第18話 救われる人たち

 微睡みの中に居る自分の感覚は覚醒と非覚醒の狭間を揺蕩うとても心地が良い状態と言われている。

尚且つ意識の殆どを夢に囚われているので己の願望が投影されやすくなりイヴもまた今自分に一番必要なモノが目の前に現れる。

それはやはり………


『ふふ、やっぱりリオンのモフモフは最高です。全ての疲れを癒し幸福感を倍増させ天にも昇る気分です〜』


 顔面をだらしなく緩めながらリオンの毛並みを飽きる事なくモフモフする銀髪の少女。

しかし夢から現実に覚醒するにつれて幻影たるリオンは無残にも周囲の闇に溶ける様に消えていく。


『あッ!!まっ、待って!リオン、お願い……お願いだから……。私を置いて行かないで!ずっと、ずっと私のそばに居て、お願い……』


 少女の慟哭も虚しくリオンの姿は消え、周りも漆黒の闇に覆われていた。


『違うの……闇が怖い訳じゃない、人間が居ないのが怖いんじゃない、静寂が怖いんじゃない、そんなもの要らない!私にはただひとり居れば他には何も要らないの!彼が居てくれればそこがどれ程の地獄だって笑えるもの……リオン、リオン……どこ?どこなの……お願い返事をして、私のそばに居てよ……』


 上下左右も定まらない闇の中少女は膝を抱えて座り込む。

どれくらいの時間そうしていたか、ふと頭上から弱々しい光の粒が降り注ぐ。


(……ろ、……きろ、起きろ……起きろ………起きろ)


 直接頭に入ってくる不快な声に身体全体が持ち上がり光の方へ向かっていく。

それは夢から完全に醒める合図でもあるかの様に無意識に瞑っていた目を開け、勢い良く身体を起こすと頭に衝撃と図太い悲鳴が反響した。


「いたたた、一体何なの?ん?ここは……?ん〜?」


 寝起きで頭が働いていない様子のイヴだが、答えは目の前で額から血を流す汚い男が教えてくれた。


「ひひゃひゃひゃひゃ、痛え、痛えけどやっと起きたな。ようこそ俺等のアジトへ。早速だがお前はあのクソ野郎を誘き出す餌だ、大人しくしていろ」


 今の説明と目の前の見覚えるのある顔を視界に入れた賢い私は全てを理解してしまった。


「なる、ほど……そういう事ですか……。でも私を捕まえても餌にはならないと思いますよヒャッハーさん……」

「その変な名前をやめろ!ひひひ、俺様はザンバだ!ケッ!ふひゃひゃ、餌にならなきゃ切り刻んでアイツに送りつけてやるよ」


 脅し文句をぶつけてくるヒャッハーを怖がる振りをしながら周囲を盗み見ると30人くらいの人達が確認出来たので自分の実力では逃走が困難だと判断すると、打開策を見つけるべくヒャッハーに話を振る。


「ちなみに、ヒャ、ザンバさんはリオンにどうやって連絡を取るつもりなんですか?」

「ひひひ、それをお前に聞こうと思ってた所だ!アイツは今どこにいやがる!」


 既に他力本願な所でヒャッハーだなと思った事は心に納め、顔に出ない様に耐える。


「さぁ、私にも何処に居るのか分かりませんよ。街中をぷらぷら歩いてるんじゃないですかね」


 ヒャッハーは頭が悪いのか、この話を素直に信じたらしく街に偵察用の人員を手配して部屋から出て行った。

イヴは改めて現在の自分の状況を確認する。

手枷と足枷は魔封具らしく魔力を練ろうとしてもすぐに霧散してしまう。

体内で魔力循環させる身体強化は使えるけど、レベルが低くて枷を壊せる程の力は出せなかった。

つくづく自分は弱く無力なんだなと感じさせられガックリと人知れず肩を落とした。

窓も無い場所なので現在時刻すら不明だけどお腹の空き具合から見て陽が落ち始めているかなと考えていると再び部屋の扉がギギギと音を立て開き、ヒャッハーさんとその後ろに2人、ローブ姿の人が居た。


「もう待てねえからお前を切り刻んでアイツへの復讐の第一歩とする!ひひひひ、アイツの泣き崩れる姿が目に浮かぶぜー!」

「えッ⁉︎な、泣き崩れるリオン、ですって!そ、そんなの、そんなの、絶対見たい!!!」


 不思議と恐怖は全く無く頭の中ではイヴの死によって泣き崩れるリオンという映像がエンドレスリピートしていた。


「な、なんだコイツ、ひひひ、監禁されてイカれちまったのかぁ?ま、まぁこれから死ぬんだ、ひひひ、どうだっていいか。じゃあな、恨むんならあのクソ野郎を恨めや!」


 腰から抜いたロングロードをイヴに向かって振り下ろすも間一髪で妄想から帰ってきたイヴが両足で地面を蹴り空振りに終わる。


「危ないですね!何するんですか!死んだらリオンが泣き崩れる姿が見れないじゃないですか!」

「うるせぇ!黙って殺されとけや!おい、お前等取り押さえろ!」


 今まで傍観に徹していた2人は素早くイヴを両側から取り押さえる。

振り解こうにもびくともしない事に驚愕しながらヒャッハーさんに視線を向けると再びロングロードを振り被っていたので、あぁもう終わりかと不思議と恐怖は無く達観しながらゆっくりと目を閉じた。

