第55話 終結

 クティノスダンジョン最奥に現れた新種の魔物、骨狼。

一度は討伐したかに思われた半分以上白骨化した狼人の様に二足歩行の存在。

そんな骨狼はあろう事かコボルト上位種を捕食する事で進化を果たし、完全な肉の身体を持つ魔狼へとなった。

その圧倒的な力の前に防戦一方だったイヴ達はひとりの犠牲を出した事をきっかけに最後の手段を取る事にした。

全員の意思を統一させ逃走、脱出から捕縛、無力化へとシフトしていった。

しかしそのためには魔狼に接近し、直接隷属の首輪を嵌める必要があるのだった。

その任務をダズに一任するとイヴは突貫した。

再び魔狼とイヴが正面から打ち合い、リヴァイスがタイミングを見ながらイヴの左右から獣化した両腕で攻撃する。

エリーゼとフェルトは2人に支援魔法を掛けながら魔法で追撃していく。

それに少し遅れて他の面々も攻撃に参加していく。

ガートランドはイヴ達に迫る攻撃を大楯で捌き守りに徹しており、モーリスは大楯で視界を塞いだ影から毒や麻痺などの状態異常を付与した短刀で攻撃している。

ヴァンダレイとラグエルンストはエリーゼとフェルト同様に支援魔法や魔法攻撃を行い、それに追加で回復魔法と魔法障壁をプラスして前衛の生存率を僅かに上げていた。

精霊乃燈の面々は前衛が多いと判断し中衛から後衛に陣取り、ローランとサルマの2人は牽制の投げナイフで妨害に徹しておりフリストフォルとダリアの2人は魔法攻撃と支援魔法、回復魔法に徹している。

更にコルテス親衛隊だった傭兵のザイナも護衛する存在が居なくなったので渋々といった雰囲気で参加している。

実戦経験が豊富な彼は初の共闘にも関わらず他者の邪魔にならず全体の動きを把握しながら的確に魔狼に攻撃と防御、離脱を使い分け戦闘に貢献していた。

そして最後のひとりであるダズは警戒されない様に中衛よりやや後衛寄りの位置に陣取り、味方の支援に徹して隷属の首輪を着装する隙を窺っていた。

魔狼1体に対して14人もの冒険者が代わる代わる攻撃を加える光景は第三者から見れば集団虐めにも見えるが、当事者からしてみればクソ喰らえだと毒も吐きたくなるくらいのものだった。

四方八方から繰り出される斬撃や投擲、魔法その全てを魔狼の斬撃や反射神経による回避によって往なされる。


「どう、なってんのさ!死角から、狙ってるってのに、後頭部に目ん玉でも、付いてんのか!」

「それも、あるけどよ、俺にはイヴとあのクソ魔狼の打ち合いすら、目で追えねえんだけど、あれで俺等より等級低いとか、笑える」

「それもあるけど、それに的確に合わせられるリヴァイスも凄いと私は思うよ……。でもアイツも避けるって事は無効化はされないって事だと思うからもっとガンガン行くぞ」


 ローランとサルマが動きながら現状を吐露しているとダズが横に並び鼓舞する。


「それでダズさんよぉ、まだ隙は見つけられねえのか?」

「んー、そうだねぇ。まだその時ではないと思うけど、そこまで長引かせたりはしないさ。それまでは君達もよろしく頼むよ」


 それだけ言うと再びダズは後衛に下がると全体を俯瞰し始めた。

中衛と後衛は魔狼の攻撃が今の所来ていないので警戒はしているがまだ余裕がある様子だった。

しかし前衛は凄まじい攻防の暴風が吹き荒れていた。

パリンパリンと障壁が砕ける音が常に響き、キィンと金属が打ち合う甲高い音、衣摺れや息遣い、攻撃が空を切る音など一瞬の判断ミスが死に直結する様な生と死の狭間。

前衛に居る面々は背後を気遣う余裕など無く、目の前の魔狼の一挙手一投足に神経を集中させ次の行動、次の次の行動を予測し剣を振り腕を撓らせ、大楯の角度を手指に意識を張り巡らせ数度の誤差さえ敏感に感じ取っていた。

彼等彼女等も今まで強敵と相対した事もあり、死の気配を感じた経験もあったがここまで濃密な死が常に身体中を支配し本能を総動員して抗う経験は無かった。

ヒトという生物は死への恐怖などマイナスベクトルに直面した際、逆ベクトルである生への渇望が多種生物の中で一番大きく働く。

ただ逆にマイナスベクトルに潰され自害するものも多種生物の中でトップクラスなのがヒトという生物だ。

しかしだ、今この場に居るのは自害などする弱者や抗う事を放棄したニヒリズムではない。

そんな彼等彼女等が現在直面している『死』に抗う様に『生』への渇望が今この場で全員の戦闘力を普段の実力以上に飛躍的に向上させている。

本人達もアドレナリンやエンドルフィンなど脳内物質は知らずとも一種のゾーンに入り、気持ち良いくらいに身体が軽く闘争寄りに思考が冴え、敵の動きが多少は良く見えている事だろう。

そんな万能感を味わっているイヴ達と相対している魔狼は更なる高揚感に浸り徐々に理性を飛ばし掛け力加減の枷にバキバキと亀裂が入り始めていた。

前衛組にはそんな小さな異変に気付く余裕と思考状態では無かったがダズにはその小さな変化を感じ取れたのか警戒されないギリギリの範囲で魔狼に接近していった。

暫くジリジリと接近していったダズがゾクリと一瞬血が凍る程の悪寒を感じピタリと動きを止めた。

すると前方からとても流暢に、快活に、愉快に喋る、魔狼の姿があった。


「クハハハハハ!!あぁ、楽しい!楽しいなテメェ等!やっぱこうでなくちゃな!!アハハハハ!!いい、いいぞ!!死を肌で、本能で感じ、仲間という存在をよりよく濃く知覚すること、更にその存在同士のチームワークがテメェ等の存在値を更に高める!個人がゴミでも群れる事で極端にプラスにもマイナスにもなるテメェ等ニンゲンは本当、楽しくて愛しくて、ハハハハハハハハハハハ!反吐が出る!」

「アハハハハ!あぁ、あぁ、やっと!やっと会えた!アナタが消えた日からずっとずっと、ずっと謝りたかった会いたかった触れたかった認めてもらいたかった!私が弱いばかりに、アナタに酷いことをしてしまった……ねぇ、今はどうかな?私はアナタの期待に応えられている?私はアナタを楽しませることができている?ここまでの努力はアナタが納得できるものだった?」

