第29話 冒険者パーティ結成
新しく出来た友人でエルフ族のエリーゼさんと羊人族のフェルトさん、あとオマケのゴリラさんと入学式で会ってから1週間が過ぎようとしていた。
私はお茶会の後、直ぐに家に帰りマリーさんに胸に関するアレコレを聞き出していた。
決して私の胸が無いわけではない。
みんなが過剰搭載しているだけなのだと思うことに……違う違う、事実そうなのだ!
決して私の胸が無いわけではない!!!
大事な事なので2度言いました。
しかしマリーさんに聞いても勝手に膨らんだだの特別な事は何もしてないだのと宣い、私の心はボロボロに傷付いてしまいました。
あぁ、リオンに会いたい。
リオンのモフモフで癒されたい。
はぁ〜ツラいですね。
それにしても最近困った事が何個か起きていて、その1つがマリーさんです。
彼女にリオン監修鍛錬ノートのバストアップ強化訓練の話をしたら恐ろしい形相で食い付いてきてここ最近はお風呂上がりに一緒にバストアップ体操をするのが日課になってしまいました。
隣で揺れる山脈を見る度に、『マリーさんはそれ以上大きくする意味無いのでは?その余剰分を私に分けてくれても良いんですよ?』と諭すのですが彼女が首を縦に振る事はありません。
こんな頑固なマリーさんは珍しかったんですが、何とその頑固な理由が、ある日チラリと独り言を漏らしていて『リオンさんは巨乳好きなのね……もっと頑張らないと!』
この言葉に全ての答えが詰まってましたね。
さすが私の友達兼姉兼ライバルです。
ですが、私のリオンはあげませんけどね。
そして困った問題のもう1つはこれです。
現在魔法学院の教室、私の机の前で言い争っている人達。
「そこを退け亜人!僕はイヴさんに用があるんだ!」
「お主も毎度毎度懲りぬ男だな。嫌がる童女を追いかけ回すのは人としてどうかと思うがな。ちなみに俺を亜人と呼ぶが例に漏れずイヴも亜人なのだがな」
入学式初日に絡んできた人族の貴族の男、もう片方の私を童女と呼ぶとても失礼なゴリラ、いえハーフ虎人族のリヴァイスですね。
何故こうなってしまったかと言うと、入学式翌日早速絡まれて、『決闘だ!』と1人で盛り上がり強引に広場に連れ出されたので仕方なくボコボコにしたら次の日から何故かこんな懐かれてしまったのです。
ちなみにこの時の決闘で何が起きたのか友人のエリーゼさんもフェルトさんも苦笑いで『やり過ぎ』と口を揃えて怒られてしまいました。納得出来ませんね。
それにしてもさすがにそろそろウザくなってきたので、2人には退場してもらいましょう。
「そろそろ煩いですよ2人とも。邪魔なので騒ぐのなら他所でやって下さいよ」
「そんなッ⁉︎クソッ!このクソゴリラ、貴様の所為でイヴさんが不快な思いをしているではないか!早々に立ち去れ!!!」
「ハァ……お主は人の話すらまともに理解出来んのか……。しかしそろそろ授業も始まる事だ、此処は解散するべきであろう。お主もイヴにこれ以上嫌われたくなければ自らの席に戻るといい」
若干疲れた顔をしているリヴァイスはそれだけ言うと席に戻っていった。
それを見た男も、ぐぬぬと悔しそうな顔をしながらもイヴに「また後で」と声を掛けると去って行く。
そしてそれ等を見ながらもずっと沈黙していた両サイドの友人達が声を掛ける。
「いや〜イヴはモテモテで羨ましいね〜。しかも相手は貴族。将来は安泰かな〜?」
冗談めかしてエリーゼがイヴの頬をツンツン突くが、当の本人は嫌悪感満載の顔を向ける。
「やめて下さいよ気持ち悪い。あんな顔も人格も家柄も全てがどうでもいい人族に纏わりつかれるなんて……最初の決闘でもっとボコボコにして退学させれば良かったですね」
「いやいや、それは流石にやり過ぎだと僕は思うよ。しかしあの決闘で彼は新しい何かに目覚めてしまったと思うよ、途中から変な顔だったからね。まあ貴族には珍しく彼は亜人にそこまでの忌避感は無いみたいだから良かったんじゃないかな」
