第40話 奴隷商館強襲
四肢を引っ張られる感覚にゆっくりと目を開け、リオンは周囲をキョロキョロと伺い状況を確認するとため息を溢す。
(ハァ……やっと戻ったか。夢の中だからか全然時間経ってねえのか?やっぱ腐っても神か……)
(あっ、起きた〜?夢の中のリオンはとっても素直で良い子だったよね〜。こっちでももっと素直になってもいいと思うよ〜)
(そうだね〜、普段からあれくらい素直だととってもカワイイのにね〜もったいない)
(俺は元々素直な性格だ……。だが今考えてもあの状態異常はヤバイな。今後は何かしらの対策はしねえとな、アイツに素直に礼を言うとか鳥肌ものだからな、吐き気すらするわ!)
(わたしにも素直に感謝していいんだよ〜)
(わたしにもわたしにも〜)
オピスとルプがガイアだけズルいと喚き始めるのを無視し早急な対策を考えようとしていると外からこの部屋に近付いてくる1人の足音を捉えた事で一時思考を中断する。
(ふむ、いつもの奴等の足音じゃねえな……しかも1人か)
そんな事を考えているとガチャッと扉が開くとそこにはローブを羽織り、口元以外を覆い隠した男が立っていた。
(……ん?んん?ん〜?なんだコイツ、気持ち悪い男なんてお呼びじゃねえよ)
心の中で悪態を吐きながら既に興味を失ったリオンが顔を逸らし再び今後の対策を練ろうとすると男が唐突に嗄れた声で笑い始めたので煩わしそうにチラリと視線を向ける。
「クヒ、クヒヒ、ケヒャヒャヒャヒャ!素晴らしい!素晴らしいぞ!!よもやお主の様な者がこの様な稚拙な罠に引っ掛かってくれた事感謝するぞ!!」
話せないので再び心の中で悪態を吐きながら目の前で独り言を興奮気味に垂れ流す男を見ていると、その視線に気付いたのかニヤニヤしながら手が届く範囲まで近付くとリオンの視線と合わせる。
「ケヒャヒャ!おい、ワシを見ろ!!今後はワシの実験材料として大切に扱ってやろうぞ、クヒヒ。厄災などと大仰な事を言われとる様だが、所詮は獣の範疇を超えない愚鈍な存在だの、クヒ、ヒヒヒ」
リオンと視線を合わせた男の両目が怪しい紫色に染まり、一瞬ブルリとリオンが身体を震わせると次第に目の光が消えていき、遂にはガクリと意識を失った。
「クヒヒ、ヒャヒャヒャヒャー!精々ワシや皇帝陛下の役に立てよ獣よ!」
部屋の中では意識を失ったリオンの前で嗄れた声で高らかに男が笑い続けていた。
項垂れたリオンの口端が裂けんばかりに吊り上がっている事にも気付かぬまま……。
リオンとの念話を終えた天翼人族のリノアとギリアム帝国第三獣人部隊小隊長である変態騎士こと獅子人族のエレオノーラ・レーベの2人は夜まで宿で待機し、周囲が寝静まるのを待ってから奴隷商の館を強襲する事にした。
「そろそろ行こうエレナ。もう人通りも殆ど無くなったよ」
「あぁ、そうだな。あまり時間を掛けたくねえし行くか。それで?リノア、作戦とかはあるのか?」
リノアを発言を受け、同意しながら今後の動きを確認するエレオノーラは少ない時間ながらも一緒に行動しリオンに振り回された者同士という事も相俟って親密度が深まり砕けた話し方をする様になっていた。
「んー……作戦は……そうねぇ〜……えぇっと、あぁ〜……」
ギギギと視線を外すリノアにハァとため息を溢し呆れるエレオノーラ。
「ノープランかよ……そんなんじゃ強襲した所ですぐに捕まっちまうだろうがよ。まあいい、俺に考えがある。だが先ずは目標の建物を確認するぞ、そこで作戦を伝える。とりあえず今は移動しようぜ」
時間が惜しいと言いながらスタスタ先行するエレオノーラをリノアが慌てて追い掛ける。
