第32話 女騎士
森の奥深く、1匹の黒獅子が遠くをボンヤリ眺めていた。
同居人である金狼や銀蛇、悪魔までもが同様にある一点をボンヤリ眺めていた。
遠くからは悲鳴が聞こえるが、それを掻き消す様に破壊音が鳴り響き周辺の森林破壊が進行していく。
暫く観察していると山羊頭の悪魔、ツバサが念話を飛ばしてくる。
(ねえリオン、彼女そろそろ限界じゃないかしら。泣きべそ掻いてコッチに走ってくるわよ。女の子にあんな顔させたらダメだと思うわよ、さすがに可笑しいわ、ふふ)
(ハァ、あの程度で情けねえ……。あんな体たらくで守り人とか失笑ものだな、ウケる)
伏せをしている黒獅子、リオンの元に走ってくる翼っ子こと天翼人族のリノア。
「はぁ、はぁ、はぁ、む、無理ぃぃ!も、もう、無理無理無理ぃぃぃ!はぁ、はぁ、はぁ」
息も絶え絶えのリノアは背後に漆黒の虎を4匹引き連れていた。
(クハハハ、そんなんで俺を守るとかよく言えたなぁ、恥ずかしくねえのかぁ?)
「はぁ、はぁ、い、言った!言った、けど、さ、最初に、はぁ、はぁ、こ、この魔物に、ちょっかい出したの、リオンでしょおおぉぉぉ!早く助けろおぉぉぉ!!」
やれやれとリオンが立ち上がり同じ毛色のネコ科魔物に向かって歩き始めた。
どうしてこうなったのか、時間は本日の朝にまで遡る。
その1日はこんな一言、否、宣言から始まった。
「リオンの事は私が守ります!!!」
オピス達が朝餉の肉を食べている時に突然リノアが宣言してきたのをリオンは肉を焼きながら聞く。
(あん?なんだって?)
「リオンの事はーーーー」
(いや、聞こえてねえ訳じゃねえよ。何で俺がお前に守られなきゃならねえんだ?寝言は寝て言えよ)
リノアの話を遮り、理由を聞くと。
彼女曰く、自分は天翼人族の集落に複数人居る[守り人]と呼ばれる宝具を守護する存在なんだとか。
守り人の中では最年少ながらも弓の扱いはトップクラスらしい。
そこで何故リノアがリオンを守るのかと言うと、命の恩人だかららしい。
他にも理由がありそうだったが特に興味も無いのでサラッと流す事にした。
(まあ言いたい事は分かったが、俺に守り人なんか要らねえがそれでリノアが満足するんなら好きにしたらいい)
「ッッ!!!ありがとう!頑張るね!」
ニコニコと笑いながらやる気を漲らせるが、ここでオピスが爆弾を投下する。
(キャハハ!イヴちゃんなら魔物の数匹は殺せたけど、リノアちゃんはどうかなぁ〜くふふふ)
悪戯っ子の様な笑い声を脳内に響かせながら挑発すると、簡単に釣れる翼っ子。
「ぐッ!では、私の実力を示しましょう!魔物なんてチョイチョイとやっつけてやるわよ!」
実力証明自体は賛成だったリオンは気配察知と探知を使用する。
(この進行方向上に6匹くらいの魔物の集団がいるな。俺より小さいくらいだな、弓が得意ならコレを使え)
空間から冒険者の戦利品のショートボウを渡す。
ダンジョン内の閉鎖空間での立ち回りを重視したのか、将又使用者が魔術士だったからなのか……今となってはどうでもいい、結果としてロングボウは手持ちに無くショートボウをリノアに渡した。
「ありがとうリオン!早速討伐しに行こう!」
意気揚々と歩くリノアの後をリオンも進む。
数分歩くと遠くから獣臭が流れてきて、それに伴って唸り声も耳に届く。
(へぇ〜〜この森だとアレが強者らしいな。俺等を獲物とすら思ってねえのか風上で存在を隠そうともしてねえ。クハハハ、俺もだいぶ気配遮断が上手くなったのかな)
リオンがこれからどうするかと考えているとリノアが何故かガタガタ震えているのに気付く。
(あん?何やってんだ?早く行けよ。あっ、ちなみに飛ぶのは禁止な、つまんねえからな)
リオンのこの言葉にリノアがバッと振り返り危機迫る表情で詰め寄ってくる。
「いやいやいやいやいや冗談でしょ⁉︎あれ、ブラックタイガーだよッ‼︎⁉︎リオンはバカなの?1匹でも中魔級なのにそれが6匹とか大魔級になってもおかしくないからね⁉︎」
