第34話 コボルトキング変異個体
翌日リオンとリノアは前日レーベに言われた通り武を示す為に冒険者ギルドに顔を出していた。
王都の冒険者ギルドと同様の規模だが冒険者の数は時間帯の問題なのか現在はそこまで多くない印象を受けた。
リオンの姿は珍しいのか一瞬好奇な視線を向けられるが直ぐに隣に視線が動く。
ここでは珍奇な黒獅子より見目麗しい人族、に見えている翼っ子の方が興味を引くみたいだ。
「うぅぅぅぅ、なんか見られてるよ。これ本当に私バレてないよね?人族に見えてる?ねえねえリオン後ろ見て、翼隠れてる?」
初めて冒険者ギルドに入ったらしくソワソワビクビクしながらリノアがリオンの腕を抱くと一瞬にして殺気が一点に集中する。
しかしその殺意の集中砲火もどこ吹く風のリオンが呆れながらリノアに念話を飛ばす。
(お前の容姿に惹かれて注目されてるだけだろ。昨日自分で言ってたろ?身体には自信あるんだってな)
「い、言ってない……」
真っ赤な顔を俯かせ小声でボソボソと「サラッとそんなこと言って」とか「嬉しくないもん」などと呪文の様に繰り返し呟いていたので、とりあえず関わらない事にしたリオンは受付まで足早に向かった。
しかし目前でピタリと止まると振り返り、今思い出したかの様に念話を送る。
(あっ、そういや話出来ねえんだったわ。やれやれ会話出来ねえのはやっぱ不便だな……こりゃ直近の課題だな。つうことでリノア、任せた)
未だに俯いていた顔が、名前を呼ばれた事で意識が現実に帰還した。
「ッあっ、はい、なに?………あぁ、受付の方との話ね。ねぇ、そう言えばここには何しに来たの?」
(おいおい今更だな。レーベが言った通り武を示す為に魔物でもいいしそれ以外の方法でもあれば聞いておきてえと思ってな。それには冒険者ギルドが一番手っ取り早いだろうがよ)
「あぁなるほど、そうだったのね。分かったわ」
昨日何を聞いてたんだと呆れるリオンだが、その視線に気付く事なくリノアが受付嬢と話し始めた。
隣で聞いていると、どうやら実力主義の国定番の武闘大会があるとのこと。
更に毎回武闘大会の決勝戦には皇帝が観戦しにくるらしいのでとても都合が良い。
期間は1ヶ月後と微妙な日数だが2年に一度の大規模な大会なので、タイミング的には丁度良いと思う事にした。
更に更に詳しく聞くと参加資格は特に無く、毎年参加人数が膨大になる為本戦までの一月の前にふるい落としの予選があるとのこと。
今の所聞きたい情報は聞けたので最後に変異個体や特異個体などのボードを見に行った。
(ん〜……?なんか少ねえなぁ。王都のギルドだと、もうちょいあった気がするが……質はこっちの方がいいってことか?まあいいか……とりあえず今あるので我慢するか)
数枚ある紙を物色するリオン。
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[コボルトキング変異個体]
『以前ギルドが行った大規模な殲滅作戦の生き残りと見られる。体格も数倍に膨れ上がり膂力が跳ね上がった事で冒険者を数多く殺している。その際武器も奪われてそれを使用して襲ってくる。現在はスヴェーリの森に潜んでいると思われる』
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[スノーオーガ特異個体]
『冷気に弱いオーガがスヴェーリの森を分断している大山脈に住み着き適応した。元は森に生息していたが冒険者に負け、大山脈に姿をくらませた個体。他のオーガと違い全身が毛で覆われて火魔法を使用するとの情報もある。脅威度もその分跳ね上がる』
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[クウェシスディセロス亜種]
『帝国から北に進むと見えるシレンティウム平原に生息する2本の角が特徴的な魔物の亜種。通常種の体色が黒色なのに比べ亜種は真っ白な事で群れから追い出される事が多い。動くモノに襲い掛かる習性があり危険』
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リオンが3枚の依頼書を見ながらリノアを見る。
(リノアはどれと戦いたい?今回は選んでいいぞ)
「そうだね〜〜………………………うん、全部無理」
思案していたかと思ったら満面の笑みで拒否られたリオンは何事もなかったのかの様に1枚の紙を取ると受付まで歩いて行く。
「ちょ、待って!ねえリオン待って!私無理って行ったのよ⁉︎聞こえてなかった?ねえ〜無理よ?待ってってばぁ!!」
ズルズルとリノアを引き摺りながらバンと受付嬢の前に紙を置いた。
それを怪訝そうに見ていた受付嬢が目線を下ろし、紙を見ると眼を見開く。
「し、失礼ですが、ぼ、冒険者カードの提示をお願いします……」
(ん?あぁそういや、今は姿も違うしそもそも冒険者カード紛失してたなぁ。よしリノア、任せた)
引き摺られた少女に丸投げするとこれ幸いと生き生きとし始めた。
「ふ、ふふん、リオンは私以外とは話せないもんね〜。私が仲介しないと会話が成り立たないのよね、私が、居ないと、ダメなのね〜」
ニヤニヤと煽ってくるリノアに冷めた目線を送るリオンがため息を吐く。
(ハァ、どうでもいいから早く内容をソイツに伝えてくれ)
指を向けられた受付嬢がビクッと肩が跳ねるが両者気にせず会話を続ける。
