第62話 適正職業
冒険者ギルドにて今後の方針説明が終わったリオン一行はすぐに鍛錬へと行動を移そうとした矢先マリーに呼び止められてしまった。
不機嫌そうなリオンをスルーしマリーは淡々と用事を済ませる。
話というのはリオンが画策してリノアを使って依頼したダンジョン調査の結果報告と報奨金の受け渡しだった。
内容を聞いたリオンは、であれば自分の立ち会いは不要だと判断してその場を立ち去ろうとするが直ぐ様マリーから待ったが掛かる。
その場に居た殆どの者に魅了を施し隠蔽は問題無いと判断したリオンだが結局その場に居合わせた事や新種の魔物(実際はリオンが擬態してただけだが)を討伐したリオンから話を聞きたいと言われてしまった。
マリーの後ろからそんな話を吹き込んだであろうルベリオスがニタニタと笑みを浮かべ逃がさんと言わんばかりに距離を詰めてきたので仕方なく同席する事になった。
渋々入った部屋は以前リノア達が集まった場所とほぼ同じ作りで、ロの字型のテーブル配置で入って正面にはギルドマスターである白髪筋骨隆々のおっさんであるダバンと副ギルドマスターであるエルフ族でスクルプトーリス・ルベリオスの妹でもあるサーシャが座っている。
リオンが左右のテーブルを見ると相手側とも視線が交わるがその場の殆どの人間が今のリオンとは初対面なので記憶を探る者、興味深そうに見る者、興味無く一瞬視線を向ける者、何故か酷く怯え冷や汗を流す者などなど多種多様な反応を示した。
リオンから見て左側のテーブルには『破邪の五剣』リーダーのダズ、斥候のモーリス、タンクなど近接担当のガートランド、後衛で魔術師であるヴァンダレイと同じく後衛のラグエルンストが着席していた。
右側には『精霊乃燈』のリーダーであるエルフ族のフリストフォル、同じくエルフ族のダリア、そして豹人族のローランとサルマが座っている。
ひと通り見回したリオンは一番手前のテーブルに座る。
すると同じテーブルに座っていた新種の魔物である魔狼に殺された事になっているコルテス・ドートワイトに雇われた傭兵のザイナが話しかけてきた。
「ん〜?なんだニイチャン、見た事ねえ面だが今回の依頼の関係者かぁ?」
「ん?あぁ、まあそんな所だな。おいイヴ達も早く座れよ」
ザイナを適当に相手しながらイヴ達を席に誘うとリオンは周囲を拒絶する様に目を閉じると黙り込んだ。
当然の様にリオンの隣に座ったイヴは最早周囲の事は気にせずリオンをガン見し続けていた。
代理とはいえ依頼をした張本人であるリノアがイヴとは反対側のリオンの隣に座る。
ダバンが見回し全員揃っているのを確認すると早速本題から話し始めた。
「先日はご苦労であったな。数名の死者が出た事に関しては残念で仕方ないが、黒獅子が来る前にある程度話を聞いたがなかなか大変だったみたいだな」
ダバンの話が依頼が大変だったのかコルテス達が大変だったのか、色々と匂わせた軽い話題を前置きにした所で無駄な時間を取られる事を嫌ったリオンが口を開く。
「結論から言えよなジジイ。そこのババアも含め年寄りは話が長くてよくねぇ。残りの寿命を効率良く消化しろよな」
「なんだとッ!?」
「リ、リオン君?私にまで飛び火するのは良くないかなぁ。それにまだ私は横のお爺さんと違って若々しいわよ〜」
「ね、姉さん、その言い方はどうかと思うよ……」
「リオンもダメだよ。女性にそういった話は失礼だよ!でも急ぐのは賛成だからダバンさん、早速依頼の達成金の話をしていただいてもよろしいでしょうか」
リオンの暴言に反応したダバン、ルベリオス、サーシャ。
そしてそんなリオンを嗜めながらも彼の味方であるイヴが話を先に進める。
ダバン辺りは苦い顔をしていたが破邪の五剣と精霊乃燈、ザイナはイヴに同意なのか頷いていた。
その様子を見たダバンはため息ひとつ溢すとサーシャに目配せをした。
彼女はひとつ頷くと予め用意していた小袋を四つ取り出すと各々のリーダーの前に配った。
「今回の依頼の達成金は事前説明があった通りチーム単位で金貨10枚だ。チーム黒獅子に関しては指名依頼という事もあり金貨15枚、ドートワイトの所は色々問題があるし当事者は死んじまったから当然無しだ。しかし話を聞いた所ザイナ達傭兵も多少の働きをしたと見なされ1人金貨1枚を支給する事が決まった。達成金に関しては以上だが何か意見がある奴は居るか?」
