第50話 顔合わせ
魔法国家リンドブルム。
この国は世界で最も優秀な人材が集まる場所として認知されており、その最たる理由は首都リーヴァに建設された国家の名前を冠したリンドブルム魔法学院であった。
他にも世界有数の大図書館や貴族街、大商会の拠点などがあり、その影響もあってか治安維持には国から多額の予算が支給されており騎士団は元より自警団にも手厚く支援されているので世界でも犯罪率が低い治安の良い国となっている。
また人的被害とは別の魔物災害に関しては冒険者ギルドが主に対処しており日々多くの依頼が場内を賑わせている。
今日も今日とて冒険者ギルド内は賑わいを見せている。
しかし今日は一部、2階にある一室だけは異様な雰囲気に包まれていた。
その室内はロの字に机が並んでいて現在12時の位置に男性と女性が2人座り、そこを起点に3時に5人1組、6時に5人1組、9時に2人1組、4人1組の計5組が座っていた
沈黙が続く室内に不意にコンコンとドアをノックする音が響く。
全員の視線がドアに向かい、その中の1人の男性が重々しく声を発する。
「入れ!」
「失礼致しますギルドマスター、依頼主であるリノアさんが到着しました」
声の主は加齢による白髪と無精髭を生やし、歴戦の戦士を思わせる力強く切れ長の目をした筋骨隆々の男、ギルドマスターのダバンだ。
彼の声を確認して姿を見せたのは肩辺りまで伸ばした髪を一本に結んだ狐人族の女性である受付嬢マリーとその後ろには説明にあった通り黒髪ロングに黒瞳を持つリノアが続いた。
「案内ありがとうマリー。アナタは仕事に戻っていいわ」
ギルドマスターの横を位置取る煌く金髪に垂れ目の碧眼、尖った耳を持つエルフの美女。
全受付嬢を束ねる副ギルドマスターのサーシャである。
彼女はマリーに労いの言葉をかける。
マリーは居座ろうとする思惑を看破され先手を打たれてしまい渋々了承すると部屋を後にした。
その際リノアに耳打ちをされたマリーはその言葉に息を吹き返した様に元気になりルンルンで退出した。
その姿にダバンとサーシャはため息を溢す。
「リノア殿、部下が失礼した」
「いえ、構いませんよ。ふふ、可愛らしい人ですね」
ダバンの言葉にリノアは可笑しそうに笑いながら対応すると部屋の中に入りサーシャの隣に着席した。
「では、全員揃った所でリノア殿も居るという事で先ずは自己紹介からしてもらおうか。右回りに簡単に挨拶してくれ」
ダバンの発言を受けガタリと3時の位置に座っていた5人組が立ち上がった。
「私はこの破邪の五剣のリーダーのダズだ!」
「僕は斥候のモーリス、よろしく」
「俺は近接なら何でもやるぜ!ガートランドだ!」
「ワシは魔術師のヴァンダレイじゃ」
「最後に私は回復や支援担当のラグエルンストと申します、よろしくお願いします」
私への自己紹介として始まったのできちんと記録しておかないとね。
先ずは破邪の五剣は男性のみで構成された5人組パーティ。
バランスも良く仲間同士信頼関係がしっかりとしている印象。
パーティランクはゴールド級でまだ若いながら堅実に依頼をこなすパーティ、まあおじいちゃんもいるけどね。
リーダーのダズさん、彼の武器はミスリル製の剣にバックラー。
モーリスさんはダガーを主軸の武器としながらも色々と小道具を持ってそう。
ガートランドさんは大楯のカイトシールドとモーニングスター、他にも短剣など予備武器も持っているみたい。
ヴァンダレイさんはこのパーティ最年長、白髪と白い髭を伸ばしたおじいちゃん。先端に鈍く光る水晶が付いたスタッフに付与魔法が施されているローブを着用していた。
ラグエルンストさんは神官さんかな?法衣の様な姿にメイスを持っている。
本人の説明通り後衛のヒーラーかな。
全員人族のパーティだ。
1組終わり次の組の人達が立ち上がったけど……真ん中の男性だけふんぞり返って立とうともしない、なんで?
