第58話 講義

 リオン達一行は魔法学院の学院長であるスクルプトーリス・ルベリオスとの話し合いが終わり廊下を歩いていた。

今は授業中なのか廊下に人の姿は無く、等間隔にある扉の中からは人の声が微かに漏れていた。

そんな音のひとつひとつを聴きながらリオンは歩を進め、ひとつの扉の前で立ち止まる。


「スンスン、中からイヴちゃんのにおいがする〜。入るの〜?」

「えぇ〜。帰ろうよ〜リオ〜ン。イヴちゃんには別に用事なんかないでしょ〜」


 入ろうとしていたリオンに左右から幼女が話し掛ける。

リオンは視線は向けずに口を開く。


「確かにイヴに用はねえが、お前等アイツの話聞いて………る訳ねえよな。とりあえず用があんのはエルフ族の女、エリーゼっつったか。ソイツを鍛える事だな。まあ色々あるからついでにイヴ達全員鍛える事になるけどな」

「また女の子〜?リオンはホントに見境が無くてサイテー。でもそんなリオンも好きだけどね〜」

「何それツンデレ?ヤンデレ?よく分かんねえけど、ツバサもイカれ始めたから帝国での遊びが終わったら本格的に対策しねえとどんどん面倒臭くなるなお前等」

「わたしはご飯が美味しければなんでもいいよ〜」

「おう。オピスはいつも通りで安心だな」

「またオピスばっか贔屓してる〜。ズ〜ル〜い〜」

「贔屓なんかしてねえよ。日頃の行いを評価してるだけだ。んな事よりそろそろ行くぞ」


 リオンが一切の遠慮無く扉を開け放つと講義中であろう教卓で教鞭を執っていた男が少し驚いた様子でリオンを見るが、彼の服装を見て落ち着きを取り戻したのか声を掛けてきた。


「え、えぇと君は誰かな?この学院の生徒である事は分かるんだけど見た事なくてね……。それとその子ども達は?」


 それでも疑問が尽きる事無くツッコミ所満載のリオンに質問をぶつける。

しかしリオンはその教諭に視線すら向けておらず呆然とこちらを見ている生徒を見て目的の人物を探し出していた。


(ふむ。どこだ?普段であればイヴがすっ飛んで来ると思ってたんだが……)

(ぷぷぷ、リオン嫌われたんじゃな〜い。キャハハハハハ)

(遂に邪魔者が消えたんだね〜。よかったよかった〜キャハハ)

(マジかぁ〜そりゃ残念だなぁ、ん?あそこで寝てんのイヴじゃねえか?強くなると喚いてた割に無駄に惰眠を貪ってんじゃねえか。やれやれ、やっぱ俺が直々に鍛えねえとサボっちまうんだなぁ)


 イヴが突っ伏して寝てると思ったリオンが呆れながら歩を進め横並びに座っている彼女達に近付く。

その間の教諭の慌てた声が講義堂に響くがリオンの耳にはノイズとして処理され届く事は無かった。


「おいイヴ起きろ。テメェ惰眠を貪って強くなれる訳ねえだろうが!」

「あの〜リオンさん?イヴは寝てる訳じゃ無くて〜気絶させられて意識を失ってからまだ目を覚ましてないだけよ〜?」

「ん?気絶?なんでコイツ気絶してんだ?栄養失調か?」

「わお、本人が忘れてるパターン?イヴはリオンさんがデコピンで気絶させたんだよ〜?」

「ふむ……。おいエルフ……エリーゼと、確かフェルト、あとリヴァイス、時間がねえから行くぞ」


 完全に忘れていたリオンがエリーゼからの指摘で少し考え込むが、すぐに用事がイヴに無い事を思い出すと話題を華麗にスルーし3人に今後の話し合いをするべくイヴを担ぎ講堂を後にしようとすると、待ったと声が掛かる。


