第5話 初戦利品はウハウハ

 人型反応を確認した自称獅子は現在地周辺の全体像を確認する為に上空へと飛び上がる。

大仰に言ったがまだ翼も小さくピコピコ動くだけなのでそこまで高速に動く事は出来ない。

やっとこさ見渡せる高度まで到達し周囲を観察してみると、直径20〜30kmはありそうな広大な森林が屹立しており所々岩が隆起する事で平面ではなく立体的な様相を呈している。

そして北は山脈が連なり、頂は雪化粧されて太陽光が反射して虹色の輝きをキラキラと放ち、幻想的な風景が広がっている。

東西は森を抜けた先から地平線の彼方まで平原が広がり多種多様な生き物も散見出来、南はある程度平原が続くが途中からは街道になっていて更に遠くには堅牢そうな壁に囲まれた街が確認出来た。

人工物の街道や街を遠目で確認するとやはりと言うべきか、近代的な文明の発達は感じられず中世くらいの文明度だと感じた。

少しばかり気にはなるが、地形を把握した今は気配察知に引っ掛かった連中を優先しよう。

凡その距離は1kmくらいの場所に固まっており先程から移動している気配は無い。

拠点なら盗賊の類かなと思いながら進んで行く事数分。

視界に入ってきた連中の風貌はこれぞ異世界のテンプレと言うべき、THE 盗賊だった。

黄ばんだボロ布を着用し腰には抜き身の短剣を差しており手入れをしていない髪に無精髭、所々抜け落ちた歯で疎らになっているのを気にする事無くバカ笑いする間抜け面の男達。

この男達は現在真昼間から酒盛りをしている10人組だった。


(誰1人として見張りをしてないなんて不用心な阿呆だなぁ。こんな阿呆なら殺されても仕方ないよね。親玉以外は皆殺しで行くぞ、蛇尾ちゃん)


 はーいと元気良く返事をした蛇尾ちゃんをおケツに引っ提げて一旦地上に降りて、風下から近付いて行く。

結論から言うと、初異世界人交流はあっさり終わった。

練習の為に展開した9個の風魔法。鎌鼬の如き疾風刃で首を落とした。

蛇尾ちゃんの出番が無くプリプリ怒っていたが死体処理を頼んだら御機嫌になった。

手の平くるっくるだな。

親玉が何か起きたか分からないといった感じの阿呆面しているので、念話で会話可能が調べる。


(はーいテステス〜聞こえているかそこの阿呆面かましてるおっさん〜)

「■⁉︎■■!!■■■■■■!!」


 聞いた事の言語だなと思いながら、パニックに陥り武器を振り回しながら喚いている盗賊親玉に近付いていくと、こちらに気付き更に喚く。


「■■■■■■■■■?■■■!!」


 ギャーギャーと喧しく騒ぎながらこちらに突貫してくる盗賊親玉を観察する。


(音で聴いても言語理解は無理か……。前世の言語が通じれば楽だったのになぁ。まあそのうち覚えるかな。とりあえずコイツはもう要らねえな)


 そう判断するのと同時に風魔法で首をサクッと落とす。


[鑑定]

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


[ゲヒャルト]種族名:人族

[Lv.12]ジョブ:騎士(剥奪)状態異常:死

[剣術Lv.2]

[盗みLv.2]

[拳術Lv.1]

[盾術Lv.1]

[投擲Lv.2]


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 (ショボ!!でも俺よりレベル高いのが何か腹立つな、年の功か?俺は生後数日だからな。でも人間10人殺したら結構レベル上がったな。魔物より効率的だな。今後は森に居る盗賊狩りでもしようかな)


 今回の狩りではスキルを強奪出来なかったので、魔石の無い人間を食べても強奪出来るのか否か判断は難しい。

なので今後の狩りで判断する事にして思考を一旦棚上げした。


(さてさて、あとは洞窟内に眠るお宝を頂くとしますかねぇ)

(猫ちゃん待って〜。あと少しで食べ終わるから〜)

(全員食べる気だったのかよ。それと我輩は猫では無い、名前はまだ無い!)


