第三十七話 感謝する!

「確かにそうかもなぁ。だが裏を返せば、きさまも打つ手がないということじゃあないのか? 幽体に近い俺様には、体力という概念がない。このまま攻撃を続ければ、きさまは体力を消耗する。いつかは直撃を受けるだろ」


 自信に満ちたような口調のこいつに、闇属性の魔法弾を連続で浴びせる。

 剣を振り回すことに気を向けすぎたようで、俺の魔法がすべてやつの腹に命中した。


「うぐ!」

「魔法はそれなりに効果があるみたいだな」

「いやぁ、効かないねぇ。せいぜい一瞬、俺様の動きを止めるだけだ」


 確かに今の魔法程度なら、ヤツの言うとおりなのだろう。

 さらに強力な魔法であっても、それが闇属性である限り、おそらく決定打にはならないに違いない。


 やはり決め手は光属性か。


 思考を巡らせていたとき、再びネクロクローが襲い掛かってきた。

 しかし俺も、ヤツの剣をかわしていく。


「おまえの剣には誇りがない。才能だけで培った手抜きの剣だ。隙だらけなんだよ」

「ゲフフフフ。その手抜きの剣で、必死に腕を磨いてきた騎士どもを腐るほど殺してきた。誇りだのなんだの言ってるヤツほど、おのれの無力を嘆く表情が楽しめるんだよなぁ」


 嬉々として語るネクロクローの隙をつき、胴体を斬りつけた。


「うげふ……。ゲフ……ゲフフフフフフ、確かにちょっと痛いねぇ。ちょおぉぉおっとだけ、痛い痛い。だが、痛いくらいしか効かないねぇ」


 ミスティローズブレイドとはいえ、光の魔力を込めていないとやつを倒すには至らないか。


 俺は闇の魔法弾を飛ばしてヤツを足止めしてから距離を取り、レックスのところへと戻った。


「レックスさん、ヤツを倒すために力を貸してください」

「ヤツは自分が倒します。時間を稼いでくれたことには感謝しますが、ここから先は手出し無用!」

「戦うのはレックスさんに任せたい。だけどあなたの剣ではヤツを倒せないのも、すでに実証済み。だからヤツを倒せる剣を、俺の魔法で生み出します」

「バカな。闇属性のあなたに、そんなことできるわけがない」


 レックスの言葉にあえて返答せず、俺は右手に自分の魔力を集めた。

 そしてその闇属性の魔力を、彼の持つ光の剣に流し込んだ。


 剣全体を覆っていた光が剣先へと追いやられ、代わりに黒い闇が剣を包み込む。


 次の瞬間、闇に追いやられて一点に集まった光が膨れ上がり、強く輝きだした。

 光の周囲に稲妻のような電撃が走る。

 触れたものを黒焦げにしてしまいそうなほどの威力を感じた。


「こ、これは……」


 自分の手に握られた剣の切っ先を見ながら、レックスが驚いた表情を見せる。


 これがミスティローズの言っていた、闇魔法の使い方だった。


 強力な闇に包まれた光は追いやられて一か所に集中し、超圧縮される。

 闇属性の敵を倒すには、強力な光属性の魔力をぶつけるのが手っ取り早いのは間違いない。

 しかし闇属性でもこんなやり方で、光の力を強化できるのだ。


「闇と光の合成魔法、といったところでしょうか。この剣なら、ヤツを倒せるはずです」


 そう説明してから、俺はネクロクローへと向き直った。


「剣に誇りを持ち、命を懸けて腕を磨いてきた騎士がここにいる! その強さ、身をもって味わうといい!」


 俺の言葉に、ネクロクローが後ずさりする。


「レイヴァンス殿……感謝する!」


 そう言ってからレックスは、ヤツ目掛けて一直線に駆けだした。


 振り下ろされた剣をネクロクローが受けるも、すぐさま次の斬撃が襲い来る。

 そのスピードに、ヤツは防戦一方だった。


「うぐぐ……やべぇ! この光の威力、斬られたらおしまいだ!」


 そのとおり。お互いに斬られたら致命傷を受ける。

 つまり、ようやくレックスとネクロクローは、同じ土俵に立ったのだ。


「おまえによって誇りを汚された騎士たちの無念、今こそ晴らす!」

「や、やめろぉぉぉおおお!」


 それは完全にネクロクローの断末魔だった。

 ヤツが叫んだときには、レックスの剣がネクロクローの胴体を斬り抜けていたのだ。


 お互い時が止まったように身動きせず、静寂があたりを包む。

 そしてついに!

 ヤツの体が破裂するように飛び散って、霧のように消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る