第36話 黒獅子捕獲

 武闘大会予選2回戦にて、オピスの突発的な行動により参加者半数と観客数十名を殺害した事により失格となってしまったリオンは運営本部に呼び出しをくらっていた。

しかしその呼び出しを無視して暢気に飯屋を探そうとオロオロするリノア、レーベと共に歩こうとした矢先、運営本部の人達により待ち伏せされ連行されてしまう。

運営本部はそれ程離れていなかったのか数分歩くとこれまた豪華な館が目の前に見えてきた。


(あれか〜?ん?この匂いは……)

「んっ?匂いが何か気になるの?」


 念話にいち早く反応し周囲をスンスンと嗅ぎ始めるリノアだが、一方のリオンは(何でもねえ)とバッサリ切り捨てレーベの方を向く。


(レーベは知ってんのか?)

「えっ?何の事ですか獅子神様?」


 問われた内容が分からない様で首を傾げるレーベをリオンは凝視するが、数秒観察して納得したのか顔を逸らす。


(独断……いや、あのクソ中年男の仕業か……。まあお手並み拝見、か。クハハハハ!)

「ち、中年?まさか少佐の事ですか⁉︎やっぱりあの人が何かしたんですか?」


 レーベが血相を変えて詰め寄ってくるがリオンは、(何でもねえ)と念話を飛ばして以降追加で念話を飛ばす事は無く、釈然としないレーベであったが渋々諦めた。


 運営本部に辿り着くとエントランスには背後に護衛を2人引き連れた初老の男が待っていた。


「お待ちしておりました、貴方がリオンさんですね。私は運営本部の取りまとめをしておりますサーギスと申します、以後お見知りおき下さい。さて立ち話もなんですので、こちらにどうぞ。女性のお二人は別室をご用意してますのでそちらでお待ち下さい」

「待って下さい!リオンは(構わねえよ)むぐっ」


リノアの会話をリオンが念話と物理的に封じる。


(お前等は邪魔だからここから出てろ)


 手で口を塞がれてたリノアがもごもごと何かを言っているが全てを封殺すると、諦めたのか力無く頷く。

苦しかったのか少し頬を染めていたが、何故か少し嬉し気なリノアを見て首を傾げるリオンだったが、理解する事無く視線をサーギスに戻す。


「皆様、どうかなさいましたか?」


サーギスが不思議そうに見てくる。


「……何でもありません。私達はこれから別の所用がありますのでここでお暇させて頂きます……」


 渋々といった雰囲気を隠そうともしないリノアに少し首を傾げるが、直ぐに笑顔で了承する。


「そうですか……それは残念ですが他にご予約があるのであれば仕方ありませんね。お前達、お二人をお送りして差し上げなさい。それではリオンさんは此方へどうぞ」


それぞれが別々の通路を進む。

リノア達と別れたリオンは薄暗い廊下を進むと1つの部屋の前でサーギスが止まり扉を開ける。


「此方でございます、どうぞお入り下さい」


 言葉通り部屋に入るとそこはソファが対面に設置され、遊び心が無いとてもシンプルな応接室だった。

上座のソファを勧められたのでスタスタと歩いて行き、入り口の扉が閉められのと同タイミングでソファの前に辿り着く。

座るために腰を下ろそうとした瞬間、足元をバチッと電気が弾けた様な音が鳴った。

するとリオンの足元を中心に魔法陣が広がる。


(あからさまだったのは置いといても、座る前に発動とかどんだけハァハァ焦ってんだよコイツら。気持ち悪りぃな……しかし、こんなお粗末な罠で俺を拘束した気になったんなら残念としか言え………ん?んん?あれぇ?あぁ……動けねえじゃんこれ!……クハハハハ、参ったねこりゃ……)

(普段から危機感が無いからこんな状況になるのよ。バカね〜貴方、うふふ)

(わたしも出れないよ〜。ずっとこのままだとご飯食べれないの〜?リオンのバカ〜!早く解いてよ〜!)

(おいおい、俺のせいにすんじゃねえよ。そして俺はバカじゃねえ!ちょっぴりお茶目なだけだ!!ただまあ、偶にはいいじゃねえか。キマイラ、つまり合成獣の使命って事だな!クハハハハ、これはつまり実験動物体験だ!!!何事も経験ってな)


 目の前では上手くいったと満足そうな顔をしたサーギスが部下に指示をして誰かを呼びに行ったので、黒幕っぽい奴が来るまで暇なので、リオンはツバサとオピス相手に不毛なやり取りを繰り返していた。

まだ時間が掛かるのかバタバタと周囲が慌ただしい。


(もう〜リオンたらドジなんだから〜。でもでも、そういう所もカワイイから〜わたしは大好きだよ〜。でも〜リオンを罠に嵌めた蛆虫共は殺さなきゃダメだよね〜くふふ。こんな魔法陣すぐ解いて〜みんな殺そう〜ぐちゃぐちゃに擦り潰してポイしよ〜。特に目の前のゴミだけは念入りにすり潰さないとダメだよね〜)

(ムホホ!これは興味深い魔法陣じゃのぉ〜。ふむふむ、ムホホ、高まるの〜!アホのリオンのお陰でワシは満足じゃぁぁぁ)

(リオンよ!我に代われ!こんな魔法陣、この国ごと灰燼に帰してやろう、グハハハ!)

