第79話 SRパーティー「ナヴァトゥリーダ」がつれなくて

「あ~~~、何があったかだいたい想像がついたわ」

 

 俺もお前がどんな人間かだいたい想像がついたよ。


 右手の指輪には青い魔宝石、左手にはエマのと似たバトルメイス。

 それを携帯してココにいるってことはカレンと同じギルド専属の上級冒険者メジャー

 ジョブは魔法神官ってところか。それも武闘派の。


 魔法が使えて治癒ができて物理攻撃もいけるとかちょっと反則すぎないか?


 カレンへの馴れ馴れしい態度から察するに所属パーティーの仲間だろう。

 上級メジャーが二人いるパーティーなんてこんな弱小ギルドじゃスーパーレアだ。

 これは下心抜きでもお近づきになっておかなねば。ねば。


「僕は先週ギルドに新規登録したばかりの荒井戸幾蔵アレイドイクゾウという者です」

 立ち上がって俺の方から丁寧に挨拶をしておいた。

「あたしは、ルーチェチカ・メルツ。この娘と同じナヴァトゥリーダのメンバーだよ。ボクも大変だったねぇ、カレンなんかにからまれちゃって」

 チッと舌打ちするカレンを横目に、そういう状況なんでしょと小首をかしげながら表情で俺に問いかけるルーチェチカに思わずドキッとさせられた。

 こいつもカレンに匹敵する美少女で俺好みの姐御肌だからしゃーない。


「少し誤解があっただけですよ。それも今、話し合いでケリがつくところです」


「へぇ、どんな結着になるのかあたしも見届けさせてもらおうかな」

「どーぞどーぞ」

 ルーチェチカは椅子に座る前にパンパンと手を叩き声を張り上げた。

「うちらは見せモンじゃないよ! ハイ、解散カイサ~~~ン!」

 驚いたことに冒険者たちは彼女の号令に素直に従って散って行く。

 それだけこの武闘派魔法神官に実力と人望があるってことか。

 これはマジで仲間にしなきゃだわ。是が非でも。


 ルーチェチカはこれまでのやり取りを俺から聞きながら「そりゃ名前を教えちゃって悪かったね」「恋人になってやんなよカレン~」なんて合いの手を入れていたが、1年で俺が上級冒険者メジャーに昇格した時の条件に話が及ぶと真剣に訊いてきた。

「その時はカレンに何をさせるつもりなの?」

 うん、それはさっき決めた。もうこれしかない。

 

「このギルドとの専属契約を更新してください」


「ダメだね。あたしの一存じゃ決められないよ」

 コンマ数秒で断られた。

 ソロ冒険者じゃなくてパーティー組んでるんだから想定内ではあったが。

「なんでそんな要求にしたのか教えてくれる?」

 お、ルーチェチカのほうは冷静で思慮があるな。

 少なくとも交渉はできそうだ。


「これからのギルドと町にあなた方のような凄腕の冒険者が必要だからです」


「笑えるね。底辺冒険者のあんたがどんな立場からものを言ってるんだい?」

「ラムン・トラップ氏の相談役というポジションからです」

「それは知らなかったわ。だからギルマスとよくつるんでるんだね」

 すぐに噛みつくカレンと違って魔法神官は話しやすくて助かるわ。

「はい、マスターには世話になっていますから力添えさせてもらってます」

 それはさておき、君はギルドと更新する気はあるのかな?


「必要と言われるの嬉しいけど、このギルドと町に1年の契約を延長するほどの魅力はまだ感じないかな。たぶんリーダーもそうだと思うよ」

 リーダー!

 お前らより上の冒険者がパーティーにまだいるってのかっ。

 これはマジで拾いもんだわ。絶対に逃がしちゃダメだわ。


「そのリーダーはどんな方なのですか?」


「ジナイーダ・ハラード。この娘の姉だったりするよ」

 肩に置かれた手を払うようにそっぽを向くカレンに少し萌えたのは秘密だ。

「パーティーでは何を担当してるんですか?」

「魔法全般だよ。なにせジーナは紫の魔法使いヴィオラームだから」

「ヴィオラーム……?」

「そんなことも知らないのかよ」

 知らん。地球にはそんなもんおらんのだから当たり前だ。

「火と土の赤魔法、水と風の青魔法、その両方を使える稀有な術士のことよ」

 ははーん、それで赤と青が混ざった紫の魔法使いってことかいな。

 そんな逸材がこのギルドにいて気付かなかったなんて一生の不覚やで。


「だいたい、あんたのとこの『青い魔女』だってそうじゃないか」


 それはヴィンヴィンのことか───────っ!!!!


