第17話 首都サリバン

 ルベリオス学院長の呼び出しから早一週間が経とうとしていた。

入学式が1ヶ月後だと聞いたのでリオン達は暇潰しなど兼ねて冒険者ギルドで依頼を数多くこなしていた。

と言ってもまだアイアン級冒険者、依頼も小型魔物討伐や薬草採取など難易度の低いモノばかりだ。

基本的にはイヴにまかせて惰眠を貪っていたリオンだが、用事が思い付くと遂に重い腰を上げる。


「ちょいと王国に行ってくるわ」


 そんな言葉が飛び出したのも暇過ぎて旅行に行こうと思ってでは勿論ない。


「私も行きます!連れて行って下さい!」


 リオンがそんな事を言うと当然イヴもこんな事を言う、だが……。


「いや、今回イヴはお留守番だ。不在中の練習課題も考えてあるからサボるなよ」


 しかし今回は面倒臭い事になるので連れて行くのは憚られた。


「何でですかッ⁉︎邪魔にはなりませんからー!お願いします!連れて行って下さい!」


 いつも通り食い下がるイヴだがリオンが首を縦に振る事は無かった。


「やれやれ、今王国では亜人撲滅運動が起きていて魔人族のイヴが行けば色々と面倒臭い事になりかねんからな。しかも実力的にも弱過ぎて足手まといなお前はお留守番なのは決定事項だ。まぁ1週間くらいで戻るからそれまでに腕をあげておけ。いつまでも弱いままだと今後も留守番の頻度が増えると思って今回は我慢し鍛錬に勤しめ」


 流石にここまで言われたイヴは、「ぐぬぬ」と何かを言いたげだったのか口をモニョモニョさせるも話された内容が事実なので唸る事しか出来なかった。

その後は不在中の練習課題を渡し、その内容に悲鳴を上げるイヴを見たりと穏やかに時間が過ぎていく。

そして次の日、リオンは今生の別れかと思わせる程悲壮感漂う顔のイヴに見送られながらリンドブルムの外に出る。

その際には邪魔な監視者を全員気絶させ、暫く歩き人の気配が無くなったのを確認すると人化を解いた。

キマイラの姿に戻りそのまま山脈を飛び越え、以前暮らしていた森の深部に一旦降り立つ。


(ひとりだとあっという間に移動出来るなぁ。やっぱ枷があると窮屈だが、存分に楽しむ為には苦労もしねえといけねえよな。……それはさて置き、アイツは居るかなぁ)


 気配察知で森の殆ど全域を探っていくと対象の個体を数個発見したので狩りに出る。

狩りや食事と、目的の強奪が終わったのが大体1時間くらい。

合計4体の黒亀を捕食して遂に称号スキル[金城鉄壁]を強奪した。

最近まともにレベルも上がってなかったので久々のレベルアップにこの黒亀はマリーの言う通り危険、もとい美味い亀だった様だ。

素材諸々も確保したので然るべきタイミングでギルドに売ろうと心に決める。

鑑定の結果、[金城鉄壁]の取得条件がスキル[堅牢]をLv.5以上を所持している段階で攻撃を100回受けきるという面倒臭い条件が判明したので、達成までに時間が掛かってしまった。

攻撃と言ってもリオンにはマッサージ程度の圧しか感じなかったが黒亀に囲まれてリンチされている姿はまさに虐められっ子、逆浦島太郎。

誰も助けには来なかった。

そんな寄り道を済ませると今度はアルザスの街跡地に降り立ち周囲を確認する。

大分調査の手が伸びており粗方探した状態だった。

リオンはこの街を消滅させた後に魅了した虫を複数跡地にばら撒いた事で、調査に訪れた様々な国の間者や調査員に張り付き大量の情報を得ていた。

現在進行形で膨大な情報が頭に流れ込んできているが処理を爺とツバサに任せているので負担はそこまで大きくはない。

だが魅了している虫は魔虫では無くただの虫なので潰されれば簡単に死ぬというデメリットはあるものの魔力も持ってない羽虫なので探知系の魔法には引っ掛からないので重宝していたのだ。

