第68話 再会
魔法都市リンドブルムから目的地であるギリアム帝国まで現在リオンは空を翔けている。
特に障害物もない空を移動しているので数時間程で到着予定なので昼頃に帝都に突っ込めると判断した彼等は途中寄り道をして少し早い昼食を済ませた。
その後も飛び続けると予定通り陽がてっぺんに差し掛かった頃、前方にギリアム帝国の帝都ノイルを一望できる距離まで到着した。
リノアとエレオノーラも気付いた様で帝都を囲む森をキョロキョロと見て着地できる場所を探していた。
しかし当のリオンは速度を落とす事無く真っ直ぐ帝都に向かっていた。
その事に気付いたリノア達は恐る恐るリオンに話し掛ける。
「ね、ねぇリオン。そろそろ帝国に着いちゃうから近場の森に降りない?」
「ん?あぁ、そうだな」
意外な事にリオンはリノアの言葉に肯定の意を返したので彼女等は少し意外感を感じたが安心した。しかしそれが間違いだったと数秒後の自分を叱ってやりたいと思った。
リオンは返事はしたものの、飛行速度を落とす事なく逆にグングンと速度を上げ、ミサイルもかくやと帝都に狙いを定め突貫した。
異変を感じたリノア達の抗議の声が届く前にリオンは帝都上空から街中に自らの身体を使ってグラウンド・ゼロを作成する為に更に加速した。
ニヤリとリオンが楽しそうに笑って開戦の狼煙を上げようとした瞬間、リオンは見えない障壁に阻まれた。
かなりの速度で突っ込んだ結果、障壁が砕け反動でリオンの首がへし折れた。
くぐもった呻き声と朦朧とする意識の中、無意識に魔法を使おうとしたリオンだったが、発動直前に魔力は形にならずボロボロと瓦解し、霧散する。
それだけで無くリオンの全身から間欠泉の如き黒煙が噴き上がり、そのまま街中にある建物に突っ込んだ。
「ガアアァァァァ!グルル、グルルルルル!これは、結界か……しかも身体がどんどん焼ける、光属性?いや、聖属性……コイツらが無害って事は差し詰め、対魔結界ってところかよ……ごふぁッ!オイオイ、素敵な歓迎してくれるじゃねえか、ク、クハハ……。おい爺!このままじゃ無理、死ぬ、内側からポーション投与し続けろ!常時毒状態とか笑えねえよ」
(グワハハハ!リオンよ、お主混乱でもしておるのか?アレは………いや、いやいやいや、面白そうじゃから、ひゃひゃひゃ!お主の要望通りにしてやるぞい)
「ハァ?お前何言って、ん?ぐっ、ごぼっ!テ、テメェなに入れやがった!!」
(ヒャヒャヒャ!お主こそ何言ってるんじゃ。ワシはお主の希望通りポーションを投与しただけじゃ)
帝都に張られた対魔結界とテースタから投与されたリオン謹製ポーションによるダブル効果で黒煙は更に噴き上がり血反吐を辺りに吐き散らかすリオンに乗組員のリノアとエレオノーラ、ウピルが心配そうに駆け寄ってくる。
彼女等はリオンが何重にも重ね掛けした光魔法の障壁により軽い打撲で済み、血反吐も障壁に守られ溶かされずに済んでいる。
「リ、リオン、大丈夫、ではないよねぇ。何でそんな状態になってるの?」
「まあ、これくらいなら問題ねえ。恐らく今ここに対魔結界が張ってあんだよ。そのせいで全身痛えし爺にポーション頼んだら変なもん入れられてこの様だ」
リオンの説明をふむふむと聞いていたリノアとエレオノーラだったが、少し引っ掛かった言葉に首を傾げると辛そうに荒い息を吐いているリオンに問い掛ける。
「ねぇリオン、そのポーションって普段私達が飲まされてるやつ?」
「あん?それ意外に何があんだよ」
「だよね……。でも確かリオンって以前自分で作った黒いポーション飲んでダメージくらってなかった?」
リノアのこの言葉にリオンは時が止まったかの様に固まった。
ジト目を向けるリノアから目を逸らしながら遠くを見つめ、暫くすると再び動き出しながら口を開く。
「お前等はこの結界に入って何ともねえのか?」
「……忘れてたんだね。そんな自分を棚に上げてテースタさんをイジメるのはよくないと思うよ?」
「さっすがリノア嬢!優しいのぉ、ひょひょひょ。ただワシの事はテースタおじいちゃんでいいんじゃよ〜、ほれほれ。呼んでみておくれ」
「死ね……気持ち悪りい」
(うっさいわ!!お主はこれでも飲んでおれ!!)
