第27話 ダンジョンボス
ここは初心者向けダンジョンのとある広場。
そこは円形のドーム状で普段は土気色の味気無い場所である。
しかし現在は普段の装いとは打って変わり赤黒い粘液で覆われた異質な空間となっていた。
そんな場所の天井部分から次第に罅が入り瓦解が始まり、空間全体に広がっていった。
そして遂には限界に達し罅割れが砕け散り、漆黒の獅子を産み落とした。
(クハハハハハ!やっと出られたぞ!あのクソ神が、面白い事してくれやがって。この礼は次会った時にたっぷり返さねえとなぁ。さて……ん?何だここ、俺の魔法の二層目か?俺も知らねえ機能があったとは……ん?ごふぁッ!!!)
自らの亜空間から脱出して周囲を見渡したリオンが脈動する気持ち悪い赤黒い壁面を訝し気に観察していると突如脇腹に衝撃が走り壁際まで錐揉み回転しながら吹っ飛ばされる。
リオンはそのまま頭から壁にめり込み、次いで懐かしい声が耳に届く。
(うわーん、リオンだー!遅いよバカー!勝手に居なくなっちゃダメなんだからねー!聞いてる⁉︎ねえねえねえ!なんでそんな所で遊んでるの?わたしもリオンと遊ぶー!)
仰向けで頭を壁に埋めたリオンの上にルプが乗りバシバシと叩き、強打撃による衝撃で地面にヒビが入り陥没していく。
その間、グフグフ、と苦悶の声が壁から聞こえ続けていたが当事者のルプにはその声は伝わらず繰り返し打撃を放つ。
永遠に続くかと思われた攻撃も壁が突如爆発し、怒号が周囲に撒き散らされた事により終焉を迎える。
(いい加減やめろボケェェェェェ!!!何本折れば気が済むんだコラァァァァァァ!!!)
胸骨や肋骨をバキボキ粉砕されながらその都度自己再生を繰り返し、折れる事が無くなった頃壁諸共ルプを吹っ飛ばした。
(あらあら、真っ二つになった割に随分元気そうじゃないリオン。貴女が居ないからルプが大変だったんだからね、今より何倍もねぇ)
(リオン、久しぶり〜。お腹空いたから早速ご飯作ってよ〜。やっぱり生肉より調理されたお肉の方が美味しいんだよね〜)
近くには居たが亜空間越しだったので、リオンとしては漸く欠けていた自分の部位が戻ってきた感覚になったがそれを伝えると調子に乗るのは明らかなので、とりあえずオピスの為に大人しくご飯を作る事にした。
(じゃあ飯にするか……ただ、収納魔法が上手く使えねえから材料はオピス、自分で狩ってこい)
(えぇ〜〜しょうがないなぁ。ほらルプ〜いつまでもそんな所で遊んでないでご飯取りに行くよ〜)
リオンによる衝撃で壁に突っ込んでいたルプを引っ張り出して強引に引き摺っていく銀蛇と、イヤイヤ、と言い必死に抵抗しながらもズルズル連れ去られていく金狼を見送る。
2人の気配が遠ざかったのを確認しながらツバサに視線を向ける。
(そういや、お前等はあのクソ神の影響受けたのか?あの時咄嗟に切り離したと思ったんだがなあ)
どうやってやったのか全然覚えてないけどな嘯く。
(私達は貴方と違って鑑定が使えないから詳細は分からないけれど、身体能力と魔法スキルは大分下がったわ。自身のレベルまでは分からないわね)
(……そうか。それなら俺が受けた影響と然程変わらねえかもな。んー……魔法スキルかあ、つまり今お前等がその姿って事は人化も使えねえのか?)