「どうだったか、だと?ククク、クハハハハハ!そんなもん自分自身で理解してんだろうよ。単身突っ込んできた時は殺意が漏れたがなかなかどうして、今のこの状況!!最高じゃねえか!まだまだテメェ等は弱々で俺としては不満だらけだが、まあ及第点ってとこじゃねえかぁ」

「もう!アナタの強さと私達の強さを比べても意味無いでしょ。でもホントのホントにアナタなんだね……なんですぐ帰ってきてくれなかったの?」

「あぁん?それはお前等が弱いのが悪りぃな。帝国にはもうちょっと骨のある奴が居たからな。この国はもう見たからな、特に興味ある奴も居ねえし別にすぐ戻る必要性も感じなかったからな。途中でリノアとか拾っちまったし、なんならそっちで面白そうな事もあったからなぁ」

「あっ!そうだよ!そのリノアって人はアナタとどういう関係なのッ!?聞いてないんだけど!!」

「ん?なんか少し会わねえ内に口調変わったか?記憶の最後だとお前は敬語だった気がすんだが……まあいいか」

「よくない!ちゃんと説明して!!……それはそれとして念話じゃなくそんなペラペラ話していいの?」

「んあ?…………ふむ、確かに気付いたら念話じゃねぇなコレが、まあ……問題ねぇ。それよりイヴ、お前はなんで口調変わってんの?大人の階段登ったか?」


 最早2人の世界を構築する魔狼とイヴだがこの間も壮絶な撃ち合い斬り合いが続いていた。

そんな2人の会話内容に数人がピクリと反応し攻撃の手が緩みかけた瞬間、魔狼の背後から影が忍び寄る。


「そ、それは……久しぶりだったから、少し気が緩んで、あっ!?ダズさん!ダ、ダメ!!」

「ん?」


 暢気な声と共にガチャンと重厚な音が空間を満たす。

その瞬間先程までの剣戟音や魔法の破裂音が止み暫くの間黒煙で魔狼の姿が隠された。

数秒もするとエリーゼが放った風魔法により黒煙が晴れるとそこには隷属の首輪を付けられ脱力した姿の魔狼が居た。


「ハァ、ハァ、ハァ……ハ、ハハ、ハハハハハ!成功だ!これで奴はもう動けない!!我々の勝ちだァァ!!……フゥー、さてと……イヴには色々聞きたい事もあるが今はコイツを鑑定する方がいいな、格下とは思えなかったしもしかしたら失敗するかもしれないけど一応、ね……『鑑定』」


 ダズがチラリとイヴに視線を向けるもすぐに魔狼に意識を移すと持っていた鑑定石に魔力を流し全員に情報共有した。

ダズの予想は逆の意味で裏切られる形となった。

暫く待っていると全員の目の前に神の御技であるステイタスボードが浮かび上がる。

それに目を通した1人を除き全員が絶句する。


「な、なんだ、これ……」

「お、おいおい、冗談、だろ……」

「コイツ……ホ、ホントに遊んでただけだったんだね……」

「これがついさっき進化したばかり、じゃと!?ありえん!」

「まさか、これ程とは……精霊が怯えるのも理解できるな」

「強者故の油断が敗北に繋がったって所か。強くても所詮魔物ってことか」

「キ、キマイラってあの伝説の……?」


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[***]種族名:アビスキマイラ[新種]

[Lv.89]

[剣術Lv.6]

[短剣術Lv.2]

[槍術Lv.2]

[斧術Lv.2]

[棍術Lv.5]

[拳術Lv.5]

[弓術Lv.2]

[投擲Lv.5]

[威嚇Lv.9]

[威圧Lv.9]

[状態異常無効]

[気配察知Lv.8]

[気配探知Lv.8]

[精神分裂]

[念話]

[思考加速Lv.6]

[鑑定Lv-]

[魔力操作Lv.8]

[魔力制御Lv.8]

[火魔法Lv.5]

[水魔法Lv.5]

[風魔法Lv.5]

[闇魔法Lv.9]

[光魔法Lv.6]

[土魔法Lv.1]

[火属性耐性Lv.7]

[水属性耐性Lv.7]

[風属性耐性Lv.5]

[土属性耐性Lv.3]

[闇属性耐性Lv.9]

[光属性耐性Lv.8]

[身体超越化Lv.8]

[剛腕Lv.8]

[堅牢Lv.8]

[自己再生Lv.9]

[擬態]

[人化の術Lv-]

[咆哮Lv.7]

[裁縫Lv.2]

[料理Lv.5]

[建築Lv.2]

[曲芸Lv.2]


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 呆然とステイタスボードを眺めていた一同だがバキンと鑑定石が突如砕けるとステイタスボードもそれに合わせ消えた。

唯一登録していなかったザイナだけは周囲をキョロキョロし安全だと判断すると崩れ落ちる様に地面に胡座をかく。

残回数に余裕があった筈の鑑定石が予想外にも砕けた事で一番に正気に戻ったダズが次の行動に移すために真っ直ぐイヴに近寄り両肩を掴む。


「おいイヴ!一体コイツはなんなんだ!?君とはどういう関係なんだ!?おい!聞いてるのか!!」


 ダズに肩を揺すられるイヴだが、当の本人は顔面を蒼白にさせガタガタと震えていた。

その異常さに詰問していたダズもたじろいだ。

だがイヴも何かを必死に伝えたいのかカチカチと鳴る歯音を必死に抑え、指を差し言葉を紡ごうとしていた。

ダズが困惑しているとイヴの左右からエリーゼとフェルトが抱き着いた。


「落ち着いてイヴ、もう大丈夫、大丈夫だからね。もう帰ろう」

「そうだよイヴ。もう終わったんだよ、帰ろう」


 暖かく柔らかい抱擁に少し落ち着いたイヴに2人ともホッと胸を撫で下ろすが次にイヴから出てきた言葉は予想したものの中で最悪の情報だった。


「ま、まだ、です!今すぐ、そこから逃げて、お願い!」

「「え?なに言っ、」」

「グルルルル、ガアアァァァァァァァァァァァァァ!!!」


 エリーゼとフェルトの言葉が存在を拘束した筈の魔狼の咆哮により掻き消され、空間全体を覆う程の濃密な殺気を浴びその場に居る人間の存在を拘束した。

空間全体の壁面が咆哮の音波に耐え切れずバキバキと亀裂が入り、凡そ60%が水分で構成されている人体の内部から掻き回され、立って居られず膝を付き損傷部位から再び流血し始めた。