(へぇ、丁度良いじゃん。限界は越える為にある!ほれお膳立ては任せろ、行け)
リオンの掛け声に6匹居たブラックタイガーが突如4匹になった。
「ほあ⁉︎えっ?今何が起きたの⁉︎と言うか何で他の4匹が全て私に憎悪の視線を向けているのかなぁぁ⁉︎説明してリオン、ちょッ⁉︎待って、リオォォォン!!」
問答無用で接近してくるブラックタイガーに仕方無くショートボウで牽制しながら強引に戦闘開始させられるリノアをリオンは生暖かい目で見続けていた。
もしもリオンが人型になっていたら親指以外を握り締め、親指を天に突き立てていただろう。
そして先程までの喧騒が嘘の様に静まり返った空間に荒い息遣いだけが流れていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、た、助かった……。ちゃ、ちゃんと説明して!い、いったい何したのよ……」
目の前には潰れたブラックタイガーが4匹地面に埋まっていて気にせずオピスが食べている最中だった。
(ん?何って……最初に隠蔽魔法でヘイトをリノアに集めた事か?今の重力魔法で潰した事か?)
「どっちもよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
リノアの怒号が辺りに響き渡り、リオンが顔を顰める。
(いやいや、自ら俺を守ると宣言したんだから文句言うなよ。しかも結局全部俺が殺したしな、お前は無様に走り回ってただけだな、無様だったな。ウケる)
「ぐふッ!!え、えぇ、言った!言ったわよ!!だけどね、限度があるでしょうが!さすがにアレは無理よ!」
近くの木に寄り掛かりペタンと尻もちをつき項垂れると、食事が終わったオピスがリノアの顔を覗き込む。
(あらら〜情けないなぁリノアちゃんは〜。風魔法も微妙だったし〜もうちょっと頑張らないとリオンは渡せないよ〜?)
(オピスちゃんは俺のお母さんかな?)
急にトンチンカンな事を言い始めたオピスにリノアがガバッと赤面した顔を上げ、パクパク言葉にならない音を漏らしていると、案の定別の所から抗議の声が挙がる。
(もう!オピスちゃん何言ってるの〜?リオンはわたしのだから誰にも渡さないからね〜。リノアちゃんもそんな期待に胸を膨らませても〜意味無いんだからぁ。それにね〜リオンは貧乳の幼女が好きなんだからね〜くふふふ)
オピスの更に上をいく、ぶっ飛んだ発言にリノアが表情の抜け落ちた顔でリオンを凝視し口をパクパクさせる。
「リオンハヒンニュウノヨウジョガスキ?」
(もう一々訂正するのも面倒臭え……だが、これだけは言っておかねえとな。リノア、俺は巨乳も好きだから安心しろ、クハハハ)
訂正を放棄し、適当にリノアを慰める為に彼女の立派な双丘を褒めるとボンっと湯気を幻視するくらい瞬時に顔を赤面させ両腕で胸を掻き抱く。
「うああぁぁぁぁ……な、なな、なにを言ってるのよ!!バカァァァ!!」
その状態を見たリオンは問題無いと判断すると、まだ赤面し慌てているリノアを器用に掴むとポイッと放り投げる。
そんな彼女をリオンは背中でキャッチすると走り出す。
(さて、さっきの戦闘でリノアの雑魚さ加減は理解したからさっさと帝国目指して急ぐぞ)
「……私は君に振り回されてばかりでとても悔しいよ……。女の子の気持ちを全く理解出来ていない君をそのうち慌てふためかせてあげるわね」
面白い冗談を言うリノアにグルルルと喉を鳴らして応え、走行速度を上げる。
このまま速度を上げ北東に進むと到着が明日まで掛かってしまいそうだったので翼を出して更に隠蔽魔法を掛けてから空中散歩をする事にした。
山を越え、特に問題無く飛ぶ事数時間、遠くの方に要塞の如き壁が四方に鎮座したギリアム帝国が見えてきた。
(とりあえず今日は近場の森で対策してから帝国に入るぞ)
「対策ってなに?そういえばリオンはそのままって訳じゃないのよね。対策ってそういうこと?」