(えぇ、使えないわ。とりあえず貴方が居ない期間に起きた出来事を伝えるわね)
暫しリオンとツバサで擦り合わせをしていると、遠くから喧騒が聞こえ徐々に接近してくるのを察知し、彼女達が合流した頃には情報共有は終わっていた。
その後は2人が狩ってきた恐らくゴブリンやコボルトなどのミンチ肉を丁度良いと、半々の合い挽き肉にしてハンバーグを作ってあげるとオピスとルプが久しぶりの料理に感動し滂沱の涙を流しながらハグハグと一心不乱に貪っていた。
その姿に若干弾きながら保護者役であるツバサに目を向ける。
(……おい、ツバサさんよ。歳は変わらねえが見た目年上なんだから料理くらいしてやれよ。なんだコイツ等のこの状況……控え目に言って、引くわ〜)
(えぇ〜嫌よ面倒臭い。あら、美味しいわねこのハンバーグ。クズモンスターでもここまでの味にするなんて流石はリオンね、お店でも開いたら繁盛するんじゃないかしら、ふふ)
聞く耳を持たないツバサに嘆息しながらも、頭の片隅で露店でキマイラがハンバーグを焼くシュールな光景を思い浮かべながらリオンは今後の方針を、ツバサに聞いた話を考慮しながら思考を巡らせていた。
そして1つの結論に達した。
(決めたぞお前等!クフ、クフフ、クハハハハハ、今後の面白くて楽しい楽しい冒険の始まりだァァァ!!!)
伏せの状態からバッと立ち上がり、ガアアァァァ、と吠えながら方針を語るが反応は三者三様だ。
(またリオンがバカな事考えてるよ〜〜。まあ、わたしは美味しいご飯が食べられるならおバカなリオンに付き合うし〜何でもいいよ〜。あっ、次はすき焼きが良いかなぁ〜)
(キャハハハハ、さすがリオン〜。またいっぱい殺すの〜?楽しみだよ〜)
(私は子守で疲れたから暫く貴方の中で休ませてもらうわねぇ。早く獣人の全て、筋肉増し増し最新号読みたいのよねぇ、うふふ)
銀蛇がハンバーグをパクパクしながらシャーシャー。
金狼が目を爛々と輝かせアオオォォォォォォォン。
悪魔が溜息を吐きながらも熱い吐息をグゥゥゥゥ。
そんな様子が目にも耳にも入ってない黒獅子が高々とグルルルガアアァァァァといつまでとダンジョン内に木霊した。
結局各々好きな事を好きなだけ溢す自由な連中なのは元は1人から派生した存在なので誰も気にしないのであった。
その日、そろそろ中級者の昇級試験が受けられるくらいには依頼をこなした4人組の冒険者が初級者向けダンジョンの最下層最奥のボス部屋を目指して進み、あと数時間程で辿り着くという距離まで近付いた所でボス前最後の休憩として焚き火を囲み警戒しながらも身体を休ませていた。
警戒はしているものの休憩という事で少し気が緩んでいたのかチームの1人、魔法職らしいローブを羽織り杖を持った男が口を開いた。
「なあ、今日のダンジョン、様子がちょっとおかしくないか?」
他の3人に話を振ると皆その違和感を感じ取っていたが、具体的な事を言わない魔法職の男に片手剣とカイトシールドを両脇に置いた剣士が問う。
「おかしい、というのは具体的にはなんだムハラバ」
魔法士、ムハラバは問われた内容に顎に手を当て暫し考えてから口を開く。
「いや、感覚的というか何というか、上手くは言えないが嫌な予感がするんだ、すまない。カシムは何も感じないか?」
要領を得ないまま、そのまま同じく剣士、カシムに疑問を飛ばすと直ぐ様同意という感じに頷く。
「すまん、意地が悪かったな。だが、そうだな。ムハラバの言う通り、言葉に出来ない、いや、最早勘としか言えないがうなじがひりつく感覚が俺にもある。ボールスとサリアはどうだ?」
話しを振られた大楯と大槌を壁に預けている盾職のボールス、聖職者の様な純白のローブを羽織りロッドを持った回復職のサリアの2人も同様に頷き。