「ガハッ、な、何が、起きた……」

「お、おい、おい、嘘、だろ……」

「み、みなさん、早く逃げて下さい!!ここは私が抑えます!!さぁ、早く!!」


 ダズとガートランドが呆然と言葉を垂れ流したのに対してイヴは全員を逃すために僅かな時間も勿体無いと言わんばかりに大声で退避を呼び掛けた。

しかしそんなイヴの叫びを嘲笑う様に事態はイヴ達にとって悲運な方向に傾き、それはひとつの音から始まる。

パキンと金属が割れる高音が耳朶に響く。

イヴ以外は背を向け逃走しているので見えない筈だが、何が起きたのかは全員が理解した。

あぁ、隷属の首輪が壊されたのだと。


「やああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「失せろ!!」


 イヴの気合いの入った声が仲間達の耳に届いた瞬間、今までの魔狼では無い誰かの一言が入ると同タイミングでイヴが壁面にめり込んだ。

背を向けるのを危険と判断したダズ達が振り返ろうとするが突如視界と意識がブレ、イヴ同様壁面にめり込んだ。

先程の優しく意識を刈り取られた時と違い、今度の一撃は足や腕、肋骨などの骨を砕くには十分な威力が備わっており激痛により気絶したとしても即座に覚醒させる程の殺意がのっていた。

幸か不幸か全員壁面のオブジェになったが誰一人として死んでいなかった。


「あぁ、気分悪りぃ。興が削がれた……もういいよお前等、死ね」

「それは困るな〜」


 魔狼は一番近場に埋まったエリーゼに黒骨を振り下ろすと再び聞いた事がないその場に似つかわない陽気な声がした。

魔狼は気にせず黒骨を振り抜いた。

直撃する直前エリーゼと黒骨の間に数十枚に及ぶ障壁が発現した。

パリンパリンと薄氷の如き脆さで簡単に障壁が割れ続けるが破壊される度に次々と生成され、エリーゼに迫る死を遅らせる。

しかしそれも悪足掻きの如き遅滞で確実に死が迫っていた。

数秒程の延命も終わり全ての障壁が割れ、黒骨がエリーゼ含め周囲の壁を爆発四散させる。

土煙が周囲の視界を遮り、魔狼が煩わしそうに手を振ると不自然な風が吹き視界を晴らす。

振り下ろした場所には既に誰も居らず、魔狼が緩慢な動きで振り返るとエリーゼを抱きしめたエルフ族の女性が魔狼を凝視していた。


「…………誰だテメェ」

「弟子のこの子が随分世話になったみたいねぇ〜。でも申し訳ないけど大事な大事な弟子を殺される訳にはいかないのよね〜」

「テメェの気持ちなんぞ聞いてねぇ」

「……知ってると思うけど、もう一度自己紹介からって事ねぇ、いいわ〜。私はスクルプトーリス・ルベリオス、このリンドブルム魔法国家にある学院の学長をやってるわ〜。さぁ次はアナタの自己紹介をしてもらおうかしら〜?」

「………名前なんてねえよ、ソイツ等みてぇに好きに呼べ」

「………ねぇアナタ、リオン君よね〜?どうしてそんな姿なのかは分からないけれど、冒険者同士の争いは禁止だし殺める事は普通に犯罪行為よ〜?何か言い訳があるのかしら〜?ってあぶないなぁ」


 ルベリオスの問い掛けに魔狼は暫く沈黙したが、結果対話では無く物理攻撃を選択した。

しかし予期していたのか攻撃が掠るが障壁で逸らされてしまう。

魔狼はその後も攻撃を継続するもパキパキと障壁を割るだけで直撃を避け続けるルベリオス。

時間にして数分程度攻防していると次第にルベリオスの身体に切創が増え始め、追い詰められていく。


「やれやれ、さすがにこれ以上長引かせるとイヴさんが死んじゃうと思うよ〜」


 焦る事無く呆れ気味に突然イヴの話を引き合いに出したが魔狼はイヴに視線を向ける事無くルベリオスに攻撃し続けた。

更にルベリオスが劣勢に追いやられ、他の対応策を模索していた最中突如魔狼が攻撃を止め脱力した様に黒骨を下げた。

ルベリオスが訝しみながらも周囲に意識を巡らせていると目の前からとても人間くさい長い溜め息が聞こえる。


「………ハァァァァァァァァァ、もういい」

「……どういうことかしら〜?」


 魔狼はスクルプトーリス・ルベリオスを視界に入れると突如、煙幕の様な黒い魔力を周囲に撒き散らす。

警戒したルベリオスだが、突如目の前の魔狼がグシャッと音を立て潰れた。

「え?」と彼女も予想外の出来事に混乱しそうになるが後方から魔法残滓を感知して振り返った。

するとそこに居た人物に今度こそルベリオスは間抜けな顔と間抜けな声を発した。


「あ、え?なんで君がそこに?君は今目の前に……?」

「ハァ?何言ってんだ?ボケたのか?おばあちゃんかな?」

「……み、妙齢の女性におばあちゃんとは感心しないな〜。そんなんじゃモテないよ、リオン君」


 軽口の応酬でルベリオスが平静さを取り戻す。

その様子にリオンは表面上無表情で応じた。

終盤面白くなってきたと思ったら横やりで台無しになったが、結果程々には満足できたので良しとしようと思い、未だにジト目のルベリオスを無視して壁にめり込み気絶しているイヴを発掘し始めた。

その姿を見たルベリオスも不承不承といった感じに呻きながらオブジェと化している冒険者達の発掘を開始した。



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[盤楽遊嬉]



 時は遡り、リノアが冒険者ギルドに依頼書を持ち込んでいた時キマイラであるリオンは本来の姿に戻りウキウキしながらクティノスダンジョンを最深部に向かって歩きながら今後の予定について同居人達と話し合っていた。


「さて、リノアが黒獅子に指名依頼を出したからイヴは間違い無く食い付くだろうな。オマケで数組付いてきたらもっと楽しくなるよなぁ」

「『黒獅子』って〜キャハハハ、イヴちゃん未練タラタラで笑えるよねぇ〜」

「美味しいご飯持って来てくれるのかなぁ?楽しみ〜」

「リオンが渡した鍛錬マニュアルをしっかりやってると仮定したらだいぶ強くなってるんじゃないかしら、楽しみね」

「グルルルル。だが、あの小娘もあれ程鍛えてやったにも関わらずあの体たらくだぞ?」

「まあそう言ってやるな、家族の価値なんて俺には理解できねえがイヴにとっては大事な物なんだろうよ。その逆境と鍛錬マニュアルで強くなってりゃ俺も楽しめるからな……だがまあ珍しくロンの言う事も最もだがリノアとイヴでは覚悟がちげえからなぁ。ただパーティを組んだ事でそれがどう転んだかは会ってからのお楽しみって所だな、クハハハ!」

