第七十話 メンバーセレクト
ユウダイとタクヤが魔王城にいる。
その情報はケットくん改め、イシュトバーンから得ることができた。
彼の話によると、現在の魔族組織はユウダイが王として君臨しているという。
イシュトバーンは魔王奪還を試みるも失敗し、命からがら魔王城を抜け出してきた。
その後、ダイキがガーディアニア城にいることを知り、なんとか魔王を助けるための手がかりが得られないかと考えた。
そんな理由で城に忍び込んでいたとき、リナリナと遭遇したとのことだ。
ユウダイたちが魔王城にいるという情報の裏付けは、囚われの身となったダイキからも取ることができた。
「みなさん、本当にこれまでお疲れさまでした。しかし、ここからが本番です。魔王城にはまだ邪神の力を持った人物が二人いて、人間界を支配しようとしています」
俺は魔術協会の会議室の壇上に立ち、集まってくれた仲間たちに向けて言った。
ここに集まってくれている者は、実際に魔王城へ突撃する二十数名ほどのメンバーのみ。
ガーディアニアとオリヴィアたちの祖国であるナイトブライトの連合軍、さらに魔術協会選りすぐりの魔術師集団は、すでに魔王城を目指して移動中だ。
俺やシャーロットは魔王城の場所を知っている。
ガーディアニアから船で数日ほど航海した先にある島の、山に囲まれた盆地だ。
その山は高く険しいため、越えるのは困難だ。もはや天然の要塞といっても過言ではない。
しかし山の中腹には隠しトンネルがある。
シナリオを知っている俺たちは、当然そのことを知っていた。
魔族らも軍勢が行き来できるよう、かなり広々とした作りになっている。
よって、俺たちが軍勢を引き連れてトンネルを通ることも可能なわけだ。
すでに移動中の先発組は、魔族の軍勢を引き受ける役割を担う。
ここに集まった者たちは、魔王城の中へ突入する少数精鋭部隊。
おそらくユウダイとタクヤは、ダイキと同様に邪神の力を有している。
この二人との戦いに参加できる人間は限られるだろう。
だからこそヤツらと戦う者が、その他の魔族軍勢との戦いで消耗するわけにはいかない。
ダイキとの戦いに勝利できたのも、みんなが他の敵を引き受けてくれたことが功を奏した。
ほとんど無傷の万全な状態でダイキと戦えたから、あいつの恐ろしいまでのスピードとパワーにもギリギリで耐えられたのだ。
「つまりあなたがたは、ユウダイとタクヤを倒すことを目的として集められたメンバーです」
ここにいるみんなには事前にそのことを伝えていたので、とりあえずの最終確認だ。
ただし魔王城に突入する部隊とはいえ、その全員がユウダイとタクヤを相手にするわけではない。
まず、実際にユウダイとタクヤを相手にする第一部隊。
ラストバトルに行きつくまでに出現する敵を引き受ける第二部隊。
後方支援に徹する第三部隊。
魔王城突入は、役割に応じてこれら三つの部隊に分かれる。
「それじゃあ、第一部隊のメンバーから最終確認していきますね。まず最初の一人は俺です」
俺は唯一、邪神と戦った経験のある人間だ。それに一応、勇者の剣の持ち主だからな。
とはいえ、それを抜きにしてもユウダイたちとは、俺自身の手で決着を付けたい。
「そしてシャーロット。キミの実力は邪神の力にも通用すると俺は思っている。危険な任務だが、実際にユウダイたちと戦う主力メンバーとして、俺とともに来てほしい」
「あなたが嫌だと言ってもついていく」
ふふっと微笑んで、頼もしい返事をしてくれた。
彼女は転生者でもあるので、俺とともにユウダイたちの存在を感じ取れるセンサーとしても役に立つだろう。
「三人目はケットくん」
『がんばるニャン』
事前にみんなにも伝えていることではあったけど、それでも彼の名を出すと部屋の中に微かなざわめきが起きた。
念のため、俺の意志でいつでも彼を拘束できる鎖の魔法を、彼の体に仕掛けている。