すると目の前でパキンと音がして、いつまで経っても痛みや意識が無くならないので恐る恐る目を開けてみると、イヴはまだ生きていた。

それ以前に剣はイヴを傷付ける所か触れてさえいなかった。

光の障壁に阻まれた剣が、ガギギギギと音を立て打ち破ろうとするが傷一つつかなかった。

同時にイヴを拘束していた2人も弾き飛ばされていた。


「なな、何だこりゃ!ハッ!まさかアイツが来やがったのかッ⁉ひひひ、︎とうとう現れやがったな!全員警戒しやがれ!」


 荒く息を吐きながら周囲を警戒するヒャッハー一味とリオンが助けに来た喜びに胸を高鳴らせるイヴが今か今かと待ち続けた。

3分……5分……10分……15分……30分……。

えぇぇぇ……。

理由は違えどリオンを待ち望む者達の声が一つになった瞬間だった。


「オイ、来ねえじゃねえかよ!どうなってんだコラァァ!おいガキ、どういう事だ!」


 いきなり怒鳴られたがヒャッハーよりダメージを負っていたのはもしかしたらイヴだったかもしれない。


「私だって知りませんよ!リオーン!私はここですよー!早く助けてー!」助けてー…助けてー…たすけてー…けてー……」


 悲痛な叫びは建物内を木霊しながら虚しく霧散していった。

途方に暮れる両者。

ヒャッハー一味は何度も剣や弓、魔法などでイヴを殺そうとするがその都度光の障壁に阻まれ失敗に終わる。

イヴは既に安全なのは身を持って知っているが未だに手枷足枷が装着された状態なので逃げようにも逃げられずにいる。

暫く無駄な応酬を繰り返していると突然扉が吹き飛び何人か轢き潰しながら壁に激突する。

扉が無くなった場所からはひとりの男が獰猛な笑みを浮かべながら入ってきた。


 時は少し遡りイヴが一生懸命修行をしていた頃、リオンはミスリル級冒険[天輪の翼]の面々と共にギルドからの依頼により王都近郊のダンジョンに来ていた。

既に数多の冒険者が踏破してきたこのダンジョンは10階層からなる初級〜中級位の難易度だ。

ミスリル級冒険者には些か退屈な難易度なのでその事も含めてリオンが尋ねると、丁度欲しい素材があり依頼もこのダンジョンの物があり、更にリオンと初めて組むので動きの連携を取りたいとの事だったので渋々了承した。

そして現在ダンジョン5階層の大扉の前にて休憩中。

初級者向けの1〜4階層の魔物はスライムやゴブリン、コボルトが殆どだったが5階層からは段々とオークやオーガ、リザードマンなど中級者向けの魔物も頻繁に出現するようになった。

そんな魔物を連戦で対処していた天輪の翼のリーダーであるルークスが休憩中のリオンに近寄ってくる。


「いや〜流石期待の新人リオン君だね。ここまで息ひとつ切らさず僕達について来れるとはね。どうかな、この扉の先にはここのダンジョンに2匹居る階層主の内の1匹が居るんだけど、リオン君の実力を見せてはくれないかい?勿論危なくなったりしたら援護は惜しまないから安心してほしい」

「構わねえよ。弱い魔物ばかりで退屈してた所だからな。休憩は終わりだ、さっさと行くぞ」


 ルークスは苦笑しながら仲間に声を掛けて支度をしているが、その仲間達は不満顔を隠そうともせずにリオンにぶつけていた。

勿論リオンは無視を決め込み扉を蹴破る。

オピスとルプは変わらずリオンの両サイドで手を繋いでニコニコキャッキャしている。

扉の中は円形ドーム型で中央には3m程ありそうな不健康そうな青いオーガと供回りの2mくらいの赤茶色のオーガが10匹。


(とりあえず鑑定っと)


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[名無し]種族名:オーガ[亜種]

[Lv.28]

[棍術Lv.5]

[身体強化Lv.4]

[鬼鱗Lv.3]

[闘気解放Lv.3]

[土魔法Lv.1]

[怪力Lv.4]

称号

[鬼を率いるモノ]


[名無し]種族名:オーガ

[Lv.15-18]

[棍術Lv.2]

[身体強化Lv.1-2]

[怪力Lv.2-3]


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 全ての魔物の鑑定が終わると腕を組み思案するリオン。


(不健康そうだったオーガは亜種だったんだな。なるほど、ブルーオーガって事か。階層主だけは強奪したい所だが、後ろの奴等が邪魔だな。まあこの場所は分かってるから今度イヴの修行がてらゆっくり奪うことにするか)


 方針を決めると同時に地面から10本の漆黒の槍がオーガを串刺にする。

更に漆黒の槍が七支刀の様に枝分かれして身体中から溢れ出る。

一瞬で供回りを殺された事でブルーオーガは怒気で顔を青黒くさせ此方に突進してくる。

両手には巨大なネイチャーウェポンの棍棒を持ち、天に掲げそのままリオンに高速で振り下ろす。

ドゴオォォォォォォォンと破砕音が部屋全体に鳴り響き土煙で視界も遮られる。

天輪の翼の連中は皆複雑な表情で不明瞭な空間を見つめていた。


「オイオイ、もっと真剣にやらねえとすぐ死ぬぞ。そんな力任せの攻撃だけで階層主として胡座かいてんのかテメェ」


 土煙の向こう側から怒気を含んだリオンの声が聞こえてくる。

次第に視界が晴れて2つの影が見えてくる。

1つは腕を組み片足でガンガン地面を砕きながら苛立った様子のリオン。

もう1つは片膝を付き呼吸を乱し、左腕を無くし全身傷だらけのブルーオーガ。


「本当に凄いね彼は……。オーガの亜種はソロなら冒険者ランクでゴールド以上だと言うのに、この短い時間だけでも彼の実力はゴールド、いやミスリル以上か……。足りるか……?」


