第四話 ヒロインとの出会い
「あのぉ……」
声が聞こえてきて上を向くと、一人の女の子が木の枝にしがみついていた。
まっすぐ伸びた長い黒髪の美少女。
きれいな茶色の目がキラキラと輝き、愛らしい魅力が溢れている。
しかしそんな子が、なにゆえ木の上なんかにいるのだろう。
「すいません。つい、おいしそうな香りにつられて」
女の子が苦笑いを浮かべながら、肉に視線を向ける。
「そんなところで、いったい何をしてるんだ?」
「森を散歩していたらファングハンマーがいたので、慌てて木の上に非難したんですけど。そのまま眠っちゃって」
モンスターから避難している最中にお昼寝とは。
テヘっと当たり前みたいに笑っているが、ずいぶん肝が座った子だな。
「もしよければだけど、おなかが空いてるならキミも食べる? 味付けとか、一切ないけど」
「え? いいんですか?」
たれそうになっているよだれを服の裾で拭ってから、女の子は木の上から降りてきた。
スカートだったので、とっさに視線をそらす。
お転婆な子だな、まったく。
「じゃん! 私、お塩を持ってるんです」
女の子は木から降りてくるなり、腰に巻いているポーチから塩の入った小瓶を出してきた。
助かるけど、なんでそんなものを持って森をウロウロしてたんだろ。
「私、セレナです。よろしくお願いします」
セレナ?
そうか!
見覚えがあると思ったら、この子が聖女セレナだったんだ。
「どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない。俺はレイヴァンス」
「レイヴァンスさん……。えーっと、じゃあレイさんですね」
そう言ってセレナがニッコリ笑う。
聖女セレナはエピックファンタジアの最重要キャラといっても過言ではない、いうなればゲームのメインヒロインだ。
そして彼女は、邪神を復活させる鍵でもある。
邪神は魔族たちの崇拝する神であり、ゲームのラスボスだ。
そんなわけで普通の女の子として暮らしていた彼女も、これから色々と巻き込まれていくんだろう。
本来なら勇者たちが試練の洞窟をクリアしたあと、共に旅をする仲間として登場する予定だった。
しかし時間的にもユウダイたちはまだ城にいるか、もしくは旅立ったばかりだろう。
つまり追放されてしまったことで、俺だけが勇者たちよりも先に聖女と出会ったことになるわけか。
まあ実家に帰ると決めた俺には、もう関係のない話なんだけどね。
おそらくセレナは明日あたりにでも勇者ユウダイたちと出会い、ともに冒険をすることになるはずだ。
切り分けた肉に塩をかけて、おいしそうにモグモグしているセレナを見ていると、なんだか懐かしい気持ちになった。
前世でやっていたゲームのヒロインが、こうして目の前にいるのだから。
それにしても、生で見ると想像以上に美少女だな。
うっかりドキッとしてしまう。お転婆だけど。
「あの、レイさんは冒険者なんですか?」
「まあ、そんなところかな」
「じゃあ、うちに泊まっていきます? 野宿するよりは快適だと思いますし」
「いいの? 助かるよ」
「お肉をごちそうになったお礼です」
とりあえず宿は確保できた。
だけどセレナと行動をしていると、勇者ユウダイたちにばったり出会ってしまうかもしれない。
一泊したら準備を整えて、なるべく早めに村を出よう。
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