第15話 ヒャッハー

 昨日、猫一団は魔法国家リンドブルムに到着した。

門兵とは一悶着あったが、特に大きな問題も無く亜人達を送り届け、その場で解散すると猫一派は宿屋で休息を取った。

猫に睡眠は特に必要無いのでイヴが寝た後は色々と魔法の実験をひっそりと行ったり、明日の予定を組み立てながら時間潰しをしていると、外の景色が徐々に白み始める。

前世と比べ産業が発達していないからか空気が澄んでいる気がする。

もしかしたら魔法で浄化などが出来るかもしれないが、そんな疑問も魔法学院に通えば解決する事だと考えていると意外と時間が経っていたのかイヴがノソノソ起き始めた。


「猫さん〜おはようございます〜。ふふふ、今日もモフモフですね。朝から幸せです〜」


 イヴの言葉の通り、部屋内では人化を解きキマイラの姿になっている。

丸まらないと突き抜ける程狭い部屋なのが玉に瑕だが、魔力は温存しときたいし元人間ではあるものの今はこの姿の方が落ち着くので仕方なく我慢している。

最早床一面をカーペットの様に猫が敷き詰められており身動きは取れない。


「今日は早速魔法学院の入学手続きをしに行くぞ。イヴ、ちゃんと友達を作れよ。ぼっちは流石に俺も涙を禁じ得ないからな」


 猫の毛皮をワシャワシャしていたイヴが顔を上げ頬を膨らませる。


「むー!私には猫さんが居るのでぼっちじゃないですからね!それよりも私としては猫さんの見た目が完全に30歳くらいに見える方が問題な気がしますよ……」

「魔物以外の人種を友達にしとけって事だよ。俺が討伐されたら大変だぞ?本当にぼっちになっちまうぞ?それとな、人化なんて外側だけ変えてるだけなんだから見た目15歳くらいにすりゃいんだろ。イケオジ外見の方が好きなんだがなぁ」


 そう言うなり猫は人化をするが、普段よりも長い時間を掛けていき15歳くらいの目付きは悪いが多少幼さが残る見た目に変えていく。

いつも通り人化が終わるとポコポコと蛇尾とウルフも出てくるが幼女のままなので猫は訝し気に首を傾げた。


「ん?お前等はその姿以外になれねえのか?俺は好青年にも人化可能なんだがな」


 その言葉を聞いた金銀幼女達は頬を膨らませながら猫をバシバシ叩く。

詳しく聞くと、擬態を含めて猫以外は魔物姿か人型の姿にしかなれないらしく人型の姿も固定されているのか普段見ている姿にしかなれないみたいだ。

金銀幼女達を宥め、視線を先程から未だ無言のイヴに向けると口を開けた阿呆面で呆けていた。


「デジャヴか?それより15歳の俺の姿はどんなもんだ?鏡が欲しい所だが、ふむ、どれどれ」


 未だに固まっているイヴに顔を近付けると痙攣するみたいにビクリと震えて後退りする。


「な、なんですか急に近付いてきて!」

「いやなに、お前の瞳を鏡替わりに俺の出来栄えを確認したかっただけだ。それで?今の俺はどんなもんだ?」


改めて問うとイヴは頬を染めながら俯く。


「か、かっこいいですよ」

「それは容姿が整ってるって解釈でいいのか?それなら成功といった所か。眼玉なんかが所定の位置に無いと流石に怪しまれるからな。しかし、まぁ確認も取れた事だし朝食が済み次第魔法学院に説明を聞きに行くか」


 後方で何やら喚いているが定番の無視を決め込み部屋を出る。

朝食は軽く済ませる、つもりが蛇尾がメニュー全制覇すると言い出し余計に時間を食ってしまった。

暫し食休みを挟み、魔法国家リンドブルムの中心部に位置する魔法学院まで向かう猫一派。

学院通りと呼ばれると大通りには様々な店が軒を連ね、とても活気溢れる街並みである。

途中食べ物屋台から漂う香気に当てられ蛇尾が飛び出すイベントが発生したが速攻捕獲したので特に問題無く魔法学院まで辿り着く。

イヴは感嘆のため息を溢し圧倒されていた。

学び舎という事で前世の学校を想像していた猫は目の前の学院に眉根を寄せる。


「外観が学び舎というより要塞だな。時代柄なのか戦争でもおっ始めそうな雰囲気だ。それにこりゃあ……クハハ」


 猫の眼前には数多の魔法や攻城兵器でも不動を貫く鉄壁の門壁が聳え立ち、遠くに視線を向ければ天を貫くが如き塔が何本も生えている。

更には魔法防壁も常時多数展開しており物理的な鉄壁に加え魔法的な堅牢さも備える徹底振りである。

どの程度の衝撃まで耐えられるのかウズウズし始め、笑いながら魔力を高める猫を素早くイヴが牽制する。


「ダメですよ猫さん!今問題起こしてどうするんですか!いいですか?ダメですからね!」

「ふむ。良く俺が動くと分かったな、そこは素直に褒めておこう。しかし後半は振りに取られるから他の言葉を選んだ方がいいぞ。さてさて、それじゃ行くか」


 突然褒められてクネクネと変な動きで照れているとウルフがボソッと「気持ち悪い〜」という暴言がイヴを貫き「ふぐぅ」と胸を押さえ苦しみながらウルフに掴み掛かりギャーギャー2人で喚いていた。