 ルークスの言葉を受け他のメンバーも認識を改めた様で顔付きも大分険しくなっていた。

そんな話をしていると既に戦闘は終了していて四肢と頭部が切断されたブルーオーガが転がっていた。

その後も多少の休憩を挟むもののかなりのハイペースでダンジョン攻略を進めていった。

これは邪魔者が多くて強奪する機会が無いので早めに攻略して帰りたいリオンの強行のせいである。

立ち塞がる魔物を片っ端から潰しながら進み、遂にダンジョン地下10階層、階層主の扉の前まで到着した。

リオン以外のメンバーは軽く息を乱しながら休憩していたのでリオンは溜息を吐きながらルークスに話し掛ける。


「この程度で疲れてんならここの階層主も俺が殺していいよな?もうここは飽きたからな、早く帰りてぇ」

「なッ⁉︎テメェ、あまり調子にッーー」

「やめろ、ウィル!……ゴメンね、リオン君。彼は今疲れて気が立っているだけなんだよ。勿論君ひとりで勝てる自信があるのなら階層主の討伐はお任せするよ。残念だが、僕達は万全の状態では無いからね、君に迷惑が掛かってしまう……僕達は少し休んでから合流するよ」


 リオンはそのまま無言で彼等の横を通り抜け階層主が居る扉に手を掛ける。

後方ではルークスが仲間達に何かを話しているが興味が既に階層主に移っているリオンは扉を開け中に入る。

5階層と同様円形ドーム型の内部と、その中心部に1つだけ影がある。


(とりあえず鑑定、ん?これは、妨害?アイツの固有能力か……?んー、いやこれは……へぇ〜そういう事ね。まあ他の魔法は問題無い感じはするけど……相手に干渉する魔法が霧散するな。クハハハ、やはり実戦は学ぶ事が多いな。後で感謝を伝えないとな。今は目の前のアレを早く殺すか)


 方針を決めると相手も戦意を感じ取ったのか咆哮を上げハルバートを2本構えながら距離を詰めてくる。

先程の階層主同様オーガ種ではあるが2m程に身長は縮んだが、それに反比例する様に戦闘能力は大幅に向上しているらしくオーラが可視化して見える。

リオンは特に警戒もせずに、距離を詰めてくるオーガの間合いを刹那に潰し更に半歩踏み込み崩拳をオーガの腹部に突き通す。

リオンの速さに対処がワンテンポ遅れるオーガが咄嗟に後方に飛ぶ事で威力を殺そうと試みるが半分も殺し切れずに衝撃で背後の壁に減り込む。

リオンはオーガが落としたハルバートを拾い上げ、1本はオーガの腹部を狙い、投げ返す。


「自我があるかは分からねえが階層主なら少しは根性見せろ!」


 煽りが届いたかは不明だが投げ返したハルバートが腹に突き刺さり悲鳴を上げていたオーガが憤怒の形相でオーラが膨れ上がる。


「ブルーオーガも持ってた闘気解放ってやつか?さっきの奴は使う前に死んだからな。ふむ、力は多少はマシになったが、それで暴走する様じゃつまらねえな。それがお前の限界か……興醒めだな、終わらせるか」

「ガァァァァアアアァァァァ!!!!」


 オーガが先程より高速にリオンとの距離を詰めてきてハルバートを横薙ぎに振り抜こうとし、それに合わせリオンもハルバートで応戦する。

両者のハルバートが火花を散らしながら鬩ぎ合い拮抗させていると不意にリオンの足元に魔法陣が現れ、中から鎖が出現してリオンの全身に絡み付く。

雁字搦めになったその姿に後方から楽し気な声が掛かる。


「アハハハハ、漸く隙を見せたねリオン君。これで、これでやっと君にあの時の借りを返せるね」


 ルークスをリーダーとする天輪の翼の連中が高笑いしながらリオンの傍に歩いてくる。

階層主のオーガも現状が理解出来ず一旦飛び退き距離を取る。


(この鎖は無属性魔法の拘束術、みたいなもんか?初めて見る……ふむ、興味深いな。これは、多少力は抜けるがそれが逆に程良い脱力が出来て良い感じになったな。こんなもんじゃ俺には無意味な鎖、厨二ファッションだな……)


 そんな考察するリオンに何が面白いのかルークスは機嫌良く語りかけてくる。


「状況が理解出来ていないって顔だね。アハハ、僕、いや僕達はね、以前僕の腕を切り飛ばしてくれた時からずっと君へ復讐する事を考えていたんだよ。でも僕も馬鹿じゃない、君が強い事は嫌と言う程知ったから仲間達と相談して色々道具を揃えこのダンジョンに誘い込んだのさ!知ってるとは思うけど、ダンジョンは命あるモノが死ぬと栄養として吸収する機能が備わっているからね。リオン君がここで死んでも証拠も残らずに始末出来るって訳さ」

「なるほどな。頑張って全員で知恵を絞り立案し実行に移したって訳か、頑張ったじゃねえか。しかし俺をここで始末したらギルドに怪しまれるんじゃねえのか?」

「アハハハハ、さっきも言ったが僕はバカじゃないのさぁ!そこも完璧なんだよ!今回の依頼に表向き君は関与していないし、ギルドは同行しているとも思っていないからね。ここに来るまでは認識阻害の魔道具を常に張っていたからね、僕達が君と一緒に行動しているとも思っていないのさ!」

「クハハハ、弱者のお前等らしい、それはそれは慎重なこった。それで?お前はバカじゃねえんだろ?ならこんな鎖程度で俺を拘束出来るとは思ってねえんだろ?折角ここまで準備する時間と攻撃する隙まで態々与えてやったんだ。死力を尽くし全てを出し切れ!」