虫の他にもネズミなどの小動物も魅了してみたが、こちらには捕食者が大量に存在していたので長時間活用する事が出来なかった。

昨日イヴに伝えた亜人撲滅運動もここに訪れた騎士団による情報だ。

そして今現在王国では、このアルザスの街を消滅させたのは魔法国家リンドブルムの大規模新型魔法の可能性を強く推している。

今回の旅行はそれ等の情報を色々操作するのが目的だったりする。

リオンは内心クスクスと笑いながら、跡地を飛び立ち王国に向け進行した。

王国首都サリバンが遥か遠くに視認出来た頃、眼下を見ると街道から少し離れた場所で金属同士が打ち合う音、男の声や女の悲鳴が聞こえてきてどうせ野盗の類いだろうと思い、丁度良いと考え路銀の足しに皆殺しにする事にした。

近くに降り立ち人化をして準備完了。

気配察知で争う者達を探ると野盗と思しき連中が6人、応戦している騎士が4人、騎士達の護衛物と思われる二頭立て馬車に御者1人、内部に子ども1人大人2人、死者はまだ居ない、だがある程度戦闘が継続しているのか騎士の陣形が多少崩れてきている。

この世界は野盗の方が体力があるのかと思う程今まで出会った騎士は貧弱だ。

全滅まで見学していても良かったが、馬車に子どもがいるので野盗共には早々に退場してもらう事にした。

アルザスの街を消滅させた奴が何言ってんだと思うかもしれないがリオンは前世から今世まで自らが認知している範囲内で無害な女、子どもを殺した事は無い。

だがリオンが敵認定してしまった際はその限りではないのである。

その被害者達がアルザスの街の住人なので、そこは運が無かったとしか言えない。

そんな基本気紛れで生きているリオンが今回は馬車の外装を含めて馬車内にいるおそらく貴族か名のある商家に恩を売った方が後々利益に繋がり、楽しみが増えると判断した。

方針が決まれば即実行、という事で足を踏ん張り地面を蹴るとリオンは弾丸の如き速さで野盗共に突っ込んでいきまず後衛で弓を構えた2人を体当たりで挽肉に変えた。

常人には2人の野盗が急に掻き消えた様に見えただろう。

そして次の瞬間には近くの木々にびちゃびちゃと赤黒い挽肉入りの液体が斑点模様を描く。

この段階で前を向いている野盗は後衛の状況に気付いていないが騎士達からは木々をキャンパスに前衛的に描かれた作品が目に入っており驚愕の表情で固まっていた。

そんな阿呆面がリオンの視界にも入り呆れた様に注意する。


「お前等腐っても騎士だろうが。戦闘中に一分一秒、刹那ですらも気を抜く事は死に直結するぞ。まだゴミが4個目の前にあるだろうが!っと言いたい所だが……まあゴミはあるが意識はもうねえな」