その間猫は安定の無視を決め、門の中に蛇尾を連れて入っていった。


「おはようございます。本日はどういった御用件でしょうか?」


 魔法学院の事務員と思しきローブ姿に茶髪をポニーテールにしたソバカスが目立つ30歳程の女性に問われ、入学手続き云々の話を通すと色々書類が出て来て説明が始まる。

話がやたら長いので要約すると、毎年1回筆記と実技の試験があるらしい。

そして運が良い事に入学試験は1週間後に開始されるみたいなのでそれに参加する。

参加するのは猫とイヴだけだ。

蛇尾達にも勧めたが勉強が嫌いとの事で断念した。うん。俺も嫌い。

ハァハァと爺が猛烈に食い付いてきたが見た目でアウトだと一蹴した。

女性事務員に渡された書類に必要事項を書いているとイヴが覗き込んでくる。


「猫さん、名前の欄はどうするんですか?流石に[猫]では通らないかもしれませんよ?」


 猫耳の側でアホな事を小声で話すイヴに軽くデコピンする。


「そこまでバカではねえよ。冒険者カードを作った時から偽名を使ってんだよ」


知らなかったのか涙目で額を押さえながら驚いている。


「えっ?えぇぇぇぇッ⁉︎そ、そうだったんですか⁉︎ならもっと早く教えて下さいよ!見せて下さい!えーと……[リオン]さんですか。この名前に何か由来か意味はあるんですか?」

「偽名なんだから教える必要あるか?だがまぁそうか……面倒臭えしもうこれが本名でいいか。意味は獅子の別の読み方みたいなもんだ」


 フランス語などと言っても当然伝わらないので言葉を濁し適当に流すが、イヴは「リオンさん」と噛み締める様に何度も復唱すると、満足そうに猫を見る。


「素敵な名前ですね。リオンさん!今度から私もそう呼びますね。えへへ」

「まぁ好きに呼べば良い。それよか今更だが、さん付けも要らねえし敬語も要らねえよ、お前は家族にも敬語で話すのか?……まあいいか、さっさと書類出して試験までは暇だから冒険者稼業でもやるか。イヴの修行も再開しないといけないしな。実戦は何より糧になるからなぁ」

「えと、はい、分かりました。えへへ、じゃあ……リ、リオン!」


 照れながら名前を呼び、未だ敬語だが満足そうな顔で笑うイヴを一瞥しぞんざいに返事をすると書類を出し魔法学院を後にする。

先程言った通り学院から程なくして冒険者ギルドに到着するとリオンは振り返りイヴを見る。


「2回目だから大丈夫だと思うが、絡まれた際のイベントは必ず参加からの回収するからな」

「……?はい。ただ、イベントって何ですか?」


こっちじゃイベントは伝わらんのかとリオンが独り言つと、

「全ての行事を楽しめって事だ!」

と適当にイヴに説明すると、両サイド幼女から、

「「フラグが立ちました〜!」」とリオンと繋いでいない方の手を上下にパタパタ振りながらキャッキャしている。

後方で「フラグ?」と可愛らしく小首を傾げているので、今度は完全無視を決め込み騒がしい幼女達で手が塞がっていたのでギルドの扉を軽く蹴り開ける。

現在時刻は昼には少し早い時間帯なので人は疎らでアルザスの街同様飲食店も併設されているらしく飲み食いしている連中がちらほら見受けられる。

周囲から好奇の視線は感じるものの特に絡まれる事無く受付嬢の元に辿り着く。

流石ギルドの顔とも言うべき受付嬢、顔採用かなと邪推してしまうくらい整った顔立ちをしている。

その中から1人の受付嬢の元に歩いて行く。

年の頃が18かそこらの切れ長の目に空色の瞳を持ち茶髪のセミロングをハーフアップにしてメリハリのある身体のラインも相まって少し大人びた雰囲気を醸し出す狐人族の美少女が笑顔で対応する。