と言ってもリオンは念話なのでリノアのデカイ独り言に見られているに違いない。
「ふふん、そんな事言っていいの〜?私が話さないと受付の人には伝わらないよ、ひゃッッッ⁉︎」
更にノリノリにリオンを煽るリノアだが突如悪寒が襲いぶるりと身を震わせた。
本能的な危機に無意識に周囲を確認するとこの場に居る殆どの人がカタカタと震え周りをキョロキョロしていた。
中には状態異常を疑い、ポーションや魔法を使う者まで居た。
唯一の例外である目の前の人物が虚ろな眼でブツブツと独り言ちる。
(ハァ……もう考えるのも面倒臭えなぁ、やっぱこのままこの国潰すか。大体なんで俺が人間のルールに従わねえとならねえんだよ。意思疎通の必要性も感じなくなったなぁ、全部潰せば問題無くね?うぜぇうぜぇよ、うぜぇな、ハァ、だりぃ)
(キャハハハハハ!!たくさん潰そう、たくさん折ろう、たくさん壊そう、たくさん溢そう、たくさんたくさんたくさんたくさんたくさん飽きるまで飽きても殺そう〜。いっぱいい〜っぱいお腹い〜〜〜っぱい食べよう〜キャハハ!!)
(キャハハ!!いいよ〜たくさん殺してリオンに全部あげるね〜。悲鳴も歓喜も怒号も畏怖も悲哀も愛情も全部全部全部全部全部!引き裂いて潰して啜って煮詰めて、全部あげる〜キャハハ、キャハハハハ〜!)
(これ童女達、それじゃワシの実験体が居なくなってしまうじゃろうが。リオンよ、何体かはワシにも寄越すんじゃぞ?人族も良いが前世の人間とそれ程差異が無いのは確認済じゃからの、つまらんわ。なればこそ、それ以外の亜人族の体内構造を比較したいでの〜ふふぉ、並べて比べて弄って繋げてバラして植えて、想像するだけで年甲斐も無く胸が躍るのぉ、ふぉふぉふぉ)
(私は特に興味はないのだけれど、強い人がこの国に居るのなら是非見てみたいわぁ。ふふ、是非コレクションに加えたいわね)
(はぉ……相変わらず面倒臭いね君達、僕は最近リオンに奴隷の如く働かされたからもう動きたくもないよ。せっかく邪魔な骨格付の身体を捨てられて楽な粘体生物になれたってのにぃ、打たれても刺されても斬られても燃やされても苦しくない身体、今が一番幸せだよね、ふぅ)
(グハハ、我の出番だなリオン!軟弱なお前より我の方が破壊活動向きだからな!全てを灰燼に帰してやろう!!見下す目線、侮蔑の目線、哀れみ、憎しみ、イライラする目線を向けてくる奴等の全てを消し炭にしてやろう!)
リオンの感情に触発され各々好き勝手に念話を撒き散らす混沌とした状況をリオン一派以外にも通じているリノアが影響を受けてしまい、立っていられずペタリとその場に座り込んでしまった。
ただ、眼の光はまだ失っておらず震える唇を必死に開閉し、言葉を紡ぐ。
「だ、だめよ!そ、それだけは、させないわよ!まだ、た、沢山の仲間が、この街には居るのよ!!」
言葉と同時に念話でも伝播した想いが思考の海に沈んでいたリオンの意識を浮上させるが、未だ虚ろな視線でリノアを突き刺す。
(あぁん?……ダメ?何がだ?ん?俺に指図するな、お前も俺を縛るのか?殺すぞ!ん?何だここ、ん?潰す?誰を……全て、を……)
再びブツブツと唸りながら脈絡の無い念話を撒き散らすリオンに恐怖で精神的に砕かれた下半身を無理矢理立ち上がらせ、生まれたての仔鹿並みに両足をプルプルさせながらもリオンの顔を両手で思いっきり挟み込んだ。
バシーンと強烈な音を響かせ、お互いの顔を息が触れ合う程近くに寄せる。
「……リオン!お願い戻ってきて!分かった、分かったから、話を通すからもう止めて、お願い……」
幻術が掛かっているにも関わらず虹色に輝く瞳を覗かせ、大粒の涙を流しながら懇願するリノアに依然虚ろな眼ながらも多少理性が戻ったのか、ため息を吐くリオンは投げやりに応える。
(はぁ……任せた)
それだけ念話で飛ばすと今まで感じていた悪寒も途端に消失し、リノアの魔力パスも切断したのか繋がりが一瞬にして霧散する。
内心ホッとしながらも周囲を確認し、視界に入る人達も悪寒から解消されたのか首を傾げながらキョロキョロしていた。
(はぁ怖かった……。でもいつもと何かが違う雰囲気だったけど、何だったのかしら。私のせいかな……今度からは気を付けなきゃ。今ここで暴れられたら仲間達が危ない)
恐怖で竦んでいたのが嘘の様に今は肉体的、精神的共にだいぶ落ち着いている自分に気付かないまま受付嬢の所に足を運ぶ。
鎖がリノアの全身に巻き付くがリオン含め誰にもその鎖は見えない。
「すみませ〜ん。この依頼を受けたいんですけど大丈夫ですか?」
「えっ?あっ、は、はい、どの依頼で、ん?あ、あぁ先程の……本当に、こ、この依頼ですか?失礼ですが、冒険者カードを拝見してもよろしいでしょうか?」
未だキョロキョロしていた受付嬢が声をかけられた事で仕事モードに入ろうとして依頼書を見るが再度提出されたそれを見て再び動揺してしまった。
「あぁ〜……いや冒険者カードは持ってないのよね」
「そうですか……申し訳ございませんがこちらは冒険者ギルドの依頼書になりますので、冒険者カードを所持していない方には受注は出来ません。またこの依頼は特殊な物で最低でもゴールド級10パーティ、もしくはミスリル級5パーティじゃないと受ける事は出来ません」
懇切丁寧な対応にリノアは内心、(ですよねー)と思いながらもここからどう説得していると念話が飛ぶ。
(まだか?)
