第6話 邂逅
最初の盗賊狩りから早1ヶ月近く経った。
ポカポカ陽気の昼下がり、自称獅子と愉快な仲間達は屹立する木々を薙ぎ倒し日向ぼっこをしながらここ最近の行動を振り返っていた。
あれから殆ど毎日空から盗賊を捜して奇襲狩りをしてはお宝を強奪する、盗賊から盗賊を繰り返していた。
まさにジャイアニズム精神の様相を呈していた。
日々の日課になりつつある狩りの獲物の内、数多の盗賊を狩っていくと身体能力が次第に変化し始めた事を感じ取った。
数値化はされないもののレベルを上げれば各種能力値が上昇するのを感じる様になった。
前世ですら物理的な力が無ければ簡単に死ぬ世界だったのだ、文明が劣る今世では倫理観なんてグチャグチャだろうし生き物の命そのものの価値も低そうだ。
盗賊が、台所に巣食う漆黒の奴等並みに存在するし商人はポンポン殺されてるしね。
盗賊が1匹居たら30匹はいると思え!!ってな。
なので現状可愛らしい自称獅子……もう面倒臭いから猫でいいや。猫可愛いしね。
その可愛らしい猫ちゃんの身としては迅速に力を蓄えようと奮戦していると言う訳ですよ。
最近では、盗賊同士コミュニティは無い筈なのに野生の勘なのか絶対数が減って来ている。
本当に動物みてぇな奴等だな。
まあそんな時は魔物狩りをする様にしている。
この森の生態系はとても豊富で様々な魔物が存在していて強奪し放題で猫ちゃんもニッコリ。
定番のスライムやゴブリン、オークやコボルトなんかと楽しい楽しい殺し合い繰り広げ、友情が芽生える前に蛇尾ちゃんに捕食されている。
そんな日々の繰り返しで、今日も今日とて盗賊が居ないか空を漂っていると気配察知に反応有り。やったね!
珍しく盗賊はお仕事中で商人の馬車を囲んでいた。
護衛の冒険者と見られる剣士や魔法使いなどが4人居て、数の差があり盗賊は前衛10人後衛5人で連携しており冒険者達は劣勢で既に満身創痍だった。
強襲するタイミングを脳内猫コミュニティで会議した結果、掻き乱して楽しむ事にした。
ちなみに最近は金銀幼女達がやる気増し増しで翼ちゃんはあまり興味が無いようだ。
俺自身、思考が金銀幼女寄りなので特に異論は無く突撃した。
最近は殆ど魔法で奇襲全滅パターンが続いていたので今回は魔法控え目の縛りプレイで行こうと皆に伝えサクッと後衛5人の首を前脚の爪で落とした。
空気を切り裂いたくらいの手応えだ。
(これじゃ縛りプレイの意味無えな。弱々だなコイツ等)
猫が落胆を隠さず小声でニャーと鳴く。
声すら上げられず絶命した盗賊に前衛はまだ気付いていないが対面に居る冒険者達は一斉に飛ぶ首を唖然とした顔で見ていたのが面白かったのでお前等の死は無駄じゃなかったなとヒトだったモノに微笑む猫。
しかし次第に騒ぎ始めたのだが、まだ言葉を覚えていない猫にとっては喧しいだけだった。
不自然に喚いている冒険者を怪訝に思ったのか振り向いた数人の盗賊も同じく喚いていてそれが逆に面白くてニャーニャー鳴いてしまったのはご愛嬌。
蛇尾ちゃんが食事モードに入ってしまったので、人間同士の争いに参戦した魔物にどんな行動に出るのか、という観察をする事にシフトした。
その結果冒険者は距離を取り戦線を立て直す様だ。
こと命のやり取りの場では冷静さが必須だと思っている。
現状把握や今後の作戦立案などなど、生き残る為には常に頭を冷やしながら動く必要があり、それが出来ない者は基本的に動かなくなるか暴走するものである。
しかしそれが自分に対して行われる行動であった場合、つまらないと思ってしまうよ。
それでも何か面白いモノがないかと観察を続ける猫。
(なんか飲んでるが、あれはポーションかな?)