「ちょっと待ちなさい!!エリーゼ君、彼は誰なのか説明して下さい!」

「えぇ〜私ですかぁ?えぇと彼はリオンさんと言いまして〜、私達の同級生です〜」

「リオン?リオン……ん?リオンッ!?君があのリオン君かい!?」

「あのがどのか知らねえがあのリオン君だな。俺は急いでんだよ、お前に構ってる時間なんてねぇ」

「おいおいリオンよ、ご教授願う教諭の方にそんな失礼な物言いはよくないぞ?それに今の講義内容は実に興味深いのだ、性急だと言うがこの講義が終わってからでも構わぬだろう」

「ん?クハハ!リヴァイス、お前がそんな勉強熱心だったとは知らなかったな。んで?どんな講義内容なんだ?」


 リオンが少し興味が出たのか教卓の黒板を見るとそこには『魔物と人族の魔法形態の差異』と書かれていた。

へぇ、としか思わなかったリオンだったがすぐさま内から声が響く。


(何をしとるんじゃリオン!早よ座らんかバカもんが!講義の時間じゃろがい!)

(ハァ?馬鹿か爺、こんな欠伸が出そうな題材なんで俺が聴かなきゃならねぇ)

(お主が聴く必要なぞないわい!そこら辺で置物と化しておればよいわ!それともお主の中を破って爺が出現した方がいいかの?)

(えぇ〜おじいちゃんそれって〜とっても退屈だよ〜)

(お腹も空いたしねぇ。またがくいんちょーの所行ってお菓子食べた〜い)

(ふむ……まあいいだろ。じゃあお前等こっからは自由時間だ!俺に迷惑掛けんなよ!解散!)


 念話で話し終えたリオン一派が無言で席に着くと誰もがギョッとした。


「あん?何見てんだよ。早くその講義とやらを再開しろよ」


 恐ろしく態度が悪く最早チンピラにしか見えない傲岸不遜なリオンに教諭であるアルフレッド・バルムは唖然としてしまう。

彼自身三男ではあるものの侯爵家という立派な地位を持つ貴族なので、リオンの物言いがまさに貴族という装飾品を身に付けた我儘息子という印象がピタリと当て嵌まる存在だった。

そんなリオンの態度にバルムが言葉を発する前に、ある男子生徒が机をバンッと叩き立ち上がる。


「オイお前!いつまでイヴさんをそこに乗せているつもりだ!」

    「「「えっ?そこ?」」」


 叫んだのは入学式に絡み翌日には決闘でイヴにボロ雑巾にされ大敗を喫して新たな癖を開眼した男だった。

叫んだ内容が相変わらず残念ではあったが他の生徒からのツッコミにも耳を貸さず男はリオンとイヴしか視界に入っていなかった。

そんな当事者であるリオンは面倒臭そうに欠伸をしながら今後の事を考えながら目を瞑っていた。

つまり男の発言、存在全て眼中になかった。

その態度に当然の様に男は苛立ちを募らせドタドタとリオンに近づいて行く。

男がバッとリオンの腕を掴もうと手を伸ばし、後少しと言う所で逆に腕を掴まれる。

男の視線が掴んだ当事者を睨む。


「何のつもりだ?また僕の邪魔をするのか虎風情が!」

「やれやれ、俺はお主の命の恩人だと思うのだがな……。そんな噛み付く事もなかろう」

「ハァ?お前は何を言ってるんだ!?馬鹿も休み休み言えよ!そんな事より僕のイヴさんをいつまでそんな所に乗せているんだお前!」


 男がリヴァイスの言葉に聞く耳を持たずに再びリオンに突っ掛かると漸くリオンが視界を飛び回る蝿の如き不快感を感じ、男の存在を認知する。

しかしリオンは目の前の男が誰なのか知らなければ興味も無いので当然口を開き溢れるのはこんな言葉だ。


「誰だテメェ、蠅みてえにブンブンと喧しいんだよ消えろカスが」


 唖然とする男だったが罵倒耐性があったのか直ぐ様踏ん反り返ると律儀にも自己紹介を始める。


「僕を知らないとはお前田舎の出か余程無知で馬鹿な奴なんだな。いいだろう!ならば教えてやろう!哀れなお前に僕が格の違いを見せてやろう!光栄に思えよ平民!僕はアンヴィル・フォン・シュミットが長子!後に男爵の家督を継ぐ偉大な男!ゲノー・シュミット様だぁ!!」