「おはようございます。本日はどの様な御用件でしょうか」

「私達は昨日この街に着いたばかりの冒険者で、ランク上げついでに何個か依頼を受けたいと思っております」


 リオンが笑顔且つ丁寧な言葉遣いで対応すると、横から空気が読めない絶壁少女が驚愕の表情で声を張り上げ見つめてくる。


「えぇ⁉︎な、何ですかその笑顔!私には1度も見せた事ないですよね!その受付のお姉さんが好みなんですかッ⁉︎クッ、やはり、お胸ですか……」

「まぁ、取り敢えず黙ろうか。子どもはそこら辺で遊んでろ。蛇尾、ウルフ、昼には少し早いがイヴを連れてあっちで飯でも食ってろ」


 普段であれば、リオンに引っ付いて離れない蛇尾も飯という単語に刹那に反応して2人を掴み引き摺っていき、ウルフは「いやー!」と言いながら床に這い蹲り必死に抵抗し、イヴは「私、子どもじゃないもーん!」と言い残し遠ざかっていく。


「騒がしくて申し訳ありません。これが私の冒険者カードです。ん?どうしました?」

「い、いえ、何でもありませんよ。あ、では冒険者カードをお預かりしますね。………はい、確認が取れました、アイアン級のリオンさんですね。アイアン級ですと、低級のゴブリンやコボルトの討伐、薬草採取などがありますね。ちなみにゴブリンなどの討伐経験はありますか?」


 多少赤みを増した顔をしながらも冷静に対応する受付嬢にリオンは不思議に思いながらも質問に対する回答候補を考える。


「ゴブリンもコボルトも何回か殺した事はありますね」

「そうなんですね。では、他にはどんな魔物を討伐しましたか?」

「んー……そうですね、前住んでいた場所の近くの森でなら、マンティコアとかですかね。後はここにくる時にグリフォンなら数体殺しましたね」

「え?」

「え?」

「えッ⁉︎」

「ん?」

「えぇ……あのぉ……えぇと……聞き間違いですかね?今、マンティコアやグリフォンを討伐したと聞こえたんですけど〜ハ、ハハハ」

「……ふむ。ハハハ、いや〜冗談ですよ。倒せても黒いデカイ亀程度ですよ、確かプロガノケイノスって名前でしたね」

(反応からして雑魚だった前者の2種類は世間では上位種に位置していたみたいだ、危ない危ない。そういや、連れて来た亜人達もグリフォン倒した時にやたら喚いていたのはそういう理由だったか。少々失敗したが既に軌道修正したからこれで問題無い。ラノベ転生者と違いポカはやらかさんのだよ俺はな!ドヤァァァ!ん?ん〜?)


 心の中で自画自賛していたリオンが再び受付嬢を見ると依然として固まっていたので訝し気に思いながら頬をペチペチすると復活した。


「プ、プププ、プロガノケイノスですってぇぇ⁉︎その個体をどこで発見したんですかッッ⁉︎」


 沈黙からの怒涛のラッシュに若干引きながらもアルザスの街近郊の森だと説明するとプロガノケイノスは森の深部に存在が噂されている希少で危険な魔物だそうだ。


(オメェもかヨォォォォォォォォォォ!!!)


 表情を変えずに心の中で絶叫をかます。

我が家の鍋だったキラータートルさんとは別格な魔物だと判明した所でこれ以上絡むと収拾が付かないので深部に居た理由をはぐらかし討伐ではなく敗走だと無理矢理納得させ、簡単な依頼を複数見繕ってもらった。


「色々ありがとうございます。これからも何かとお世話になるかと思いますので宜しくお願いしますね」


 最後に営業スマイルをぶち込み、颯爽と去る。

受付嬢さん(名前はマリーと言うらしい)が頬を朱に染め手を振って見送ってくれる。

金銀銀絶壁トリオを迎えに隣接する酒場に近寄ると3人なのにテーブルを何台も合体して巨大になったテーブルの上に隙間無く料理が埋め尽くされており蛇尾が幸せそうに食べ進め、イヴは呆れ顔でパクついていた。

ウルフはと言うと、リオンが近付く気配を感じ取り既に肩の上に満面の笑顔で座っている。

そしてリオンはと言うとリアクションを取る事もなく、普通に着席し食べ始めた。


「えぇ⁉︎えぇ……えっと、これを見ても何の反応も無いんですね。リオンにも聞きますが、これ全部食べれるんですか?蛇尾ちゃんは大丈夫だって言って聞く耳持たないんですよね」

「ん?あぁ、そういや言ってなかったな。蛇尾は暴食だからこのくらいの量は問題無い。それより何個か依頼受けたからコレ食べたら早速行くか」

「へぇ〜そうだったんですか〜。暴食ですかぁ……えッ⁉︎暴食ゥゥゥ⁉︎それって人族にしか発現しないあの暴食ですかッ⁉︎い、いやいや、蛇尾ちゃんは人族じゃないからただの大食いさんって事ですよね⁉︎」


