第7話 女戦士レイラの抜け駆け

「何が凄く大きいんですか? もしかして私のことですか?」


 ドッキンコ! 

 俺が魔乳幻想でトリップしている内に誰か隣に来てた!


 ビックリして体が固まり返事もできないでいると、レイラと呼ばれていた長身の女戦士(仮)がテーブルの上に優しくティーカップを置いてくれた。

 あ、お茶を淹れてくれたのか。

 そう悟るとフリーズした体が解凍され彼女をチラチラと観察する余裕が生まれた。


 うむ、とにかく大きい。目測で185cmぐらいか。

 その長身の天辺から銀髪ロングストレートが腰まで伸びている。


 ライトグリーンの長袖ジャケットとタイトスカートが目に鮮やかだが、そのジャケットから大きくはみ出た胸元は白いシャツのフリルが前面に押し出されていた。


 タイトスカートからムッチリすらりと伸びた足は健康的な小麦色。小さな顔も同様に褐色でスカイブルーの瞳が綺麗だ。

 うん、スタイル抜群の巨娘か。素晴らしいね。


「やっぱり、私ってダメですよね・・・」

 え、何がダメなの?

 ビキニアーマーが似合いそうなパーペキ女戦士(仮)じゃないか。

「レイラさんにダメな所なんてあるんですか?」

 

「私なんて全然ダメですよ!」


 えー、全力で自分自身にダメ出しされてらっしゃる。

 これはどういうことだ?

 うーん、サッパリ分からん。聞くしかない。


「全然ダメってどういうことですか?」


「だって・・・私って凄く大きいじゃないですか。そんな女、アレー様だって嫌ですよね。さっきも凄く大きいとか独りごと言ってたし・・・」

 断じてそんなことはない!

 むしろ俺は大きな女の子の方が好きだっつーの。

 巨乳の巨娘なんてど真ん中のストライクだから。


「僕は好きだなぁ。レイラさんみたいな発育の良い女性が」


「いいんです。そんな見え透いたお世辞を言ってくれなくても。私なんて女としても戦士としてもダメダメだって自分で分かってるんです!」


 あ、やっぱり女戦士なんだ。

 だけど、体格は良いし機敏そうだし運動神経も良さそうに見えるのに、戦士としてダメってのはちょっと不思議だ。


「お姉ちゃんたちにいつも言われるんです。アンタは三姉妹最弱だって。武門の家の恥だって・・・」

 これはアレか。

 レイラさんも相当に強いけど、身近にいるお姉さんたちがもっと強くて性格もキツイから、自分に自信が持てないパターンだわ。


 ふむ、そんなレイラさんに何て言ってあげたらいいんだろう?

 戦ってるのを見たことがない俺がレイラさんだって強いから自信持てなんて言っても説得力ないしなぁ。

 うーん、いつもダメ出しされてるようだから承認欲求を満たす方向で行くか。


「僕にはレイラさんが必要だよ」


「えっ、嘘・・・本当に?」

 レイラさんが藁をも掴む感じで俺の言葉にすがろうとしている。


「本当だよ。祖国を遠く離れて天涯孤独の僕が、この国で頼れるのはお姉さんたちじゃなくてレイラさんなんだ!」


 最後の部分に魂を込めながらレイラさんの目を見て言い切った。

「そ、そうだよね。私が、守らなきゃ、アレー様を」

 レイラさんがフラフラ~と俺の左隣に座ると、ずいっと身を寄せてくる。

「私、アレー様と一緒にいていいんですよね?」 

「もちろんだよ!」

「本当ですか? こんな大きな女は嫌じゃないんですか?」

「僕は女としても戦士としてもレイラさんにそばにいて欲しい」

「ありがとう・・・ございますぅぅぅぅ。グスングスン」

 えー、今度は泣いていらっしゃる。


 ぶっちゃけこんなシチュエーションは初めてでどうしたらいい分からん。

 こんなん童貞には無理ゲーだろ。

 でも静かに涙をこぼすレイラさんを見ていたら自然に手が動いた。

 右手の指でそっと左目から流れ落ちる涙を拭った。

 最初ビクッとしたレイラさんは、左手をおずおずと俺の手に添える。


 この娘、容姿も服も大人っぽいのに中身は少女みたいで可愛いよな。

 そう思ったらつい大胆になってレイラさんの右目からこぼれる涙を舐めとるように頬にキスをしてしまった。

「ヒャッ」

 レイラさんが小さな悲鳴を上げてソファーから飛び上がる。


「キ、キ、キ、キ、キ、キスしてもらっちゃった・・・」


 ポポポッと顔を真っ赤にしたレイラさんが身悶えしながらきょどっている。

 ふぅ、どうやら嫌じゃなかったどころか喜んでるみたいだ。セーフセーフ。

 ここはもう一押ししてみるか。


「キスぐらいいつでもしますよ。レイラさんが望むなら」

「ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダメです。こんなことしたらダメなんです!」 

「もしかして嫌だったのかな?」

「違います! 抜け駆けはダメって皆と決めたから。まだこういうのは・・・」

 ほほぅ、淑女協定とでも呼ぶべき約束事があるみたいだ。

「私もう行きます。お願いですから今のは内緒にしてくださいね」

 俺の返事も待たずにレイラさんはピューッと皆の所へ去っていった。


 アレ? なんだかちょっと寂しい。

 少し話をして頬にキスしただけなのに俺の中でレイラさんの存在が凄く大きくなっていた。まさに彼女の体のように。


 エマさんがダメだったらレイラさんでも良いよなぁ。

 体は大人なのに頭脳は少女的なギャップ萌えがたまらんわ。


 こうなると他の4人のことももっと知りたくなるな。

 やっぱり6人全員をよく知ってから狙いを定めるべきだよ。うん。

 そのためにも、親睦を深めるこの歓迎会は大事だ。

 気を引き締めて情報収集に励むとしよう。



 およそ10分後にエマさんが俺を呼びに来てくれた。

 エマさんに続いてリビングの左にある扉を抜けるとそこはダイニングルームになっていて、大きなテーブルには様々な料理が既に並んでいた。このダイニングの奥がキッチンになってるようだ。


 エマさんに導かれて長方形のテーブルの短辺の席に座る。

 いわゆるお誕生日席ってやつだ。悲しいけど人生初かも。


「では、アレー様の歓迎会を始めさせていただきますわ」


 エマさんが音頭をとって手土産のブランデーで乾杯し皆で飲んだ。

 自己紹介はひとまず料理でお腹を満たしてからにしましょうと言うので素直に従いご馳走を一通り楽しませてもらった。

 

「そろそろワタクシたちの方から簡単に自己紹介させていただきますわ」

 ナプキンで口を拭ってからエマさんがイベントの開始を告げた。


 ついに来たか。

 ここからが嫁取りのはじめの一歩だ。

 彼女たちの言葉と態度を曇りなき眼で見定める。

 まずはそこからだな。


 どうやら自己紹介トップバッターはエマさんか。

 俺は一言も聞き漏らすまいと耳を澄ませた。


「アレー様、ワタクシの名前は、エマニュウエルです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る