(黙れポンコツ2匹!とりあえず爺は解析よろしく……って言う必要ねえか)


 爺ことテースタは既に何かの研究に没頭し始めていて念話も遮断している。

それからある程度経ってから次はどんな暇潰しをしようか模索しているとバンッと勢い良く入り口の扉が開き、見覚えのあるクソ中年男が現れた。


「ガハハ、他愛も無いな厄災の獅子よ。貴様など帝国の技術をもってすれば所詮その程度の存在なのだ!!蛮族共も貴様も俺達人族様の礎になれる事を誉に思うがいい!!」


 会話が出来ないので相手方が一方的に話して満足したのが周囲の人に指示を出すとクソ中年男は去って行った。


(あんな言葉を俺に伝えたいが為に来たのか?うわ気持ち悪りぃ……)

(リオンに愛を囁くなんてわたしが許さないんだから〜!あのゴミから先にぐちゃぐちゃにすり潰して殺してやるんだから〜)

(落ち着けルプちゃん、あれは愛を囁いていないからね。なんならバカにする為に態々来ただけだからな)

(……えっ?リオンを、バカに?許せない!!リオンは確かにおバカさんだけど、おバカさんだけど………バカにしていいのはわたしだけなんだから!!)

(いや何言ってんのか分かんねえが、俺はバカじゃないからね?少ーしお茶目なクールガイ紳士だからね?あれ?聞いてる?)


 リオンの訴えも思いも届かずメラメラとクソ中年男への殺意を高めていくルプをリオンは無言で微笑み放置する事にした。

そんな頭の悪いやり取りをしていると今度はバタバタと沢山人が投入されてきた。

その人達は応接室だと思っていた部屋から次々と家具などを撤去していった。猫か蟻の引っ越し屋さんかな。

ソファが出され壁紙が剥がされ床も剥がされると、何ということでしょう、そこには冷たく無機質な牢獄が完成しているではありませんか。

身動きも取れないのでビフォーアフターをじっくり堪能する。

相変わらずリオンの足元には魔法陣が淡く明滅しながらその効力を発揮していた。


(ハァ〜……爺に解析任せてる間暇だな……とりあえず何が出来るか探るか……。あぁ、とりあえずリノアに念話でもしとくか)


 予想外の事態が発生し拘束されたリオンはこれから起こる事を想像しながら暇を潰す事にした。



 リオンと別れたリノアとレーベはとりあえず話が終わるまで近くの喫茶店で時間を潰す事にした。


「リオンは大丈夫でしょうか……」

「獅子神様なら心配する事自体無駄なんじゃねえか?それよりも俺が気になるのは、運営本部に入る前に獅子神様が仰っていた内容だな……」

「いや……別にリオンが心配というより、リオンが何かやらかさないかなって方が心配、かな」


 リオンが居ない事で素の口調になっているレーベにハハハと乾いた笑いをするリノアが直近の会話内容について思案する。


「入る前って言うと……あの横暴な貴方の上司の話だよね?何か企んでるって事かなぁ……」

「可能性が無いとは言い切れんな。あの人は戦争に負けた俺達亜人を嫌っているし、獣人部隊の大隊長という地位も嫌々やっているからな。獅子神様の容姿の事も相まって何か画策しているかもな」

「それ絶対何かやらかすでしょう……。あまりリオンを刺激しないでほしいんだけどなぁ。……早めた方がいいかもしれないな」


 最後はレーベにも聞こえない小声で呟くと、特にする事も無いので暫く雑談をして時間を潰す。

会話も一区切り付く頃には閉店時間が迫っていた。


「リオン遅いな……何かあったのかな」

「確かに少し遅い気もするな。既に1時間は経っているな」


 流石に時間が掛かり過ぎているので、運営本部に訪ねかどうかを話し合っているとリノアに念話が入る。


(ーーーア?ーノア?……リノアか?何か繋がり悪いな……まあいいか。とりあえず現状伝えるが、レーベのクソ中年上司にうっかり魔法で拘束されちまったから多分数日は帰れそうにねえわ)


 微かにノイズが混じりながらも淡々と伝えられた内容にリノアはガタッと勢い良く立ち上がる。

その突発的な行動により対面に座っていたレーベがビクッと肩を跳ね上げる。


「ど、どうしたリノア⁉︎何かあったのか⁉︎」

「………貴女の上司にリオンが拘束されました」

「なにッ⁉︎バカな!一体それはどういう事だ!!」


 リノアの言葉にレーベもバンとテーブルを叩き立ち上がり前のめりに顔を近付ける。


「そのままの意味よ……まさか、貴女も関わってるの?」

「バカを言うな!!獅子神様を裏切る様な真似をする訳ねえだろ!!」


 暫く睨み合う2人だったが、レーベの言葉にリノアが納得すると静かに腰を下ろす。

仮にリオンがこの場に居れば表情や呼吸、脈拍などの些細な変化を感じ取り面白がった所だが、残念ながらリノアにはそこまで読み取る事は出来ないので全てを納得してないが嘘も見抜けないので今は引き下がった。


