第26話 分離
リオンが自らの空間から目覚めるのと同時刻、とある初心者向けダンジョンに数匹の魔物も目を覚ました。
(ん〜〜………ふにゃ〜……ん〜?あれ〜?ここどこ〜?リオ〜ン?お腹減ったよ〜。んみゃ?りおん?あれ〜?)
オピスが瞬膜をパタパタと動かし背後を振り向きリオンを呼ぶが、普段あるべき場所にある後頭部、背中、ケツが見当たらないので寝惚け眼ながら混乱していた。
リオン、リオン、と呼びながら更に困惑していると視界に影が差したので鎌首を反らせながら目線を上げる。
(もう、やっと起きたのねオピス。何故かは知らないけれどリオンの気配は全く感じられないわね。死んだかもしれないし生きているかもしれないけれど、とりあえずルプの気配は感じるから先ずは彼女と合流しましょうか)
目の前には全身漆黒の毛皮、側頭部には捻れた角を2本生やした山羊顔の魔物が立っており、その双眼は左眼は白眼に黒の瞳孔、右眼は黒目に白の瞳孔のオッドアイをオピスに向けてバサバサと背中の漆黒の翼をはためかせていた。
(わぁ、ツバサちゃ〜ん!リオン死んじゃったの〜?アハハ、相変わらずバカなんだからも〜。ルプが知ったら暴走しそうだね〜、と言うか、キャハハ、もう暴走してそう〜。でも〜そんな事よりも、わたしお腹空きすぎて色んなところがくっついちゃいそうだよ〜。ツバサちゃんごはんごはーん)
銀蛇のオピスがシュルシュルと真紅の舌を出し入れしながらツバサの足元から一気に肩まで登るとご飯の催促をし始める。
(はぁ〜仕方がない子ねぇ、まあいいわ。とりあえずルプを迎えに行く途中にご飯があれば狩りましょう。私はリオンと違って収納魔法が使えないから勝手に食べて頂戴ね)
呆れた声音ながらも目は慈愛に満ちており、どうしても幼女2人には甘くなってしまうツバサだった。
オピスがそれを知ってるかは不明だが、はーい、と元気良くシャーシャー言いながら首回りにマフラーの様に絡み付く。
そうして道中雑談をしながら歩き、ゴブリンやコボルトといった小型の魔物が数多く出現したので片っ端から挽肉にしていき、その全てがオピスのお腹の中に収まった。
50匹くらい始末した頃、遠くの方で狼の様な遠吠えが聞こえた。
(あら、そろそろルプが居る場所に着くわね。……でも、これは……はぁ〜見事オピスのフラグ回収ってことね。以前リオンが言っていた通り、人化はある程度大罪の影響を受けるらしいのよね。不思議とオピスとルプばかり影響受けている気もするけれど……幼いからかしらね、ふふふ。ルプも今は恐らく人化も解けてると思うから徐々に落ち着くとは思うけど……。オピス、食後の運動といきましょうか。食べた分は働いてもらうわよ!)
(えぇ〜やだよ〜〜わたしまだ腹一分目もいってないのに〜。ルプの相手してたらまた腹ペコになっちゃうよ〜)
オピスからの抗議の声も歩を進めるツバサには通用せずそのまま連行される。
暫く歩くとドーム状の広間に到着する。
直径50m程で高さは15m程あるその空間の中心にルプはおり、天井に向かって慟哭していた。
そんな彼女にツバサ達は近寄り、見上げながら声を掛けた。
(ほらルプ、そろそろ泣き喚くのは止めなさい!リオンは死んでないから待ってればその内帰ってくるわよ)
ツバサ達が意識に入っていないのか血の海に死体が堆く重なった上に立つルプは叫び続ける。
(うそ……うそだよ!りおんが死んじゃった!全部、全部アイツが、アイツが全部ぜんぶゼンブ悪いんだ!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!わたしのだもん!りおんが笑うのも悲しむのも怒るのも死ぬのも生きるのも全部!全部!全部!わたしのモノなのに!酷い!酷い!酷い酷い酷い酷いぃぃぃ!わたしからりおんを奪ったアイツが憎い!憎い憎い憎い憎い!!!)