「殺すぞ!」

「いちいちキレんな面倒臭えトカゲだな」


 向かってくる魔物を消し飛ばし話に花を咲かせながら最奥へと歩を進める。

途中潜っていた冒険者もちらほら居たが魔物と同様消し飛ばした。

そんな特に面白味もなく最奥に辿り着き、ダンジョンボスをこれまた消し飛ばした時不思議な気配が壁内を高速で移動している事に気付いたリオンが闇魔法を弾丸の様に射出すると高速移動する気配を撃ち抜いた。

パキンという音が壁内から聞こえ、掘り起こすとそこには微弱に光る人間の拳大程の球体だった。


「ん〜?何だコレ……結構な魔力が入ってる、器?俺が開けた穴から魔力が漏れてんな」

「おお!おおおぉ!リオン!それはダンジョンコアじゃな。本来はダンジョン内を自由自在に移動する存在で捕捉できた話しは聞いた事ないぞぃ。噂によるとダンジョンコアを奪うとそのダンジョンを支配できると言われておるの」

「へぇ〜そりゃ面白そうだな。……んで?こっからどうすりゃいいんだ?」

「もう〜リオンはホントにおバカさんなんだから〜。そんなの簡単だよ、『俺色に染めてやるよ』って言えばいいんだよ〜キャハハハ」

「そんなのダメだよオピスー!その言葉はわたしに言うべき!言って!早く!リオン早く言ってー!」

「うるせぇ黙れ、お前は俺だろうが何言ってんだ。いやしかし俺色に染める、か……こうか?おっ?」


 リオンが徐にダンジョンコアに魔力を流すと徐々に光源が強まり、最終的に真っ白に発光するかと思ったがリオンの魔力の影響なのか穴が塞がると同時に漆黒の玉が出来上がった。


「あーあぁ、リオンが腹黒だからこんな色になっちゃったよ〜」

「わたしは腹黒のリオンも好き〜」

「はいはい貴女達、静かにしましょうねぇ」

「のほほぉ!どうじゃリオン、何か変化はあったかのぉ?」

「んー、おっ?おぉぉ、このダンジョンの内部構造が頭ん中に浮かぶなぁ、他にも色々できるっぽいからこりゃ要解析だな。いやぁこれはいい棚ぼただなぁ、今回の作戦にピッタリじゃねえか」


 その後イヴ達が侵入してくるまでの間解析と実験を続けた結果、現在行使できる能力は3つとなった。


1.ダンジョン内を監視可能

2.ダンジョン内に出す魔物の強さ、場所を調整可能

3.ダンジョン内を自由に移動可能


 全てにおいて魔力を消費するがリオンにとっては微々たるものなので本人はあまり気にならない様で湯水の如く使用していた。

解析と実験の合間の気分転換として精霊乃燈の斥候メンバーを撃退したりと着々と準備を進め、遂にダンジョン周辺が騒がしくなってきたのを感じたリオンが最終確認のため円陣会議していた。


「そろそろアイツ等が入ってくるが、とりあえず先ずは各々の戦力調査だな」

「えぇ〜面倒くさいからよわよわな人は早く殺しちゃおうよ〜」

「まあまあ落ち着きなよルプ〜。人は連携すると強くなるんだよ〜」

「それって前リオンが言ってたことじゃ〜ん。オピスは食べ物のことしか考えてないでしょ〜」

「えぇ〜ルプひどーい!食べ物以外のことも考えてるもん。たとえばね〜…………………でもお腹空いたから休憩しよ〜?」

「はいはい、アナタ達はコレでも食べて黙ってましょうねぇ」


 ツバサが取り出したコボルトの丸焼きを数体金銀幼女に与えて黙らせるとリオンに話を振る。


「第一層は各々のチームの戦闘能力を見るのは分かったわ。それで他はどうするの?」

「あぁ、それなんだがこの低レベルダンジョンだと上位種を強引に出現させんのは限界があってなぁ。散らす必要があって各階層で1〜2回が妥当な所だな」

「そうなの?案外ショボいわねぇ。でもそんな戦闘回数だと戦力調査なんてできるの?」

「ショボいのは俺のせいじゃねぇ。まあそこら辺は考えがあってな、二層までは上位種を出さずに雑魚をちょろちょろバラ撒いて、三層から上位種、連携、異端を混ぜながら楽しむ作戦だ。クハハハハハハ」

「そんな事言って殆ど無計画じゃないの。まあ楽しむのは同意するわ」

「ひゃひゃひゃ!魔物はワシが改造したからのぉ。少しは苦戦してくれると有り難いがどうなるかのぉ」

「わたしも戦いたーい」

「わたしもー!」

「俺等が楽しむのはアイツ等がここまで来た時が本番だからなぁ。それまでは観戦映像でも見て楽しもうじゃねえか」

「くだらねぇ!少しは我を楽しませろ!」

「うるせえクソトカゲ」


 和気藹々と進行していた円陣会議も終わるとタイミングを見計らった様にイヴ達がダンジョン内に入ってきた。

特に問題無く階層を進んでいき遂にイヴ達は最奥のダンジョンボスの大扉前まで到達した。


「なあなあ、コボルト達弱くね?えっ?上位種ですらこんなクソ雑魚なの?全然参考にならねえじゃねぇか!おい爺どういうことだ!」

「ふぇふぇふぇ、バカ言うもんじゃないぞぃリオン。確かにコボルト達はあまり強い魔物じゃないがのぉ、そこはさすがゴールド級冒険者と思う所じゃろうなぁ」

「はぁ?んじゃなにか?あの冒険者が強いからあんなサクサク進めてるってのか?」

「そこまでは言っておらんじゃろう、相変わらずバカじゃのお主。じゃが今嗾しかけているコボルト達よりかは強いという事じゃろうなぁ」

「でもイヴがいなかったら死んでた人も居たよおじいちゃ〜ん」

「………ほほほ。オピスよ、個々の戦力には偏りがあるものじゃよ。足を掬われるとはこの事じゃな、油断しておる奴の末路じゃわい」

「そんなもん〜?」

「そんなもん〜?」

「黙れ幼女ども!だが、ふむ……そうか、なら作戦を変更していきなりボス戦の方が楽しそうだな。少しRPG要素を加えるか、クハハハ!面白くなりそうだな!」

「わぁ〜リオン楽しそう〜」

「キャハハ!わたしも楽しみ〜」


 楽し気に作戦を再構築していくリオンが高笑いしながら場を整えていく。

大扉の外の気配が徐々に近付くのを察知すると作業は大詰めを迎え、全員が配置に付き暫くすると大扉が錆び付いた音を発しながら開け放たれる。

ワクワクしながらリアクションを待っていたリオンは早速イヴが空間を絶叫に満たした事に満足気に心の中でニコニコになりながら突貫してくるイヴを撃退する。


(上手くいったなぁ、ダンジョンコア凄えな。召喚した魔物の視線を介してアハ体験ばりにゆっくり幻術が掛けられんだからなぁ)

