第31話 BBQ
リオンはリノアを背中に乗せ、久方振りにダンジョンから外に出る為に爆走する。
周囲の景色が流れていき、1時間も掛からずにダンジョンの出入り口が見えてきた。
(陽の光は明日までの辛抱だな。先ずは飯の準備をするから、近くの森でBBQでも……いや、大山脈でのBBQも捨て難いな)
夕餉の場所を真剣に考えていると背中をドンドン叩かれている事に気付き振り返る。
「あっ、やっと反応したァァ!!君、絶対気付いてて無視してたでしょ!もう……」
頬を膨らましながら抗議してくる翼っ子を見るが、意思疎通が筆談のみのリオンは文字を書くのが面倒臭くなりジッと見続ける事にした。
するとリノアは意図を読み取ったのかため息を溢しながら呼んだ理由を話した。
「はぁ、さっきから尻尾の蛇くんが揺れながら私の事をずっと見ているんだけど、この子にも意思があるの?」
そう言われてチラリとオピスを見ると確かにプラプラ揺れている、しかしリノアを見ている訳では無い。
何故なら………
(ごっはん〜ごっはん〜ごっはん〜ごっはん〜)
こんな感じでボス部屋に居た時からずっとご飯の事しか頭に無いからだ。
とりあえず今は飯を何処で食べるかが一番の議題なので近くの大木に手前から数本に渡って風魔法を使用し、『後で言う』と書いて黙らせる。
その後は近隣の森に突っ込んで、走りながら野草などを片っ端から採取していき独断と偏見で大山脈麓でBBQする事に決めた。
オピス達からは抗議なども無く単純に肉が食べられれば場所は何処でもいいという考えらしい。
数十分程爆走して麓に辿り着くとリオンは速度を落とし始め、暫く小走りすると立ち止まった。
周囲を見渡して納得したのかその場で夕餉の支度の土台作りをしようとする。
だが作成するにしてもリオンは土魔法が使えない。
そんなリオンに対して土魔法が使えるオピスがドヤ顔をしながらBBQ装置を作っていく。解せん。
その間に空間の歪みに前脚を突っ込み大量のオーク肉と野草を取り出し、ぶつ切りにしていく。
調味料などは少量だがダンジョンボスごっこをしていた時の冒険者達が持っていたので戦利品として獲得していたので有効活用するとしよう。
串をどうするか考えていると今度はルプがドヤ顔で土魔法で串を量産していき、黒獅子の表情が無になった。解せん。
そんな無の黒獅子に焦った声音の翼っ子が話し掛けてきた。
「ね、ねぇリオン、さっきから私が見た事無い魔法がポンポン出て来てるんだけどどうなってるの⁉︎と言うか詠唱もしてないよね、どうなってんの⁉︎」
筆談が面倒臭い且つドヤ顔金銀幼女の攻撃が相俟って最早リオンに文字を刻む元気は無かった。
なので木の枝を拾いオピスに咥えさせリノアの相手をさせ、この場を回避する。
その隙に夕餉の支度を終わらせたかったが、すぐに悲鳴が聞こえてくる。
しかし何事も無くいつも通り無視しているとリノアが目の前に来て抱きついてくる。
「リリ、リリリリオォォォン!!!き、きき、君の尻尾の蛇くんが怖い!怖い怖い!!!きゃああぁぁ!見て!ア、アレ、アア、アレ見て!!」
黒獅子の毛皮を濡らしながら涙目で喚く翼っ子に煩わしく思いながらも元凶を見る為に振り返る。
そこには、シュババババと音が聞こえてきそうな程高速に動く銀蛇が荒ぶっていた。
(えっ?千切れそうな勢いだけど……何やってんだよ)
(お腹空いたの〜!お腹と背中とリオンのお尻がくっついちゃうよ〜!!おーにーくー!!!)
