第76話 神力

 ここ最近あの子の様子がおかしい……。

一緒に起きて朝ごはんを食べて支度を済ませたら一緒に家を出る。

私は職場である冒険者ギルドに出勤し、イヴは日課として魔法学院に行く前に一緒にギルドに行って複数依頼を受ける。

それぞれの場所で各々過ごし夕刻になれば守衛門が閉まる事もあって大多数の冒険者は依頼の報告をしにギルドを訪れる。

イヴも例外無く毎日ギルドに報告に来て帰路に着く。

私は日々の業務状況にもよるけど世間の夕ごはん時には帰宅する事ができている。

本来私達冒険者ギルドの受付嬢は三交代制だけど、私の場合イヴと一緒に住んでいるというのと、リオンさんの知り合いという部分が大きく作用しギルマスから特例として基本朝夕シフト固定となっている。感謝、ありがとう。

私としては多少同僚に対して罪悪感はあるので少し残業をしてみんなの負担を下げたり甘味を配ったりして調和を保っている。

そう言えばリオンさんの正体に関しても驚いてしまった。

つい最近教えてもらったけど、リオンさんは人族では無く魔物、それも神話や御伽噺で語られる様な伝説の魔物である『キマイラ』だった。

姿形など何故か不明瞭に記載されている存在なので初めて見た時は興奮しちゃった。

イヴの言ってたリオンさん成分と騒いでいた理由が今なら分かるわね、最高だった。

帰ってきたらまた頼んでみよ。

時間が無くて後でイヴから聞いた話ではリオンさんの身体には最低でも悪魔、髑髏、金狼、銀蛇、紅龍、粘体の6種の魔物が混ざってるとのこと。

出発する時にもちょこっと会話?もしたし私も会った事ある人?魔物達も多いから帰ってきたら改めて紹介してもらお。

ただこの内容はギルドには報告して無いから最悪私クビになっちゃうなぁ。

クビだけならまだいいけど……でも不思議と報告する気も起きないのよね。

まあクビになったらリオンさんに養ってもらえばいっか。

ごほん、ごほん、話が大分ズレちゃったけど、普段のルーティンはそんな感じ。

しかししかし、リオンさんがギリアム帝国に向かった日から私の可愛いイヴの様子がおかしい。

いや実際まだ2日しか経ってないけど、それでもおかしい。

理由を聞いても答えない。

帰りも遅い。

しかもしかも、いつも以上にボロボロになって帰ってくる。

さらにさらにさらに!大体誰かと一緒に居るらしいが、何故かそれらしい匂いがまるでしない。

いつもの学院の人達ではないのよねぇ。

消臭剤なんかの臭い消しを使用したとしても私の鼻を騙す事ができる存在なんて………ひとり居るけどそれ以外知らない。

あの人は例外だし異常だからノーカンね。

そしてそしてさらにさらにさらに、夜な夜などこかに行ってる。

朝は私が普段起きる時間の前に帰ってきている。

朝帰り……。

極め付きはリオンさんが帰ってきてあんな楽しそうな女神の如き笑みをしていたのに今は悲痛な顔をしている。

もしかしてグレた?グレちゃったの?遂にあの子にも反抗期がきたのかしら?

どうするのが正解か分からない私は今現在も悩んでるのよねぇ。





 最近マリーさんに疑われている。

確かに秘密にしている事もあるし話せない内容ではあるけど、そろそろ私も罪悪感を抱きつつある。

ここ数日、正確にはリオンが帝国に出発した日からになるけど、普段通りの日常に追加で特訓をしている。

なぜこうなってしまったのかは今でも思い出したくもない……リオンと一緒に付いて行く話し合いの最中に突然頭に響いた憎たらしいあの声。

リオンも気付いていなかったから私にしか聞こえてないし認知されなかったみたい。

その時のリオンはもう興味無くして別の場所で寝っ転がってたから分からなかったのかな?

