第77話 教育委員長テレサ・ラーカイル攻略②謎ドンの正体

「アタシが何とかしてあげよっか♪」


「えっ、ここから逆転できるっていうのか!?」

 この教育委員長はお前が言ってた通り、ある意味ラスボスだぞ。

 なにせ言葉や道理が通じない。それに感情も表に出さない鉄仮面だからな。

 そんなテレサを説得なんて無理ゲ―だ。

 マジでどうすんの?

「権力を持つ者に完勝する方法は一つしかないわ」

 ほぅ、自信満々みたいだな。聞かせてもらおうじゃないか。


「その方法とは?」


「より強い権力をぶつけるのよ♪」


 なっ……まさかお前、アレを使うつもりか……!?


 伝家の宝刀『伯爵カリバー』を抜くつもりかっっっ。


 いくら伯爵がお前の援交相手だからってそれは不味いだろぉ。

 上級貴族が教育委員長を脅迫ってこの世界的にどうなの?

 下手したら大スキャンダルになって、俺らだけじゃなく聖職者のエマにまで災禍が及ぶかもしれん。それはダメだ。絶対にダメだっ。

 しかし、これ以外にもう手はない……どうする……のるか反るか………!?

 苦渋の選択を迫られてさんざん迷った末に俺が出したファイナルアンサー。

 それは首を振ってティアから提示された諸刃のオファーを蹴ることだった。


「内緒話は終わりましたか? 約束の12分です。観念してお帰りなさい」 


 ここで本当に試合終了か。

 今回は俺の完敗だな。ちょっと相手を舐めすぎてた。勝手に馬鹿だと思い込んで準備を怠ったのが敗因だ。そこは素直に認めよう。軽くひねって利権まで奪ってやるとかイキってた1時間前の自分がホント恥ずかしいわ。

 ふぅ~と溜息をついてから、俺は別れの挨拶をするために立ち上がる。


「本日はこれで失礼させて頂きます。貴重な時間を頂きありがとうござ──」 


 ドンッ! ドドンッ! ドンドド~ンッ!!


 ここで三度目の謎ドンキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 何だこれ? まだ諦めるなという神の啓示か?

 俺は騒音がした二階の方を見ていた顔を目前の教育委員長へと向ける。

 そしてまたもや度肝を抜かれた。


 テレサの鉄仮面が剥がれ落ちてるっ!!


 これまでずっと感情を見せていなかった群青色の瞳が泳ぎまくり不安や恐れが滲み出ていた。キュッと引き結ばれていた口元も今はストレスで引きつっている。

 これは尋常じゃない。絶対に何かある。

 ドジっ娘メイドなんてのは捏造されたカムフラージュだ。

 この能面委員長をここまで揺さぶる何かがあの謎ドンには必ずある!


「起きローラ、お前の出番だ。この館の二階に眠る秘密を暴いてこい!」


「この家の二階に肉なんて眠ってませんヨ」

 肉探偵は呼んどらんわっ。

 お前が使役してるハムスターを使えと言っとるんだ。

 …いや待てよ。この闇エルフすでに二階を探索済みなのか。なら話が早い。

「あの騒音の正体が分かるか?」


「ちょっと待つのデス。いま妖術を使いますカラ」

 YOJUTSU!

 そうだった。すっかり忘れてたがこいつ妖術師だったわ。

 自己紹介で妖精の術がどうこう言ってたし、腐ってもダークエルフだしな。


「お婿様、聞き込みの結果、騒音の原因が分かりまシタ」

「おぉ早いな。この辺にいる妖精が教えてくれたのか?」

「いえ、死霊たちからの情報デス」

 怖っっっ。とんでもないのが棲みついてますやん。

 まさか、謎ドンの正体は『ポルターガイスト』ってオチは止めろよぉ。


「原因は何だったんだ?」


「引きこもりデス」


 ──ガタッ ガタタッ

 