 蛇尾ちゃんに呆れながら応え、かの文豪をパロって満足した自称獅子は爪で地面にお絵描きしながら時間を潰して食べ終わりを待った。

数刻後周りが綺麗になったので、いざ!!お宝漁り開始!!

気合いを入れて洞窟に入ると木箱が3個置いてあったので、即中身を物色していくが内2個には保存食が沢山詰まっていた。

全ては持ち帰れないので蛇尾ちゃんとある程度食べてから同じく木箱に入っていた麻袋にプニプニ肉球付前脚で器用に詰めていく。

ラスト1箱には雑貨類が入っていたが、興味無いのでポイしようとしたら翼ちゃんと蛇尾ちゃんに怒られたのでこれまたプニプニ肉球付前脚で器用に麻袋に詰める。

そして何と底の方には絵本が何冊も置いてあった。

この世界の文字と物語を知る良い機会だとこれも持ち帰る。


(あぁ、言語の習得とか頭使う作業はアイツの得意分野なのになぁ)


愚痴をこぼしながら残りを詰めていた。すると、


(あの子ならわたしの隣で寝てるけど〜?起こす?)


 しれっと何でも無い事の様に蛇尾ちゃんから呑気なカミングアウト。


(えッ⁉︎何それ聞いてない!!起こして下さい。つうか俺が声掛けすればいいんじゃね?おい、起きろ!!)

(嫌だってさ〜)

(いや、応えてる時点で起きてるよねッ⁉︎はぁ……じゃあ蛇尾ちゃん起こして会話可能状態までして下さいね)


 はーいと元気良く返事すると俺の意思を介入しない脳内会話が行われる。

暫く頭の中でボソボソと話し合っていると急に静まり返り可愛らしい声が聞こえてくる。


(ふぁぁぁ、まだ眠いのに〜)

(寝坊助さんやい、いつから自我が芽生えてたのかな?)

(あぁ!この声懐かしい〜なぁ)


 まだ寝惚けているのかポヤポヤした声音で1人で和んでいたので、質問に答えなさい、と諭すと少し時間を掛け未だポヤポヤした口調で応える。


(えぇ〜?いつからって、ん〜?最初から〜?)

(いや疑問形で言われてもな……)


 詳細を聞くと転生した時からずっと眠ってはいたが外で何が起きていたかは把握していたみたいだ。


(ちなみに蛇尾ちゃんは蛇で翼ちゃんはデーモンなんだけど、君は何者かな?)

(分かんな〜い。ちょっと出てみるね〜)


 そう言うと自分の首の横から新たな頭が出現しギョッとした。

その姿は金色に輝く獣毛に碧眼の狼だった。

とりあえず[鑑定]っと。

種族名は[アウルムウルフ]で嫉妬の大罪を所持している。嫉妬はそのまんま嫉妬深くなるだった。

鑑定レベルもまだまだのようだ……。


(レベルは初期値か……。俺が認識しないとダメだったのか?それはそうと他の奴等も居るのか?)

((この階には居ないね〜))


金銀幼女がハモる。


(へぇ〜……えっ⁉︎階って何それッ⁉︎俺の心の中ってマンションかアパートなのッ⁉︎家賃貰った覚えないんだけどな……)


 新たな謎が見つかってしまった……。

それより普通にウルフちゃんは頭出してきたなと思いながら翼ちゃんにも試してもらうと背中から山羊みたいな顔した全然可愛くもエロくもない頭部が出現したので、そっと目を逸らし話題を断ち切った。

……まあアイツ等はそのうち起きてくるなと思いながら翼から視線を外しながら目の前にある戦利品を咥え、背中に担ぐと住処に帰還する為に洞窟を後にした。

帰還もひとっ飛びだったのですぐに住処に着くが、大分疲労していたのか明日からの盗賊狩りの構想を練っているといつの間にか眠りに落ちていた。

蛇尾ちゃんには寝落ちする前にしっかり飯を作らされたのをここに記すとしよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【盗賊の最後と始まりの終わり】