早速喚いたイヴに冷めた視線を向ける。


「淑女になりたきゃ少しは落ち着きというのを身に付けろよ。まぁ、イヴが感じたままの解釈で構わねえ。話しは終わりだ、料理が冷める前にさっさと食べろ」


 返答を待たずに会話を遮断しリオンは食事に集中する。

イヴもこれ以上は無駄だと判断して食事を再開する、不満の意思表示にジト目を向けながら……。

蛇尾の勢いもあり15分も掛からず全てを平らげ、早速依頼をする為に街から出てそう遠くない森の中に入っていた。

ここは魔法学院の実習でも頻繁に使用されている為、ある程度管理されている場所らしい。

それでも定期的に魔物が発生するのでその都度間引きしている。

発生する魔物もゴブリンやコボルトなど低級の魔物が殆どなので初級冒険者に打って付けなのである。

しかし現在ここに居る初級冒険者はアイアン級である以前に伝説級の魔物であるキマイラなのである。

何が言いたいかというと、気配に敏感な野性動物や魔物はリオンの気配を察知すると全力で逃げるので先程からこの森に全く生物の気配が無い。


「この森の魔物は弱過ぎて俺が居るだけで魔物の大移動が始まるな。隠蔽掛けてるんだが、まだまだ甘いって事かぁ。取り敢えずこの依頼はイヴに任せた。まぁ隠蔽と結界掛けとくから死ぬ事はねえし今までの修行の確認と実戦経験の一石何鳥ってくらい得だろ」


 言うだけ言うと人化を解きゴロンと地面に寝転びクルリと丸まる。

それを呆れ顔でイヴが覗き込む。


「もう……リオンさ、コホン、リオンは仕方ないですね〜。では私が修行の成果を見せてあげましょう!」


 フンスとやる気溢れる雰囲気を漂わせ、森に突貫していく後ろ姿に「いってら〜」と気の抜けた三重奏が追従する。


「それで〜?今度はイヴちゃんで何を画策しているの〜?」


 完全にイヴの気配が遠かったタイミングで蛇尾がリオンのケツをガジガジしながら問い掛ける。


「んー?お前等もイヴを鑑定した時のアレ見ただろ。さてさて鬼が出るが蛇が出るか、クハハ!楽しみだな」

「えい、どーん!もし失敗したらイヴちゃんも殺すの〜?」


ウルフがリオンの横顔に突撃しながら問う。


「まあ本人の意志で敵対してきたら当然殺すか殺されるかの2択だろうな。ただ現時点では失敗作しか見た事ねえけど、アイツは本人の意志とは別だったからなぁ。意識ねえから本能で動いてたからな、そうなったら殺す一択になっちまうが……まあそんなもんはそのうち考えればいいだろ。今はイヴが依頼達成して帰還すんのを待つとしよう」


 クハハハと笑いながら問題事をどんどん棚上げしていく。

その後は他愛も無い話で時間を潰していると、凡そ1時間程で戻ってきて、左手の袋には討伐部位が入っている。


「おう、戻ってきたか、死体はちゃんと処理したか?」

「もちろんです!土魔法で埋めてきましたよ。これで、ゴブリン、コボルトの討伐、後は回復薬の材料になる薬草を何種類か採取しましたので今日で3つの依頼完了ですね」

「へぇ〜凄いじゃん。この調子で実戦経験を積んでいけば弱っちいイヴも少しは強くなれるかもな。少し休んでから街に戻るか。それと今後の指標に強さを見とくぞ、鑑定っと」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


[イヴ]種族名:魔人族

[Lv.15]ジョブ:なし

[土魔法Lv.3]

[火魔法Lv.1]

[水魔法Lv.1]

[身体強化Lv.1]

[???]→可能性の卵


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ヨシヨシとイヴの頭を撫でながら今後の修行内容を考えながら街に戻る事にする。

