第74話 約束

(ん……どこ、だ、ここは……。どうなってんだ?目は開いてんのに真っ暗……魔力感知も反応ねえ、効果無し、ブラックボックスか……。手脚の感覚は……ん?ねえな。どうなってんだ?少し直前までの状況を思い出してみるか……。んー……確かリョートを殺した所までは覚えてる……おい!テースタ!)


 リオンは念話を内に向けテースタを呼ぶが反応は返ってこなかった。

テースタの場合は内部で研究をしているので反応が返ってこない時の方が多いのでリオンは続けてツバサ、オピス、ルプに念話を飛ばすも無反応だった。

最後に無意味と分かっていたがロンとブロブにも念話を飛ばすも当然無反応。

暫く考えていると念話ではなく直接耳朶に声が響いた。

気配も無いその声にピクリとリオンが一拍遅れて反応する。



『まだ起きないの?』

(……うるせぇ、俺がいつ起きるかなんてお前には関係ねえだろ。今俺は忙しいんだ、そっとしとけ!)

『でもそろそろごはんの時間だってーーーが言ってるよ?』

(あん?誰だって?メシ?今更飯なんて俺には必要ねえよ、オピスにでも食わせとけ)

『ん〜?ねえねえおじさん、オピスって誰のこと?みんな知ってる?』

『知らな〜い』

『聞いた事ない名前だね、外国人かなぁ』

『もしかしてはぐれちゃったの?迷子?僕たちで捜してあげようか』

『それいいね!ねえねえおじさん、その子の特徴教えてよ〜私たちが捜してきてあげる』

(うるせぇな、耳元で騒ぐんじゃねえ……。それにオピスなら俺のケツに付いてるだろうが!それともまた勝手に分離したのか?だとしたら銀髪絶壁幼女姿がオピスって奴だ)

『おしり〜?ふふふ、おじさんも変なこと言うんだねぇ』

『そうだよおじさん、おしりに人が付いてるわけないじゃん』

『それに女の子をそんな風に呼んじゃ可哀想だよ〜。わたし知ってるんだよ、そういうのはセクハラって言うんだって!おかあさんが怒鳴ってたの知ってるんだから〜』

『わたしも知ってる〜。あとそれってね、魔法の言葉なんだよね?おかねがいっぱい貰えるって友達が言ってたよ?』

(黙れガキども!それにお前等の手を借りる必要はねえ。俺がオピスを捜せばいいだけだろうが!)


 リオンは未だに感覚がない手脚を動かす指令を出すが一向に立ち上がる気配はない。

暫く足掻いていたリオンの両耳に『ねぇ、おじさん』と可愛らしい女の子の声が聞こえ、意識を四肢から耳に奪われた瞬間響く。




『『『『『『手脚がないのにどうやって捜すの?』』』』』』



 数百を超える老若男女の声が突如リオンの耳朶を劈き、反射的にガバッと強引に起き上がり眼を開いた。

ハァハァと荒い息を吐き、自らの両手を見つめた。

久しぶりに感じた悪寒にリオンは現状把握をする余裕も無く、ただただ呆然としていた。

どれ程固まっていたのか、部屋の外からパタパタと誰かが走って近寄ってくる音に意識を戻したリオンは扉を振り向く。

同じタイミングで扉が開き、そこには見覚えの無い制服に身を包む女の子が立っておりリオンに向かって不機嫌そうな顔を向けていた。

訝しげにリオンがその女の子に対して口を開く前にその女の子が先に指をリオンにビシッと向け口を開く。


「早く起きてよね!大学生だからってそんなグータラしてたら留年しちゃうってお母さん言ってたよ!もう私学校行くから、これで起きなかったらもう知らないからねお兄ちゃん!」

