第96話 盾士と特注リュックゲットだぜ!

「1週間で五等に昇格しました。約束通り自己紹介して下さい」


 ギルマス部屋を出て6階の金庫室で守衛の専属者任務ミッションをしているナヴァトゥリーダの3トップのところへやって来た俺は、五等冒険士の身分証である青天の手帳ブルーノートをヒラヒラさせながら、スケバン魔法剣士カレンに賭けの清算を求めた。


「フン、しょーがないね。あそこに座りな」

 1フロアぶち抜きの金庫室のど真ん中にある巨大金庫と端にある階段の中央に位置するソファーセットに、俺は勧められるまま腰を下ろす。

 階段の見張りには連れて来たローラを残し、カレン、ジナイーダ、ルーチェの金庫番三人と俺、ティアの二人を合わせた五人での会談となった。


「あたしの名前はカレン・ハラードだよ。これで満足かい?」

 

 そんなわけあるかい。もっと寄こせ。お前の情報をモアプリーズ!

「僕はカレンさんのことをもっとよく知りたいです」

「自己紹介で名前だけってのも味気ないよ。ケチらないで教えてやったら」

「イクゾーさんには迷惑をおかけしたのだから、そのくらいは当然よ、カレン」

 ルーチェとジーナから援護射撃キター。お陰で会話がスムーズに進むわ。


「チッ……見た通り魔法剣士だよ。属性は火、あたしの周りをウロチョロしたら巻き込まれて火傷するから気を付けな」


「分かりました。趣味や得意なこと好きなことって何ですか?」

「そんなことあんたに関係ないだろ」ジロリ

「こう見えてカレンは音楽が得意だったりするのよ。サックスやピアノとかね」

「へぇ~、それは素晴らしいですね。ぜひ今度聴かせて下さい」

「やなこった」

「四等に昇格したら友達になるんだろ。その時に弾いてもらいなよ」

「それは良いですね。すごく励みになります」

「ハン、もう勝手にしな」

「見えないでしょうけど、この子は料理や裁縫も得意なのよ。ウフフフッ」

「それは本当に驚きですね。でも意外な一面て感じで素敵です」


「この流れだと、四等に昇格したら手料理もご馳走してもらえそうね~♪」


 ギャル子が持ち前のニヤニヤ顔で茶化すとスケバン冒険者が噛みつく。

「ハァ? なんであたしがそんなことしなきゃいけないんだよ」

 この二人は水と油、軟派と硬派で相性が最悪だ。混ぜるな危険。

「お友達なら当たり前でしょう。私もその食事会に参加させてもらうわ」

 姉のジーナが有無を言わさぬ声色と表情で早々に最終判決を下した。

「僕は好き嫌いは無いので、カレンさんの得意料理を楽しみにしてます」

 フンと鼻を鳴らして美少女魔法剣士はそっぽを向いてしまった。やれやれ。

「礼儀を知らない子でゴメンなさいね」

「いえ、お気になさらないで下さい」

「失礼をしたと言えば、先日の私との話し合いもこの子が邪魔をして中途半端で終わってしまったわね。何か私に話があったのではなくて?」

「はい、でもその件は状況が変わりましたので、また時と場所を改めます」

「それって、北の森の開発計画のことでしょ」

 ルーチェが銀行員たちに聞かれないようにヒソヒソと声を落として訊いてきた。

「ご明察です」

「アラ、それは是非お聞かせ頂かないといけないわね」ギラリ

 ジーナの黒い瞳に射抜かれてゾクゾクと背筋に冷たいものが走った。

 上品な容姿と物腰をしてるがカレン以上に危険な女なのは間違いない。


「今日の午後の町議で町おこしが可決されます。それで北の森の開発計画も半分は決まったようなものですが、来週になれば確実になる決定打が出そうですから、ご相談はその後にということでお願いしたいのです」