フェルトが宥めるが、その言葉を理解出来ていないのかエリーゼもイヴも首を傾げる。
「ん?フェルトさん、それはどういう意味ですか?覚醒したという意味ですか?」
「いや、そういった意味じゃ無いよ。つまりねーーー」
説明しようとしたタイミングで魔法の鐘が鳴り教師が入ってきたので答えを知る機会を逃してしまった。
今日の授業では魔法の階梯の種類と理論などでした。
私はリオンに教えてもらっていましたが、先生の説明を聞けば聞く程リオンの非常識さ加減を思い知ります。
基本的に人族などの人類が魔法を行使する時には詠唱が必要です。
世の賢者と呼ばれる一握りの天才などはリオンと同じく無詠唱での発動も可能との事ですが、威力は下がり精度も落ちるので戦闘などで使用する際にはタイミングなどの駆け引きが大事らしいですね。
しかしながら大抵の人族は魔法を行使する際にはある程度の魔法の詠唱が組み込まれた魔道具を持っているらしいです。
例えば、杖や剣、弓などの武器ですね。
これらは詠唱の術式が入っているので使用者の魔力を供給すれば回数に制限は殆どありませんが充填出来る魔力量はその武器の出来によって変わるらしく、あくまで補助具という認識ですね。
ですが、この魔武器以外には使い捨ての魔道具と言うものがあり術式と魔力が内蔵されていて起動させると一定時間経つと魔道具を起点して円状に発動するものですね。
コストが高いので緊急用に数個持つくらいでそうポンポン使う物ではないとのこと。
ちょっと逸れちゃいましたね。
詠唱として使っている文言。
例えば[第一階梯ファイアショット]
この[第一階梯]の部分に術式の根幹があり、階梯が上がる事に演算が難しくなり、より高位の階梯魔法では1人の負荷が大き過ぎて脳がパンクして廃人になってしまうので儀式魔法という形で負荷を分散してどうにか発動するという流れになる訳ですね。
魔法は周囲の魔素に声を掛け自らの魔力と練り合わせ、その魔力の形を属性別に変換し最後の[ファイアショット]を発音する事でより明確に世界に現象として顕現させる事が出来る。
ぶっちゃけてしまうと文言は何でもいいそうなんですが、お偉いさん方は統一感を出したいらしいですね。
以前リオンが言ってた『老害』がそれに当たります。
面倒臭い文化ですね。
まあ無意識に刷り込まれた事は余程の事でもない限り矯正は出来ないので火魔法であれば火に関連する言葉でないと魔法は発動出来ないそうですね。
人の意識、無意識の思い込みは実に不便で融通が利かないとリオンも常々ボヤいていましたねぇ。
その話を聞き、無知な私は疑問が湧き出てくる。
「先生!」
「ん?イヴ君、何か質問かな?」
柔和な笑みを浮かべる茶髪に茶眼の私達の担任の先生、人族のアルフレッド・バルム先生だ。
伯爵家の三男らしく家督は継げないので自由に楽しく自分らしく暮らしているとニコニコと語っていた。
魔法師にもランクがあり、以下の通りだ。
統括宮廷魔術師
宮廷魔術師
高位魔術師
中位魔術師
下位魔術師
見習い魔術師
魔法学院で働く教師は殆ど中位か下位魔術師だ。
数人、高位魔術師がおり学院長のランクは高位魔術師だが実力的には宮廷魔術師並だと言われている。
上記に挙げたのはあくまで人族の基準なので長命種のエルフ族にはまた違う評価基準があるのだそうだ。
ちなみに魔法士は基本的に冒険者などに用いられる言葉で様々なギルドが管理している。
国が直接管理運営している魔法使いを魔術師と呼称しているらしい。
人族のプライドなのか亜人や貴族でないものと差別化がしたいのかは不明だが、無駄に張り合うのが好きな種族ですね。
「魔物は言葉を発しない無詠唱で魔法を発動しますが、この現象は同じ様に見えても魔法ではないのですか?」
イヴの質問に少し考え、バルムは黒板にスラスラと絵を描いていく。
「ふむ、いい質問ですね。その話をする前にイヴ君、魔物はどうやって生まれると思いますか?」
