第49話 盤上の駒

 リオンが天翼人族達を里に送る為の準備をしていた期間、彼は初日だけ以前から宿泊していた[獅子王の牙]に泊まっていたものの、その後は宿に戻る事なく窮屈な擬態を解き森の中で天翼人族達と過ごしていた。

その頃同じくしてギリアム帝国帝都ノイルにとある一団が到着した。


「やっと着いたぁ〜。ずっと同じ体勢だったから疲れたよ〜」


 街に入った瞬間に気が抜けたのか、んーっと伸びをしながら口を開く栗色の髪に同色の瞳を持つ猫人族の女性。


「馬車よりはマシだが身体が凝り固まっちまうな……腹も減ったしまずは腹拵えしようぜ」


同様に腰を回しながら応える赤茶の髪に黒瞳の犬人族の女性。


「確かにミーヤとサバーカの言う通りですね。ですが馬車よりかなり時間短縮できましたし、やっぱり便利ですよね。これなら専属契約したいくらいです、帰ったら交渉してみてもいいかもしれません。それとご飯の前にまずは泊まる宿探しからです、コクウもそれでいいですね?」

「あぁ、俺もクルスの案に賛成だ」


 猫人族のミーヤと犬人族のサバーカに同意する白髪に紅瞳の兎人族のクルスに彼女の案に同意する黒と金の縞々の髪に金色の瞳を持つ虎人族のコクウの4人。


「じゃあさじゃあさ、リオン様が泊まってる場所にしようよ〜。早速会えるかもしれないじゃん」

「ハハハ、それは無理ですね……。事前に調べましたけどリオンさんが宿泊されている場所は帝都でも上位に位置する程の高級宿です。私達の資金力では手が届きません。泊まる宿の下調べはできてますからそこに向かいますよ」


 ミーヤがハイハイと元気良く挙手して提案するもクルスが乾いた笑いでバッサリと切り捨て、既に決めているという宿に強制的に向かう事になった。

宿泊場所に選んだのは店舗を持たない商人などが多く、より情報が集まる商人には有名な宿だった。

宿選びは毎回この様な宿なので今回も特に誰からも不満が出る事は無かった。

荷物を置くと早速今回の第一目標であるリオンに会う為に彼が宿泊しているという[獅子王の牙]に向かった。

結果としては会う事はできなかった、というか門前払いだった。

現在帝国内部では厄災ことリオンの話題は凄まじく、クルス以外にも宿に押し掛ける者など彼の行方を捜す者が多々居たのだ。

会えなかったのは残念ではあったが、ただそんな状況下なのでリオンの情報はあっさりと集まっていった。

拍子抜けだったが、この感じであればすぐに会えるだろうと楽観的に考えていたクルス達だったが2日、3日と時間が過ぎると徐々にその考えも変わり全員の表情も暗くなっていった。

というのも一向にリオンに会えない所か、ある一定期間の足取りを過ぎると急に情報の信憑性が怪しくなり、もはや噂話レベルで無駄足となる事が多くなっていった。

進捗が無いまま過ごして4日、クルス一行は疲れ切った顔で酒場に集まっていた。


「ハァ……時間は有限です、これ以上無駄に時間を浪費する訳にはいきません。なので現時点で集まっている情報をまとめてみましょう」


 クルスの発言を受けると全員頷き、今まで集まったリオンの情報を整理していく。


「先ずは帝国に来た所からだね。リオン様は道中盗賊に捕まっていた獣人族だけで構成された帝国軍人と商人を助けて入国したんだよね〜」

「その時リオンさんは側に人族の黒髪美女を従えていたと、名前はリノアとリオンさんが呼んでいたらしい。そのあと助けた帝国軍人の紹介で獅子王の牙に泊まった……その黒髪美女と共にな」

「その後は武闘大会に参加したが、予選で選手を大量に殺害した事によりルール違反となり失格となってしまう」


ミーヤ、サバーカ、コクウと得た情報を語っていき、最後にクルスが結ぶ。


「そしてそれから目撃情報が一切無くなりますね。宿に戻った形跡も無く、消息を完全に絶ってしまいましたね」


暫く沈黙が続き、不意にミーヤが哀しげ声でポツリと呟く。


「リオン様……もう、帝国には居ないのかな……」


 否定しようにも皆言葉が出せず周囲の喧騒がやけに大きく聞こえた。

悲壮感漂うこの場に陽気な馬鹿騒ぎが今は腹立たしく、苛立ちを隠せず今にも殴り込みに行きそうなサバーカをクルスが宥めていると付近の客からの会話に気になる内容が聞こえてきた。