(お、おぅ……それは勘弁してもらいてえな。まあ、夕餉の支度は終わったから後は焼くだけだ。それはそうとその枝は早くぺっ、しなさい!オピスが荒ぶったせいでリノアが泣いちまったじゃねえか)
地面に目を向けると殴り書きの如き筆跡で[ご飯]と大量に書かれており、最早呪言の類いなのかと思ってしまうくらい鬼気迫るものだった。
(えぇ〜……やれやれ〜リノアちゃんもイヴちゃんと同じくらい弱虫で泣き虫なんだからぁ〜ふふふ)
(クハハハ、ダンジョン内でも泣いてたから泣き虫ってのは否定出来ねえな。だがまあそんな事はさて置き肉焼き始めるからお前等も手伝え、つーか勝手に焼いて食え)
火魔法で石を焼き、その上にオーク肉をドンドン置いていく。
ジューっと音と共に香ばしい匂いが漂ってきて我慢出来ないのか生焼けでも気にせずパクパク食べている銀蛇。
それを見届けるとさっきから黙っているリノアに視線を向けると既に泣き止んではいるが挙動不審にオロオロしていたので早く食えと背中を押す。
「い、いいの?……はむ、はむはむ、おっ、美味しい〜!!」
少し逡巡した後、パクっと一枚食べた途端幸せな表情で叫んだ。
その後はオピスやルプ、リノアも黙々と食べ始め、リオンは肉野菜焼き専属ロボットとして働く事になる。
1人を除いて満足した頃、今後の作戦会議をする事にした。
面倒臭いがガリガリと文字を刻む。
『第一に筆談が面倒臭えから念話か声帯作成が急務だな!』
「そうだね。いつまでも筆談だと今後の動きに支障が出るわね。それで……声帯ってなんなの?」
(そこ食い付くのかー!面倒臭え!今後は必要事項以外話すのやめた方がよさそうだな。というか爺、まだ解析出来ねえのか?)
声帯の説明や今後の行動を一方的にガリガリと刻みながら、ダンジョンボスごっこをしている時から依頼していた使用不可スキルの解析の進捗をテースタに尋ねていた。
(んあぁ?おぉ〜……そういや没頭し過ぎて説明してなかったのぉ。とりあえず全てに共通する部分としては現在使用不可能になっておるスキルの詳細は解析出来んがジャミングみたいに妨害されておるから発動出来んみたいじゃな。じゃがスキル欄にまた表示されれば再使用も可能じゃて。ひとつひとつ説明すると、[鑑定]に関してはスキル持ちから強奪するか、魔道具を解析するかそこのリノアちゃんが言っておった万物を見透す宝具を解析出来れば使える可能性があるのぉ。[人化]も同様でスキル持ちから強奪すりゃあえぇが[擬態]もあるんじゃから工夫次第で亜人族に見えるくらいの見た目にはなれるとワシは思うぞ。[土魔法]じゃが、これは神から干渉される前からお主は不得手じゃからな……強奪で何とかなるとえぇのぉ。念話に関してはよく分からん、お主なら根性でなんとかせい)
カラカラと笑いながら解析結果を報告するテースタに素直に感謝したリオンは早速念話をコネコネ、擬態スキルをコネコネしながら目の前で文字を読み終わったリノアを見た。
「へぇ〜リオンは魔物なのに物知りなのね。疑問は多々あるけど知性ある魔物との接触が初めてだから仕方ないわよね。だけど今はその好奇心は仕舞っておくわ。それで、リオンの声はどれくらいで出せる予定なの?」
問われたリオンが無言で見つめ返すとリノアが首を傾げる。
(先ずは念話だよな……他人にパスを通すイメージでいけるか?……ん?なんかさっきは無かった俺の魔力がリノアの中に見えるな、どうなってんだ?何があった?んー…………あっ!ポーションか?おい爺!ポーションの原材料はなんだ?)
(なに言っとるんじゃ、勿論お主の血に決まっておるじゃろ)
そうかぁ、決まってんのか……。
(おいおい爺さん、俺の血って確か強酸性の毒薬じゃなかったか?毒味はしたが中身を確認せず飲ませた俺が言うのも何だが頭おかしいだろ)
さすがのリオンでも呆れたのかため息を溢しながらテースタに苦言を呈すが爺も呆れた声音で反撃する。
(ハァ〜やれやれ、やはりお主はロンと同じくアホの子じゃなぁ。脳筋馬鹿のお主に分かり易く言うとじゃな……以前どっかの冒険者にアンデッド特有の腐食性の血と言われておったがの……お主の血とアンデッドの血は効果は同じに見えるが全くの別物じゃよ。詳しく言っても馬鹿なお主には分からんじゃろうから簡単に言うと、お主の血は魔素を凝縮したものでアンデッドの血は単純に腐っておるだけじゃの)
簡単に言われても案の定深く理解出来なかったのでそういうモノだと納得する事にした馬鹿な子のリオンは、現実逃避気味に今は念話を行使する事が重要だと思うことにして意識を集中させる。
(糸電話みたいな感じ……こんな感じか……?リノア聞こえるか?)