数分程歩くと大通りに一際目立つ巨大な建物が見えてきた。
それを視認すると対面の細い路地の闇に身を隠し、改めて作戦会議を行うに当たっての前準備を開始する。
「俺は獣人族だからな、他の種族と違って感覚が鋭いからこんくらいの距離なら警備の配置なんかもある程度は把握できんだよ。今からちょっくら確認するからリノアは周囲の警戒をしてくれ」
リノアが頷くのを確認するとエレオノーラは奴隷商館の方を向き意識を集中させる。
5分程経った頃エレオノーラは振り返り背後にいるリノアに情報を共有していく。
「ここの造りは地上3階、地下1階の建物だ。先ずは1階だが入り口の門番に2人、中に入るとすぐの場所に交代要員の部屋があってここに4人。人数的に三交代制で入り口を警備してるな。2階には人の気配は感じねえ、3階は中央の部屋に2人……おそらく1人はこの奴隷商館の主だろうな。肝心の奴隷だが全員地下に入れられてるのは間違いねえと思うんだが、なんらかの対策がしてあんのか音が聞こえねえから判断出来ねぇな」
情報を一気に話すとそこで一度話を区切りリノアを見て反応を待つエレオノーラ。
「いくら真夜中だからと言ってこんなに警備兵が少ないものなの?」
素直に疑問に思った事をぶつけたリノアにエレオノーラも感じていたのか神妙な面持ちで頷いた。
「それは俺も感じていた……天翼人族なんて希少種族を囲っているとは思えねえ程の不用心っぷりで罠かと邪推しちまう。それか警報の魔道具が設置してあれば発報が近隣の詰所に連絡がいくから増援も短時間で来る。それなら態々館に居る必要はねえからな」
「まあ当然そういう結論になるよね。エレナの言う通りこれは罠だと思う。私達の事がバレたとは思いたくはないけど、ここまで来たら退く選択肢は無いから発報した時には増援が来る前に一気に地下に捕まっている人達を助けよう」
リノアの言葉を受け、了解の意味を込め頷き「最後にひとつだけ」と前置きしながら真っ直ぐリノアを見つめる。
「獅子神様もリノアに聞けと仰っていたが……なんで人族のお前がこんな危険を冒してまで天翼人族の奴隷に拘るんだ?買うんならまだしもよ、強襲なんてリスクを背負ってまでする必要があるのか?」
暫く時間が止まったかの様な沈黙が周囲を満たすが、ハァとため息を吐く音に再び時間が動き始める。
「確かに……ここまで巻き込んじゃって何も説明しないのはさすがにあんまりだね……。エレナが疑問に思うのも無理ないよね」
視線を泳がせ少し逡巡するものの、すぐにポツポツと話し出す。
「実はね……私は人族じゃなくて天翼人族なの……今はリオンの魔法で人族の姿になってるだけなんだよね。あそこに捕まっている天翼人族は私と同郷で私の大切な仲間であり家族なの」
話を聞かされたエレオノーラは予想はしていたのかあまり驚いてはいないみたいだが、それでもクンクンとリノアの匂いを確かめている。
「そう、だったのだな……大事な者達だろうなとは思っていたが、しかしお前からはいくら確かめても人族の匂いしかしないな。さすが獅子神様の力といった所か……」
「黙っていてごめんねエレナ……」
「まあ気にするな!お互い事情があるってこったろ!さぁ湿っぽい話はこれくらいにしてどうやって強襲するか俺の作戦を伝えるぞ!」
一際明るく話すエレオノーラに心を軽くしてもらったリノアがニコリと微笑むと作戦会議を再開する。
「まあ作戦と言っても俺は頭があまり良くねえから単純なもんだけどな。とりあえず地下の戦力は不明だが、それ以外での確認出来た警備兵数はそう多くねぇから正面突破の最短最速コースがいいな。時間を掛ける程俺達が不利になるだろうからな」