(でもさすがに直接掛けるより強度が弱いからアナタだけじゃ殆ど抵抗されちゃったじゃない)

(そうだよ〜。リオンがだめだめだからわたしも頑張っちゃったじゃ〜ん。余計お腹空いたよ〜)

(リオンの役に立てて良かったよ〜。最近はリオンの周りに変な女が蛾みたいに群がってるからわたしのリオンが毒されないか心配だよ〜)

(みんなのリオンさんの俺としては全員で協力して魔法行使できたのは良い事だと思いまーす)

(棒読みもそこまでいくと清々しいわねぇ)

(まあそんな事はどうてもいいんだよ。それよかイヴは相変わらず弱えなぁ。さては俺が居なくなってから鍛錬サボってやがったなぁ。ハァ……まあ個人の実力に関しては今回の遊びにはそこまで重要な要素ではねぇから今後に期待、だな。それよかイヴなんかよりリヴァイスは面白えな。今はまだ腕だけだが全身獣化するとワータイガーみたいになんのか?ならねえって事は制限付きか?余裕かましてるだけか?んー、気になる、面白い)

(ふぉふぉふぉ、リオンは鈍感馬鹿野郎じゃなぁ。ワシには分かるぞい、イヴちゃんはお主の期待に応える為にちゃーんと鍛錬しておったに違いないわい)

(…………続きをどうぞ)

(ハァ……仕方がないのぉ、バカなお主は少しは視野を広げるべきじゃな。イヴちゃんはあの連中の中じゃと何個か頭飛び抜ける程強くなっておるぞ。パーティのエルフ、羊、虎と一緒に鍛錬したのか全員が無詠唱魔法もある程度使える様じゃからのぉ)

(ふむ……確かに爺の言う通りなのかもしれねえなぁ。ただそんな事より気になるのが……前から『イヴちゃん』なんて呼んでたか…?気持ち悪りぃな)

(なぁに言っとるんじゃバカ者!イヴちゃんはワシの孫じゃ!可愛い可愛い孫じゃ!)

(リノアといいイヴといい最近お前等マジで脳内バグってんのかよ。あっ、イヴの奴天狗になりやがったのか?チームワークで戦力を引き上げろよ!学ばねえ奴だな)

(彼女なりに頑張ってるんだからそんな事言わないの)

(お腹空いた〜誰か食べていい〜?)

(イヴちゃん食べちゃってー)

(いいの〜?)

(良いわけねえだろ!静かにしてろ幼女ども。つーかさっき爺が言ってた事も理解できるが、それでもこんな弱えのにイヴの脳筋戦法って終わってんだろ。死んだらそれで終わりなの分かってねぇのかぁ?1回飛ばすかぁ、打ち合いも飽きたしな)

(たーまやー)(かーぎやー)

(これで少しは周りの奴と協力すんだろ)

(あら?どうやらアナタの希望通りになるみたいねぇ)

(まあアイツ等の会話も聞こえてっからなぁ、当然っちゃ当然だな。だがこれで面白くなってきたなぁ。やっぱ片腕を砕いた事であと少しで勝てると勘違いしてくれたみたいだな)

(あぁ、あの虎の人足まで変化したぁ〜)

(美味しそう〜)

(ちょっと速度が上がったわねぇ。でも身体強化してそれじゃぁ遅過ぎるわ、欠伸が出ちゃうわねぇ)

(その程度なのは分かりきってた事だろうが。俺も暇になってきたから次の段階に行くか。RPGの醍醐味、ロマン、イベント回避不可避!!ボスの第二形態!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!)

(リオン楽しそう〜キャハハハ!)

(なになに〜?楽しいの好きぃ〜。あぁぁぁ、リオンぼろぼろになっちゃったぁ)

(あの虎男興味深いのぉ。中身が気になって集中できんぞぃ)

(あん?なんだこのハンプティダンプティみてぇな汚ねえ物体、剣でチクチクしやがって!第二形態になったら真っ先に殺す。オピス、演出用のエサ用にコボルト用意したから食っていいぞ。ん?おっ、イヴは気付いたみてぇだがもう遅えよ。俺、進化ァァァ!!)

(わぁぁぁ、リオンありがとう〜!いただきまーす!)

(わぁぁぁ〜わたしも進化〜!!キャハハハハ)

(楽しそうねアナタ達、ウフフ)

(あぁ、出入り口の魔法消えちまったかぁ。この期に及んでの逃走は許容できねえぞテメェ等!!)

(おいリオン!ちゃんと力加減せんかバカもん!バラバラになったら解剖の楽しみが減るじゃろうが!)

(バラバラなら食べていいの〜?)

(イヴちゃんなら食べていいよ〜)

(ルプは本当にイヴが嫌いなのねぇ)

(だってぇ、わたしのリオンを取ろうとするんだもん!!)

(あぁぁぁ、うるせぇなテメェ等!爺もこれで満足だろ!)

(あーめあーめふーれふーればあさんがぁ〜♪)

(ねえさんじゃなかったっけ〜?)

(そうだっけ〜?忘れちゃった〜)

(狂ってるけどちょっと理性ある演出の言葉って何だろうなぁ)

(リオン遊ぼう〜あめあめ〜)

(リオン遊ぼう〜ちゃぷちゃぷ〜)

(うるせぇ幼女ども!今俺は演出で忙し……ん〜?ん?遊ぼうかぁ、それいいな採用!クハハハ!!強制的に全員の頭の中にBGMみてえにエンドレスリピートで流すとするか。この黒雨で念話の準備はできたみてえだしな)

(あのおデブちゃんまだ生きてるわよ?)

(不味そう〜)

(あのブタ、リオンのこと突いた奴だよね〜。早く殺そう〜。串刺し〜?輪切り〜?細切り〜?丸焼き〜?干物〜?)

(このエルフって確か誰かの弟子じゃなかったか?この気配なんか身に覚えがあんだよなぁ。……まあ面白えから少し遊ぶか、クハハハ!!ドヤ顔で前衛もできるとほざいてやがるが、てんでダメだな。笑えるくらい弱え)

(あのお菓子くれたエルフに似てる〜?)

(耳から似た反応するよ〜)

(確かイヴが通ってる魔法学院の学院長の弟子よねぇ)

(おいリオン!そろそろ我に主導権を寄越せ!)

(ん?何だお前、寂しくて構ってちゃんになっちゃったのかぁ?全然可愛くねえぞ?)

(テメェ!)

(はいはいイライラばっかしやがって、お前は黙ってろ。オピス!ルプ!この駄竜の相手でもしてろ)

(えぇ〜やだぁ、ロンはいつもぷんぷんしてるからめんどうくさーい、キャハハハ!)

