第41話 異能者
階段を登り切った所を攻撃され、壁に叩き付けられたリノアとエレオノーラは呻きながらも何とか立ち上がり、各々異なった反応を見せる。
「クッ、やっぱり罠だったのね……まさか、ハァ……リオン……貴方はこれに気付いてたのね」
「ッッッ!?あ、アイツは、そんな……何故こんな所にアイツがいやがるんだ !?」
痛みを堪えるリノアが高らかに笑うリオンを幻視しながら脱力している横でエレオノーラは冷や汗を流しながら、未だにブツブツと独り言を宣っている男を凝視している。
そんな異なる様子の彼女にリノアが疑問をぶつける。
「ねぇエレナ、アイツは貴女の知り合いなの?」
「知り合いなんかじゃねえよ……。アイツは、あの男は、皇帝直属の近衛魔装兵の1人、名はアルマース。俺の…………俺の、故郷を滅した男だ」
「そう……つまり今の私達の障害ね!!」
説明を聞くや否や高速で弓を引き絞りアルマースの頭部目掛け矢を射るリノア。
弓矢は吸い込まれるが如き軌道で未だにブツブツ独り言を振り撒くアルマースの眉間に直撃する。
バキィンと肌と鏃が接触したとは思えない音が鳴り響きアルマースが仰反る。
「やった!命中ー!」
横でポカンと間抜け面を晒すエレオノーラを無視し喜ぶリノアだったが直ぐに眉根を寄せ不快感を滲ませると再び弓を構える。
独り言を中断する衝撃を眉間に受けた事でアルマースが漸く2人に鋭い視線を突き刺した。
「いきなり舐めた真似してくれるじゃねえが亜人風情が!!んな柔い矢が俺に通じるわけねえだろうが!!」
「クソが、相変わらずなんて硬さだ……。おいリノア、今ので理解したと思うがアイツには生半可な攻撃じゃ傷一つ付ける事は出来ねぇ」
「えぇ、そうみたいね……困った事に私とは相性が悪いわね」
怒気を込めリノア達を睨むアルマースの眉間には矢が直撃したとは思えない、かすり傷1つ付いていなかった。
「あぁぁぁ、もうめんどくせぇ!この場全員皆殺しだ。先ずはテメェ等から、だ!!」
「ぐふッ」「きゃああぁぁぁ」
「アハハハハ、ん?ハンッ、少しはやるじゃねえか亜人共!!まだ少しは楽しめそうだなぁ、おい!」
アルマースの姿がブレた瞬間反射的にリノアとエレオノーラは急所をガードし、魔力と神経を集中させる。
拳と蹴りがインパクトするタイミングで2人共勢い良く後方に跳ぶ事で威力を軽減させるに成功するが、それでも殺し切れない衝撃だけでも十分な威力を発揮する。
「ックソ、なんつう硬さだよ……。オリハルコンで出来てんのかよ!まだ腕が痺れてやがる」
「ハァ、リオンの地獄の特訓をしてなかったら今のは防げなかったね……それじゃあ、今度はこっちの番!エレナ合わせて!!」
「あッ、お、おい!ま、待てリノア!クソッッッ!!」
返事を待たずに先行するリノアに舌打ちしながらもエレオノーラが追い掛ける。
先行するリノアだが、自分の土俵で戦う為にアルマースの周囲を一定間隔で回り、魔法付与された弓矢を次々と放ち中距離を保ちながら牽制し続ける。
横殴りの雨の如く連射速射され、そのどれもが外れる事なくアルマースに直撃する。
だが膨大な矢数のただ1本も突き刺さる事は無くカランカランと音を立て次々と地面に落ちていく。
「本当に硬いなこの人……自信喪失しちゃうかもしれないよね……。やれやれ、それならここはどう、だ!!」
ため息を吐きながら次の作戦を決行する為に再び雨の如き矢を放つ。
「学習しねえ奴だな、ヒトの形をしてるが所詮は鳥だ、なッッッ !?」
先程と同様の攻撃に見えたのか心底つまらなそうに避ける素振りもしなかったアルマースであったが、次の瞬間矢が当たる直前に目を見開き緊急回避する。
片膝を付き、リノアを睨むアルマースの背後から気配を消しながら機会を伺っていたエレオノーラが大上段からダガーをアルマースの首筋に振り下ろす。