振り向くとそこには普段通りの黒獅子が面倒臭そうな顔で此方を見ていた。
「やっぱりこの依頼は冒険者カードが無いとダメみたいよ?どうするの?」
(はぁ?……何当たり前の事言ってんだ?そりゃ無理に決まってんだろ……だが、ふむ。少し待ってろ)
呆れ顔を向けるが、周囲をキョロキョロすると1人で勝手に歩いて行き、テーブルに座っている4人組の男達の前で止まる。
リノアも遠目からバカにされた記憶を即座に排除して動向を見守る事にした。
「えーと、俺達に何か用か?」
4人組の内1人が代表で問い掛けるが会話が出来ないリオンは無言でその男の首を掴み持ち上げる。
「あぐッ⁉︎な、な、にを……!」
その行動にギルド内がギョッとし、仲間らしき3人も立ち上がり非難をリオンにぶつける。
渦中の人物、リオンは飛び交う罵詈雑言もどこ吹く風といった感じでそのままの状態でポカンとしているリノアの前に戻ってくる。
(コイツ等は冒険者じゃなく帝国騎士で俺等の監視を命じられたゴミだ。コイツを使って特例で認めさせるとするか、クハハハ、なんならレーベの名前でも使って脅すのも有りだな)
普段の調子を取り戻したリオンが高笑いを念話に投げながら持ち上げていた男をリノアの前に捨てる。
「……色々言いたい事はあるけど、いつも通りの貴方に戻ってくれて私は嬉しいわ。ハァ……それでそこの貴方、私達の監視を命じられた帝国騎士なんだって?私達この依頼を受けたいのだけど、貴方達の力でどうにかならない?」
リオンは何を言っているのか理解出来ていないのか首を傾げていた。
目の前で首を絞められていた人族の男はゲホゲホと血が滲む首を真っ赤な顔で撫でながら涙目で此方を見ている。
しかしリノアの言葉が紡がれていく度に顔色が真っ赤だったものが真っ青に変化していく。
カメレオンかな?とリオンが無意味な事を考えている間に話は進行していく。
「な、なんの話だ?俺は普通の冒険者だ!帝国騎士などでは、じゃねえよ」
流石のリノアですら分かってしまうくらいたどたどしい話し方に憐憫の視線を向ける。
リノアが目線を男に合わせる様にしゃがみ口を開こうとするが、その前にリオンから念話が飛ぶ。
(今更お前の言い訳で時間を浪費する気はねえんだよ!面倒臭えな、どいつもこいつも……お前を刻んで他の3人に聞いてもいいんだぞ?特例でもなんでもいいから早くしろよゴミが!)