「確かにここから先から嫌な気配は感じる、が、それはボス部屋を確認してから撤退しても問題は無いんじゃねえか?ボスはボス部屋から出られねえんだしよ」
「そうですね、確かにボールスさんの言う通りですが、私も嫌な予感がします。特殊個体か変異個体が居るんでしょうか……」
リーダーである剣士のカシムは全員の意見を鑑み、結局ボールスの意見を採用したのである。
何故その方針になったかと言うと彼等がいるダンジョンは王国内において存在する迷宮の内、3つある初心者用ダンジョンの内の1つなのだ。
過去に特殊個体や変異個体が確認された事もあるが、そこまでの脅威とはされずシルバー級冒険者でも簡単に討伐出来る程度であり、自分達もシルバー級くらいの実力があると思っていたことと、ボールスが言った様に何故かボスはボス部屋から出られないので危なくなったら撤退すればいいと楽観的に考えてしまったのが彼等の明暗を分けた。
その後雑談に花を咲かせながらリフレッシュをする事数十分、カシムが号令を掛け最後の休憩を終える。
ボス部屋までの道中魔物に出会う事なく暫く進むと徐々に、だが確実に異変は色濃く冒険者達の周囲を侵し、歩みを停滞させる。
「……ここまで魔物が1匹も居ないのは何でだ?」
カシムが警戒しながら呟くが、答えは誰からも返ってくる事は無かったが思う所は皆同じだった。
その後も魔物に会う事無く重厚な扉、ボス部屋の前まで到着してしまった。
「ムハラバ、このダンジョンのボスはオークで間違いないな?」
過去何度もこのダンジョンのボスを倒してるカシムだが、再度ムハラバに確認する。
「えぇ、頻度で言えばオークが一番多いですね。外れはホブゴブリン数匹かコボルトの上位種が数匹ですね」
カシムの問いに補足し、少し詳細に返答するムハラバに感謝の意味を込め笑みを浮かべ頷くカシム。
「まあどうなろうが、とりあえず開けてみりゃ解るだろうよ」
ガハハと緊張を吹き飛ばす様に殊更明るく振る舞う盾職のボールスに皆一様に微苦笑を浮かべ、直ぐに顔を引き締め覚悟を決める。
「よし!じゃあ、開けるよ」
カシムのその言葉を合図に扉を軽く押すと、ゴゴゴと自動的に開け放たれる。
中はかなり広々としたドーム状の部屋で直径100m程ありそうだ。
その中央に人型の影が見える。
「オーク、か……見た目ただのオークに見えるな。ムハラバ、頼む」
目視でオークと確認出来たが、それだけで安心する程彼等は初心者冒険者では無く、嫌な予感がしながらもここまで来る決断が出来たのもムハラバの能力があってこそであり、カシムは最終確認の為彼にお願いをした。
「了解。……鑑定」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オーク[変異種]
[Lv.1]
[棍術Lv.2]
[怪力Lv.2]
[自己再生Lv.1]
[咆哮Lv.2]
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数十秒程で確認を終えたムハラバが軽く息を吐き出した。
「……ふぅ、変異個体ではあるけど、発生したばかりなのかレベルは1だし対処は僕達でも問題無いよ。珍しく自己再生スキルを持ってるからしぶとそうではあるけどね」
その言葉を聞き、緊張気味だった面々に安堵の空気が流れたが、そこにカシムの喝が入り程良い緊張感が加わりメンバー全員の空気が引き締まった。
「それじゃ、行こうか。いくら低レベルでも何が起こるか分からない。注意して行こう」
「「おう」」「はい」
気合い充分といった雰囲気で部屋に突入した冒険者達だったが、その雰囲気は入って直ぐ後方からの轟音によって霧散する。