頭上から覗き込んでくるリノアに肯定の頷きを返し、森に降り立ち周囲の気配を探る。
(街が近い事もあって魔物の気配は殆どしねえな。賊っぽいのがチラホラいるくらいか……暇潰しに狩っておくか。その前に……)
リノアを下ろしたリオンは擬態を発動する。
擬態スキルでは完全な人族には成れず、二足歩行の黒獅子が限界だった。
大きさ180cmくらいまで骨が軋みながら無理矢理縮めた。
(獣人にしては獣要素が強いがまあどうとでもなるな。それじゃ行ってくるから飯の用意だけしといてくれ)
獅子が二足歩行になった様な姿のリオンがそれだけ言うとスタスタと歩き始めるがリノアから待ったが掛かり、ピタリと動きを止め、振り返る。
「準備するのは良いけど、私……火魔法も土魔法も使えないよ……」
魔法ばかりに頼るなと言いたかったが、その言葉を飲み込み少しばかり思案する。
(ふむ……そうか。おい!オピス、ルプ、ツバサ、爺、擬態状態で分離出来ねえか?)
呼び掛けてから暫く待つとリオンの身体から複数の魔力の繋がりが薄くなるのを感じた途端空間が裂け、中から銀蛇や金狼、悪魔、粘液、最後に骨が出てくる。
(擬態や人化中じゃと魂の回路が乖離し易いみたいじゃのぉ。これまた大発見じゃな、忙しくなるわい)
興奮した骨が色々語り出したので後は他の連中に相手を任せリオンは盗賊の巣に向かって走り出す。
何故かブロブも出てきていたが役には立たないので安定の無視を決め込む。
木々を飛び越え縦横無尽に移動する事数分、探知に引っ掛かった数は15。
どうやって殺そうか考えていると念話が聞こえる。
(また焼肉にしようよ〜。臭い肉は焼いて誤魔化すに限るよね〜香辛料があれば良いんだけどね〜)
(……何でオピスがいんの?さっき見た蛇は野生の別物だったのか?)
(キャハハハ、なに言ってんの〜リオン、おバカさんだな〜。こんな可愛い子が2人も居る訳ないじゃ〜ん。ここに居るのはね〜〜こう、ぐぐぅって念じたらいつの間にかリオンの中に居たの〜)
(……そうか。フッ、さて盗賊はどんなお宝を持ってるかな〜)
対応が面倒臭くなり話題を逸らしたリオンは先を急ぐ。
ギャーギャーと耳鳴りの様に絶えず念話が聞こえてくる気もするが、幻聴として処理をしていると賊の巣が見えてくる。
(よーし!どうせ雑魚だ、面倒臭えから正面突破するかぁ)
その宣言通りに巣の中心で酒盛りをしている盗賊に突っ込む。
戦闘というより蹂躙は2秒くらいで終了した。
呻き声を溢し全員喉を掻き毟り、血だらけになりながら窒息死している。
その場にはパチパチと焚き火の音だけが周囲を満たしていた。
なるべく綺麗な状態で殺す事で衣服も剥ぎ取れると思っていたが、予想以上に汚いし異臭がしたのでイラッとしたリオンが風魔法で全員バラバラにした後火魔法でミディアムに仕上げていく。
賊の巣は広場らしき酒盛りをしていた場所と、その奥に洞窟があるタイプでお宝はそこかとアタリを付け、焼肉をオピスに与えてから中に入る。
そこまで広くない洞窟だった、最奥は手作りの格子が埋め込まれた檻があった。
その手前に一部屋あり、探知の結果お宝はそこに貯蔵されていると発覚した。
そのまま遠目に檻付近を探知すると複数の人型を確認したので試しに念話を飛ばそうとするがやはり上手くいかなかった。
仕方がないのでお宝を回収しようと横道に入ろうとすると檻の方から声を掛けられる。
「クソッ!おい、貴様!殺すなら早く殺せ!辱めを受けるくらいならば死んだ方がマシだァァァ!!」
ガシャガシャと鎖が擦れる音と女の叫び声が洞窟内で反響する。
声の方向に視線を向け、どうするかと暫し考える。
(声はまだ衰弱してねえから最近捕まったのか。あんな雑魚に捕まるんだからコイツ等も相当雑魚かゴミ……いや、人質でも取られた可能性もあるか……特にあの隔離されてる一際喚いてる女騎士は相当暴れたみたいだな。1人だけ拘束されてるしな……ん?アイツ……)