「……そうだね、裏口付近はなんか変な感じがするからエレナの案で行こう」
「了解!なら早速行くか!」
「……入り口の人達は私が片付けるよ」
「大丈夫か?」
少し震えながら話すリノアに優しく問い掛けるエレオノーラ。
「……えぇ、大丈夫よ。ありがとう」
真っ直ぐ見つめられたエレオノーラはフッと微笑んで頷いた。
「なら任せたぞリノア!」
路地裏から狙撃ポイントまで移動したリノアは入り口に立つ警備兵に弓で狙いを定めていた。
彼女が使用する弓矢には毒が付与されており、通常の人族であれば擦り傷ですら死に至る程の猛毒だ。
目を瞑り呼吸を整えながら精神統一していく。
(みんな待っててね、すぐに助け出してあげるから……)
目を開け何度か深呼吸を繰り返し、深く空気を取り込み、弓を引き絞ると息を止める。
緊張感がピンと周囲の空気を張り詰めさせるとリノアは弓矢を目標目掛け発射した。
1射目の後の残心をする事なく即座に2射目をもう1人に向け速射した。
村での守り人の経験もあり風魔法を使用した弓矢は音も無く標的まで行き、発射時間の誤差があったものの着弾は同タイミングで2つの目標の首に突き刺さり、声を上げる事なく絶命させた。
「……行こう」
それだけ言うとリノアは奴隷商館に歩いて行き、エレオノーラは無言で後に続いた。
不自然な事に入り口の鍵は掛かっておらずあっさりと入る事ができ、すぐの部屋の4人も1人残しサクッと片付け、捕縛した1人から地下への行き方を聞き出した。
地下への階段は隠される事なく奥の部屋に普通にあり、警報の魔道具も発見する事なくそのまま地下へと進むと1枚の鋼鉄製の扉が現れた。
そこを開けると中には長い通路があり、その両サイドには牢屋が片側10室並んでおり中には獣人など多種多様な種族が繋がれていた。
抵抗力を奪う為であろう、最低限の食事しか与えられていないのか皆一様に頬が痩せこけ瞳から光が消えかけている者ばかりだった。
しかし今のリノアはそんな事よりも気になる事があり、1番近くの牢屋に入れられている猫人族の少女に話し掛ける。
「そこの君!ここに天翼人族が捕まってると思うんだけど、どこにいるか知ってる?」
いきなり話しかけられビクリと怯えた様子の少女は顔を伏せ黙り込んでしまった。
焦ったリノアは再度声を掛けようと口を開く前に少女の親らしき人物が遮る。
「……貴女はここの人間じゃないの?」
「えぇ、違うわ。貴女はその子の親かな?驚かせてごめんなさい、でも時間が無いのよ。貴女、天翼人族がどこにいるか知ってる?」
「そう……。人族の貴女が天翼人族とどういった関係かは知らないけれど、害する存在でない事は理解出来るわ……彼女達は少し前に全員どこかに連れて行かれたわ」
場所までは分からないけれど、と付け加える。
リノアは歯を食いしばり俯くが背後からポンと手を添えられる。
「落ち着けリノア!今後悔をしても意味はねぇ、まだ終わった訳じゃねえ!連れて行かれた仲間を追うぞ!」
ハッとしたリノアはぎこちない笑みを溢す。
「そ、そうね、ごめん冷静じゃなかった。でも連れて行かれた場所が分からない……ねぇ、エレナの鼻でも追えない?」
「悪りぃな、天翼人族の匂いが分かんねえし奴等が何か撒いたのかここ周辺の匂いがごちゃごちゃしてて鼻がバカになっちまってんだよ」
エレオノーラの話を聞いたリノアが少し思案するとひとつの案が思い浮かぶ。
「天翼人族の匂いが分かれば追えるの?」