 ババーンと背後から波か光のエフェクトが発生しそうな程のドヤ顔で自己紹介を終えた男、ゲノーだったが相手のリオンはと言うと再び欠伸をする。

そしてこれだけ間近で大音量のやり取りをしていたので漸くイヴが気絶から回復し目を覚ます。


「ん、んんぅ、何ですか……煩いですねえ。もう朝ですか?」

「何寝ぼけてんだイヴ」

「か、可愛い!!」

「ふぇ?あ、あれ?リオンッ!?ここは……学院?」

「起きたんならさっさと退けよ」

「ふぁぁぁ!?何で私リオンの膝の上に居るのッ!?ヤダ!ヤダヤダ!退かない!このままリオンの感触を堪能する!ずっとこのままがいい!」

「あの〜イヴ〜?そういうのは2人きりの時にした方がいいと思うな〜。目の前の人が今にも襲い掛かってきそうだし……」

「ん?エ、エリーゼさん?あれ?みんなも、いる……恥ずかしい!」

「可愛い!ぬぉぉぉぉぉ!!」


 まだ寝ぼけていたのかリオンしか視界に入っておらず、甘えた空気に堪らずエリーゼが注意すると顔を真っ赤にさせたイヴがリオンから退く事は無かったが顔を埋め視界を閉ざした。

何とも言えない空気が流れたがリオンは特に気にした様子も無くバルムに声を掛ける。


「おい早く講義を再開しろよ。時間無くなるぞ?」

「うおぉぉぉいコラァァァ!!僕を無視するなァァァ!!これだから田舎者の野猿は礼儀作法を知らな過ぎてイライラする!!僕がお前を教育し直してや、………」

「講義中は静かにしろよお貴族様よぉ、礼儀作法がなってねぇぞ、クハハハハハ!」


 大声で喚いていたシュミットが突如糸が切れたマリオネットの様に崩れ落ちた。

周囲が驚愕の表情を浮かべるが気絶しているだけだと判断すると取り巻きがバルム先生に許可を取り医務室に運んで行った。

場が静まり返っているタイミングでバルムが色々思う所があったのか講義を再開する前にリオンに問いを投げかけた。


「それでは講義を再開するよ。ただその前にひとつだけリオン君に質問してもいいかな?」

「ん?なんだ?」

「さっきシュミット君に使った魔法は闇魔法で合ってるかな?」

「おぉ、アレが見えたか。クハハ、少しは優秀な奴が教師で俺も安心してイヴを任せられるなぁ。あと、まあそうだなアレは闇魔法で合ってるぞ。それがどうかしたか?」

「答えてくれてありがとう。黒板に書いてある通り、今回の講義の内容は『魔物と人族の魔法形態の差異』なんだよね。簡単に結論だけ言うとね、リオン君が先程発動した魔法は人族の魔法と言うよりどちらかと言うと魔物が使用する魔法に近いんだよねぇ」

「へぇ〜そうかよ。ちなみに人族と魔物の魔法はどう違うんじゃ?んん、違うんだ?」

「ん?あぁそうだね、じゃあ改めてそこから簡単に説明しようか。では先ず一般的な違いからいこうか」


 リオンの口をテースタが乗っ取るという事案が発生した事で仕方無しとリオンが内部でドタドタ奔走する事になり、その間爺ことテースタはバルムの講義を真剣に聴いていた。

バルム曰く、一般的に魔物は肉体の構造上喋る事が不可能なので口上を述べ、魔法を発動する事はできないらしい。

それにも関わらず魔物でも魔法が行使できる理由は単純に魔法を本能的に発動してるからだと。

例えば獲物を狩る際には追い付く手段として、成功率を上げる為に身体強化を発動するといった目的の為の行動に付随する補助的行為である。

また自然災害を目にした時には、そのイメージが事象として顕在化する事が間々ある。

つまり周囲の環境を自らに取り巻く事でその環境に適応していく。

完全適応した例を挙げると、

火山地帯に適応した[サラマンダー]