ビクリと身体を震わせ目を見開きながらリオンを凝視する男。
さすがに観念したのか受付嬢に徽章の様なバッジを見せ説得しているみたいだ。
するとチョイチョイと袖を引っ張られ視線をずらすとリノアが疑問符を浮かんだ顔をしていた。
「ねえリオン、なんであの人にも念話が使えてるの?もしかして誰にでも出来るのに面倒臭いからしてなかったの?」
次第にジト目になっていくリノアにリオンは肩を竦める。
(ちげえよ、アイツの首を持った時に俺の血を体内に流しただけだ。何故か今は俺の魔力が念話相手の体内にねえと魔力パスが繋がらねえからな)
相手方の説得が終わるまでリノアと雑談をしていると冒険者とは思えないキビキビした動きで先程の男が小走りで近寄ってくる。
「し、失礼致します!協議の結果、ギルド側は本依頼の失敗に於ける一切の責任を負わない、また討伐した際の素材全てを本ギルドで買取する事を条件に黙認するとのことです!如何致しましょうか?」
最早冒険者と偽ろうともしないその態度に呆れながらもリオンは了承する。
チラリとカウンターを見ると受付嬢の隣にはビア樽体型でひげもじゃ男が居た。
(アイツがギルマスか。まあ、一受付嬢の裁量を超えてる事案だから仕方ねえか。それにしても暇潰しの依頼でまさかこんなに時間食うとはな………リノア行くぞ。あぁそれとお前等、この先俺等の監視をするなら気を付けろよ。生きていたいならここで酒でも飲んで大人しくしている事をオススメする)
退屈そうな足取りでスタスタと外に向かって歩くリオンにリノアはセカセカと付いて行く。
「おいお前、なかなか偉そうなーーーー」
出入り口に向かって歩いていると横から野太い声が聞こえるが、途中で不自然に言葉が途切れそのまま顔面から床に激突しピクリとも動かなくなった男を素通りし、リオンは冒険者ギルドを後にした。
リノアがギョッとしながら後をついて行くと陽気な念話が流れてくる。
(どこでフラグが立ったんだ?宿命か?)
((フラグが立ちました〜キャハハハハ〜))
外に出た一行は武闘大会の予約をする為に運営本部らしき建物がある場所に向かった。
途中リノアが帝国民に道を聞きそれ程時間が掛からずに目的地に到着した。
ここでも面倒臭いやり取りがあるのかと思いきや数多の種族が出場する大会だけあってリオンの容姿など特に気にした様子も無くすんなりエントリー出来た。
予定を見ると予選は2週間後なのでそれまでは魔物狩りで時間を潰す事にするとして、早速先程受けた依頼の魔物を狩る為に移動を開始する。
ギルドで時間を浪費したのが不満なのか依頼書の魔物が出ると言われているスヴェーリの森までリノアを小脇に抱えダッシュで移動する事であっという間に到着する。
気配探査と探知を駆使しながら移動したので討伐対象と思しき集団を数キロ先に発見し、一旦休憩を挟む為に今はリノアを降ろし道端で狩ったブラックタイガーの焼肉をオピスに与えていると、死んだ目をしながら突っ伏しているリノアがパクパクと何かを此方に呟いていたので耳を欹てる。
「こ、この先に、コボルトキングがいるの?」
(ソイツかどうかは知らねえが300くらいの群れだから間違ってても、まあいいだろ。どうせ予選までは暇なんだからな。それより数的にもリノアの修行に丁度良いな)
天然の黒獅子ジェットコースターでグロッキー状態だったリノアがガバッと顔を上げる。
「うッ、わ、わかったわよ……」
反論しようとするがリオンの視線が突き刺さり渋々同意する。
(それじゃそろそろ行くか。開戦の狼煙は派手にやっとくか。今回は俺、オピス、ルプ、ツバサ、テースタ、ロン、ブロブ、リノアのフルメンバーで行こうじゃねえか!クハハハハ!)
リオンの身体から続々と蛇、狼、悪魔、骨、スライム、竜が出でくる。
「ヒッ⁉︎リ、リオンの中には竜まで住んでるの⁉︎と言うかその紅い竜……い、いや人、うぅん竜違いよね、そうに違いない、うんうん」
勝手に驚き勝手に納得するリノアを他所に準備が着々と進んでいく。
「グルルルル、ガアアアァァァァァ!」
唸っていたリオンが突如咆哮を前方に放ち、音が可視化されているかの如く木々がひしゃげ、潰れ、吹き飛び、道を作っていく。
永遠に続くかと思われた道は前方から聞こえる悲鳴を以て終わりを告げた。
(おっ?当たりだったみたいだな。今ので少し吹き飛ばしちまったが、それじゃあ行くか。あッ!そういやロン、お前は火魔法使うなよ。消火が面倒臭え)
(うるせぇ黙れ!我に指図するな殺すぞ!)
(あん?討伐対象をお前にすんぞ?竜素材は高く売買されっからな。いいか二度は言わねえ、従え脳筋!)
黒獅子と竜の睨み合いが続いた。
「グルルルルゥゥゥ」
フイッとロンが顔を逸らし獲物に向かって歩き出したのでリオンがやれやれと首を振り他の面々にも前進と指示を出す。
(リノア、お前が一番弱えんだから気張れよな。何よりも今後の自分の為にな)
それだけ言うとリオンも地を蹴りコボルトの群れに飛び込んでいった。
「分かってるわよ……」
バサッと幻術を解かれたリノアが翼を羽ばたかせリオン達を追う。
コボルトの巣は地獄絵図の様相を呈していた。
下位種のコボルトはリオン一派の腕の一振り、脚の一振り、尻尾の一振りで千々に引き千切れ、ゴミの如く無造作にそこら辺に散らかっていた。
周囲は真紅のカーペットを敷いた有り様だ。
次から次へと滴り落ちる血のお陰か、地面は未だ鮮血に染められていた。
しかしそれも下位種が減ってきた事で徐々に酸化し始め、血が赤黒くなっていく。
(クソ雑魚はそろそろ終わりだな。さてさて次はメイン、ん?チッ!楽しくなってした所で追加のゴミ処理かよ………おいお前等、俺は野暮用が出来たからそれの処理をしてくる。それとクソスライム、お前もしっかり働け!)