「おい聞いたかあの話!」

「どの話だよ!あぁ、お前の大好きなアナベルに彼氏が居たって話かぁ?」

「ち、ちげえよ!!つうか、えっ?それマジなの?聞いてないんだけどッ!?その話詳しく!!」

「分かった分かった、そんな血走った目向けんな気持ち悪りいな!あとで話してやるから今はお前の話しが先だ、結局何の話だったんだ?」

「うるせえ!ぜってえ後で聞くからな!!」

「あぁ分かったっての、で?」

「チッ!まあいい、俺が話したかったのはこの前起きた奴隷商館襲撃事件とその後の話だよ」


 クルスもその話は情報収集する際に耳に入ってきており既知のモノだった。

しかしなぜ今これ程彼等の話が気になるのか自分にも分からなかった。

突然集中し始めたクルスにミーヤ達も自然と彼等の話に注力する。


「その事件がどうしたってんだ?確かありゃあ賊共による襲撃なんじゃなかったか?」

「チッチッチ、実はそうじゃないんだなぁ。ここだけの話だが、あの騒ぎには実は皇帝直属の近衛魔装兵と厄災が関わってるらしいんだよ!!」

「なんだって!?そりゃ本当か!?」

「あぁ、マジな話だ!夜中に閃光や爆発音が響いてたのは結構有名な話だろ?まあ詳細はさすがに分からねえが、そのあと偶々厄災に似た黒くてデカイ獅子の魔物を見た奴が居たんだよ」

「あ、あぁ、そのせいで目が覚めちまったくらいうるさかったからな……だけどそれだけで魔装兵と厄災の話にどうやったら結び付くんだ?」

「それはな……大きい声じゃ言えねえが後日俺自身でその場所に行ってみたんだよ。そしたらよ、騎士の連中が現場を封鎖してやがってよ。それでも何か手掛かりがねえもんかと色々見て回ってコレ等を見つけたんだよ」

「ん?これは……徽章と黒い毛、か?」

「その通りよ、徽章は調べてみたら魔装兵の副官が持ってる徽章でよ、この黒い毛は魔物の獣毛らしいが鍛冶屋のオヤジでも見た事もねえ素材らしい。しかもな、この素材……炉に焚べたり叩いたり斬ったり色々試したんだがビクともしねえ代物なんだよ!!まさに未知の素材!つまり厄災の素材だろうよ!」

「お、おい落ち着け、声がでけえよ!」

「おぉ悪りいな、つい興奮しちまった」

「いや構わねえが、確かに素材は本当に厄災のモノかどうかは怪しいが徽章はホンモノみてえだな。つうかそんなもん持ってるとお前も危ねえんじゃねえか?」

「あぁ、そうかもな。だが短期間で稼ぐには危険を冒さねえとならねえのさ!まあ徽章は素材が良いからちょちょいと溶かして売っ払っちまうさ、グハハハ!」

「まあ気いつけろよな。というか俺を巻き込むんじゃねえぞ!」

「わかってんよ」


 男達がひと段落したのか別の話に花を咲かせバカ笑いをしながら再び酒を飲み始めた。

その姿を横目に見ながらクルスは視線を戻し端的に意見を求める。


「今のどう思いますか?」

「確かにリオン様の毛は普通のナイフ程度じゃビクともしないからにゃ〜。でももしホントならその場所まで行ってみるのもいいかもにゃ〜」

「ミーヤ、お前飲み過ぎだ!だがその意見には賛成だ、早速明日にでも動こうぜ」

「俺も2人の意見に賛成だ。今は手掛かりも少ないしな」


 全員の意見を聞いたクルスも無言で頷くと自らの考えをまとめると口を開いた。


「皆さんの意見は分かりました。もちろん私も皆さんと同意見ですので早速明日全員で件の森に赴きましょう。しかし現場が帝国騎士団によって封鎖されているという事ですので、何か対策を講じなければなりませんね」