「……ゴメン」

「構わねえよ、でもこれからどうすんだ?」

「そんなの決まってる!今からリオンを助けに行かなきゃ!」

「いや待て!落ち着けリノア。どうやったのか分かんねえが獅子神様程の御方でさえ拘束する手段を持ってるんだぜ?無策で乗り込んで行くのはさすがに危険過ぎるだろ」


 レーベの言葉にリノアは自分がまだ冷静では無かったと気付くが、リオンが害されたという事実が自分の思っている以上に感情を乱されていた。

そんなリノアが身じろぎする度に身体を纏う見えない鎖がジャラジャラと無音の音を鳴り響かせる。


(そうだぞ〜お前は雑魚ゴミメンタルなんだからな。とりあえず落ち着けよ)


 レーベに同調する様にリオンから念話が届き、今度はリノアだけでなくレーベにも魔力パスが繋がる。

驚く2人を意に返さずリオンは話し始める。


(まあ俺の事は気にすんなよ。動けねえだけで特に害はねえ、それにあのクソ中年男もどっか行っちまったからな。そんな事より、俺が拘束されてお前等も暇になりそうだからな、暇潰しがてらリノアはレーベと仲良く奴隷解放でもしてこいよ)

(なッ⁉︎あ、あの、獅子神様待って下さい!!ど、奴隷解放とは一体どういう事ですか?どこの国においても奴隷解放は犯罪行為なんですよ⁉︎しかもそれを、お、……私にも手伝えと仰るのですか⁉︎)

(そ、そうだよリオン。リオンが無事なのは安心したけどさ……さすがに帝国の騎士さんにそこまでやらせるのは無理じゃないかな……)

(レーベ、リノアは奴隷として捕まった天翼人族を解放する為に帝国に来たんだよ。お前が何に驚いてんのかは知らねえが、別に帝国に忠誠を誓ってないお前が幾ら罪を犯そうと関係ねえだろうし、特に気にしてもねえだろ?それに今回に限っては話に乗った方がお前にとっても利があると思うぞ)


 クツクツと愉しげに笑いながら話すリオンとは対照的にリノアとレーベは眉根を寄せ不安げな顔をしていた。


(わ、私は帝国に忠誠を誓っております……しかしリノアと天翼人族に何の関係が……?それに私にとっての利とは一体何でしょうか)


 リノアでも分かってしまう嘘をオドオドと呟きながらも心の奥底ではリオンの言う[利]に引き寄せられており、更なる疑問に話を進めようとするレーベ。

彼女が帝国に忠誠を誓おうが誓わなかろうがどうでもいいリオンは言及する事も無く相手の反応を楽しみながら話を進める。


(そんなのは本人に聞いとけ、俺には関係ねえからな。クハハ、そんな事より面白い事を教えてやるよ。今すぐお前が居る騎士宿舎の部下を数えてみろ、観客じゃなく役者として関わりてえなら素直に従った方がお前の利にはなると思うと言っておこう。後の祭りになる前に教えてやったが、この話をどう取るかはお前次第だけどな、クハハハハ!!ん?あぁもう戻ってきたな、お前等精々足掻けよ)

(ッ⁉︎待ってリオン!!……もう!!自分勝手なんだからぁぁぁ!!!)


リノアの心の叫びも虚しく一方的に掻き乱し去って行った。


「ま、まぁ、獅子神様らしいと言うかなんというか……そ、それにしても先程仰っていた事は気に掛かるな!俺は早速宿舎に戻って確認するがリノアはどうする??」


 上手いフォローも出来ず強引に話題を変えるレーベに生温かい視線を送るリノアだが深追いはせずに問われた内容について考える。


(リオンが居ないこのタイミングで幻術が解けたら不味いけど……)


 チラリとレーベを見ると本当は直ぐにでも飛び出して行きたいだろうに律儀にリノアの返答を待ってくれている。

その姿を見てしまってはリノアの心の天秤は一気に傾いた。


「私も行くよ、この後レーベにはしっかり手伝ってもらいたいからね」


 この瞬間ギリアム帝国第三獣人部隊小隊長エレオノーラ・レーベでは無く、素の獅子人族の少女になっており隠せない安堵の表情を浮かべている。

それを見たリノアはいつの間にか気を許してくれている彼女の事を好ましく思い綺麗な笑顔を浮かべた。

お互いに笑顔が溢れ、すぐに店を後にし走り出すが少ししてから時間差で先程の会話を思い出したらしく動揺した様子で、「まだ手伝うとは言ってない……」とリノアに軽い非難を込めて言うが、その行動は誰に似たのか当然の如くスルーされて無かった事になった。