「グルルルルル」
「テースタさんもリオンもバカな事はやめて早く行こうよ」
「おじいちゃん」
「ん?」
「テースタおじいちゃんって言ってくれんとワシ行かない」
黒獅子のリオンの横脇腹から髑髏であるテースタが出て来てリノアに絡む光景をエレオノーラが顔を引き攣らせて眺めている。
そんな絡まれている張本人であるリノアは目の前で下顎骨をカチャカチャ鳴らしているテースタを華麗に無視するとリオンの顔の前に行くと頬を撫でた。
「ほらリオン、そろそろ周囲に人の気配が増えてきたからバカな事やってないで早く行こう?」
「俺は何もやってねえ!あのボケ爺に言えよ!……ただまあそうだな、そろそろ行くか。お前等はどうするつもりだ?」
「ワシの事は無視かのぉ〜寂しいのぉ〜悲しいのぉ〜」
「ん?一緒に行くんじゃないの?あれ?エレナ?」
クネクネしながらカシャカシャと全身を鳴らしダル絡みしてくるテースタは全員に無視され、そのまま無言でリオンの中に帰っていった。
そんな爺の事は会話に出る事は無く、リオンは視線をリノアからエレオノーラに移した。
彼女は2人の視線を受けながら今後のプランを話し始めた。
「私はこのまま部下達の現在の状況を確認した後帝城に向かおうと思っております。リノアはどうする?私と来てもいいし、そのまま獅子神様と行動を共にしてもいい」
「ん〜、そうだなぁ。じゃあエレナと一緒に行こうかなぁ。何かあった時エレナ1人だと大変そうだしね。リオンもそれでいい?」
「……あぁ、構わねえよ」
「その間はなに?」
リオンがエレオノーラを見ながらリノアに返事した際の妙な間に反応して問い詰めようと顔をガバッと掴むと同じタイミングで扉が勢い良く開け放たれ騎士鎧姿の者達が雪崩れ込んでくる。
「おい、貴様等!その魔物の使役者か!ノコノコと我が国に侵入した愚か者共よ!大人しく捕縛される事を提案しよう」
隊長らしき人物がリオンを見てビクつき、リノアとエレオノーラを見て態度を戻し声高々に言い放った。
リノアは現在もツバサの幻術によって黒髪黒目の美女となっており、エレオノーラは特に何も変装はしていないがこの場で彼女が元騎士団所属だとは気付かれる事は無かった。
リオンが冷めた目で周囲を伺いながら今後の行動を思案している間、隊長達はリノア達に降伏する様に上から目線で演説していた。
20人の部下達は隊長の演説に頷きながら、緊張感の欠片も無いアホ面を晒している。
そんな無駄な時間もリオンの方針が固まった事で終わりを告げる。
(殺すのは簡単だが、どんな小さな事でもイベント事を作るのが俺の良さだよなぁ。コイツ等さっきから俺をリノア達に使役されてると思ってるみてえだし今回はそれでいくか。うむ、良き良き、我ながら素晴らしいアイディィア、クハハハ!)
(でもリオン、この世界の魔物は専用の魔道具を使用しないと使役はできないらしいわよ?アナタ首輪も腕輪もしてないじゃない)
リオンが自画自賛した心の声に速攻でアラを見つけツッコミをいれるツバサ。
暫く考えるリオンだったが、答えを導く前にリノアが小声で話し掛けてきて思考が一時中断される。
「ね、ねぇリオンどうするの?」
「いやどうって、アホかお前。皆殺しに決まってんだろうが!お前もイヴと同じ嫌々病か?」
「え!?嫌々病ってなに?イヴって病気だったの?」
「アイツは魔物しか殺せねえんだよ。たぶん人型の魔物も怪しいくらいだからな」
「そうなのね……。でもリオン、アナタ確かイヴに殺されそうになったんじゃなかったっけ?」
「……まあそれはそれ。それで?お前はどうなんだ?」
「何なのよそれ……。まあいいけどさぁ。私も勿論進んで人は殺めたくはないけれど、守人としては敵対されればソレも仕方ないと思ってるわね。命を奪おうとする者は逆に奪われる覚悟も持てって言うじゃない」
「へぇ〜。まあそう思うんなら気張れよ。先ずはここを出るか。リノア、声高々に俺に命令しろ」
「わかってるわよ、ってリオンに命令?意味分からないんだけど……」
「うるせえ、早くしろ!」
小声だったが次第に音量が上がってきた事で隣に居たエレオノーラや帝国騎士達にも聞こえた様で視線が集中し、その中の隊長が今も尚継続していた演説を中断しイラついた声音でリノアに悪態を吐く。
「おい、そこのお前!何を勝手に話している!だがそうだな、私もそこまで暇ではないのでな。そろそろお前等を本部まで連行するとしよう。ああそれと、そこの魔物はここで駆除していくからな」
後半の文言でエレオノーラがキレて襲い掛かろうとしていてリノアに止められていた。
リオンはそんな事も関係無いと言わんばかりに念話でリノアに詳細の指示を出した。
その指示に最初困惑し顔を顰めたリノアだったが刹那の思考の末、満面の笑みに変わりサムズアップした。