「ほあぁ⁉︎頭の中に素敵な声が!えっ?あ、あぁ、へぇ、これがリオンの声なのね、ふふ」
頬を染めて笑うリノアをリオンは変態を見る様な視線を向ける。
「ちょっと待って!君、何て顔をしてるのよ!!!」
(いや……俺の近くには変態が多いなと思ってな。まあこれで会話の問題は解決したし、今後は面倒臭え筆談は無しだな。つうことで今日はもう風呂入って休め)
「へ、変態ッ⁉︎失礼だな君は!!私は別に邪な事なんて考えて……ってお風呂だって⁉︎⁉︎ここにそんな物があるの⁉︎」
頬を染め抗議してきたが風呂の存在に意識が向くと途端に顔色が変わりグイグイ来るのでリオンが引きながら応える。
(……いや今から作るが……そういや後で話すって言ったから丁度良い。風呂作るのも時間掛かるしなぁ、今から自己紹介でもするか、おい!)
自己紹介?と首を傾げるがリオンの号令に銀蛇はシャーシャー鳴き、黒獅子の顔の横からは金狼のルプが、背中からは山羊頭のツバサが出現する。
(わたしはオピスだよ〜。よろしくね泣き虫お姉ちゃん〜くふふ)
(わたしはルプ……リオンはわたしのだからイヴちゃんみたいに色目を使わないでね〜。泥棒猫はダメなんだからね〜泣き虫さん)
(私はツバサよ、よろしくね〜泣き虫なお嬢さん)
「あっ、よろしくお願いします……って何ですかコレェェェ!!!リオォォォン!!説明して下さい!童女の声と色街にでも居そうな嬌声が頭の中に入ってきました!えっ?えっ?どこから⁉︎⁉︎というか泣き虫なのは確定なんですかッ⁉︎」
(うるせえな、目の前の金銀幼女と山羊悪魔からに決まってんだろうが。他にもまだ居るが今日の所はコイツ等だけだ)
リオンが対応するものの急に聞こえてきた声に冷静さを欠きキョロキョロしっ放しのリノアだったが『落ち着け』とリオンが更に念話を飛ばす事によって漸く落ち着かせる事に成功する。
(よし、自己紹介は終わったな。じゃあオピスとルプ、浴槽作ってくれ)
((はーい!))
元気良く返事をした金銀幼女はガウガウやシャーシャーと何かを相談しながら土魔法で風呂をあっという間に完成させた。
大浴場並の風呂が出来た事を確認したリオンは早速お湯を張り始め、数分もしないうちに周囲に湯気が立ち昇り薄靄が掛かり始めた。
(さて、準備出来たから先に入れ。今は洗髪剤が無いから湯浴みで我慢してくれ)
やる事が無くなったリオンはそれだけ言うとその場に伏せて丸まった。
「い、いやいや、作ったのはリオン達なんだから君達が先に入ってよ。それに私は人族の貴族でも無いんだから湯浴みが出来るだけでも大満足だよ、ありがとう。……だけど、図々しいお願いではあるかもしれないけれど……出来れば壁が欲しい、かな。アハハ、さすがにこれは恥ずかしいよ……」
石鹸や洗髪剤がこの世界では高級品なのは知っていたので納得したが、恥ずかしいと言われてリオン達は顔を見合わせながら首を傾げた。
「え、えっとね、普通はお風呂は屋内にあるものでしょ?普通の人は屋外で裸になるのは抵抗があるものなのよ。魔物のリオンには理解出来ないから無理ないと思うんだけどさ」
そこまで言われ漸く納得する。
(なるほどな。ここの人族の価値観が違うのかと思ってたが、クハハ、やっぱイヴだけ頭のネジが吹っ飛んでたんだな。ん?でも川で行水する奴等もいるんだからやっぱり要らねえよな?)
(リオンリオン、それはわたし違うと思うな〜。イヴちゃんは人化したリオンとお風呂に入った時は顔真っ赤にしてたじゃ〜ん。それでも一緒に入りたがるなんて本当にリオンのことが大好きなんだね〜。でもでも今はイヴちゃんじゃなくてリノアちゃんが壁必要って言ってるんだから作ってあげれば〜?)
