第四十六話 ノリが大事やで
手のひらから闇魔法で召喚した鎖を放ち、船のマストに絡ませる。
そしてニックを船へ戻したときと同じ要領で、俺自身も船へと帰還した。
シーマーロックの群れもいなくなっており、無事に戦闘も終了した様子だ。
「ニック……。うちらまた、命拾いしたようやね。ホンマに、この死にぞこないが……」
横たわるニックの頭を撫でながら、メリッサが涙を浮かべている。
強くて気丈で何事にも動じない人だと思っていた。
だが今は、とても女性的で美しく見える。
「レイさん、よかった! 本当に……よかったです!」
セレナがパタパタかけてきて、手を握ってくれた。
戦いのたびに、心配ばかりかけているみたいだ。
「レイヴァンス……。おおきに。ホンマ、おおきにな」
涙をぬぐいながら、メリッサが笑顔を見せた。
ニックを助けることが出来て、心底良かったと思う。
戦いが終わって気持ちが落ち着くにつれ、喜びの実感が湧き上がってきた。
「他の船員も全員無事だ。マックスウェルが彼らを援護していたらしい。見かけによらず頼もしいやつだな、あいつは」
「でも、砲弾で船が破損してしまったみたい。今、船員たちが応急処置をしている」
オリヴィアやシャーロットも集まって、互いに状況を報告し合う。
「それにしても、レイヴァンス。キミは本当に無茶をする。キミまで死んだと思ってしまったぞ」
「ホンマ申し訳ないな、レイヴァンス。うちがドジ踏んでもうたせいやわ」
オリヴィアの言葉を聞くや、メリッサが頭をかきながら謝罪してくる。
だが、メリッサとニックを巻き込み、危険に晒してしまった元々の原因は俺たち……いや、俺にある。
そのことをみんなにも、伝えておかねばならない。
「みんな、聞いてくれ」
声をかけると、全員が俺に注目した。
「どうした、あらたまって」
「今回、魔獣たちが襲ってきたのも、聖王都の船団が攻めてきたのも、すべてユウダイが仕組んだことだったんだ」
その言葉に、シャーロットが怒りの表情を見せた。
おそらくユウダイに一番の恨みを持つのは、彼女だろう。
無茶だけはしないよう、それとなく見張っておく必要はありそうだ。
だが今後の戦いを乗り切るためにも、全員に情報を共有しておく必要がある。
「ユウダイっていうと、王族のバカ皇子のことだな」
「海の上で戦っていたとき、ユウダイが現れたんだ。あいつは父親に頼み込んで聖王都の軍勢を差し向けただけでなく、裏では魔族とも繋がっているらしい」
「あのバカ皇子、ついにチンピラからゲスにまで落ちたか。それほどの悪党になるとはな」
「私たちが聖域に向かうこと、あいつなら知っている。先回りしたのね」
今回だけじゃない。
メリッサたちの漁村へ向かう途中、森で見かけたフードの男。
あれもユウダイだったのだ。
あいつも俺やシャーロットと同様、ゲームのシナリオを知っている転生者。
今までは俺たちが先の展開を利用してきたが、これからは敵もそうしてくるに違いない。
そういえば、ダイキとタクヤは見かけなかったが。
あの二人はどうしているのだろう。
前世から常にユウダイと行動しているイメージが強いけど、やはりあの二人も魔族側についたのだろうか。
「聞いてのとおりです、メリッサさん。あなたとニックを危険な目に合わせてしまったのは、俺を狙うやつの仕業だったんです。巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
シャーロットがユウダイたちを殺そうとしたとき、止めるだけでなく互いに和解する方向で話を進めていたら、こんなことにはならなかったのかもしれない。
そもそも、最後にあいつを挑発して怒らせたのは俺だ。
魔族と手を組むことさえいとわないほど、今のあいつは俺に執着している。
あいつを魔族にしてしまったのも、みんなを危険にさらしたのも……俺の責任だ。
俺は、頭を下げることしかできなかった。
「なに……言ってやがる……」
ニックの声がして、俺は顔をあげた。
彼は目を覚まし、上半身を起こしていた。
「おのれらの敵は、ワシらの敵じゃ。ワシら、もう仲間ちゃうんけ? それとも、そう思っとるんはワシだけか?」
ニヤリと笑みを浮かべ、ニックはまっすぐ俺に視線を向ける。
そして、右手を差し出してきた。
「メリッサを、よう受け止めてくれた。感謝しとる。ついでにワシも命拾いしたわ。ありがとな」
その言葉に救われた気持ちがして、吸い寄せられるように彼の手を取った。
「よっしゃ! なんやかんや言うても、無事に戦いを乗り切ったやないか。ごちゃごちゃ言うんはなしや! 改めて聖域目指すで、ヤロウども!」
声を張り上げて、メリッサがこぶしを上に突き出す。
「「「おう!」」」
それにならって俺たちもみな、こぶしを高らかに突き出した。
そんな中、無表情のシャーロットがぽつりとつぶやく。
「船、動く?」
「あんたなぁ。こういうときはノリが大事やで。元気があれば、なんでもできる。偉人の言葉や、覚えとき」
腰に手をあて、どうとでもなるといった感じでメリッサが言った。
いつもの調子に戻っていて、頼もしい限りだ。
そのとき、マックスウェルが船室からひょこっと顔を出してきた。
「この船、もうダメかもしんね」
軽いノリで、彼がその場の空気をぶち壊した。
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