海や川など水辺に適応した[セイレーン]

などなど。

こういった魔物はその環境の属性と親和性がとても高いが、その分逆属性、つまり弱点が分かり易く活動分布が限られる。

なのでそういった魔物は逆属性は獲得し難い。

それに対して人族の魔法は[第一階梯 ファイアボール]と理論的にカッチリと術式が決まっており、その術式に込められる魔力量が最初から決まっており凡その威力が決まっている。

その分魔物達が使用する魔法より汎用的で扱い易い。

また威力を上げるには杖や剣などの補助具を使用するか、より高階梯の魔法を使用するしかない。

更に人は環境適応能力はあるが進化の過程で社会性を向上させた結果、生身で環境に完全適応する事は現段階では不可能との結論で落ち着いている。

そして一部の人間は詠唱を必要としない無詠唱での行使が可能である。

これは理論上詠唱時と同等の威力行使が可能ではあるが、かの賢者ですら威力と速度が数段落ちたと書物に残っているので他に何か我々人族が理解できていない要素がまだあるのだという。

ちなみに詠唱、無詠唱でも人族が行使する際にはどちらも術式を介しているので中空に魔法陣が浮かぶのだとか。

また原理は未だ解明されていないが低階梯から高階梯に進むにつれ発現する魔法陣は大きくなっていく。

一説には使用魔力量に比例すると魔術学会では言われている。

そういった事諸々含めると入学試験で放ったリオンの魔法と先程放った魔法は術式を介さない魔物が放つものに酷似していたとのこと。

しかし当然それ等にも例外はあり、精霊魔法や異能者と呼ばれる特異体質の者達はまた違った反応機構なので一概には言えないらしい。

そんな事をバルムが黒板を埋め尽くす程板書していた。

内容としての深度はまだ基礎の範囲内ではあるがだいぶ熱が入ったのかハァハァと息を乱し、持参したお茶を飲む。

フゥと一息付き、バルムはリオンを見ると再び口を開く。


「さて、それでリオン君は人間なのかな?それとも魔物なのかな?」

「さあてなぁ、お前には俺がどう見える?人間か?魔物か?」

「んー……そうだねぇ、生徒に対しこう言うのも失礼だと思うけど、限りなく君は魔物かな」


 バルムの言葉にリオンは笑みを浮かべ、イヴは身体が強張り頬が引き攣る。

リヴァイス達、リオンの正体を知らない面々は不機嫌だったり驚いたりと様々な表情をバルムに向けていた。

そんな物言いに対してリオンは特に気にした様子も無く対応する。


「それは魔法陣が出ないだけの理由でそう決め付けたのか?」

「いやいや、まあそれが一番の理由ではあるけどね。他の理由としては……勘だね」

「ふむ……勘ねぇ、まあ悪くねえ理由だ、クハハ。ならこれで俺はほぼ人間か?」


 手を前に出し魔力を練り出すと人族が行使する魔法の様に中空に魔法陣が浮かび上がる。

それだけを見せると魔法は発動せず、魔法陣はパリンと割れ霧散する。


「魔法陣の有る無し程度で人と魔を分けるっつう時点でそもそもちげえんだよ。さっきは優秀なんて言っちまったが、お前もこれでひとつ賢くなったな」

「実に興味深いよ!!是非とも調べさせていただきたい!!」

「残念時間だ」


 リオンが口にしたタイミングで丁度鐘が鳴ったのでこの話題は強制的に終了する。

聞けば今日の講義は今ので終わりだと言うので念話でオピスとルプを回収するとイヴ含めたチーム黒獅子と共にバルムが喚く講義堂を退出する。

時間的に丁度お昼時だった事もあり全員で食堂に移動する事にした。

食堂に入ると中は賑わっておりリヴァイスとリオンが席取りの為座って待っているとイヴ、エリーゼ、フェルトが人数分の食事を持ってきた。