(イヴちゃんは隙あらばリオンを誘うから油断出来ないよね〜。わたしのリオンなのにまったく困ったものだよ〜。リオンはわたしの豊満な体にメロメロなんだからぁ〜)
(魔物好きなんて特殊性癖過ぎて扱いに困る代物だよな。まあ将来的にそれが面白い方向に進むと信じる事にするか。クハハハハハハ、そういやルプはいつの間にか落ち着いたか?発言は相変わらず意味不明だけどな。絶壁トリオの1人なんだから仲良くやれよな)
黒獅子金銀狼蛇で雑談をしていると毛皮を引っ張られる感触に視線を下げるとそこには少し不機嫌そうに見える翼っ子がジーッとガン見してくる。
「ねえねえ、さっきから話題に出てるイヴって子は誰なのかな?随分親しい間柄みたいだけど……」
(ん?なんだまだ入ってなかったのか………あぁ、壁か……オピスに煽られたが、今回は通用しねえよ。なにも壁は土じゃなきゃいけない訳じゃねえ!そら、これでいいか?)
リオンが見つめると大浴場の周囲に闇が広がり、入り口らしき両扉をくり抜いた様な長方形の跡だけ残しすっぽりと覆った。
その顔はドヤ顔だった。
「えぇ……またよく分からない事やったわね……。でもその程度で話を逸らそうとしても無駄よ!イヴって子とも一緒に入ってたと言うのなら、わ、私だって、リ、リオンと一緒に入るわよ!」
どこが琴線に触れたのかリノアが一緒に入ると宣いだしたが、リオンとしては別にどっちでも良かったので少し冷めた目線をリノアに向け『好きにしろ』と言い風呂に向かって歩き始め、少し遅れて背後から足音がする。
(やっぱり1日の終わりは風呂に限るな〜。でもやっぱ毛皮があるからか、人化してた方が気持ち良いよなぁ。毛が張り付く感じは未だに慣れねぇ、後で擬態で色々試してみるか……それと、おいリノア、入るなら早く入れよ。あぁ、それと一応覆った暗い靄には触れるなよ)
視線を向けるとリオンが出した闇の後ろに隠れ、赤くなった顔だけ出した状態で止まっていた。
「し、しし、仕方ないじゃない、だ、だ、誰かと一緒にお風呂に、入った事なんて、な、ないのよ!」
(モテモテだねリオ〜ン。くふふふ、イヴちゃんに教えたら卒倒しちゃうね〜。ねぇねぇ、いい?言ってもいい?ねぇ〜ねぇ〜いい〜?キャハハハ)
銀蛇がシャーシャー何か言ってるがとりあえず無視してリノアに救いの布を投げる。
(そこまでして一緒に入りたがる理由が分からん。ハァ……これでも巻いて入れ。それでも嫌なら後で1人で入るんだな)
空間から冒険者から奪ったタオルの様な継ぎ接ぎの生地をリノアの前に出すと、受け取ったリノアが覚悟を決めたのか身体に巻いてペタペタと近寄ってきた。
捕まってあまり食事を与えられていなかったのか彼女の身体は多少痩せていたが、それでも出る所は出ていて背中の翼と合わせると神秘的な色香を放っていた。
胸部装甲はどっかの魔人族とは雲泥の差だなぁとリオンが失礼な事を考えているとゆっくりとリノアがつま先を湯船に付ける。
意を決してリノアは湯船に入ると、ふぁぁぁ、と蕩けた声を溢し表情を緩める。
暫く沈黙が流れたが、少し落ち着いたリノアがリオンを見つめる。
「それで?イヴって子は何者なの?」
そこまでの執着をみせるリノアに再び首を傾げるが雑談程度としか思ってないリオンは、そうだな、と思い出しながらポツポツと語り始める。
(別にそこまで話す内容はねえが、奴隷だったイヴを気紛れで助けたら家族認定されたが身体を真っ二つにされた、そんな関係だな)
クハハハと笑いながらほぼ話を端折るリオン。
しかしその内容だけでも衝撃は大きかったのかリノアがザバァと立ち上がりリオンの前脚をガシッと掴む。
「真っ二つ⁉︎何なのそれ⁉︎と言うか真っ二つになったのになんでリオンは生きてるの⁉︎魔物でも真っ二つにされたら死んじゃうと思うんだけど……」
(そんなの俺に言われても知らねえよ。生きてるから生きてるんだろうな。まあ多分死にかけたのは間違いねえが、そんだけだ)
「そんだけって……死んだら何もかも終わりじゃないのよ。でもまあいいわ、結果君は私の前に生きて存在しているものね。それで、今イヴって子はどこにいるの?」
