第2話 猫は卵から生まれる

 どれくらい寝ていたのだろう。

とても心地良い場所に居る気がする。

母胎の様に温かく、必要な栄養分も勝手に供給されて快適な環境だ。

触覚以外の感覚が無い、しかし本能で悟る。

器を無くし溶けた肉や骨がひとつに混ざり、ドロドロの液状になっている、そしてそれ等がまた形を創り始め身体が再構築される不思議な感覚。

気分は繭の中のイモ虫、否、蛹と言った所か。

しかしそんな感覚も暫くすると治まり、水面に浮上するかの様に意識が急速に覚醒していく。


(良く寝たなぁ。ん?んん〜?此処は何処だ?周り真っ暗なんだけど……)


 パチリと目を開けるが視界に変化は無し。

何度か瞬きを繰り返すが状況は好転せず首を傾げる。

一旦視界は放置し手探りでペタペタ周囲を探る。

結果、何かに包まれていた。


(袋?にしては固いけど、これって誘拐か?いやでもこの感じは違う気が………)


 再度ペタペタと確認して形状を把握する。


(ふむ、この周囲を包む形で1番ピンとくるのは〜、そう!!卵だな、うん。…………えぇぇぇ、何これどういう状況⁉︎何でこんな事になってんのッ⁉︎ハッ!!いかんいかん落ち着け〜俺、一旦落ち着こう〜。クールにクールに、俺はクールなナイスガイ。ん?この自問自答のデジャヴ感パネェ、ハハハ。まあいいか。とりあえず此処から出てから色々考えるかぁ)


 何とか推定卵殻を手?でテシテシ殴り続けるとパキッと音と共に罅が入り、更にテシテシと殴り続けると遂に推定卵殻を壊す事に成功する。


(いけるいける、つうか俺の手が変だな。手というか全身変だな。そういや、転生したんだっけか。つう事は今は赤子か?それだとしたらこの生まれ方は……。おっ、そろそろ出れるな)


 外から光が入り現時点でのMAXパワーで突き破る事に成功し、某ボクシング映画の曲が頭の中でリピート再生された。

降り注ぐ陽光に目を細め、久々の日光浴に感動した。

そして、目が慣れ始め周りを観察して絶句する。


(はっ⁉︎えっ?此処は?………青い空〜を遮る巨木の群生地帯〜!地面からは青々とした草花が気持ち良さそうに風に揺られ、陰からはキノコがこっちにおいでと手招きしている様だよ〜。ハハハ、少し詩的になってしまったね……………うん、ここはまごう事なきジャングルだね……)


 周囲の状況を現実逃避気味に下手な詩で語り少し満足した所で次の異変に目を向ける。


(そして俺を包んでた物体はまさに卵!!つうかマイボディがおかしい!!何がおかしいって、全身毛むくじゃらーーーーー!!猫か⁉︎猫なのか⁉︎いや、待て!!猫は卵からは生まれない。ハハハ、常識ですよ君〜)


 混乱極致状態で唸っていると周りからパキパキと殻が割れる音がするので、意識を向けて見ると次々と卵から猫型動物が出てくる。

その数9匹。

全身赤茶色の体毛に覆われて尻尾の先端には針の様な突起物が見える。


(普通の猫では無いよなぁ。尻尾は昔ネットでみたマンティコアみたいだけど、顔は人面って書いてあったが周囲の奴等はまんま猫だな。つうか全く見た事無い生物なんだけどなぁ。異世界物だとやっぱり魔物なのか?)


 そんな事を考えている間に全ての卵からマンティコア(仮)が生まれた。

そして次の瞬間一斉に猫の大合唱が始まった。

にゃーにゃーにゃーにゃーと喧しい鳴き声が5分以上続いたかと思えば次の瞬間にはピタリと止まる。

全マンティコア(仮)の視線が遠くの茂みに集中していたので、俺も例に漏れず茂みを注視しているとそこからノシノシと歩いてくる体高で2mくらいの謎肉を咥えたデカ猫が現れた。


(あれは、マイマザーか?つうか顔面が人面っぽいなぁ、キモイ。顔面だけ猫と人間足して割った感じだな。やっぱ俺は今世はマンティコアかぁ、つうか、えっ?成長したら俺もあんなキモイ姿になんのか⁉︎絶対嫌なんだが!!まあ……ヒトも獣も一緒だよね。だが何故混ぜてしまったんだ……)


 そんな事を考えていると謎肉を咥えているマイマザーがチビ達に餌を与えてしたので、そういえば自分も腹減りであると気付いたので自分もご相伴に与ろうとしてブラザーズ&シスターズに近寄るとマイマザーが唸り声を上げて威嚇してきた。


(えぇ……オイオイ待ちなさいって。生まれて数十分で育児放棄って大自然の歓迎会かよ。俺ってばこの中だと長男だから重宝されると思ってたのになぁ。殺意ビンビンやないかーい。猫科?だからライオンスピリットかな?谷底どーんかな?確かに背後に見えるのは崖だけどまさかね〜、ハ、ハハハ)


 ジリジリと迫り来るマイマザーを前に色々と打開出来る方法を探すものの、生まれ落ちて数十分の猫さんに妙案が浮かぶ訳も無く、尚も唸りながら接近中のマイマザーから後退り貴女の愛しい息子こと俺も可愛らしい威嚇をしながら細やかな抵抗を試みる。

するとふとマイマザーの背後から威嚇するブラザーズ&シスターズが目に留まる。

ジャイ○ンの後ろから喚くス○夫の如き小物感を披露するマイブラザーズ&シスターズに視線を固定しながらアイツ等いつか殺すと心に誓いながら今は戦略的撤退に舵を切り、回れ右して脱兎の如く逃走を開始した。

だが行動に移す判断をした時には既に手遅れとなっており背後から強烈な衝撃を受け宙を舞う俺。

全ての動きがスローモーションになり、そのまま崖下まで真っ逆さま。


(紐無しバンジィィィィィイイイイイ!!!)


 死ぬ前ってこんな感じかと思うが、前世とは違うと思い直し、必死に生き残る方法を模索する。

すると、


(ヒャッ!!起きたらいきなり死にそうなんだけど、何この状況ッ⁉︎とりあえず飛ぶわよ!!)


 聞き覚えがある、色気のある女の声がしたと同時に背中から翼が生えギリギリで地面に着地するものの距離が足りずかなり衝撃を受けてしまい、マンティコアって翼あったっけ?と考えながら気を失った。

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