言いたくて堪らなくなったのかリノアが興奮気味に隊長にビシッと指を突き付けると声高々に反撃した。
「愚かな者共よ!お前達程度、私が手を出すまでもない!おい、コイツ等を血祭りに上げてしまいなさい!!」
「お、おいリノア、お、お前なに言って、」
「ガアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
突然始まったノリノリリノアの芝居がかった口調と仕草でリオンに命令を下した。
勿論それはリオンの指示だが、今までの鬱憤が混じったかの様なノリノリ具合に釈然としない思いを抱えながらも速攻気分を切り替え騎士団に突っ込んでいく。
そんな一部始終にエレオノーラは頭が追い付いていないのかフリーズしたまま目の前の光景を眺めていた。
墜落した階は阿鼻叫喚で満たされていて、空間全体に広がる白いキャンバスを彩る様に赤黒い鉄錆が爪痕と共に刻まれていく。
立体感を出す為に至る所に凹凸が付着する。
それは頭が千切れ飛び、腕が圧し折れ、捩じ切れ、人形の様に取り外され、自身の足が自身の頭や腹に突き刺さり、胴体は真っ二つや100の肉片に粉々に爆散したヒトだったモノで爪付された。
人単位で19体の素材を使用した段階で残す所隊長1人だけとなった。
最初の威勢は既に粉々に砕け散り、尻もちをつきながら全ての穴という穴から様々な粘度や状態の物体を垂れ流しながら震えていた。
リオンが目の前で隊長を色々な角度から覗き込み観察するが、当の本人は辛うじて意識はあるものの「ひひ、ひひ」と心が既に壊れていて会話は不可能な状態だった。
暫く観察して興味を無くしたリオンは徐に右前脚を上げるとそのまま隊長に振り下ろした。
試合終了のゴングの様に床の破壊音と肉袋の破裂音をもって戦闘が終了した。
子どもの様に遊び散らかしたリオンが満足そうにリノア達の方を向くと2人とも膝を折り昼飯を全て出していた。
そんな2人を冷めた目で見たリオンは首元に意識を向けるとその場が安全安心だと判断したのか、しがみ付きながら寝ているウピルがスヤスヤと寝息を立てていた。
呆れながらもリオンが換気のため四方を囲む壁の残り3つに穴を開けた。
血錆と汚物、臓物の臭いが満たされた場所に長時間居たいとも思わないリオンは吐き終わった2人を背に放ると建物から移動した。
数個隣の屋上に降り立ち、リノアとエレオノーラを降ろすと早々に別行動に移る。
「とりあえず念話は繋がる筈だからなんかあれば連絡しろ。まあ助けが来るとは限らねえけどな、クハハ」
「あぁ、うん、わかった……」
「しょ、承知、しました……」
「ハァ、軟弱者共が!」
罵倒を残しリオンはさっさと地面に飛び降りていった。
そんなリオンの態度にも返す元気は無く、2人で顔を見合わせると無言で休憩を選択し、パタリと横になった。
2人と別れたリオンは帝都の街中をキョロキョロ見回しながらノシノシと闊歩していた。
ーーーーーーパシパシーーーーーー
ーーーーーーグシャーーーーーーー
ここは青果店
ーーーーーーカチカチーーーーーー
ーーーーーーグシャーーーーーーー
ここは服飾店
ーーーーーーカンカンーーーーーー
ーーーーーーグシャーーーーーーー
ここは武具屋
ーーーーーーガンガンーーーーーー
ーーーーーーグシャーーーーーーー
ここは魔道具屋
ーーーーーーバガンーーーーーーー
ーーーーーーグシャーーーーーーー
「クハハ、これぞまさに軍事国家って感じなのか?どいつもこいつも出会い頭に攻撃してきやがる、ポケ○ントレーナー以上の殺意だな」
そんな他愛の無い事を独り言ちているリオンの通った跡地は潰れた肉袋がいくつも転がっていた。
道行く人々は恐怖はあるのか怯え震えながらも農具や武器を手に猿の様に喧しい声を上げながら攻撃してくる。
年齢もやっと二桁に到達したかと思う男児や女児、若い男女や中年男性女性、死にかけの老爺婆の特攻。
ティッシュ配りのティッシュを貰う感覚で殺しているので大した手間ではないものの、さすがにリオンも飽き始めていた時、気配察知に4人引っ掛かる。
「リオンさん?」
名前を呼ばれ、聞き覚えのある声の方へ視線を向けるとそこには魔法国家リンドブルムまで送り、護身程度に鍛えてやった白毛に紅瞳を持つ兎人族のクルス、栗毛で栗色の瞳を持つ猫人族のミーヤ、赤茶の毛に黒瞳を持つ犬人族のサバーカの商人4人組と金と黒の縞々毛皮に金瞳を持つ虎人族の冒険者コクウがこちらに向かって走ってきていた。
遊ぶ人数が減った事で少し残念だったリオンだが、これはまた面白くなると口角を上げた。
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