 言い終わる少し前には残りの野盗は頭と胴体が今生の別れをしており、胴体が自らの死に漸く気付き血を噴出させながらバタバタと倒れていく。


「はっ?い、今一体、何が起こったのだ……?」


 多分この護衛騎士の隊長であろう人物が茫然と呟いているのでヤレヤレと思いながらリオンが近付くとカサカサと地面を歩く音に騎士達が振り向き剣を此方に向け警戒する。


「何者だ!ん?手ぶら?怪しい奴め、名を名乗れ!」


 尚も警告をしてくる騎士の1人の剣をリオンが掴み騎士諸共吹っ飛ばすと他の騎士が呆気に取られる。


「助けてくれた相手には先ずはお礼が常識だろうが!お前等騎士道の教科書には命の恩人には先ず剣を突き付け警告するべし!とでも書いてあんのか?」


 このリオンの侮蔑とも嘲笑とも取れる発言に騎士達が阿呆面から憤怒の表情に変わるが、「待て!」と声が掛かり先程の隊長らしき男が前に出てきた。


「部下達が失礼した。私はこの隊を預かるログロスと申します。ご助力いただき感謝する、して貴殿は一体何者でしょうか?」


 40代程の金髪を短く刈り上げ、鍛えられた筋肉が鎧を押し上げている鋭い目をした男、ログロスがリオンを凝視する。


「俺はリオン、まあ冒険者だ。これから王国の首都に入るって時にお前等を見つけてな。それより馬車内に居る雇い主さんに安否確認等々しなくていいのか?」

「……それもそうだな。リオン殿、改めて感謝する。それでは一旦報告の為この場を失礼させてもらおう」


 ログロスが去ってからどうするかと思案しているといつ間にか両手が金銀幼女達によりロックされていたので、とりあえず名乗ったしこれ以上関わる気も無かったので立ち去ろうと踵を返した直後に声を掛けられ再び180度回転すると大人2人に子ども1人がリオンを見ていた。


「貴方が私達を助けてくれた冒険者の、リオンさんで間違いないかな?私はエドガー・フュルスト・フォン・アイゼンヴァルトと申します。こちらは妻のアレクシアと娘のソフィーです」


 どうやら侯爵だったらしく、金髪をオールバックにして仕立ての良い高級スーツを身に纏う20代後半くらいの男、エドガー。

赤茶色に軽くウェーブが掛かったストレートロングの髪に透き通る程の透明感を宿したペリドットの如き美しい瞳に真紅のベルラインドレスを着こなした20代中頃の美女、アレクシア。

父親似の太陽の光を反射しキラキラ輝く金髪をシニヨンにした、アレクシアより濃いエメラルドの瞳を持つ10歳くらいの将来が楽しみな女児、ソフィー。

リオンがひと通り3人を見た所で、その3人がリオンの両サイドを見ている事に気付く。


「リオンさん、先程から貴方の両隣に居る少女達はどなたでしょうか?子連れの冒険者など聞いた事も無いのですが……」


代表してエドガーが口を開くと全員の視線がリオンに移る。


「コイツ等は家族みたいなもんだ、金髪がルプで銀髪がオピスだ」

(子連れ狼!しとしとぴっちゃんだな、クハハハ)

(しとしとぴっちゃん〜キャハハ)

(しとぴっちゃん〜キャハハ)


 適度に挨拶をするリオンだが念話ではオピス、ルプと共に大いに盛り上がっていると助けてやった騎士がつっかかってきた。


「貴様!アイゼンヴァルト様に何と無礼な言葉遣いをーーー」

「良いのだ。彼は私達の命の恩人なのだからね。それよりもここで立ち話もなんだ、宜しければリオンさんも私達の馬車にお乗り下さい。王都サリバンまで一緒に参りましょう。お嬢さん達も疲れたろう」


 リオンの言葉遣いに激怒した騎士の言葉を遮り、窘めたエドガーはリオン達を目的地王都サリバンまで連れて行ってくれるみたいだ。

特に疲労は感じてはいないが既に金銀幼女はエドガーの一人娘のソフィーと一緒に馬車に乗り込もうとしていた。


「ふむ……ではよろしく頼む」


 言葉少なげに返答すると夫妻は微笑みながら頷き、共に馬車に乗り込み馬が嘶くとパカパカと歩き始めた。

馬車内では他愛の無い話に花を咲かせながら馬に揺られ、日が沈み掛けた頃に漸く王都サリバンの巨大な門が見えてきた。

侯爵と一緒に居る事や冒険者カードを所持していた事で今回は門兵に止められずに無事に通過出来た。

そして後日改めてお礼がしたいと言われたので了承すると一旦別れる。

侯爵邸に泊まればいいと説得されたのだが、それを辞退したので先ずは宿を確保する為に行動する。

一応侯爵がオススメする宿を聞いたのでとりあえずそこの宿を目指す事にした。

早々に到着し中に入る。

特に問題も無く部屋を借りて人化を解き、今日の所は休む事にした。

翌朝、早速冒険者ギルドにやってきた。

朝と言う事もあり沢山の冒険者が本日の依頼を吟味しているのでリオンも依頼書を見る為に依頼ボードの前に出る。

するといきなり首根っこを持たれ後ろに投げ飛ばされた。


「ここは孤児院じゃねぇんだよ!ガキ連れはどっか行きな」


 朝が弱めなリオンは受け身を取るのも面倒だったのか数回バウンドして床に転がり、そんな彼に野太い声が降り掛かる。

周囲からは嘲笑やら動揺、困惑、期待、興奮などなど様々な感情の波で荒れ狂っていた。

ボーッとしながら何事も無く立ち上がると側には既にオピスとルプがニコニコしながらリオンを指差しながら見ていた。


「「ふっとんだ〜」」


 凄いキャッキャしてる。

ん?なに?もう一回?やかましいわ!

