第10話 家族団欒


[調査隊出立]


 アルザスの街、早朝の冒険者ギルド。

執務室にはギルドマスターの他に4人の男達が居た。

引き締まった筋肉は鋼の様、更には全身無駄を削ぎ落とし自身が1本の刃の如き身体をした精悍な顔立ち、赤茶色の頭髪をした20代後半の男。

服装は簡素なシャツに長ズボンでロングソード2本とカイトシールドを脇に置いていおり、その武装は薄らと魔法的な光を発している。

彼がこのミスリル級冒険者リーダーのザンディルである。

他にもワイバーンの皮を全身に使用したレザー装備に身を包み、長弓を持つ金髪の同じく20代後半のルイースという男。

薄らと白い光を放つひと目で高級な魔法服だと分かる神官服に同様の魔法武器のメイスを装備する、白髪の深い皺が刻まれながらも柔和な微笑みを浮かべている男で、40代で長身のダリス。

最後の男は漆黒のローブに身を包み頭頂部に鈍い光を放つ水晶が付いた全体的に捻れた杖を持つ、ボサボサの黒髪を首辺りまで伸ばし頬が痩せこけた40代のスリシャス。

彼等が現在この国でアダマンタイト級冒険者に1番近いと言われている有望株の人物達だ。


「昨日説明は受けていると思うが改めて書面にしたから読んでおけ」


 ザンディルが長机の上に置かれた依頼書を手に取り

一通り目を通し把握するとメンバーに渡す。


「内容は昨日の説明と相違ありません。ただ、追記に生存していれば魔人族の少女の回収とありますがこの説明をして頂けますか?一応魔人族以外にも4人の亜人が積まれていたみたいですが?」


 他のメンバーが内容確認を済ませたのを横目で確認してからギルドマスターに説明要求をする。


「文面の通りだ。魔人族以外はどうでもいい。死んでいても生きていても現場判断に任せる。魔人族の少女に関しては生きていれば捕まえてこい。これは奴隷商からの要望だ。詳細は知らん」


 ギルドマスターを観察するが聞いていないのか、内容が秘匿されているか判断出来なかったので溜息一つ洩らし早々に引き下がった。


「了解しました。では、他に要件が無ければ私達はこれで失礼させてもらいますよ」


 ギルドマスターは無言で頷き、ザンディル達は退出していった。


「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……」


 思案気な顔をしながらタバコに火を付け、窓の外を眺める。

 外に出たザンディル達は早速馬車が手配してある乗合馬車に向かう。


「なぁリーダー。今回のこの依頼どう思う?」


 斥候のルイースが先頭を歩くザンディルに問うと、皆も関心があるのか視線をザンディルに向ける。


「ギルマスは知り得る内容の全てを語ってはいない、と思う。しかし何を隠してるのかは分からなかったけど、今回の依頼は他に何かあるのかもね」

「だったらなんでこの依頼を受けたんだよ」

「そうだね……。色々と理由はあるんだけど、1番の理由はやっぱり亜人なんていうゴミは私達が掃除しなければいけないと思ったから、かな。これも正義の行いだからね」


 笑顔で語るザンディルだが目は笑っておらず濁った光を宿している。

その様子になれているのか全員気にした様子も無い。

それどころか皆一様に頷き同意を示す。


「ハハハハ、確かにそりゃ重要な仕事だな。でもよ、魔人族は捕獲しなくちゃダメなんだよな〜」


 溜息を吐きながら不快気に眉間に皺を寄せぼやくルイースにザンディルが愉快気に笑いながら諭す。


「相変わらず頭が悪いなルイース。生きていれば捕獲なんだから殺してしまえば問題無いだろ?」


ルイースはハッとして笑みを深める。


「確かにそうだな!やっぱリーダーは頭良いわ!頼りにしてるぜ!!」


 皆で頷き合い、これから行う仕事は正義だと疑わない将来有望なミスリル級冒険者達。

彼等は人族至上主義に傾倒しており、亜人は人ではなく駆逐対象としか見ておらず、かなり過激派寄りの面々だった。


「とりあえず、詳細は馬車の中でするとしようか。問題が起こった場所はここから1日も掛からないらしいからね」


 メンバー達は笑顔で頷き、これからの正義の行為を想像しながら各々陶酔しながら歩を進める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 魔人族っ子の駄々に時間を取られたのでその遅滞を取り戻す為、深い森を軽快に走りながらマンティコア一家を探しているが一向に見つからない。