その間イヴは上機嫌、ウルフは不機嫌、蛇尾はずっと口がモゴモゴ動いてた。

街へ戻りギルドへ赴くと、夕暮れ時という事もあり冒険者達が所狭しと虫みたいにワラワラいた。

特に気にせずスタスタと受付嬢、マリーの元まで歩いていくと彼女も此方に気付き笑顔で迎えてくれる。

あと少しで到着という距離で目の前に汚い壁が遮ってきたので何事も無かったかの様にヒョイと避けマリーに話し掛ける。


「こんばんは、マリー。昼前に受けた依頼を終えたので確認してもらっていいかな。イヴ、部位証明と薬草類を出してくれるかな」


 既に砕けた話し方で受付嬢のマリーと接しながら淡々と依頼処理を進めていくと、背後からドンと四股をしたような大きな音がなる。

イヴはビクッと肩を震わせ振り向いているがリオンは振り向く事なくマリーと雑談をしながら明日の依頼内容を煮詰めていった。

横を見ると金銀幼女も背後に興味は無く他の受付嬢からお菓子を貰ってチヤホヤされていた。

まあ見た目だけは可愛いからな。

視線を戻しマリーとそのまま会話を再開しようとしたら袖を引かれたので渋々視線を向けるとイヴが眉を八の字の困惑顔をしながらワタワタしていた。


「どうした?今から眉間にシワを寄せてたら将来大変だぞ?」


 折角心配してあげたのに、今度は眉が八の字から逆八の字に変化した。


「そんな心配なんて今はしなくていいんですよ!それよりそろそろ後ろの人の相手して下さいよ〜。もう私には無理ですぅぅ……」


 何か知らないが困っている様子なので漸くリオンも背後を振り向く、そこには……。


「えぇ……いやどこの世紀末だよ……場違い感が凄いな。……まぁいいや、それで?えぇと、ヒャッハー君?俺に何か用事かな?」


 流石のリオンも背後の人物の容姿までは把握してなかったので振り向いた時の衝撃が強かった。

ヒャッハー君は魔物の爪か角を複数本両肩、拳、膝に装備し、ヘルムも棘を持つ魔物の頭蓋骨を加工して被っていた。

トゲトゲ以外はレザーアーマーを黒で統一しており、武器は星球式鎚矛、つまりモーニングスターを2本背中に装備している。

そんなヒャッハー君はずっと無視された事で頭のウニと相まって怒髪天を衝く勢いでリオンに捲し立てる。


「テ、テメェ、俺様を無視しておいてその態度はなんだ!このザンバ様に挨拶もねえとはどうやら死にてえらしいな!」

「ん〜?そんな事を言う為に態々来てくれたのかな?それはそれはご苦労様だね。ほらイヴ、イヴもヒャッハー君にありがとうって言っときなさい、ほら……ププ、クハハハ!ハァ〜ウケる」


 突然話を振られたイヴはあわあわとリオンとヒャッハー君を交互に見ると「あ、ありがとうございます」と困惑しながらも素直にヒャッハー君に感謝した。

素直なのは良い事だよね。

無事フラグ回収出来る喜びと珍妙な生物を見れた喜びも合わさりその感動も一入である。


「テ、テメェ、俺様の名前はザンバだァァァ!!変な名前で呼ぶんじゃねえぇぇ!シルバー級冒険者のザンバ様とは俺様の事だぜ!お前等底辺の雑魚とは格が違うんだよ!!」

「ふむ、次は自己紹介か……。詰まる所ヒャッハー君は何が言いたいのかな?俺もね、君と違ってあまり暇じゃないんだよねぇ、だからゴミに貴重な時間は割きたくないんだけどなぁ。ねぇマリー、勝手に絡んできたヒャッハー君を撃退した場合、過失割合はどんなもんになる?」


話を振られたマリーが少し考えた後口を開く。


「原則は冒険者同士は両罰になりますけど、ザンバさんとリオンさんは冒険者のランクに差が有りますからどう転んでもザンバさんの方に罰則がいきますね。と言うかそれよりリオンさんは怖くないんですか ⁉︎シルバー級冒険者の実力は本物ですよ ⁉︎ザンバさんも酔ってるんですか?冒険者同士の諍いまでなら日常茶飯事なので注意程度で済みますけど、暴力沙汰になると注意だけでは済みませんよ?」

「なら問題無いな。だが殺すのは今は自重するしかないか……。しかしなぁ……手加減て苦手なんだよなぁ、強い強い言われてる奴でもすぐ壊れんだからよ。まあ今日はずっとイヴに任せっきりだったから身体が鈍っていけねえな。うん、なら準備運動くらいには頑張ってほしいもんだ」

「黙れマリー!底辺冒険者に世間の厳しさを教えてやるだけだろうが!お前こそそんな奴の相手なんかすんじゃねぇよ!」


 引く気がない様なのでニコニコと笑いながらリオンが臆す事無くヒャッハー君にスタスタ歩いて近付いていき、彼の攻撃範囲内まで詰める。

すると戦意を感じ取ったのかヒャッハー君はモーニングスターを2本抜き構える。


「ハハハハ!アイアン級如きが俺様と遣り合おうってか!バカな奴だが嫌いじゃねえ!ハンデとしてお前に先手を譲ってやるよ!オラァァ、来いよ!!」


 モーニングスターを振り回し威嚇してくるヒャッハー君にリオンは変わらずニコニコしている。


「実力差も感じ取れない奴がよくシルバー級冒険者になれたもんだな。しかもプロレスじゃねえんだから技の出し合いでもするつもりか?クハハハ、俺もお前みてえなバカは嫌いじゃねえ、嫌いじゃねえが冒険者って奴はどいつもこいつも低レベルなのかね。まあ直ぐ終わらせるのも味気ないから先ずは軽く腕かな。利き腕はまだ残してやるよ、喜べ!」