「俺はコルテス・ドートワイト様だ!下賤な貴様等は俺の為に命を掛ける事を許そう!!ハハハハ!光栄に思うがいい!!」
「素晴らしいお言葉ありがとうございます坊ちゃん。私はクロックスと申します。以後お見知り置き下さい。パーティ名は……特にありませんね。強いて名乗るのであれば"コルテス様親衛隊"でしょうかね」
「ハハハハハ、それは良いな爺!」
「ありがとうございます坊ちゃん」
なんか2人だけで盛り上がってるけど、これが貴族なのかな?
初めて見たけど貴族ってみんなこんな感じなのかな?
実力もなさそうだけどホントにゴールド級なの?
あとで聞こっと。
「はーい、そんなくだらない名前の一員でザイナとコイツがナスト、ソイツがカルナだ。まあ仲良くしてくれや」
「おい貴様!!俺の下僕のくせになんだその口の利き方は!!」
「あぁ、はいはい、すんませんねぇ〜。あっ、次の方どうぞ〜」
「なッッ!?」
仲間っぽくないやりとりだな。このパーティは大丈夫かなぁ。
感覚としては貴族が傭兵を雇って参加してるって印象だけど……ホントにパーティランクは目標に達してるのかな?
傭兵さんが強いだけかも……。
それも含めて後で確認してみよ。
まあ貴族っぽい人はある程度鍛えられた身体はしてるし剣も鞘や装飾は金ピカで悪趣味だけど物自体はなかなかの逸品みたいだし意外と戦えるのかもね。
クロックスさんは本当に執事って感じの服装だ。
服の中に何種類か暗器などの武器を仕込んでるみたいね。
ザイナさん、ナストさん、カルナさんは全員同様の皮鎧を着てバスターソードを持っている。
バランスが悪いパーティだけど大丈夫かな?
この組も全員人族だ。
「次は私達だね!私はフリストフォル、彼女はダリアだ。他に仲間が2人居るが今は別行動中でな、後ほど紹介しよう。ちなみにパーティ名は精霊乃燈だ」
「ダリアです。よろしくお願いします」
男性と女性の2人組かと思ったら他にも仲間がいるらしい。
ちょっと気になるからこっちも後で聞いてみよう。
ちなみに2人はエルフ族だ。
パーティ名もエルフって感じだなぁ。
お仲間も亜人なのかな?
次が最後の人達……どうかな?
「では最後は私達黒獅子ですね。私はこのチームのリーダーのイヴです。よろしくお願いします」
「私はエリーゼで〜す、よろしくね〜」
「僕はフェルトです。よろしくお願いします」
「リヴァイスだ、よろしく頼む」
「黒獅子の皆さん、私の我が儘を聞いて下さってありがとうございます。期待、してますね」
これで全員の自己紹介は終わりですねぇ。
なんで私が黒獅子の方だけ言葉をかけたか?