 一生の不覚アゲイン! 超身近にもう一人いたYO!

 やっぱあの女王様はただもんじゃないと思ってたよ。さすがだよ。

 しかし、孕ました嫁のことを初対面のスケバンから教えられるとか、人としてメッチャ終わってる気がしてきたわ……帰ったら裸土下座で足指舐めだな。デュフフ

 おっと、妄想してる場合じゃない。今はこの精鋭パーティーを取り込まねば。


「1年後には、この冒険者ギルドもウェラウニの町もビックリするほど発展していますから、あなた方もきっと契約更新を前向きに検討するはずです」


「その話になにか根拠はあるの?」

 胡散臭そうに質問するルーチェチカはまだいい方で、カレンは眉に唾しながら明後日あさっての方を向いてしまってる。

 ま、噂のヒモ男が大風呂敷を広げたところで誰も信用するわけがない。

 だが、一等冒険師で聖職者でもあるエマのことなら信じるはずだ。


「まだここだけの話ですが、エマ司祭が素質のある若手冒険者を育てるための道場を建設します。半年後に完成予定ですから、1年後には鍛えられた下級冒険士マイナーが続々と出てきます。あなた方も頼りになる助手に困ることはなくりますよ」


「へぇ、さすがエマニュウエルさん。うちらとは次元が違うね」

 そうだろうそうだろう。エマをもっとあがめなさい。たたえなさい。

「たしかに悪くない話だけど、契約を更新するほどのメリットはないさ」

 そんなカレンにはもっと派手で豪快な計画を教えてやろう。

 町おこし第十二弾だ。心して聞けぃ。


「1年後、この町は総力をあげて北の森を開拓します!」ドンッ


「……その話、本当なんだろうね。嘘だったら落とし前つけてもらうよォ」

 胸元の魔宝石を真っ赤に輝かせるのはよせー!ブレストファイヤーは死ねる!

「ちょっとボクゥ、どうしてそんな極秘情報を握ってるのォ?」

 ルーチェチカのクールな目が獲物を狙う鷹のごとく俺をロックオンしてきた。

 反応はそれぞれだが、二人ともこの餌にガッツリと喰いついたようだ。


 森を開拓して町を広げるなんて、一大公共事業だから当然だな。


 巨額の金が動く。

 それもギルドのような民間の報酬じゃなくて、町の運営予算だ。

 滞納野郎アーク・ドイルみたいに成功報酬を払わないなんてトラブルがないから、取りっぱぐれがないし遅延もない。安心して仕事ができる。

 それに、一からの開発だから最初から関わって上手く立ち回れば、その後もずっと稼げる利権を手にするチャンスがあるかもしれない。

 賭けや勝負ごとが大好きな冒険者のこいつらがそれを黙って見てるわけがない。

 あとは俺が、ゆっくりと慎重に釣り上げてやればいいだけだ。


「僕はギルマスだけでなく町長としてのトラップ氏にも助言をしています」

 ──この意味が分かりますよね?

 ニヤリと悪い笑顔でそう伝えた。

「もしかして、ボクが裏で糸を引いてるの?」

「ご明察です。ルーチェチカさん」

 鋭い眼光で真偽を見抜こうとしていた女は俺を見つめたまま答えを口にした。


「ルーチェでいいよ。ボクとは長い付き合いになりそうな気がするからね」


「じゃあ僕のことは、イクゾーと呼び捨てにして下さい」

「いいの? 誰も知らない国だけど一応は貴族様なんでしょ?」

「ええ、ですがここでは最低ランクの冒険者ですから」

「オーケー、そうさせてもらうよ、イクゾー」 

 ルーチェはここで初めてニコッと自然な笑顔を見せてくれた。

 うむ、とりあえず姐さん魔法神官のつかみはOKだ。


「そんなことどうでもいいから、もっと具体的な話を聞かせなよ!」


 怖っ、れたスケバン魔法剣士が前のめりになって凄んでらっしゃる。

 これがカツアゲだったら2秒でピン札を差し出してしまいそうな迫力だわ。

 でもそれだけ乗り気ってことだな。鉄は熱いうちに打つべし打つべし。

 だが、俺が鞄から企画書を取り出し説明を始めるところで邪魔者が現れた……


「イクっち探したよ~、こんなところでナンパしてたんだ~♬」


 エアーワイフ(空気嫁)ギャル子!

 ここで水を差すとか、せっかく喰い付いた大魚が逃げちまうじゃないかっ。

「ナンパじゃありませんから」

 口説いてるのは確かだが、お前が想像してるのとは違うんだってばよ。

「しかもナヴァトゥリーダのスリートップの二人とかお目が高いわ~♪」

 人の話を聞け―い!