 2人が慌てて宿舎に急行している頃、魔力パスを切断したリオンは相変わらず拘束されたまま近付いてくる足音に耳を傾けながら到着するのを怠そうに待っていた。


(この魔法陣、範囲内の魔素を霧散させてんのな。俺が使った魔法の劣化版って感じなのに振り解けねえんだよなぁ。暇だなぁ、何か面白い事起きねえかなぁ)


 文句をタラタラと独り言ちていると足音が扉の前で止まり、ガチャッと音を立て1人の男が入ってくる。


「どうだ、何か喋ったか?」


 目の前に現れたのはクソ中年男こと、大隊長の誰かさんだった。当然名前は忘れた。

話し掛けた相手は俺が最初に会った運営本部のお偉いさんだ。勿論名前は忘れた。

滑稽な事に俺が喋れるとは知らないらしく延々と様々な質問を繰り返していた。

当事者ながら我関与せずといった風に達観して2人のやり取りを見ていた。

頭が悪いのか態々リオンの目の前で今後の方針を話す馬鹿2人に徐々に興味を失っていく。

拷問するだの物騒な単語も飛び交うが魔法陣を解除しない限り外部からの物理的干渉は出来ないらしくクソ中年男2人が白熱した討論を繰り広げていたが結局妙案が生まれる事無く、結果的に部屋の温度と湿度が多少上昇しただけだった。

大隊長のクソ中年男が視線を運営本部クソ中年男からリオンに移すとニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら口を開く。


「所詮は獣並みの知能しか無い害獣か。害獣は害獣同士としか会話が成立せんらしいな。まあ貴様が喋っても喋らなくとも問題はないがな。ククク、陛下にも報告を終えたから武闘大会終了後が貴様の最後だ、我が帝国の礎にして貰える幸運を噛み締めながら死ぬが良い!!」


 やはりいつも通り言いたい事を言うと高笑いしながら去って行くクソ中年男2人。


(あの大隊長ってレーベの報告聞いてねえのか?バカなのかな?それとも念話が出来るって報告してねえのか?職務怠慢はいかんなぁ。しかし……あまり長居すると不味いな……。おい爺、解析はまだ終わらねえのか?)


 珍しく焦燥感がリオンから滲み出ていてテースタに尋ねると予想外の返答が投げ込まれた。


(ん?他の研究をしておったから全く解析しておらんぞぉ〜ほほぉ)

(ほほぉ、じゃねえよ爺!!えっ?何やってくれてんの?この魔法陣を最優先で解析しろよ!!)

(そんな事言われたよ〜な、言われてないよ〜な、ホホホ、忘れたのぉ。歳は取りたくないもんじゃなぁ。じゃがなリオン、パッと見た所お主なら痛みを多少耐えれば力尽くでその魔法陣は破壊出来る筈じゃぞ)


 あっけらかんと宣うテースタは今度ボコると誓いながらとりあえず言われた通りに試してみる。

全く動く気がしない手足を痛み度外視で無理矢理動かそうとするとバキバキと手足と連動して身体中の骨が軋み、至る所の肉や筋が千切れ、断裂していく。

更に緩やかに骨がへし折れていき耐えられなかった皮膚が裂けてドロリと血が滴り落ちる。


(いたたたたたた、痛えよ!!おい爺!!全然壊れる気配無いんだがッ‼︎⁉︎俺が先に壊れるが⁉︎)


 壊れるどころか滴り落ちたリオンの血を魔法陣が吸収しより輝き明滅し始め、某パンのヒーローみたく元気100倍になっていく気がした。

その現象と同時進行でより拘束が強固になっていき、こんだけ強けりゃそりゃ毎回某バイキン男はやられるわと思いましたとさ。


(あぁ〜そうじゃそうじゃ、言い忘れておったがお主は血を出すんじゃないぞ。以前言った通りお主の血は魔素が限界まで濃縮されたものじゃ。そしてこの魔法陣は体内から放出した魔力、指定範囲内にある魔素や魔力を吸収して維持しとるからのぉ、ホホホホホ)

(先に言えやボケ爺ィィィィ!!!そんな事よりこんな痛い思いしてるのって俺だけなのッ⁉︎以前進化した時はみんな一緒にのたうち回った筈なのに……どういうこと?)


 今度粉々に砕くと心のメモ帳を更新しつつドッと疲労が押し寄せ、何故か念話に誰も反応してくれなかったのでとりあえず爺に再度最優先で解析を指示し、魔法陣に阻害され普段よりゆっくりと再生する自らの身体を眺めながら現状の逼迫している問題、否……元凶に念話を送る。


(オピス君、腹減ったのは分かるがそろそろ俺を食うのはやめない?身体の中から食われるってどんなホラーだよ。その内エイリアンみたいに腹食い破って出てきそうだよ。見た目だけならそれっぽいしな)