 全てが上手くいってると思い込んでいたルークス達は、一瞬怯えた表情を見せるが余裕綽々なリオンを見て直ぐに怒りを滲ませた顔で睨み付ける。


「ふ、ふふ、いつまでその強がりが通用するかな!アンナ頼む!」

「うふふ、任せて。筋力上昇、敏捷上昇、魔力強化、物理防御強化、魔法防御強化」


 桃髪女が仲間にバフを掛けていき全員の士気が上がり、大楯を構えた男がリオンに突進してくる。

その際に死角からシーフっぽい猫娘が2本のダガーで襲撃しようとしている。

よく見ると妖しく光を反射する紫色の毒に濡れたダガーだ。

小さい魔法使いは後方で魔力を溜めており周囲に魔道具が複数展開しており、大規模な魔法の準備をしていたので期待大だ。ワクワクする。

そして、ルークスはというと何故か桃髪女の隣で様子見に徹するらしく勝ち誇った笑みを浮かべていた。


(どうすっかなぁ。人化を解いて戦うってのも面白そうなんだが転移の魔道具とかあったら拙いしなぁ。とりあえず、盾と猫を殺して逃げなければそんな手段は持ってないって判断出来るか?いやいや、ん〜?まあ逃げられたらそれでも良いか。人間の最大の武器はチームワークだからな。削ったらつまらねえよな。丁度ここはダンジョンだからな、クハハ、勇者よ!よくぞ来たな!とか出来て面白そう……)

(ねぇ〜リオン……そんな子どもっぽい事やりたかったの〜?いい加減大人になりなって〜。そんな事より早く殺してご飯食べようよ〜お腹空いたよ〜。あっ、そこのオーガ食べて良い?)

(わたしはそんな子どもっぽいリオンも好きだよ〜。今度一緒に勇者ごっこして遊ぼう〜、もちろんわたしがお姫さまね〜)

(リオンが子どもなのは今始まった事じゃないでしょう。そんな事よりあの盾持ちの男、なかなかカッコイイわね。後で取り込んで私の階層でお世話係にしましょう!)

(あれ〜?何でお前等俺の心の声が聞こえちゃってんの⁉︎念話も繋いで無いんだけど⁉︎つか幼女のオピスとルプは置いといて最近ツバサの発言おかしくね?何取り込むって、そんな事可能なの?俺の身体なのに知らない事多過ぎじゃね?君とは後でじっくり話し合う必要があるな)

(リオンは常に表に出てるからわかんなかったと思うけど〜最近になって爺が意思疎通が楽になる魔法ができたって喜んでたからみんなで教えてもらったの〜)

(えぇ……やれやれ爺もツバサも後で俺の部屋に来なさい。さてさて、こんな話は一旦置いといてやっぱ機を見て人化を解いてボス戦風に遊ぶか)


 方針を決め、ここまで最近取得した思考加速のスキルの効果で1秒未満の出来事だ。

とりあえず、連中の力を見る為最初は人化したまま戦うことにした。

先ずは盾男がシールドバッシュでリオンを制圧兼攻撃を仕掛けて来る。


「ミーニャ今だ!」


 声掛けと共に盾男の影から猫娘が出て来てリオンの首にダガーを2本突き立てる。


(人体の急所を躊躇無く的確に狙う猫娘はなかなか見所があるが、秒単位の指示でも声に出すのはいただけねえな、注意して教育的指導でもするか。なんせ俺が理解出来るからなぁ、ハァ……まだ全然足りねぇ)


 パキンと音を立て光の障壁に阻まれダガーの鋒が欠けると驚愕の表情を浮かべた猫娘は後退する。

その姿を一瞬目で追ってしまった盾男の大楯にリオンの後ろ回し蹴りが突き刺さり盾ごと男は吹っ飛んでいった。


「死力を尽くせって言ったよな?言葉が通じる相手と戦ってんのに声で指示出しすんな間抜けが!後ろでヘラヘラ笑ってるお前も参加しねえと大切な仲間が死ぬぞ。雑魚のお前等唯一の武器はチームワークだろうが、だったらお前等のチームワークを見せてみろ!」


 悪役然としたセリフに1人満足するリオンと侮辱されたと思い顔を紅潮させる天輪の翼の連中。

盾男は桃髪女に回復を受けているが、先程のリオンの蹴りで大楯は真っ二つに割られており使用不可能で、更に勢いは盾を超して男の腹部にもダメージを負っていた。


「あまり調子に乗らない事だね。僕達を本気にさせた事を後悔しながら死ねぇぇぇ!」


 既に新しいダガーに交換した猫娘とアーミングソードを二本ルークスが構え左右から挟撃してくる。

リオンは先程オーガから奪ったハルバートを構え迎え撃つ。

右から来る猫娘が先程の折れたダガーを2本投擲してくるが無視して左から来るルークスの十字斬りをハルバートの横薙ぎでルークス諸共ノックバックしたタイミングでカキンカキンとリオンの背後でダガーが弾かれる音が響き、それの数瞬後に猫娘がダガーを頭部に振り下ろす。

先程の毒ダガーとは異なり刀身が薄光しており魔剣の類いだと判断しハルバートを振り上げ、ダガー諸共猫娘を吹っ飛ばす。

振り上げたハルバートの反動を利用し回転しながら背後に振り下ろすとそこには斬りかかろうと接近していたルークスが予想外の攻撃に慌てて剣をクロスさせ防御態勢を取り、その場所に吸い込まれる様にハルバートがのしかかる。