(ルプもやぁ〜。リオンに構ってもらいたーい、ロンは少しはリオンを見習うべき)

(なッ!?テ、テメェ等!)

(クハハハハハ!あからさまに傷付いてやがんじゃねえか。笑わせんじゃねえよ腹痛えなぁ)

(殺す!殺す!グルルルル!んあ?失せろゴミがアァァァ!!)

(あぁー!ロンがブタ殺したー!わたしがリオンの仇取ろうとおもったのにー!もう!もうもう!バカー!)

(わぁ〜♪オピスのために血抜きされてる〜♪次はわたしのばーん。枯れ木にお花を咲かせましょう〜キャハハハ)

(あぁー!ひどーい!今度はオピスが抜け駆けしたー!みんなしてリオンの仇をどんどん奪っちゃうよ〜)

(ふむ。とりあえず落ち着けよ)

(ならヨシヨシして!甘やかして!わたしだけを見てわたしだけを褒めてわたしだけをーーー)

(よしとりあえず黙ろうか。まあ邪魔なのが消えたのは良しとするか。それにアイツ等何か画策してやがるなぁ、敢えて聞かずに楽しみにする俺ってばなんて優しいんだろうなぁ)

(くっくっく、ここからがほんと〜のたたかいだぁ〜)

(おれさまがすべてをぶっ潰してやるー!)

(クハハハハハ!ノリがいいな幼女ども!ここからいよいよクライマックスに向けて更に更に楽しくなっていくだろうよ)

(ねぇ、おじいちゃんお茶のおかわり頂戴)

(先程お主の横に置いといたじゃろ)

(注いで頂戴)

(バカ言うではないわ!まったく仕方ないのぉ)

(ありがとう〜おじいちゃん)

(ツバサと爺は何やってんだ?俺の中どうなってんの?アリスのお茶会中?)

(最高級煎茶ね。ちなみにお供は芋羊羹よ)

(和要素強えな!)

(ちなみにロンもいるわよ。文句タラタラだけれどねぇ)

(どうしてそうなった)

(わたしも食べる〜!ルプも行くよ〜)

(いやー!わたしはリオンと一緒にアイツ等を殺すのぉ〜!)

(お前等俺の中自由に動き過ぎじゃね。つーか俺は一度も招待されてねえんだが?あれ?俺の身体だよなぁ)

(だってアナタは興味無さそうだし1人の方が気楽でしょ。あっ、ブロブも来たわねぇ。みんなで観戦でもしましょうか。おじいちゃん、お茶菓子追加して頂戴)

(呼ばれたから仕方なく来たけど面倒臭い所に来ちゃったよ……)

(ふむ。確かに何か全員中に消えると身体が軽くなったな。邪魔な要素が無くなる、つまり毒素が抜けて健康になった感覚か!クハハハハハ、素晴らしい!……コイツ等切り離せねえのか?)

(あぁー!リオンがボソッとひどいこと言ったー!!)

(リオンから切り離されたら僕すぐ死んじゃう自信があるよ)

(またまた〜リオンはオピスと離れたら寂しくて死んじゃうよ〜?すーぐわたしの元に戻ってくるよ〜?)

(ほらほら、そんな事言ってる場合じゃないわよ。わんぱく小僧共が元気に走ってきてるわよ)

(ハハハハ!身体が軽い!前はそんな感覚は無かったのが不思議だが今は最高の気分だ!ノロマな奴等が更に遅くカメみてぇだ!いい!いいな!最高だ!)

(リオン楽しそう〜。わたしが楽しませてあげたかったのにぃ。あっ、そこ!リオンそいつの腕潰しちゃえ〜)

(リオンリオン!その子食べたーい。食べ易くハンバーグに加工して〜、焼き加減はレアでね〜)

「クハハハハハ!!あぁ、楽しい!楽しいなテメェ等!やっぱこうでなくちゃな!!アハハハハ!!いい、いいぞ!!死を肌で、本能で感じ、仲間という存在をよりよく濃く知覚すること、更にその存在同士のチームワークがテメェ等の存在値を更に高める!個人がゴミでも群れる事で極端にプラスにもマイナスにもなるテメェ等ニンゲンは本当、楽しくて愛しくて、ハハハハハハハハハハハ!反吐が出る!」

(あれ〜?リオン無視〜?というか興奮し過ぎて声漏れてるんだけどぉ〜?)

「アハハハハ!あぁ、あぁ、やっと!やっと会えた!アナタが消えた日からずっとずっと、ずっと謝りたかった会いたかった触れたかった認めてもらいたかった!私が弱いばかりに、アナタに酷いことをしてしまった……ねぇ、今はどうかな?私はアナタの期待に応えられている?私はアナタを楽しませることができている?ここまでの努力はアナタが納得できるものだった?」

(わたしのリオンはお前みてえな弱え奴は必要ねぇんだよ!)

(あらあら、ルプはイヴの事となるとおかしくなるわねぇ〜ウフフ)

(グルルルル、イヴは全く成長してねえな。今まで何やってやがったんだ!!)

(ロンうるさい。そういうのは僕が居ない時に言ってよね)

「どうだったか、だと?ククク、クハハハハハ!そんなもん自分自身で理解してんだろうよ。単身突っ込んできた時は殺意が漏れたがなかなかどうして、今のこの状況!!最高じゃねえか!まだまだテメェ等は弱々で俺としては不満だらけだが、まあ及第点ってとこじゃねえかぁ」

「もう!アナタの強さと私達の強さを比べても意味無いでしょ。でもホントのホントにアナタなんだね……なんですぐ帰ってきてくれなかったの?」

(お前が嫌いなんだよ気付けよ)

(でもこの世界で唯一の家族なのよねぇ。気紛れではあったけれど変な子を拾っちゃったわよねぇ)

(わたしはイヴちゃん好きだよ〜。ガリガリで可食部少ないしね〜キャハハ)

(わたしはまだ認めてないからね!あんな弱い子にリオンは任せられないし、わたしが居れば十分だもん!)

(よく言った!弱え奴は必要ねえしリオンを殺すのは我だからな!)

(だからうるさいってば。口から火漏れてるよ、ここ一帯火の海にでもする気?ハァ、これだから脳筋は嫌なんだよ)

「あぁん?それはお前等が弱いのが悪りぃな。帝国にはもうちょっと骨のある奴が居たからな。この国はもう見たからな、特に興味ある奴も居ねえし別にすぐ戻る必要性も感じなかったからな。途中でリノアとか拾っちまったし、なんならそっちで面白そうな事もあったからなぁ」

「あっ!そうだよ!そのリノアって人はアナタとどういう関係なの!?聞いてないんだけど!」

(ねえねえ、ホントにわたし達無視されてない?モブキャラなの?ねえねえ、どういうこと?ねえツバサ、わたしヒロインだよねぇ〜?)