不敵な笑みを浮かべたリオンが女騎士の檻に近付き闇魔法を発動する。
檻を円形に消滅させ、頭を屈め中に入る。
さっきまで喚いていた女騎士だが今は不自然に俯いている。
リオンは特に気にした様子も無く真っ直ぐ女騎士に近付く。
ある程度の距離まで近付いた瞬間、バキンと手足の拘束の破壊音だけ残し疾風の如き速さでリオンに飛びかかろうとしていた。
「死ねぇぇぇ!!!」
女騎士の罵声と視線がリオンと交わった瞬間女騎士が目を見開き、空中にも関わらず身体を硬直させた。
次の瞬間には慣性を無視した動作で女騎士は苦悶の声を漏らし、地面に縫い付けられた様に這いつくばった。
(クハハハ、逃げようと思えばいつでも逃げられたって訳か。だが奇襲がバレバレだバカが!って聞こえねえから言っても意味ねえな、だが速さはまあまあだったな。やっぱ人質取られてた系かな、騎士道とかいう自己満足精神ご馳走様だな)
女騎士に向けていた視線を周囲に向けると別の檻には女騎士と同様の鎧を身に付けた男女が4人、太った男と痩せた女、太った子どもが居た。
全員青褪めており瞳には絶望が色濃く出ていた。
それ等には特に興味を示さず再び女騎士に視線を向けると重力魔法を解いた。
重圧から解放され女騎士は荒い息を吐きながらリオンを見つめてくる。
しかしその顔は憎悪や怒りで歪んでいるものではなく、何故か頬を赤らめ興奮してる様な雰囲気があり、リオンは(イヴが偶にこんな面倒臭え顔……)と心の中でフラグを立てた。
そして速攻で回収する。
「し、獅子神様……?」
(……………………ん?なんて?)
リオンがポカンとした表情を何か勘違いした女騎士は慌てて片膝を付き頭を垂れた。
「も、申し訳ございません!お、コホン、私はギリアム帝国第三獣人部隊小隊長エレオノーラ・レーベと申します!!!」
(何だこの反応……ん〜……コイツは獅子の獣人か?猫科なのは間違いないが……どうしたもんか。つか獅子神ってなんぞ。面倒臭えが帝国の軍人なのは都合が良いな、面倒臭えが)
現状筆談しか出来ないリオンは目の前の女騎士の対処を考えていると、ある事に気付き空間から黒色の液体に満たされた1つのビンを取り出す。
未だに頭を垂れている女騎士の前にしゃがむと目の前の地面にガリガリ文字を刻む。
『このポーション飲め』
文字を読み、顔を上げる女騎士がリオンの差し出したビン、リオン汁特製完全回復薬を見ると眉根を寄せ恐る恐る口を開く。
「あ、あの獅子神様……これは本当にポーションなのでしょうか……。あっ、いえ、決して獅子神様を疑っている訳では無く……無知な、お、んん、私は青色のポーションしか見た事がないものですので……。しかし折角の獅子神様の御厚意を無下には致しません!!」
勝手に疑い勝手に撤回し勝手に解釈した女騎士が受け取ったリオン汁特製完全回復薬を一気に飲み干した。
直ぐに効果は現れ女騎士の身体が発光し、暫くすると光は収まり身体にあった古傷を含めた全ての傷が完治する。
唖然としている女騎士の中に眼を向けると、中に自分の魔力を感じ取るとリオンはほくそ笑み、早速念話の為の魔力パスを繋げる。
(聞こえるか?とりあえず他の奴等もこの場から出すぞ、話しはそれからだな)
「ハッ‼︎⁉︎この声は⁉︎天啓!!!ハッ‼︎⁉︎獅子神様のお声!!あぁぁぁ、何と甘美な響きでしょうか……あぁ、う、うぅぅぅぅ……私は嬉しゅうございます」
号泣した……。
大事な事なので2回言いますが、号泣したよコイツ……。
リオンがドン引きしながら周囲を確認すると、目の前に気持ち悪い女騎士が、別の檻にいる獣人の部下達も女騎士の話を聞いていたのか全員片膝を付き頭を垂れている。
唯一の人族の商人達はこの現状に困惑している様子だ。
(はぁ……レーベっつったか、話が進まねえから泣き止め。最初に言った様に此処から早く出るぞ!!返事は要らねえ、行動で示せ!!)