珍しかったけど、そんな事なんかよりその時のリオン本当に可愛かったなぁ。

こほんこほん、そうじゃない。

その時マリーさんと2人で話し合っていたけど結局平行線で行く行かないの押し問答が続いたんだけど、いきなり念話が届いたんだよね。



『もうどうして分かってくれないのイヴ!!何も私は今後一切リオンさんと一緒に居られないとは言ってないのよ?』

『そんな事知ってるよ!でもリオンの側からもう二度と離れないって誓ったの!だからマリーに何を言われても付いて行くからね!』

『は、反抗期、ついにこの時が来てしまったのね……。私の可愛いイヴが遂に反抗期に……。だとしても今回のお泊まりは許可できないからね!!』

『反抗期?何言ってるの?』

《反抗期は面倒臭いねぇ。でも今回イヴちゃんがリオンに付いて行くと今度こそ彼死んじゃうよー?》

『ッッ!?誰ッ!?』

『えッ!?ど、どうしたのイヴ、突然』

『この声、アイツか!』

『イ、イヴ?誰と話してるの?』

《いや〜アイツ呼ばわりは酷いなぁ。僕はこの世界の神だぞ〜。しかも僕は君とリオンのためにわざわざ声を掛けてあげたのに》

《何が私達のためだ!私はまだあの時の事を許してないしお前の顔面を殴らないと気が済まない!》

《おぉ、怖い怖い。定命の者は気が短いねぇ。少しはリオンを見習って寛容にならないと。胸も大きくならないよ?》

《む、胸は関係ない!あとまだ私は成長期きてないから!これからおっきくなるもん!》

《いやいやいや、君ってもう成人してるよね?人生諦めも肝心だよ、アハハハハ》

《くッ!……それでどういうこと?》

《アハハハハ、ん?なにが?》

《お前が私とリオンが一緒に行くとリオンが死ぬって話!》

《あぁ、それね。そのままの意味だよ。ギリアム帝国にリオンとイヴ、君が一緒に行くと彼が死ぬ。これは既に決定事項だよ。例えリオンくんが居ても防ぐ事は不可能だよ、神の審判だと思ってくれていいよ》

《ハ、ハハ、神も暇なんだね。私に対して動くなんて、他にやる事ないの?》

《おぉ、創世神である僕に対して随分大口叩ける様になったんだね、すごいすごいパチパチパチ。でも残念、自意識過剰で可哀想だけど勘違いさせてごめんね。別に僕等は動いてないし、君に対しては他の神は毛程も意識を割いてないよ》

《………それで?私がお前の言った事をそのまま信じてリオンから離れると本当に思ってるの?》

《ふむ、なるほど確かに君の性格上このままだとその可能性は限りなく低いだろうね。いやはや愚かだと馬鹿にはしないけど君はリオンと同様僕に対して敬う心というものが足りていないね。あぁでも勘違いしないでほしい、僕としても何も定命のモノから信仰心が欲しい訳じゃないって事を知っておいてコレを君に見せよう、はいどうぞ》

《何を言って、ぐッ!な、なに、これ》

《これはリオンくんと共に居る事により起こり得る未来のひとつだよ。今回は同行しない事で防げるかもしれない、でも次は?その次は?僕はこうやって君を手助けするつもりはないよ?君はリオンくんの横に居るには全てが足りない、今はまだね。でも今回だけ特別大サービス、やったね。僕が君に力を貸そう。こんな素晴らしい体験ができる者は世界中でどれほど居るだろうか、数百年?数千年?それ程の奇跡の邂逅に君は選ばれたのさ!光栄に思ってくれて構わないよ、アハハ》

《こ、こんな幻覚で私とリオンの絆は壊せない!!こんな未来は訪れない!嘘だ!消えろ詐欺師!》

《……ふむ。それもひとつの選択だ。神である僕は君の選択を尊重しよう。しかし忘れてはいけないよ。誰がその大切なリオンを傷付けたか、そんな存在にいつまでも庇護されるだけの雛鳥なのか、常に恩を仇で返し、付き纏い、困らせ、楽しみを奪ったのか。ある意味君は簒奪者だね。そんな存在が絆とは笑わせてくれるよ。独り善がりもそこまでいくと哀れみすら憶えるよ。もう少しで君の【称号】に【道化師】と付けそうになってしまったよ、ハハハ。まあ僕も暇じゃないし揶揄うのこれくらいにしよう。とりあえず君がどの様な決断するかは任せるけど、今回僕が君に力を貸すというのは信じてくれていい》

《………何をさせる気なの?》

《おや、意外と冷静だね、アハハ、つまらない。それにまだ僕は疑われているのかな?これじゃ本当に僕が詐欺師みたいじゃないか。ふーやれやれ、じゃあ特別に先にコレを君にあげよう》