リオンが珍しく焦った原因は身内の暴走によるものだった。


(だってぇ〜お昼から何も食べてないんだもん!!!動けなくなったのはリオンがおバカさんだから〜わたしは悪くないよね〜?それでご飯食べれないのは〜違うとわたしは思います。ご飯は生きる上でとても大切なことなんだよ〜?食べれないと悲しい気持ちになるんだからね〜。ちゃ〜んとリオンには責任を取ってもらわないと〜。あっ、でもでも〜これでも我慢してる方だし遠慮気味に食べてるんだからねぇ〜感謝してよね〜。リオンは硬いし筋張ってるからあまり美味しくないしねぇ)


 自らの正当性を語り、あまつさえ物理的に身を削ってきている相手に感謝しろと言われる始末。

オマケにポロッと美味しくないとか言われてしまう。

消費と生産、ここに至っては生産というより再生だが、とりあえずこの天秤はオピスの言う通り均衡状態が保たれているので腹を突き破るスプラッタ映像にならずに済むなと考えているとその態度をどう思ったのかオピスが(でも……)と付け加え、リオンの意識を向けさせる。


(後回しにしようとか思ってると〜我慢出来ずに食べ切っちゃうからね〜キャハハハハハ!!)


 さすがと言うべきか、ですよね〜と言うべきか、どちらにしても早く拘束をなんとかしないと物理的に美味しく頂かれてしまう事は確定した。

美味しくはないらしいが……。


(えぇ〜オピスちゃんズルいよ〜!わたしも食べる〜!むしろ、わたしのリオンを勝手に食べないでよね〜)


 更にぶっ壊れ金髪幼女まで参加し始めたので早くも均衡は瓦解を開始したのでより迅速に拘束を壊す事に注力した。


(まあまだ時間はあるし解析待ちでいいか。間に合わなけりゃ力技でいけるだろ、さっきので大体理解したしな。さてさて、そろそろアイツ等は到着したかな?)


 体内をグチャグチャ食い荒らす金銀幼女を一旦放置しながらリノア達に魔力パスを繋ぐ。

現在念話はリオンからしか繋ぐ事が出来ないので一方的なモノとなっており、魔力パスを繋ぐと言っても魔力を体外に放出する訳ではなく一定範囲内に居るリオンの魔力にアクセスするだけなので魔法陣の影響を受ける事はない。

その為今の所リオン謹製ポーションを飲んだ事のある人物にしか念話を行う事が出来ない。



 リオンが仲間に体内を食い荒らされていた時、リノアとレーベは早々に兵士宿舎に到着してリオンに言われた事を確認して回っており、今は気持ちを落ち着かせる為、ベンチに座っているが2人とも無言で険しい顔をしながら考え込んでいた。


「……どういう事だ」


 独り言の様に呟くレーベは答えの出ない袋小路に迷い込むかの如く頭にクエスチョンマークが付いていた。


「とりあえず今はリオンに連絡を……ってどうやって取ればいいんだろ……」


 結果的にどうしようもないが、念話を受動的に行使してきたリノアが連絡手段が無い事に気付き頭を抱える。

幸運な事にその悩みは直ぐに解消することになる。


(お前等、確認は終わったか?)


 リオンからの念話にリノアとレーベが俯き気味だった顔をバッと上げる。


(リ(獅子神様!!これは一体どういう事ですか‼︎⁉︎既にご存知なのですよね!!))


 感動したリノアの念話を遮りレーベがリオンを捲し立てる様に問い詰めたてので少し不機嫌な顔をするリノアだが、現在のレーベの精神状態では彼女の顔色を気にする余裕は無かった。


(ハァ?何の話をしてんだ?とりあえず確認した内容を言えよ)

(と、恍けないで下さい!!!)

(黙れ)


静かに放たれた念話にレーベとリノアはピタリと動きを止めた。


(も、申し訳、ございません……少し、冷静さを欠いておりました……)


 先程まで興奮して紅潮していた顔色が一瞬にして青褪め額に脂汗を浮かべて身体を震わせる。


(構わねえよ、それじゃ早く説明しろ。こっちもそんな時間がある訳じゃねえしな)


 リノアがチラリとレーベを見るととても説明出来る状態じゃなかったので仕方ないと最近こんな役が多いなと思いながらも説明役をする事にした。

話を聞くと、レーベが所属している獣人部隊がレーベの命令で任務に付いたとのこと。

本人であるレーベは当然そんな任務を命令は下していない。

他の部隊員に聞いてもレーベが命令を下したと言っており、レーベの姿を見間違える事は無いと言っていた。

消えたのはレーベの部隊だけ凡そ40人、全て獣人族だという。


(へぇ〜……)

(へぇって、リオンは何か知ってるの?)


 話し終えたリノアがリオンの返答に違和感を感じて問い掛ける。


(経緯は知らなかったけどな。だが、どうなってんのかは分かる。おいレーベ、まだお前の部下は死んでねえから安心しろ。怪我の功名と言うべきか俺が延命装置になってるな、クハハハハ)


 あっけらかんと言うリオンに気力を振り絞って復活したレーベが激情を胸の内に抑えながら問い掛ける。


(し、獅子神様の、近くに私の部下が居るん、ですか……?……まだ、と言う事は、現時点でも命の危機があると言う事ですか?場所は、運営本部ですか?)