あまりの衝撃にルークスの足元が地面に沈み、2本ある剣の1本目は粉々に砕け2本目で何とか耐えている状態。

ぐぬぅと唸り声を上げるルークスの顔面に中段蹴りを叩き込み、ぐぼおぉぁ、と汚い音を流しながら再び吹っ飛ぶ。

イケメンは死すべし慈悲は無い。

しかし、吹き飛ぶルークスは顔面を色々な体液でグシャグシャにしながらも笑みを浮かべており小さい魔法使い向かって叫ぶ。


「今だぁシェリルゥゥゥ!やれぇぇぇぇぇ!」


その声を合図に後方から膨大な魔力が収束する。


「だ、第六階梯魔法、ファイアーストーム!!!」


 凄まじい熱量の渦がリオンを中心に吹き荒れ周囲の全てを焼き尽くしていく。

顔面を桃髪女、アンナに治療されながらルークスは勝利に笑みを深くする。

ここに至るまでの道のりでリオンに近接戦をしても勝ち筋が薄い事が分かっていたが5階層の階層主との一戦で不可能だと認識し軌道修正を図りシェリルに持たせた魔道具を使用した高階梯の高火力魔法による殲滅に変更していた。


「予想はしていたけど、本当にリオン君は強かったよ……何故君がアイアン級なのかよく分からなかったけど、その強さ故の傲慢さが君自身を滅したのさ。アハ、アハハ、アハハハハ!僕の、僕達の勝ちだ!!!」


 天輪の翼の連中は疲労感はあるものの今は達成感で満たされており皆一様に笑みを浮かべていた。

人を殺したにも関わらずに、だ。

実際リオンは人では無いが現時点では彼は人と認識されており、その人間を殺したというのに笑顔を浮かべられる異常性。

人という種は群れの中に異物又はそう思うモノが存在する場合それを排除する為にどこまでも非情に、醜悪に、残酷になれる。

更にそれ等の行いを[正義]という自分勝手で利己的な言葉で麻痺させ、自らの行いを正当化させ他者を害する。

それが人間というものであり、それを否定するつもりは無い。

そもそもとして人はそこまで高尚な生き物ではないからだ。

常に他人を見下し優越感に浸り、又は自分より劣った者を見て安堵する醜い種族。

今回に関しては相手が悪かっただけ、何かをするなら自らもされる事を想定して行動立案しなければこうなる。

圧倒的熱量な中に居ながら一瞬で片腕の人化を解き、一番近くにいた盾男に振り下ろし直ぐ様腕を戻す。

彼等彼女等には盾男が急に潰れた様にしか見えなかっただろう。


「これでお前等は死力を尽くしたか?満足したか?俺としてはもう少し小賢しく醜悪な人間の所業が見れると期待したんだが、腐っても冒険者という事か……それともあくまで俺に対しての復讐だったって訳か」


 未だに先程の灼熱の炎が周囲を蹂躙しているがリオンの声は普通に聞こえてくる状況、更には先程まで近くに居た仲間の1人ウィリアムが一瞬で肉塊になった事で全員が驚愕と恐怖の表情を浮かべる。

だがそこは流石冒険者と言う所か、既に臨戦態勢に移行している。

しかし動揺を完璧に抑え込むには至らない、彼等はまだ若過ぎたのだ。


「バカな!これでもまだ死なないと言うのかッ⁉︎……君はバケモノか何かなのかい?シェリル、もう一発いけるかい?」


 問い掛けにシェリルは頷き目を閉じながら魔力を練り始める。

炎でリオンの姿を視認出来ていない一行だが、次の瞬間には周囲の炎は掻き消えた。


「バケモノか……良い線まで考察出来たじゃねえか。いやただ実力差があり過ぎてそう見えただけか……まあいい、冥土の土産に面白いモノを見せてやるよ」


 人化を解き身体が膨れ上がり全身を漆黒の毛皮が覆っていく。

オマケに普段手加減する為に切っている身体強化系の魔法を全て発動する。

呆然と眺め、カタカタと無意識に震えるルークス達だが、やっとの思いでひと言だけ溢れ落ちる。


「バケモノ………」


 その言葉を最後に天輪の翼は全滅した。

5秒も掛からず、痕跡も残らずこの世から消滅した。

ちなみに階層主は魔術使いのガキが放った魔法の巻き添えで死んでおり、オピスが美味しく平らげた。

ルークス達の頑張りでリオンが隠蔽工作する必要は無かったので階層主が居た更に奥の間の転移魔法陣で地上に戻り意気揚々とギルドに戻った。

すると、1人の燕尾服を着た老人に声を掛けられた。


「失礼ですが、リオン様でお間違えないでしょうか?私はアイゼンヴァルト様に仕える執事のサイラスと申します。」

「そうだけど、なんか用か?」

「はい、先日お助け頂いたお礼がしたいと主様から屋敷への招待状をお預かり致しました。是非リオン様にと言う事ですので、どうぞお受け取り下さい」


 真っ白な便箋に真っ赤な蝋で封がされている招待状を受け取る。


「ふむ。分かった、が日取りはいつだ?あと招待されたのは俺だけか?」

「日程は5日後を予定しておりますが大丈夫でしょうか?招待客の候補がリオン様と以前いらしたオピス様とルプ様、ですが勿論他に呼びたい方が居りましたら歓迎致します」

「分かった。日程も問題無い。連れてくとしても2人くらいだが、そういや種族の規定はあるか?」

「では、5日後にこのギルドの前にてお待ちしております。それと、私の主様は亜人差別に嫌悪感を抱く程親亜人派として知られておりまして我が家のメイドにもエルフや獣人など様々な種族が働いておりますのでご安心下さいませ」

「それはそれは、この王国だと暮らし辛そうだな。だがそうか……アイツは好感が持てそうだな。クハハハ、面白い話が出来そうだ。それじゃ用事は済んだだろうし俺はそろそろ帰る、またな」