それは指名したってのが最たる理由ですけど、他にもひとつ理由があるんだな。
それは……なぜかこの部屋に入った瞬間から黒獅子のリーダーのイヴさんが私の事をずーっと睨んでるからなのよねぇ。
正直怖いから少しでも和やかな雰囲気になればと満面の笑顔で対応したけど最後に言葉がつっかえちゃったけど、上手くいった……と思う。
あ、ギルマスのおじいちゃんが話し始めた。
「自己紹介が済んだ所で今回の依頼内容を再確認しておくぞ。内容はここから数刻行った所にあるクティノスダンジョン内の未確認の魔物調査だ。リノア殿もこの内容で相違無いか?」
「そうですね、問題ありません。出来れば最奥まで確認していただきたいですが、無理をして進む必要はありません。危険かもしれませんからねぇ」
リノアの言葉にイヴがピクリと反応するがそれに気付く者は居なかった。
「では質問が無ければこれでこの場は解散する。馬車は既に手配済で明日直ぐにでも出立できる」
ギルドマスターのダバンが話を締めようとすると各組のリーダーが全員手を挙げる。
1組は執事が手を挙げた。
「それでは先ずは私達から質問させてもらおう。質問は3つだ。先ず1つ目、未確認の魔物の容姿または能力は?2つ目、ダンジョンが変質しているかどうか。最後3つ目は調査と言うが可能なら討伐しても構わないかと未確認魔物のギルド登録における報奨金の権利についてだ」
破邪の五剣のリーダーであるダズさんから質問を受けたが所々内容が理解できなかったのでギルマスのおじいちゃんが教えてくれた。
それを受け質問に答えていく。
「そうですねぇ、1つ目の質問については詳細な能力は不明ですが、容姿は二足獣です。それ以外は申し訳ありませんが洞窟内で暗かったので不明です。2つ目の質問に関してはクティノスダンジョン内の既存の魔物も少し変質している事を鑑みるとダンジョン自体も少なからず変質していると考えていいと思います。最後の質問に関しては最初に発見した方に全てお譲りしますよ、もちろん発見者が生きた状態である事が絶対条件ですけどね。ダズさん、こんな返答でよろしいですか?」
「あぁ問題無い、ありがとう。しかし既存の魔物も変質しているとなると厄介だね」
「ある程度のイレギュラーに対応できる様にこの後少し準備する時間が必要じゃな」
ダズさんの言葉に最年長のヴァンダレイさんが提案し1組を除いて他の組も頷いていた。
「では他に質問ある者」
ギルドマスターが促すと黒獅子と精霊乃燈は手を下げるが貴族チームの執事が手を挙げたまま周囲を確認し自分だけだと判断すると口を開く。
「それでは私から。最もこれは質問では無いのですが、ダンジョン前に休憩所の設置は私達に任せて頂けますか?」
「まあそれは構わねえよ」
ヴァンダレイさんの言いたい事がいまいち理解出来なかった私が疑問に思ってるとギルマスのおじいちゃんは分かってたのか直ぐに了承してた。
あっ、おじいちゃんが締めようとしてる。
質問しなくちゃ。
「すみません、私からも何点かいいですか?」
「ん?リノア殿、なんでしょうか?」
「えーと、精霊乃燈の方々に伺います。……他の方が今不在との事ですが、もしや斥候でダンジョンに行ってたりしますか?えっ?そうなの?あっ、ゴホン、失礼。それで?どうなんですか?」
「……仮にそれが事実だとしたらアナタは私達をどうしますか?」
フリストフォルが動揺を押し殺し平静を装ってリノアに話を振るがこの場の何人かには既に見抜かれているが誰も口を開けずにリノアの返答を待った。
そんな注目を浴びているとも知らないリノアは呑気な顔で少し考える素振りをするとフリストフォルとダリアに視線を向ける。
「んー?別にどうもしませんよ?ただの確認ですよ、普通こんなタイミングで不在なのは事前に調査してるとかそんな理由だと思ったからなので。でも調査ならもう少し早めに切り上げて今日のこの場に間に合わせる方がいいと思うよ?」