可愛らしい猫さんだから討伐しようとしてるのかもしれないね。
盗賊達は挟み撃ちにされてパニックに陥ってるな。
皆殺しは決定事項だから逃げられる前に殺そうかな。
そう思ってると蛇尾ちゃんが食べ終わっていたので近場に居た盗賊に狙いを定め、彼我の間合いを一瞬で詰めて狩り取ろうとしたら突如ウルフちゃんの頭がニョキッと生え、盗賊の頭をガブッと噛み千切ると丸呑みにする。
うんうん。ウルフちゃんも出番欲しいよね。
その後も俺とウルフちゃんで次々屠っていき残飯処理係と化した蛇尾ちゃんがひたすらパクパク食べまくっていた。
結局盗賊を殺し切るまで冒険者達は距離を取っただけで一度も仕掛けてくる事はなかった。つまんないね。
よくよく見てみれば冒険者の後衛2人は魔法使いっぽいローブと杖を持った女と聖職者の様な法衣とメイスを持った女だった。
元々前世でも敵対しなければ女子供は殺さなかったので、魔物の姿とは言え意思表示は必要かと思い4人に念話をしてみる。
(ハローハロー、聞こえてるか?盗賊はゴミだから問答無用で殺したが、お前等は俺の敵か?言葉は理解出来ねえから頭に思い浮かべろ)
突然の念話に驚いたのか皆一様にキョトン顔で少し周囲をキョロキョロすると首を傾げながら此方を凝視する。
念話だけならば意思疎通が出来る事は確認済なので問題無いとして今回は新たに相手の感情もある程度把握出来る様になったみたいだな。
困惑、安堵、恐怖、畏怖、警戒、興味……ふむ。
敵意はないが感情抑制が出来ないのか乱れてるな面倒臭えな。
全員を鑑定で調べてみたがまだ駆け出しの冒険者だろうレベルにスキルだった。
まあ、あんな雑魚盗賊に苦戦してるくらいだから当然かな。
そんな事を考えているとリーダーらしき剣士の男が我に返り目を瞑った。
(……言葉が通じる魔物に会うのは初めてだ。魔物が喋る事など眉唾物だと思っていたが………あッ、あぁ、失礼、其方に戦う意思が無ければ我々に敵意は無い)
念話の為に目を閉じたらしい。
別に意味は無いんだが態々伝える必要もないな。
(ふむ?まあ他の魔物なんて知らねえから話すか話さないかはソイツの自由だな。それに敵対しないお前等はなかなか賢明な判断を下したな。ところでその馬車の積荷は何だ?生命反応があるが、もしかして奴隷か?)
この発言に4人は驚愕の表情を浮かべ、馬車の陰に隠れていた商人に詰め寄り言い争っている。
(その様子だと積荷が何かも知らずに護衛してきたらしいな。とりあえず商人は邪魔だな)
言い終わる前に練習中の闇魔法を商人に発動、無数の黒手が商人を絡め取り地面に出来た漆黒の沼に引き摺り込んだ。
冒険者達は此方を振り返り唖然とした顔をしていた。
態々説明するつもりもないので横を通り抜け馬車の幌を爪で剥ぎ取ると中から檻に入れられ手足首に枷を付けられた獣人と見られる灰色の毛に犬っぽい獣耳を生やした男女2人と透き通る様な銀髪に紫紺の瞳で側頭部に2本の角を持つおそらく魔人族の女が1人、それと金髪碧眼耳長のエルフ男女2人の計5人が虚ろながらも突然の事態を目の当たりして猫を恐怖に染まった眼を向けている。
(お前等は南にある街から来たのか?見た所亜人しかいない様だが、コイツ等は運が無かっただけか?それとも亜人の待遇はどこもこんなものか?)
振り返り未だに唖然として呆けているリーダーに問い掛ける。
(そ、そうだ。俺達は南にある[アルザス]の街から護衛の依頼を受けた冒険者だ。し、しかし依頼主が奴隷商人なんて聞いてなかったんだよ!!人族が奴隷になってたらどうしようかと思って取り乱してしまったが、こいつ等は汚らしい亜人なんだから奴隷くらいにしか役に立たないだろ?ヒトじゃないんだからな)
その後も聞いてもいない亜人に関する罵詈雑言を4人共それぞれ思い想いに喚き散らしていった。
目の前の魔物が不快感に顔を歪ませている事にも気付かずに。
(あぁ……世界が違えども、時代が違えども人間という種族は本当に救えねえよ……。反吐が出るよお前等、その態度が、顔が、声が!存在が!!何もかもが!!!視界に入れるだけで殺したくて殺したくて仕方ねぇ……あぁ、あぁ……群れる事でしか強がれない塵芥共が!!)