「はい、再びお会い出来るのを心より楽しみにしております」


 そのまま宿に直帰しそのまま気分良く就寝する事にした。

翌る日、本日はイヴに帰ると伝えた日でもあるので一旦リンドブルムまで帰る事にした。

色々雑用を片付けていたら陽が落ち始める頃まで掛かってしまったが漸くリンドブルムの冒険者ギルドに辿り着いた。

両手に幼女を引っ提げて扉を開けると直ぐに血相を変えたマリーが此方に走って来た。


「あッ!!リオンさーん!お帰りなさい!宿にイヴさん居ましたかッ⁉︎今日まだギルドにいらっしゃってなくて……」

「おぉ、マリーか、ただいま。ん?イヴ?さあな、ここに直接来たから知らねえよ。何かあったのか?」


 詳細を聞くと、最近俺に復讐する為にヒャッハー君が仲間を集めているらしくイヴはそれに巻き込まれた可能性が高いとのこと。


「つまり俺が原因って事かぁ。つかあれくらいならイヴでも対処出来ると思ったんだが、過大評価だったか……。まあいい、ちょっと調べてみるか…………あぁ、確かにこりゃ捕まってるわ。人数は……20、いや30人か。とりあえず、[パチン]これでイヴが死ぬ事はないだろ」


 トントン拍子に話が進みイヴはやっぱり誘拐されていた事実や既に発見した事や既に対処もしたらしい事を聞かされマリーは固まってしまった。

それどころか騒ぎを聞き付けた周囲の冒険者までもがお口あんぐりで固まった。

当事者含めた3人はと言うと、「ねぇ〜リオン〜今日ご飯何も食べてないって知ってる〜?イヴちゃんの無事は確認できたんなら〜先ずはご飯だよね?ねぇ?」

「オピス、わたしのリオンを困らせないで!」

「分かった分かった。マリーも一緒にどうだ?奢ってやるぞ」

「えっ?あっ、はい……ッて!そんな事より!えっ?本当にイヴちゃんは誘拐されたんですか⁉︎早く助けに行かないと!」


扉に向かい走り出そうとするマリーを捕まえ小脇に抱える。


「とりあえず落ち着けよ。場所も分からねえのにどこ行くんだよ。後でちゃんと迎えに行くから心配すんな、ほらほら行くぞ」


 さっきまであれだけ騒いでいたのに小脇に抱えられた瞬間顔を真っ赤に染め耳や尻尾がピンと逆立ち固まってしまった。

騒がれるよりマシなのでそのままギルド横に併設されている酒場に行き4人掛けのテーブルにマリーを降ろしリオンは向かい側に座った。

まだ顔は赤いが少し冷静さを取り戻した様でパタパタと尻尾を振り、頬を膨らませながらリオンを睨む。


「も、もう!私は物じゃないんですからあんな持ち方しなくてもいいじゃないですか!でも……ありがとうございます、少し冷静さを欠いていました。ただ私にも状況の詳細を教えてくれませんか?」

「あぁ、イヴを拐ったのはさっきマリーが言った通りヒャッハー君で間違いねえな。それが頑張ってお友達を集めたみたいだから後でちゃんと挨拶に行かねえとな。イヴには障壁張っといたから第八階梯くらいの魔法までなら防げるだろ、多分、恐らく、知らねえけど」


 ふむふむと聞いていたマリーだが、「えッ⁉︎第八階梯って、えっ?嘘ですよね?ねぇリオンさん!」、と喚いていたのでとりあえず無視していたら良いタイミングで料理が運ばれて来たがテーブルを埋め尽くす程の勢いで次々置かれていく。

オピスを見ると某掃除機の様に吸引力が衰え知らずの如く口にご飯が次々飛び込んで行く。

暫くオピスの暴食を眺めたり、ルプと遊んだりマリーと雑談したりとまったり過ごし時間を費やす。


「そろそろ片付いてる頃だろ!どれどれ……ん?全然状況変わってねえな。寝てんのか?いや、起きてんなぁ……」


 ブツブツと独り言ちていると、おずおずとマリーが話し掛けてくる。


「あの〜リオンさん?普通は女の子が何十人もの暴漢に囲まれていたら対処出来ないのでは?」


ピシャーンとリオンの脳天に雷が落ちる程の衝撃が走る。


「はっ?……そうなのか?いやだが、イヴは普通じゃ……いやいやもしや俺の索敵を隠蔽している可能性も、いやそれは無いか……はぁ、面倒臭いから確認がてら見に行くか。マリーはとりあえずここで帰りを待ってな。オピスとルプも留守番だな」