必然的に怠けていたブロブに釘を刺したリオンは急な転身でコボルト達とは逆方向に向かって走って行ってしまった。
それを見送ったルプが唐突にわんわん鳴き始め楽しそうに念話を飛ばす。
(くふふふふ、じゃあまずは〜リノアちゃん行ってみようかぁ〜。弱い弱いリノアちゃんが手柄を上げるチャンスだよ〜ふぁいと〜!)
突然の無茶振りに目を見開き金狼を見上げる翼っ子。
「えっ?……えっ?……えッ⁉︎私ッ⁉︎なんでッ⁉︎い、いや弱いのが分かってるんなら無理だって事も分かるでしょ!!」
困惑しながら反論するがルプは聞く気が無いのかリノアの背後に移動し囁きかける。
(くふふふ、わたしはね〜〜リオンが大好きなんだぁ〜。リオンの仕草、声、顔、脚、毛皮、魔力、臓腑、ぜ〜んぶ好きなの〜)
突然甘い声で始まった惚気話に困惑気味に首を傾げると、次の瞬間リノアの身は厳冬の吹雪が襲ったかの様に錯覚し顫動する。
(キャハハハハハ!そんなリオンを利用しようとしてるんだもん〜〜わたし達にもその覚悟を〜見せて欲しいなぁ。出来る?出来るよね?出来ない筈ないよね〜?命の恩人なんだよ〜?無力で無能なリノアちゃんに無償で手を貸してるリオンを利用しようとする貴女が……利用してる君が………お前、お前がァァ!!!!)
(ルプそこまでになさい!ごめんなさいねリノアちゃん。この子はちょっと頭がアレなのよ、でも今貴女に求めている事は概ねルプが言った通りなのよね。どうかしら、挑戦してみる?それとも諦める?私個人の意見としてはどっちの選択を取ろうと構わないわよ)
暴走気味のルプを山羊頭のツバサが取り押さえ白黒のオッドアイがリノアを射抜く。
冷や汗を滝の様に流しながら周囲を見るが全員視線はリノアに向けており、暴君の印象が強かったロンと呼ばれる竜ですら、その紅蓮の瞳を向けて静かに待っていた。
だが早くも我慢の限界なのか口から炎を垂れ流しながら唸っている。
「……やるわよ!やればいいんでしょ!見てなさい!」
汗なのか涙なのか判別出来ない程の体液を滴らせ怒声を張り上げると、ここにきて久しぶりにコボルト達の方へ目をやり何故今まで攻撃されていなかった理由を知った。
(ウフフ、ならこれはもう必要ないわね。あら、少し弱らせちゃったかしら。まあいいわ、さあ、思う存分貴女の覚悟を見せて。あぁそうそう、それと何もリノアちゃん1人で行かせるつもりはないから安心してね)
(1人でいけー!そして死ねぇぇ!!)
(コラ、静かにしなさい)
残り100匹弱のコボルト上位種を全て重力魔法によって這いつくばらせていたツバサが魔法を解き、周囲に目配せをするとオピスがリノアの背を押し先頭を歩かせると他の面々がその後に続く。
最早やけくそ気味に事前に買っておいたロングボウを構え、先手必勝でコボルトに向かって射る。
そのまま2本、3本と速射すると未だに重力魔法の余波で回復し切れず肩で息をしていた3匹の脳天に命中した。
(おぉ、やるではないか小娘。だがまだまだ足りぬな、死ぬ気でやってこそ魂は輝くものぞ!)
ロンが怒気を帯びた声音で褒めて貶すという器用な事をしていると、突如コボルトが20から30匹近く木っ端微塵になった。
(あら?ルプどうしたの?急にヤル気になっちゃったのかしら?ツンデレってやつかしら?)