「ッッッ⁉︎な、何だこれッ⁉︎ひ、光の壁……だと?どうしてこんなものが、いきなり?」
突然の出来事で混乱している面々に次は前方から、「ガアアァァァァァ」、という爆音に全員がビクリと身体を震わせ前を向く。
数秒経って先程の爆音が咆哮だったと気付くが、それ以上に衝撃的な光景が眼前に広がっていた。
「お、おい、ムハラバ、アレは、なんだ?アイツはオークじゃなかったのか?あれは……と、溶けてる……のか?」
カシムの言った通り目の前のオークの変異種は表面が黒ずみ、グズグズと爛れた様に溶け始める。
唯一の女性であるサリアはソレを見て、「ヒッ」と小さく悲鳴を上げる。
完全に溶けたのは表面だけで、残ったのはオークの輪郭をした闇だけだった。
「な、なんだあれは……闇??ッッッ⁉︎動き出した⁉︎」
警戒心を高め闇を睨みつけていると徐々に闇が膨張をし始め形もオークから四足獣の姿になり、徐々に闇が晴れていくが中から現れた四足獣の毛皮は先程の闇と同様、否その闇を更に煮詰めたかの如き漆黒であった。
その禍々しい漆黒は注視し過ぎると精神まで汚染されそうになる程の深淵だったが、尻尾の位置にある物体を注視するとそれは、正反対の輝く銀色の鱗を持った真紅の瞳を持つ蛇であった。
漆黒の獅子の顔の横にはまた場違いな程の金色に輝く狼がボコボコと形作られ、爛々と輝く碧眼をカシム達に獲物を見る目を向けていた。
「あ、あれは、魔物、なのか?あんな魔物見た事ないぞ⁉︎ムハラバ、確認を頼む!大至急だ!!!」
ムハラバも事態の異常性に気付き無言で頷き、鑑定をする。
しかし、映し出された内容に目を見開き愕然とする。
「なッ⁉︎嘘だ……こ、こんな事は、あ、ありえない……」
冷や汗を流しガクガクと震えるムハラバに僅かに視線を向けたカシム達が心配そうに様子を伺う。
「ムハラバ、一体何を見た⁉︎アイツは何なんだ!!!」
ボールスが少しの苛立ちを混ぜながら吠えるとムハラバは力無く左右に首を振る。
「……僕の鑑定では、先程と同じくオークとしか出ませんでした……。偽装か妨害かは分かりませんが、あの姿の魔物は書物でも見た記憶はありません。アイツは危険過ぎます!どうにかして撤退する手段を探しましょう!」
「分かった、と言いたい所だが後ろの扉には障壁が張ってあるが解除出来そうか?もしくはぶち破れそうか?」
目線は魔物に固定しながらムハラバとサリアに問うと悲壮感漂う雰囲気が伝わってくる。
答えを聞くまでも無くムハラバも周囲の状況を思い出したのか焦燥感も足される。
「ガハハ、もうここまで来たらやるしかねえだろうよ。イレギュラーではあるが、あくまで初心者向けダンジョンのイレギュラーだ。俺等なら何とかなるだろうよ!」
不意に無駄に明るく話し始めるボールス。
撤退がほぼ不可能で目の前の敵を倒す事だけが生き残る唯一の手段だと鼓舞するが、あまりにも下手な鼓舞に残りのメンバーは目を丸くするがすぐに笑みを浮かべる。
「ハ、ハハハ、確かにボールスの言う通りだ。アイツを倒して正面から堂々と帰ろうぜ。今日は俺の奢りで飲み倒そうか」
「そ、そうですね。僕とした事が少し弱気になっていた様です。明日の二日酔いくらいなら許しましょう……では皆さん、いつも通りにやりましょう」
おう、と全員喝を入れると各々武器を構え戦闘を開始する。
先陣を切り走り出すカシムとボールス。
彼我の距離は50m程、黒獅子もグルルルルと唸りながらノソノソ歩いて近づいて来ており攻撃範囲までは数十秒も掛からない。
先ずは大楯を構えたボールスが黒獅子の前に立つと徐に右前脚をボールスの大楯に叩きつけた。