呪詛の様に叫び続け、その声に釣られて魔物がルプに群がるが全て本能的に細切れにされ臓物をぶち撒け、その臭気に新たな魔物が釣られて現れる。
(はぁ……あの子はもうダメかしら。一度殺せば元に戻るのかしら?そもそも殺しても復活するのかしら?オピスはどう思う?お別れの準備は大丈夫かしら?)
呆れ顔のツバサが意見を求めようと目線を首元に下げると既にオピスは居なくなっていた。
視線を目の前の死体の山にやると案の定顔面から突っ込んで魔物を貪る喜色満面の銀蛇が居た。
呆れを通り越しスンッと表情を消すと冷ややかな目線を2人に向ける。
動かないツバサと違って徐々にオピスはルプに向かって食べ進めている。
物凄い早さで迫り、ものの数分でルプまで辿り着くと自重する事無くオピスはルプにも噛み付いた。
リオンと違い状態異常無効を持ってないルプは反射的に風魔法で鎌鼬を両手に宿しオピスを切り裂き、吹き飛ばす。
吹っ飛んできたオピスをツバサがキャッチすると怒気が双方から伝わってくる。
(いったーい!なにするのー!わたしの食事タイムを邪魔するなんてぇぇ、ルプでも許さないんだから!もう怒った!おしおきしてやるんだから〜!ツバサちゃん、突っ込めー!)
(いたい!いたい!いたい!わたしの邪魔をするのは誰ッ⁉︎酷い!絶対許さない!みんなみんなみんなみんな、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ァァァァァァー!!!)
腕に巻き付きシャーシャーと威嚇するオピスとそれ等を四角い瞳孔を更に引き絞り冷ややかに見つめるツバサ、毒が回り少しフラつきながらも怒気を放つルプの三者が戦闘態勢に入る。
最初に動いたのはツバサ達だ。
一足飛びで10mはあった距離を一瞬で潰しツバサが自らの周囲に闇球を30発程出現させ、ルプを全方位から襲う。
これで終わりなら楽だなあとツバサが自嘲気味に考えているが、次の瞬間には思考虚しく闇球が全て切り裂かれる。
闇球の残滓の奥には両手両脚に風魔法を宿したルプが駆け出す準備を終えており、残像を残し今度はルプがツバサ達の背後を取り上段から前脚を振り下ろす。
ツバサが間に合わないなぁと諦め気味に思っていると、バキィィンと硬質な物体同士がぶつかる音が響きツバサが視線をずらすとオピスが土魔法で迎え撃っている。
器用に土壌中の金属元素だけを表面に凝縮して硬度を上げており、火花を散らしながらオピスとルプが見つめ合うがルプが即座に視線を外し後ろに飛び退る。
この3人の中で純粋な前衛戦闘職はルプだけで、他の2人はどちらかと言うと後衛の魔法職寄りな性能なので二対一とは言え近接戦では耐久面や攻撃面で不利なのはツバサ達だった。
どうにか拮抗しているのはルプの意識が混濁しており、正常な判断が出来ないからだろう。
幼い容姿や話し方で勘違いされ易いが元はリオンから分裂した人格である為、戦闘能力は皆一様に一定水準以上はあるのである。
そんな魔法職寄りのツバサやオピスの得意技は状態異常やデバフなどの純粋な魔法士というより呪術士寄りの性能に特化しているので、今の少ない時間の中でもツバサとオピスは数多くの状態異常をルプに付与していた。
その証拠に飛び退ったルプは立つ状態がやっとで既に戦闘継続は不可能な状態だった。
(うぅぅぅぅぅ、あれ、なんで〜?か、身体が、う、動かない〜。んんん、ん?あ、あれ?あれあれ?もしかして〜ツバサちゃんに、オピスちゃん?そんな、血塗れで、な、何やってるの?わたしを除け者にして遊んでたの〜?ずるい)
意識が膨大な状態異常に向き、少し冷静になったルプが漸く2人にも意識を向けた。
(ハァ、やっと落ち着いたわね。相手が私達で良かったわね。ロンだったらどっちかが確実に消滅していたわよ。やれやれ、それでオピス、どのくらい状態異常付けたの?あのルプが動けなくなるなんて相当よ?)