 今はお前のエロトークなんていらんねん。ビッチは出て行ってくれないかっ。


「今、大事な話の途中なんですけど……」ピクピク

「カレっちとルゥっち、お勤めお疲れちゃ~ん」

 だから俺の話を聞けっ。

 マジで今はこのSRパーティーを囲い込まなきゃいけないんだって。

「ほんと疲れたわ。金庫室の警備なんて退屈で死にそう」

「ジナっちみたいに本でも読んでればいーんじゃない」

「あたしは本なんて読んだら3分で眠れる自信があるよ」

「そんなルゥっちに朗報。アタシたち面白い本を作る予定なのよね~♪」

「それもォ冒険者の仕事じゃないじゃーん。ほんとあんたは変わってるわァ」

 あぁ、なんかもうすっかり世間話モードになっちまったわ。

 貴族とも付き合ってるだけあってギャル子の場を支配する力ハンパねー。


「チッ、シラけちまった。あたしは帰るよ!」


 ほら見ろっ。針にかかった巨大カジキが暴れ出したじゃないか……

 しかも、硬派スケバンにギャルビッチは水と油って感じだわ。

 もともとカレンはティアが苦手っぽい。ぶっちゃけ嫌ってるかも。

「あ、アタシたちも行かなきゃ。ヴィヴィっちが待ってるんだったわ」

「いやでも、まだ話が終わってな──」 

「いまの無敵ヴィヴィっちを怒らせない方がイイと思うよ~♪」

 むむむ、確かに莫大な魔力をまだ制御しきれてない女王様の怒りは危険すぎる。


「イクゾー、話の続きは1週間で五等に昇格する賭けにあんたが勝った時だね」


 ま、そういうことになるか。仕方ない今日は引き下がろう。

「はい、その時はカレンさんにキッチリ自己紹介してもらいます」

「フン、それまであたしに気安く話しかけるんじゃないよ!」

 そんな捨て台詞を残してスケバン魔法剣士は席を立ち、じゃーねと片手をあげてクールビューティ―な魔法神官も続いて行く。

 その後ろ姿は、照明の光で黒ではなく深紫だと分かったカレンの長髪と170cmを超える長身でヴィンヴィン並みに小さいルーチェのお尻が特に印象的だった。

 うむ、五等昇格でまたお話ができる来週が実に楽しみなだな。


「ルゥっち達とどんな話してたのよ~?」

 4階の食堂から3階の冒険者フロアにあるセクスエルム・シスターズ専用の控室にに向かってる途中でギャル子がねっとりした口調で訊いてきた。

「突然カレンにからまれて、最後はギルド追放の賭けにまで発展した」

「アハッ、どんな交渉したらそこまでこじれるのよぉ。超ウケる~♬」

「尾ひれのついた噂のせいで、カレンは最初から俺を目の敵にしてたからなぁ」

「じゃあ早くイクっちがただのヒモ貴族じゃないって証明しないとね」

 そういうことだな。これまでの仕込みが来週あたりからボチボチ収穫できるだろうから、その結果を見せつければ噂の方も沈静化するはずだ。たぶん。


「ところで、ナヴァトゥリーダのことをお前はどのぐらい知ってるんだ?」

「女4人男2人のパーティーでリーダーのジナイーダとルーチェチカ、カレンの3人はギルド専属冒険者イクスクルーシヴで相当な実力者よ」

「やっぱりそうか。素人の俺にも強者つわもののオーラがビンビン伝わってきたもんな」

「ただ、精鋭が揃ってるだけに、ちょっと不思議なのよね~」

「というと?」

 察しの悪い俺にティアはやれやれと首を振ってから答えをくれた。


「そんな強豪パーティーが何でこんな片田舎の弱小ギルドに移籍したのよ?」


 あっっっ、ほんまその通りだわ!

 これは絶対に何か裏があるな。

「ティアは理由を知ってるのか?」

「知らないわね」

「あんなに仲良さそうだったのに、訊いたことないのか?」

「好奇心で他人の過去をほじくらないのが冒険者の暗黙の了解なのよ」

 ほぅ、冒険者にはそんなアンリトン・ルールがあったか。

 来週の再会でも気を付けんといかんな。

 だが、せっかくのSRパーティーをみすみす逃すことはできん。

 直接聞けないのなら間接的に探るだけだ。

 そして、それに打ってつけの人材が俺にはいるんだよなぁ。フフフフフ

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