《……何これ、魔力?》

《んー、魔力とはちょっと違うかな。ざっくり簡単に言うと僕達神の力だと思えばいいよ。それを取り込んだ君は潜在能力が少しだけ解放された筈だよ。でもそれだけじゃまだまだ実感できないだろうけどね、今後これを鍛える事で君はリオンくんの隣を歩けるくらい強くなれる。さて、少し長く話してしまったね。僕はもう行くけど、どうするか決まったら明日リオンくんが旅立った後に指定する場所においで。サービスとして少し考える時間をあげるよ、優しいね僕。とりあえず30分くらい時間止めとくね、それじゃあまたね》

《あっ!待って!!………消えた。あんな未来……あり得ない。でもまた私がリオンを……それだけは絶対に阻止しないと!》


 そこから私は必死に考えて考えて考え抜いた。

でも全然良い案が浮かばなかったし時間切れで目の前のマリーが不思議そうに見つめてくるから結局アイツの言った通り今回リオンの同行を諦めた。

マリーにとっては私の急な手のひら返しに困惑してて、その顔が面白かったけど心の中ではメラメラと炎が宿ったね。

リオンを害さない、害す存在を無力化する、その為には私はまだまだ実力不足だから、あの神を利用してでも絶対強くなってやる!

行動は早く、渋々だけど言われた通りリオンとマリーを見送った後指定された場所に行った。

と言っても集合場所はリオンを見送った森からもう少し奥に入った所だけどね。

気配探っても動物とか魔物は反応あるけど、あの神の反応は相変わらず無い。

探りながら歩いてると不自然に木々が円形になくなってる場所に到着した。

この森は鍛錬とかで結構入ってるのにこんな場所あるなんて知らなかった。

とりあえず中央に立って決めポーズでもしよう。

意味は分からないけどリオンもそれが礼儀だって言ってたし。

確か肩幅くらいに足を開いて両腕は腰にやってドヤ顔するって言ってた、こうかな?それともこう?なんか違う気がする、こうかな?


「ねえねえそれって何やってんの?」

「キャッ!い、いつから見てたのッ!?」

「ん〜、君がリオンに言われた通りやろうって張り切ってる辺りからかな」

「サラッと人の心を読むのはやめて下さい。そ、それでここで何をやるんですか」

「全く流せてないけど、まあいいか。ここで何するかって?そんなの決まってるだろうさ。少年漫画の王道でしょう!つまり鍛錬さぁ!!」

「……なんだ普通ですね。では早速始めましょう」

「あれ?反応薄くない?酷くない?僕でもさすがに傷付いちゃうなぁ」

「そういうのいいですから、時間の無駄です。早くして下さい」

「うわー全然可愛くないや、話し方も敬語でよそよそしいし。まあいいけどね。じゃあ始めよう。と言っても僕はガッツリ直接関与できないから今回はこの子達に頑張ってもらおう」


 創世神ガイアがパチッと指を弾くと地面なら6体のゴーレムが生まれた。

その出来栄えに満足気に頷きながらガイアがオーバーに両腕を左右に開き高々と開始を宣言した。


「さぁ!ここから始まる君の物語!考えて動いて実行して敗れて泣いて、また立ち上がって強くなれ!君ならできる!魔人族である初代勇者と同じ志を目指し更なる高みへと登ってくれたまえ!そのための階段を僕が用意しようじゃないか!!さぁ行け、僕のゴーレム達よ!!」


 号令と共に全ゴーレムがイヴへと動き出し、イヴは油断無く剣を抜くと魔力を練り始めた。

両者の構図を遠くから眺めるガイアは満足そうに笑った。

しかし次の瞬間には熱も無くなった無機質な顔になると目の前の空間を凝視した。



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[イヴ]種族名:魔人族

[Lv.42]ジョブ:魔剣士

[土魔法Lv.5]

[火魔法Lv.3]

[水魔法Lv.3]

[闇魔法Lv.1]

[光魔法Lv.3]

[身体強化Lv.7]

[剣術Lv.3]→[聖剣術Lv.3]

[拳術Lv.2]

[闇属性耐性Lv.3]

[魔力操作Lv.4]

[魔力制御Lv.4]

解放[神気Lv.-]

[???]→聖魔■■の卵。神の裁定。■獣の■■。→聖10魔90【本人含め常時隠蔽】

称号

魔物性愛

創世神の加護【常時隠蔽】

合成獣の呪縛


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「神力入れてもまだこの差かぁ、アハハ。さぁ、これからどうなる事やら。アハハ、面白くなりそうだ」


 言葉とは裏腹に無表情な顔のガイアがステイタスを見ながら笑う真似をした。

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