その条件をイシュトバーンにも受け入れてもらうことで、みんなもとりあえず納得してはくれたのだけど。
ただ、シナリオを知っている俺からすれば、彼の信頼度は高いと思っている。
ひょっとしたら、だけど……。
イシュトバーンと手を組んで魔王を救い出せたら、魔王とも和解することが可能かもしれない。
ゲームだとイシュトバーンと魔王の関係性が原因で、悲しい結末を迎えることとなった。
魔王もまた、イシュトバーンを想っているのだ。
今の魔王は、過去の人間との戦争で死んでしまった先代魔王の娘だ。
亡き父が実現しようとしていた人間界制圧を成し遂げ、父のような偉大で強大な魔王になること。それが現魔王の存在意義になっていた。
そんな魔王の意思を尊重し、協力してきたのがイシュトバーンなのだ。
だがイシュトバーンは、勇者によって倒される。彼を失ってはじめて、魔王はイシュトバーンに対する自分の気持ちに気付く。
大事な人を失った魔王は、人間界制圧という目的に虚しさを感じる。
とはいえ自分から始めた戦いによって、魔族たちは止まることのない熱気に包まれていた。
引き返せなくなった魔王は悲しい想いを胸に秘めながらも、ついには邪神を復活させる。
そして邪神に肉体も心も取り込まれ、ラスボスへと変貌するのだ。
しかしイシュトバーンが生きていれば、そんな悲しい結末は回避できるかもしれない。
その可能性が浮かんだら、俺の中でイシュトバーンを連れて行かない選択肢は皆無だった。
「そして四人目は、この僕です」
エリオットがのけぞるほどに胸を張り、その場のみんなにドヤ顔を晒す。
見た目が子供なので、ホントにただの生意気なガキに見えるな。
とはいえ人間界最強の魔術師。
これほど頼りになる男もそうそういないだろう。
彼は魔術師軍団の指揮を他の者に任せ、ユウダイたちとの戦いに参加することを自ら買って出た。
ゲームではパーティーメンバーになることさえなかったんだけどな。
邪神の力を身に付けた人間というものに、興味が湧いたみたいだ。
おもしろそうかどうかで物事を決める、彼らしい行動でもあるんだけど。
「というわけでレイヴァンスを中心としたこの四人が、邪神人間とやりあうメンバーになるんでよろしく。他の者は間違っても邪神とのバトルに巻き込まれて、足手まといにならないよう注意してね」
エリオットがあくびをしながら言った。
相変わらず、微妙に口が悪いなこの人。見た目も相まって、なんか腹立つんだよな。
第二部隊はオリヴィア、レックス、そして魔術協会のベテラン魔術師。この三人を中心に据えて編成した、十数名の精鋭部隊だ。
そして第三部隊。
その最重要人物となるのはセレナだ。
女神を有する彼女の回復系と補助系の魔法は、やはり大きな戦力になる。
第一、第二部隊が消耗したらセレナによる補給が行えるよう、第三部隊は一定の距離を保ちながら待機する作戦だ。
セレナ以外にも、回復系や補助系に特化した有能な魔術師が加わる。
さらに、セレナを含めた回復要員の待機場所を確保したり護衛したりする、バトル専門の人間も第三部隊に配属された。
というわけで、マックスウェルとカイロス、メリッサ、ニック、そしてリナリナは第三部隊だ。
各人の役割を念入りに確認してから、緊張感が高まった様子のみんなに、俺は最後の激励を送った。
「邪神の力を取り込んだユウダイたちの暴走は、必ず止めねばなりません! そのためにも、みなさんのお力添えが必要不可欠です。だけど決して無理だけはしないでください。自分の命を最優先に! 誰一人欠けることなく、この戦いを乗り切りましょう!」
「「「「おぉぉぉぉおおおおお!」」」」
全員の士気が爆発したような雄叫びが、室内の空気を震わせた。
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