「ええと基本的には自然交配で生まれ、稀に魔素が濃い場所から自然発生します」
その答えが予想外だったらしく絵描きを止め、バッと振り返りイヴを凝視する。
「素晴らしいですね。さすがは首席入学という事ですね。ちなみにそれはどこで学んだのか教えて頂いてもよろしいですか?」
周囲からも、「おぉ!」と歓声が上がる。
「お爺ちゃんからです」
イヴが言うお爺ちゃんはリオンの一部として存在しているテースタの事だが、バルムは祖父と判断したのかふむふむと勝手に理解していた。
「なるほどね。とても聡明なお祖父様なんだね、先程のイヴ君の解答はつい最近解明されたものなんだけど、一度お祖父様とお話してみたいものだね。さて、とりあえず知らない人が殆どの様なのでコレを見てほしい」
そう言うと黒板を軽くバンと叩いて注目させる。
「魔物は人と同様に体内に魔力を持っていて、これを消費する事で魔法を行使する。これは普通の動物には出来ない、と言うより知能の低い動物は魔力を持っていないから行使自体出来ないと言った方が正しいかな。しかし、この動物が魔素の濃い場所に長時間居続けるとどうなると思う?」
「えっと、ま、魔物に、なる?」
急に質問を投げ掛けられたエルフ族の男が答える。
「そう!正解だ!!!この事により魔物と動物の決定的な違いとは魔力保有の有無という事になる!先程イヴ君が答えてくれた通り、魔物も交配によって個体数を増やしている!まあ細かく言うと種族によっては人族との交配とは違うのだがそれはまた今度説明しよう。あぁ、あと詳細はまだ不明だが動物が魔物化した後、産まれてくる子にも魔力は受け継がれ魔物として生を授かる事は確認されている!」
バルムは話している内にスイッチが入ったのか鼻息荒く演説している。
そしてその熱は更にヒートアップする。
「しかーし!!このサイクルにも例外があり、それが自然発生だ!これまた先程イヴ君が言った通り、魔素濃度が高い場所……例えば人が立ち入らない森奥や一定領域の海上又は海底、人が関与しているものであれば戦場跡など多数の死者が出る場所だ!これらの場所を長時間光魔法による浄化や魔道具などを用いて魔素濃度を下げない限り時間経過で魔物が発生してしまう!まあこういう戦場跡ではアンデットが生まれる確率が最も高いけどね。こうして発生した魔物は自然に交配して生まれた種より強力な個体が多く、度々村や街などに被害を出している。このタイプの魔物は誕生から生物としての枠を外れた存在なのだが、なんと生殖能力も持っており子を成す事も可能だと分かっている!」
ふぅと一気に話して喉が渇いたのか持参していた水筒の中身をゴクゴクと飲む。
「それで先生、先程の質問と今のお話がどう繋がるのでしょうか?」
イヴが若干引きながらも問い掛ける。
「むっ?確かにだいぶ話が逸れてしまったね。質問は魔物が何故無詠唱で魔法を使うのか、だったね。結論から言うとよく分かっていないんだよ。我々と同様の魔法である事は分かっているんだが、どの様な術式や理論で発動しているのかは不明だね。ただ、全ての魔物が魔法を使える訳ではないことは分かっているんだけどね」
リオンの事をより理解出来ると思っていたイヴは落胆した。
その後先生が話してくれた内容は少しはためになった。
基本的に魔物は知能が低いので、使用出来る魔法も身体能力強化系が殆どで自然現象の嵐、雨、火災、落雷などを見る事で模倣するものも居るらしいが、行使出来たとしても人族基準で第一、第二階梯程度の威力とのこと。
その他には魔物の種族特性が影響しているらしい。
つまり火山地帯に存在する魔物は火属性魔法が得意で水辺の魔物は水属性魔法が得意といった具合だ。
魔物はその脅威度に比例して知能も上がり、等級は下からざっくりと
[小魔級]初級冒険者が単独でも討伐出来るレベル。
[中魔級]中級冒険者が単独でも討伐出来るレベル。
[大魔級]上級冒険者が単独でも討伐出来るレベル。
[災害級]村が複数壊滅的な被害が出るレベル。