「あ、あぁ、起きるよ、いつも悪いな」


 普段のリオンであれば無視か暴言で返すか、とにかく碌でも無い方法で返すのだが、今は未知と既知の情報量の多さに脳がフリーズして無意識に返答していた。

目の前で自分を『お兄ちゃん』と呼ぶ女の子は普段と反応が違う他称『兄』の自分を訝しげに見るが、遅刻しそうなのか早口に早く起きろと再度言うと去って行った。

部屋に残されたリオンは漸くしっかりと周囲を見回した。

自分が寝ているベッド、目の前には綺麗に整頓された机と本棚、横にはクローゼットがあった。

必要最低限でまとめられた面白みもない部屋。

角に姿見を発見したリオンはベッドから起き上がると鏡に全身を映し出した。


「コイツは、俺?いや俺じゃねえな……誰だお前。さっきの奴に似てる?兄妹だからか?」


 そこには黒髪黒目の平々凡々な顔立ちの青年が映っていた。

見た目だけで言えば日本人だった時もあったので、地球時代のリオンのどれかかと考えてみるが脳みそをいくら捏ねても今姿見に映る存在には覚えがなかった。

ただ、不思議と始めて見た顔には見えなかったリオンはとりあえず思考を放棄し現状把握に注力した。

先ずは自らの身体の調子を見てみる。


「これはタチの悪い夢か?ん?いつの間にか身体の損傷が無くなってんな……まあそれ以前に人間の身体になってんだがな、ハハハ。ふむ、しかし……ここは地球、か?魔力が練れねえし感じられねえ。さて、さてさて、おい!テースタ!ツバサ!オピス!ルプ!ロン!ブロブ!…………やっぱ居ねえか。どうしたもんかな、とりあえず……腹が減ったな」


 テースタ達と会話できない事でため息を零すと同時に腹が鳴る。

キマイラとしてのリオンであれば空腹感が無いので久々の感覚にも気付かず、何の疑問も持たぬまま欲望に従い階下に歩を進めた。

リビングに入るとそこには誰も居らずラップが掛かった朝食だけが置いてあった。

場所が変わった事で薄い警戒心が過り、朝食に一直線に向かう事無く見覚えの無いリビングを見回す。

五感をフル回転させるが所詮は人間、更に寝起きで鼻が詰まってるのか嗅覚が機能してないし聴覚も外で工事をしているのか騒音しか入らない。

視覚は裸眼だが特筆すべき点が無い程凡庸なレベル。

そんな何の情報も得られない無駄な時間を棒立ちして消費しているとトイレの水が流れる音が聞こえた。

ピクリと反応したリオンは着席すると朝食であるトーストを食べ始めた。

暫く無言で食べているとリビングの扉が開き1人の女性が現れた。

見た目は普通、痩せているわけでも太っているわけでもない40代前半くらいの中年女性だ。

ただ顔立ちは3人とも似てる気がした。


「あらーーー、起きてたのね。今日出掛けるの?」


 恐らくこの身体の名前を呼んだが、その部分だけノイズが走り聞き取れなかった。

問い返そうとしたが、直感的に意味が無いと悟り次々と頭に浮かぶ言葉を無意識に音に出し会話を続けた。


「さっきーーーに起こされたんだよ、まだ眠いのによ。今日はこれから大学行くよ、帰りは遅くなるから飯はいらねえ」

「それはアナタが朝弱くて普段から起きないからでしょ。ちゃんとあの子が帰ってきたらありがとうって言いなさいよね。私これから仕事行くから戸締りはしっかりしていってね」