ほぼ全ての状態異常が効きにくいルプだが今はリオンにも起きた様にスキルレベルが軒並み落ちていたのでかなり掛かっていたのだが、それに気付く者はこの場には居なかった。
(ん〜?とりあえず毒と麻痺、呪いと身体能力弱化の魔法しか掛けてないよ〜。ご飯の恨みは怖いんだからね〜。今回は特別にこれくらいで許してあげるけど、次はもっとキツイお仕置きしちゃうからね〜)
恐らくニコニコと笑っているだろう蛇顔スマイルでツバサの首に巻き付くオピスを撫でながらルプに近付いていく。
(もう、今後こんな面倒臭い事は止めてよね。とりあえずもう少しその状態で反省しなさいな。話はそれからね、今は疲れたから少し休みましょう)
(えぇ……酷いよツバサちゃ〜ん……。うぅぅぅ、なにこれぇぇ、動けないし何か身体中が痛いよ〜……。何がどうなってるの〜?)
まだ軽く混乱しているので仕方無く座りながらツバサが今までの経緯を話す事にした。
その際にリオンはまだ生きている事を伝えたが、全然信用しない金狼を根気強く嘘を交えながら伝え50回程の説得で漸く納得、しかし渋々といった感じで引き下がった。
戦闘より説得に体力と精神を消耗しグッタリするツバサ、最初は座って説明していたが終盤は横になっていた。
そんな彼女を他所にオピスは手足が無いにも関わらず風魔法を駆使してフライングスネークと化してシュールな獲物狩りを敢行していた。
(ここのご飯、不味い〜)
たっぷり数時間食べ放題をして戻ってきた第一声がこれである。
イラッとしたがツバサは反応するのも億劫という態度で無反応を決め込んだ。
時間経過でだいぶ状態異常が緩和されたのか、走り回れるくらい回復したルプが口を開いた。
(ねえねえ、ちなみに〜、ここってどこなの〜?どっかの洞窟?もしかしてダンジョンってところ〜?オピスちゃんとツバサちゃんは何か知ってるの〜?)
ルプはオピスを見るが鎌首をふるふる左右に振り、不味いと言いながらも再び獲物狩りに出掛けて行った。
視線をツバサに移すと、仕方ないといった態度で語り出す。
(私も詳細は分からないけれど、恐らくここはダンジョンで間違いないわね。出現する魔物から推察するに初心者向けのダンジョンだと思うわ。現在地に関しては、あれから移動していないのだとしたら王都にある3つある初心者向けダンジョンの中の1つね。何故ここに居るのかは私にも分からないけれど、あの時最後にリオンが私達を切り離したのは確かね。それにさっきも説明した通り、リオンが死んでない理由の1つに私の中にロンとテースタ、ブロブが封印されている事ね。だからルプ、もう面倒臭い事は勘弁してほしいわね)
辟易しながらもルプに説明を行い、ついでに今後の方針なども話し合う事にしたが、オピスは言うに及ばずルプもツバサにぶん投げたので再び溜息を溢し考え始める。
(とりあえず確認するけれど、何故か人化も出来ないし身体能力が著しく低下している気がするのは私だけかしら?)
(そうなの〜?ん〜?むむぅ〜………わぁ〜、わたしもできないや〜。何でかなぁ?リオンと離れちゃったからかなぁ?)
(やっぱ私だけじゃなかったのね……。まあその可能性もあるけれど、私の推測だと恐らくあの神の仕業だと思うのよねぇ。でも、今の所確証は無いから考えても仕方ないわね。まあ丁度ダンジョンなのだから暫くここで能力やら色々確認しておいても損は無いわね。状況を見て外に出ても良いと思うわ)
今後の方針も決まったタイミングで一際明るい声がかかる。
(ねえねえ見て見て〜〜おもちゃ捕まえたよ〜)
ツバサ達が振り向くとオピスに巻き付かれ恐怖に顔を歪ませた男と女2人組の冒険者が居た。
2人は冒険者と言える格好をしているが、初心者向けダンジョンだけあって装備はレザー系の見た目初期装備感が漂っていた。
(……話せれば詳細が分かったかもしれないけれど、上手くいかないのよね、残念だわ。はぁ、それでオピスが食べずに連れてくるなんてどうしたのかしら?何か気になる事でもあるの?)