「ん?あ、あぁこっから離れりゃ匂いが混ざる事はねえだろうから追えるとは思うが、どうすんだ?」
「さっき言ったでしょ?私も天翼人族よ、だからリオンの魔法を解けば私の匂いで仲間を追える筈でしょ?」
「確かにそうだな……今でもリノアからは人族の匂いしかしねえから半信半疑なんだけどよ、それにリノアは獅子神様の魔法を解けんのか?」
疑念を覗かせた瞳で見るエレオノーラにリノアは胸を張り自信たっぷりと言い放つ。
「無理ね!」
エレオノーラは言うに及ばす状況を理解していない先程までヒソヒソと話し合っていた牢屋に居る奴隷達までも口を噤んだ。
チャラチャラと鎖の擦れる音と微かな息づかいだけが場に流れるが、その空気をエレオノーラが崩す。
「はっ?え?えっ?いやいやそれ威張って言う事じゃねえだろ!!無理ならどうしようもねえじゃねえか!」
呆れと少しの苛立ちをリノアに吐き出すエレオノーラだが当の本人はどこ吹く風といった態度で落ち着けと手を突き出していた。
「エレナこそ落ち着きなって〜。私達で無理なら掛けた張本人に解いて貰えば解決だよね」
「そ、れはそうだけどよ……どうやって獅子神様に連絡とんだよ」
「念じるんだよ!リオンならどっかでこの状況も見てそうだしきっと応じてくれる!」
ムムムと目を閉じ両手人差し指を顳顬に当て念じるリノアに呆れ顔をするエレオノーラだが、他に策も無いので仕方無いかとため息を溢しリノアを真似て念じる。
周囲の奴隷達は困惑していた。
突然現れた人族の少女と獅子人族の少女が思い思いに騒いだと思った次の瞬間には目を瞑り何かを念じているのだ。
顔を見合わせ声を掛けるべきか悩んでいると突然人族の少女、リノアは目を見開く。
「全然応答してくれないじゃーん!!リオーーーン!応えてよー!!」
ギョッとする奴隷達だが、同じくエレオノーラもギョッとし急いでリノアの口を塞ぐ。
「バ、バカかお前!そんな大声で叫ぶと見つかるぞ!!」
「もごご、もごもごご!!」
暫く口を塞いでいるとパシパシとエレオノーラの手を叩く涙目のリノア。
「やっと落ち着いたか……とりあえず獅子神様と連絡は取れないが、リノアの仲間が既にここに居ない事だけは確認が取れたんだからここに長居する意味はねえ、出るぞ!」
出ると言われリノアは周囲の奴隷達に視線を向ける。
助けを乞う者、絶望し既に諦めている者、既に壊れ目の焦点が合わない者、冷静に周囲を見ると様々な感情が渦巻き急速に口が乾いていき、辛うじて言葉を発しようとするもエレオノーラが機先を制する。
「無理だリノア、この檻を破壊する事だけなら可能だがコイツ等に施された奴隷紋を解呪する事は出来ねえ……それはお前も分かるだろ?」
リノアは口を何度も開閉するが、そこから音が出る事はなく力無く俯く。
(分かってる、分かってるよ、そんな事言われるまでもないよ。分かってる……私じゃこの人達を助けられない。本当に私は力不足だ……。リオンと出会って短い期間で少しは変わったと思っていたのに、守り人になった事で強くなった気になっていた頃の昔の自分と何も変わってない。リオンに鍛えてもらって少しはマシになったと思っていたけど、リオンが居ないとやっぱり私は全然ダメだなぁ)
無力感に苛まれ俯くリノアの気持ちを察知したかのタイミングで念話が飛ぶ。
(力が欲しいか)
今1番聞きたい声が突如頭に響きガバッと顔を上げると、驚き目を見開くエレナが視界に映りリノアは涙目のまま無意識に笑みを浮かべる。
「……リオン!」
(…………すぐバラすなよつまんねえな。ハァ、それで今はどんな状況だ?だいぶ面白くなってきたか?)