慣れない敬語に徐々に素が出てくるリノアの言葉に精霊乃燈の2人は無言のまま暫くリノアの顔を見ると何かに納得したのか表情を緩めると再び口を開いた。
「確かに嘘は言っていない様だ。それとリノア殿がご指摘した通り私達の残りの仲間にはダンジョン付近の調査をさせていた。しかし本当であれば昨日には戻る予定だったのだが、昨日の定時連絡の際にもう少し残ると言われ仕方なくこの場には私達2人で参加する事になったのだ」
「ふむふむ、そうだったんだね。……まあダンジョン内に入らなければ大丈夫かな」
「ん?なんだって?」
「あぁこっちのはなし。この話は解決〜、さてあと一点は黒獅子のみなさんだけに話すよ」
「はぁ?オイ貴様!それはどういうーーー」
「あっ、勘違いしないでね。黒獅子のみなさんへの話は今回の依頼とは全然関係無いからね。私が黒獅子のみなさんのふぁんだから個人的に話してみたいなぁって思ってね」
コルテス・ドートワイトの会話を遮りリノアが補足をすると殆どの人が納得したのでこの場はお開きとなり破邪の五剣は必要品の買い出しを行う為に話し合いながら退出、貴族チームは渋々退出、精霊乃燈の2人は不思議な魔力を放ち満足すると退出、部屋には黒獅子の面々と何故かギルマスと副ギルマスが依然として着席したままだ。
その事に困惑したリノアがおずおずと話し掛ける。
「あの〜なぜお二方はまだこの場に?」
「あぁ私達の事はお気になさらず」
副ギルドマスターのサーシャがニコニコと意地でも退かないと意思表示したのでリノアはため息を溢すと2人を追い出すのを諦め黒獅子の面々に向き直り座った。
改めて何を話そうかと考えていると対面から先に声がした。
「リノアさんはとても綺麗な黒髪と目をしてらっしゃいますねぇ。それは染めてますか?それとも自前でしょうか?」
声の主に視線を向けると終始睨みをきかせていたイヴが笑顔で接してきていた。
その光景の異常さに気付かなかった者は質問を受けた当事者だけだった。
そんな鈍感な黒髪美女のリノアはイヴが笑顔で対応してくれた事が嬉しかったのか表情の機微などには全く気付かなかった。
「あら、ありがとう。これは〜えーと……染めてるの。瞳の色は天然物だけどね」
「そうなんですね。この国もそうですけど、近隣諸国でも黒髪、黒目は珍しいものですから気になってしまいました」
「そうなんだ。だからジロジロと見られてたのかな?」
「それもありますが、単純にリノアさんが綺麗だから見惚れていただけではないですか?」
「そ、そんな事無いと思うけど……」
褒められ照れながらも満更でもない様子のリノアにイヴが追撃する。
「あぁでも私はアナタ以外にも1人だけ知ってるんですよね。黒髪で黒瞳を持つ男性を、リノアさんのお知り合いだったりするんですかね?」
「そう……なんですね。……村に黒髪黒目は私1人だけでしたねぇ」
突然自分の既知の情報をイヴから叩き込まれリノアの動揺は隠し切れず思わず敬語で話してしまう。
ニコニコの笑顔で冷静に観察するイヴと動揺で冷や汗を流すリノアの間に暫く沈黙が支配し、場を凍らせる。
リノアがどうやってこの場を抜け出すかと頭をフル回転させているが、それは杞憂に終わる。
「そうなんですね。私の勘違いだったみたいですね、すみません突然変な事を聞いてしまって」
「い、いえ、気にしてませんよ。珍しい髪色なので勘違いするのも無理はないと思いますよ」
場の緊張が一気に弛緩すると、その後は何事も無かったかの様に雑談を暫くしてイヴ達も準備をするという事で解散となった。
一階に降りて黒獅子の面々を送り出し、ギルマス達も解散したリノアは一気に脱力した。
(危なかったぁぁぁぁ。もう少しでバレる所だったよー!!さすが私!!もしかして私潜入調査とか向いてる?フフフ、あぁ私は自分の才能が怖い!!)