常時発動している気配察知にもマンティコアの反応は無い。

今日中には発見したい猫としては徐々に苛立ち始めていた。

それから30分程走り、森の中心部付近まで移動した時に気配察知に複数の既知反応を確認したので疾走から早足になり、そして一旦止まり正確な位置を捜す事にする。


(ハハハハ、やっと見つけた!数は……ん?11匹?1匹多いな……。俺以外の弟妹は9匹だった筈だから、普通の生物同様に有性生殖であれば残り1匹はマイファザーか。ハハハ、面白い!!いいね、最高だよお前等!!一家団欒を楽しもうじゃねえか!!)


 楽しそうに笑っている猫の感情に同調したのか蛇尾ちゃん達も元気に動きながら殺す気満々だったので猫も満足である。

ただ、1人だけ苦虫を噛み潰した様な渋面で沈黙していた。

思う所は多々あるようだが、雄弁は銀沈黙は金と言った所の様だ。

まあ魔人族っ子は幾ら語っても雄弁には程遠いけどな。


(サプライズで奇襲してもいいけど、それじゃ味気ねえから堂々と里帰りと行こうか。数も結構居るから折角だし今後の為に実験動物になってもらおう)

(別にいいけど〜消滅させるのはやめてよ〜?食べる量が減っちゃうよ〜。減った分は猫ちゃんの身体で払ってもらうんだからね〜)


 相変わらずの暴食っ子に辟易しながら(へいへい)と適当に返事をしたら、その態度が気に食わなかったのかケツをガジガジしている。

もうこの程度では耐性が上がらないくらい齧られているので無視する。


(場所は判明してるから魔人族っ子は近場で降ろすからそこで待機だ。一応結界張っておくから大人しくしてろよ?)

(あ、あの……えっと、一緒に行っちゃ、ダメなんですか?)


 何言ってんだコイツ、何でそんな顔しながらも付いてきたいんだ。


(駄目だ。魔人族っ子を背負ったままだと上手く戦えねえしな。それに、そんな辛そうな顔してる奴に付いてこられても足手纏いだ!お前は家族の殺し合いなんて見たくねえんだろ?)


 えっ?っと目を見開き驚いた様子の魔人族っ子は自分の顔をふにふにと摘むと、自分の顔が無意識に歪んでいた事を知ると項垂れて(はい……)と、か細く応えた。

隠れるのに丁度良い場所に魔人族っ子を置き隠蔽の闇魔法と結界の光魔法を掛けて、マンティコア一家の元まで歩いて行く。

ある程度進むと大きな反応が2つ、マイマザーとマイファザーが気付いたらしく此方に対する威圧感が高まっていく。

俺にとっては微風レベルの殺気だが、魔人族っ子であれば動けなくなってしまうレベルであった。

置いてきたのは正解だなと思いながら更に近付くと元気に走り回る9匹の弟妹達を視界に捉えた。

全高が40cm程の赤茶猫で尻尾の先端には見た目が栗のイガが付いている。

成長の差なのか種族の差なのか大きさに差異があり、猫は全高は2mに達しており親マンティコアと同じくらいになっていた。

とりあえずは情報収集からだな。まとめて鑑定。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


種族名:レッサーマンティコア

[Lv.11-13]

[毒生成Lv.1-2]

[怪力Lv.1-2]

[毒耐性Lv.4]

[麻痺耐性Lv.1]


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弱えな……。親はどうかな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


種族名:マンティコア(オス)

[Lv.38]

[猛毒生成Lv.2]

[剛力Lv.1]

[猛毒無効]

[麻痺耐性Lv.4]

[威圧Lv.2]

[咆哮Lv.3]

[人化の術Lv.2]

[闇魔法Lv.2]

称号

[猫又の王]

[森の覇者]


種族名:マンティコア(メス)

[Lv.40]

[猛毒生成Lv.4]

[剛力Lv.2]

[猛毒無効]

[麻痺耐性Lv.4]

[威圧Lv.2]

[咆哮Lv.2]

[人化の術Lv.5]

[闇魔法Lv.2]

称号

[猫又の王妃]

[朝三暮四]


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 おぉ、人化の術があるな。

あれと擬態混ぜれば外見上完全な人間になれそうだな。

この2匹で強奪出来れば上々だが、どうなることやら。

称号も見た事無いから調べとくか。


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[猫又の王,王妃]


