第四章 いざ、ガーディアニア国へ

第二十九話 何でも屋のリナリナ登場

 次の日、オリヴィアは俺たちを自分の部屋に集合させた。


 部屋に入ると、彼女のほかに一人の女の子がいた。

 入室してきた俺たちに、女の子が笑顔を振りまいてくる。


「どうもぉ! みなさん、はじめまして」


 明るくて愛想がいいけれど、もみ手をしているところがなんとも商売人を感じさせる。


 そしてメイド服に大きな胸。緑色のツインテールが映える。

 この美少女は!


 報酬さえ払えば掃除洗濯、店の手伝いからスパイや暗殺にいたるまで、本当にどんなことでもやる超絶働き者の女の子、何でも屋のリナリナだ。

 まさかいきなり、こんなところで会えるとは。


 なんて思っていると、ポンポンポンと肩を叩かれた。


「そうかそうか、おめぇも気になるよな。実は俺もなんだ」


 コソコソと耳打ちしてきたのは、いつの間にか馴れ馴れしく話しかけるようになったマックスウェルだ。


「あの乳はヤバイ。だけどあんまりガン見するなよ、レイ。女は男の視線に敏感なんだぜ。見るならさりげなくだ。これぞ大人のたしなみよ」


 いや、どこが大人なんだか。

 それってむしろ、思春期のガキじゃないのか。

 でも確かに、目のやり場に困るというかなんというか。


 煩悩に支配されかけた瞬間、いつのまにか隣に立っていたセレナに頬をつねられた。


「むー! レイさん、ずっとあの人の胸ばっか見てます」

「そ、そそそ! そんなことない! 断じて!」


 ダメだ。全然説得力ないし、信じてもらえていない。

 セレナが頬を膨らませて、そっぽを向いた。


「おいおいレイ君、見たい気持ちもわからんでもねえぇが。いやわかる! すごくわかるが! 男子たるもの、我慢も必要なんだぜ」


 こ、この裏切者。というか、胸を見ていたのはおまえだろ。


「やだもう、お客さまったら! 十秒につき10Gいただいちゃいますよぉ」


 と言いながら、リナリナが両腕で胸を寄せて見せつけてくる。

 イカン!

 このままでは、あっという間にすっからかんにされてしまう。


「なんだ、レイヴァンス。胸が見たいのなら私のも見るか? 十秒20Gだがな」

「エロ闇勇者……」


 なんで俺、みんなから総攻撃受けてるの?

 セレナはずっと膨れてるし、シャーロットはジト目で睨んでくるし。

 そしてマックスウェルは「けけけ」と笑っている。


「ちなみにそこの彼は100Gになります」

「うむ。私にも200Gだ。ずいぶん見ていた上に、視線と顔がなんか嫌だった」


 二人してマックスウェルを指さした。


「い、いやいや! 見てません、これホント!」


 おまえはオリヴィアの胸まで見ていたのか。

 むしろおとこだ、俺は敬意を表する!


 さて、なかなか見ごたえのある胸……いや、かわいい顔からは想像できない裏の顔を持つリナリナが、なぜ俺たちの目の前にいるのだろう。


「本題に入ろうか。この女は私が雇った腕利きのスパイだ。彼女にはガーディアニア国の中を探ってもらっていた」

「リナリナですぅ。お金次第でなんでもやっちゃいますんで、みなさん今後ともご贔屓に!」


 もみ手をしながら、首を少し傾けてのニッコリスマイル。

 心を打ちぬかれてしまいそうだ。


「さて、リナリナよ。ガーディアニアはどんな状況だった?」

「魔族に操られているのは、以前もお話したとおりですけどぉ。今のところ目立った動きは見せていませんよ。反乱軍になっちゃった騎士団と、レックスさんの頑張りが大きいですねぇ」


 ガーディアニア騎士団長のレックス。

 シナリオ的にも魔族と戦う心強い仲間として、のちに勇者パーティーへ加わる男だ。


 国の要人たちがアンデッド化して魔族に操られていることは、オリヴィアからリナリナを通じて彼にも伝えてあるらしい。

 騎士団長がそのことを知っているのだから、魔族側も要人を操ったところで、騎士団を使うことはできないでいるのだろう。


 あとはレックス自身がアンデッド化して、操られなければよいのだけど。


 とはいえ、彼はオリヴィアと引けを取らないほどの剣の達人だった。

 そう易々と魔族の軍門に下ることもないはずだ。


「しかし、のんびりしてもいられまい。早くガーディアニアを開放し、魔族のたくらみを打ち破らねばな」

「ところでさ、魔族のたくらみってなんだ? やっぱり、邪神をよみがえらせようとしてるのか?」

「わ、私も気になります。ガーディアニアのみなさんを助けるだけじゃないんですか?」


 そういえば、マックスウェルはその辺の事情を完全には把握していないんだった。

 セレナに至っては、邪神の存在すら伝えてはいない。

 俺やシャーロットはゲームのシナリオを知っているし、オリヴィアもシャーロットからすべて聞いているとのことだから、ついついすべての事情を知る者の集まりだと勘違いしていた。


「それについては、レイヴァンスのほうが詳しいんじゃないか?」


 急に話を振られて驚いたが、オリヴィアも俺が転生者だということはシャーロットから聞いているのだろう。

 確かにゲームの設定は知っているから、彼女よりも詳しいことは間違いない。


 セレナの中に女神の魂が眠っていることは、本人にとってもショックがあるだろうから、まだ伏せておいたほうがいいだろうな。

 それを踏まえて、上手く説明しなきゃ。


「とりあえず、魔族らの目的だが。それはマックスウェルの言うとおり、邪神を復活させて人間たちを襲い、支配下に置くことだ」

「え? そんな大変なことが裏で動いてるんですか?」


 セレナの顔が青ざめる。そりゃ、驚くよな。

 魔族が世界征服を企んでいるというありがちな設定とはいえ、ゲームではなく生身の体でこの世界にいると、なかなかに恐怖を感じる。

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