第78話 スケバン魔法剣士カレンに絡まれ炎上ナウ

「目ざわりなんだよ、あたしの前からとっとと失せな!」


 教育委員長テレサ・ラーカイルを完堕ちさせ、町おこしに反対する議員たちの攻略を完遂した俺は、お供のティア&ローラを従えて冒険者ギルドへ凱旋した。

 テレサと大ハッスルして疲れていたので、ギルマスへの報告はティアに任せて4階の食堂で一服していたところ、スケ番のような女にからまれた次第。


「えっ……でも、僕の方が先にこのテーブルでお茶してたんだけど……?」

 突然そこへ断りもなく座ってきたくせにこの言い草、単に喧嘩を売ってるのか、それとも何かの罠か……ちょっと警戒はしておくべきだろう。

 俺は真正面の席に座って睨みつけてくる女を注意深く観察した。


 怒気を宿した瞳は透明感のある緑色。細く整った眉がきつく吊り上がっている。

 少し膨らみのある頬の稜線はまだ少女らしさを匂わせ、ガラの悪い言葉を吐き出す口は小さめだが真っ赤なルージュが目を奪う。

 それらをボリュームと艶のある黒髪が額縁のように飾っていた。

 年の頃は、15~18歳ぐらいだろうか。


 総じて外見は、『昭和のスケバン美少女』といった印象だ。


 そして、この女には絶対に見過ごせない特徴が一つあった。

 首飾りには赤い魔宝石が妖しく煌めき、膝の上には細身の剣が置かれている。

 ギルドビルの食堂があるこの4階で武装できるのは専属の上級冒険者メジャーだけ。

 つまり、三等ランク以上の実力者で魔法剣士ってことだ。


 そんなヤバイ女に理由もなく因縁をつけられた。

 うーむ、これは結構ピンチじゃないか。

 素直に言うことを聞いてこの場から立ち去るのが賢明だろう。

 一緒に食堂に来たはずのローラは肉を求めて姿が見えないしな。

 そう判断した俺が腰を浮かせようとした時、スケバン魔法剣士が口を開いた。


「ここはあたしたち『ナヴァトゥリーダ』の専用テーブルだよ。あんたみたいな女の生き血をすする寄生獣には特に座ってほしくないね!」

 

 むむむ、専用テーブルだったか。それは正直スマンかった。

 だが寄生獣ちゃうわ!

 5日前に冒険者デビューした頃からはメッチャ働いてるわ。

 片手じゃきかんぐらい事業を起こしてるっちゅーねん。

 青年実業家もフルチンで逃げ出すほどの少年実業家ぶりじゃい。

 まぁ、まだすべて仕込み段階だから収穫はゼロだけどな……


「知らなかったとはいえ失礼をしました。ただ、僕は断じて寄生獣などではありませんよ。あなたにもその内に分かります」


「そのうちなんてのは、何もしないグータラ男の決まり文句じゃないか」

 くっ……前世で心当たりがありすぎて返す言葉がねー。

 だが生まれ変わった今の俺は違うぜ。

「僕はそうじゃないと証明してみせますよ」

「何をどう証明するのか具体的に言えるもんなら言ってみな!」

 どうしてお前にそんなこと言わなきゃならんのさ。

 なぜそこまで初対面の俺に追い込みをかけてくるのさ。

 ちょっと不自然すぎる。やっぱこれ罠なんじゃないか……?


「フン、やっぱりみんなが噂してたとおりだね」 


 俺が長考に入って返答せずにいると、何やら不穏なことを言いだしたぞ。

「噂というのは?」

「あんたはギルド最上パーティーの女性たちに、若い体と結婚の約束をエサに取り入って寄生し、でかい顔して働かずに遊んでるゴミ虫だってことさ」

 あぁ、そういえばルークからそんな話を聞かされてたな。

 ただ、ここまで酷い言われようとは知らんかった。

 この様子だと、噂に尾ひれが付いて今はもう鬼畜扱いされてるっぽい。

 それでこの見るからに義侠心が強そうな少女は俺を毛嫌いしてるわけだ。

 この悪質なデマにはレイラちゃんまで馬鹿にされてた許せない事案もあるし、ここはハッキリ言っておいたほうが良いな。


「先程の『どう証明するか具体的に言え』という質問にお答えします」


「もしハンパな言い訳だったら、あたしは容赦しないよ」

 おいっ、ショートソードの束に手をかけるのは止めろ!