危機を乗り切れたと感じて有頂天になっているリノアは次の瞬間冷水を頭からぶっ掛けられ、鼻っ柱をへし折られる。
(バカかテメェ、あの場の全員にバレてただろうが。お前に諜報活動任せるくらいならそこら辺のスラムのガキの方がよっぽど役に立つだろうよ。しかもあのエルフ2匹も精霊の目を放っていきやがったからなぁ。清廉潔白なのは物語の中だけだな)
(リ、リオンッ!?聞いてたのッ!?って今の話ホントッ!?全員にバレてたのッ!?えっ?え?ウソだよね?それに精霊魔法?あの不思議な魔力がそれだったんだぁ)
(ハァ……まあお前のおめでたい思考は一生治らねえだろうな。だがとりあえずバレたのは別に何の問題もねえ、そもそもお前がアホみたいに動揺する前からイヴにはバレてた、というか俺が事前にメッセージ組み込んでたからそれに気付いたんだろうよ。さて、リノアの仕事はこれで終わりだ、暫くそこでアイツ等と飯でも食って休んでろ。金はウピルに渡してある)
リオンから色々ネタバラシされ呆然となるリノアのズボンの裾を引っ張られる感覚に自然と頭がカクンと下を向くとウピルが心配そうに見つめていた。
「リノアさん、だ、だいじょうぶ?」
「ッッッ!!大丈夫だよぉウピルちゃーん!!」
リノアの最近の癒しNo.1であるウピルの言葉に感極まったのかガッチリと抱き締める。
「わっ、わわ。リ、リノアさん、どうしたの?」
「何でもない、何でもないよぉぉ」
突然の事で混乱するウピルだったが、最近よくある事だったので直ぐに抵抗を諦めリノアの好きにさせる事にした。
ウピル自身もリノアが抱きついて来るのは嫌では無く、寧ろ安心するので大好きだった。
「お前等、そういう事はもっと端っこでやれよな」
暫くするとすぐ近くから呆れた声が2人の耳に届く。
「ん?なぁにエレナ、アナタも混ざりたいの?」
「んな訳ねえだろ!ハァ、もういい早くこっち来い。いつまでもそんなバカな事してんじゃねぇ!」
「はいはい、もう仕方ないわねぇ。ほらウピルちゃんも行こう」
「は、はい」
漸くいつもの調子を取り戻したリノアがエレオノーラに引っ張られ冒険者ギルドと隣接している酒場のテーブルに着席する。
テーブルには既に料理が並べられており、リノアに解放されたウピルは食べ途中だったレアステーキを再び食べ始めた。
リノアも料理と飲み物を頼み、そういえばとリオンに確認を取る。
(ねぇリオン、ダンジョン付近に冒険者が2人斥候に行ってるらしいんだけど何か知らない?)
(ん?……アイツ等盗賊じゃなかったんだな。リノアの言ってる奴かどうかは知らねえがダンジョン近くをチョロチョロしてた2人組なら居たなぁ)
(……もしかして殺しちゃったの?)
(いや殺してはねえよ。少し忙しかったから吹っ飛ばしただけだ。だから死んでねえ、多分)
(そう……。一応その人達エルフを中心に活動してる精霊乃燈って4人組パーティなんだよねぇ)
(マジか……だがあれがゴールド級?それにして……いや、そう考えるのは早計か、チームだもんな。良し!俺はまた少し用事ができた!宿諸々はウピルに聞け!)