ツバサが視線を向けると、「ひぃっ!」と2人の冒険者が強張り絶望を色濃く宿した瞳でキョロキョロと周囲に助けを求める様に彷徨わせる。
(ん〜?別に〜。たださっきまでこの人達と遊んでて〜わたしひとりだけ楽しむのは勿体ないから〜ツバサとルプにもお裾分けしにきたんだよ〜)
シャーシャーと顔を左右にユラユラ揺らしながら呑気にそんな事を宣う銀蛇。
そんなオピスと冒険者達を交互に見ながら思考を巡らせるツバサにルプが、(どうしたの?)と声を掛ける。
(いえ……流石に初心者向けダンジョンで死者が増加したら怪しまれるかしら……。私が魅了すれば何とでもなるのかしら……いや、それは面倒ね。はぁ……オピスもルプも冒険者で遊ぶのは程々にしなさいね)
そう言うとツバサは冒険者2人に魅了の魔眼で記憶操作をしてスタスタと歩いて行ってしまい、既に冒険者達に興味を失ったオピスはルプの身体に巻き付くと、(しゅっぱーつ)、と元気良く号令を掛けた。
3人が去った後には呆然と虚空を見つめる冒険者が残された。
その後は各々の能力の確認や鍛錬など、元は同じだけあってリオンとほぼ同様の行動をするようになる。
違う点と言えば、集中力が無く直ぐにご飯と連呼して飛び出していくオピスや偶に遭遇する好みの冒険者を素早く攫い誘惑して満足したら記憶操作して放逐を繰り返すツバサ、常にリオン成分がゼロで定期的に禁断症状を発症し周囲を巻き込む暴走っぷりを発揮し、2人に鎮静化させられるルプ。
そんな意外と充実した日常ではあるものの、ずっとダンジョンに篭り切りでは必然的に外の空気が吸いたくなるもので、金銀狼蛇の飽きっぷりが加速する。
更に最近オピスとルプが新種の魔物だと噂され、冒険者の接触頻度が上がってきたのも理由の1つである。
鏖殺でもよかったが万が一の事態を警戒したツバサにより却下され、金銀狼蛇は渋々引き下がった。
これ以上の我慢は無理だと判断したツバサは早々にダンジョンの入り口付近に移動し、夜になったのを確認すると3人は隠蔽を施し堂々と正面からダンジョンを後にする。
(いや〜久しぶりの外はいいもんだよね〜。これがシャバの空気ってやつ〜?キャハハハ)
(なんかずーっと昔に檻の中に居た気がするけど〜思い出せないなぁ。シャバのくうきはうめえぜ〜キャハハハ)
(さぁて、おバカな事言ってないでこれからどうしようかしら……。結局私含めて人化も話す事も出来なかったけれど、これからどうするか、あなた達は何か希望はあるかしら?)
頬に片手を当て首を傾げる山羊頭のツバサに先行していた金銀狼蛇が振り返りハモる。
((街に行きた〜い!))
そんな言葉を発するのと同じタイミングでオピスを乗せたルプは既に駆け出しており、ツバサが止める間も無く遠ざかって行くが直ぐに、((ぶぎゃッ!))と女の子が出しちゃいけない声が満天の星空に響き渡った。
ツバサが首を傾げ何事かと近寄れば、ひっくり返った2人が目を回していた。
(ハァ、何してるのあなた達……。それは新しい遊びなのかしら?おバカな事やってないでとっとと行くわよ)
呆れ顔のツバサに、バッと起き上がり2人がわーわーと抗議する。
(いったーい!鼻が潰れるかと思った〜……というかつーぶーれーたー!!うぅぅ〜……こんな面白くないことが遊びなわけないでしょ〜もう!)
