掛けてきた。

 かわすことができず、俺の横腹にその蹴りがヒットした。


「うぐ!」


 蹴りの威力で吹き飛ばされた俺を、ベルゼが飛び上がって追撃してくる。


「おとなしくしろや!」


 イシュトバーンが、後ろからベルゼの体にしがみついた。

 しかし彼女は体を前転させて振りほどき、引きはがされた彼の腹を空中で踏みつけた。

 そのまま床に墜落したイシュトバーンに、追い打ちの魔法弾を投げつける。


 飛ばされた俺はどうにか態勢を整えて着地し、ベルゼめがけて駆け出した。

 すると彼女は、前世でいうソフトボールのボールを投げるような動作を見せた。

 次の瞬間、衝撃波のようなものが床を削りながら俺のほうへ向かってきた。


 その速度とタイミングを逆算するに、回避不能!


 両手を突き出して魔法防御で対応する。

 威力のすべてを吸収できず、重い衝撃が体を走り抜ける。


 間を取る暇もなく、同じ衝撃波が俺めがけて向かってきた。

 連発か!


 横に飛びのくには、衝撃波の幅が広すぎる。上に逃げるしかない!


 とっさに判断して飛び上がる。しかしそこには、ベルゼの拳が待っていた。

 誘導されていたんだ。

 真上に伸びたベルゼの拳が、俺の腹にめり込む。


「がはっ!」


 俺は拳の威力に吹き飛ばされ、床へと落ちて倒れた。


 しかし……なんだ今の動き。

 どこかで……どこかで見た気がする。


 そういえばさっきの衝撃波も、衝撃波を放つときの動作も。

 待てよ、そういえばドラゴンストルの回転するあの技も、見たことある気がするぞ。


 どこだ!

 どこで見た?


 ベルゼは着地と同時に、俺へと向かって駆けだす。

 そこへイシュトバーンが攻撃をしかけるも、彼女は跳ねるように後方へとさがってそれをかわす。


 バックステップから再び突進し、イシュトバーンへ抜き手を放つ。

 その抜き手をのけぞってかわした彼の腹に、ベルゼが後ろ蹴りを放った。

 イシュトバーンは俺とまったく同じパターンで、腹に蹴りを受けて吹き飛んだ。


 あの連続攻撃、間合いに入られたら避けるのは至難。

 ならば!


 俺はヤツのサイドへと回り込みながら、闇の魔法弾を連発した。

 ベルゼがとっさにガードの構えをとる。ガード越しに魔法弾が一発だけヒットする。


 彼女はガードを解いてから、魔属性の魔法弾を撃ち返してきた。

 互いの魔法弾がぶつかり合って、爆発が巻き起こる。

 何発か打ち返してから、ベルゼが飛び上がって向かってきた。


 なぜだ?

 なぜそこでジャンプなんだ?


 いや、それが戦いの技術としてダメとか、そういうわけじゃない。むしろ強い!


 しかし、さきほどからのベルゼの動きには違和感があった。

 俺の魔法弾が最初の一発だけヒットしたのも、意外だった。

 ベルゼのあのスピードなら、むしろ数発はかわされるだろうと思っていた。

 だからこそ、連発で魔法弾を放ったんだ。


 何かがおかしい。

 なぜか見覚えのあった技の数々も気になる。


 そこに、やつを倒す答えがあるかもしれない。


 考えを巡らせながらも、俺は宙にいるベルゼ目掛けて魔法弾を放った。

 すると彼女は真上に魔法力を放出して爆発を起こし、その勢いで一気に真下へ下降した。

 そのまま床を蹴って、一瞬で俺の間合いへと入ってくる。

 突進力が加わった手とうによる斬撃を、ミスティローズブレイドで受け止める。


 間髪入れず、ベルゼが流れるようにパンチとキックの連続コンボを仕掛けてくる。

 こちらがガードしていてもお構いなしだ。


「だぁかぁら! おとなしくしろや!」


 イシュトバーンが横からタックルしてベルゼの体にしがみつく。

 そのままイシュトバーンが馬乗りになろうとするも、倒れる勢いを利用されて巴投げを決められた。


 ベルゼは素早く立ち上がり、広げた両手を合わせて前に突き出す動作を見せた。

 つまり前世では知らぬ人などいないであろう、か〇はめ波そのものの動きだ。


 しかし出てきたものはそれとはちょっと違い、球体のエネルギー弾のようなものが……。


 待てよ待てよ……。


 これってもしかして、波〇拳?


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