第12話 妖術師ローラの正体

「ア、アレー様の年齢は・・・・・・12歳・・・ですわ」ガクッ


 じゅうぅぅぅにぃぃぃぃいいいいいいいいいいい!?!?!?


 いやナイナイナイナイ、それは無い。

 12歳といったら小六か中一だろ。

 その時の俺の身長は155ぐらいだったからな。そして何よりも、


 チン毛が生えてなかった!


 今の俺の股間はチョロチョロと生え揃ってるんだから12の訳がないんだ。

 しかし、エマさんほどの人が失敗するだろうか?

 きっと何か理由があるはずだ・・・


「年の差10歳ですってー!? オーホッホッホ、オーホッホッホ」


 俺の思考はヴィーの嘲笑によって遮られた。

 この小悪魔め、10歳差の何がおかしい!

 少なくとも俺はへっちゃらだし何とも思っちゃいない。

 こんなのは当人同士の気持ちの問題だろ。

 そして俺たちの気持ちはもう通じ合った。将来を誓い合った。

 故に、問題など一つもないのだ!


「エマ、10歳も年下の新成人と結婚なんてアンタ社会的に終わったわね!」


 えっ!?

 この世界の文化ではそういうことになっちゃうの?

 いや、性悪しょうわるヴィーの言うことなんか信用できねぇ。

 エマさん、何か言ってください! 大丈夫ですよって笑ってください!

 祈るような気持ちで隣に座る彼女の方へ体を向けると・・・えええええ


 エマさんが、真っ白な灰になられてらっしゃる。


 両目を閉じた穏やかな顔はなぜか満足気だ。

 バトルメイスをまるで俺の体だと思ってるかのように抱きしめて動かない。

 もしかして、妄想の世界へ飛躍し現実逃避されてらっしゃるのでは。

 それほど俺の年が12歳だったことが、とてつもない衝撃だったというのか。

 つまり、ヴィーの言ってることは正しいのか・・・


「早速、恋人たちに最初の試練が訪れましたネ。ドキワクが止まらないのデス」


 むむ、ローラもこの件を逆境だと理解してるのか。

 やっぱりこの年の差婚ってヤバイっぽいな。

 一応常識人枠のレイラちゃんはどう考えてるんだろう?


「昔読んだ絵物語みたい! はぁ、私もドロドロの愛憎劇を経験したいです」


 なるほど。参考にならん。

 とにかく、エマさんに再起動してもらって事実確認しないとダメだな。

「エマさん、エマさん、起きてください」ユッサユッサ

 へんじがない、ただのしかばねのようだ。

 遺憾。まったく現実に戻ってくる気配がない。

 どうする・・・どうしたらいい?

 ・・・やはりアレか。

 古今東西、お姫様の眠りを覚ますのは熱いキスと相場が決まってる。

 俺だってこんな形でしたくなかった。本当に残念だ。ムフ

 俺は両手でエマさんの顔をしっかりとホールドして突撃した。


 むちゅぅぅぅぅうううううううううううううううううううううううううう


 プファッ、ゲホッゲホッゲホッ、ハヒィーーー、ハヒィーーー

 俺だけじゃない、エマさんも一緒に酸欠になってむせっていた。


「もぉ、ワタクシを殺すおつもりですの・・・」ポッ


 一生添い遂げるつもりなのにそんな訳ないじゃないですか。

 それに何だかソワソワして嬉しそうですよ。俺もですけどね。フヒヒ

 いやでもキスって危険だね。

 初めてで加減が分からないから窒息するところだったよ。うん。

 

「アンタたち馬鹿じゃないの? もはや文句を言う気にもならないわ」

「エマさん、2アウトー」

「ヒドイ! 最後の一線を越えるのは無しって言ったじゃないですかー」


 他の二人は措くとしてレイラちゃん、それはマジで言ってるのか?

 12歳を成人扱いして本当に大丈夫なのかよこの世界・・・

 いや、今はそんな余計な心配してる場合じゃなかった。

 せっかくエマさんが復活したんだから絶対にこの謎を解いてみせるぜ。

 アっちゃんの名にかけて!


「僕が12歳というのはあり得ません。何かの間違いではないですか?」


「神判にミスなど起こり得ませんわ。これは純然たる事実なのです」

「そんな・・・ではせめて同じ12歳のレイラさんを試してみてくれませんか?」

「構いませんわ。レイラ、こちらへ来てワタクシの隣にお座りなさい」

 こうしてレイラちゃんにもエマさんの奇跡が実行された。

 ピシャーンと玉石から発した光が羊皮紙に落ちて消え、文字だけが残される。

 

「そこには何と記されているんですか?」

「5224、レイラが誕生してから5224日が経過したということですわ」

 ・・・いや、それが本当ならレイラちゃんは12歳じゃないだろ!?

 電卓もペンもないから暗算するしかないけど、少なくとも13歳にはなってるし、恐らく14歳と数ヵ月のはずだ。


「生後5224日なら、14歳のはずですよね?」


「えー、私は正真正銘の12歳ですよ!」

「フフフ、アレー様はあまり計算が得意ではないのですね。5224を432で割れば12と余りが40です。つまりレイラの年齢は12歳1ヵ月4日になります」

 んんんんんんんんん?