直前にエレオノーラの気配に気付いたアルマースは全力で前に飛び出す事で回避すると2人を視界に入れる位置まで移動した。
「舐めた真似してくれたなテメェ等!!雑魚の癖に俺と本気でやり合う気でいやがるのか?」
任務が進まない事で苛立ちがどんどん募ってきたアルマースがガンガンと床を蹴り砕き、穴を量産していく。
「思った通りだね。やっぱり目は硬くならないんだ。それが分かってればやりようはある!勝負はこっからだよ!」
「おいリノア!次からはちゃんと説明してから動けよな」
1人納得しているリノアにエレオノーラが苦言を呈すると、ごめんごめんと全く反省していない軽口を返されエレオノーラはハァ、とため息を溢す。
「で、でも戦闘中に一々説明なんてしてらんないでしょ」
さすがに不味いと思ったのかリノアが補足すると、その言に思う所があったのかエレオノーラが押し黙ってしまった。
微妙な空気が2人に流れた所をぶち破ったのは目の前で苛ついているアルマースだった。
「たかだか1つ好機を見つけたくらいでもう勝ったつもりかテメェ等!!イラつくな……あぁ、いいぜ弱点でもなんでもねえから教えてやるよ。俺は全身を超硬度に硬質化出来る[異能者]だ!!だがよ、お前が思った通り眼玉と体内だけは硬質化出来ねえ、ほらこれで満足かよ」
自らの体質をネタバラシし尚且つその欠点まで伝えたアルマースにリノアとエレオノールは驚いたものの今は会話内における聞き慣れない単語に首を傾げた。
「まあ、貴方が戦闘狂っぽいのは何となく分かったけど、[異能者]って何よ?初めて聞く言葉なんだけど……」
リノアが問い掛けると苛立ちをに顔を歪ませながら口を開く。
「そんな事も知らねえのかよテメェはよ。だから鳥頭はムカつくぜ。まあそんな事俺が教えてやる義理はねえし、今から殺される奴が知る必要もねえよ」
バカにしながらクツクツと笑うアルマースにムッとしたリノアが反論する。
「そんな事言って自分の事なのに何も知らないだけなんじゃないの?貴方こそ頭の中には筋肉が詰まってるだけで思考力なんて無いんでしょ!」
元々単純なのか、リノアの言った通り脳味噌が筋肉に置き換わっているのかアルマースはすぐに頰を引き攣らせ怒鳴り散らす。
「クソがあぁああぁぁ!!あぁ、ムカつくぜ、雑魚が調子に乗りやがってよ。……もういい話は終わりだ、速攻で終わらせてやる!!」
言うや否やアルマースの全身が薄らと光を帯び始め、光が増す度に威圧感が加速度的に膨れ上がっていく。
軽口を叩いていたリノアとエレオノーラは威圧感に当てられ冷や汗をかきながら苦笑する。
「くぅッ、うぇぇ〜冗談キツイよ……これ以上強くなるなんて反則だよ。ちょっと怒らせ過ぎちゃったね」
「ッッッ ⁉︎さすが皇帝直属だけあってバケモノだな……だが、ありゃ何だ?魔力とはまた違った力を纏ってやがる」
「見た事無い力だけど、ヤバさはビシビシ伝わってるよ……あれが異能者って奴の特性なのかな。そろそろ………くるよ!!」
「ハアァァァァァァ…………冥土の土産だ。この姿を目に焼き付け、死ねッ!!」
空手の息吹に似た呼吸法で身体を仕上げたアルマースが2人に狙いを定め、踏み抜いた床を砕きながら突撃し再戦の火蓋を切る。
先程までの喧騒が嘘の様に今はパラパラと瓦礫の落下音だけが響いていた。
部屋は至る所が崩れて穴が広がり、今にも倒壊しそうな程荒れ果てていた。
そんなアルマースとの決着は短時間で終わった。
現在この部屋で立っている人物は唯一人。
その人物が全身だらりと脱力しながらも苛立ちを隠す事無くガシガシと頭を乱暴に掻き乱す。
「つまんねえ、つまんねえよテメェ等。折角久々の楽しめそうな戦闘だったってのによぉ、少し力入れただけで動かなくなりやがる。あぁァァぁァぁ、脆い脆い脆い脆い脆いぃぃいいぃぃぃ!!舐めてんのかぁ、オイ!!」