 質問をどんどん投げ掛けるレーベにリオンは辟易とした気分になったので適当に対応する。


(とりあえず明日の夜に奴隷解放でもしてこいよ。言っとくがお前に選択肢はねえよ。場所は運営本部じゃねえしお前が来たら部下は死ぬ、いや俺が間接的に殺すと言った方がいいか、クハハハハ)


 ギリッと歯を食い縛り誰に向けているのか憎悪を込めて空を見つめる。


(………私も、手段を選んでいられません!獅子神様の大事な彼女を殺されたく無かったら仲間の場所を教えて下さい!!!)


 リノアはギョッと隣を見ると首筋にナイフを当てられていた。

皮膚を浅く切られツツーッと血が流れる。


(いや別に大事ではねえから殺しても構わねえが、その時点でお前の望みは潰えるぞ。両親も救えず部下も失い、更に友まで失ったお前に何が残る。結局何もかも中途半端だな、くだらねえ)

(え?な、なんで?……何で俺の両親の事を知っている!!!)


 リオンの言葉にかなり動揺したらしく突き付けていたナイフがガチャンと地面に落ちる。


(クハハハハ!!お前が呼んでるだろ、[獅子神]ってな。神なんだからそれぐらい分かるだろ、それでどうすんだ?無様に舞台を降りるか、降りずに無様に踊り続けるか。何もかもが中途半端なお前は自身含め誰も救えず誰も殺せない、不快感を散蒔き資源を食い潰す害虫と同じだな)


 悲痛な顔で力無く項垂れるレーベを見ながら今まで黙っていたリノアが念話を送る。


(……リオン、私がどうなっても構わないって、本当にそう思ってるの……?)

(ん?まあ生きてりゃ後はどうなってても構わねえな)

(酷い!!リオンにとって私はその程度の存在だったの⁉︎バカァァ!アホォォ!!鬼畜ー!!死んじゃう所だったのよォォォ!!!!)

(何なんだいきなり……俺が拘束されてて良かったな。それにその程度で死ぬ訳ねえだろ、自分の姿を確認してみろよ)

(ふんだ!そんな事言ったって信じないんだからね!!………あれ?首の傷が、無い?どういうこと……?)


 面倒臭いモードに入ったゴミメンタル少女が混乱しながら首をさすり小首を傾げる。


(面倒臭えから説明しねえが、今の状態なら例え触れられても幻術は解けねえしある程度の怪我なら自動で回復する。………今は3回、か……とりあえず実験は成功か)


 最後は念話に乗せずにリノアに伝えるといまいち納得していなかったが、(今度な)と伝えると渋々引き下がった。


(それで、レーベはどんな答えを出したのかな?神様に教えてくれよ)


先程から反応していないレーベに話を振る。

少しの沈黙の後、(確認させて下さい)と前置きしてから語り出す。


(………私がリノアを手伝って天翼人族の奴隷を助ければ部下達の命と私の望みは叶いますか?)

(そんなの知らねえよ、自己の望みは自己で叶えるもんだろうがよ。だいぶつまらなくなったが、お前は俺を利用するんだろ?過程を他人に振っても構わねえが結果を他人に委ねんな。全員は保証は出来ねえが、とりあえず奴隷解放くらいまでは部下の延命はしてやるよ。その後の頑張り次第で追加報酬も用意してやろう!!)


再度場が沈黙するが先程よりも早く返ってくる。


(……分かりました。では明日の夜解放しますので、その後部下達の居場所を教えて下さい)

(あぁ分かった。聞いてたと思うがリノアもそんな感じになったから後は好きにしろ、楽しみにしてるぞ)


それだけ言うとリオンは魔力パスを切った。

2人になったその場には静寂が訪れていた。

静寂を先に破ったのはレーベだった。


「…………ごめんリノア……ごめんね」


ポロポロと涙を流しながら震えた唇で弱々しく溢す。


「ううん、気にしてないよレーベ、1人で大変だったね。今回助けてもらうのは私だけど……次は私がレーベを……ううん、エレナを助けるからね。でも本当にいいの?エレナがこれに参加する事はもしかしたらもうこの国に居られなくなっちゃうんだよ?」


 リノアがギュッと抱き締めると一瞬ビクッとするものの、恐る恐るといった動きで背中に両腕を回す。


「ぐす……ごめん…ぐずぐす、ありがとう、ありがとうねリノア………色々と、ありがとう……でも大丈夫だから」


 レーベが落ち着くまで2人は抱き合い新たに出来た絆を定着させる。



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[王の封書]


 リオンが拘束される少し前、ルークスルドルフ王国の王都サリバンの兵士宿舎に併設されている訓練場で一兵卒に混じり鍛錬を積んでいる男が1人。

更にその様子を日陰になっている場所からうんざりした表情を内面に隠しながら無表情で眺めている男が1人。

鍛錬している男からは身体中から尋常では無い程の汗を滴らせており、相当長い時間訓練を行っていたと分かる。

そろそろ止めようと日陰から訓練中の男の元に向かおうとしたタイミングで呼び止められ、振り向くと1人の文官が一通の封書を持って待機していた。


「セッケル様、陛下からドスオンブレ様宛に書状をお預かりしております」

「陛下から?……ありがとう、預かろう」


 ルークスルドルフ王国第二騎士団副団長のセッケルが文官と言葉少なめにやり取りし、受け取った封書の裏側を確認すると確かに王家の家紋を象ったシグネットリングが捺されていた。