(そうねぇ〜。女の子はいつだってヒロインなのよ、ウフフ)

(だよねだよねー!わたしヒロインなんだからリオン無視しないでよー!)

(ツバサちゃんは誰のヒロインとは言ってないと思うんだけど〜?)

(オピス、これでも食べて少し静かにしてましょうねぇ)

(うわ〜美味しそう〜。分かった静かにしてる〜)

(ウフフ、良い子ね)

「ん?なんか少し会わねえ内に口調変わったか?記憶の最後だとお前は敬語だった気がすんだが……まあいいか」

「よくない!ちゃんと説明して!!……それはそれとして念話じゃなくそんなペラペラ話していいの?」

「んあ?…………ふむ、確かに気付いたら念話じゃねぇなコレが、まあ……問題ねぇ。それよりイヴ、お前はなんで口調変わってんの?大人の階段登ったか?」

(もう!だからさっきからわたし達が言ってたじゃーん)

(そうだったか?楽しくて気が付かなかったな。やっぱこんくらいの人数を相手にすんのがいいな。弱え奴も数を揃えればそれなりになるって事だな!クハハハハハハハ!)

(でも全然傷付いてなくな〜い?それって楽しいの〜?)

(そうだそうだ〜。そんなの楽しくなーい!わたしをもっと構えー!)

(うるせえ!俺をドM野郎にすんじゃねえ!言っとくが俺は痛えのは大嫌いだ!だが戦闘中はアドレナリンじゃばじゃばだから気にならねえだけだ)

(ワンワン)

(ん?)

(ニャンニャン)

(ん?何言ってんだ幼女ども)

((うしろ〜))

(後ろ?ん?イヴ?んおっ、何だこれ……首輪?)

(ワンワン)

(ニャンニャン)

(あぁなるほどな、首輪だから鳴いてたのか。だがネコは普通首輪しねえんじゃねえか?まあどうでもいいか、それよりこれただの首輪じゃねえな。少し身体が動かし辛えな)

(ほほぉ、こりゃ隷属の首輪かの?以前お主が帝国で間抜けにも引っ掛かった魔法陣の魔道具版……いや劣化版といった所じゃな)

(へぇ〜、動けなくはねえからなぁ。コイツ……ダズっていったか?成し遂げてめちゃくちゃドヤ顔してやがるから速攻解除して粉微塵にしてもいいが……んー、少し様子見るか。クハハ、この後どうするか期待だな)

(ほらリオンちゃん散歩に行こうね〜キャハ)

(リオンハウス!ほらハウス!早く〜キャハハハ)

(ウフフ、ほらリオン餌よ〜おねだりしてごらんなさいな)

(……フッ、大人な俺はそんな安い挑発には乗らねえよ俺は大人、大人なクールガイ)

(ふせ〜キャハハ、お手〜キャハハ、ちんち〜んキャハハハ)

(ハウス〜リオンハウス〜もうリオンはホントにだらしないんだから〜キャハハ)

(リオンは駄犬がお似合いじゃのぉ、ほぉほぉほぉ)

(グハハハハ!駄犬とは爺、上手い事言いやがるじゃねぇか!!)

(ちょっとみんなやめてよね、事実は一番本人を傷付けるんだよ。それにリオンは子どもなんだからそろそろ本当に面倒臭くなるよ。ハァ、僕は関係無いからね)

(ヨシ!お前等全員かかってこい!ぶちのめして教育し直してやる!!)

(べぇー!動けないリオンなんて怖くないも〜ん、キャハハハ!鬼さんこ〜ちら〜)

(べぇー!わたしを大事にしないリオンなんて嫌ーい、こわくな〜い。手〜のなるほうへ〜)

(いいだろう幼女ども!こんな首輪なんかさっさとぶっ壊してテメェ等も粉微塵にしてやるよ!!ん?なんだこの感覚……これは、覗かれてんのか?)

(むほほ、あのダズとかいう小僧が持ってる石が原因だのぉ。アレは鑑定石じゃが魔力量に差があり過ぎる場合失敗に終わるものじゃて。じゃからワシ等には通用せんから気にする事もなかろうて)

(ふむ。爺が知ってんならアイツ等も知ってるとは思うんだが……しかしこの感覚、嫌な予感が……)


『権限解放 対象者アビスキマイラ 個体名リオン の ステイタスボード を強制的 に開示  開示対象者 鑑定石に 登録済魔力波長者 チーム名 破邪の五剣 精霊乃燈 黒獅子 鑑定後強制開示による 負荷により崩壊』


(この声……あの腐れ神じゃねぇか!!妙に無機質なのが気になるが……)

(グルルルル!イラつく声しやがる!!邪魔ばかりしやがって!!)

(また来たの〜?ほんとリオンは好かれてるね〜キャハハ)

(どこ!?アイツまたリオンに迷惑かけてー!コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!)

(嫌がらせの仕方が段々悪質になってきたわねぇ。情報漏洩もいいところねぇ)

(いや〜そんな熱烈ならぶこーる受けたら期待に応えたくなっちゃうよねぇ〜あははは。あぁでもでも〜リオンくんとみんなの名前、あと称号なんかは伝わらない様に伏せといたから安心してくれていいよ、えへ)

(えへ、じゃねぇよクソがッ!!いつもいつも俺の邪魔ばかりしやがって!!興醒めもんだろうが!!)

(おぉ、ずいぶんな物言いじゃないか。鑑定失敗より露わになったその後の方が面白そうじゃないかい?あのダズくんって人間は隷属の首輪がリオンくんに付いてるからだいぶ油断しちゃってるからさ。これでイヴちゃん以外はみんな引き締まるんじゃない?どうどう?僕のお陰だろう?)

(何言ってんだよー!リオンの作戦を台無しにしたお前なんか死んじゃえー!)

(罰としてわたしに珍しい食べ物をお供えするべき。自称神でも許されざるしょぎょうー)

(意外と酷評ッ!?あ、あれれ〜?ルプちゃんもオピスちゃんも酷いなぉ、そんな言われるとさすがの僕も傷付くなぁ。それとオピスちゃん、僕は自称じゃなく本物の神様だよ〜。創世神ガイアと、そう呼んでくれたら嬉しいなぁ、アハ♪)

(ねぇリオンお腹空いた〜。もう飽きたから早く全員殺してご飯にしよう〜)

(え?無視ッ!?えっ?つらい!それはつらいよオピスちゃん!慰めてよリオンくん!)

(死ね!)