 馬鹿みたいに無防備に構えるヒャッハー君の左腕を手刀で肩から切り落とす。

リオンの身体能力とスキル効果の相乗効果で相手が認識出来ない速度で切断から断面を焼いて止血まで刹那の間に終わらせる。


「ほら、次はお前の番だぞ?先手は済んだぞ。惚けてんじゃねぇ」

「はぁ?何言ってんだお前、まだ何もしてねえじゃ……ん?あ、れ……?俺、様の腕は?……ぎゃ、ぐぎゃゃぁぁあああぁぁぁぁぁッッ!!!」


 腕を喪失した事を視認し、脳内で処理が始まるのに伴って痛覚も仕事を急速に開始し肉体に激痛を齎した。

結果としてヒャッハー君は地面をのたうち回る事になる。

その無様な姿にリオンは先程から変わらずニコニコ笑顔だった所から一転不快気に眉を寄せ、周囲の野次馬や受付嬢達は呆然とする者や吐き出す者など場が騒然とする。


「うるせえなお前。腕が落ちたくらいで喧しい奴だな。さてマリー、さっきお前が言ってた通り、低レベルなアイアン級冒険者のか弱いか弱いリオン君はとっても強いシルバー級冒険者に絡まれて自衛しただけだから罰則その他諸々はそこに転がってる喧しいゴミにでも請求するんだな。マリー?ん?聞いてんのか?」


 目を見開き固まっているマリーに顔を近付け両頬を引っ張る。


「いひゃひゃ、いひゃいれすよ!ッもう!何するんですか!頬っぺたが取れちゃうかと思いましたよ」

「大袈裟な奴だな、こぶ取り爺さんかよ。まあでも人の話を聞かないお前が悪いな、受付嬢なんだからもうちょいしっかりしろ。それじゃ後処理は任せたぞ。用事は済んだから俺はもう行くからな」

「えっ?あッ⁉︎ちょッ、ちょっと待って下さい!もう!散々荒らしてー!」


 口調も普段通りに戻り、いつも通り言う事を言うとさっさと出入口に向かって歩いていく。

その際にさりげなくヒャッハー君の腕を持って帰ろうとした蛇尾を叱り、駄々を捏ねるという事件とあったが「ヒャッハー君みたいになるぞ?」と言うと彼が余程嫌だったのか素直に腕を手放した。


「ねえリオン、良かったんですか?」


 外に出て宿までの道すがらイヴがリオンの服を摘みながら問い掛けるのをリオンは一瞬驚いた表情を浮かべるが直ぐに微笑みに変わり、イヴの頭を優しく撫でる。


「そうかそうか。やっぱりイヴもあの場でヒャッハー君を殺さず生かしたのは不満だったんだな。うんうん、その気持ちは分かるがあの場で殺すと色々面倒臭い問題が発生するんだよ。何事も殺せば解決する訳じゃないんだぞ?イヴもそんな物騒な思考回路になるとは流石に引くな〜。クハハハ、それに多分だがあのヒャッハー君は必ずまた接触してくるさ、暗〜い路地裏とかでな」


 撫でられ満足気な顔からリオンの言葉を聞くとプリプリし始める。


「なッ⁉︎ち、違いますよ⁉︎何で直ぐそんな物騒な発想になるんですか!!」

「クハハハ、異な事を言うもんだな。そんなもん俺が魔物だからに決まってんじゃねぇか。しかしそうか、イヴに感心したのは早合点だった訳か……。数秒前の自分を叱ってやりたいもんだ」

「む、むむぅ……。確かにそうですけど……ってそれはこの際置いといて!そんな事でガッカリされても人を殺める事については永遠に理解する事はないですよ!私が言いたかったのはあんな騒ぎを起こして大丈夫なのかって事ですよ!!」

「お前の思考も普通とは違うレーンを走り始めた気がするけどな、だが確かに俺と同じって訳じゃねえか。んー……まぁいいか、んでさっきのあれは特に問題無い、と思う、殺してないし。後々絡まれたらその都度対処していけばいいだろ。もしかしたら強い奴が現れるかもしれねぇからな。っと、そんな話をしてたら宿に着いたからこの件は終わりだ。明日の分もさっきマリーから依頼受けたから今日は早めに寝とけよ」


 対応が段々面倒臭くなってきたタイミングで宿に着き強制的に話を終わらせリオンが先行すると後ろから、「またあの受付のお姉さんの話だ!やっぱ胸が大事なのかな……」とかぶつぶつ呟きだしたので聞かなかった事にした。