(そうだそうだ〜!というかここに見えない壁があるのがいけないんだよ〜。もう!こんな壁ぶっこわしてやるー!)
オピスが土魔法でロックランスを作り風魔法で速度を底上げして射出すると壁があったであろう場所を通過し斜線上にある小屋を粉砕した。
(ん〜?あれ〜?壁はどこ〜?消えちゃった〜、なんでぇ〜?)
オピスが不思議そうに首をふらふら揺らすと、ツバサが手を突き出しながら進む。
するとある地点で見えない壁に阻まれる。
その場所は先程オピスが放った魔法の通過点だった所だ。
更に詳しく壁を調べるツバサ。
適当に四方八方に魔法を撃ったり、殴ってみたりと色々試していく。
そして1つ推測を口に出す。
(これは、魔法が素通りという事は生物……いえ、周囲に特に怪しい気配は無いから私達にだけ作用する壁かしらね……と言うかこれって人化した際の行動限界範囲の境界線と同じ感じがするわね……)
それから少し周囲を調査すると、先程出てきたダンジョンを中心に縦横直径300mくらいの球体範囲で展開されていた。
(ねぇルプ、オピス……リオンの気配は感じるかしら?)
確認の為、2人に視線を向けるが左右に首を振る。
(そう……。恐らくこの壁は私達では壊せないわ。それと移動出来ないならこのまま何も無いここに居ても暇だし、何より人間にちょっかい出されても面倒臭いから今度はさっきとは別のダンジョンに入りましょうか)
(むぅぅ、そろそろ美味しいご飯が食べたいなぁ〜。リオンいつ帰ってくるんだろ〜)
(リオンまだ帰ってこないの〜。そろそろ帰ってこないかなぁ)
肯定とも否定とも取れない返答を無視してツバサは無言で歩き始めた。
此度入ったダンジョンも前回と同程度のダンジョン難易度だったので物足りなさを各々感じつつも鍛錬をする日々が何日か続いたが、その日は少し朝から様子が違った。
異変にいち早く気付いたのは当然と言うべきかなんと言うか、やはりルプだった。
(あぁ!!リオンだぁ!リオン!リオンの気配!生きてた!やっぱり生きてたァァァ!!キャハハハハー!)
尻尾をブンブン振りながら1人で疾走していくのを後ろから呆れ顔の2人が追い掛ける。
既に姿が見えないので気配を辿りながらルプを追っていると行き止まりの広い空間に到着する。
その場の中央にはお座りをして尻尾をブンブン揺らし虚空を見つめるルプが居た。
ここのダンジョンを構成する物質は土であり、全体的にゴツゴツとした造りになっているが今居る空間だけは、否、この時だけは変質していた。
部屋全体を赤黒い粘体でコーティングされ、鈍く光りながら脈動しており、ルプが見つめる先には巨大な闇が広がっていた。
リオンの気配もそこから漏れており、中にいるのは確実だがツバサ達でさえ、手が出せず右往左往している。
一度我慢出来ずにルプが前脚で闇に触れた瞬間、消し飛んだので全員大人しく観察していた。
そんな状況が暫く続く中、空中の闇を更に観察していると、徐々に亀裂が走っていきそれと同時にドス黒い液体が滴ってきた。
真下に居たルプは液体が触れる寸前に全力で後退すると、地面に落ちた液体がジュージューと音を立て煙を上げる。
(炭酸?コーラかなぁ?)
(バカなのかしら?)
逆に興味を引かれ飛び出そうとしたオピスを冷静に捕獲するツバサ。
ウナギの掴み取りの様な姿で必死に繋ぎ止めるツバサにオピスはシャーシャー鳴きながら抵抗する。
そんなやり取りをしながら待っていると全面に亀裂が走り、遂にはパキンと音を立て瓦解し始めた。
ドス黒い液体の量が増え地面からの白煙が視界を閉ざすと、一際デカイ塊が地面に落下してきた。
巨大な塊が落ちた衝撃で白煙が吹き飛び全体像が見えてきた。
それは全身を漆黒の毛皮に身を包み、リヒテンベルク図形……分岐放電が赤黒く走った巨大な黒獅子であった。
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