いつも通り一方的に話すと念話を切っていった。
「……最近リオンのウピルちゃんへの信頼感凄くない?どうなってんの?私達の事ぞんざいに扱いすぎじゃない?」
リノアが不満を漏らすと対面に座っていたウピルがカチャンとナイフとフォークを落とす。
「ひゃぅ、ご、ごめんなさい」
「あっ!ち、ちがうの!ウピルちゃんのせいじゃないのよ!!ほ、ほらエレナ!アナタからも何か言ってあげて!」
「いやまあ、俺も獅子神様からの信頼は低いからなぁ。だけどまあウピルのせいではねえからそんな怯えんなよ」
2人の懸命な説得によりある程度落ち着きを取り戻し、少し怯えながら再びレアステーキをはぐはぐ食べ始めたウピルに安堵の息を吐くと、仕事から解放されたのでリオンが帰ってくる間どこで遊ぶかなどの相談を始めるのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[マリーの独白]
今日はダンジョン調査依頼開始日前日の依頼主と冒険者達の顔合わせと内容の最終摺り合わせだ。
調査に参加する冒険者はイヴ達の黒獅子を含め4組だ。
朝の業務をこなしていると徐々に集まり始めていたのでサーシャさんに説明して早々に2階の打ち合わせ部屋に移動してもらった。
イヴとはいつも通り一緒に来たので、彼女は依頼書を確認したり朝食を取ったりとまったり過ごしていたが彼女のパーティメンバーも集まった事で部屋に移動してもらった。
そして間もなく予定時間が迫ってきたその時冒険者ギルドの扉が開いた。
入ってきたのはこの地方では珍しい黒髪と黒目の美女、リノアさんだ。
女の私でも綺麗だと思っちゃうな。
まあ可愛さも兼ね備えたイヴの方がいいけどね。
ただ今日はリノアさんだけでなく左側には先日も見た獅子人族の女性、右側にはイヴ並みに小さく可愛らしい女の子が小動物みたいにプルプル震えながら周囲をキョロキョロ観察していた、可愛い。
檳榔子黒の黒髪に血の様に紅い瞳。
それに不思議な香りがするわね、しかもあの耳……ハーフかしら。
そんな事を考えているとリノアさんに話しかけられたので思考を中断し2階までご案内。
獅子人族の女性と女の子はお留守番みたいね。
内容が気になるのでちゃっかり居座ろうとしたらサーシャさんに機先を制されて撃退されちゃいました。
けどしょんぼりしている私にリノアさんが後で内容を教えてくれると耳打ちしてくれたので気分も戻りルンルンで持ち場に戻ったわ。
戻った私はいつも通りしっかりと仕事をこなしていた。
暫くして書類から顔を上げると隣接する酒場に獅子人族の女性と可愛い女の子が食事をしてた。
女の子の顔と同じくらいの分厚いステーキ肉を2人とも食べていた。
可愛い女の子は、はぐはぐと一生懸命食べていた、うん、可愛い、元気出る。
打ち合わせは話が長引く事は無く数十分程で冒険者のみなさんが降りてきました。
貴族の坊ちゃんだけは何故か喚いていたけど、ホントにあの人も行くのかな?
変な事しなきゃいいけどな。
それにしても、イヴ遅いなぁ。
私がそんな事を考えていると他の冒険者達に遅れイヴ達も出てきた。
私がイヴを見ていると彼女もこっちに気付いたみたいで笑顔で応えてくれた、可愛い。
イヴ達はそのまま準備の為に冒険者ギルドを出て行っちゃった。
今度はリノアさんを見るとさっきの可愛い女の子を抱き締めていた、尊い。
すると以前と同じまたリオンさんの匂いがリノアさんから漂ってきた。
私が暫く観察していると呆れた様子の獅子人族の女性がリノアさんを引き摺っていって、テーブルに3人座った。
そしてまた可愛い女の子がステーキをもぐもぐ食べ始めた、うん!可愛い。
更に観察すると今度は3人からリオンさんの匂いが漂ってきた。
これってもしかして念話かしら?