(もっと辛辣ッ!!!うぅぅぅ〜みんな酷いなぁ。僕が何したっていうのさ〜)

(いや散々俺の邪魔してんだろうが!現世に干渉できねえとかほざいときながらガンガン干渉してきやがってよ。だがまあ今回はこの後のアイツ等の行動次第だからな、お前の行動はマイナスにもプラスにも作用してねぇから気にしてねぇよ)

(ふっふっふ、僕も日々成長してるって事だねぇ。リオンくんからお褒めの言葉いただきましたー!)

(だから早く消えろクソがッ!)

(いや辛辣ゥゥ!!君達さぁ僕この星の創世神なんだけどなぁ。そんなぞんざいに扱うと後悔しちゃうんだぞ〜?)

(生きる為にテメェに媚売らねえといけねえならお前を殺すか全力で抗って呪詛をばら撒いて死ぬわボケが!!)

(言葉遣い悪いなもう〜。やれやれだよ〜、あんまりそんな事言ってると本当に後悔しちゃうんだからねぇ。でも予想通りの反応で僕はガッカリさ。次はもっと予想外の反応で僕を楽しませておくれよ。じゃあまたねぇ〜バイバ〜イ)

(ふむ、気配もねえから去ったのかすら分かんねえな。だがどうせ隠し撮りしてるストーカーばりにキモい感じに見てんだろうな。まあアイツに関しては今考えても仕方ねえな、とりあえず今は目の前で驚愕してるアホ顔共の今後の行動に期待だな)

(リオンはアイツに甘過ぎるよ〜!殺そうよ!早く殺そう!邪魔な虫はプチッと潰して、潰して、潰そう?)

(ハンバーグみたいだなぁ〜、美味しそう〜ジュル)

(お前等もブレねえなぁ。まあそれが俺等かもしれねえな。つうか甘いと言うかさすがに気配もねぇ、実体が掴めねぇ奴は殺せねえからなぁ。ん?帰るだぁ?イヴにだけ殺気を当てて黙らせてたが、それが仇になったパターンか?……ハァ、これも1つの結果か。もう終わらせて帰るか〜、ガイアの後始末じゃねえが全員殺せば情報封鎖完了だろうよ)

(イヴちゃんも殺すの〜?)

(ん?オピスは反対か?)

(ん〜ん、別にどっちでもいい〜。生きてたらイヴちゃんがリオンの側にいる理由になるし死んじゃったらリオンの側にいる資格がなかったって事だからね〜)

(ふむ。別に誰が誰かの側にいるのに資格や理由なんて要らねえとは思うが、オピスがそう思ったのならそれは尊重しよう。どのくらい抗うのかは気になるからな、クハハ)

(リオン〜!イヴちゃんはわたしが殺すよ〜。わたしにまかせて〜、ぷちって潰す〜キャハハ)

(んー……却下。先ずは同じチームのエルフ女を殺すとしよう、何か面白い事が起きると俺の本能が訴えてるからな)

(むー……)

(とりあえず全員殺す表明をそれとなく垂れ流すか、その前に一番邪魔してきそうなイヴを無力化する方がいいか……その後エルフ女を殺すかぁ、ん?あっ、おい)

(どーん!どどーん!)

(わーい!どどどーん!キャハハハ)

(最近簡単に身体の主導権奪われる気がすんなぁ……アイツ等生きてるか?)

(イヴは瀕死の重症って感じねぇ、アレじゃもう動けないわね。他の子達は半々って感じかしら、実力差が出たって感じかしらねぇ)

(ならさっさとストーリーを進めるか!さぁこいこい)

(あぁーこの人〜)

(お菓子の人〜)

(誰だコイツ?オピスとルプが知ってるって事はギルド関係者か?)

(お主は本当に人の顔と名前が覚えられないアホの子じゃのぉ)

(だってリオンだもの。仕方ないわよ、ウフフ。この子も随分久しぶりな気がするわねぇ。過保護な子ねぇ、耳飾りにこんな仕掛けを施すだなんてねぇ)

(……人の顔なんて全員同じ顔に見えんだよ仕方ねえだろうが!ん?学院長?おっ、おぉ、そう言えばこんな顔だったか?つーかなんか俺の正体バレてね?年の功ってやつか?でも最後の最後にサプライズだな!クハハハハ、面白くなってきたな!!)

(えぇ〜リオンは幼女より年増の方がいいの〜?)

(年増好きのリオン〜キャハハ)

(性癖がバラされちゃったわねぇ)

(まあ此奴は元々変な奴じゃからのぉ。今更そんな性癖がバレた程度じゃ動揺もせんじゃろ)

(昔はそんな事なかったのにね)

(((えッ!?)))

(黙れ腐れスライム!それに俺は別に熟女好きじゃねぇ。そんな事よりコイツ全然本気出さねえじゃねえか……もっと追い込めば本気出すのか?)

(何か狙ってるんじゃないの?それとブロブ、後で詳しく聞かせて頂戴ね)

(そんな雰囲気じゃねえんだよなぁ、目も必死さが見えて余裕がある様には見えねぇ。これで策練ってんなら大したもんだ。それと腐れスライム、後でツラ貸せや)

(うわ〜2人ともめんどくさー……。僕は先に帰るよ)

(もう飽きたしコイツ殺して帰るかぁ……ん?お前等、イヴって今どんな状況?)

(知らな〜い)

(死んでたらわたしが食べてるよ〜。まだ埋まってるんなら生きてるんじゃな〜い)

(オピスの言葉はその通りだし、あの学院長さんの言葉も正しいわね。流血はしてないけれど折れた肋骨が心臓以外の臓器に刺さってるわねぇ。このままだと5分くらいで死んじゃうんじゃないかしら)

(…………………撤収。幻術も掛けたし全員治す振りして魅了を掛けて記憶改竄する)

(えぇー!なんでなんでぇ!?全員殺すんじゃないの!?イヴちゃんに優し過ぎじゃない!?)

(ここでもうご飯食べれないの〜?じゃあ〜早く帰ろうよ〜)

(後始末はアナタ1人でやってね。私は疲れたから先に休むわ)

(わたしも寝るー!リオンのバカー!)

(わたしも〜。ご飯できたら教えてね〜)

(ワシもそろそろ研究に戻るとするかの。あの鑑定石のカケラも回収したのでな)

(お前は冷めやすいから最後が適当になり過ぎるのが悪い癖だ!!だから最初から我に主導権を譲ればよかったものを!!殺すなら全員殺せ!!イライラする!チッ!)

(テメェ等………ハァ、まあいいや。トータル楽しかったし所詮今回はオードブルだからな、これ以上長引くとメインディッシュに間に合わなくなるしな。いやー楽しかった。ふむ、ふむふむ)

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