文官が去ると、改めて団長であり幼馴染でもあるドスオンブレの元まで向かう。


「おい、陛下から封書が届いたぞ」


ハァハァと剣の型を丁寧に確認していたドスオンブレがセッケルの声に気付くと振り返る。


「ん?あぁ分かった、見せてくれ」


 受け取った封書の蝋を開封して内容を確認すると途端にドスオンブレが苦虫を噛み潰した様な顔をすると手紙をセッケルにも渡す。

こういうやり取りは今に始まった事では無いのでセッケルは特に気にした様子も無く内容を確認していくと、普段からあまり感情を表に出さないセッケルも眉根を寄せ意思を共有する様に小声で内容を呟く。


「ギリアム帝国にて厄災の調査………」


 暫くの沈黙が流れるがドスオンブレがため息ひとつ溢し口を開く。


「まあ考えてても仕方ねえな。陛下からの命令だから俺達は粛々と従うだけだ。そんじゃ俺は少し汗を流してくるから用意は頼んだ」


 全てを丸投げしてそのままスタスタと歩いて行った団長に副団長セッケルは特に気にした様子も無く再び封書の内容を見る。


「俺とアイツの2人による調査……移動にウィンドバードの使用許可まであるのか……。そこまで性急に厄災の情報が欲しいという事か。しかし、帝国にも王国の間者が多数潜伏している筈だが……。何事も無ければいいが、言い知れぬ胸騒ぎがするな」


 言葉に出すが、既に物語は動き始めてしまったのでいくら泣き言を言っても仕方ないと気持ちを切り替えてたセッケルは、封書を仕舞うと直ぐ様出立の準備をする為に足早に宿舎に戻って行った。

そこから出立まではとても早く、午前中に発生したこの命令に対して午後一には全て支度は整っており、2人は兵士宿舎内にある発着所に居た。

ここは王国騎士団が所有するウィンドバードが離着陸する為の場所や飼育小屋が複数確保されているウィンドバード専用の場所だ。

この世界では魔物を使役する事が出来ないと言われているので魔道具である隷属の鎖を装着する事で強制的に従えている。

あまり高位の魔物には効かないが、ウィンドバードなど低位から中位程の魔物であれば問題無く作用する。

ウィンドバードは穏やかな性格で自然界での食物連鎖でも捕食される側にあるが、その点の自然選択、又は淘汰により獲得した対策として風魔法を操る事によりかなりの速度で飛行し捕食者から逃げるのだ。

その能力が王国でも重宝されている。


「今から移動すれば夜になる前には着きそうだな」

「あぁ、そうだな。帝国に着いたらあまり余計な事に首を突っ込むなよ」

「大丈夫だって、俺を信じろよセッケル!」


 キラリと歯を剥き出しにサムズアップするドスオンブレだが日頃の行いが悪いのか、反応する事無く横を通過し先を歩いて行ってしまいドスオンブレが慌てて追い掛ける。

その後の行動は迅速で待機しているウィンドバードに2人で乗り、合図をするとバサバサと飛び立ち数秒もしない内に王国の全容が確認出来る高度まで上昇し帝国に向けて出発した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



[ギリアム帝国皇帝直属近衛魔装兵]



 薄暗い部屋の中央には黒曜石を思わせる黒光りする円卓が鎮座しており周囲には11脚の椅子があり、既に6脚の椅子が埋まっていた。


「チッ!!まだ始まらねえのかよ、くだらねえ理由で呼びつけやがったんじゃねえよなぁ」


 鉱物の様な光沢がある橙色の髪に同色の瞳を持つ男が苛立ちのあまり円卓に足を乗せながら暴言を吐く。

騒ぎ立てる男にうんざりとした気持ちを声音に乗せて隣から静止の声が掛かる。


「うるさいわよアルマース、そうやって吠えてても状況は変わらないわよ」

「んだと!!喧嘩売ってんのかリョート!!」


 橙色の男、アルマースが敵意剥き出しで声を掛けてきた水色の髪に同色の瞳を持つ女、リョートに突っ掛かるが彼女は一瞥しただけで関わるのをやめたらしくそっぽを向いた。

苛立ったアルマースがリョートの肩に手を置こうとしたタイミングで正面扉がギギギと音を立てて開かれ、円卓に座していた全ての面々の注目を集めた。


「チッ!やっと来やがったかレイ、ラウム。こう見えて俺は色々と忙しいんだよ!早く済ませろよ!」


 入ってきたのは金髪金瞳の青年、レイと銀髪に金瞳銀瞳のヘテロクロミアを持つ女性、ラウムだ。

2人ともアルマースの言葉を聞いていないのか特に反応する事無く円卓まで辿り着くと同時に響く舌打ち。


「少し待たせてしまったね。居ないのは………ウルミナとガリュナーか」

「レイ、先ずはその2人の事から話すといいわ」

「そうだね、ラウム。それじゃあ先ずは皆、今日は集まってくれて感謝している。アルマースじゃないが、そう皆に時間がある訳では無いと思うから早速本題に入るよ。ガリュナーの任務はみんなも知っていると思うけど改めて、最近話題になっていた厄災を捕獲したという事でその厄災を支配する為に動いてもらっているんだ」