 闇エルフの言葉を聞いた途端、テレサが狼狽して椅子から腰を上げる。

 そこにかつての厳格な教育委員長の姿はなかった。今や仮面の外れた顔だけなく、小刻みに震える全身で驚愕と焦燥がダダ洩れになっている。

「……どうして…それを……!?」

 大きな事務机に両手をつき前のめりになって睨みつけてきたが、いかにも弱々しい虚勢でしかなかった。

 どうやら、今度こそワイロ御殿女主人の急所を突いたようだ。

 というわけで俺はブザービーターを決めにかかった。


「教育委員長の子供が、引きこもりとは前代未聞ですねぇ」ニタァ


「くっ……」

「昨年の9月からということは大学に入って直ぐじゃないですかぁ」 

 この国では、学校が始まるのは9月からだからな。

 ギルマス情報だと、テレサの家族構成は18歳の大学生の息子だけだ。

「贅沢に育ったせいで寄宿舎生活が肌に合わなかったんでしょう」

「ちがっ…………」

「子育てを間違えましたね……教育委員長なのに!!」ドンッ

「あぁぁぁ………」

 美魔女ロッテンマイヤーは、大きなお尻をまた椅子に沈ませると両手を顔にあて静かに泣き崩れた。

 憐憫を誘う光景だが、ここで情に流されたらアカン。

 逆に、この機に乗じて仕留めるんだ。


「僕なら、息子さんを部屋から連れ出せますよ」ニッコリ


「……母親の私ですらできなかったことが貴方にできるというのですかっ?」

 そう詰問するテレサの表情は苦悩と希望が混じり合っていた。

「ええ、今すぐにでも。ただし条件があります」

「弱みに付け込もうというのですか。この人でなしっ」

 いやいやいや、これこそお前が言っていたアレじゃないか。


「失敬な。正当な対価です」


 カーッと顔を赤くしたテレサは反論できずに口ごもる。

 ま、そういうわけで謝礼金の代わりに町議で意見をひるがえしてもらうぞ。

「町おこしに賛成して頂けますね?」

 教育委員長は、しばし熟考した後に母親として答えを弾き出した。


「……良いでしょう。本当に息子が更生できるのなら」

 フィーーーッシュ!

 ふぅ~、ついに釣られてくれたか。

 敗北の苦みを噛みしめてからの勝利だけに達成感もひとしおだわ。

 おっと、まだ気を抜くのは早いな。

 熟女委員長の気が変わらん内に取引完了させないと。


「ローラ、任せても大丈夫か?」

「こどおじ一人を部屋から追い出すなんて楽勝なのデス」

 こどおじ言うな。前世の俺まで責められてるみたいで凹むわ。

「とにかく、やることは分かってるんだな?」

「ハイ、やることはこの前といっしょなのデス」

 ソウスカンクの悪臭兵器は使っちゃ遺憾!

 やれやれ、こいつもラムンと同じで一から指示せんとダメだな。


「ローラ、魔獣じゃない、死霊を使うんだ」




 1時間後(この世界では36分)、白亜の豪邸からテレサの息子を乗せたスチームカーが30リー(120km)離れたベルディーン大学へと走り出した。

 引きこもりの豆腐メンタルでは視覚化されたゴーストに耐えられなかったのだ。


 G作戦オペレーションを開始すると、速攻で部屋から飛び出してきた息子は、まとわりついて来る悪霊の存在を母親や俺たちに必死で訴え助けを求めてきた。

 そこで俺たちも一緒に騒ぎ立て集団パニックにするのは下策だ。

 一見、恐怖が加速するように思えるが、それは恐怖のおすそ分けでしかない。

 だから俺は、皆に見えないフリをするように指示した。

 特に母親のテレサには心を鬼にして息子の懇願を取り合わないよう徹底させた。


 ──自分には見えている悪霊が他の誰にも見えてない!

 ──どうして誰も本気で取り合ってくれないんだ!

 ──俺がオカシイのかっ! 俺だけ変になっちまったのかっ!!

 ──でもいるんだ……ココにいるんだよぉぉぉぉおおおおおおお


 こうして息子は誰にも理解されない恐怖に一人震えて耐えることになった。

 そして1時間ともたずに幽霊屋敷からランナウェ~イ。

 ローラに使役され肉眼で見えるようになった死霊は、ドラ息子をちゃんとカレッジまで誘導して行ったという。脅しながら。呪いながら。


「お礼を言うべきなのか迷いますね……」


「何も言わなくて結構です。約束さえ果たして下されば」

「私は教育者として約束は必ず守ります」

 イエス、これで反対派議員コンプリート!