(べ〜つ〜に〜。よわよわな人が殺すの遅いから待ってられないだけ〜。リオンに褒めてもらうのはわたしだけだもん)
(わたしもいい加減お腹すいたよ〜。や〜れやれ〜こんなに殺すのが遅いとみんなのお腹がくっついちゃうよ〜。餓死したらリノアちゃんのせいだからね〜)
シャーシャーとオピスも風魔法で数十の首を飛ばし、そのまま風を操り口元まで運びガリガリ噛み砕いていく。
その後もリノアはロンの図体の大きさを壁として利用しながら数多くの上位種に手傷を負わせていくが決定打に欠けているので1匹倒すだけでも相当数の矢を消費していった。
リノアが漸く5匹の上位種を屠った頃には他の面々がコボルトキング以外を殆ど殲滅していた。
「グギャアァアァァァァァァァァ」
仲間を殺され怒り狂ったコボルトキング変異個体が咆哮を上げ、その時に先頭に居たリノアに向かって突進してくる。
彼我の距離は瞬く間に埋まっていきリノアが放つ数本の矢も容易く回避されるが、最後に放たれた矢は避ける事なく易々と掴み取られ投げ返された。
投擲された矢は軽々と射る速度を超え、本能的な危険を感じ取り無意識に身体を捻り致命傷は避けるものの、それでも矢は左腕を貫いていく。
その衝撃でリノアは身体ごと吹き飛ぶ。
「ぐふぅ、あ、が……ゴホッ、ぐッゥゥ」
木に衝突し、肺から空気が搾り出され一瞬呼吸が出来なくなり喘ぐ。
矢が貫通した左腕がズキズキと心臓の拍動に連動する様に襲い、更に酸欠で視界がチカチカと火花が散り意識を徐々に漂白していく。
(あ、あぁ……いたい、いたいよ……。頭がふわふわする。私、死ぬの、かな。あぁ……けっきょく、私はなにも出来ないのかなぁ……。なに、を間違えたのかな、ねえ、リオン……)
うつらうつらとボヤけた視界を前に向けると目前に歯を剥き出しにしたコボルトキングが腕を振り上げていた。
やけにスローに見え、自分の最後を自覚した瞬間パシャと頭から液体をかけられた。
(そんなのは知らねえが、もっと強くならねえとお前が何も成せねえのは分かったろ?こんな雑魚の、しかも自分の矢で射抜かれるなんてな。守り人の格を落としたくないならもっと研鑽しろ)
頭上からは太々しい他者を苛立たせる声が頭に響く。
普段であれば図星故にイラッとしたかもしれないが、今回に限って言えば今リノアが一番聞きたかった声が頭に流れ込んできて先程の死への恐怖が掻き消え、安堵の涙が自然と零れ落ちる。
(コレは俺が貰うぞ。雑魚ばっかりの相手で退屈してた所だ)
その言葉を皮切りに蹂躙が始まった。
残りの殆どが上位種で更に追加で血の臭いに誘われてきたブラックタイガーなどの魔物まで参戦してきた。
しかし幾ら追加が現れてもリオン一派には経験値と飯にしか見えておらず、いつの間にか体内に戻っていた役立たずスライムを除いた他の面々は歓喜に震え更に暴れ出した。
今回の魔物とリオン一派の魔物としての格は象と蟻以上に隔絶されたものなので、蹂躙される魔物は只々運が悪かったとしか言えない。
なす術もなくコボルト上位種や他の魔物達は区別無く平等に手足を千切られ、頭を潰され、胴体が切り離され、切口からは臓物は飛び散り周囲を赤く染めていく。
そんな虐殺を目の当たりにしたコボルトキングは過去を思い出したのか目の前に居るリオンを無視しオピス達に咆哮を上げ突進しようとするが突如地面から生えた闇槍が両手足を貫通する。
(おいおい、無視すんじゃねえよ繊細な俺の心が傷付くだろうが。それにしても、んー……前殺したワイバーンと比べるとだいぶと弱えな。元が雑魚だと変異しても雑魚なのか?まあいいか、傷付いた俺の心の安寧の為とりあえず死ね)
討伐証明を獲得する為、原型を残さないといけないので首を引き千切る。
頭を収納し周りを見るとリオン一派以外に動く者は存在せず、ロンがオピスに頼まれコボルトを焼いている所だった。
(はーやーくー!ロンちゃんは焼くのが下手なんだからぁ〜。あぁ!!もう!ほらぁ真っ黒になっちゃったじゃん!役に立たないんだからもう〜、ここはいいから早くリオン呼んできて〜〜)
(チッ!五月蝿えなあ、焦げてもお前は気にしねえだろうが!)