(あぁ、今は多分リンドブルムの魔法学院に通ってる筈だな。虫を送れてねえから詳細は分からねえが、俺に追い付こうと必死に頑張ってる最中だろうな。将来が楽しみだ)
「………そう」
それだけ言うと何かを考え込むリノアに首を傾げたものの直ぐに興味を失ったリオンは擬態をコネコネし始める。
その後眠るまでリノアは思考を止めずに何かを思案している様だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[守り人]
お風呂に入っている時にリオンからイヴという子について話を聞いた。
オピスちゃんとルプちゃん(最初はリオンに付随していたので[くん]だったが念話の声で女の子と判断してから[ちゃん]付けで呼んでいる)が話している内容はイヴという子がリオンの事が大好きなのだろうという内容だったのでどうも話が噛み合わない気がするけど、全てを語っていないだけだろうと自分を納得させる事にした。
私は考えを巡らせる。
リオンは魔物でありながら高い知性があり、今まで出会ったどの人族よりも私に優しく接してくれて命まで助けてくれた稀有な存在。
更に私が見た事も無い国宝級のポーションを何でも無いかの様にポンと渡してくれた。
最初は価値が理解出来てないだけだと思っていたが私が価値を説明しても納得はしても特に興味、関心は無い様子だったわね。
そもそもリオンが飲んだら煙上げて吐血してたから魔物には毒なのかしら?
まあこれだけでも感謝してもしきれないのだけど……決定的だったのはやっぱり、私を私として見てくれた事ね。
さすがに人族と違って表情は読み難いが、この少ない時間で彼が適当な嘘を付く存在では無い事だけはわかった。
寧ろ本音がダダ漏れだった気がするけど嘘吐きよりは断然良いわ。
様々な思いが駆け巡ったからなのか突如リノアの頭の中に昔の光景が思い出される。
天翼人族の集落は人族などの害意ある存在から身を守る為や代々宝具を守護するという役割を担う一族として険しい山々の中に住んでいた。
ひとつの巨大な集落ではなく複数に分ける事で非常時のリスクを分散して宝具を安全な場所に確実に移動させる対策を行っていた。
つい先日までは……。
彼女、リノアはその代々守護する宝具の今代守り人に選ばれた事で数年前から警護に携わっていた。
守り人は複数人選抜され、リノアは最年少の守り人だった。
しかしそれも人族の襲撃により無に帰してしまう。
最年少ながらも集落では1番の弓の名手であったリノアだったが、敵の大部隊や最新の武器武具の前では歯が立たず逃走するも他国の人族に奴隷として捉えられる始末。
目の前で仲間や家族が逃げ惑う姿が網膜に焼き付いて離れない。
だが幸いな事に翼がある種族なので私が見た範囲ではそこまでの被害は出なかった、それでも他の集落の被害状況は分からない。
もしかしたら帝国に奴隷として運び込まれたかもしれない。
そこまで考えると自然と、ふぅぅ、と長いため息を吐き熱くなった頭を振り少し冷静さを取り戻す。
過去の事を今後悔しても遅いわね。
奴隷として捕らえられているなら解放すればいいだけよね。
そういえばさっきは何を考えて……あぁ、リオンの事だったわね。
それにしても彼は不思議な魔物よね……人族臭いと言うか、妙に安心すると言うか……何か魔法の影響を……?
いえ、そんな邪推は失礼ね。
でも……改めてイヴって子の関係は気になるわね。
今後、もう少し情報を聞き出す必要が出てきたわ。
リオンは私が守らないと……。
ハッ!そうよ!恩人の危機は守り人の私が守護しないとね!!
ふふ、そうよ!リオンは私が守らないとね!
妙な納得をしたリノアは頭の中のモヤモヤが吹き飛びスッキリした事と道中の疲労も相まって突然襲ってきた睡魔に抵抗する事なく意識を持っていかれ、リオンが守られる側では無い事に気付かないまま意識が深く深く沈んでいった。
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