(何言ってるのよ、全然面白くなってないわよ!!私の仲間がどこか別の場所に連れて行かれたの、だからリオンには私に掛けた幻術を解いてほしいの!)
(へぇ〜。クハハ、何だよしっかり面白くなってんじゃねえか!解くのは構わねえが、用事はそれだけか?)
(リオンは何でもお見通しなんだね……。ねぇ、ここに捕まっている奴隷になってる人達も助けたいって言ったらリオンは手伝ってくれる?)
(ん?嫌だけど?なんでそんな奴等を俺が助けなきゃならねえんだ?俺に利はあんのか?可哀想だからとか同情で助けたいとかそんな下らない理由なら話は終わりだ)
当然の様に拒否し、助ける利を問われるリノアは暫し思考を巡らせ1つの利を提示する。
(……奪還した後、宝杖の使用許可ならリオンの利にもなるんじゃない?)
(なるほど、そう来たか。クハハハハ!確かにな、確かにそれは俺の利になると言えるな!)
(それなら、(早合点すんなよ!))
安堵の声音を途中で遮られ眉根を寄せる。
(リノアの言い分も最もだがな、そもそも何故俺が使用する為に誰かに許可を取らなきゃならねえんだよ!)
(えっ?)
言われた意味が理解できずリノアの思考が固まる。
(俺が帝国から宝杖を奪った後にすんなりお前に返却されると思ってんなら……リノア、お前の脳内はだいぶとお花畑だな。クハハハ、蝶々も飛んで嘸かし愉快なんだろうよ)
理解が浸透し、固まっていた思考が融解し羞恥や憤怒、悲哀など負の感情によってグチャグチャになったまま心情を吐露する。
(……なら、それならッ!どうすればいいのよ!今の私には何も無いのに……どうすればアナタはこの人達を助けてくれるのよ!!)
(獅子神様……私からもお願いします。ここの奴隷達を救いたいという思いはリノアと同じです)
途中から魔力パスが繋がっていたエレオノーラも感情的ではあるがリノアの援護をする。
しかしそれ等の訴えはリオンにとって面白味の無い、聞く価値も無いものだった。
故に答えも決まっているのだが、救いは意外な所から飛んでくる。
(自分から利益を提供出来ねえのが分かってんなら他から持って来いよ。それとレーベ、お前は……ん?……は?ふむ、いきなりお前等そっちサイドの味方しやがって、俺一人悪者じゃねえかよ……ハァ〜、おいリノア、今いる奴隷全員の種族を調べて教えろ)
(は?えっ?な、なんでそんなことを?)
(時間ねえんだろ?早くしろ)
有無を言わせぬ念話にリノアとエレオノーラは顔を見合わせるが仕方無しと行動し訳も分からず奴隷達の種族を聞き、リオンに伝えていく。
猫人族、犬人族、兎人族、羊人族、牛人族、エルフ族、人族及び前述種族のハーフ、凡そ30人。
(これで最後……っと、あれ?あと1人居るわ、リオンもう少し待ってて)
ここまでの報告でリオンが念話を返す事は無かった。
一番奥の牢屋の隅っこに隠れていた最後の1人を発見したリノアが人影に近付き、声を掛ける。
「おや?女の子?こんばんは。私の名前はリノア、貴女のお名前を教えてもらってもいいかな?」
膝を曲げ、目線を合わせ挨拶するがビクリと身体を震わせ女の子は更に縮こまってしまった。
「あらら……困った、どうしよう」
思案するリノアだが何かを思い付いたのかポンと手を合わせる。
(ねえリオン、私の幻術を先に解いてくれない?)