少〜〜し威圧して指示を出すと予想通り直ぐに泣き止むが、頬を朱に染めだらしなく顔を緩ます予想外の変態が出来上がってしまった。
一瞬にしてレーベとの魔力パスを遮断すると独り言ちる。
(おかしいな……何で俺の周りには変態しか居ねえんだ?コイツはイヴ以上の変態波動を感じる……とりあえず後で獅子神の勘違いを正せば普通の変態くらいには戻ってほしいもんだな)
(キャハハハハ、それはリオンが変態だから仕方ないよね〜。ほら〜よく言うじゃ〜ん、類は友を呼ぶってさぁ〜、くふふぅ)
気付くと盗賊達を食べ終わったオピスが全身に巻き付いて世迷言を宣っていたので頭部にデコピンをぶちこむと銀蛇は叫びながら洞窟の外まで吹っ飛んでいった。
その後暫くすると超変態の女騎士が少し落ち着き、現状を漸く見れる様になったので檻を破壊し全員を洞窟の外に連れ出した。
そこで再び超変態女騎士と部下達がリオンに対し一斉に膝を付いた。
「獅子神様!!この度は私達を救って頂いて誠に有難う御座います!」
「「「「ありがとうございます!!!」」」」
リオンが1人1人を見ると超変態女騎士の獅子を筆頭に猫、犬、虎、兎が並んでいた。
(……俺は盗賊に用があっただけでお前等はついでだから気にすんな。それより俺はお前が何度も言ってやがる獅子神とやらじゃねえよ、ただの通りすがりの黒獅子さんだ)
「はっ⁉︎あっ、い、いえ、そ、そんな筈はございません!!貴方様のその御姿!強さ!気高さ!その全てが伝承に記されている私達獣人族の救世主で有らせられる獅子神様でございます!!」
念話は超変態女騎士レーベにしか通じて無いので、どの様な会話になっているか分からない他の獣人達も超変態女騎士の会話を聞くと全員深く頷いていた。
(あっ……これ面倒臭え流れになってる……。クハ、クハハ、クハハハハハ、ハァ……もう好きにしろ!とりあえずここの盗賊が所有してた財は俺が徴収する!それとレーベ、お前にはまだ聞きたい事があるからここに残れ、他の奴等に用はねえから解散!連れが近くに居るから俺が戻ってくるまでに荷支度を済ませておけ!)
全てが面倒になって笑いの三段活用まで披露すると、口早に指示を出し返事も聞かずに踵を返してリノアの元に戻った。
後方から困惑した声が届くが、その一切を切り捨てた。
足早に来た道を引き返すとすぐに別れた場所まで戻ってきた。
(ーーーーーっつう事があってな、帝国軍の超変態女騎士と縁が出来たから結果オーライだろう)
リノアの元に戻るとリオンが先に洞窟から念話で食事を済ませておけと指示を出していたので彼女達は既にいつでも出発出来る状態で待機していた。
「なるほどね。超変態って所が凄く気になるけど宝具の場所の手掛かりになるのであれば大歓迎だよ。……それで、帰ってきた時から気になってたんだけど……その、オピスちゃんはどうしたの?」
呆れた顔で指摘するリノアの視線の先にはリオンに巻き付きバキバキと危ない音を立て、首にガキガキと噛み付きシャーシャー唸るオピスの存在だった。
(ふむ、戯れてるだけだ、可愛いものだろう。リノアもどうだ?)