[災厄級]街が複数壊滅的な被害が出るレベル。
[災禍級]国が壊滅的な被害が出るレベル。
[天災級]国が複数壊滅的な被害が出るレベル。
リオンは確実に天災級だなあと考えながら、ふとある事に気付く。
(魔物は自然現象を魔法として模倣すると言ってましたがリオンがよく使う重力魔法なんてどうやって知ったんでしょう?説明してもらってもよく分かりませんでしたし……以前話していたチキュウという言葉が関係しているんでしょうか。いや、でもそもそもの前提から間違ってますね。魔物は知能が低いと言いますが、リオンは最初言葉が話せなかっただけで知識、知能としては偏りが凄かったけど相当高いんですよね……。あの神が固執するくらいですからやっぱりリオンは特別な魔物なんですね)
リオンのあれこれをブツブツと考えていると授業終了の鐘が鳴り響く。
未だに熱く語っていたバルムも、「おや?もう時間ですか……続きはまた明日ですね」と言ってスタスタと去って行く、直前にイヴが呼び止める。
「先生!最後に、魔物の知能が私達人族と同程度かそれ以上だった場合はどうなると思いますか?」
ピタリと足を止め少し考え、振り向きイヴを見る。
「ハハハ、願わくば理知的で僕達に友好的な存在だといいね」
明言を避け、そのままバルムは退出した。
「ねえイヴ、今日はもう授業終わりだからどっか寄ってかない?」
エリーゼがイヴに後ろから抱き付き豊満な胸を押し当てながら耳元で囁く。
「………今日はこれから朝受けた冒険者ギルドでの依頼を熟す予定ですので、そのデカイ不愉快なものを早くどけて下さい」
先程のバルムの回答を考えていたイヴの背中に物理的な圧が掛かり一気に不機嫌になるがエリーゼは気付いて無いのか前に回ると首を傾げ何かを考え始め、直ぐにパンッと両手を叩き名案が浮かんだとばかりに目をキラキラさせる。
「良い事思い付いた〜!フェルトも誘って私達で冒険者パーティを組もうよ〜。ねっねっ、良い案だと思わな〜い?」
「えっ?本気ですか?ん〜〜……そうですねぇ…………はぁ……仕方ないですね、では早速行きましょうか」
渋々ながら了承しフェルトを誘いに行ったエリーゼを見ながらイヴも席を立った。
学院を出て冒険者ギルドに向かって歩いているが、先程から我慢していが遂に限界が来て思っている事を口に出す。
「……なんで貴方まで居るんですか?」
ジトっとした目をその人物に向けるが、その視線を気にする事なく淡々と話し始める。
「そこなエリーゼとフェルトに誘われてな。元々俺も冒険者カードを作るつもりだったので丁度良かったと思ってな」
イヴは元凶である友人2人にジト目を送るが視線を逸らされてしまう。
しかし相手が折れるまで見続ける覚悟のイヴに遂にエリーゼが折れる。
「もう、そんな怖い顔で睨まなくてもいいじゃない、可愛い顔が台無しよ〜。そこのゴリ、いえリヴァイスを誘ったのはちゃんとした理由があったのよ〜」
バッと色々揺らしながら近付いてきて弁明するエリーゼに先を促すと、
「私達3人って魔法メインの後衛でしょ〜?だから前衛も必要だと思ったのよ〜。私の知ってる人はクラスでも殆ど後衛なのよね〜。彼以外だとイヴにまとわりついてくる貴族の坊ちゃんとその取り巻きだけよ?イヴはそっちの方が良かった〜?」
エリーゼの言い訳、否説明を聞いてイヴは確かにと思い、これまた渋々同意したのだった。
(あぁ、早くリオンと一緒に世界中を冒険したい……。リオンとなら2人きりでずっと一緒にいられるのに。その為にも一刻も早く強くならないと!こうしてる間にもリオンはどんどん先に行っちゃうんだから!前衛、後衛関係なく私はこなさないといけないんだから……)
その後表面上はニコニコしながらフェルトやエリーゼと話しながら歩くと数十分程で冒険者ギルドが見えてきた。
ドアを開き中に入ると時間帯は昼過ぎだったので冒険者は疎らで、イヴは3人を引き連れ知り合いの受付嬢の元に歩を進める。