 ミスリルのロンT&網タイツをこっそり着込んでるけど、首から上は無防備だからな。一瞬で狩られないよう全集中しながら会話するしかない。ない。

 まずは、このギルド専属冒険者が喰い付くようなネタを出すとするか。


「僕は1年以内に上級冒険者メジャーに昇格してみせます」ドンッ


「クエストを一度も達成したことすらない、最下等ランクで吹けば飛ぶようなヒョロいあんたが、たった1年でメジャーに上がるだって!?」

「その通りです」

「ハン、とうてい信じられないね」

「それはあなたの勝手です」

「1年後なんて、それまで批判をかわそうっていう悪知恵に決まってる!」チャカ

 待てーい、剣を鞘から抜こうとするのは止めろっっっ。

 マジ何なのこいつ? 無理やり難癖つけて俺を殺すつもりなんか?


 ざわ・・・ざわわ・・・ざわざわざわ・・・・・・!


 ここに至って、周りのテーブルで飲食や雑談をしながら、さりげなく俺たちの様子を伺っていた冒険者や職員たちが騒然とし始めた。

 見渡してみるとその8割方はスケバン美少女の味方のようだ。

 俺を見る視線にさげすみがこもっていた。酷いのには悪意や敵意すらあった。

 エマたちの金で楽な暮らしをしてる俺がそんなに憎いのか……


 嫉妬や!


 お前ら俺が何度これまで死ぬような目にあったか知らんだろ。

 今だっていくつ爆弾抱えながら綱渡りしてるか想像すらできんだろっ。

 そんな苦労も知らずに上辺だけ見てやっかむかと、ただの嫉妬やんけ。


 クソ、だがこの雰囲気は不味い。

 今まで表面化してなかった雑魚冒険者マイナーたちの俺への不満が、ギルド専属上級冒険者イクスクルーシヴという実力者が俺に牙をむいたことで勢いを得て一気に噴火しそうになっとる。

 今すぐ目の前でガンを飛ばしてきてるスケバン冒険者の怒りを鎮めないと!