「ぐぅ!!!クソが、なんて重さと速さだ……だが、耐えられねえ程じゃねえな。おい、テメェも余所見してると怪我するぜ?」
顔から大量の冷や汗を流しながら悪態を吐くと、大楯の陰からカシムが右前脚に片手剣を振り下ろすが、これをあっさり回避され黒獅子が脚を引こうとするが、「逃がすか!」と地に着いている左前脚を斬りつける。
黒獅子がさっと脚を引くが間に合わず爪が切り裂かれる。
その際、周囲に不自然な風がゴォォォと吹き荒れカシムとボールスは咄嗟に後退する。
「図体がデケェから力はバカみてえに強えが、そこまでの脅威じゃねえな」
「そうだね、まだ産まれてからそれ程時間は経ってないのかもね。刃も通るからこれなら十分戦えるね。ムハラバ、タイミングは任せるからデカイの頼む。サリアは支援を頼むよ。みんな、ここからだ!行くぞ!!」
希望が見えたからか全員のやる気が上がるが、その様子を遠目に観察していた黒獅子の口角が少し釣り上がった事に気付く者は居なかった。
あれからどれくらい時間が経っただろうか。
1時間くらいか?いや、もしかすると数分しか経ってないのかもしれない。
そんな風に思ってしまうのは、ある意味仕方の無い事なのかもしれない。
その異変に気付いたのは幾度目かの刃を黒獅子に突き立てた時の事だ。
しかし気付いた時には全てが手遅れの状態まで追い込まれていた。
キィィィィィィンと鋼が打ち合う甲高い音が部屋に響き渡る。
「えっ?」と間の抜けた声が自分からか将又、仲間から出たのかは分からないがその言葉を最後に意識が途切れる。
自分の意識は無い筈なのに何故か周囲の喧騒は感じ取る事が出来た。
徐々に意識が黒い靄に支配されていく。
そんな思考も終わりを迎える頃漸く周囲の喧騒が何を言っているのか気付いた。
そう、あれは、自分の名前だ。
それを最後に彼、カシムの意識は埋没した。
「カシムゥゥゥゥ!!」
ボールスの慟哭を合図に蹂躙という名の後処理が開始された。
サリアの支援魔法でボールスの魔法防御、物理防御が強化されると彼は黒獅子の前に立ち塞がり大槌を叩き付ける。
鈍い音が鳴り不敵な笑みを浮かべるボールスは次の瞬間には驚愕に目を見開く。
黒獅子は微動だにせず、ボールスの大槌が粉々に砕かれていた。
「ッ⁉︎クソ、がぁ!!」
ボールスの叫びに一瞬ピクリと止まる黒獅子が右脚を振り下ろす直前、顔面に火の槍が直撃する。
ボールスのタンクとして時間を稼ぎ、ムハラバが魔法詠唱して攻撃というチームプレイを見せた。
「ハァハァ、どうだバケモーーー」
土煙と火煙が視界を不明瞭に広がりボールスが叫ぼうとするがズシィィィンと突如地響きが起こった。
暫くすると視界が開けてくる。
そしてその場の惨状にムハラバとサリアは戦慄した。
先程ボールスが居た場所には漆黒の毛皮に覆われた巨大な右脚が地面にめりこんでいた。
「こ、このバケモノがぁぁぁ!!第一階梯ファイアショット第一階梯ファイアショット第一階梯ファイアショット第一階梯ファイアショットォォォォ!!!」
錯乱状態に陥り連弾が可能な第一階梯魔法を魔力切れするまで叫び続けるムハラバにサリアも支援魔法を掛けていくが不意に黒獅子の周囲に漆黒のオーラが纏ったと幻視した瞬間ムハラバとサリアの意識が途切れる。
先程までの魔法が弾ける音も無くなり、元凶の2人は歪なオブジェの様に身体中から闇槍生やしながら絶命していた。
そして最後には獣の咆哮が周囲を震わせる。
目の前に転がる何分割かされた肉片を前に愉快に笑う黒獅子、リオンが独り言ちる。
(クハハハハ、弱過ぎなのがマイナスだが総合的にはプラスになるくらい面白かったな)
独り言に反応しニュッと背中から出て来たツバサが呆れながら話し掛ける。
(はぁ〜これが貴方がやりたかった事なの?)