 全て賛成に引っくり返したから来週の町議で町おこしが可決される。

 この町を発展させるアイデアはもう10件以上考案した。まずは第一弾の『ウェラウニの笛吹き男』で観光客誘致からだ。さあ、やったるでー。


「では、僕たちはこれで失礼させて頂きます!」

 体中にみなぎる覇気そのままに元気よく別れを告げた。

「そろそろ馬車や自動車が多くなる時間だわ。気を付けてお帰りなさい」

 テレサは最初とは打って変わって慈愛に満ちた優しい笑顔を見せてくれた。

 だがこの急激な変化にはちょっと後ろ髪を引かれてしまう。


 鉄仮面委員長から息子を心配する母親になり、そして今は、大きな家にたった一人で暮らす孤独な中年女性となっていた。

 引きこもりの息子でも、いざいなくなると寂しいんだろうな。

 ここは俺が慰めて元気を分けてあげるしかない。ない。


「伝え忘れていたことがありました。もう少しお時間よろしいでしょうか」

「仕方ありませんね。お茶を淹れさせますのであちらで伺いましょう」

 テレサは卓上ベルを鳴らしメイドに申し付けると、姿勢良く背筋を伸ばして執務室中央の応接セットまで歩き、ソファーへ上品に座ってみせた。

 その様子はどこか嬉しそうだ。

 お茶を勧めるぐらいだから、少しでも長く誰かと一緒にいたかったんだろうな。

 

「観光客誘致は町おこしの最初の一歩でしかないんです」

「あらそうなの。他にどんな計画があるのか聞かせて頂きたいわ」 

 よくぞ聞いてくれましたっ。

 教育委員長の美魔女様へとっておきの企画が用意してありまっせー。

 このサプライズ・プレゼントで俺に心と股を開くが良い。ムフフ


「実は、高校と大学をこの町に新設します」


「本気ですか……!? 大学はおろか高校ですら実現するとは思えません」 

「この僕が6年後までに必ず実現させます!」

 6年以内にウェラウニをウルブスからシウダーへ昇格させると既に宣言してるからな。

 高校と大学は昇格条件の一つだからどのみち作らねばならんのだ。

 俺は鞄からその企画書を取り出して立ち上がり、テレサの隣に座った。

 日本語だからそばで読んであげないと。ピッタリと寄り添いながら。ムフ


「現実味はともかく、とても夢のあるお話ですね」

 計画の概要を説明すると教育委員長はその未来を夢想してくれたようだ。

 俺は畳みかけるように明るいビジョンを語り始める。

 この町に高校ができれば、都市アトレバテスまで行かなくて済むので交通費や通学時間のために進学を断念する生徒たちを救うことができる。

 大学ができれば、逆にアトレバテスからも受験者が来るだろうし、高名な教授や最新の設備を揃えれば遠い市町村からもやって来て学寮で寄宿生活に入る。

 そうした高学歴の青年たちを地元で雇えば町はさらに発展して行く。


「あぁ、本当にそうなったらどんなに素晴らしいことか……」

 ふふふ、漠然とした夢想が明確な未来予想図になって恍惚としているな。

 よし、ここでもう一押ししてやろう。

「テレサさんには最も重要な役割を果たして頂きます」

「私にできる事であれば最善を尽くしましょう」

「新設されるウェラウニ大学の学寮長に──」

 この国の大学は複数のカレッジ(学寮)で構成されている。

 学寮長は文字通りカレッジの最高責任者にして支配者だ。

 ほとんどの学生が寄宿生活をおくるカレッジで寝食を共にすることになる。

 そしてウェラウニ大学にできる最初のカレッジの名を俺はさっき決めた。


「──テレサ・カレッジの学寮長に就いてください」ドンッ


「そこまでの名誉と地位を私に与えてくれるというのですか……!?」

「この町の未来を背負う同志への贈り物です」

 俺は学寮長ドリームで感動と興奮に身を震わせウットリしている美魔女委員長の背中に手を回しソフトに撫で回してみた。

 テレサは一瞬ビクッとしたがされるがままになっている。これはイケる。

 右手を徐々に下して行き腰からタイトスカートに包まれた尻へと進軍させた。


「戯れるのは……そのぐらいにしておきなさい……っ!」

 豪邸の女主人は言葉では拒んできたが、体は密着させたまま離れようとしない。これはGOサインですね。分かります。

 俺は右手に力と熱を込めて豊かな双丘を攻めあがった。

「本気です。お互い独り身ですから何も問題はありませんよ」

 婚約者は6人いるがまだ誰とも結婚には至ってないので嘘ではない。


「問題あります! 私のようなおばあさんが…こんな破廉恥な……!」

 まだ言うか。完熟ボディをこんなに火照らせておきながら。

「そんな、43歳でおばあさんなんて自分を卑下しすぎですよ」

 それに見た目は余裕で30代半ばに見えるしな。

「え~、還暦を超えたら十分おばあ様でしょ~」

 交渉が終了したせいかギャルビッチに戻っているティアがぶっちゃけた。

 ちなみに、この世界の還暦は36歳らしい。

「40代は完全にBBAなのデス」

 BBAはやめローラ!