敵意を感じ取った冒険者達が身構えながら戦闘態勢に入るが、ノロマな冒険者達が動く前に猫が闇魔法を発動する。
対象物を加重して動きを制限する重力魔法
全員が苦しそうに呻き、もがく。
前衛がただ呻くだけで立ち上がる事も出来ない中、後衛の魔法使いと僧侶が魔法を発動しようとしてるので多重起動で闇魔法を追加。
今度は一定範囲内の魔力の素、魔素を分解霧散させるもので強制魔法解除魔法を使用した。
表面に出ない魔法は解除出来ないが此奴ら程度なら問題ない。
更に俺の殺意に呼応する様に左肩からウルフちゃん、背中から翼ちゃんが出現し、尻尾の蛇尾ちゃん含め総動員で冒険者達を刈り取ろうと行動した。
(止まれ!!もうコイツ等は何も出来ねえから一旦落ち着け、此奴らの活用法を思い付いた。なぁ、翼ちゃんは色欲の大罪なんだから魅了系の魔法使える?)
問い掛けると3人共徐々に落ち着いていき猫の質問に応える。
(えぇ……出来るわよ。というか落ち着けって……。皆貴方の怒りに振り回されただけなのだけれど?)
((そうだそうだ〜!!))
怒られてしまった……キレたというか再認識しただけなのに、解せぬ。
寧ろ俺の感情で左右されるのか?今までそんな事無かったが……後で考えればいいか、今は面倒臭い案件は心の外にポーイ。
(ごめんごめん。それより翼ちゃん、コイツ等に魅了掛けてくれ。そして街にクエスト失敗で理由を都合良くでっち上げて帰しといてくれ)
魅了掛けるその前にちょいと冒険者達に魔法で
仕込をした。これで更に安心だね。
効果の程はそのうち分かるだろ。って事でこれから他種族交流の時間である。
早速馬車に近付き、中に入ると奴隷達に念話を送る。
(お前等に帰る場所はあるか?無ければこの冒険者共と同じ街に送還する事になる)
やはり魔物が念話を送るのが稀なのか奴隷達に動揺が広がる。
どいつもこいつも困惑、恐怖、畏怖、絶望などの負の感情ばかりだと思っていたが、1人だけ安堵、期待などなど正の感情しか持たない変わり者が居たので好奇心をくすぐられ、その人物に追加で念話を送る。
(おい、そこの魔人族っ子。お前には帰る家はあるか?)
ビックリした様に此方を凝視するが、すぐに暗い表情になり俯いてしまった。
ジーッと猫が無言で見つめていると魔人族っ子はポツポツと話し始めた。
(わ、わたしが、住んでいた村は人間に滅ぼされたのでもう、ない、です)
ふむ……なかなかヘビィな話だったが、俺には全く関係無い話だし興味も無い。
(なるほどな。では、お前は街行きでいいか?)
(えッ⁉︎い、いやです……。人間の街に行っても死ぬまで奴隷としてこき使われるだけだから……)
(ふむ。他の連中はどうだ?いい加減話せよテメェ等。ここに放置していくぞ?)
(猫ちゃんの威圧が強過ぎるんだよ〜。猫ちゃんこそ落ち着かないと〜)
(そうだよ。蛇尾ちゃんの言う通り〜)
そろそろ夕暮れ時なのでサクサク話しを進めようとしていたら金銀幼女に指摘され、無意識に発動している威圧を弱めたら奴隷達の表情も落ち着きを取り戻し、徐々に希望を話し始めた。
(我々エルフ族は各地に隠れ里があるのでそこに行きたいが奴隷印と首、四肢にある拘束具のせいでどうしようもない……)
(俺等獣人族は北の山脈を越えた先にある獣人国にさえ辿り着ければ一安心だが、そこのエルフが言った通り枷と奴隷印がある限り俺等に自由はない……)
各々の希望を聞いた所、魔人族っ子以外は帰る場所があるみたいだが奴隷印などがある為自由が無いと。
説明不足だよ君達。
猫にも分かり易く言ってほしいもんだね。
(その奴隷印とかは何の効果があんだ?)