「そうだにゃ〜、とりあえず明日は朝に様子見だけして昼以降に本格的に作戦を立てるのはどうかにゃ〜にゅふふ」

「ハァ、アナタ少し飲み過ぎですよ。今水を頼むので今日はもう飲むのはやめて下さい。ただミーヤの意見はいいかもしれませんね、サバーカ達もそれでいいですか?」


 豪快に酒を煽りながら語るミーヤに呆れながらも作戦については同意するクルスが2人に確認を取る。


「あぁ、私は構わないよ」

「俺も問題無い、それでいこう」


同意を得られた事で満足気に頷いたクルスが話しを締める。


「では明日はその様にしましょう。そうと決まったのであれば、明日も早いのでそろそろ出ますか」


クルスの一言で酒宴はお開きになり、まだ飲むと抵抗していたミーヤをコクウが引き摺りながら酒場を後にした。

 翌日、夜が明け切らぬ時間帯にクルス一行は既に件の森の最外周地点に揃っていた。

一人だけ唸りながら頭を押さえているが、皆それには触れる事なく、気にせず慎重に中の様子を確認しながら森の中に入って行った。

暫く歩くと先頭のサバーカがピタリと止まり、スンスンと匂いを嗅いだり耳をピクピクしながら音を拾い周囲の状況を確認し始めた。


「何か見つかったの?」


ミーヤがサバーカの隣に立つと同様に周囲を探る。


「恐らく帝国騎士の連中だな、この先に30人はいるな」

「ん〜、あぁホントだワラワラ居るねえ。どうするのクルス〜」


ミーヤも感知したのか辟易した表情でクルスに判断を丸投げした。


「そうですねぇ……とりあえず周囲を見て中に入れる場所か様子を窺える場所を見つけましょうか」


 クルスの意見に同意した一同は騎士隊がワラワラいる場所を避け、グルリと一周してみるものの警備は厳重で中に入るのは無理そうだったので少し離れた場所で散開してリオンの痕跡を探し始めた。

数時間程経ったある時コクウがクルス達を呼び戻した。


「何か見つけたのか?」


 サバーカが疲れた表情で問い掛けるとコクウは無言で手のひらの上に乗った直径2cm程の球体を見せてきた。

サバーカはよく分からず首を傾げ、クルスは興味深そうに目をキラキラさせながら観察しており、ミーヤはスンスンと匂いを嗅いでハッとしてコクウを見ていた。

それぞれが何かを言う前にコクウが先手を打ち口を開く。


「これは家だ」


 言われた言葉に理解が追い付かないのか全員ポカンとした顔をするが、コクウの次の一言で各々異なった対応を取る。


「恐らくリオン殿がこれを作り出した」

「やっぱり!!これからリオン様の香りがするもん!!」

「マジか……リオンさんは何でこんなもん作ったんだ?」

「なるほど……そういう事ならコクウが持っているソレにも納得出来ますね……」


 コクウの発言に納得するクルスにミーヤとサバーカが首を傾げ、彼女が説明し始めた。


「来る前に地図を確認した所、前までここの中心部には既に使われていない厩舎があったらしいんですよ。ですが、今日見て回りましたがそんなモノどこにもありませんでしたよね?しかし騎士団が封鎖している中心部付近には他と土の色が違っていたり明らかに何かがあったと思しき陥没した地面、その大きさ、そしてコクウが持っている木造の球体にミーヤも感じたリオンさんの匂い……その情報を精査して推察すると少なくともリオンさんはこの場に居てその木造物を作り出したって事ですね。ただこれだけではリオンさんが現在どこに居るのかは分かりませんけどね」


 クルスの説明を聞いたミーヤ達は納得はするが彼女の言の通り、この場に居た可能性が高いという事だけで今現在の所在は不明だった。

結果他に足取りが掴めないまま街まで戻る事になった。

その後数日に渡って痕跡を探すものの事態が進展する事無く、徒労に終わる事になる。

リオンの新情報は無く、酒場の裏手で中年の男2人の惨殺死体が見つかったくらいだ。

そうなるとリオンは既に帝国には滞在しておらず他国に移ったと結論付けるクルス達一行が魔法国家リンドブルムに戻る為の旅支度をしていた。

すると突如帝国中に獣の咆哮と轟音が鳴り響き、建物の崩れる音、人々の絶叫が響き帝都中を混沌が包み込んでいく。



 時は遡りクルス達がギリアム帝国に到着する数時間程前に帝都ノイルの門を潜る2人組が居た。


「へぇ〜これが軍事国家かぁ、思ったより栄えてんだな。おっ、ありゃなんだ?行ってみようぜセッケル!」

「待てバカ!この後すぐに帝国に潜り込んでる奴等と情報の摺り合わせの予定があるだろうが!」


 セッケルと呼ばれた金髪細身で眼鏡を掛けた男、ルークスルドルフ王国第二騎士団副団長が軽い口調で同行者である男を叱るが、当人は全く気にしておらずそのまま目的の屋台に一直線に突撃していった。