「その決定打ってなんなんだよ?」

 キナ臭い話になった途端、カレンが身を乗り出して尋問してきた。

「ここだけの話ですが、ウェラウニの町は代官の町長であるラムン・トラップ氏が罷免されて、新たに準男爵が領主として直接経営されるようです」

「へぇ、その準男爵が北の森の開発に積極的ってわけなんだ」

 ルーチェも興味津々といった顔で話に参加してくる。やっぱ冒険者よな。

「その通りです。彼が領主となれば町の予算を限界までつぎ込むでしょうし、必要とあれば銀行から借り出してでも開発を推し進めるでしょう」

「そりゃあまた最高のご領主様じゃないかァ。なあジーナ?」

「そうね。本当にそんな領主が来てくれるのなら大歓迎だわ」

「新領主が来るのは九分九厘間違いありません。あとは時期だけです。早ければ来週中に、遅くとも3ヶ月以内には就任します」

「言ったね。あたしに冗談は通じないよ」

 またそのパターンかよカレン。今度はもう何も賭けないぞ。

「さっきも言った通り九分九厘そうなります。どうするかは貴方たち次第です」

「イクゾーさん、貴重な情報をどうも。何かお返しをしなくてはいけないわね」

 ジーナが視線でカレンを制してから俺に笑顔を向けてきた。

 ナヴァトゥリーダのリーダーは、一先ず俺を懐柔することにしたようだ。

 それなら話が早い。ココに来た目的を果たさせてもらおう。


「ではお言葉に甘えて、一つお願いがあるのです」


「どうぞ、何なりとおっしゃって」

「急な話なのですが、明日のクエストにルースさんをお借りしたいのです」

「アラ、どんな要求をされるのかと思ったら、そんな他愛のない申し出だなんて拍子抜けしてしまったわ。本当にそれでよろしいの?」

「はい、差し障りが無ければ、その後も助手を務めて頂けると助かります」

「もちろん、よろしくてよ」

「ちょっと待ちなよ姉さん!」

「なあに、そうぞうしい」

「余所のパーティーの冒険者を助手にするなんて非常識だろ」

 えっ、そうなん。この世界の常識に疎いから気付かんかったわ。


「馬鹿ねカレン、イクゾーさんの真意が分からないの?」


 へっ、真意? そんなもん何もないんだが……

「どういうことだい?」

 カレンは透き通った翠の瞳で俺を睨んで問い詰めてきた。

 そう言われても答えようがないんですけどね。あなたの姉さんに訊いてちょ。


「フッ、イクゾーさんはね、ルースを助手に雇うことでわたしたちに自分の実力を惜しげなく教えて下さるつもりなのよ」


 そうだったのか! 

 我が事ながら全く知らんかった。アンタ深読みし過ぎだ。

「やっぱりイクゾーはただのものじゃないな」

「フン、やることが回りくどいんだよ」

 うーん、ジーナが失投してくれたんだ。とりまフルスイングしておくか。

「これから長い付き合いをさせて頂くつもりですから、まず僕のことをよく知ってもらおうと思いまして」

「ウフフフッ、わたし、あなたのことが気に入ったわ。ここの男性冒険者は乱暴で頭が足りない方ばかりだけど、イクゾーさんは違うようね」

 おっ、どうやらヒットになったな。棚ぼたでラッキーだったわ。

 今日はもうボロが出ない内にこのまま退散しよう。


「有り難うございます。さて、お仕事中にお邪魔して申し訳ありませんでした。僕たちはそろそろお暇させて頂きます」

 ナヴァトゥリーダの三人に別れを告げた俺たちは、ギルドビル6階の金庫室から退出した。その際に勤務していた清純派行員ルーラと腕白行員レインに手を振って愛想を振りまくのは忘れない。彼女たちの純白レオタードは今日も最高だ。ムフ