金銀幼女にでこぴんをねじ込むとリオンは元凶に視線を向けた。

リオンを投げ飛ばした男は無言で此方を下卑た笑みを浮かべ仁王立ちしている。


「今の所、俺と冒険者ギルドとの相性が悪い事は理解した。いや、逆に相性が良いのかな。なんたってここからは全て正当防衛だからな。クハハハ、眠気も一気に覚めたわ!オイ、俺を投げたそこの肉達磨君、俺はアイアン級冒険者なんだがお前のランクは如何程かな?」


 肉達磨君に近付きながら気さくに話すリオンに周囲は驚いていたが肉達磨君はフォルムからは想像も出来ない程、冷静に此方を警戒しながら対応してきた。


「俺はゴールド級冒険者だ!子連れのアイアン級のくせになかなかやるじゃねぇか……」

「へぇ〜……お前は独り身の寂しいゴールドのくせに大した事無いんだな。ククク、見た目も中身もゴミ同様価値が無い、そんな低レベルでよくそんな強気でいられるものだな。俺なら恥ずかしくて家から出れねえよ」


 リオンの煽りに片眉をピクリと動かし冷静に振る舞おうとする肉達磨君。

しかし怒りに震えているのは丸分かりでリオンが肉達磨君の攻撃圏内に入ってあげた瞬間に背負っていた大剣を引き抜きリオンに振り下ろす。

欠伸が出る程緩慢な動きに辟易しながらも良い処理方法を考え、とりあえず腕一本で様子見をするかと方針を決めると丁度大剣が迫って来ていたので腕を振り抜くと、ガギィィィィイイン、と金属同士の衝突音がギルド内に響き渡る。


「ふむ。仲裁する為だけにこの中に入ってきた胆力は称賛に値する、けどな。自分の実力に見合う動きをした方がいいぞ?勇敢と蛮勇を履き違えるとそんな事になるからな、正義感なんてクソほども役に立たねえ信念でも掲げてんのか?」


 肉達磨君は驚愕の表情を浮かべていたが、リオンは乱入者の存在も認知していたが敵意は感じなかったのでそのまま行動開始した。

その結果目の前で脂汗を垂らし息を荒げた乱入者が出来上がる。


「ご、ご忠告、感謝するよ……。だ、だけどね、君を助ける、ために、割って入った、訳じゃ無いよ……。そ、そっちの人の命を助けたかっただけ、だよ」


 良く見ると色々な体液でビショビショになっているが柔らかく流した金髪に切れ長の碧眼を持つ誰もが見惚れそうな程整った顔立ちのイケメンだった。

つまり俺の敵だ。

そんな彼は肉達磨君の大剣は軽々と片手で持ったロングソードで無力化したが、リオンが下から振り抜いた手刀はイケメンのもう一つの剣が打つかる瞬間に狙いを腕に切り替え、肩から切り落とした。


「当たり前だ、俺の為ならお前は今頃死んでんだからな。さて、それで肉達磨君、コイツのお陰で君は五体満足な訳だけど俺はお前みたいな雑魚に割く時間は多くないんだゴメンね。そっちの金髪君も早く腕をくっつけた方が良いからね。それにコイツの所為で興醒めしたし俺はこれで失礼するよ。次は邪魔が入らない事を期待するかな」