その様子にも慣れているのかセッケルは眉根を寄せるだけでスタスタと男の後を追う。

既に串肉を買って頬張っていた男がセッケルに一本差し出した。


「セッケル、ほらお前も食えよ。案外イケるぞ!!」

「ハァ……スオン、これを食べたらすぐに向かうからな」

「おう!」


 スオンと呼ばれた筋肉質で金髪を短く刈り上げた男が豪快に笑いながら了承する。

彼こそがルークスルドルフ王国第二騎士団団長ドスオンブレその人であり、今回王の勅命により厄災の調査に来た者である。

セッケルとは幼馴染であり2人きりの時はお互い気安く接する仲である。

そんな彼等が早々に串肉を食べ終わると事前に言っていた通り間者と情報共有する為に指定された一軒の家に赴いた。

帝国の一般的な二階建ての民家にドスオンブレは特に気にした様子も無く勝手にズカズカと中に入っていった。

普通であれば不法侵入で色々な問題が起きそうだがセッケルも注意する所か特に気にする事無く後に続く。

中は誰も居らず家具なども中心に丸台があり2脚の椅子があるのみで生活感は皆無の場所だった。

キョロキョロと周囲を見回した2人は自分家の如き自然な動きで椅子に腰を下ろした。


「ルークスルドルフ王国第二騎士団団長ドスオンブレと副団長セッケルだ。早く出てこい!」


突如声を発したドスオンブレ。

それに合わせる様に前方から人の気配と物音がして奥からローブを目深に被り口元しか確認できない2人組が現れた。


「お待たせ致しました。先ず初めに、素顔を晒せない我々の非礼をお許し下さい。私は諜報部隊隊長スリャ、こっちは副隊長のアグリです」

「あぁ、それくらい別に構わねえよ。それで?俺等の確認はちゃんと取れたか?」


プラプラと手を振り気にしてないと行動でも示す。


「ありがとうございます。お二方とも問題無く王国第二騎士団長ドスオンブレ様と副団長セッケル様と確認が取れましてございます」

「そうか、なら早速情報共有してもらいてえところだがその前に……なんでお前等2人だけなんだ?残りは厄災に張り付いてんのか?」


ドスオンブレが指摘すると2人組の男がピクリと反応すると少し考え込んだ後話し始めた。


「……他の部下達は厄災の手によって殺されました。証拠は何ひとつございませんのでこれは推測、ですが!我々は確信しております!!アイツが!!アイツが部下達を殺したのだと!!」


 間諜として長年実績を積んできたスリャにとって部下達が次々殺され、あまつさえその手段や方法など何も分からないとあっては感情的になるのも仕方がないと思ったのかドスオンブレ達は口を挟む事はしない。


「お見苦しい所をお見せして申し訳ございません。そういった理由もあり現在では私とアグリの2名だけになってしまいました。増員など近況報告含めて先日王国に書簡を送りましたので後日返答を頂ける事でしょう」


 感情的になったのは一瞬の事で、スリャはすぐに普段通り抑揚の無い話し方に戻っていた。

ドスオンブレがセッケルにアイコンタクトを送ると軽く頷いたセッケルが口を開く。


「皆様の状況は理解しました。それではそろそろ厄災の情報を教えてくれますか?」

「かしこまりました。では先ずは奴の特徴、次に奴がここに来てから今までの内容をお伝えします」


 スリャが伝えた内容は街の住民であれば誰でも知っている情報から情報屋しか知り得ない情報、スリャの様な隠密諜報部隊だからこそ知り得た情報まで幅広く収集しており、話し終えた頃には先程街に着いたばかりのドスオンブレとセッケルが厄災の知識を補完に近付けるくらい十分なものだった。