「良いっ、良いじゃないこれ! さすが親方だ、想像以上だぞ!」


 ティアたちと共にギルドからカバン工房へやって来た俺は、注文していた特注リュックサックを見せてもらうと、早速チェックを開始した。

 高さ48cm、幅30cm、奥行18cmの大きさで側面にはチート武器の槌矛メイス(金属バット)を収納する深い縦長のポケットが付いている。

 素材はワイバーンの革で少々の斬撃なんて屁のツッパリにもならない。

 肩ヒモも太く柔軟性のある素材で背負っても体に優しい作りだ。

 本当に素晴らしい仕上がり具合なので、思わず絶賛の声が漏れてしまった。


「よし、あとは最後に肝心のテストをやらなてくはな」


 俺は持参したミスリルの金属バットをポケットに収納してからリュックを背負い、バットを引き抜くべく右手をグリップにかけた………が、抜けない!

 手を目一杯上に伸ばしてもバットがポケットから出きらないのだ。

 アカン、下手こいた。設計ミスだったんやぁ。


「上体を前に倒せば抜けるぞ」


 鞄職人の親方から見事なソリューションが寄せられた。

 ポロッと目からウロコが落ちた俺は、助言通りにお辞儀をした体勢でバットを引き抜いてみると─────抜けたぁぁぁああああああああ!!!!!


「やった! やっぱり俺の設計は間違ってなかった! ありがとう親方!」


「良いってことよ。気に入ってもらえて俺も嬉しいぜ」

「いやもう最高だよ。マジで感動したっ」

「そこまで言ってくれると職人冥利に尽きるってもんだ」

「こっちの一般向けのリュックサックもイイ感じよ~♪」

 俺用の特注ではなく、庶民向けの普通の形で安価な革製を試していたギャル子からもお褒めの言葉が飛び出した。うん、確かに良い感じじゃないか。

 茶色い革製のリュックサックとか初めて見た気がするが、意外とフォーマルスーツを着た女性にもフィットする。違和感がないどころかお洒落ですらあった。

 これはマジで相当バカ売れするんじゃね。


「親方、あの一般向けのリュックサックを今後も発注したいんだが、1個いくらで請け負ってくれる?」


「そうだなぁ。30ドポン(6000円)くれたら喜んでやらせてもらうぜ」

 仕入れが6000円だと、売値は10000円にしたいところだな。

「あれを50ドポン出して買うって奴は結構いるかな?」


「いくらでもいるんじゃねーの」


 イエス! 勝機&商機キタコレ!


「アタシなら100ドポン(2万円)出してでも絶対に買うわ~、ていうかイクっち、これアタシにプレゼントしてよ~♪」

「それは明日のクエストでルークにテストさせる予定だから待ってくれ。それよりも親方、大量に発注したら仕入れ値を少し安くできるか?」

「ああ、100個単位で注文してくれるなら、素材も安く入手できるし職人も専念できるから、24ドポン(4800円)でやらせてもらうぜ」

 マジかぁぁぁ。神は居たっ。こんな田舎町の場末の鞄工房に神がおられた!

「ありがてー。じゃあ早速、100個注文させてもらおうか」

「おぅ、こっちこそありがとよ!」

 俺は親方とガッチリ握手をかわし、もろもろの注文手続きをして金を支払うと、大満足で次の目的地へと向かった。




「えっ、月めくりカレンダーの追加注文ですか、ありがとうございます!」


 鞄工房から印刷工房へ移動した俺たちは、銀行プレオープンで粗品として配ったカレンダーの追加発注300部を工房主のペーターへ依頼した。

 この青年実業家には、既に絵本の仕事も発注していたから、多忙で嫌がられるかもと懸念したのだが、思いのほか喜ばれて面食らった次第。


「そこまで歓迎されるとは思ってなかったぞ」

「いえ、こんな美味しい仕事は大歓迎ですよ」

「ふむ、分からん。どういう状況なのだ?」

「絵の印刷は、石の原版を色の数だけ作る初期費用が大きいんです。しかし、その分をペイしたらあとは刷れば刷るだけ利益が出ますから」

「なるほど。それなら確かに追加印刷は美味しい仕事だな」

「はい、喜んでやらせて頂きますよ」

「それで、価格の方は1部いくらになる?」

 銀行支店長のジェシカはこの月めくりカレンダーには最低でも50ドポン(1万円)の価値があると言っていた。そして俺は、半値の25ドポン(5千円)で売るから原価割れ予想10ドポン(2千円)を銀行に出させる約束を取り付けている。

 だから、もし35ドポン(7千円)以上だった場合は俺がその分を被らなければならなくなる。たぶん大丈夫だとは思うが、果たしてペーターの値付けは如何に!?