 一連の騒ぎで依頼ボードの前がガラガラになったので2人から離れると適当な依頼を受付嬢の所に持っていき受理してもらう。

その際、受付嬢の笑顔が引き攣っていたが無視無視。

それ以降は何事も無く王都の外に出てアルザスの街近郊の森より小さい森にて先程受注した討伐依頼の魔物が居るので気配を消す練習をしながら歩く。

いつも通り両手に金銀幼女を装備しながら魔物を探して、暫くすると目の前にオーク5体が立ち塞がる。

豚の顔面に力士の様な、筋肉の上に脂肪を纏った体型の魔物。


「目的の魔物じゃねぇが二足歩行でも豚肉って美味いかもな。オピスも食いたいだろ?」

「食べたーい!豚肉はしっかり火を通さないとダメなんだよ〜?知ってた〜?」


 御機嫌なオピスは雑学とも言えない常識を披露しご満悦である。


「それは人間だから良く焼きってだけで俺達には必要ねえ気がするが……優しい俺はそこは指摘しない。あぁ〜どうせなら久々に全員で食うか」


 雑談をしながらオークに近付く猫一派だが既に豚共は全てうつ伏せで突っ伏しており絶命してる。

ルプはサクッとオーク達の頭を飛ばし血抜きすると残りを解体していく。

その光景を眺めながらリオンが火の準備を始め、他の4人を強制的に排出する。


「痛いわね〜、何事?今から獣人筋肉図鑑をオカズに楽しむ所だったのに!」

「ワシは今から新しい理論の魔法実験を行うところじゃ!つまらん用事で呼び出すでない!」

「おっ?漸く出しやがったな!テメェに封印されてっと身体が鈍ってしょうがねぇ!早速皆殺しだ!」

「Zzzzz……」


 ツバサ、爺、憤怒、怠惰が各々自己主張してきて面倒臭かったので全員重力魔法で潰す。


「ツバサの特殊性癖にとやかく言うつもりはねぇから置いとくとして、爺は俺の身体で何してくれてんの?今度お前の領域でじっくり話し合おうか。憤怒はまぁ……いいや。怠惰も〜……いいや。どっちも別ベクトルで面倒臭いしな。とりあえず久々に全員揃えたからあのオークでBBQと洒落込もうじゃないか!」


 ドドンと言い放つと案の定憤怒だけが噛み付いてきたので金銀幼女を呼ぶ。


「「お兄ちゃんは私達と一緒に食べてくれないの?」」


 双子では無いのに見事なユニゾン上目遣いで憤怒を見詰める幼女達に憤怒の炎も鎮火した。


「チッ!仕方ねぇな、早く用意しろや!」


 いじける子どもみたいに木陰に移動しドカッと腰を下ろすと目を瞑り黙り込む。ちょろい。

2人が時間を稼いでいてくれたお陰で邪魔されずに5体分のオーク焼肉が出来上がる。

7人で肉を囲みながらの食事が始まり暫くしてリオンが口を開く。


「そういや、そろそろお前等にも名前を付けた方がいいと思うから適当に付けるぞ。爺は本体は骸骨だから[テースタ]、憤怒は竜だから[ロン]、怠惰はスライムだから[ブロブ]だな。翼ちゃんはそのまんま[ツバサ]だな」


 意見を聞かずにサクサクと決めたが特に反感も無く了解と頷くくらいだった、1人を除いて……。


「名前なんざどうだっていいんだよ!それよりリオン、久々に出たんだから俺と勝負しようぜ!負けた方は主人格を入れ替わるってのにしようぜ!」


 憤怒改めロンが戦闘狂らしい発言をかましてくるが、元々リオンの人格であった事もあり彼自身も戦闘狂らしい一面も持っていたのでアッサリ了承する。


「クハハハ、良いぜ。この前グチャグチャにされたってのに懲りねえ奴だ。ただ前みたいに派手にやられると困るから障壁作るからな。他の奴等は仲良く討伐依頼の魔物でも狩ってこい。そこで寝てるゴミも連れてけ」