周辺の同種族の王と王妃に与えられる称号。

身体能力が向上する。付近に同種族が居れば効果が上がり、支配域の同族にも強化効果有。


[森の覇者]


生活拠点が森であり、一定数以上の魔物を仕留める事により与えられる称号。

身体能力が向上する。

それぞれの環境に対応した同種の称号有。

獲得称号領域外に出ると効果が切れる。


[朝三暮四]


魔物が一定数以上の知的生命体を欺く、又は言葉巧みに騙すなどする事により与えられる称号。

思考速度が上がる。


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 久々に詳細鑑定したら意外と取得条件まで教えてくれるのかよ。

これなら黒亀も鑑定しておけば良かったな。

まあまた今度会ったらでいいか。

そんな事を考えながら、とりあえず実験としてちびマンティコアの1匹を標的に右前脚を無造作に振るう。

すると、糸が切れた人形の様にパタリと倒れた。

突然の状況にちび共が慌て、親が警戒しながら唸り出した。


(実験1終了。俺と違って空気中の酸素かそれに類する何かの物質による呼吸運動によって生命維持をしている可能性あり)


考察をする猫に翼ちゃんが興味を示し質問してくる。


(今のは頭の周りの空気、いえ酸素濃度を下げたのかしら?)

(あぁ、そうだ。まあ成分分析なんて出来ねえから特定は無理だからな。酸素というより真空状態に近付けただけだな。一瞬で気を失ったって事は人基準にはなるが、あのちびマンティコアの頭周辺の酸素濃度が6%くらいだな。ふむふむ、ただまあ恐らく原因は酸素じゃなくて魔素だと思う。他の魔物も似た様な状態になってたから俺がコイツ等とは亜種ではなく別種という事か……。そりゃ種族名が違うんだからそうなんだろうが。俺は呼吸すら必要としない……。はッッ⁉︎まさか俺はゾンビ?いやいや、それは流石に可哀想だろ俺ぇぇ……。クールにクールに、落ち着こう)


思考の泥沼に浸かってると翼ちゃんにより引き戻される。


(私はそこら辺の詳細は分からないわ〜。アイツなら食い付きそうな内容ね)

(ハハハ、確かにアイツならウザいくらいに絡まれそうだ。帰ったら起こせるか試してみるか。さて、続いて実験2は蛇尾ちゃんと一緒にやろうかな。右の4匹に麻痺の邪眼よろしく。俺は左の4匹をやる)


後方の親に重力魔法を掛け身動き出来ない状態にしてから後ろに声を掛ける。


(任せてよ〜。えいや〜)


 紅眼が怪しい光を纏い右のちび共が一瞬痙攣して動きを止めた。

効果を確認した俺は同様に左のちび共に邪眼を使う。

眼が熱を持ちジリジリと魔力が集中していき、右同様にちび4匹が動きを止めた。成功だ。

自慢する為に振り返った目の前に蛇尾ちゃんの真っ白フェイスがあり、驚愕にクリクリの真紅の瞳を見開いている


(うそうそうそぉぉー!!えぇ〜ッ⁉︎⁉︎なんで猫ちゃんがわたしの麻痺の邪眼使えるの〜⁉︎眼までわたしの真似して真っ赤になってる〜!ひどいひどい!!わたしのアイデンテテーを奪わないでよ!!)


見ればウルフちゃんも翼ちゃんも驚いた顔をしていた。


(うん、アイデンティティーね。いやいや、蛇尾ちゃんのアイデンティティーは食いしん坊な所でいいでしょ。そんな事より実験2も成功だ。これならウルフちゃん、翼ちゃんのスキルも使用可能だな)


 完全ドヤ顔で皆を見る猫の表情に蛇尾ちゃんが鼻を噛みウルフちゃんが首を噛み、翼ちゃんは翼で背中を滅多刺しにしてきた。


(ほわッッッ‼︎⁉︎ッッ痛えぇぇ!!オイ、ちょッ⁉︎蛇尾ちゃん待って鼻千切れるから!!ウルフちゃんも首取れちゃう!!翼ちゃんに至ってはお腹まで翼が貫通しちゃってるから!!漏れちゃう!!いろんな物が漏れちゃうから!!!!お前等落ち着けって、話せば分かる!)