翌日から試験開始日前日までは前日に受けた魔物討伐系の依頼を朝から複数こなして夕方に冒険者ギルドに報告、翌日の依頼を選定して受注し宿に戻り休むの繰り返しだ。

ちなみにヒャッハー君と対峙した翌日に冒険者ギルドに向かうとマリーには何故かお小言という名の説教をくらった。解せん。

それから周囲の冒険者達はリオン達を避けてる様だ。

特に接点を持ちたい訳ではないので避けられても問題は無い。

ヒャッハー君は対峙以降遭遇してないし気配も周辺にはない。

そんな穏やかで退屈な日々も翌日の魔法学院試験日を控えた夜に終わりを告げた、悪い意味で……。

事の発端は宿の部屋に戻り人化を解き、リオンがゆったり寛いでいた時のイヴとのこんな会話から始まった。


「随分小さくなりましたね」

「そのセリフ何回目だよ。まぁ人化より本来の姿の方が落ち着くし擬態だけの方が魔力消費も少ねえからな」


 リオンはキマイラの姿になっているが擬態スキルを使用して普段の半分程の大きさになっているのでゆったり寛げるのである。


「そういえば明日は漸く試験日ですね。そういえばリオンは実技試験は大丈夫だと思うんですけど、筆記試験は大丈夫なんですか?世間一般の常識なんて知ってるんですか?」

「随分と煽ってくれるじゃねぇか絶壁娘。そんなもん余裕に決まってんじゃねぇか」

「ぜ、絶壁じゃありません!もう!そ、そこまで言うのであればテストをしましょう!私は村の学舎では成績トップだったんですよ。早速今から問題を作りますね〜」


 イヴがウキウキしながら問題を作り始め、1時間程で完成したので右腕だけ筆記用具が持てる手にして模擬試験に挑む。

10分もしない内に終了してイヴが寄ってくると訝し気な顔でリオンを見る。


「ん〜?あれ?え、えぇと、リ、リオン、これは……?」

「……ふむ。一言で言うなら……分からん!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇッッ⁉︎なんでもっと早く言わないんですか⁉︎試験明日ですよ!」

(ふぅ、ここまで分からんとはな……。そういや、前世で学校に通った事なんて無かったなぁ。色んな殺す技術ならどっかで詰め込まれてたから偏った知識しか持ってなかったんだな。いや、待てよ、確認は大事だな)


そこまで考え再びイヴを見る。


「先ず確認させろ。この問題はイヴが作ったものだが、これは本当に世間一般の常識なのか?」


 リオンの発言を受け少し不機嫌に頬を膨らませながらある書物を突き出してきた。


「この問題はこの魔法学院から出版されている教科書から抜粋したものなんで間違い無いですよ!」


 簡単に論破され、反論も無く大人しく一夜漬けを敢行する事にした。


「その教科書を覚えれば及第点には届きそうだな。仕方ない……今からやるからイヴは寝てていいぞ」

「いえ、リオンのお手伝いをしますよ!私でも役に立てる事がありますからね!」


 頑固なイヴは手伝うと決めると隣に位置取り、熱心に教えてくるが、リオンはまともに勉強する気など1ミリも無くイヴの説明も右から左に流れていった。


(我秘策有問題皆無也!クハハハ!おい、爺!後はお前の出番だ!頼んだ!)


 前世のリオンの別人格とは思えない程、記憶力などを含めた知識欲が抜きん出ており頭の中に爺辞典があるのは助かっていた。


(ふぉふぉふぉ、リオン含めここの奴等は頭悪い脳筋ばかりじゃからなぁ。この教科書も実に興味深いからのぉ、任せておけ)


 この言葉を聞いたリオンは既に頭の中で今後の遊び場を想定しながら楽しんでいた。

イヴの声をBGMにしながら……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


[ギルド内の一幕]


 リオンとザンバの争いがあったその後、ギルド内では様々な問題が起きていて後処理が大変だった。

ヒャッハー君ことザンバは本来であれば除名処分になる所だったが格下ランクの冒険者に敗北した事もあり厳重注意とシルバーからブロンズに降格した。

切断された腕は教会の回復魔法師によりくっつけてもらった。

そんな中、この事件の原因であるリオンと最も接していた受付嬢こと、狐人族のマリーがギルドマスターの部屋に呼び出されていた。

室内にはマリーの他には煌く金髪に垂れ目の碧眼に尖った耳をしたエルフの美女である、全受付嬢を束ねる副ギルドマスターのサーシャと加齢による白髪と無精髭を生やし歴戦の戦士を思わせる力強く切れ長の目をした筋骨隆々の男、ギルドマスターのダバンの3人がソファに腰掛けている。


「マリーよ、報告書も読ませてもらったがもう一度そのリオンという男とその連れについてお主の口から話を聞かせてくれるか?」


ギルマスが重々しく呟きマリーに催促する。


「分かりました。えぇとリオンさんはアイアン級冒険者として本日昼前くらいに初めて来られました。お連れさんは魔人族の少女のイヴさん、彼女もアイアン級冒険者ですね。それと金髪と銀髪の人族の少、いえ、幼児が2人です。この子達に関してはよく分かっていませんね。事件に関してはリオンさん達が夕方に依頼を終えて報告をしに来た際にシルバー級冒険者のザンバさんが一方的に絡んできた印象でした。理由は分かりませんがザンバさんは事件当日お酒が入っていたので単純に新参者のリオンさんに対して態度が大きくなってしまったものと思われます」