 怠惰、改めブロブをゴミ呼ばわりしたリオンはロンと離れていく。

そこに残された5人、ツバサは周囲を確認すると幼女達はキャッキャしながらオーク肉を堪能していて話は聞いていない様子。

爺は地面に魔術式を書き集中しており、此方も話は聞いていない。

残り1人……寝ているので論外。

ツバサ主体で動くしかないと思い溜息を吐くが仕方ないと全員を引っ張りながら強引に森の奥深くに入っていった。

その日首都サリバンでは近隣の森からの破壊音の話題で持ちきりになり、翌日には冒険者ギルドに調査依頼が出されるまでに発展した。

後日調査をした冒険者は一面焼け野原の場所を発見、しかし原因不明の大爆発が起きた事しか分からなかった。

そのお陰か肉達磨君達の暴力沙汰は当事者以外にはあまり話題に上がらなかった。

しかし翌日冒険者ギルドに顔を出すとすぐに道を金髪イケメンに遮られた。


「やぁ、昨日はお互い災難だったね。僕の腕はこの通りくっつけてもらったからもう大丈夫さ」


 朝陽を浴び金髪をキラキラ輝かせながらイケメンスマイルをぶち込んでくる勘違い野郎を見ながらリオンの目は氷点下の冷え込みを見せていた。


「俺とお前じゃねえだろ、肉達磨君とお前が、だろうが……。そんな報告をする為に来たのか?」


 皮肉を言われてもニコニコイケメンスマイルだったが連れはそうでもないらしく金髪イケメンとリオンの間に割って入ってくる。


「なんなんだお前、その態度は!この方がどなたかご存知無いのかッ⁉︎あまり舐め腐った態度ばかり取ってると酷い目に遭うぞ!」


 ギャンギャン喚く、ショートの茶髪に猫耳茶眼、身体はスラリと何処か知り合いの銀髪魔人族を彷彿とさせる絶壁猫人族の女。


「いやお前等雑魚なんて知らねえよ。なんで俺が一々弱い人間を覚えなきゃならねえんだよ。失せろガキ!」


 リオンの煽りに見る見る顔を真っ赤にさせ食いかかってこようとするが、すんでの所で金髪イケメンに遮られた。


「ミーニャ落ち着いて。こほん、連れが失礼したね。あぁ、そう言えば自己紹介がまだだったね、僕はミスリル級冒険者のルークスで彼女は猫人族のミーニャだ、よろしくね。今日は君と仲良くしたいと思って声を掛けたんだけど、今から少しお話しないかい?」


 金髪イケメン、ルークスは裏表が無いキラキラな目をリオンに向けてくる。

ルークスに隠された猫人族のミーニャは顔だけ出してフーフー言ってる。

情報収集も兼ねて色々聞いておきたい事もあるからここは面倒臭いが少し付き合う事にした。


「ありがとう!向こうに僕の仲間も居るから紹介するよ。さぁさぁ早く行こう!」


 ルークスは20代前半くらいに見えるが無邪気なはしゃぎ様は子どもみたいだなと思いながら彼について行くと雑談している3人組が此方に気付きリオンに様々な感情の視線を向ける。


「ルークス遅かったわね。それで其方が例の彼ですか……本当に子どもを連れているのね」


 神官服を身に纏い肩まで届く桃色髪を軽くウェーブさせ、見事な双丘を持った女性がルークスに話し掛ける。

イヴに見せてやりてえな。


「あぁ、待たせてしまったかな?さて、残りのメンバーの自己紹介もしますね」


 そう言って先ずは桃髪神官がアンナ。

次に前に出たのがリオンも見上げる巨漢、髪は短い銀髪で灰眼のタンクっぽい大楯を持ったウィリアム。

最後にぶかぶかローブと三角コーンみたいなつば広の帽子を被った黒髪黒眼の何もかもが小さい魔法職、シェリル。

先方全員の自己紹介を終えた所で着席するとルークスがリオンに話を振る。


「それで、君達の名前も伺っても良いかな?」

「俺がリオン、銀髪がオピス、金髪がルプだ。それでお前はどんな話が聞きたいんだ?」


 素っ気ない対応にそれぞれの反応を一通りしてルークスが本題に入った。


「昨日君の強さを知って君に興味が湧いたのさ!もし良ければ僕達と一緒に依頼を受けてみないかい?」


 やっぱり面倒臭い奴だったと後悔しながらリオンは思索する。

目の前の連中は弱いが地位はミスリル級冒険者。

アイアン級の依頼は難度が低過ぎて退屈していた所だからたまには良いかな思い始めてきた。


「まあ一度くらいならいいぞ。ミスリル級の依頼というのも気になるしな」


 後ろの方で怒気が高まったがルークスが宥めて鎮火させる。

その後は雑談をして準備が必要という事で明日依頼に行く事が決まり解散となった。

非常に楽しみな展開になったと内心満面の笑顔でギルドを後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


[孤軍奮闘]