 とにかく、1年という期限が不服だって言うんなら短くするしかない。ない。


「では、まず1週間で五等に昇格し、1カ月で四等に昇格してみせます!」


「言ったね。あたしに冗談は通じないよ」

「これでも貴族ですから。名誉にかけて誓言を果たします」

「言ったね。果たせなかったときはギルドから去ってもらうよ!」

 この言葉に周囲の野次馬たちのざわめきが激しくなった。

 賛同する声が乱れ飛び、甲高い口笛と拍手が鳴り響いて鼓膜をヒリつかせる。

 何だこれ……リアルで炎上ナウとか初体験だけど正直キツイ。足震える。

 事態が俺一人のことなら走って逃げたかもしれない。

 だが、エマたちの評判や尊厳に関わるとあっちゃ撤退はできねー。


「いいでしょう。期限内に昇格できなかった時点でギルドだけでなくセクスエルム・シスターズからも追放で結構です!」


「「「「「「 うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!! 」」」」」」


 今度は俺の言葉で野次馬たちが怒号と歓声がミックスされた雄叫びをあげた。

 やっぱりこいつら冒険者だ。賭けや勝負事が大好きなんだろうな。

 早速、どっちが勝つかトトカルチョを始める者まで出始めてる。

 苦笑するしかないが、お陰で俺を吊るし上げようとするムードは霧散した。

 さて、こうなったからには、ギルド専属スケバンにもリスクを取ってもらおう。


「それで僕が昇格した時、あなたは何をしてくれるんですか?」


「は? なんであたしが何かしなくちゃいけないのさ?」

 いやいやいや、それは通らんだろ。ほら、周りの野次馬たちだって今度はお前に冷たい視線を送りながらヒソヒソやってるぞ。

 その声の中から、ジー何とかやらルー何とかやらナヴァ何とかっていう、いくつかの固有名詞が漏れ聞こえてきた。

 ん、んんん……そういやコイツの名前って何だっけか……


「今さらですけど、あなた誰なんですか?」


「フン、あんたに教える名前はないよ!」

 えー、ここまで大騒ぎになるほど俺と関わっておいてそりゃないだろ。

 ホントなんでそんなに俺が嫌いなんだよ。

 貢いだ男に裏切られたことでもあるんじゃないか。それ逆恨みだから。

 はぁ~、なんかどうしてもコイツの口から自己紹介させたくなったわ。


「ランク昇格の賭けで僕だけペナルティーがあるのは不公平ですよね?」

 それもギルドとハーレムから追放なんて俺には死刑に等しい懲罰だしな。

「たしかにそのとおりだね。なにか望みがあるなら言ってみな」

 へぇ、素直に聞きいれたよ。

 見た目がスケバンだけあって筋を通す性格みたいだな。

 じゃあ遠慮なく要求させてもらうとするか。


「1週間で五等に昇格したら、あなたの名前を教えてください」


「気持ち悪いこと言うんじゃないよ! そんなの誰かに聞けばいーだけだろ」

 うわっ、キモイって言われた。

 女王様のヴィンヴィンも妊娠してから丸くなってあまり毒を吐かなくなってたからちょっと新鮮ていうか、なんかフツーに傷ついたわ。おかわり所望。

「僕はあなたの口から自己紹介してほしいんです」

「フン、分かったよ。好きにしな」

 よし、第一関門クリア。このまま次もパスしてやんよ。


「1ヵ月で四等に昇格したら、僕の恋人になってください!」


 ここでまた野次馬たちがドッと湧いた。

 種馬にも程があるとか、婿取りレースに乱入者登場とか盛り上がっとる。

 しかし、その一方で、殺気を込めて睨んで来る男たちが何人もいた。

 どうやら、このスケバン冒険者には熱烈なファンが多数いるようだ。

 そのモテモテ女番長は俺の目の前で拳を震わせていたりするが。


「ふ、ふ、ふざけんなっ! なんであんたみたいなゲスと付き合わなきゃないけないんだよ? あたしにケンカ売ってんのかい!?」

「僕は大好きな女性たちと別れなきゃいけない条件なんですよ。あなたは大嫌いな僕と恋人になるぐらいじゃないと釣り合いが取れませんよ」

「だからって恋人なんて……バカなこと言うんじゃないよ!」

 ま、この反応は当然だな。だがそれでイイ。

 これは本命のストレートを決めるためのジャブでしかない。


「仕方ありませんね。じゃあ百歩譲って、友達でいいです」


 どうだっ、これぞ交渉術『ドア・イン・ザ・フェイス』。

 最初に無茶な要求を出して、断られたら現実的な要求を出しなおす。

 そうすると、相手が受け入れる確率が高くなるというテクニックだ。

 果たしてその効果やいかに……!?


「フン、分かったよ。勝手にしな」


 計画通りっっっ!!

 これで第二関門クリア。この勢いで最終関門も華麗にスルーしてやるぞー。

 さあ、最後の条件は何にしようか。

 ここはやっぱり欲望に忠実になっておくのが後悔なくていいよな。ムフフ


「それで、1年で上級冒険者メジャーに昇格したら愛人になれとでも言うのかい?」

 ドッキンコ!

 俺のスケバン手錠拘束セーラー着エロファンタジーがなぜバレた?

 しかも、いつの間にか膝の上の剣が抜き身になってますやん。

 残念だがこれ以上の深追いは危険だ。愛人ルートは一先ず撤退しよう。

 それじゃあどうするかな、三等昇格時の条件は?

 何をしてもらおうかな、この名前すら知らない正体不明の女に……


「カレン、あんたいつまで油売ってんのよ?」

 名前キタコレ!

 これには周りの野次馬たちからもブーイングが飛んだ。

 五等昇格時に教えてもらうという賭けになってたから空気読めって感じで。

「どうなってんのこれ?」

「あたしが知るかよ」

 理不尽なバッシングを受けたリーク女は、周囲を見渡しながら素っ気ないカレンの隣まで来ると、同じテーブルに座っていた俺に目を留めた。 


「あ~~~、何があったかだいたい想像ついたわ」

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