普段からオピスに甘いロンは文句を言いつつもリオンにハンドサインを飛ばし不機嫌そうにリオンの中に溶けていった。
(戦闘中の高揚感からのこの虚無感……ハァ、落差で萎えるわ〜)
チラリと背後の気絶しているリノアを見て暫く起きる様子が無いのを確認するとオピスの為に当分の間肉焼きマシーンになる事にした。
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[リオン]種族名:アビスキマイラ[新種]
[Lv.82]
[剣術Lv.3]
[短剣術Lv.2]
[槍術Lv.2]
[斧術Lv.2]
[棍術Lv.1]
[拳術Lv.1]
[弓術Lv.2]
[投擲Lv.1]
[威嚇Lv.5]
[威圧Lv.5]
[状態異常無効]
[気配察知Lv.6]
[気配探知Lv.6]
[精神分裂]
[念話]
[思考加速Lv.4]
[鑑定Lv-]
[魔力操作Lv.6]
[魔力制御Lv.6]
[火魔法Lv.3]
[水魔法Lv.2]
[風魔法Lv.3]
[闇魔法Lv.7]
[光魔法Lv.4]
[土魔法Lv-]
[火属性耐性Lv.4]
[水属性耐性Lv.4]
[風属性耐性Lv.4]
[土属性耐性Lv.2]
[闇属性耐性Lv.6]
[光属性耐性Lv.7]
[身体超越化Lv.5]
[剛腕Lv.5]
[堅牢Lv.5]
[自己再生Lv.7]
[擬態]
[人化の術Lv-]
[咆哮Lv.5]
[裁縫Lv.2]
[料理Lv.4]
[建築Lv.2]
[曲芸Lv.2]
部位獲得能力
[ラグネリアデーモン Lv.82][新種]色欲
[ガストリアヴァイパーLv.82][新種]暴食
[エンヴィディアルウルフLv.82][新種]嫉妬
[アプレグリーディアリッチLv.82][新種]強欲
[スローテディアスライムLv.70][新種]怠惰
[オルゲイラドラゴンLv.75][新種]憤怒
称号
[人類の天敵]
[殺戮者]
[強奪者]
[インセクトキラー]
[スライムキラー]
[コボルトキラー]
[森の覇者]
[同族喰ライ]
[大厄災]
[大罪喰い]
[金城鉄壁]
[神喰ライ-分体-]
[神敵]
[回生起死]
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[棄甲曳兵]
人には向き不向き、得手不得手が存在し、器用貧乏にならない様に広く浅くで知略を巡らせ向いている分野を尖らせる事で凡ゆる状況に対処出来ると帝国軍に入隊した際に教えられた。
その教えは今でもしっかりと覚えおり、貪欲に知識を吸収し愚直に長所を伸ばし、実践経験を深く学べる現在所属する諜報部隊で日々研鑽していた。
当初はこの選択は間違っていなかったのだと、年長者の意見を聞き努力し続ける事が大切なのだと、信じて疑わなかった。
勿論今まで成功したとしても今後はどうかと聞かれれば分からないと答えるが、それでも心の奥底では何が来ても自分と自分が所属する部隊であれば解決出来ると信じて疑わなかった。
しかし……今はその想いは数分、いや数秒で完膚なきまでに砕かれ無意味なモノへと変換されつつあった。
何故こうなったのか、それはつい先日上層部からのお達しで1人の獣人を監視するよう命じられた。
宿泊所は貴族が泊まるような豪華な場所で死ぬまでに一度は行きたいなと思って眺めていた。
その日は特に問題も無く、翌日奴とその従者の女が冒険者ギルドに向かったので仲間達と変装して監視を続けた。
どうやら奴等は武闘大会に出るらしい。
更に話を盗み聞くと今から特殊個体や高ランク依頼が載っているボードの中から何か受けるらしい。
「冒険者でも無いのに依頼なんて受けられねえだろ……」
ボソッと呟くと同席している仲間も無言で頷く。
再び監視対象に耳を傾けようとした時突然カタカタカタとテーブルに乗せていた手が震え始め、それは時間経過と共に全身に伝播していく。
震える身体を抑えながら周囲を見渡すと、そこかしこで原因不明の震えに困惑する人達がいる。
勿論自分を含めた仲間達も例外ではない。
不気味な雰囲気の中、暫く周囲を観察していると気付いた事があり小声で情報を共有するため呟く。
「外から入ってくる奴も足を踏み入れた途端に震えが起こってるな……それと」
チラリと一点、監視対象を睨む。
「例外としてアイツだけが身体が震えてない……それに目の前の女が一番症状が重い、ように見える。これは決まりだな、この震えはアイツによって発生してる。どうやってんのかは知らねえけどな……」
原因は分かったが対処法が判明していないので、特に事態は進展しないものの害も無いので接触は避け監視を継続する事にした。
先が見えない状況だが、その時間は唐突に終わりを迎え、ピタリと震えが止まる。
この振るえが生物が本能的に感じる警鐘なのだと初体験の彼等彼女等には理解出来なかった。
「あの女が何か話し掛けたから解けたのか?分かんねえな……ん?」
ブツブツ考察していると監視対象がキョロキョロ周囲を見渡し、お目当てのモノが見つかった様にある一点を見つめる。
監視対象はそのまま目標に歩いてくると一つのテーブルの前で立ち止まる。
監視対象が目の前に立ち、無言で佇んでいて無関係のフリで俺が口を開くものの返事は無かったが、その代わりに奴の手が俺の首を掴みそのまま受付嬢の元まで連行された。