 今日は久々にいいカモが居て色々な物資を強奪する事に成功した。

街道脇の草陰に潜み、護衛も連れていない馬鹿な商人の馬車を子分達と共に襲っていく。

騎士を除隊させられた俺は色々と知識があり悪知恵が働く方だった。

2人の商人を殺して奪った物資を持ってアジトに戻る。

3つの木箱は殆どが食料品だったので戦勝祝いという事で昼前から飲めや歌えやの馬鹿騒ぎをする事にした。


「オラオラァ、テメェ等!!今日はパーッとやれやぁぁ!!ギャハハハ」


 俺の号令と共に子分達がわーわー叫き肴や酒でどんちゃん騒ぎを始める。

暫く飲み食いし、次狙う場所だったり何処の街の店の女がいいだの、今ここに女がいれば言う事なしだのと他愛のない話をしていると突如周囲の雰囲気がガラッと変わる、否、雰囲気どころではなく視覚から嗅覚から聴覚、全ての五感を刺激して状況が一変している。

先程まで晴れていた空から突如雨が降ってきた。

いや、空は晴れているが雨が降ってきている。

更にその雨は真っ赤な滴となりて頭上から降り注ぐ。

顔に付いた滴を何気無く拭うと、その真っ赤な雨は雨にしては粘性があり細かな固体も含み、鉄錆の様な異臭を放っていた。

目の前の非日常を徐々に、だが確実に脳内に情報として染み込ませた男は天国から地獄の景色に様変わりする周囲を見渡す。

情報は得た、意識もハッキリしている、しかし何が起きたのか理解が出来ない、いや本能で理解を拒否しているのだ。

しかしそんな現実逃避も長くは続かず呆然とする男の前には元部下だった者達が、ひとり残らず首を落とされており身体を痙攣させながら遅れて死を認識したのかバダバタと倒れていく。

降り頻る血の雨が止み、周辺からは濃密になった血臭が鼻腔を刺激する。

不快感に眉根を寄せ状況を確認しようとすると、背後から突き刺す様な殺気と頭に幼いガキの声が聞こえた。


(はーいテステス〜聞こえているかそこの阿呆面かましてるおっさん〜)

「ッ⁉︎誰だ!!出てきやがれ!!」


 背中を冷や汗が止めどなく流れ、脳内で警鐘が鳴り響き早く逃げろと訴え続けている。

しかし男は本能の警告を意志の力で無視すると剣を構える。

無視しただけで未だに大音量で警鐘が鳴っており、ガタガタと無様に震える身体を抑えながら周囲を確認すると、ガサッと音が聞こえ背後の草むらを振り返るとそこから膝丈くらいの小さな魔物が現れた。

マンティコアの子どもか?親が近くに居たら拙いな。

チラリと周囲を確認するとドクドクと倒れた首無し死体から血液が流れている子分達……いや今は餌を使ってどう逃げるかの算段をつけていると、子分が1人喰われ唖然とする。

はッ⁉︎な、何だありゃ、ケツから蛇が生えてるッ⁉︎マンティコアにあんな尻尾はねぇ……。

変異種か……?

子分はその蛇に数十秒で喰われてしまった。

先程から理解が追い付かないが段々と子分達が殺された事に対して目の前の敵に怒りを覚えた。

無謀だと、脱兎の如く早く逃走しろと本能が恐怖し訴えるが、それを無理矢理抑え込め吠える。


「テメェがやったのか?死ねや!!」


 ただ怒りのまま相手に向けて突貫する男。

剣を振り下ろす直前、その魔物は鬱陶しい虫を払うかの様に器用に顔を歪ませた気がした。

あぁ…………やっぱり。

そう思った時、視界は宙を舞っていた。

呆気なく首を飛ばされ殺された元騎士の盗賊達。

彼等がこれから始まる全世界で起こる殺戮に於ける最初の犠牲者達である。

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