(あん?あぁ〜ほれ)
やけに素直に解除するリオンに驚いたリノアだが、すぐに彼女の身体からドロリと闇が崩れ落ちると中から黄金の様な輝きを放つ金髪に虹色の瞳、更にその背には純白に輝く翼がゆっくりと羽ばたきその場に居た全員の視線を独占し、魅了した。
リノアは解除前でも後でも変化は認識出来ないが他者からは劇的な変化を齎し、ここ最近行動を共にしているエレオノーラは事前に天翼人族だと聞いてはいたものの言葉だけではいまいち納得していなかったらしく、実際にリノアの姿を目の当たりにして目を見開き驚愕の表情を浮かべている。
(ん?エレナったら変な顔してるわね。そういえば以前リオンに幻術中の姿を聞いた事があったなぁ。リオンと同じ黒髪に黒眼……ふふ、そんな姿も私は好きだったなぁ)
リノアが思い出に浸り、エレオノーラ含め誰もが彼女に見惚れてる中、牢屋越しに座っていた少女がいち早く復活する。
「きれい〜……」
ポツリと紡がれた言葉にリノアもニコリと微笑む。
「ありがとう。もう怖がる必要はないわ、貴女も他のみんなも必ず私達が助けるからね。改めて私は天翼人族のリノアよ、よろしくね。貴女のお名前を教えてちょうだい」
改めて自己紹介をするリノアに隅っこの暗がりにいた少女はゆっくりとした足取りでリノアの前まで歩いてきた。
その姿に一瞬リノアが悲痛な表情を見せた。
「わ、わたしは、ウピル、です。……吸血鬼族、です」
弱々しく話す少女、ウピルは檳榔子黒を思わせる少し青みが加わった黒髪をお尻付近まで伸ばしており、くすんだ真紅の瞳に少し尖った耳をしている。
ウピルの腰からは小さい蝙蝠の翼の様な飛膜がピコピコ動いていた。
栄養失調気味なのか痩せ細っており、更に身体中には痣が目立ち、片翼に関しては付け根から折られていて吸血する為の犬歯は全て摘出されていた。
「そう、ウピルと言うのね……可愛い名前ね。もう大丈夫だからね。エレナ、ここの檻を全て壊せる?」
「おッ、おぉ、任せろ!」
今の今まで惚けていたエレオノーラだったが、リノアに声を掛けられハッと我に帰り、そそくさと檻を壊しにかかる。
エレオノーラが全ての檻を壊すまでの間リノアはウピルの頭を優しく撫でていた。
最初ビクついていたウピルも今ではすっかり落ち着きを取り戻し安心した顔を覗かせリノアを見つめていた。
(リノアさ〜ん、最後の1人はどうですか〜?)
(えッ!?リオンッ!?何その気持ち悪い喋り方……どうしちゃったの?)
(…………最後の奴の種族を言え)
(自分から話しておいて機嫌悪くならないでよ、もう……ふふふ。そうそう、最後の子は吸血鬼族よ)
(うるせぇ。しかし、吸血鬼……そうか。クフ、クハハ、クハハハハハ!運が良いなお前等!!)
不機嫌だった声が反転上機嫌な笑い声をリノアとエレオノーラに飛ばすリオン。
(それじゃここに居る人達も助けてくれるって事でいいの?)
(まあ構わねえが、話の続きはそこから脱出できてからだな。見えねえとさすがに解呪は無理だからな)
リオンの念話に少し違和感を覚えたものの、これ以上ここに留まる理由も無いのでリノアとエレオノーラは了承し、奴隷達を引き連れ上階へ続く階段を駆け上がる。
まさに登り切るのを待っていたかの様なタイミングで横から声が掛かる。
反応して身体を向けようとする前に声と同時にリノアとエレオノーラは凄まじい衝撃を受け壁際まで吹き飛ばされた。
「オイオイオイオイ、盗人どもが!生きてこっから出られると思うんじゃねえぞ!!あん?1匹は見た事あるツラだしもう1匹は金になりそうなナリしてるじゃねえか、ククク」
独り言の様に話す橙色の髪に同色の瞳を持つ男が好戦的な笑みを浮かべながらリノア達を見下ろしていた。
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