 今、432で割ると言ったよな。

 あっ、もしかしてそういうことなのか・・・


「この国の暦では1年は何日になりますか?」


「ハァ、そんなの432日決まってるでしょ」


 やっぱりそういうカラクリだったか。

 謎は・・・全て解けた・・・・・・

 だがどうしてもっと早く気付かなかったんだ俺は。


 異世界が地球と同じ暦の訳ないじゃないか!

 

 今さら嘆いても仕方ない。とりま、すり合わせをしていかないと。

「祖国では1年が365日なんです。だから僕は15歳になるんですよ!」

「アンタの国ってどこまで狂ってるのかしら。そんなこよみあり得ないわね」

「ローカルルールは通用しないと思いますケド」

「残念ですが、アレー様の国の暦を適用することはできませんわ。ここセクスランド王国ではアレー様の年齢は、12歳8ヵ月6日になるのです」

「アレー様と私が同い年だなんて運命を感じます!」

 むーん、何か打開策があるはずなんだが今は何も思いつかねー。クソ


「アレー様が気に病むことはありませんわ」

 ついさっきまで現実逃避してトリップしていたとは思えない程すっかり自分を取り戻したエマさんは、晴れ晴れとした表情で己の覚悟を語り始めた。

「ワタクシはもう迷いません。たとえ誰に何を言われようと、進む道がどんなに険しくなろうと、自分を貫き通す所存ですわ」

 エマさんがここまで言ってくれているのに俺にはかけてあげる言葉がない。

 この国の文化や事情を知らないから深刻度も対応策も分からないよ・・・


「少なくとも聖職者としての未来は潰れるわね」

「子供に手を付ける聖職者が社会問題になってるのデス」

「アレー様は小さくて可愛いですから誤解されてしまいますよね」

 そういう話か!

 つまり、エマさんは俺が合法ロリのために司教レベルの才能を無駄にしようとしてるんだな。それはイカン。何とかしなくては。

 だが、現時点ではどうにもならん。宿題にさせてくれ。

 必ず俺が何とかしてみせるから・・・


「さあ、この件はもう終わりですわ。また中断してしまいましたが自己紹介の続きをしましょう」

 そう言ってエマさんはバトルメイスと羊皮紙を小テーブルに残し、率先して元のテーブルの席へ向かっていった。

 俺たちもまたゾロゾロと移動し元の席へ戻った。

 だけど、まさかの『俺自身が合法ロリ事件』の影響で雰囲気が少し微妙になってしまってるな。

 このモヤッとしたムードを振り払うには天然ローラが最適だろう。


「じゃあ、次はローラさんにお願いできますか?」

「嫌ですケド、お婿様の命令には逆らえないのデス」

 えー、嫌なのぉ? なんでどうして? それに命令なんてしてないよね?

「フフフ、ローラは照れているだけですわ」

「まったく男慣れしてない人はこれだから面倒くさいのよ」

「男の人と縁がないのはみんな一緒ですよね!」


「エマさんだけはさっき大人の階段上ってましたケド」


「あ、そうだった! 最後の一線越えたらダメじゃないですかー」

「こ、越えてませんわ・・・」

「レイラ、最後の一線というのはキスのことではなくてよ」

「え、そうだったんですか。じゃあ何のことなんですか?」

「それはお婿さんに教えてもらいなさい。二人きりの時にね。フフフ」

「アレー様、あとで私の部屋に招待しますから教えてくださいね」

 どうしてこうなった?

「そ、そうですね。ともかく今はローラさんの自己紹介を聞きましょう」

 だがまぁ、お陰でさっきまでの重い空気は吹き飛んだな。

 あ、もしかして狙ってやったのか? やっぱローラは侮れんわ。


「私の名前はパイローラというのデス。パーティーでは妖術師をやってマス」


「よ、妖術師、ですか?」

「ハイ、妖精の術を使って大活躍なのデス」


 妖精の術!


 何を言ってるんだお前は?

 超デカ尻な下半身デブで色黒のローラに妖精というイメージはゼロだ。

 シリスキーなら人生狂わされそうな魔性の女。妖精というより妖星だ。

 うーむ、これはどういう事なのか問い質す必要があるな。


「もしかして、頭の中に妖精を飼ってらっしゃるとか?」


「言ってくれますネ。ですがそんな冗談を言ってられるのも今の内だけなのデスヨ。私の秘密を知ったときのお婿様の顔が見ものなのデス」

 ローラの秘密ねぇ。

 あんなムチムチィとした下半身のくせに目で追えないほど素早く動けるから、もしかしたら加速装置が付いたサイボーグ戦士かもしれんな。

 それならローラを満足させるぐらい驚いてやれるんだけど。

 まぁあまり焦らしても可哀想だからそろそろ訊いてやるか。


「ローラさんの秘密、僕とっても知りたいです」


 俺の棒読みのお世辞を聞いて気をよくしたローラは得意げに秘密を語り始めた。

 そして大して期待せずに心の準備をしていなかった俺は、彼女の告白に唖然とさせられることになる・・・


「クックックッ、こう見えても私・・・ダークエルフなのデス!」ドンッ

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