 リオンが王都に旅立ってから数日経った。

その間、事前に渡された練習メニューを黙々とこなす日々だ。

私は弱いから、リオンの足枷になって迷惑を掛けている現状はツライ。

だからせめてリオンが帰ってくるまでに少しでも強くなれる様に頑張ってる。

今日も今日とて冒険者ギルドの依頼を受け近隣の森に出掛ける。

早々に依頼品を見つけたので残りの時間は修行に割く。

リオンから渡された練習メニューはどれも正気を疑うレベルの内容で正直ドン引きしちゃったけど、これも私がずっとリオンと一緒に居る為に必要な事だと思って頑張る。

いつも通り夕暮れ時までボロボロになるまで修行をして街まで帰り、ギルドに顔を出すと狐人族の女性受付嬢マリーさんが笑顔で出迎えてくれる。

事前にリオンに聞いていたが、ここのギルドマスターと副ギルドマスター、それに目の前のマリーさんはリオンの情報を集めているとの事だ。

リオンの敵は私の敵でもあるので最初は内心警戒心を抱きつつ接していたが、マリーさんはリオンの情報は集めてはいるがちょっと様子がオカシイ。

リオンの好みの女性のタイプ。

リオンの好きな食べ物。

リオンの好きな、リオンの好きな、リオンの好きな、リオンの好きな…………。

いやいやいやいや!リオンの情報に違いはないけど……これは!絶対!リオンに!好意を!抱いてる!!!

私の冴え渡る乙女センサーがびびっと反応しまくってる。

マリーさんは私よりも大人で体型も抜群だ。

そんな彼女に迫られたら流石のリオンでも落ちてしまうんじゃないか……そう思った私は日々の練習メニューにバストアップ体操を追加、しようとしたらまさかの既に練習メニューに載っていて私は絶句し膝から崩れ落ちてしまった。

でもこれでリオンが巨乳好きだと判明したので、目指せ巨乳を掲げバストアップ体操に励む。

そんな今日もマリーさんと雑談をしていると気になる噂を耳にした。

と言うのも以前リオンが退治したヒャッハー君がリオンに復讐する為に仲間を集めているらしい。

冒険者ランクを降格された彼は素行の悪さが悪化し遂には冒険者ギルドを除名処分されたとの事。

私のリオンに失礼な態度を取ったんだもの良い気味だと内心思っているとマリーさんが真剣な顔で此方を見ている事に気付く。


「リオンさんと一緒に居る所も目撃されてるんですからイヴさんも気を付けて下さいよ?今はリオンさんが不在との事なので……あっ、そうだ!イヴさんさえ良ければ私の家に来ませんか?」


 普段からリオンを巡る恋敵ではあるがマリーさんは本当に優しい人なのを私は知っている。

だからこそこれ以上は甘える訳にはいかない。

弱い自分、他人に頼り切る弱い弱い自分、そんな自分から早く脱却したいな。

努めて明るく振る舞う、これ以上弱い自分を見せない様に……。


「ありがとうございます。でも大丈夫です。私も冒険者ですし、意外と強いんですよ?」


 フンッと力こぶを作る動きをしながら笑う事でマリーを安心させようとすると、彼女は暫く考える素振りを見せるも、ハァとため息を吐かれてしまう。


「……分かったわ。でも少しでも危ないと思ったら逃げるのよ?さっきも言ったけど今はリオンさんが居ないんだからね」

「大丈夫ですよ〜。リオンも明日には帰ってくるんですからね。それでは、そろそろ帰りますね。また明日伺いますね」

「あッ、ちょ、ちょっと!!もう……本当に大丈夫かしら……嫌な予感がするわね」


 素早くギルドを後にしたイヴを心配するマリー、その胸騒ぎは翌日イヴがギルドに姿を現さない事で現実となってしまった。

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