「あぁ、分かったよ。いってらっしゃい」


 他愛の無い日常風景のヒトコマを消化していき母親は仕事に出掛けて行った。

朝食を食べ終え、身支度を整えるとリオンは玄関に向かった。


「戸締り、かぁ。鍵は……ここか?あったあった、ん?これは…………まあいいか」


 引き出しを開けるとそこにはいつも通りであるかの様に鍵が収納されておりリオンはそれを取る。

するとリオンは鍵に付いているストラップを視認し、一瞬固まった。

そのストラップは銀製らしいが輝いておらず、酸化し黒ずんだ獅子の頭だった。

数秒確認するが直ぐに視線を外すとそのまま玄関の鍵を閉め大学に向かった。

自分は知らない筈の大学、それまでの道のり、出会い、すれ違う人々、モノや景色。

全てが自分が知るモノとは少し違う。

まるで色々なモノを混ぜ合わせたり繋ぎ合わせたりした贋物の如き違和感。

だがこの身体にはそれが当然であるかの様に違和感すら感じない。

違和感を感じる自分と違和感を感じない自分、相反する違和感が錯綜するが、それ等が奇跡的に打ち消しあっているのか違和感の大波は気のせいの小波に変換される。

そんな事に意識を霧散させられていると目の前に大学が現れていた。


『@&on8大學』


「……読めねえよ」


 ボソッとリオンが悪態を吐きながら敷地内に足を踏み入れた時、突如空がブレ出し一瞬にして太陽が南中高度まで移動した。

周囲に人がいなかったのでリオンは周囲の状態に気付かず校舎に入った。

記憶に無い校舎を迷い無く歩き続け、恐らくこれから受けるであろう講義部屋に辿り着いた。

ガラガラと扉を開けると中は500人は収容できそうな大講義室だった。


「えぇ……何でこんな埋まってんだよ。そんな人気の講義なのか?」


 リオンが引いたのはその大講義室の使用率が99%を超えていたからだ。

というか異質な事に空いている席が一つしかなく、全方位から視線を浴びながら渋々その席に移動し着席する。

見覚えがありそうでない顔だらけの大講義室で待っていると教授らしい偉そうなおじいちゃんが入ってきた。

腰が曲がりそろそろ死にそうな顔をしながらも、講義内容は見事にPowerPointを使いこなすその姿はどこか誇らしかった。

ただ講義内容は意味不明で全く理解できなかった。

その後も数コマ講義を受けるがどの講義も自分の席以外は全て埋まっていて講師は全員素晴らしい講義だった。

ただどれも内容は意味不明ではあったが、何となくどの講義も同じ内容、何かの歴史なのかと漠然と感じた。

そんな事を反芻しながら歩いていて、ふと気付くといつの間にか屋上に辿り着いていた。


「ん?何で屋上にいるんだ?確か講義終わったから帰ろうとしてた様な……んおっ」


 意識が覚醒した瞬間立ち眩みを起こしリオンは膝を突き荒い息を吐き出した。

するとその瞬間突如脳内に声が響く。


『リオン様!』

「あん?……誰だ」


 リオンが脳内の声に問い掛けるも返事は無く、暫くするとリオンの動悸も治った。

聞き覚えがあるその声に少し考え込んでいると背後から自分を呼ぶ声で思考が中断された。


「お兄ちゃん!」


 兄と呼ぶ存在は現在一人しか知らないので特に気にする事なく振り返る。


「ここ屋上だぞ?何でここにいるんだ?」

「お兄ちゃん今日はもう授業おしまいでしょ?今から遊び行こう」

「何で俺の授業内容把握してんだよ……。それで?どこ行きてえんだ?」

「えへへ、それはもちろんお兄ちゃんの妹だからだよ〜。んー、そうだなぁ。あっ!じゃあさじゃあさ!私、動物園行きたい!」

「動物園?まあ構わねえが……ん?そういやお前学校はどうした?サボったのか?」

「やったぁ!ほら早く行こう!早く早くー!」

「いや俺の質問……ハァ、わかったわかった。とりあえず落ち着けよ」


 妹が強引に話を逸らしグイグイとリオンを引っ張り屋上を後にし大学を出る。

遠ざかる大学を見ながら全体から漂う違和感の正体を探る。


(……なんか変だが、何が変なのかわっかんねぇなぁ。そういや俺大学なんか行った事あったか?これは本当に俺の記憶か?いや…………あっ、そうか、これは)

「お兄ちゃん!ボーッと考えてないでちゃんと歩いてよ重いなぁ!」

「ん?あ、あぁ、悪い」


 思考が違和感に辿り着く直前に妹に邪魔され意識が戻される。

その後も思考に沈もうとすると都度妹に邪魔される気がしたが、常に楽しそうに話す妹に再度懐かしさが胸中に湧き出し思考が霧散していった。

そこからも身に覚えもない他愛の無い話をしていき、気付くと動物園に到着していた。

常に腕を組んでいた妹がいつの間にかチケットを持っていて、行列ができているにも関わらず妹はスルスル列を無視して先に進んで行く。

待つのは嫌いなのでリオンも無言で妹に続いた。

その際に抜かす人の顔を観察すると多種多様な人種が居て、中にパンダでもいるのかなとIQが低い事を考えていた。

特に注意もされずに中に入った2人は園内地図を見ながら円を描く様に回ろうと話し合った。

終始ご機嫌で檻の中の動物を観察する妹にリオンは訝しげな顔で問い掛ける。


「なぁ、さっきからアレ見て何が楽しいんだ?良さが全くわかんねえんだが……」

「もう!何言ってるのお兄ちゃん!あそこにいるゴリラとかさっき見たキリンだって可愛いし、そこにいるゾウの親子だって見てて幸せになるでしょ〜?しかもしかも〜この動物園には珍しい動物もたっくさん居るんだよ〜」

