第三話 さまよって森の中
思わず聖王都の城下町から逃げ出してしまったものの、これからどうしたものか。
このままだと俺は魔族側の四天王になって、勇者たちに倒されてしまう運命だ。
やはりあの場は我慢して、勇者たちのパシリだろうが何だろうが食らいついていくべきだったんだろうか。
まさか、いじめっこたちが勇者として転生していたなんて。
とにかく、過ぎてしまったものは仕方ない。
破滅フラグをうっかり立ててしまった気はするが、まだ回避できるかもしれない。
要は俺が闇落ちしなければいいんじゃないかな。
ただ、その理論だけでは不安が残る。
レイヴァンスがどのように闇落ちして四天王にまでなったのか、その経緯がゲーム内ではあまり深掘りされていないことだ。
パーティーから抜けたきっかけも、闇落ちした理由も分かっている。
勇者とともに戦ったにも関わらずの、民からの偏見や蔑みの目であることは確かなのだ。
それは作中でも語られている。
だがそれはきっかけであって、レイヴァンスが四天王になった経緯の一部にすぎない。
もし仮に民への不信感から生まれた精神的な歪みに、魔族が付けこんできたという裏設定があったとしたら。
例えば催眠などの魔術で心の闇を増幅させ、半強制的に四天王の一人へと変貌させられたのだとしたら。
魔族が使う魔属性には、そういった
今後、関わる人たちに嫌なこともたくさん言われるだろう。
そうされ続けて心が弱ったところを魔族たちに狙われたら、俺の意志に関係なく無理やり闇落ちさせられるかもしれない。
ならいっそのこと、人と関わる前に実家へ帰って引きこもるのが安全かも。
よし、帰るか。
そのためにもまずは、うっかり迷い込んだこの森がどこなのかってことから、把握しなくてはな。
帰るにも、方向が分からないのでは話にならない。
俺は森をさまよいながら、場所が特定できる何かを探していた。
例えば森の中だって山道があれば、町や村へ続いているかもしれないし、立札があるかもしれない。
しばらくウロウロしていると、大きな鼻息のような音が聞こえてきた。
音のするほうに目を向ける。
数十メートル先に、巨大なイノシシのような魔獣がいた。
ファングハンマーか。
この辺の地域だと、それなりに強いモンスターではあるな。
そういえば昼食もまだだったし、あいつを狩るか。
右手に魔力を込めて、いつでも放てるよう準備する。
どうやら向こうも俺に気づいたようだ。
でかい図体をゆっくり動かして、方向を定めている。
そしてヤツの体がまっすぐ俺を向いた瞬間、周りの枝をバキバキ折りながら突進してきた。
「
魔力を込めた右手を突き出して、魔法を放つ。
イノシシ型のモンスターは突進しながらも口から血を吐き出して、転がるように倒れた。
我ながらエグい魔法だな。
闇属性は回復系がほとんどない代わりに、高い攻撃力や強力な特殊効果を秘めた魔法が多い。
そしてとにかく、印象が悪い。
それは内部から破壊されて鼻や口から血を流しているファングハンマーを見れば、一目瞭然だろう。
周りから白い目で見られてしまうのも、わからないでもないんだよね。
とりあえず殺めた命を大切に、だよな。
おいしくいただく準備に取り掛かろう。
といっても、肉を切り取って丸焼きにするくらいしか思いつかないけど。
小枝を一か所に集め、闇魔法により召喚した魔界の青黒い炎で火を焚く。
腰のショートソードでファングハンマーの肉をさばいたら、そのままショートソードに肉をさしてから焚火で直焼きだ。
「ふっふっふ。魔界の業火で焼かれる肉は、さぞかし旨かろう」
ちょっと言ってみたかっただけ。
決して闇落ちしたわけじゃないよ。
しばらくして、何ともおいしそうな匂いがあたりを包んだ。
ちょうどそのとき、真上から「ぐぅぅぅぅ」という音が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます