第80話 チートな武器を何にするか選んだ結果…

「1年で上級冒険師メジャーに昇格する賭けをしただとぉ……馬鹿か貴様はっ!?」

 

 ギルドビルの食堂でカレンとルーチェと別れた俺とティアは、仕事を終えたヴィンヴィンとレイラちゃんと居眠りしていたローラと合流し帰宅した。

 皆で夕食を終えた後、エマが妊活前の入浴をしている間にピーナの部屋でエマ同盟の三人で作戦会議を始めたら、速攻で女忍者に罵倒されたでござる。ニンニン


「その批判は甘んじて受けるが、そうしなければあの場は収まらんかった……」

 実際、集団心理ってのは恐ろしい。血の気の多い冒険者の集団ならなおさらだ。

 誰かが火種を投下してたらリンチが起こって最悪殺されてたかもしれん。

 それに、上級冒険師メジャーのカレンはこのギルドに是非ともキープしたかったしな。

 まぁ、何とかなるなる。要は勝てばええんや、この賭けに!


「どうせ貴様は、何とかなるとか甘っちょろいことを考えてるのだろう」

「あ、分かっちゃった?」

「分からいでか! だがな、今回ばかりは無理だぞ。下級マイナー上級メジャーの間には大きな壁がある。激甘なお前が1年以内にその壁を越えられるとは思えん」

「6回連続で高難度クエストの成功だっけか」 

 確かに能力ゼロの俺には不可能だが、攻略法はもう考えてあるのだよ。ククク

「問題はそこじゃない」

「えっ、どういうことだ?」

 俺の能力不足以外に一体どんな障壁があるっていうんだよ……


「越えられない壁は、お前の心の中にあるのだ」


 ATフィールド!?


 心の壁とか、異世界ポエムなら日記にでも書いてくれないかっ。

「ちょっと何を言ってるのか分からないんだが」

「いずれ思い知る。まぁその前に1カ月で四等昇格でつまづきそうだがな」

 この話はまずそれをクリアしてからだとピーナは怖い目で通告してきた。

 むーん、女スパイが言う通り、四等昇格でやらかした時点で全てが終わる。

 ギルドどころかこのハーレム・パラダイスからも追放だ。

 それを全力で回避するためには、どうしても必要なものがある。


 チートな攻撃力だ。


 体力・攻撃力・防御力オールゼロだった俺だが、防御力はミスリルのロンT&網タイツで飛躍的に上がった。体力も豊かな食生活と嫁たちとのムフフで少しずつだが付きつつある。しかし、攻撃力はゼロのまま。これはいけない。

 四等昇格には216点の功績ポイントが必要なんだが、その内の半分以上は討伐クエストによるものという縛りがある。

 要するに、戦えないものは五等止まりという掟らしい。


「というわけでローラ、今回の取引も必ず成功させてきてくれ!」


「何がというわけなのかサッパリなんですケド」

「む、頭のめぐりが悪いな。晩飯であれだけ肉を喰ったばかりだというのに」

「変態の考えてることなんて凡人には想像もつかないのデス」

 お前は凡どころか人ですらないわっ。

 だが今は、そのキテレツ肉堕ち闇エルフのお前に頼るしかない。


「つまり、今回は『チートな武器』をゲットして来いという話だ」

「なるホド。ブルブルと震えるお珍宝の張形をもらって来いというのですネ」

 ロラ子、それチートやない、アダルトな武器や!

 ていうか、なんで電マやねん。それでどうやって魔獣を倒せっちゅーねん。

 いや待てよ、この世界の常識を俺はまだよく知らん。もしかして……


「それって、魔獣無双の超強い武器だったりする?」


「ちょっと何言ってるか分からないですネ」

 わけ分からんのは俺の方じゃーい!

「じゃあ何でバイブなんてもらって来ようとするんだ?」

「これからハーレム王になるお婿様にはマストなウェポンなのデス」

 むむむ、一理ある。悔しいが確かに必要かもしれん。

 特に百戦錬磨っぽいギャル子とベッドの上で闘うには……

 だが今は、もっと切実にフツーのチートな武器がいるのだ。


「女ではなく、魔獣をKOできる武器をゲットして来てくれ」


「魔獣を倒す武器といっても色んな種類がありますケド」

「剣は止めておけ。エロ助には素質が無い」

 ピー助にバッサリと切り捨てられたでござるよ。

 まぁ、レイラちゃんの助手として冒険者デビューした時に、無様な姿を見られてしまったからな。言われてもしゃーないか。


 あれは、俺自身も剣は向いてないと実感させられた体験だった。

 生きた魔獣を斬った感触、飛び出す体液、グロい内臓、耐えがたい臭い……

 その全てが俺の心を萎えさせ気力を奪っていった。

 ピーナは剣術的な意味で素質が無いと言ってるんだろうが、それ以前の問題だ。

 俺には剣を持つ覚悟が無い。資格が無い。


「体術の専門家であるピーナが俺に推奨する武器は何だ?」


「……弓、だろうな」

「ほぉ、何故だ?」

 俺の中にアーチャーの素質が眠っているというのか。

「今のお前が近接戦闘などすれば秒殺されるからだ」

 ですよねー。

 それに遠隔攻撃なら感触も体液も内臓も臭いも味わわなくて済む。

 

「というわけでローラ、エマ母乳チーズはチートな弓とトレードしてきてくれ」


「それは無理ですネ」

「ホワ~イ?」

「ゲンさんはドワーフですからライトエルフが使う弓は作らないのデス」

 そうきたかー。

 この世界でもドワーフと光エルフは犬猿の仲とはな。うーん、困った……


 弓も剣もダメなら他にどんな武器を選べば良い?


 ドワーフが好きそうなのは、斧か……いやこれも剣と同じ理由で却下だ。

 槍はどうだろう……剣以上に槍術って難しいか。持ち運びも面倒だし。

 となると、もう棍棒ぐらいしか思いつかん。

 打撃なら体液も内臓も飛び出んから感触も臭いもヴィジュアルもマシだろう。

 あ、そういえばエマやルーチェが持ってたメイスだって棍棒みたいなもんだ。

 ていうか、メイスで良いんだよメイスで!

 あとは俺の体力で振れる鎚矛メイスがどんなものかだな。


「とりま武器の種類は決まった。鎚矛メイスをもらって来てくれ」


「お前に鎚矛が操れるとは思えんがな」

「俺でも使えそうなメイスのイメージが頭の中に薄っすらあるんだが……」

「それならちょっと覗ていみるのデス」

 言うなりローラがゴツンと頭に額を押し当てて来た。

 まさか、これで俺の脳ミソが覗けるっていうのか?


「見えたのデス」

 マジかぁぁぁ。ホントこいつ何でもありだな。

「それで、どんなだった?」

 巨乳だらけのエロ本が見えたなんてボケはいらんぞ。

「言葉にするのは難しいですネ」

「じゃあどうやってゲンさんに伝えるんだよ?」

「今みたいに肉体言語で伝えるのデス」

 もぅ何でもえーわ。とにかく上手いこともらって来てくれ。

 俺は牧場のリーゼちゃんに作ってもらった母乳チーズを託し、変なボケはいらないぞと念を押してからローラを送り出した。


「ナヴァトゥリーダのことを詳しく知りたいんだが」

 夕方にギルド食堂で遭遇した冒険者のことを女密偵に訊いてみた。

 ティアに帰りの車中でも聞いたのだが有益な情報がほとんどなかったのだ。

「あのパーティーがどうかしたのか?」

「さっきも話したが、凄腕が揃ってそうなんでキープしときたいんだよ」


「ギルド専属冒険者イクスクルーシヴが3人いて、私たちと同じ金庫番の専属者任務ミッションを与えられているが、実力はそこそこのレベルだぞ」 


 そこそこ!?


 ちょっと待て、女監督マネージャーが相当な実力者だと言ってたのにどうなってる……

「嘘だろ、特にリーダーはヴィンヴィンと同じ希少な術士だと聞いたんだが」

「同じ紫の魔法使いヴィオラームといっても奴とヴィーとでは格が違う」

「それは残念だな。でもヴィンヴィンと比べるのは酷じゃないか?」

「まあな。しかし、ジナイーダには冒険者として欠けているものがある」

「へぇ、一体何が?」


「やる気だ」


 出たわね。

 おっと、それはヤネキか。

「やる気が無いってどういうこと?」

 専属冒険者イクスクルーシヴになって安定収入サラリーを得たからクエストに身が入らんとかかな。

「とにかく仕事の選り好みが激しい。気乗りしないクエストは絶対に受けないから今でも三等級のままだ。実力は二等ぐらいありそうなのにな」

「なるほどね。でも仕事を選ぶのは別に悪いことじゃないと思うぞ」

「人格にも難があるようだ」

「それは聞き捨てならんな」

「あのパーティーはもともと都市アトレバテスの第二ギルドに在籍していた」

「えっっっ! ちょっと待て……どうしてお前がそんなことを知ってるんだ?」

 事情通のティアでさえ自重して訊いてなかったというのに。

 過去を詮索しないのが冒険者の流儀じゃなかったっけ。


「無論、奴らの身辺調査をしたからに決まっているだろ」ドンッ


 MAJIDE!


 それって掟破おきてやぶりなんじゃないのぉ。

 バレたらお前だけじゃなくてパーティーごと総スカン喰らっちまうぞ。

 だが、この超有能な女密偵が動いたのなら恐らくアレも探り当てたはずだ。

 ツッコミは後にして、今はその情報を確認しておかないと。


「強豪パーティーのナヴァトゥリーダが、何故わざわざウェラウニの弱小ギルドへ移籍したのか、その秘密を知っているか?」 

 頼むっ、知っていると言ってくれー。

「当たり前だ」

 よっしゃーーーっ!!

「それでそれで、一体どんな理由で?」


「色恋沙汰を起こしてウェラウニのギルドへ避難してきたのだ」


 恋バナ! 

 まさかの展開で何か面白くなってキター!

「そこもっと詳しく頼む」

「ジナイーダは貴族筋の男から何度も激しく求愛されていた」

「おおぅ、よっぽど良い女なんだな」

「最初は丁寧に断っていたが、切りが無いので最後にはこっぴどく振った」

「それからどした?」

「逆恨みした男が、今度は嫌がらせをするようになった」

「下種だったか。振って正解だな」

「そこで、ほとぼりが冷めるまでアトレバテスを出ることにしたようだ」


「ウェラウニのギルドは腰かけで、すぐまた都会に戻るってことかぁ……」


 この状況は痛いな。

 ウェラウニをウルブスからシウダーにするまでは残って欲しいのに望み薄じゃないか。

「第二ギルドはアトレバテスで最上最良のギルドだからな。田舎町の弱小ギルドには来たくて来た訳ではないということだ」

 まぁ、訳アリでもなきゃ、こんな場末のギルドで実力派パーティーが専属契約なんてしないっつー話だわ。

 エマたちだって『婿つきの家』が条件でここに来たわけだし。

 だがちょっと待てよ。

 この痴情のもつれストーリーに、ジナイーダの落ち度はないよな。

 それなのに何でピーナは『人格に難がある』判定なんだ……


「ジナイーダに批難されるところはないと思うが?」


「一流パーティーのリーダーともなれば、この程度のトラブルを解決できずにどうする。逃げる様にメンバーを引き連れ貧弱ギルドに移籍など下策にも程がある」

 確かに巻き込まれたメンバーにしてみればはた迷惑だな。

 ジナイーダに丸く収める社交力があれば回避できたんだから。

「だが、言うは易しだろ。お前ならどうした?」


「暗殺した」


 ASSASSIN!

 女忍者の中で人の命が軽すぎる件。つか実際ヤってるよなこれは。

 暗殺する、じゃなくて、暗殺した、と過去形で言ってるもん……ゴクリ

 正直怖いわ。もっといのちだいじにで行こうぜ。

「色恋沙汰でそれは極端すぎるだろぉ」 

「先程も言ったが、お前が甘過ぎるのだ」

 かもな。この世界や冒険者の流儀をまだよく知らんからピンとこんけど。


「ともかく、お前は高く評価してないようだが、ナヴァトゥリーダはこんな弱小ギルドじゃスーパーレアなパーティーで間違いない。専属契約を延長させる計画に協力してもらうぞ」


「異論はないが、どうやって奴らをその気にさせるつもりだ?」

「美味しい仕事で釣る予定だが、ダメならまた何か考えないといかん」

「その時のネタを私に探れというのだな?」

「ピーナは察しが良くてホント助かるわー」

 さっきまでボケ倒してたローラがいただけに余計に身に染みますなぁ。

 愛おしさが極まったので許嫁が失神するまでご奉仕したでござるよ。ニンニン



 昇天したピーナをベッドに残し、エマとの妊活を堪能してからヴィンヴィンに裸土下座で謝罪と感謝の足指舐めをやり切った後、自分のベッドで眠りについた。

 その翌朝未明、ゆさゆさと揺すられ起こされた俺は、目をこすりながらボンヤリしていると、闇エルフの言葉で一気にドパッと覚醒させられた。


「もらってきましたヨ。お婿様のイメージ通りのチートな武器なのデス」


 早っっっっっ!!

 やっと鶏が鳴き始める時間だってのにもう取引を済ませてきたのか。

 いや、この展開は二度目だからもう驚ている場合じゃねー。

 肝心のチートな武器をこの目であらためなくては!


「応接セットへ行こう」

 ベッドから降りて寝間着のまま、あえてゆっくりと歩を進める。

 期待感が高まりまくり早鐘のように打つ心臓をなだめる時間が必要だった。

 でもダメだ。熱い鼓動はリズムを上げるばかりで制御不能。

 だってしゃーない。ドキワクが止まらんのだ。


「それでは、拝見させていただこう」

 ソファーに浅く腰をかけ、対面に座ったローラをじっと見つめる。

 闇エルフは得意満面といった小憎らしい顔をしていた。

 よほどこの取引の成果に自信があるのだろう。

 これはきっと大丈夫。だって見てよこの装飾が見事な宝箱。

 

「驚きすぎて腰だけじゃなく魂まで抜かれないようにするのデス」

 前回と同じこと言ってやがる。

 あの時は、呆気に取られて固まってしまったが、今回はイケるはず。

 チートな装備なんて曖昧な注文じゃなくて、チートな武器、それも鎚矛メイスと指定したうえに、どんなタイプかも漠然とだが伝わってるからな。


「俺の記憶にあったイメージの鎚矛メイスと同じものが出来たんだな?」

「完全一致なのデス」

「ドワーフが作ってくれたんだから、やはりミスリル製だよな?」

「100%ミスリルの300年保証付きなのデス」

 300年保証!

 年数がバグってて実感が湧かないが、とにかくスゴイ自信作だ。

 あとは、自分でもハッキリしない記憶の中の鎚矛メイス次第か……


「よしっ、覚悟完了。チートな武器とのご対面といこう」

「フフフ、衝撃で魂が抜けたら妖術で使役してあげますヨ」

 恐ろしいことを言いながら闇エルフは宝箱の蓋を開けて持ち上げる。

 そして箱の中身を取り出すと俺の目の前に丁重に両手で差し出した。

「お待たせしまシタ。これがドワーフのゲンさんが魂を込めて作った……」 

 

「ミスリルの金属バットデス!」


 金属バット!?


 え、えええ、ええええぇぇぇぇええええええええええええええ。

 これは冒険者じゃなくて高校球児かヤンキーが肩に背負うもんだろがー。

 なんで異世界で鎚矛メイスを注文したら野球用品が届くんだYO!

 オカシイだろ。有り得んだろ。責任者出てこいっ。


「だから注意しておいたのデス」ニヤニヤ

 ちげーよ。魂が抜かれたんじゃねーよ。

 呆れてものが言えずに固まってただけだわ。しかも二度目だわ。


「変なボケはいらんとあれだけ念を押したよなぁ」ゴゴゴゴゴ

「心外ですネ。私はボケてなどいないのデス」

「はぃぃぃい?」

「お婿様の記憶の中で一番上手く操っていたのがその鎚矛メイスでしたヨ」

 あっ……そういえば、バッティングセンターがマイブームの時期あったわ。

 ちょうど今の体の中学生の頃に。

 もしかしたら、リコーダーみたいにバットスイングも体が憶えてるかもしれん。

 おもむろに立ち上がった俺は、慎重にグリップを決めてバットを振り始める。

 

  ブン ブンッ ブンッ! ブウンッ! ブウンッ! ブウ~ンッ!


 おおっ、今のは良かった。全盛期のスイングを再現できたっ。 

「それデス」

「えっ、お前にも分かるのか?」

「脇が閉まった理想に近いフォームでしたネ」

「謎の分析力!」

「あと半歩スタンスを広げるとさらに良くなるでショウ」

「あるまじき指導力!」

 もぉその辺にしておくんだ。これ以上は世界観が崩壊するっ。


「これで、決してボケたわけではないと理解してくれましタカ?」


「返す言葉もない。正直スマンかった」


「過ちを認められるのは見所がありマス。今後も精進すると良いデス」キリッ

「くっ……このミスリルの金属バットだが攻撃力は確かなんだろうな」

「ミスリルの奇術師と謳われるゲンさんの腕を信じるのデス」

 まぁ、ミスリルのロンTと網タイツは良い感じだからこれも大丈夫か。

 とにかく、実際に使ってみるかしない。

「センター前ヒットぐらいは打てるようにならんとな……」

 ちなみに、ゴブリンぐらいは狩れるようにという意味だ。


「早速、裏庭で朝練にするのデス!」


 今から? ていうか、何で闇エルフがそんなに燃えてるんだよ。

 ソウスカンクの特訓の時もそうだったが、こういうの好きだよなお前。

 でもまぁ、俺も嫌いじゃないぜ。よし、行くかっ。


 裏庭に出た俺は、ローラの指導のもと汗だくになりながらバットを振った。

 その内に、レイラちゃんが日課の朝練で合流した。

 ミスリルの金属バットを見て微妙な顔をした心の妹にドンマイと励まされた。

 こうして朝100回・夜100回の素振りが俺の日課となった。

 この鎚矛メイスバットが秘めたチートに感動させられる日は近い。

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