「ゴリラにキリン、ゾウの親子……ねぇ。ハァ、その珍しい動物ってのはなんなんだ?」

「知りたい〜?知りたいの〜?ふふふ、それはねぇ〜。内緒〜!見てからのお楽しみだよ」

「マジかぁ、そりゃ俄然楽しみになってきたな」

「…おっ!やっといつものお兄ちゃんになってきたねぇ。ふふ、じゃあそろそろ行こっか」


 からかってくる妹にリオンが乗っかると一瞬驚いた表情を見せた妹だが直ぐに表情を戻し再度グイグイとリオンを引っ張りどこかに行こうとする妹。

特に抵抗もせず引っ張られるリオン。

目の前の楽しそうな妹に視線を向け、次に視線を先程まで見ていた檻に移す。

その檻、否、今まで見てきた全ての檻に動物はいなかった。

いやそれすらも正確ではない。

ゴリラはいた。

白骨化した細長い腕が3対と白骨化した尻尾が生え、頭頂部に人面が付いていた。

キリンもいた。

漆黒の翼を携え、蹄である筈の部位は人間の手が2つ付いており、頭部には普段は隠れている角が全て突き破っていて捻れた5本の角は紫電を纏っていた。

ゾウの親子も居た。

親子かは判断できないが、鏡餅の様に二段に結合しており各々牙が鼻の左右、眉間、背中とスパイクの様に付いている。

更に全身燃えていて煌々と輝いていた。

それ以外にも妹が普通に見えている動物はリオンには既存物を適当に繋ぎ合わせ遊び散らかしたみたいに雑な造りのモノに見えていた。

しかしリオンは健在のスルースキルを使用し気にしない事にした。

暫く歩くと両側が林に囲まれた一本道に到着した。

妹は気にせずスタスタとリオンを引っ張りながら進み、視界の奥に左側の林が途切れていた。

丁度その隙間に今まで見てきた中で最大級の檻があり、そこから鈍い音が響いてきた。

2人は目の前まで近付き、視線を檻に移しながら立ち止まる。

檻の中には両手足を鎖に繋がれた巨大な青い猿が暴れていた。


「んー、デカさ以外普通……いやキラッキラ黒く輝く角が2本デコにブッ刺さってんな。お前にこれってどう見えてんの?」

「ねぇお兄ちゃん、このお猿さん逃す事できる?」

「ん?逃がす?……いやこんなやつ解放したらキングコング待った無しだろ」

「でもね、このお猿さんはここに居ていい子じゃないの」

「そうなのか?……まあ確かにこのデカさなら研究所とかで実験体になってる方が納得できるしな。ただコイツを今出したら俺等ぺしゃんこにされんぞ。この青猿、目バッキバキに極まってんじゃん。もう完全にトリップしちゃってるよ。超暴れてんじゃん、そのうち手足千切って檻ぶち破りそうじゃん」