(そうだ!ダンジョン最下層最奥で待つボスの俺!そしてそれに挑むは数々のダンジョンを踏破する冒険者達!今回のコンセプトは退路が塞がれ強大な敵が出現、しかし自分達の実力でも力を合わせれば勝てる!だな。実際にバカみたいに向かってきてくれたから大成功だ、まあコイツ等に障壁は壊せねえけどな。それに後衛の魔法士が鑑定持ちだったのが良かったのかもな。強奪出来れば良かったがまあいいだろ。しかし……ゲームのボスキャラだったら2段階、3段階と変身するものか……ふむ、その点を鑑みると最初はオークで戦えば良かったな、クハハハ!)
(はぁ……もういいわ。それで、その遊びはいつまで続けるのかしら?)
(ん?そうだな……やっぱ魔物より人族の方がスキルが豊富だから暫くここでダンジョンボスやるかな。あのクソ神の所為でスキルだだ下がりだからな。本体のレベルは変わってねえけどな。ただここ初心者向けダンジョンだからその内中級か上級ダンジョンでボスやりてえな)
クハハハと笑っていると横から首元にガブガブされる。
(ねえ〜リオン、さっきの戦いでさ〜最初に自分の爪を相手に視認出来ない速度で切り落として勘違いさせたのは分かるんだけど〜段々硬くなったのは何かのスキル〜?)
(おっ?そこに気付くとは素晴らしい。その通り、相手が、おっ?切れる!俺達はやれるぞ!とか言ってバカみたいにはしゃぐ様は滑稽だったな、俺が言語を理解出来るとも思ってねえだろうからバカみてえに大声で作戦会議してっからよ、笑いを堪えるのに必死だったな。あぁ〜そんで徐々に硬化してったのはスキルじゃなくて称号が原因だろうなあ。鑑定出来ねえから詳細は分からねえが、恐らく何かしらのダメージを負うとそのダメージに対して徐々に耐性が付くっぽいな)
(そうなんだ〜凄いね〜)
理解出来ていないのか首を傾げながらもカラカラと笑うルプを器用に前脚で撫でていると今度はケツをガジガジされる。
(ねえねえ〜お腹空いたよ〜。4人くらいじゃ全然足りないよ〜。しかもリオンがバラバラにするから食べ辛かったし〜。ちゃんとわたしの事を考えてやってくれないと困るよ〜)
(俺が居なかった時みたいに別れる事が出来るんなら狩りにでも行ってこい。暫くはこのダンジョンでボスごっこするからよ)
(やれやれ、リオンはお子ちゃまなんだから〜。もう仕方ないなぁ。えい!えい!んんん〜〜〜……あれ〜?んー!!はぁ〜なんか無理っぽいなぁ)
グイグイと物理的に千切れるくらい引っ張るが分離する気配が無い。
(やっぱ人化しねえと無理なのかもな。まあ人化している時も厳密には別れてる訳じゃねえからなぁ。出来ねえもんは仕方ねえ、狩りに付き合ってやるよ。人族発見したらここでまたボスごっこするからな!)
リオンのこの言葉に嬉しそうにシャーシャー鳴くオピスと狩りに出かけ大量の獲物を確保する。
その後も数日引き篭もり数多の冒険者達を葬る事になるのだが、その事態に対応する為にお偉いさんが重い腰を上げるのはもう少し先の話である。
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