足元に転がる瀕死状態のリノアとエレオノーラを鈍い音と共に足蹴にして吹っ飛ばす。
苛立ちが収まらずズンズンと壁際に激突した2人を追うアルマースの唐突に頭にコツンと小石が投擲された。
「あん?誰だ、俺に舐めた真似しやがったクズは!!」
視線を階段に向けるとそこにはブルブル震えながら佇む檳榔子黒の髪に真紅の瞳を持つ吸血鬼族のウピルがおり、ボソボソと小声でアルマースに訴えかける。
「リ、リノア、さん、たちを、い、いじめない、で……」
「あぁん?聞こえねえよ羽虫が!!もっとデケェ声で喋れや!!」
アルマースの怒声にビクリと腰を抜かしそうになるが、涙を湛えた目にグッと力を込め必死に堪える。
「リ、リノア、さんたちを、い、いじめないで!」
「あ?なんだって?いじめるな?……ぷっ、ぷはッ!ハハハハハ!なんだそれは、何かの冗談かよ。笑わせるなよ羽虫がよォ!!」
不機嫌さを隠そうとせずズンズンとウピルの場所まで歩いて行こうとするが数歩進んだ所で足を止める。
「オイ………なんのつもりだテメェ」
視線を足元に向けるとハァハァと息を荒げながらアルマースの足を掴むリノアだった。
「は、ははは……そ、そんな、小さい子、に手を上げようと、ハァハァ、するなんて……小さい、男ね……」
ボヤける視界にアルマースを映しながら侮蔑に顔を歪ませ、嘲笑しながら注意を引くリノアの策に簡単に引っ掛かるものの、その手段が時間稼ぎにしかならない事は誰の目に見ても明らかで、その行動に他の妙案を模索する時間もある筈もなく……。
「調子に乗るなよクソ鳥がァァァァァァ!!」
青筋を浮かべたアルマースが踝を掴んでいるリノアごと足を振り上げ、そのまま彼女は壁に叩き付けられた。
「クソ共が!どうせこの場に居る全員皆殺しなんだ、早いか遅いかの違いでしかねぇんだよ屑共。オイ羽虫、テメェを最初に殺してやるよ」
ヒッと小さく息を呑むウピルに向かって歩行を再開するアルマースが目の前の少女を虫を潰す様に足を上げ、ニヤニヤと見下す様に笑っていると不意に背後から呼び止める声が響く。
「ヒャ、ウヒャヒャ、バカ者が、もうその辺でやめんか。お主は頭の中まで筋肉で埋まってしもうたか、ヒヒヒ」
口元だけ見えるローブを被り、嗄れた声の男がアルマースに声を掛ける。
「あん?誰だコラァ!!……チッ、なんでテメェがここにいんだよ!」
振り向いた先には普段から苦手意識のある男を視界に捉えてしまい不機嫌さを隠そうともしないアルマースが悪態を吐く。
それに対してローブの男はヘラヘラと笑いながらアルマースを小馬鹿にしながら話し始めた。
「ウヒャ、ヒ、ヒヒャヒャヒャ、お主の頭には地図も入っておらん所を見ると、ホントに脳味噌は筋肉に置き換わってしもうたみたいじゃな、フヒヒヒヒ。ワシの直近の任務はなんだと思おうとる、クヒヒ」
ピキッと青筋を浮かべ、バキィと上げていた足を地面に叩き付け床を砕く。
「うるせえぞガリュナー、殺すぞ!!テメェの戯言を聞きてえ訳じゃねえんだよ。俺は何しにここに来たのかって聞いてんだよ!」
ローブの男、ガリュナーは殺気が混ざり始めたアルマースも言葉にも気にした様子は無く、態度を変える事なく応対する。
「フヒ、フヒャ、フヒャヒャ、何を、じゃと?ヒヒヒ、そんなの答えは1つだけだろうよ、ヒヒ。お主がワシの大事な実験体を壊してしまう所だったので止めたまでよ、ヒャヒャヒャ。分かったらさっさとこの場より立ち去れぇぃ、ヒ、ヒヒ、フヒヒ」
「あぁん?テメェこそ何を言ってやがる!この場はアイツからの任務でここの全ての裁量権限は俺にあるんだよ!ガリュナー、テメェの出番なんてねぇしお呼びじゃねえんだから引っ込んでやがれ!!」