 ほら見ろ、熱が一気に冷めたテレサが離れていったじゃないかっ。

 ──責任を取れ、さもないと肉絶ちだ。

 そうブロックサインを送ると肉堕ち闇エルフは二本目の殊勲打を放った。


「死霊のドロン君が事務机の右下の引出しだと言ってマス」


 ほっほぅ~、美魔女ロッテンマイヤーにはまだ何か秘密があったか。

 俺が視線を合わせて一つ頷くとローラは早業で何かを取ってきた。

 これは……ノートだな。開いてみると新聞記事のスクラップになっている。

 そして隣からはテレサがゴクリと息を飲む音が聞こえてきた。

 これは大変な情報かもしれん。だが俺には読めん。

 

「ティア、これが何の記事か分かるか?」


「あ~~~っ、これってアトスポの連載エロ小説の切り抜きじゃな~い♬」


 なんですってーーー!!


 あんた40代で教育委員長のくせにそんな中二男子みたいなことしてたんかっ。そんでやっぱりアトスポ読んでたんじゃねーか!

 俺はジト目になってテレサの赤面した顔を見た。


「違います!これは息子のマル秘コレクションを没収しただけですっ!」

 えーい、そんな言い訳が通用するか。

 教育に良くないと取り上げたのなら焼くなり捨てるなりすればいいんだ。

 なのに仕事をする事務机にこっそり仕舞っておくなんて怪しすぎるわ。


「息子さんがベルディーンにいた間の記事もあるわよ~♪」

 スモーキングガン(決定的証拠)発見。ギャル子GJ。

「奥さん、これでもまだシラを切りとおしますか?」

「……私が……やりました……」ガクッ

 よし、落ちた。

 さあ、嘘つきでふしだらな教育委員長には罰を与えないと。ムフ


「ティア、その小説を読み上げてくれ。情感たっぷりにな」

 

 有能な女監督は、俺の注文通り低俗ゴシップ紙の三文エロ小説を表現力豊かに朗読していく。誰もが思わず聞き入ってしまうほどの魅力がそこにはあった。

 ティアの演技力だけじゃない。アトスポの官能小説も実に素晴らしい。

 こんな異世界にも奈倉と柏木がいたとは……ぜひ友達になりたいものだ。

 しかし今は羞恥で真っ赤になりながらも発情しているテレサとの仲を深めよう。


「ローラ、邪魔が入らないように見張りを頼む」

「仕方ないですネ。死霊たちと部屋の外で遊んでくるのデス」

 お、おぅ…メイドさんたちがパニックにならん程度でヨロシク。

「ティアはそのまま朗読を続けてくれ」

「了解ちゃ~ん♪」

 目前で繰り広げられる痴態を想像するギャル子の微笑がエロス。

 しかし、当の教育委員長はまだどこか迷いが断ち切れてない。

 立場と良識が本能に従うのを邪魔していた。

 よろしい、ならば免罪符を与えよう。


「僕なら、新しい息子さんを仕込んであげられますよ」ニッコリ


 ──これは決して一度限りの火遊びじゃありません。

 ──愛人としてここに通いキッチリとお務めを果たします。

 ──貴方が失敗した子育てのチャンスをもう一度与えてあげますよ。

 

 俺のアイコンタクトは正確に伝わったようだ。

 テレサはソファーに横たわり体の力を抜いて目を閉じた。

 俺はその上に覆いかぶさりポッテリした赤い唇を堪能してから、爆乳で大きく盛り上がっているフリルブラウスに手をかけていった……


 しばしの間、白亜の豪邸の回廊では死霊に追い回されるメイドたちの悲鳴が響き渡り、執務室ではエルフ顔JKが官能小説を朗読する淫らな声を聴きながら30歳も年下の新成人に種付けされる教育委員長の嬌声が満ち溢れた。

 そんなカオスな夕暮れの中で、町おこし反対派議員討伐劇の幕は下りた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る