「はーい!あっ!お姉さんご飯追加で持ってきて〜」

「あっ、はい……。な、なんかその言い方は妻感がありますね。ふふ。」

「むぅ!リオン!わたしにも言って!」

「妻感てなんだよ……まぁいいや。ルプも大人しく待ってるんだぞ」


 呆れながらもルプの頭を撫でるとイヴの救出に向かう。

後ろからは上機嫌に鼻唄を披露するルプと無限食事を続けるオピス、それと未だ妻感にハマり中のマリーが見送る。

早速イヴの元に行く為に監視者などを全て気絶させ身軽になってから走り出す。

監禁されている建物は今居る魔法国家リンドブルムの首都リーヴァにあり、長年使用されていない倉庫を拠点としていた。

周囲に人気は無く、探ってみると倉庫内に30人全員確認出来たので、正面の錆び付いた巨大な扉を蹴り飛ばし意気揚々と中に入りイヴを発見する。


「あっれぇぇ〜?死なねえ様に障壁も張ったってのにまだ制圧してなかったのか?死ぬ心配が無くなったら後は粉骨砕身するだけだろうが!」


 入ってくるなり突然手足枷を付けられた少女を詰め始めた侵入者に周囲の男達がリオンを囲み出す。


「おいコラ!なんだテメェは!いきなり入ってきてよ。この嬢ちゃんの仲間か?」


 ひげもじゃが話し掛けてくるがリオンの眼中にはなく一直線にイヴの元に歩いて行くが、直ぐに道を塞がれククリナイフをリオンに押し付けるが、パキンと簡単に折れる。


「な、なんだお前、ち、近くんじゃねぇ!」


 折られたナイフを投げ付け喚く男を一瞥すると途端に男の意識が無くなりその場に崩れ落ちる。

その様子に皆一様に警戒心を露わにし、距離を取る。


「何か言い訳があるなら聞こう。1週間の修行の成果はこれって事でいいのかな?」


 イヴの顔を覗き込み問い掛けるリオン。

彼女は手足の枷をリオンに突き付けながら頬を膨らまし反撃する。


「守ってくれたのは素直に感謝しますけど、これ見て下さい!この枷があるから魔法が使えなかったんですよ!それでこの人数を相手取るとか無理に決まってるじゃないですか!もう!もう!」


 手枷付きでボコボコ殴りかかってくるイヴの首根っこを掴みながら枷を観察する。


「ん〜?この枷って魔法発動の際の魔素収束と周囲から魔素を取り込む吸収を阻害する機能しかないんじゃね?身体強化とかの体内循環系や体表に出ない魔法には効果ないだろ。ふむ……百や千相手にする訳じゃねえんだから、ここに居る雑魚くらいならいけると思ったが……まぁいいや。この枷は外してやるから半分くらい倒してみろよ」


 軽く摘むとパキッと簡単に壊れる枷。

リオンの顔と壊れた枷を交互に見てため息を吐くイヴ。

とっても失礼だが、気にしない事にして足枷も同じく壊すと漸く元凶が登場した。


「ひひひ、やっと会えたなクソ野郎がぁ!お前を殺す為毎日毎日お前の事を考えていたぜぇぇ、ひひひ。さぁさぁどうやって殺してやろうかぁぁ!ひひひ、先ずはこれからだ!死ねェェェェェェ!!!」


 ヒャッハー君の後ろから10人のローブを羽織った人が現れ杖型の魔道具を掲げると膨大な魔力が空中に収束していく。


「ひひひ、この前は接近戦で敗北しかけたが、これならどうだぁ?後ろのガキ諸共ぐちゃぐちゃになっちまえぇぇ」

勝手にヒートアップするヒャッハー君に興味なさそうな視線を向ける。

「いやいや、もう飽きたんだよなそういうの……。雑魚は数を増やしても雑魚なんだからよ。もう少し頭使ってさぁ、勇者や英雄と呼ばれるくらいの強者を出せ!」


 魔力を練っていた10人は一瞬で潰れて挽肉になり、隣の挽肉と混ざり合い一塊になると、地面に吸い込まれて跡形も無く消滅した。


「ひひひ、やれぇぇやっちまえぇぇ、ぇえ?あえ?アイツ等は、どこ、だ?」

「呆けてる場合じゃねえぞ?上を見ろ。そろそろ限界だぞ?」


 混乱から復帰する前に新たな情報を与えられ無意識に上を向くと、先程魔術士達が集めていた膨大な魔力が制御する存在が消滅した事で暴走状態になっており今にも爆発する雰囲気だ。

さながら破裂寸前の風船の如く、そんな状態の魔力球に少しでも外的要因が参加表明すればどうなるかはここに居る連中でも容易く想像する事が出来る。


「クハハハ、無様に踊れ!余興には丁度良い」


 リオンが腕を振ると漆黒の槍が魔力球に突き刺さり、その瞬間大爆発を引き起こす。

リオンとイヴ以外は四方八方に吹き飛び倉庫の壁に激突し、衝撃で骨が折れ皮膚を突き破り、脆い部位は千切れ捻じ曲がり、噴き出した血液などの体液は魚拓の様に壁に痕跡を残す。

これだけの大爆発を前にしても倉庫が倒壊する事はなく、随分頑丈な作りだと感心しそうになるがそんな訳は無く、勿論リオンの魔法によるものだ。


「あぁ、一瞬で終わっちまったな。他にもヒャッハー君が用意してたっぽいけど自爆しちゃって馬鹿だなぁ。イヴの分も取っちまったな、まあまた今度だな」

「……私にはリオンが全てを吹き飛ばした様にしか見えませんでしたよ。でも、助けに来てくれてありがとうリオン!」

「構わねえよ。今回はイヴを過大評価しちまった俺の責任でもあるからな。明日からはもっと内容を濃くしてみるか……ん?おぉ、もう少し楽しめそうかな」


 リオンの視線を追うと土煙の奥から血だらけのヒャッハー君が憎悪に染まった目をギョロリと向けてきている。


「ひ、ひひひ、ひひゃひゃひゃ、ま、まだ、だ。これから、が、ほ、本番、だ」


 そう言うと懐からひとつの瓶を出し一気に飲み干した。

先程の衝撃でも壊れない瓶に興味を引かれていると、次第にヒャッハー君の身体が黒く変色していき頭部からは闘牛の様な2本の角が生え始めた。


「ふむ。なんだあれ、イヴはなんか知ってるか?ヒャッハー君は人族じゃなかった?」


 リオンは呑気に尋ねるがイヴは恐怖の為かリオンに抱き着き首を横に振る。

そんな問答をしていると変身が終了した様だ。


「とりあえず見てみるか、鑑定っと」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



[ザンバ]種族:魔族

[Lv.24]ジョブ:斧術士 状態異常:衰弱

[斧術Lv.5]