「ヒヒヒ、ヌヒャヒャー、お主は本当に頭が悪いのだな、ヒーヒッヒッヒ」
ガリュナーの終始小馬鹿にした物言いに顔中に血管を浮かび上がらせ目が充血したアルマースが遂に限界を超える。
「終わりだぜテメェ………死ねッッ!!」
床が爆ぜたと思った次の瞬間にはアルマースはガリュナーに拳を突き出していた。
空気が引き裂かれた様な音が鳴ったが、既にその場所にガリュナーは居らずアルマースの側面から嗄れた声で愉快そうに笑っていた。
「ヒョヒョヒョ、今のは危なかったぞぃ。頭が飛んでしまう所だったわい、ヒヒャヒャ。それとワシを殺してしまうのはオススメせんぞ〜。何故ならばここへは彼奴の承諾をもらっておるんだからな、ヒヒヒ」
ガリュナーの言葉にピクリと反応すると、未だに苛立っていたが幾分冷静になったアルマースが訝し気に射抜く。
「アイツが途中で任務管理者を変更しただと……?」
「そうだとも、なんなら今から彼奴に確認でもなんでもすりゃええぞぃ、クヒヒ。今からお主がワシを殺してしもうたらお主とてタダではすまんぞ〜どうするんじゃぁ?クヒャヒャ」
暫く睨み合いが続いたが、結局折れたのはアルマースだった。
「……チッ!わぁったよ、クソがッ!!好きにしろ!オイお前等帰るぞ。あぁ、最後にひとつテメェに聞くが……」
奴隷商館の包囲用に連れて来た部下達を引き連れ帰ろうとするが足を止め首だけをガリュナーに向ける。
「お前に指示した奴は誰だ?」
「彼奴は彼奴じゃろうて、こんな場で言うていいんかぁ?ヒャーヒャヒャ。試すにしてももうちょい頭を使った方が良いぞ、ゲヒャヒャヒャヒャヒャ」
ガリュナーの返答にピクリと眉を動かしたが、すぐに前を向き無言で部屋を後にする。
喧騒が去り静寂が空間を支配するが、それも一瞬で瓦解する。
嗄れた笑い声が部屋の中を反響する。
リノアとエレオノールは未だにピクリとも動かず意識も回復していない様子で、そんな彼女達をガリュナーは一瞥するだけですぐさま吸血鬼族のウピルの元までノソノソ歩いて行く。
近寄って来るガリュナーにビクッとウピルは身を縮こませるが、その姿に見兼ねた他の奴隷達がウピルを隠す様に前に立ち塞がった。
彼等彼女等も先程の暴力の化身の様なアルマースと比較して目の前の痩せ細った枯れ木の様なガリュナーなら勝てると踏んでの行動であった。
そんな彼等彼女等の動きを見たガリュナーは笑いながら拍手し始める。
「ヒョヒョヒョォォォ!素晴らしいぃぃぃ、子供を守る立派な大人の図かよ!理想的な図じゃ!良い!良いぃぃぃ!!……だがお主等は実験材料!所詮材料程度の存在!脳も腐って思考も停滞し、あまつさえワシに勝てると思うておるその意思……馬鹿を通り越して哀れみすら感じるてな。先程あのアルマースとの会話でも関係性に気付かなんだ、なんと愚かぁぁぁ、フヒヒヒヒ。あぁぁぁ健気ぇぇぇだ、だだ、け、けけ、健気、す過ぎて、てて、てたかたなててて、あが、が、ががぎぃがなやたたたた」
変なスイッチが入ったガリュナーのテンションが爆上がりしていたが、突如壊れたロボットの様にバグってしまい周囲の奴隷達はギョッとし後退りした。
「んん〜?あれ?やれやれ、どうも魔眼も少しは影響受けてんのかね……いや、コイツの耐性が他の奴等よりちょびっと高えのか?ふーむ、鑑定が使えねえから分かんねえな。しっかりしろポンコツロボ」
全員がガリュナーの壊れっぷりを凝視していると、突然何も無い所と認識していた場所から闇の靄が吹き出し、中から独り言を溢す漆黒の獅子人族風の男、リオンが姿を現した。
先程から色々な現象を見ている奴隷達は驚き過ぎて最早反応が薄くなりポカンと口を開けたまま固まってしまった。
そんな奴隷達をリオンは視界に入れる事無く部屋の端でぐったりと横になっているリノアとエレオノールの元に歩いて行く。