(奴隷印はこの印を付けた者に対する敵対行動の禁止だな、逆らえば罰が与えられる仕組みだ。枷に関しては魔法による遠隔起動で毒が注入出来る物で無理矢理外そうとしても毒が出て対象者は必ず死ぬ)
エルフの説明を聞きながら翼ちゃんに確認すると、それらは魔法の一種で呪いの類とのこと。
であれば、術式の基幹部分を壊せば無効化出来るので後処理も楽チンだ、やったね。
(おい魔人族っ子、こっちに来て奴隷印とやらを見せろ)
言いながら檻を全て風魔法で壊すと、怯えながらも言う通りに行動し俺の目の前まで来てペタンと座り込むと服の様なボロボロの布切れをずらし肩にある奴隷印を見せた。
(ふむ。なるほど、ふむふむ。随分幼稚な術式だな、一桁足し算並だ。これなら俺でも問題ねえな。それはそうとお前等、この魔人族っ子は既に帰る場所は無いそうなんだがお前等の国や隠れ里に連れて行く事は可能か?またお前等の国や里で差別される事なく安全に暮らせる事は可能か?)
奴隷印や枷が外せるという宣言で全員喜色満面だったが、後半の話しになると憂色をたたえ俯く。
これだけで察したのでこれ以上魔人族っ子に不快な話しを聞かせる必要性を感じなかったので話題を進める事にした。
(魔人族っ子、お前は今後どうしたい?好きな様に生きろよ。まあ幼女が1人で生きていけるかは知らんがな)
その問いに対して、主に後半の会話に頬を膨らませて反論してきた。
(よっ、幼女ッ⁉︎わ、わたしはもう15歳!成人してる、してます!!)
今日1番の衝撃だった。
顔は童顔なのか幼い顔立ちをしていて別嬪さんだ。
身長は140くらいだし本来ならば豊かな双丘がある場所には高低差ゼロの平原が広がっていた。
(えっ?それで大人?ハハハハハ!!面白い冗談だな魔人族っ子。それとも種族的特性なのか?)
(嘘じゃない、です。種族は関係ないですけど、成人しても、わたしはまだ成長中、すぐに凄くなる、です)
まだ魔物という点が怖いのか怒鳴りたいのに怒鳴れない微妙な気分に陥っている様だな。
(すまんすまん。では、魔人族っ子の未来の成長に期待しよう。さて、話が逸れたが結局の所お前はどうしたい?乗りかかった船だ、とりあえず安全な場所まで持ってってやるよ)
脱線した話しを戻し再び問い掛けると、まだ納得していない魔人族っ子が頬を膨らませたまま俯き何かを思案するがすぐに俺と目線を合わせ語り始めた。
(わたし、私は、貴方と一緒に行きたい、です。役には立たないかもしれない、ですけど……。それが、私の希望、です)
(はぁ?俺と?変わってるな魔人族っ子。俺は魔物だから人間共の討伐対象であって安全な生は送れないかもしれんぞ?まあそれでも良いなら、俺がとやかく言うつもりはねえ。好きにしろ)
まあウルフちゃんが嫉妬して殺そうとしたり蛇尾ちゃんが食べようとしたけど、今後手出し禁止にすれば問題無いだろう。たぶん。
しかし、翼ちゃんは色欲のくせに全く反応せんな。
イケメンじゃなけゃ反応しないのかな?
まあイケメンは余程の事が無い限り俺は殺すけどな、と不毛な事を考えていると魔人族っ子の決意は揺がないのか、
(それでも、大丈夫、です。よろしくお願いします……)
ペコリとお辞儀をした。
本当に付いてくるようである。変な子。
(了解。それじゃいつまでもここに居る必要は無いから帰るか)
会話が始まる前から翼ちゃんに解除補助を頼んでいたので後は念じるだけで全員の枷と奴隷印をサクッと解除、パキッと音が鳴り崩れていくのを確認する。
その瞬間、全員が初めて笑顔を見せ周囲の同じ奴隷、否、元奴隷同士で喜びを分かち合っていた。
周囲の空が茜色に染まり始めていたので、皆に帰路には明日以降にするように告げると全員あっさり頷いた。
魔物の言葉をホイホイ信じるから奴隷なんかにされるのでは?と思ったが、大人な俺は指摘せずそのまま馬車の中に居るように指示して1人外に出る。
(とりあえず馬車の柱にでも掴まってな)
そう告げながら馬車を掴み空を飛び、拠点の洞窟に帰還した。
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