[剣術Lv.2]

[弓術Lv.1]

[棍術Lv.3]

[身体強化Lv.3]

[魔人化]

称号

[人魔併呑]→人に魔を取り入れ身体能力を飛躍的に向上させる。しかし人の身では徐々に魔に侵食され衰弱していく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さっき飲んでた薬が原因か?ん〜魔族……文字がイヴと似た種族だが、どうなってんだ?魔族は人工物?まあそれは後で考えるとして、アイツは多分放っておいてもそのうち死ぬくらいの副作用があるらしいな。鑑定じゃ見えない能力もあるかもしれねえな。そうじゃねえと割に合わねえからな。騙された可能性もあるがそれは今はどうでもいいか。とりあえず、イヴ離れてろ」


 知能もそこらの魔物並みに落ちたのか唸りながら此方の動きを観察するヒャッハー君。

既に見た目は人族のそれではなく、身長は3m以上で全身黒く見えたのは体毛で霊長類で言えば退化した様な外見に頭には角が2本、背中には蝙蝠の様な翼、トカゲの様な爬虫類の尻尾が生えている。

小手調べに床に落ちている小石を拾いデコピンで弾く。

パーンと小気味好い音が響く。

そのままドガァァァァァンと巨大な物体が倒れる音が響く。


「ん?回復能力があるのか?自己再生とか?不死だから攻撃避けない感じ?」

「えぇと、いえ……もう死んでますよねアレ」

「えっ?はっ?そんな訳ねえだろうが。小石弾いただけだろ。おい!起きろ!仕切り直しだ!」

「リオンが弾いた小石ならメテオ並みの威力が出そうですから相手に同情しますよ。それよりもう終わりましたよね、私昨日から殆ど何も食べてないのでお腹空きました!早く帰りましょうよ」


 ぐぬぬと唸るが鑑定の状態異常も死亡と出ていたのでガックリと肩を落とし帰る事にする。

その際に色々と証拠品になりそうなのでヒャッハーの身体は回収した。

倉庫に張った障壁を消して、大穴が空いている扉跡に向かって歩いている2人の前に何の前触れも無く忽然と1人の人型のモノが立ち塞がる。

リオンが直前まで全く気配を感じなかった存在。

不思議なモノだった。

気配は希薄、しかしどこか懐かしい気配を感じるモノ。

観察してみると頭のテッペンから足の爪先まで白い。

誇張でも何でもなく真っ白。

アルビノでも眼は基本は赤色だが目の前のモノは白だ。

造形だけでの判断は女だ。白い女。

腰にまで届く髪はストレートで整い過ぎて精巧な人形の如き顔に白いロング丈のワンピース。


「やぁやぁ、どうもどうも、僕が直々に遊びに来たよ〜」


 文字に起こしたならばフレンドリーな語調だが実際は無表情に抑揚の無い機械音声の様に硬質なものだった。

人化していながら全身の毛が逆立つ感覚が襲いギルドにいるオピスとルプに隠蔽の魔法を掛けて呼び寄せると戦闘態勢を整え隙を窺う。

そんな状態になっていると気付かないイヴが呑気な感想を溢す。


「わぁ……何と言うか凄い神秘的な雰囲気がありますね。ねぇリオン、綺麗な[グシャ]人で、す、えっ?えっ⁉︎いきなり何やってるんですかリオン!あえ?」


 目の前の不思議な雰囲気を纏う白い女性に見惚れていると突然潰れたので元凶であるリオンに鋭い視線を向けるが、その怒りが一瞬で霧散する程警戒心を露わにしているリオンを見て言葉が続かなかった。

既に人化を解きキマイラとして十全にその能力を解放していた。


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[リオン]種族名:アビスキマイラ[新種]

[Lv.72]

[剣術Lv.8]

[短剣術Lv.8]

[槍術Lv.6]

[斧術Lv.6]

[棍術Lv.6]

[拳術Lv.7]

[弓術Lv.10]

[投擲Lv.9]

[威嚇Lv.8]

[威圧Lv.8]

[状態異常無効]

[気配察知Lv.9]

[精神分裂]

[念話]

[思考加速Lv.4]

[鑑定Lv.7]

[魔力操作Lv.9]

[魔力制御Lv.9]

[火魔法Lv.7]

[水魔法Lv.5]

[風魔法Lv.7]

[闇魔法LvMAX]

[光魔法Lv.8]

[土魔法Lv.3]

[身体超越化Lv.7]

[剛腕Lv.7]

[堅牢Lv.5]

[自己再生Lv.7]

[擬態]

[人化の術Lv.7]

[咆哮Lv.1]

[裁縫Lv.2]

[料理Lv.2]

[建築Lv.2]

[曲芸Lv.2]

部位獲得能力

[ラグネリアデーモン Lv.72][新種]色欲

[ガストリアヴァイパーLv.72][新種]暴食

[エンヴィディアルウルフLv.72][新種]嫉妬

[アプレグリーディアリッチLv.67][新種]強欲

[スローテディアスライムLv.65][新種]怠惰

[オルゲイラドラゴンLv.65][新種]憤怒

称号

[人類の天敵]

[殺戮者]

[強奪者]

[インセクトキラー]

[スライムキラー]

[森の覇者]

[同族喰ライ]

[大厄災]

[大罪喰い]

[金城鉄壁]


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


[イヴ]種族名:魔人族

[Lv.19]ジョブ:なし

[土魔法Lv.4]

[火魔法Lv.2]

[水魔法Lv.1]

[身体強化Lv.3]

[???]→可能性の卵。


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