「こんにちはマリーさん」
「あらイヴさん、こんにちは。今日も依頼を受けるのかしら?と言うか何個か朝受けなかったかしら……何か問題があった?」
家ではなく職場でのマリーはイヴとも受付嬢と冒険者という距離感で接しているが、言葉の端々や目元に慈愛が込められておりイヴもそれを受け止め学院では殆ど見られない微笑みを披露していた。
「いえ、依頼に関しては特に問題も無いですし追加で受けに来た訳でもありません。今日は新しくこの3人の冒険者カードの作成をお願いしにきました」
マリーは一瞬驚いた顔をしたが直ぐに営業スマイルを後ろの3人に向ける。
「皆様、ようこそいらっしゃいました。イヴさんの話では本日は冒険者カードの作成との事ですがお間違いないですか?」
本人の意思を最後確認として3人に話し掛けるマリーに3人とも頷く。
「それではこの用紙に必要事項をご記入下さい」
3人が横一列に並びカキカキと書類に記入する音だけが聞こえる。
ほぼ同じタイミングで顔を上げる3人から書類を受け取るとマリーが、あら?と1人の人物に声を掛ける。
「貴女は以前もここにいらっしゃいましたよね?コクウさんとお話をされてましたのでてっきり既に登録されているものかと思っていましたよ」
マリーのこの一言に普段は落ち着いているフェルトが慌て出す。
「あっ⁉︎えっ、えぇと、コ、コクウさんとは以前からの知り合いなので少し話をしていただけですよ、アハ、アハハハ……」
あまりに普段のフェルトの態度から乖離していてエリーゼが驚きイヴが訝し気に見るが、その場では特に追求はされる事なく全員問題なく冒険者カードが発行される。
イヴが受け取りを確認すると説明の為依頼書の前に歩き出そうとするとマリーから待ったの声が掛かる。
「そうそう、イヴさんは次討伐系の依頼が達成するとシルバー級に昇級出来るわよ。次受けるなら討伐系をオススメするわ」
振り返るイヴは昇級の話を聞くや否や顔を輝かせる。
「本当ですか⁉︎やったやった!早速次受けるものの確認の為に討伐系の依頼書見てきますね!あっ、でも普通昇級は試験を受けないと上がれない筈では?」
浮かれているが直ぐに疑問を感じてマリーを見つめると「大丈夫よ」と微笑みながらもチョイチョイと手招きする。
疑問符を頭に浮かべながらもパタパタと近付くと内緒話をする様に片耳をマリーに寄せる。
「ギルマスからの特例でね、イヴはリオンさんの家族だから媚びを売っておきたいみたいなのよ。でも勘違いしないでね、イヴの実力を軽視しての昇級じゃないのよ。試験が無いだけでその等級に相応しい実力が無いと絶対昇級はさせないからね。覚えておいてね、私はイヴが何をしても応援したいと思っているけど命は1つしか無いんだから自分を1番に愛して。自分すら愛せない人は他者を愛する事は出来ないわ、約束ね」
ギルマスに対しては特に何の感慨も湧かないがマリーからの言葉にはイヴの身を案ずる気遣いや愛が溢れていてイヴの口元は緩み、えへへと朗らかに笑う。
「ありがとうございますマリーさん。嬉しいです、とっても。約束ですね。ふふ、当然私がリオンの1番でそれは譲りませんが、2番目の奥さんなら譲ってもいいですよ?」
「な、なななな、な、な」
直球の言葉を受け一瞬で顔を真っ赤にさせバグった機械の様なマリーを置き去りにイヴは改めて依頼書の確認の為パタパタと走って行った。
その後エリーゼ達3人も初依頼を受けるという事にして彼女等はゴブリン討伐、イヴは朝受けていたオークの討伐に赴く事にした。
冒険者ギルドでは複数の依頼を受注する事も可能なのだが養殖や寄生と呼ばれる行為は推奨していない。
ざっくり言うと弱者が強者のおこぼれを貰い楽してレベルや等級だけ上げる事だ。
これは主に見栄っぱりな貴族に多い事例である。
そうしてイヴは新人冒険者の指導役という理由でアイアン級相当の依頼であっても評価対象になるが他の3人に関してはブロンズ級上位の依頼の評価は得られない事になった。