「仰々しい、厄災なんつう呼び方があんのに結局大した事なかったんだろ?捕獲して騒いでた奴がいたろ、なんつったか……忘れたわ、覚える価値もねえ下っ端だったな。おい、そうだろチビ!」

「…………」

「チビじゃないでしょ……全く。相変わらず品性の欠片も無い男ね〜。そんなんじゃいつまで経っても女の子にモテないわよ〜ねぇレピ」

「テメェは黙ってろ行き遅れババアが!」

「あぁん?コロスぞ!!」

「やってみろや!!」


 一触即発の雰囲気を発する2人の間に挟まれて尚無表情、無反応を貫くレピと呼ばれる蛇目の様に縦長の瞳が金色に輝き、少し癖っ毛の茶髪をツインテールにしているその側頭部からは黒曜石の如き艶がある角を2本持つ少女。

張り詰めた空気を打ち破る様にレイの声が響く。


「アルマースとプラーミャはとりあえず落ち着こうか。僕の話はまだ終わってないからね」


 特段声を張り上げた訳でもないが、レイの声は場の隅々まで行き届き周囲を支配する効力を持っていた。

特に当事者の2人、アルマースと紅蓮の髪に同色の瞳を持つプラーミャは呻き声を上げるとその場で黙り込む。


「分かってくれて僕は嬉しいよ。さて、それじゃあもう一つの説明をするけど………悲しい事にウルミナが殺されてしまったよ」


この一言でほぼ全員が驚愕する。


「うん、みんなの気持ちは理解出来るよ、僕も同じ気持ちだからね。それで本題は誰が殺したかって事だけど………犯人は先程話題に上がった厄災だね。ただこれに関してはなんと言うか……偶然という見方が強いんだよね、陛下も此度の件は偶発的に発生した稀事だと仰っていた」

「「………………状況は?」」


 ボソリと二重に聞こえた声の方を向くと白髪に黒瞳の女と黒髪に灰瞳の男が居た。

男女共に耳がとんがっており、色白で線が細い体型をしたエルフ族だった。


「驚いたね……エローとコローか、普段無口な君達から声を掛けられると何かこう……感慨深いものがあるね。おっと、少し話が逸れちゃったね……当時の状況は僕も詳細は見てないから知らないけど、どうやら人材発掘の為に変装して武闘大会に参加していた所で規定違反を犯した厄災がウルミナ諸共多数の参加者や観客を虐殺したみたいだね」

「ぷっ!アハ、アハハ、アハハハハハハ、そんな間抜けな理由で死んだのかよアイツ!ぷぷ、くくく、アハハハハハハ、だ、ダメだ、腹痛え」


 アルマースがゲラゲラと笑うが他の面々はため息を吐く者、無表情を貫く者、ニコニコと微笑みを絶やさない者など様々だ。

やはりと言うべきか、いつもこの場をまとめるのはレイだった。


「アルマース、それにみんなも……どういった理由であれ死者を冒瀆する事はあまり褒められたものではないよ。……さて、それじゃあ今後の方針を伝える事にするね。厄災に関してはガリュナーが帰還してから具体的に決める事になっているからそれまでは手出しは禁止だよ、一応情報だけ共有するね。名前は[リオン]と武闘大会に登録されていた、容姿は漆黒の獅子だね。獅子人族を更に動物寄りにした姿をしているね、先祖返りと呼べばいいのかな。どうやったかは現在調査中だが武闘大会の観客用の結界を破壊出来る程の力を有しているのと、どうやら冒険者ギルドにある依頼の1つであるコボルトキングの変異個体も討伐したらしいね………うん、情報共有はこれくらいかな。最後にもうひとつ、どうやら近々奴隷解放を画策しているネズミが居るみたいだからそれの排除を誰かに任せたいけど……既に陛下から指名されているので後程説明するよ。さてさて話はこれで終わりだ、忙しい中集まってくれありがとう、各々通常業務に戻ってくれ」


1人、また1人と部屋を後にし、最後まで残ったのはレイとラウム、指名された人物の3人。


「じゃあ、詳細を説明するからしっかりと聞いて任務を完遂してほしい」


 時刻は既に深夜を回り、日を跨いでいたが話し合いは数時間にも及んだ。

指名された人物は長時間の拘束にも関わらず時を刻む事に目を爛々と輝かせやる気を漲らせていた。

その様子を、話しながら眺めるレイは満足そうに頷き更に熱を込め説明し始めた。


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