その中には2人をも驚愕する内容も含まれていた。


「あの皇帝直属の魔装兵が厄災に殺されただと!?」

「はい。名前や姿までは確認できておりませんが武闘大会予選での厄災による大量虐殺事件の死亡者の1人という事は確実です」

「あの部隊の隊長は名前はおろか種族や性別、姿さえ不明だからな。どうやって調べ出したんだ?」

「いくら箝口令をしいても人の口に戸は立てられないと言いますからね。私から言えるのはこれくらいですね」


教えるつもりが無い様なので2人とも大人しく引き下がる。


「まあ唯一アルマースという男だけが近衛魔装兵と判明していますけどね……。それで、件の厄災は今どこにいるんですか?」

「それが近隣の森の一件以来姿が見えないので既に帝国には居ないのではと言われております」

「少し遅かったという事か……」


セッケルの質問に淀みなく返答するスリャに落胆する2人に待ったをかける。


「ドスオンブレ様、セッケル様、それは性急かと。普通はそう思うでしょうが、我々が調査した結果厄災がこの地に再び戻ってくる可能性が高いと出ております。なのでお二方には数日程この国に滞在して頂くのがよろしいかと思われます」

「ん?そうなのか?丁度良い!なら少しゆっくりして帝国の名物でも食っていくか!」

「おい、これは休暇じゃなく任務なんだぞ?しっかりしろ!」

「わぁってるよ。相変わらず堅苦しい男だなお前はよ。ふぅ、さてと、今聞きたい情報は聞けたからそろそろ行こうぜ。あぁあと、腹減ったしそこら辺ブラブラしようぜ」


ドスオンブレがガタッと席を立つとスタスタと歩いていった。

その姿に頭を押さえながらため息を吐くセッケルがスリャとアグリに視線を向ける。


「情報感謝する。また何かあればコンタクトを取る」

「はい。セッケル様もお気を付け下さい」


そのままセッケルも席を立ちドスオンブレの後を追い外に出て行った。

その時には家の中には誰も居なかった。

 セッケルが外に出るとドスオンブレが既に串肉を数本がっつきながら次の屋台に狙いを定め飛び出す所だった。

いつも通りの光景なのか慣れているのかセッケルは特に文句を言う事無く後に続く。

そうして数軒の屋台をハシゴして成果物を山の様に抱えたドスオンブレが中央広場のベンチに腰を下ろした。

ハグハグと食べ続けるドスオンブレの横に座ると漸くセッケルは口を開いた。


「お前にはどう見えた?」

「ん〜……そうだなぁ、物価も安定していて市井の状況は問題無さそうだな。人族以外の種族が居る事以外は住民の男女別年齢比もそこまで王国と変わらねえし家屋の質や価値の変動も普通だ。武器の奇妙な流入出は今の所十分に確認できてねえが恐らく直近で戦争する気はねえ」

「ふむ、私もほぼ同意見だな。ただひとつ気になる点がある」

「この国の皇帝か?」

「あぁそうだ。皇帝とは……王とはその国の顔だ。その者の顔を国民の殆どが知らない……いや違うな、誰一人として皇帝の顔が一致しないのは異常だ、更に国民はそれを疑問にすら思っていない。厄災とは関係無いかもしれないがもう少し調べてみてもいいかもしれないな。厄災に関しては勝手に帝国に戻ってくるみたいだしな」

「そうだな。まあ厄災が来るまではのんびりしてようぜ〜」


 言ったそばからサボる宣言のドスオンブレに無表情でスルーするセッケルは無言で立ち上がり事前に予約してある宿にスタスタ歩いて行き、その後ろからは慌てて追い掛けるドスオンブレの情けない姿があった。

しかし前を歩くセッケルは先程のドスオンブレの普段通りの洞察力を知っているので、サボっている風に見えても視野広く情勢を見ているので特に心配はしていなかった。

ただ自分が何もしないと本当にサボるのも知っているので少し塩対応をしたが口元には笑みが浮かんでいた。

 その後数日2人は別行動で情報を集めたり、時にはスリャ達と情報を摺り合わせたりと準備を進めていた。

そして帝国に到着して2週間程が過ぎた頃厄災に関しての情報にも新しいものが無く、なかなか現れない厄災に苛立ちが募り始め宿屋でダラダラと過ごしていた時、不意に大気が震える程の獣の咆哮が鳴り響き、それが崩壊の合図であるかの様に周辺では破壊音や人々の悲鳴が響き渡りドスオンブレ達は慌しく外に転がり出て破壊された街を前に呆然となった。

そしてその視線の先には情報で聞いた通りの厄災の姿があった。

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