 マンティコア一家を置き去りに襲撃に遭う猫が同居人達を何とか宥める。


(フンッ!今度そんな態度取ったら許さないからね!というかわたしの前で使うのは絶対に禁止だからね!今回は山盛りご飯で許してあげる)

(わたしはご飯はいらないけど、今度からは蛇尾ちゃんのスキル使うならわたしのスキル使ってよね!!)

(私の魅了とかは猫ちゃんには効果無いのが不満だわ〜。今度思う存分誰かを誘惑して鬱憤晴らすわ)


 蛇、狼、悪魔の言い分や意見を頷きながら無視しつつ既に興味は翼ちゃんが滅多刺しにした己の腹部に向けられていた。

地面に滴る赤黒い液体。

臓物が溢れてもおかしくない程の怪我、いや致命傷だなこれ……。エグいな翼ちゃん……。

まあそんな事より今滴る液体は血液特有の鉄臭がしないな。それどころか地面に垂れる度にジュウジュウと溶ける音がするな、エイリアンかな?

塩基性というより酸性か、それも強酸の類いかな。

横のウルフちゃんを見るが噛み付いて付いた液体が口内に入った筈だが溶ける様子も無くぷりぷり怒ってる。

俺と同居人は効果範囲外?あぁ、こういう時の鑑定さんだね。頼みますよ〜っと、鑑定。


[体液]

体内にある液体。


それでそれで?……ん〜?えっ?あれ?終わり?自分以外の鑑定は優秀なのに何故自分になると急にポンコツに……。

ハァ……まあいいか。

観察と考察で大体理解したからな。


(さてと、傷も塞がったし感動の再会を果たした弟妹達とはお別れの時間だな。飽きたしな)


言いながら弟妹に魔法を放つ。

9匹の地面から闇色の細剣が高速で飛び出し抵抗無く全個体を突き上げ絶命する。

それに合わせてマザー達に掛かっている重力魔法を解除する。

身体の重圧が無くなり2匹とも猫から距離を取る。

憤怒、畏怖、安堵等々、様々な感情が読み取れる。

人面に近いから感情が分かり易いのかもなぁと思いながら距離を詰めて行くと緊張感が振り切れたのか覚悟が決まったのか喚きながら走って来た。


(親という認識はすれど認知などは決してしない、弟妹の親という事で慈悲を与え苦痛無き死を以て代行親孝行としよう)


 左右から挟撃するマザー達、前方を確認して風魔法と身体強化を使用して視認できない速度で中心を疾走する。

通り抜ける際に両前脚を上段から交叉しながら振り抜く。

ボタボタと後方から肉塊と化したマザー達が散らばる音と血臭がする。


(はいよ、蛇尾ちゃんが食べ易い様にカットしといたよ。食べていいよ)

(わーい!ありがとう〜。いただきま〜す)


 早速食べ始めた蛇尾ちゃんが食べ終わるまで休憩するかと座り地面に共通語の練習をしていると、[Lv.40に上がりました。進化可能です]と脳内通知が来た。更に続けて、

[森の覇者]を獲得しました。

[咆哮Lv.1]を獲得しました。

[人化の術Lv.2]を獲得しました。

[闇魔法Lv.7]に上がりました。

[自己再生Lv.4]に上がりました。

[剛力Lv.2]に上がりました。

さすがレベル的には格上の敵だけあって称号スキルまで獲得出来たか。

まあこの称号は森で盗賊とか殺しまくってたからその結果かもな。

だが、人化の術は嬉しいな。

試してみないと判断出来ないけどこれで堂々と街に入る事が出来るな。

この姿だとキルキル言われっぱなしだからな。

これから面白くなりそうだと考えていると蛇尾ちゃんの食事が終わったらしくケツを齧られている。

魔人族っ子を迎えに行く為に歩こうとした時、全身に激痛が走る。


(ッガァァァ!!な、な、んだ、この感覚……。ま、また、お、お前等の仕業かッッ⁉︎)


 痛みに対する耐性は前世の頃から訓練していた猫にも耐え難い程の激痛、神経をヤスリで削られていく感覚が全身に絶え間なく駆け巡り、背後を振り返ると元凶かと思っていた翼は痛みが限界を超え白目を剥きながら痙攣しており、遂には身体が崩れて猫の中に戻る。