(許さない!ぜったい!ぜっーたい許さないんだからぁ!!)
特に気にした様子もなく賊の巣に歩を進めたリオンに納得出来ないリノアは首を傾げるものの、その頭の中には呪詛の如き念話が常に響いていた事で本能的な危機察知が働き、更に銀蛇のオデコが倍近く腫れ上がってる姿から関わり合いを避けサッと視線を逸らした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[足跡]
リオンが洞窟を飛び出した翌日に王都から2組のミスリル級冒険者が問題とされている2つのダンジョン。
共に初心者向けダンジョンのウーナとドゥーリオの調査に赴いていた。
「チッ!何で俺等がこんな低レベルダンジョンの調査なんてやらなきゃいけねえんだよ!」
双剣を腰に差した斥候の男が悪態を吐きウーナの中を先導して歩く。
「そんな事は言うもんじゃないよガナード。今この2つのダンジョンではおかしな現象が続いているからね。それに先遣隊と言うべきゴールド級が2組も消息を断っているからね、俺達ミスリル級が2組合同調査を敢行するギルマスの判断は理解出来るさ」
双剣斥候の男、ガナードを嗜めるレイピアを腰に差す青髪の男。
「はん!ファランよぉ、そんなこたぁ分かってんだよ!これはただの独り言だ!いちいち突っ掛かってくんなっつぅの!」
青髪の男、ファランはやれやれと肩を竦めるとガナードの後に続き歩き始める。
その後数時間も掛からずにウーナの最奥に到着するが道中含め最奥からも目ぼしい痕跡は発見出来ずに終わった。
地上に戻り一息入れ、ドゥーリオに向かうもガナードのイライラが徐々に増してくるが、入り口に辿り着くと今までの機嫌が嘘の様に鎮まりピタリと動きを止める。
「ん?何か見つけたのかい?」
後ろから覗いてくるファランがガナードに問い掛ける。
「ダンジョンの中から足跡がスヴェーリの森方面に向かって続いてやがる……。この足跡だと……恐らく4、いや5mくらいはあるな」
その一言で周囲に緊張が走り1人の金髪男が怒鳴る。
「なんだと⁉︎ダンジョンから魔物が出るなんざあり得ねえだろ!!」
「落ち着くんだサーベスト。ガナード、スヴェーリの森という事はブラックタイガーって線は無いのかい?あの森はブラックタイガーの生息域だったろう」
ファランが金髪怒鳴り男、サーベストを宥めるとガナードに問い掛けるが、彼の表情は曇ったままだ。
「この大きさのブラックタイガーなんて見た事ねえんだよ……もしかすると特殊個体でも生まれたか……そうなると俺達だけじゃ装備も数も心許ない……安全性も考慮すると報告の為一旦撤退する事をオススメするぜ」
口は悪いがミスリル級冒険者にまで昇り詰めたガナードだけあり、無謀な冒険はしない慎重派な男だった。
彼の仲間たるファランもそれを知っているので背後に居るミスリル級の同行者に説明して一旦王都に戻る事にした。
情報を持ち帰ったミスリル級冒険者達の話を聞いたギルマスは直ちに討伐部隊を集め、翌日の早朝にはスヴェーリの森を向け出立させた。
しかし、後日討伐から帰還した冒険者の話では特殊個体の存在は確認出来ず4、5m級のブラックタイガーの発見には至らなかった。
この報告を国王にも報告してから、再度ドゥーリオに調査隊を派遣したがダンジョン内の魔物が多少減った以外には特に新たな発見はされなかった。
それ以降この2つのダンジョンで異常が報告される事はなかった。
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