「じゃあ約束して!近いうちにこの子を解放してあげてよね!」

「んー、そんなの動物愛護団体かこの青猿の写真バラまけば俺じゃなくても解放できる気はするが……まあだがそれくらいならいいか。ただあんまり期待すんなよな」

「うん!ありがとう!約束!!!ふふ、じゃあ次が最後だよ、行こう!」


 再びご機嫌になり引っ張る妹に連れられ最後と言われる動物が居る檻に向かって歩く。

リオンは歩きながらさっきの青猿の檻の大きさを思い出していた。

先程はゾウみたいな奴やキリンの様な奴などに比べて最大級の檻だなと思ったものだが、まさかこんな短時間でその認識が更新されるとは思っていなかった。

現在進行方向に遮蔽物はないが未だに動物はまだ見えていない。

しかし檻は既に視界いっぱいを埋め尽くしていて、その檻は陸上生物と言うよりは鳥類か樹上生活する様な生き物がいそうな程高々と聳え立っていた。

もちろん横幅も青猿の檻よりも長く頑丈にできていた。

暫く歩くと漸く檻の中の全容把握ができた。

巨大な檻の中央には下半身を失い、左脚が欠損した獅子が横たわっていた。

その姿を見た瞬間ドクンと心臓が早鐘を打ち、足早にリオンは檻に突撃した。

その獅子は青猿と違い拘束はされていない様で、腹部を見て上下していない様子と身体の状態を見て生きているかどうかすら不明な獅子にリオンは釘付けになっていた。

どれくらいそうしていたか、ふと横を見ると妹が先程の青猿と違い無表情に獅子を見つめていた。

そんな妹に漸く今まで思っていた事も含めて吐き出す事にした。


「アイツ死んでんのか?つかアイツ俺だよな?どうなってんの?俺は、なんだ?結局お前は、誰だ?」

「……あの子はまだ死んでないよ。でもこのまま何もしなければ死んじゃうかな」

「動物病院にでも連れてけって話じゃねえよな?」

「違うよ〜」


 視線を妹に向け、続きを促しても一向に話す気配が無くジッと檻の中の獅子を見つめていた。

リオンは特に急かす事無く妹を見守っていると再度立ち眩みが起き膝をつき、先程より強烈な目眩と頭痛に意識を漂白していく。

その様子に妹がリオンに視線を向けると漸く口を開いた。


「もう時間無いなぁ。でもこんな楽しい事経験できて良かった。ありがとうお兄ちゃん」

「グッ、な、なに言ってんだ、お前。どういう、ことだ。クソッ、またあの声、かよ」

「このままだとあの子もお兄ちゃんも消えちゃうの。元々残された時間は無かったんだけど、こんな機会もう来ないと思ってみんなはしゃぎすぎちゃったみたい、ごめんね。でも1日にも満たない時間だったけど、それでもこんなにも平和で幸せな日常……夢みたいだったよ。だけどそれももうお終い。あの子が消えちゃったらみんな消えちゃうからさ。とりあえず50人くらいで治るから安心してね。次からはもっと簡単に使えちゃうから気を付けてね」

「お、お前は、いったいなんの、話をしてやがる」

「ばいばい、お兄ちゃん」


 質問に一切答えない妹は一人語りを終えるとリオンを檻に向かって突き飛ばした。

女性の力とは思えない威力で吹き飛んだリオンは檻を通り抜け下半身と左脚を失っている獅子の目の前に倒れ込んだ。

すると更に強い頭痛が襲い掛かり急速に意識を漂白していく。

薄れいく意識の中、仰向けになるとぼやけた視線に埋めつく程の人影が見えた気がした。

それを最後にリオンの意識は完全に落ちた。




『………様、ン様、リオ、様、リオン様!!』

「……………みーや、か?」

「リオン様!!!みんなリオン様が目覚ましたよ!!」


 耳元で叫ばれたので不快げに立ち上がる。

そこまで行動して漸く自らの身体の状態を知ったリオンは念話を飛ばす。


(おいお前等、これはどういう事だ?)

(なにがー?)

(リオンがまた変な事でもしたのー?)

(ルプ、オピス少し黙ってなさい。リオンは何が聞きたいのかしら?)

(漠然と物事を聞くでないわバカ者が!)

(確か俺は氷女のせいで下半身と左脚が欠損した筈だが、元に戻ってるのは何でだ?お前等がなんかしたのか?)

(あぁ、そういうこと。残念ながら私達も知らないわ。アナタと同様さっきまで意識なかったもの)

(ツバサが言った通りじゃ。なぜか意識が途切れてのぉ。まあそれ程危険じゃったという訳じゃて)

(なんか幸せな夢見てた気がする〜)

(オピスも?わたしも幸せな夢見てた気がする〜。最後?終わり?は急にきゅーってなった気がするけどね〜)

(結局何も分かんねえじゃねえかよ。つう事はアイツ等と首で気絶してるコイツにでも聞くか)


 呼びに行ったのかミーヤがクルス達を引き連れながらこちらに向かってきているのを見ながら状況整理しながら朧げになりつつある妹の言葉を頭の中で反芻し始めた。


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