 一気に話し終え、マリーはテーブルに出された紅茶を飲み喉を潤す。


「その絡んだ結果、返り討ちに合い腕を落とす羽目になったと言う訳だな。……マリーよ、お前から見てリオンという人物の印象はどうだ?」

「野性味溢れ紳士的で素敵な男性です!!」


急に声を上げるマリーに2人とも軽く仰反る。


「マ、マリー?容姿が貴女好みの男性という事は良く分かったわ。次は容姿以外を教えてくれない?」


 副ギルマスのサーシャが嗜めるとマリーは顔を朱色に染め恥ずかしそうに俯く。


「し、失礼しました。そ、そうですね。他には……あッ!そう言えば嘘か真かはあやふやになりましたが、今まで討伐した魔物の種類を聞いた際にはアルザスの街近郊にある森に居るマンティコアやプロガノケイノス、ここに来る際に通った北の大山脈に居るグリフォンを討伐したと言ってました」


この発言で2人が絶句する。


「な、なんだとッ⁉︎マンティコアやグリフォンはゴールド級相当の強さだし、プロガノケイノスに至ってはミスリル級以上の強さだと噂されるくらい希少な魔物じゃねぇか!」

「ね、ねぇマリー?疑う訳じゃ無いんだけど、本当にあのプロガノケイノスを討伐したのかしら?」


 2人とも半信半疑にマリーを見詰めるが彼女も困惑しながら口を開く。


「どれも討伐部位などの証拠がある訳じゃ無いですし、プロガノケイノスに関しては討伐ではなく敗走だと仰ってました。でもザンバさんとの一件を考えると討伐出来ても不思議じゃないなぁと思いましたよ」


 困惑気味に語るマリーだが討伐した事を疑ってない雰囲気に2人は訝しみながら顔を合わせ再びマリーに視線を向ける。


「何故そう言える?ザンバとの一戦で何を見た?」


ギルマスがそう問うと、マリーは少し俯き考えるとすぐ視線を2人に戻す。


「何を、ですか……正直、私の目では何も見えませんでした……。気付いたらザンバさんの腕は切り落とされていましたし、後で確認したら切断面は焼いて止血されていて失血死しない処置までされていました。視認されない速度で斬り落とすだけでも難しいのに更に切り口を焼くなんてどうやったのか私には理解すら出来ません。しかもその時リオンさんは武器らしい武器は何一つ持ってませんでした」

「五感が鋭い獣人の中でも特に感覚に優れているマリーにも捕捉出来ない程の速度って……。しかも武器の類いを所持していないですって⁉︎どうなってるのかしらね……その話だけ聞くだけでどう考えてもアイアン級の強さでは無いわね」

「確かしその馬鹿げた能力も気になるが、先程マリーがアルザスの街近郊の森と言ったな……。それは間違い無いか?」


 額に脂汗を浮かべ問い掛けるギルマスのダバンに眉根を寄せ、マリーは頷く。


「え、えぇ、それは本人の口から聞いたので間違い無いかと……それがどうかしたんですか?」


 マリーから当然の疑問が飛ぶが、ギルマスは暫し無言を貫いたが2人の視線に一度ため息を溢し、「ここだけの話」と前置きして語り出した。


「ワシは他国からも色々と情報を集めていてな、アルザスの街にも間者を放っておったのだが、先日突如アルザスの街に居た間者からの定期連絡が途絶えたのでな、早急に原因究明の為に別の者を調査に向かわせたんだがな…………そのアルザスの街が消滅しておったのだ、跡形も無くな……」

「「なッ⁉︎」」


サーシャとマリーは絶句し言葉を失う。

暫く沈黙の空間を維持するがギルマスがカチャリと紅茶を一口飲むと話を再開させた。


「だがこの件に彼が関わっているか分からんがタイミング的にも何か重要な情報を知っている可能性もある。彼等の今後の予定などは把握しているか?」

「い、いえ、そこまでは伺ってません。ですが、翌日分の依頼も受注していきましたので明日も足を運んでくれるかと思います」

「分かった。では、ザンバの件は本人に既に通達した事で終了とし、リオン達に関しては引き続きマリーを専属担当とするので上手く情報を引き出してくれ」

「専属ですか?やった!頑張ります。話は以上ですね?では本日はこれで失礼します」


 マリーは顔を綻ばせルンルンと部屋を後にする。

彼女が出て行った部屋内では額に手をやり溜息を吐くダバンとサーシャ。


「やれやれ、してお前はどうすればいいと思う?」

「そうですね……アルザスの街の件に関与しているかは今の時点では断言出来ませんが、実力は相当だと思いますので他国に目を付けられる前に抱き込みたい所ですね」

「ふむ、やはり同じ結論になるか……。しかしまだ未知の部分が多過ぎる。少し見極める時間が必要だな、監視の者を付け暫し保留だな」


 そうして話がひと段落してダバンはテーブルに残った冷めた紅茶を一気に飲み干し再び溜息を吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る