(何だコイツ⁉︎俺が帝国軍だとバレたのか⁉︎いやそんな筈は無い!姿を見せるのも初めてだ、匂いも消した、バレる訳ない……)
男のそんな希望も頭に流れる声によって一瞬で砕かれる。
その後何とか誤魔化そうとするものの話が一切通用しなかったので渋々受付嬢に帝国徽章を見せ事情を説明しギルマスも巻き込み何とか認めさせる事が出来た。
それを伝えると監視対象は早速討伐に向かうとの事だが出て行く前に自分達にしっかり釘を刺していった。
「これからどうしますか?」
3人居た部下の1人に声を掛けられ少し考える。
「……そうだな。追わない選択肢はない、監視は継続する。だがお前は一度隊長に報告の為戻れ」
声を掛けてきた1人に報告を託すと残りの仲間と共に監視対象の後を追う事にした。
道中は予想外な進行速度で見失ってしまったが監視対象の目的地が決まっていたので警戒しながらも森を進むと少し先の木に背を預け俯いている見覚えのある人物が目に入り、男は動揺を押し殺し足早に接近する。
「隊長、何があったんですか?」
声を掛けた人物はこの男が所属する諜報部隊の隊長だった。
そこら辺の魔物に負けない程の力量があり、自分に生き方を教授してくれた尊敬すべき人物だった。
そんな彼の現在の状態は腕が一本、肩から無くなっており両足も膝から下が紛失していた。
奇妙な事に失血死していてもおかしくない大怪我の筈なのに隊長はまだ弱々しくも浅い呼吸を繰り返していた。
更に観察すると腕も両足も止血されたのか黒々と焼かれていた。
うぅぅと唸りながら微かに瞼を開くと自分の部下を確認したのかカッと血走った目を見開き男の肩を掴む。
「う、うぅぅぅ、に、逃げろ!アレに関わるな!上層部は何も分かってない……分かってなかったんだ……アレは……アレを利用しようとするなんて、無理だ……お前に最後の命令を下す、俺を置いて一刻も早く上層部に陳情しろ!手を出すのも変な事を、画策するのも愚策だとな!アレはまさに厄災、天災だ!人がどうこうできる存在ではない!!」
鬼気迫る勢いで捲し立てる隊長に困惑しながらも元凶は1つしかないと確信する。
「気をしっかり持って下さい隊長!大丈夫です、俺が貴方も運んで撤退しますから!道中の警戒は部下に任せましょう」
その言葉を聞いて隊長は首を傾げるが、徐々に青白かった顔色が更に血の気が引き白色化していく。
「ぶ、部下、だと……お前は何を、言って……?ッッッ⁉︎クソッ……最後の最後に俺は間違えたのか……俺は撒き餌か……すまない。……どんなに努力をしても、弱者は所詮弱者か……か、かははは」
不気味な雰囲気でブツブツ呟き、濁った目で乾いた笑いを溢す隊長を不審に思いながら部下に指示を出す為背後を振り向くが同行していた部下達は何処にも居なかった。
ゾクッと全身に悪寒を感じるのと同タイミングで頭に声が流れ込む。
(だから言っただろ?生きていたいならギルドで酒でも飲んでいる事をオススメするってな。命を粗末にするのは褒められた行為じゃねえな。命は1つだ、どんな選択をしようが構わねえが誰だって最後は笑って死にてえだろうが。まあそれも叶わねえお前に何言っても仕方ねえな。あぁ、つまらねぇな)
未だに何処からも気配の欠片も感じられないが、隊長が自分の背後をボロボロと目や鼻、口から体液を流しながら見ているのを確認した事で死がすぐ側まで来ている事を察すると身体が咄嗟に動き、バッと駆け出し振り返し様に隠しナイフを5本投げるが、そこには何も無く投擲されたナイフはそのまま延長線上の木に刺さり、シューっと音を立てながら溶け始めた。
緊張した面持ちで周囲を警戒しているとボトッと両側から地面に何かが落ちる音が聞こえ両腕に忍ばせたナイフを抜き放とうとしたが不発に終わる。
男は疑問に思い、周囲を警戒しながら視線を下に向けると先程の音の正体が明らかになる。
それは両肩から落ちた自らの腕だった。
落とされた腕と噴き出ている血を視認すると津波の様に痛みが全身を襲うが、歯が砕ける勢いで食い縛る事で何とか意識を保つ。
(へぇ〜〜さすが諜報部隊だけあってそこら辺の訓練もしてんだなぁ。声を上げねえとは見上げた根性だ、これまでのお前の努力や誇りが成し得る事なのかもな。まあでも俺は痛め付ける趣味はねえから最後は痛みなく殺してやるよ。祈りの時間はそうだな……1秒だな)
その声が流れた瞬間に自らの死を確信して、フッと身体から力を抜き仰向けに倒れる。
「そうか……努力は同じ種族にしか当て嵌まらない……のか……人外め……申し訳ございません陛下……」
全てを悟ったかの様な言葉が終わり、闇色に輝いたと思った瞬間男の視界は真っ黒に染まり二度と目覚める事は無かった。
(優しい俺はオマケで10秒生かしてやった、クハハハ。ふむ……しかし、陛下ねえ……俺を利用しようとするリノア、レーベ、別枠で帝国皇帝って所か……クハハハハハ!今回も面白くなりそうだな。報酬は見透す杖か、それが終わった頃にはイヴの顔でも見に行くか。っと、ん?アイツ等、今度はリノアを虐めてんのかよ。集団リンチはいけませんて何度言ったら理解すんだよ。前世の自分達の末路は知ってんだろうがよ。面倒臭え、いつか完全に切り離せる方法でも探すか……)
ため息をひとつ溢すとリオンは木々を飛び越え虐め現場に急いで移動し始めた。
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