ダバンが話し終え周囲を見渡す。
全員が小袋の中の金額を確認し、特に不満や質問が無いのか誰も挙手しない。
それに対して黒獅子が来る前にある程度話があったのかと理解したイヴだが、それで質問が無いかと言われるとそうではないので当然彼女は手を挙げる。
一斉に視線がイヴに集中する。
イヴは特に気にした様子も無くダバンを見ており、視線がこちらに向いたタイミングでイヴが口を開く。
「事前説明では討伐で追加で金貨100枚、新種の魔物の素材を持ち帰れば割高で買い取ってもらえるとの事でしたよね。それにしては額が少ない気がしますが?」
「確かに事前説明ではそんな話だったな。それに関してはお前等にも話を聞きたかったんだが、今回の最終的に新種の魔物を討伐したのはお前等じゃなくそこに居るリオンらしいじゃねえか。もしそれが事実であるならば討伐分の金は出ねえなぁ、どうなんだ?」
「残念ながら私達も最後は目撃していませんので何とも言えませんね、それは皆さんも同様だと思いますね。ただ学院長が最後に出張ってきたので彼女が知っているのでは?」
「あら?あらあら〜?なんか言葉にトゲがある気がするのは気のせいかしら〜?」
「気のせいですね。それで?どうなんですか?」
「そうね〜、確かにあの新種の魔物に止めを刺したのはそこに居るリオン君で間違いないわよ〜」
イヴに話を振られたルベリオスはあっさりリオンが倒したと告げると全員の視線がリオンに集中した。
当事者であるリオンは腕を組み無表情で周囲を確認して一瞬ルベリオスを睨むと口を開く。
「確かに俺が殺したな」
「なるほどな……では先に伝えた通り討伐についての報奨金は出ないが、討伐部位などがあれば買取する事は可能だ。他に質問が無ければ解散とする」
リオンが素直に応えた事でダバンも改めて報奨金の有無を明確にさせ、会を締め括ろうとする。
しかしそこで2つのチームリーダーが同時に手を挙げる。
2人、破邪の五剣リーダーのダズと精霊乃燈リーダーのフリストフォルの視線が合うとダバンがダズから話す様促すとフリストフォルも彼に先を譲る。
「では私からリオン殿にいくつか質問してもいいだろうか」
「んあ?あぁ、別に構わねえよ」
「ありがとう。では早速だが貴方は冒険者なのか?それと私達があれだけ苦戦した相手を君ひとりで討伐したのかい?最後にイヴさんとはどういう関係なのかな?」
ダズが淀み無く淡々と質問をリオンに投げ掛ける。
リオンは少し考える様に中空を眺め、数秒程で再びダズを視線に入れる。
その間隣のイヴはリオンとの関係を聞かれた事について脳内で様々な妄想をしながら身悶えていた。
エリーゼ達はイヴのその奇行には気付いていたが場の空気を読んで黙しており生温かい目で見つめるだけに留めていた。
「あぁそうだな。お前等と同じ、同業者だな。1人で?んー……ん?あぁ、クハハ!いや、1人な訳ねえじゃねえか!あの場にはもう1人元最高位の冒険者にまで上り詰めた英雄殿が居たからな、なあ?そうだろ〜?スクルプトーリス・ルベリオス殿〜?」
「あら?あらあらあら〜?まださっきの事を根に持ってるかしら〜リオン君?嘘は良くないわねぇ」
「あぁん?何の話だババア?俺は事実を虚偽無くそこの男に説明してるだけだぜぇ?それとも何か?コイツ等が手こずった奴を俺1人で討伐した証拠でもあるのか?」
「証拠なんていらないよ!リオンは、むぎゅッ!」
「黙れ」
流れる様に嘘を垂れ流すリオンに対してルベリオスが反論する前にイヴが食い気味にリオンを褒め称えようと口を開くがすぐにリオンが口を塞ぎ黙らせる。
そんなやり取りを見せられたルベリオスは反論する気が失せたのか投げやりにリオンの意見に乗っかった。
彼女が認めた事でダズ達も納得した様で頷く。
そして最後の質問を残すだけになったが、それは意気揚々とイヴが語り出した。
ただ[家族]と言えば済む所をやたら長尺で説明し始めたのでリオンが途中で止めなければ軽く翌日の朝まで掛かった事だろう。
だがそこまで話してもまだイントロ部分だったに違いない。
ダズは全ての質問に納得はしたものの、今後イヴにリオンとの関係は聞かない様にしようと心に誓った。
フリストフォルも質問内容はダズと同じだったのか同様に納得して引き下がった。