ここでウピルがリオンの事を再度2人に害を為す存在だと思いパタパタと覚束無い足取りでリノア達の前で手を広げ、リオンの前に立ち塞がる。
「リ、リノアさんたち、をどうする、つもり、ですか?」
プルプル震えるウピルを漸く視界に入れたリオンが興味深そうに屈み観察し始める。
(なんだコイツ……ぷっ、ぷはっ、クハハハ。プルプルしてて生まれたての仔羊かよ!面白えな。おん?ん〜?腰に翼が見える……コイツはリノアが言ってた吸血鬼族か?だが随分汚ねえなりしてんな、ふむ)
無言で観察され、質問にも応えないリオンに気圧されたウピルが徐々に涙目になっていくと漸く言葉が発せられる。
「吸血鬼族か?」
「はえっ?あっ、えっと、は、はい……あっ!?むぅぅぅ」
急に質問された事でプチパニックを起こし反射的に答えてしまい咄嗟に口を両手で隠し遅めの抵抗を試みるウピルだったが、リオンは答えを聞いて満足したのか既に視線は背後のリノア達に向いていた。
「このチビは後回しにしてと……コイツ等、あんな硬くなるだけの雑魚にボロ負けしやがって。早く起きろ阿保ども!!」
リオンが何も無い空間に手を突っ込んだと思ったら、そこからドス黒い液体が詰まったビンを2本取り出すと徐に2人にぶっ掛けた。
ウピルがビックリして心配そうに2人に視線を向けていると2人の状態変化に目を見開き固まってしまった。
リノアとエレオノールは一瞬前まで重傷を負っていて危険な状態であったのだが、身体が淡く光るのに合わせて見る見る内に全身の傷が治癒していった。
「な、なに、これ……ポーション、ですか?」
ポカンと呟いた声がリオンの耳に入ると視線をウピルに向ける。
再び空間に手を突っ込み1本取り出すと、今度は吸血鬼族の少女にリオン謹製ポーションを雑に頭からぶっ掛けた。
「リノアは……5、レーベは……3か?んでこのチビは1……か。種族的差異は出るかどうか、だが血液関係で吸血鬼族ときたか、クハハ、今後が楽しみだな」
独り言を溢しながら3人を観察するリオン。
そうしている間にリノア、エレオノール、ウピルの全身から発する光は収まり、「ん、ぅぅん」と唸り、現在も気絶中の2人は徐々に覚醒が始まる兆候が見られた。
その中で唯一意識があるウピルは自身の怪我の酷さも理解していただけあって我が身に起きた現象について意識的に理解が追い付いておらず再びポカンと口を開け固まってしまった。
しかし無意識下、否、意識以外のウピルを構成するモノ全てが理解し、感動に打ち震えていた。
その為彼女は必然的に、その両方のつぶらな真紅の瞳からボロボロと大粒の涙を流していた。
リオンがその姿を一瞥するものの、特に反応する事も無く、もうそろそろ起きそうなリノアを掴み上げると乱暴に揺さぶり始めた。
「オイ、そろそろ起きろ!目的を果たせバカが!」
グワングワンと頭を揺らし、ペシペシとビンタされているリノアがカッと目を覚ますと理不尽な痛みに叫び声を上げる。
「ッいったぁぁいぃぃぃ!え!?いたぁぁぁ、えッ!?リオン !?えッ!?と言うか何この状況ッ!?あのやたら硬い男はどこッ!?エレナは !?みんなは !?」
覚醒するや否や喚き始めたので、煩わしくなったリオンはポイっとリノアを捨てた。
床にお尻から着地したリノアが涙目で睨むがどこ吹く風のリオンは別の事について考え始めた。
リノアも抗議の意味が無い事だと気付くと隣で横たわっているエレオノールを起こしにかかった。
バタバタとリノアが動いた事で周囲の奴隷達もザワザワと喧騒が大きくなり、またある場所では未だに壊れたロボットの様にバグっているガリュナーがうわ言の様にブツブツと独り言ちていた。
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