ちなみにオピスとルプはリオン内に居るのでこの場には居ない。


「それでリオンよ、お主の用事とは何だったのだ?」


 リヴァイスが早速話題を振ってくるとイヴ含めた全員がリオンに視線を向ける。


「いや〜未だ弱えお前等を鍛えようかと思ってなぁ。お前等も強くなりてえだろ?この前みてえな魔物にまた襲われたら次は確実に死ぬだろうからな」

「よ、弱いって、リオンさんに私の実力を見せた覚えはないんだけどなぁ〜」

「そうだぞリオン。俺もあれからだいぶ成長したからな、お主までとは行かずともそれなりに強くはなったのだぞ?」


 リオンの物言いにエリーゼとリヴァイスは反論するがイヴは俯きフェルトは苦笑いを浮かべていた。

そんな前者の2人の反応をリオンは鼻で笑う。


「笑わせんな雑魚共が!と言いたい所だが、そうだな……ならこれから模擬戦と行くか。俺は1人でお前等は何人でも呼べばいい。勿論1人で向かってきても構わねえ、どうだ?」

「いいわね〜。やってやろうじゃな〜い」

「おぉ、リオンの力を久々に体験できるなどまたとない機会だ!よろしく頼む!」

「クハハハ!その意気や良し!本気で来いよテメェ等、その方が面白えからな。おいイヴ、この学院にそんな場所あるか?」

「あっ、えぇと、訓練場ならあるよ」

「ふむ、ならさっさと行くぞ」


 サクサクと決めると楽しそうにリオンが席を立ち歩き出す。

その横には既にイヴも並び、こちらも楽しそうに寄り添っていた。

そんな2人の背中を見ながらあとの3人も続く。

数分歩くとどデカい体育館の様な箱状の建物が5棟横並びに建つ場所に辿り着く。

話しに聞くとこんな場所が他にも数箇所あるらしい。

そんな学院知識を聞きながらリオンは中に入る。

両サイドは観客席の様になっており天井や壁には魔法物理結界が張っていて、リオン曰く「まあまあ」な強度が展開されていた。

何よりリオンの眉間に皺を寄せた出来事が発生していた。

それは観客席が何故か学院の生徒で埋め尽くされていた事だ。


「何だコイツ等?どっから湧いた?ハエもビックリだな」

「食堂で誰か聞いてたのかな?どうする?」

「ん?どうもしねえよ。邪魔だが羽虫に一々苛つかねえよ。俺は常にクールだからな」

「久しぶりに聞いたけどさ、別にリオンはクールじゃないよ?」

「…………さてそれじゃそろそろ始めるか。リヴァイス、エリーゼ、フェルト、それとイヴ、誰が出て誰と組んでやるかはお前等に任せる。制限もルールもねぇ、自由にやれ!その全てを許容してやるよ」


 そこまで言われてエリーゼとフェルトはムキになったがイヴとリヴァイスは冷静にどうするかと作戦会議を開始した。

どうやら他に助っ人を呼ぶ事は無く再びチーム黒獅子で挑戦する様だ。

話し合っている間リオンが暇を持て余してると背後から呑気な声が掛かる。


「いやいやいや〜鍛えてくれと言ったけど〜早速こんな面白い機会を作ってくれるなんて〜さすがリオン君だねぇ」

「まあとりあえずまだ時間はあるからな。俺だと知った状態でのコイツ等の実力を知らねえと方針も決まらねえからな」

「全く、すっかり開き直っちゃったわね〜リオン君」

「盗聴趣味のクソババア様に言われたくねぇなぁ」

「ダメだよリオン!時に事実は人を傷付けるんだってツバサが言ってたよ〜」

「そうだそうだ〜。筋肉は裏切らないとも言ってた〜」

「オ、オピスちゃ〜ん?それを言うと私がちょ〜っと傷付いちゃうかなぁ。あとルプちゃんのそれは分からなくもないわ〜。出会い方が違えばツバサさんとも仲良くできそうだったわ〜」


