第十三話 私たちと来てほしい
「私が転生者だって。なぜ分かったの?」
「あなたも俺に、何かしら感じるんじゃないですか。電磁波みたいな感じのやつ」
「感覚ある」
「転生者同士にだけ、感じるものらしいんです」
「そういうことなのね。私と同じ転生者、初めて会った」
「俺のほうは、あなたで四人目ですね。光の皇子とその仲間の二人。あいつらも転生者だったんです」
「オリヴィアと見ていた。下衆どもだった。がっかり」
俺も前世でさんざんひどい目にあわされた、いじめっ子たちだもんな。
「あなたも前世のことを、覚えてるんですか?」
「覚えてる。でも、思い出したくない」
俺もあんまりいい人生だったとは言えないけど、彼女はもっと良くないことがあったみたいだ。
「レイヴァンスは、私より年下だったはず。転生した時期は?」
「そういえば設定上、そうなんでしたっけ。俺は今年で十六になります」
「私は十八」
ならシャーロットは俺よりも二年早く、この世界に転生してきたわけか。
「レイヴァンス、これからの予定は?」
「家に帰ろうと思っています。あなた方がセレナを守ってくれるなら、安心ですし」
「できれば、私たちと来てほしい」
「転生者なら分かりますよね。俺はこのままだと、四天王として人々を苦しめる存在になります。だから、家で大人しくするつもりです」
「そうなるとは限らない。すでにゲームの展開とは、大きくズレてきているから。例えば私たちの国の王は、もう魔族に操られていない」
「え? それって、どういうことですか?」
「私は転生者。王がアンデッド化して操られることを知っていながら、何もしないわけがない」
シャーロットの話によると、未来で起きる祖国の厄災を、長年かけてオリヴィアに伝えてきたという。
もっとも、信じさせるのはかなり苦労したらしい。
しかし実際に魔族が王に接触する瞬間を捕らえ、事が起きる前に対処できたそうだ。
そのこともあって、オリヴィアも納得してくれたとのことだった。
「じゃあ、なぜ聖水を必要としているんです? あなた方の国が無事なら、もう不要なのでは?」
「魔族は私たちのナイトブライト国をあきらめ、ガーディアニア国に乗り換えた。最近、その事実を突き止めた」
ガーディアニア国といえば、屈強な騎士団を有する軍事力の高い国だ。
本来のストーリーでは、魔族に操られたシャーロット達の騎士団と戦争になる。その後、裏で暗躍する魔族の存在に気づいて、主人公たちに協力することになる国だった。
しかしこの世界では、そのガーディアニア国が魔族に操られているというのか。
オリヴィアとシャーロットはガーディアニア国を救い、魔族を倒すつもりでいるらしい。
「レイヴァンスならわかるはず。聖水を手に入れるためには聖女セレナだけでなく、勇者の力も必要になること」
「だから勇者を探していたんですね。でも、だったらなぜ俺なんですか? 勇者は俺じゃなくて、光の皇子ですよ。素行はともかく、あいつはれっきとした王族の第一王子です。協力をお願いするなら、あいつを説得すべきじゃないんですか?」
「あいつは勇者の剣を持っていなかった。勇者の剣を台座から引き抜いて、初めて勇者になれる」
ならなおさら、俺は協力者になりえない。
勇者の剣を持っていないのは、俺だって同じだ。
そういえば、なぜユウダイは剣を持っていなかったのだろう。
試練の洞窟に行かなかったのだろうか。
それとも、行ったけど剣を抜くことができなかった?
そんな馬鹿な。
「試練を受ける資格なら、レイヴァンスにもある。あいつらに抜けなかったのなら、レイヴァンスにも抜くチャンスがある」
「え? さすがにそれは無理ですって。だって、俺はレイヴァンスなんですよ。闇属性だし、主人公じゃないし。いずれ闇落ちして四天王になる男なんです」
「でも、勇者の剣は第一王子を選ばなかった。やってみる価値はあると思う」
考えもしなかった。
だって、闇属性の人間が光に満ちた勇者の剣を持てるわけがない、そう思うのが自然じゃないか。
でも試すだけなら、確かにやってみる価値はあるかもしれない。
どうせこのあとは、家に帰って引きこもるだけだったんだ。
ちょっとくらい予定を先送りにしても、問題はないだろう。
ただ、変に期待してはいけない。
期待して剣が抜けなかったら、精神的なダメージが大きすぎるからな。
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