そして会議に参加したリオンはほぼ全員の魅力がしっかり掛かってる事を再確認できたので満足気に部屋を後にする。
そのまま予定通り鍛錬の為近隣の森に行こうかと考えているとふとある事を思い出し、隣にイヴに問い掛けた。
「おいイヴ。そういや今お前のジョブってなんだ?」
「ん?今は【魔剣士】だよ。それがどうかしたの?」
「その【魔剣士】ってのは上位のジョブなのか?」
「え?いやそんな事無いかなぁ。詳しくは聞いてないから分からないよ。マリーに聞けば分かるかもね、聞いてこようか?」
「いやいい。丁度いいから俺も見とくか」
「リオンのジョブ……気になる!!私も一緒に見ていい?」
「あぁ、構わねえよ。おいマリー!」
色々思う所があったのかリオンがジョブを決めようと受付に居るマリーに声を掛け視線を向けさせる。
リオンがマリーの居る場所に着く頃にはオピス、ルプ、ウピル、テースタ、ツバサ、イヴ、リノア、エレオノーラ、エリーゼ、フェルト、リヴァイスの大所帯ながらもいつものメンバーなので特に気にしてなかったが今回はそれ以外にも破邪の五剣と精霊乃燈、あとルベリオスがくっ付いてきた。
そんないつも以上のメンバーに声を掛けられたマリーはビックリしていた。
しかしそこはプロ根性で抑え込み、頬は引き攣っていたが普通に接してきた。
「何かご用ですか、リオンさん?」
「あぁ、ジョブを決めようと思ってな。今から行けるか?」
イヴと話した内容をそのままマリーに伝えるとリオンの事情を知らない者は一様に驚愕した。
そんな空気を感じながらも特に反応する事なくマリーの返答を待つリオン。
後日聞いてもいないのに破邪の五剣と精霊乃燈から色々説明される事になる。
話を要約すると中級冒険者になれる程の実力者が就けるジョブの補正値は結構高いらしく人の身でジョブ無だと上級冒険者にはなれないと言われているらしい。
「リオンさんはまだジョブに就いてなかったんですね。では今からご案内します、説明は必要ですか?」
「いや、イヴに聞くからいい」
「任せてよ!」
「あの〜リオンさん、一応規則と言いますかジョブに就く際には個人のステイタスが見れますので情報秘匿の観点で入室は原則本人のみとなっているんですが……」
「あぁ〜まあイヴなら別にいいだろ」
「ああ!リオン大好き!さぁ早く行こう」
リオンの発言に気分を良くしたイヴはぐいぐいと引っ張るとリオンを適正職業選択部屋、通称ジョブ部屋まで歩いて行く。
部屋の前にはすぐに到着し、リオンが中に入ろうとするとイヴから制止の声が掛かる。
「ちょっと何でこんなに人が居るんですか!?リオンに許されたのは私だけなんですからみなさんは外で待っていて下さい!!」
リオンがゾロゾロ引き連れ、結局破邪の五剣と精霊乃燈を除いたいつものメンバーが揃っていた。
イヴがそれに対してぷりぷり怒っているがリオンは特に気にした様子も無く部屋に入っていってしまう。
その行動に驚いたイヴが少し頬を膨らますがすぐにリオンを追っ掛ける。
イヴが中に入るとリオンは既に中央の水晶台の前に立っており腕を組みながら水晶を凝視している。
結局全員入ってきてリオンの周りに集合する。
微動だにしないリオンを訝し気に思いながらイヴが水晶を覗くとリオン同様凝視して固まる。
それぞれ覗くと反応は同じか興味深く観察するか無反応だが我慢できなかったのかマリーが声を荒げる。
「こんなのあり得ないわ!今までこんな事一度も無かったわ!産まれたての赤ん坊ですら絶対に1つは表示されるのよ!?ねぇ、リオンさんもう一度やってもらってもいいかしら!」
「ふむ……」
言われた通り何度か水晶に魔力を流すが映し出される文字は変わる事は無かった。
それを確認したリオンは何か納得した様子で部屋を後にする。
それに続いてイヴ達も部屋を後にするが、ふとイヴが部屋の中の違和感を感じ取った。
「いつもはもっと神聖な雰囲気がある気がしますが、今日は少し……淀んでる?気のせいかなぁ」
キョロキョロしたイヴは少し考えるが今はリオンを追い掛けるのが最優先事項だと判断し部屋の事などどうでもいいと思いそそくさと部屋を後にした。
全員が退出した部屋の中央、未だ光り輝く水晶の中である文字が点滅している。
【適正職業無】
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