 学院長と手を繋ぎ現れた、いつの間にか外に居たオピスとルプがその後も仲良く話していて、そんな3人を無言で見ていたリオンに次の客が声を掛ける。


「おいお前!!さっきはよくも僕を無視してくれたな!!ふふふ、だがまあ寛大な僕はその程度は気にしない。そんな事より今からイヴさんと模擬戦をするそうじゃないか!ふ、ふふ、イヴさんが戦うまでもない!何故なら僕一人でお前をボコボコにするからだ!」


 一人で盛り上がっている男、そんな男が一方的に話すがリオンは既に名前も存在すら覚えておらず未だに話し続ける男に一欠片の意識も向けていなかった。

漸くその事に気付いた男が遂に正面からリオンの胸ぐらを掴み怒鳴る。


「おいお前!!また僕を無視していたな!!いい加減にしろよ!!僕は貴族だぞ!本当であればお前なんかが僕と口を利ける立場ではないんだぞ!」


 そのあまりの怒鳴り声に作戦会議をしていたイヴ達が振り返り、顔面蒼白になったイヴが急いで駆け寄って来る。

ちなみにリオンの隣に居るスクルプトーリス・ルベリオス学院長は微笑みながら傍観していた。

そこまでされた事でリオンは漸く目の前の男に視線を向けると首を傾げる。


「誰だテメェ。男が俺に触れてんじゃねえよ、汚ねえ」


 一瞬何を言われたのか理解できなかったり男だったが次第に言葉が浸透してくると顔を真っ赤にさせポケットにしまっていた手袋をリオンに叩き付けた。


「お前に決闘を申し込む!!ゲノー・シュミットの名に於いてお前を打ち負かす!!そして勝った暁にはお前にひとつ条件を呑んでもらう!」

「言ってみろ」

「待って下さい!何してるんですかリオン!」

「イヴファンクラブ会員番号1!!代表の僕!!ゲノー・シュミット!!僕達のイヴさんに今後一切近付く事は許さない!!」


 丁度イヴが2人の間に入った瞬間にドバーンと効果音が鳴りそうな程のドヤ顔をかましたシュミットにリオン含めこの場に居る殆どの人達を時間を止めた。

しかし次の瞬間訓練場が喝采に包まれた。

どうやらこの空間にはイヴファンクラブの人間が多数居たようだ。

イヴは呆然と何が起きたのか分からず未だ固まってるがリオンは既に再起動していた。


「クハハハハハ!!面白えなお前、いいぞ。ただそれだけだとつまらねえからお前が俺に勝ったらついでにイヴの恥ずかしい話でも教えてやるよ」

「えッ!?ホントか!?やったー!」

「えッ!?ちょ、リオン何言ってるの!?恥ずかしい話って何ッ!?」

「うるせぇよイヴ。お前は早く作戦会議に戻れ!」

「私の事なのに酷くないッ!?」


 シッシッとリオンに追い払われたイヴが不機嫌そうにエリーゼ達の元まで戻って行った。

素直に従ったのはリオンの勝利が既に確定していると思っているからであり、そこには絶対の信頼を抱いているからであった。


「まあ前菜、いや前哨戦だな。お前も準備できたら始めるぞ」

「僕はいつでも準備万端だ!」


 2人の男が1人の女性を巡る戦いに赴く為、訓練場に集結するのだった。

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