でも念話で相手の匂いがするなんて聞いた事ないわよ。
でも会話もしてないのに3人の顔色が変わるのはおかしいわ。
ほらあの可愛い女の子だってプルプル震えてる、えっ、可愛い。
いけないいけない。
とりあえずもう少しで上がれるから、リノアさん達の所に行ってみよう。
打ち合わせ内容も聞かせてもらわないとね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[調査準備]
遂にこの日がやってきた。
リオンに繋がる存在、その存在と対面する日。
その日私はいつも通りマリーさんと共に冒険者ギルドに行き、私は時間まで落ち着かなかったので依頼ボードを見たり朝食を済ませたりとギルド内を徘徊していると恐らく同依頼の冒険者さんであろう人達がマリーさんに連れられ2階に上がっていった。
暫くすると
「おはよう〜イヴー!待った〜?」
元気良く私の名前を呼ぶ声に振り向くとそこには学院の友達でもあるエリーゼさんとフェルトさん、あとおまけにリヴァイスさんが居た。
「いえ、待ってませんよ。おはようございますエリーゼさん、フェルトさん、リヴァイスさん」
「おはようイヴ」
「うむ」
「じゃあ揃ったし行こっか〜」
エリーゼさんに言われ私達はマリーさんの元に行き2階の打ち合わせ部屋に入る。
中には3組の冒険者さんとギルドマスターのダバンさんと副ギルドマスターのサーシャさんが既に着席していたので余っている席に私達も着席する。
残り1人……私が今2番目に会いたい人物。
どんな人物なのだろうと考えていると扉をノックする音に釣られ視線を向けると漸く会う事が出来た。
あぁ……やっぱり間違ってなかった。
でもなんで……。
その後の事は良く覚えてない。
所々何かの単語で反応したり無意識に手を挙げた気もするけど心ここに在らずって感じだったな。
こんな感情がぐちゃぐちゃしたのは久しぶりだなぁ。
どうしてこうなったのか、なんでこうなったのか。
私のせいなのかな。
でも……今回は会って聞けるよね。
全部。
意識が外に向いたのはエリーゼさんが突いてきたからだったけど、威力が強過ぎて穴が空くかと思った。
激痛に何とか声を殺し叫ぶ事は無かったけど、後でエリーゼさんには文句を言う、絶対。
今話している会話を汲み取るとどうやら私達黒獅子とリノアさんとで対話を望んでいるみたい。
良い機会だから少し試してみようかな。
結論から言うと……完全に黒だった。
だけどそれ以外はよく分からなかったなぁ。
隠す気はあるんだろうけど、バレバレで私でも分かるくらいだからそこら辺は口止めも特にされていないのかもしれない。
でも自分の意思でリオンの名を口にしないと言う事はそれなりの付き合いという事なのかな。
分からないけど、これ以上は触れるのは危険な気がする。
首の後ろがチリチリする。
諦めるしかないね。
その後結局何も進展しないまま解散する事になって今はダンジョン調査の為のお買い物中。
当然先程のエリーゼさんの突きの件を追求したがすぐに話題を逸らされちゃった。
「そ、そういえばイヴ、なんで打ち合わせ中ずっとリノアさんの事睨んでたの〜?綺麗すぎて嫉妬でもしちゃった〜?確かにエルフの私から見ても、かの法国に居るっていう聖女なんじゃないかってくらい人族の中じゃ綺麗だと思うけどね〜」
「えっ?私ずっと睨んでました?笑顔で接していたと思うんですけど……」
私の言葉が予想外だったのかエリーゼさんだけでなくフェルトさんやゴリラさんまでビックリしてる、失礼しちゃいます。
「アハハハハ、イヴそれ本気で言ってるの〜?全体では終始睨みをきかせて他の冒険者が出てった後は不気味な笑顔で脅してたよ〜。リノアさんになんか恨みがあるのかと思っちゃったよ〜」
「恨みなんてありませんよ。ただ考え事をしていてそこら辺は記憶にありませんね。あと1つ訂正しときますがリノアさんは人族ではありませんよ、恐らく亜人でしょう」
「えッ!?それホントッ!?」
あっ、エリーゼさんのいつもの間延びした話し方がビックリし過ぎて忘れてる。
フェルトさんもゴリラさんも驚いてる。
そりゃそうか。
あの幻術……いや擬態?
人化って事は無いと思うけどリオンなら何でもありだなぁ、ふふ。
「本当ですよ。それと今の話とは関係ありませんが今回の依頼は何があっても私は最奥に行きます、絶対に、です!!」
「ハァ、分かったわよ〜。もちろん私達も付き合うからね〜。ねっ?フェルト、ゴリラさん」
「まあイヴの頑固さはよく知ってるからね、僕も最後まで付き合うよ」
「エリーゼ、俺はリヴァイスだ。まあお主等を抑える者がおらんと大変だからな」
優しい友が側に居て私は幸せ者だ。
あと1人、私には必要。
絶対に諦めない。
待っててね。
リオン……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます