最終章

最終話 エピローグ


 ユウダイたちとの戦いから、一年が過ぎました。

 わたくしこと、セレナ・エレティアは現在、エリオット総督が理事を務めている魔法学校に通っています。


 もしレイさんの力になりたいなら、今は魔法の腕を磨くといい。エリオット総督に、そう助言されたのです。

 だから私はレイさんに会いたいのを我慢して、魔法学校でがんばっています。


 レイさんはあの戦いのあと、二か月も眠り続けていました。

 その間、魔術協会のみなさんが彼の治療を継続してくれたのです。

 目覚めたあともしっかりリハビリをしたので、すっかり元気になりました。


 シャーロットさんはレイさんが眠っている間、毎日のように彼を訪ねてきました。

 でも彼が目覚めたあと、オリヴィアさんと一緒に自分の国へ帰っていきました。


「レイヴァンスのこと、支えてあげて……」


 お別れの日。そんな言葉を残した彼女のさみしそうな顔は、今でもはっきり覚えています。


 きっとシャーロットさんは、レイさんの側にいたかったはずです。

 でも騎士団の副隊長という立場もあって、国へ戻らなければいけないとのことでした。


 メリッサさんとニックさんは、あの漁村ではなく自分たちの故郷へと帰っていきました。

 漁村のみんなには、もう自分たちは必要ない。そんなことを嬉しそうに語っていたのが、印象に残っています。


「世話になったのう!」

「何かあったら、いつでも知らせてや。すぐに飛んでくるわ」


 そう言ったあとメリッサさんは、


「あの鈍感勇者に、自分の想いをしっかり伝えるんやで。結果も手紙で教えてや。2万Gがかかっとるんやからなぁ」


 と耳打ちしてきました。


 でも実はレイさんが目覚めてから半年以上、彼とは会っていません。


 レイさんは今、世界中の国々を回ったり魔王城を訪ねたりと、大忙しなのだそうです。

 魔族と人間の和平のために、勇者としてがんばっているみたいです。

 本当にすごい人です。


 会いたいけれど、今の私が彼についていっても足を引っ張るだけ。

 でもいずれは、彼の力になりたい。だから今は、魔法の勉強に専念です。


 今日も朝から、学園での勉強や魔法の特訓が始まります。

 学園生活にも慣れてきて、友達もできました。


 教室で自分の席に座り、先生が来るのを待ちます。

 ちなみに、私のクラスを受け持つ先生なのですが……。


「みんな、おはようさん!」


 朝から元気よく挨拶をしてきた彼が、マックスウェル先生です。

 ときどき私と目が合うと、ウインクしてきて反応に困っています。


「はいはぁい、みんな静かにね。今日から新任の先生が来てくれてまぁす!」


 マックスウェル先生がそう言うと、教室がざわめきました。


「新任? 聞いてないよ先生!」

「はっはっは! サプライズさ」

「女? なぁ先生、女?」

「残念ながら、ヤロウだ」


 生徒と先生のやり取りが続きます。

 そんな中、私の隣にいた生徒だけが、なぜか顔を青くして目を見開いていました。


「どうしたんですか? ノヴァンくん」


 彼に声をかけてみたけど、聞こえていないかのように無反応です。


「それじゃあ、登場していただきましょう! 新任先生のご入場!」


 マックスウェル先生が両手を教室の入り口へ向けます。

 すると魔術師のローブを来た一人の男性が、教室の中へ入ってきました。


「レ、レイさん?」


 私は思わず立ち上がり、声を上げてしまいました。

 するとレイさんはこちらに顔を向けて、にっこり微笑んでくれました。


「ま、まさか! あの勇者の?」

「マジ? 本物?」

「す、すげー!」


 教室のみんなが、一斉に騒ぎ始めました。

 なにせ、邪神と戦って勝利に導いた勇者さまですもんね。


 こんなにもレイさんが人気者になって、うれしいけれどちょっと残念。

 独り占めにはさせてもらえそうにないな。


 でもレイさんと一緒に旅をして、一緒に戦えたことがすごく誇りに思えます。

 実はそのことは秘密にされているので、クラスのみんなは私のことを知らないのです。

 セレスちゃんの存在も極秘事項なので、仕方がありません。


 クラスのみんなが一斉に手を上げて、レイさんを質問攻めにしました。

 困った顔をしているレイさんを見ていると、なんだかすごく懐かしい気持ちになります。


 そのときでした。


「み、みんな! 今すぐここから逃げろ!」


 突然ノヴァンくんが勢いよく立ち上がって、叫びました。



 * * *



 俺はエリオットと話し合い、彼が理事をする学園の先生となった。

 それには理由がある。


 エピックファンタジアⅡの舞台となるのが、この魔法学園なのだ。

 そのことはダイキから聞き出した。

 刑を軽くすることを条件に、エピックファンタジアⅡの情報を事細かに教えてもらったのだ。


 エリオットの計らいで、俺の受け持つクラスにはセレナもいるらしい。


 マックスウェルに案内され、教室へとたどり着く。

 入口の前で待機するよう言われ、まずはマックスウェルが中へと入っていった。


 教室の入り口から、こっそり中を覗いてみる。

 いた、セレナだ!

 会わなくなってまだ半年とちょっとくらいなのに、なんだかすごく懐かしい。


 女神の力なしでも多くの魔法を操ることができるようになったのだと、マックスウェルから聞いている。

 がんばってるんだな、セレナも。


「みんな、おはようさん!」


 教室の中から、テンションの高いマックスウェルの声が聞こえてきた。


「はいはぁい、みんな静かにね。今日から新任の先生が来てくれてまぁす!」


 その言葉をきっかけに、マックスウェルと生徒たちとの楽し気なやり取りが続く。

 なんだかんだ、親しみやすくて人気のありそうな先生だな、マックスウェルは。


 それにしても生徒のみんな。新任の先生がどんな人か、めっちゃ質問しまくっているな。

 俺なんかが入ってきて、がっかりするんじゃないか?

 やばい、緊張してきた。


「それじゃあ、登場していただきましょう! 新任先生のご入場!」


 マックスウェルの派手な合図にとまどいつつも、俺は教室のドアを開けて中に入った。


「レ、レイさん?」


 思わずといった感じで、セレナが声を上げる。

 久しぶりに聞いた彼女の声にうれしくなって、顔がほころんだ。


 そのあと、教室内が静まり返った。やっぱり、がっかりされたのかな。

 そう思った次の瞬間、教室が一気ににぎやかになる。


「ま、まさか! あの勇者の?」

「マジ? 本物?」

「す、すげー!」


 あら?

 もしかして逆パターンなのか?

 どうしよう。こういう感じは慣れてなくて、どんな顔をすればいいか分からない。


「闇属性って本当ですか?」

「かっけぇ!」

「先生、見てみた―い」


 ははは……。

 なんか、闇属性に対する反応が以前とは全然違うな。

 セレナ、助けてくれ。

 そう思って彼女にチラリと視線を送る。


 そのときだ。


「み、みんな! 今すぐここから逃げろ!」


 セレナの隣に座っていた男子が、椅子から立ち上がって叫びだした。


 教室に向かう途中で気付いたんだけど。

 彼からも、例の電磁波のようなものが感じられる。

 ということは彼もまた、転生者なのか。


 しかも、彼こそがエピックファンタジアⅡの主人公、ノヴァンなのだ。


 突然、教室の外から爆発音が響き渡った。

 その音に、生徒たちがざわめきだす。


「どうやら、おいでなすったようだな。レイヴァンス先生」

「そうだね、マックスウェル先生。ダイキの情報どおりだ」


 主人公であるノヴァンのクラスに、新任教師がやってくる。

 この出来事がトリガーかのように、エピックファンタジアⅡ最初のイベントが発生する。


 今度の敵は邪神ではなく、魔神。


 この学園には、魔神の力が封じられたペンダントが保管されている。

 魔神を崇拝する魔界の住人たちが、そのペンダントを求めて学園を襲撃してきたのだ。


 ゲームだと、このイベントでマックスウェルが生徒たちをかばって死亡するらしい。

 他にも死傷者がたくさん出るという。

 だが俺たちは、ゲームのシナリオなんていくらでも変えられることを知っている。


 主人公のノヴァンが窓の淵に立ち、右手に魔力を込めだした。


 ほほう。

 ユウダイたちとは違い、彼はしっかり修行に勤しんできたようだな。

 それに彼はさっき、みんなに逃げるよう進言した。このことからも、正しい心の持ち主なんだと思えた。


 俺は窓の側へと向かい、外の様子をうかがった。

 学園の広場に、魔族と思われる連中が集まっている。

 イシュトバーンやベルゼたちの組織の者ではない、魔界からやってきたやつらだとダイキから聞いている。


「ノヴァンくん。キミも転生者なんだね」

「え? どうしてそれを!」

「俺も転生者だ」


 ノヴァンが驚きの表情を見せる。

 彼も俺から電磁波のようなものを感じているだろうが、どうやら他の転生者に会ったのは初めてらしい。


「その手に込められた魔力だけでも、キミの力量が相当なものだと分かった。あの連中からみんなを守るために、協力してもらえるか?」

「もちろんです!」


 力強い笑みを浮かべてから、ノヴァンは窓から飛び出していった。


「セレナ!」


 俺が呼びかけると、彼女は緊張した面持ちで「はい」と返事をした。


「キミになら、生徒たちを任せられる。みんなを頼んだよ」


 そう伝えると、彼女はどこか嬉しそうに顔をほころばせた。

 そして今度は、自信に満ちたような表情で「はい!」と答えた。


「さぁて、我々もまいりましょうか。俺の命日にしないためにも、よろしく頼むぜ。レイヴァンス先生」

「もちろんだ!」


 俺とマックスウェルは互いに笑みを返して、窓から外へと飛び出していった。


Fin





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追放されたら破滅する運命の悪役キャラだけど、主役の勇者パーティーからいきなり追放された件~破滅フラグ回避のために奮闘したらヒロインたちにも溺愛され勇者とまで崇められたので、ついでに世界も救います~ 我那覇アキラ @ganaP_AKIRA

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