第十二話 協力していただきたい

 セレナの家に着き、一同は彼女の父がいる部屋へと集まった。


 オリヴィアはどうやら、セレナの父親と名乗る男に話があったらしい。

 彼はケガの手当てを終え、ベッドで横になっていた。

 本来なら今は安静にすべきだろうけど、彼自信もオリヴィアの要件を聞きたい様子だ。


 セレナには席を外してほしいと言われたので、俺も一緒に部屋を出た。

 シャーロットは俺にも部屋に残って欲しそうな顔をしていたが、俺まで部屋に残るとセレナだけのけ者扱いになってしまう。


 そんなわけで俺はセレナとともに、宿の広間でオリヴィアたちの話が終わるのを待つことにした。


「レイさん、お腹がすきましたよね。お夕飯作ります。昨日のお肉、たっくさんありますから」


 そう言ってセレナが、テキパキと料理を始めた。

 あんな出来事があっても食い意地張ってるところは、なんともたくましい。


 やがて、あたりにいい匂いが漂う。しばらくして、肉に火を通したものがテーブルに並べられた。


「いただきまぁす!」


 両手を合わせてからセレナは、塩を振って肉にかぶりつく。

 食べてるときの彼女は、とても幸せそうだ。


「いい匂いだな」


 オリヴィアとシャーロットがやってきた。どうやら話は終わったらしい。


「お二人もいかがですか? レイさんが退治した、ファングハンマーのお肉です。たくさんありますよ」

「ほう。では、ありがたくいただこうか。そういえばバトルにかまけて、夕飯もまだだったからな」


 そんなやり取りがあり、みんなでテーブルを囲うことになった。


 肉を食べ終えたあと、早速と言った感じでオリヴィアが本題に入る。


「セレナさん。単刀直入に言おう。我々に協力していただきたい」

「え? えっと……どういうことでしょう」

「我々は、特殊な力を宿した聖水を入手する必要がある。その聖水を生み出すには、あなたの不思議な力が必要なのだ」


 なるほど、そういうことか。


 オリヴィアたちの祖国の王や要人たちは、魔族によってアンデッド化されて操られている。そのアンデッド化を治すためには、聖水が必要なのだ。

 聖水で王たちを治し、国を正常化させるのがオリヴィアたちの狙いというわけか。


 本来のストーリーだと、オリヴィアたちの国を勇者たちが訪れた段階では、アンデッドを正常化する聖水の存在も、生成方法も分からない。

 その後のストーリーで、勇者の仲間たちまでもがアンデッド化してしまう。そんな仲間たちを救うためのイベントとして、聖水の存在が明かされる流れだ。


 しかし、シャーロットが本当に転生者だとしたら、ストーリーの設定を知っていてもおかしくはない。

 だとすれば国の要人たちがアンデッドにされていることも、それを正常化させる聖水の存在も、当然知っているはずだ。


「で、でも……私には不思議な力なんてありませんけど」

「自分では気づいていないかもしれないが、あなたの中にはすごい才能が眠っているのだ。世界を救う可能性を、秘めているほどのな」


 セレナの中に眠っているのは、女神の魂であり女神の力そのもの。それをオリヴィアは才能と表現しているのだろう。

 自分の中に女神がいるなんて、いきなり伝えるにはあまりにも衝撃的すぎるからな。


「それにあなたのお父上にも、このことは伝えてある。我々があなたを護衛することを条件に、あなたと旅立つことをご了承いただいた。もちろん、お父上の治療を世話する者も手配しよう」


 すでに色んな準備を整えていたのか。

 セレナの父を名乗る男は、もともと聖女の護衛をしていたわけだし。ケガ人の自分よりも、オリヴィアたちに護衛を任せたほうが安全だもんな。

 それにしても、よく信用してもらえたな。


 セレナはしばらく、うつむいて考え込む様子を見せた。

 そして、いきおいよく顔を上げてから言った。


「わ、わかりました! あなた方には村を救っていただきました。私でできることなら、ご協力させてください!」


 セレナも快く引き受ける気になったようだ。

 これで本当に、俺も肩の荷が下りた。


 敵かもしれないオリヴィアだけなら任せられなかったけど、転生者のシャーロットもいる。

 信用してよさそうだ。少なくとも、ユウダイたちよりは。


 話がまとまったのを確認し、俺は席を立った。


「レイさん、どうしたんですか?」

「ちょっと夜風に当たりたくて」


 それだけを伝えて、宿から出た。


 村の診療所や広場のほうから、村人の声が聞こえてくる。

 だが、あたりはそれなりに静かだった。


 せっかくならと、俺は家の壁から壁へと蹴りあがり、屋根へと飛び乗った。

 夜風に当たりながら、村全体をぼーっと眺める。


 しばらくして、誰かが屋根に飛び乗ってきた。シャーロットだ。


「話がある。二人きりで」


 たどたどしくそう言うと、シャーロットは俺の隣に並んで座った。

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