蛇尾も壊れた様に暴れ狂い自らを引き千切る勢いだ。

ウルフは痛みに耐えるかの様にバキバキと歯が折れる程噛み締めるものの限界が訪れたのかふっと意識を失い身体を崩して中に戻っていく。

猫自身も今は誰かの心配をする余裕など無く、どのくらい時間が掛かったのか周辺を暫くのたうち回るとフェーズが次に移行したのか身体が鈍い闇色に光る靄に覆われ全身に不快感が込み上げてくる。

身体を内側から作り変えられる感覚。

自分という身体を構成する際に必要な設計図、いや魂と言うべきものが一度分解され再構築されていく感覚。

全身を包む靄が外側に拡大していくのに比例する様に猫の身体も大きくなっていく。

散々叫び暴れ周囲に破壊の嵐を撒き散らしたが、次第に痛みも不快感も消え去り靄が体内に戻っていく。

遂には猫は力尽き倒れ込むと息を荒げる。

ある程度落ち着くのを待つと激痛の原因を知る。


(はぁはぁ……何これ辛えぇよ……。つうか進化に自由意志は無く強制発動かよ。ポ○ットのモンスターも進化終わりで必ず鳴いてた気がするが、あれは苦痛に耐える悲鳴だったのか?そういや、何か頭の中で色々鳴ってた気がするが……先ずは全員の生存確認をするか、オイお前等生きてっか〜?)


 とりあえず、背後を振り返りずっと暴れていたであろう蛇尾ちゃんに振る。


(うぅぅぅぅぅ。痛かったよ〜何これ最悪だよ〜……。うぅぅぅ……お腹空いたよ〜)


 弱っているが平常運転なので問題無しと判断して次に翼、ウルフと声を掛けていく。


(はぁはぁ、ウフフフ……こんな激しくされたのは生まれて初めてよ……。ゾクゾクしたわ……癖になりそうねぇ)


 新たな扉を開いちゃったらしい翼ちゃんを視線から外し最後にウルフちゃんを見る。


(痛い痛い痛いぃぃぃ!ううぅぅぅぅ、猫ちゃんのせいだー!がぅー!)

(いやいや、俺のせいじゃねぇだろうが!いたた噛むな噛むな。疲れてんだから落ち着け幼女!)


 ウルフちゃんを前脚でペシペシして退け、全員無事を確認すると遠くから此方に向かってくる気配を察知し、勢い良く上体を起こすが魔人族っ子だと判明したので再び腹這いになる。

途中まで走って近寄ってくるが数刻前より巨大化している猫に気付くと目を見開き驚いている。


(あれッ⁉︎えっ?猫さん……ですか?)

(……俺以外にこんな付属物だらけの魔物の知り合いがいるのか?)

(だって姿も変わってるし凄く大きくなってるし……。って怪我してるんですかッ⁉︎大丈夫ですか⁉︎)


 大きくなってる事に驚いてグッタリしている事に今更気付いたのか顔に抱き付いてきた。

邪魔だったが振り払う元気も無いので好きにさせた。


(あぁ……怪我はコイツ等にやられただけだから気にしなくていい、もう完治してるしな。大きくなったのは進化した影響だろうな。しかし、ふむ。姿も変わったのか?蛇尾ちゃんも翼ちゃんもウルフちゃんも別に変化は〜………あぁ、あるな)


 改めて全員を見渡すと基本は進化前と変化してないが、共通して全身に落雷痕のリヒテンベルグ図形の様な赤黒い線が薄らと走っていた。

そして猫は進化前は赤茶色だった毛が漆黒に染まっており全高は5m程に成長していた。


(えッ⁉︎蛇尾ちゃん達にやられたって仲間同士で何やってるんですか⁉︎)

(まあ戯れみたいなもんだ。特に問題はねぇ。それより魔人族っ子にあの結界を破れるとは思えねえがどうしたんだ?)

(猫さんの悲痛な声が聞こえて、どうにか外に出ようと頑張っていたら突然結界が消えたんですよ。それで猫さんに何かあったのかと思って急いで来たんです)


 鼻息荒く俺の顔を掴みながら話す魔人族っ子を引き剥がし、背中に放る。


(なるほどな。でもまあここでの作業は終わったから帰るか。流石にイベント盛り沢山で疲れたから帰ったら速攻風呂入りてえな……いや、この身体じゃ入らねえな。変態男エルフにもっとデカイ風呂を作ってもらうか……)


 重い腰を上げ歩き始めると背中を叩く感触があったが、面倒臭いのでとりあえず無視して歩き続けるが背中から肩、肩から頭と段々北上してくる感触が遂には身を乗り出した魔人族っ子と目線が合う。


(もう!無視しないで下さいよ!いつもそうやって無視してー!怒りますよ?)


