第五十七話 強いぞ闇勇者

 振り返って、魔族の軍勢に目を向ける。


「決着をつけてやる、グリムウィッチ」


 俺はその場でトントンッと軽く跳ねてリズムを取った。

 三回ほど跳ねたあと、一気にグリムウィッチへと駆けだす。


「へ?」


 何が起きているか分かっていない様子のグリムウィッチに、ミスティローズブレイドの斬撃を与えた。


「な……なな!」

「どうせまた部下を盾にして逃げるんだろ? あれを二度も見せられるのは御免だ。だから、そのまえに決めさせてもらった」


 ミスティローズブレイドで付けたヤツの傷口から、青黒い煙のようなものが一気に噴き出す。


「ぎょえぇえええ!」


 断末魔の叫び声をあげて、グリムウィッチが倒れた。

 あっけにとられた様子の魔族らに、俺は剣先を向けた。


「この場は退け! 向かってくるなら斬り伏せる!」


 魔族らは怯んでいるようではあるが、それでもジリジリとこちらに近づいてきた。

 どうやら、退いてはくれないらしい。


 一体の魔族が飛びかかると、堰を切ったように魔族の群れがなだれ込んできた。

 それらをことごとく斬っていく。


 さっきまでの俺は調子最悪だったが、今の俺は絶好調だ。

 敵がどれだけいようと、負ける気がしない。


 再び十数体の魔族や魔獣が飛びかかってくる。


「レイヴァンス、私たちもいる。一人で無茶しないで」


 横から颯爽と現れたシャーロットが、言いながら向かってくるヤツらを斬り刻んでいった。

 彼女に続き、オリヴィアも駆け付けてきて敵を薙ぎ払う。

 シャーロットの華麗な剣とは違った、一撃で蹴散らす豪快な剣だ。


 さらにメリッサとニックも駆け付けてきた。


「敵軍はもはや、指揮官を失った烏合の衆だな」

「せやけど多勢に無勢や。ちょっとしんどいわ」


 確かにこちらが精鋭揃いとはいえ、愚直に戦っていては夜が明けてしまう。

 この場は切り抜けられても、これからの戦いに支障をきたすかもしれない。


「では詠唱の時間稼ぎ、よろしくお願いします」

「ふっ、期待していたぞ。わかってるじゃないか。頼んだぞ闇勇者」


 オリヴィアがそう言うと、みんなが壁を作るように俺の前に立った。

 それぞれ、向かってくる魔族を倒していく。


 マックスウェルとカイロスはセレナを守るように後方で待機中。


 敵はまだ、俺たちの前方から向かってくる連中のみ。


 よし、全員の位置関係もばっちりだ!

 一気に決めてやる!


「冥界の闇よ。我が願いを聞き届け、暗黒の力を注ぎこみ、我に大いなる力を与えよ!」


 詠唱によって高めた魔力が、敵陣営の真上に黒いエネルギーの固まりを生み出す。


「みんな、俺の後ろへ下がれ!」


 合図とともに、俺の前で壁になってくれていた四人が後方へと下がった。


暗黒の壊滅ダーク・デストラクション!」


 空中に形成した黒い球体が一気に膨れ上がり、周囲の魔族らを吸い込みながら落下していく。

 小さな村なら一飲みにしてしまいそうなほどに膨れ上がった球体は、敵の軍勢を押しつぶしながら地面へとめり込んでいった。

 巻き起こる暴風に飛ばされないよう踏ん張りながら、闇の球体が沈んでいく様を見届ける。


 やがて風が止み、目の前には巨大なクレーターが残された。

 俺ができる魔法の中で、最強の広範囲攻撃魔法だ。


 ざっと見た感じ、敵のおおよそ八割の戦力を今の一撃で葬っている。

 残った魔族たちは恐怖からか、顔を歪ませて固まっていた。


 そして後ずさりしてから、一気に撤退していった。


「なんちゅう威力や」


 目を丸くして、メリッサがつぶやく。


「そのとおり。だからこそ、使い方には細心の注意が必要なんだ」

「キミが敵じゃなくてよかったと、改めて思うよ」


 オリヴィアが引きつった笑みを浮かべながら言った。


 敵になっていたかもしれないんだよな、ホントに。

 何せ俺は闇落ちして四天王になり、人間の敵になるはずの男だったからね。


 実際、ユウダイとグリムウィッチの策略で、俺も危ないところだった。


 そういえばエリオットも言っていたな。

 気をしっかり持つことだと。

 闇属性は蔑まれても仕方ない。そんな諦めが常に付きまとってしまう俺の心の弱さを、彼は見抜いていたのかもしれない。


「みんなの敵になんて、なるわけないよ。俺は剣に選ばれた勇者なんだから」


 俺の言葉に、オリヴィアが少し驚いた表情を見せる。


「知ってる」


 オリヴィアの隣にいたシャーロットが、柔らかい笑みを浮かべた。

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