しかしエリーゼ含め3人ともそれ程昇級に拘っている様子も無かったのでアッサリと合意した。
時刻もまだ早かったので早速討伐対象が生息する首都近くの森に向かう事にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[報告会]
とある宿屋の一室に4人が1つのテーブルを囲んでいた。
栗毛栗色の瞳、猫人族のミーヤ。
赤茶の毛に黒瞳、犬人族のサバーカ。
白毛紅瞳の兎人族のクルス。
最後の1人は金と黒の縞々毛皮に金瞳の虎人族のコクウだ。
「お前等が聞きたがっていたリオン殿の行方だが、現在ある依頼で遠出しているという情報しか得られなかったな。イヴの嬢ちゃんに関しては今は受付嬢のマリーさんと共に暮らしているみたいだな」
「やはりコクウさんもですか……。私達もリオンさんの行方について調べてみましたが、数週間前にどこかに出掛けた事しか分かりませんでした。ちなみにマリーさんは何かを隠している雰囲気はありましたか?」
クルスが少し考えながらコクウに話を振る。
「さあな、俺はそういう機微を見分けるのは苦手でな。しかし依頼で遠出という事なら行き先も把握しているのが普通だろうな。まあその依頼内容はさすがに教えてもらえなかったけどな。それとリオン殿とは関係あるか分からないが、この前冒険者ギルドで突然気を失ったイヴの嬢ちゃんが空中から落ちてきたらしい」
「今の情報だと何とも言えませんね……。それとイヴちゃんが降ってきた?それは床が抜けて落ちてきたとかそういう話ですか?」
クルスが首を傾げるがコクウは首を横に振る。
「そうではない、数秒の事で正確に理解出来た者は1人も居なかったが空間に黒い穴が開き中からイヴの嬢ちゃんが落ちてきた、らしい」
「黒い、穴……そんな常識外れの魔法はリオンさんっぽいですね。以前見せて頂いた収納魔法に似ていますね、ですがそれに生き物は収納出来ないと言っていたと思いますが……。何か関係しているのかもしれませんが今の話だけでは何とも言えませんね」
有益な情報が特に集まらず皆が沈黙しているとコクウが「そういえば……」と話を切り出した。
「今、イヴの嬢ちゃんはこの国の魔法学院に通っているらしいんだが……この前冒険者ギルドでそのイヴの嬢ちゃんの学友の羊人族のフェルトって子にリオン殿の事を聞かれたな。理由を聞いたら、学院の実技試験で広場を広範囲に吹き飛ばした人がリオン殿らしい。そしてリオン殿は入学しなかった。その事を気になったフェルトはイヴの嬢ちゃんに一度その話をしたらしくてな。だがその時のイヴの嬢ちゃんが凄い憔悴してしまったらしくそこから触れられなくなったらしい」
クルス達が「なるほど……」と何度も頷く。
「確かに以前魔法学院の話しはリオンさんにしましたから試験を受けてても不思議ではありませんね。さらに私達がイヴちゃんにリオンさんの話題を出した時の反応と恐らく同じと見ていいでしょうね……」
最早イヴにリオンの話しは御法度だとの共通認識が出来上がり、どうしたもんかと唸るとミーヤが元気良く手を挙げる。
「やっぱここは受付嬢であるマリーさんに話しを聞くべきだと思うんだよね!一緒に住んでるんなら何が起きたかは知ってる筈だよね!」
代表でミーヤが言葉を発したが皆が皆同様の見解に至っていた。
「今はそれが確実ですね……」
「まあ同じ獣人族なんだ何とかなんだろ」
「であれば冒険者である俺が代表で話すとするか」
不承不承という感じに納得するクルス。
楽観的に考えるサバーカ。
話を先に進めるコクウ。
それぞれの意見が出て当面の方針が決まる。
「コクウだけに任せておけませんので私達もついていきます。なるべくイヴちゃんと鉢合わせるのは避けたいので早めに行きましょう」
その後も細々とした内容を詰めていき夜は更けていく。
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