もう既に怒ってるぞ、という言葉は飲み込み気怠そうに応える。


(ん〜?呼んでたのか?気付かなかった。んで?どうした?)

(……もう!家族を無下に扱ったらダメなんですからね!はぁ、それでですね、お風呂の件でしたら私が作ります!エルフさんに教えてもらって土魔法は使えるんですよ〜)


 頬を膨らませて怒っていたかと思えば、徐々に得意気なドヤ顔に変わった。

コロコロ顔色が変わる奴だと思いながらも俺が使えない土魔法を習得したのは称賛できる内容だったが、階梯がどうので土の精霊魔法程融通が利かなかった気がするが、まあ帰ってからでいいか。


(俺は自由無碍だからな。それにしても凄いじゃねえか!それなら帰ったら頼むわ)


 過程がどうあれ結果が同じであれば別段気にしないので褒めておく事にした。

じゆう、むげ?と首を傾げながらも頼られたのが嬉しかったのか上機嫌になった。


(はい!任せて下さい!)


 会話が終わるのを待っていたのか蛇尾ちゃんがお腹空いたと騒ぎ俺のケツを食べ始めたので適当に近くに居る魔物を狩り与えた。

暫く歩いているとウルフちゃんが鼻をクンクンし始め鼻っ面にシワを寄せ唸り出した。


(ん?どうした?何か居るのか?)


 気配察知には魔物の反応はあるが警戒すべき存在は確認出来ない。


(人間の匂いがするよ。洞窟方面から血の臭いと鉄の臭いが混ざってね〜)


 話の内容には特に興味は湧かなかったが、ウルフちゃんの嗅覚には興味が湧いた。

進化の影響なのか元々鋭敏だったのかは後程確認するとしても俺の気配察知を上回る精度で索敵出来ている。

俺の気配察知は最大で周囲1kmくらいは範囲を延ばせる。

ウルフちゃんは嗅覚なので、風向きや臭気濃度などの条件次第で精度は変化するだろうが今後色々な局面で役に立つな。

熟慮して意識を内に沈ませていると、頭をぺちぺち叩く感触に意識を浮上させる。


(猫さん……エルフさん達に何かあったんでしょうか?)


 不安そうな声で問い掛ける魔人族っ子への返答をどうしようか思案しながら唸り声を上げる。


(とりあえず、早めに帰るか。状況はもう少し近付かねえと分かんねえが、現場ですぐ戦闘に発展するかもしれねえな。その場合、魔人族っ子を降ろす暇もないかもしれねえから注意しとけよ。それと翼ちゃん、翼出してくれ)


 先程の興奮がまだ醒めてないのか無言で翼を出す。

ツッコむのも面倒臭いので無視。

魔人族っ子は不安そうな顔のまま頷くと背中に戻っていった。

恐らく戦闘になるから移動しながら進化後ステイタスでも確認するかな。


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[名無し]種族名:アビスキマイラ[新種]

[Lv.8]

[剣術Lv.7]

[短剣術Lv.8]

[槍術Lv.4]

[斧術Lv.4]

[棍術Lv.5]

[拳術Lv.7]

[弓術Lv.10]

[投擲Lv.9]

[威嚇Lv.7]

[威圧Lv.7]

[状態異常耐性Lv.MAX]→[状態異常無効]

[気配察知Lv.7]

[精神分裂]

[念話]

[鑑定Lv.6]

[魔力操作Lv.7]

[魔力制御Lv.7]

[火魔法Lv.6]

[水魔法Lv.4]

[風魔法Lv.6]

[闇魔法Lv.8]

[光魔法Lv.4]

[身体強化LvMAX]→[身体超越化Lv.1]

[剛腕Lv.3]

[堅牢Lv.2]

[自己再生Lv.5]

[擬態]

[人化の術Lv.2]

[咆哮Lv.1]

部位獲得能力

[ラグネリアデーモン Lv.8][新種]色欲

[ガストリアヴァイパーLv.8][新種]暴食

[エンヴィディアルウルフLv.8][新種]嫉妬

[ーーーーー]

[ーーーーー]

[ーーーーー]

称号

[人類の天敵]

[殺戮者]

[強奪者]

[インセクトキラー]

[スライムキラー]

[森の覇者]

[同族喰ライ]


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