第三十六話 暗黒騎士ネクロクロー

 こいつ、間違いない。

 四天王の一人、暗黒騎士のネクロクローだ。

 いや、今はまだ三幹部だっけ。


「まさか……まさか、おまえが直接やってくるとはな」


 明らかな殺気を込めて、レックスがネクロクローを睨みつける。


「おや、どこかで会ったか? 俺様はきさまなど知らんが」

「これからじっくりと思い出させてやる。おまえがいかにゲスで、いかに重い罪を犯したかということをな」


 一足飛びでレックスがヤツの間合いに踏み込み、剣をなぎる。

 ネクロクローは腰にさげていた黒い剣を抜き、レックスの斬撃を受け止めた。


「ほう、俺様に触れることができるとは。光属性の魔力を帯びた剣か。なるほどなるほど、俺様の部下が倒されるわけだ」

「おまえはかつて俺の故郷の騎士たちをもてあそび、騎士としての誇りをズタズタにした。目の前で家族を殺して見せた。剣の無力を痛感させながら、騎士たちの肉体も心も殺したんだ」

「ゲフフフフ。そしてその騎士どもはゴーストソルジャーとなり、俺様の配下として幸せに暮らしましたとさ」

「許さん! 我が故郷の無念、今こそ晴らしてやる!」


 レックスは勢いよく剣を振り上げてから、やつめがけて振り下ろした。

 ネクロクローは後方に飛んで、その剣をかわす。


「何やら恨みがありそうだと思っていたが、やはりそれ関連か。俺様に挑んでくるやつは基本的に同じことをほざくから、もう飽きてしまってな。あくびが出そうだぜ。ゲフフ」


 甲冑を着た騎士の格好にそぐわぬ、品も騎士道精神もないやつだ。


 レックスは再び剣を振り上げて、ヤツへの攻撃を再開させた。

 ヤツは黒い剣で対応するも、光の剣の斬撃は止まらない。

 その剣が放つ光によって、きれいな斬撃の軌跡が描かれていく。


 見たところ、ネクロクローの剣の腕は一流だろうと思えた。

 しかしそれでも、剣技においては圧倒的にレックスが上だと感じた。


 だが、ネクロクローの動きに焦りはまったく感じられない。


 斬られた瞬間は、確かにその部分が一時的に削り取られている。

 しかし、すぐ元通りに再生してしまっているのだ。

 ダメージを受けないからこその余裕が、ヤツにはあるのだろう。


「レックスさんが押してるのは間違いないのに! 光属性より効果は薄いかもしれないが、やはり霊属性で援護しなきゃ!」

『のう、おぬし。闇属性は使わぬのか?』


 顔だけ出したミスティローズが、不思議そうな顔を俺に向ける。


「あの黒い騎士は、見た目どおり闇属性だ。闇属性に闇属性をぶつけても効果は望めないだろ」

『いや、使い方次第じゃぞ。光と闇は表裏一体、エネルギーそのものは同じものじゃ』

「つまり、どうすればいい?」

『並の闇ではできぬが、おぬしほどの魔力だからこそ可能な方法がある』


 そう前置きして、ミスティローズが説明を始めた。

 その間も、レックスが奮闘している。

 焦る気持ちを抑えながら彼女の話を聞き、やり方をしっかり頭に入れていく。


「ゲフフフ。その程度の光では、俺様を倒すことなどできんなぁ。きさまも俺様の部隊に入れてやるよ。歓迎会も開いてやるぜ」


 ネクロクローは不意に動きを止め、不気味に目を光らせながら剣先を斜め下に向けて構えた。

 そしてレックスの剣を避けようともせず、自らの黒い剣を振り上げた。


 体を斬られてもお構いなしの、カウンターで繰り出された斬撃。

 これを避けきるのは、ほぼ不可能だ。

 レックスの体から、血しぶきが上がる。


「うわぁぁぁああ!!」

「ほう。誰しも攻撃の瞬間は無防備のはずだが、紙一重で致命傷は避けたか」


 言いながらヤツが振り上げた状態の黒い剣を、レックス目掛けて振り下ろす。


 ――ガキーーーーン!――


 間一髪。

 無意識に飛び出していた俺は、ミスティローズブレイドでやつの剣を受け止めた。


「光の魔力をおびていない。にも関わらず俺様の剣がすり抜けず、受け止めることができるとは。すると、それが噂に聞く勇者の剣か? なるほどなるほど。つまり、きさまが話に聞くレイヴァンスとかいう男だな」


 ゲフフと笑ってから、ヤツが一旦距離をとる。


「なぜ……自分を助けるのです」


 剣を杖代わりにして立ち上がりながら、レックスが問う。


「仲間だからに決まってます!」

「仲間? 言ったはずです、自分はそう思っていないと。闇属性が憎い。あなたも例外ではありません」


 体から血を流しながら、レックスが剣を構える。

 その先には赤い目を光らせた甲冑が、やれやれといった感じで肩をすくめていた。


「ゲフフ、仲間割れか。それはそれで見ていて面白いが、どのみちきさまらは俺の部下になる身だ。無駄な言い争いはやめて、さっさと俺に殺されろ! ゲフフフフフゥ!」


 高笑いしながら向かってくるネクロクローの剣を、ミスティローズブレイドで受け止める。

 さらに剣を振り回してくるが、俺はそのすべてを受け流して見せた。


「ぐ! こいつ!」

「普通は攻撃を受けた場合、ダメージを受けるか体制を崩す。しかしダメージを受けないおまえは、相手の攻撃を無視することができる。だから、相手の攻撃によって生じる無防備へのカウンターを決めることができるんだ。それがおまえの唯一の強み。剣そのものは大した腕じゃない」


 攻撃をさばきながら俺が言うと、ネクロクローは剣を振り回しながら薄笑みを浮かべた。


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