「25ドポン(5千円)いただけると本当に助かります」


「えっ、そんなんでいいのかっ」

「はい、この卸値で十分な利益が見込めます」

「本当か? 変に遠慮して無理することはないんだぞ」

「大丈夫です。むしろ、更に追加があった場合は20ドポン(4千円)で請け負えます。大量購入で材料は安くなるし、職人も慣れてミスが少なくなりますから」

 マジかよ!

 ここにも神が居たわ。こんな片田舎の職人街に二人も神がおられたわっ。

 いやでも実際、その辺は鞄工房と同じ理屈だから本当にイケそうだな。

「分かった。とりあえず追加300部を単価25ドポン(5千円)で頼むが、恐らくその後も続々と追加を依頼することになるだろうからそのつもりでな」

「お任せ下さい。ただ、一つ留意して頂きたいのですが、問題なく増刷できるのは1万部までになります」

「というと?」

「それ以上は、石の原版が摩耗劣化して品質が保てなくなると思います」

「なるほど。しかと憶えておこう」


「ペーター、絵本の制作の進捗状況はどんな感じかな~?」


「今のところ原版ができ上がるのが6月になりそうです、お嬢様」

「おっと、忘れてた。絵本の18枚目の原画を持ってきた。これがラストページになる。ウェラウニの笛吹き男が筆頭司祭に聖なる笛を返還するシーンだ」

「あぁ、これもまた素晴らしい絵ですね。感動的なラストシーンですよ」

「その通りだな。記念すべき絵本第一号に相応しい物語だ」

「きっと話題になってたくさん売れると思います」

「ふふふ、この絵本が売れることはもう決まっているけどな」

「それは、どういうことでしょうか?」

「教育委員長と話をつけた。学校でまとまった数を買ってくれるし、就学前の子供の推奨図書として親に購入を奨励してくれる」

「さすがイクゾーさんですね。何事も抜かりが無い」

「抜かりないと言えば、銀行の融資の方も話をつけておいたぞ。あとはお前がティアと協力して事業計画書を作成して提出するだけだ」

「ありがとうございます…本当に融資を得られるとは身が引き締まる思いです」

「突然の事業急拡大で不安もあるだろうが、お前は一人じゃない。ティアが相談役になってくれるし、俺も全面的にバックアップする」

「な~んにも心配ないって。ティアちゃんに任せておけば大丈夫よ~♪」

「お嬢様もイクゾーさんもすごく心強いです。私も全力で頑張ります」

「うむ、大変だとは思うが、仕事をこなしつつ新工房の準備も進めてくれ」

「了解しました。必ずや期待に応えてみせます!」

 よし、今日のところはこれでOKだな。

 追加分のカレンダーで俺まで利益が出そうなのは思わぬ収穫だった。

 ジェシカには悪いが、黙って俺の懐に入れさせてもらうぜ。フヒヒ




 印刷工房を出た俺たちは、都市アトレバテスまでスチームカーを飛ばし、まずは特許局へと向かった。さっき受け取ったリュックサックの申請をするためだ。

 三日前に申請した月めくりカレンダーとウェラウニ・キューブが局内で大きな話題になっていたようで、俺たちが顔を出すとどよめきが起こった。

 先日と同じ局員が対応してくれたのだが、リュックサックを見せると今回もまた良い反応をしてくれた。この人は、日本に転生したらきっと最高のリアクション芸人になれると思うわ。


 特許局の次に向かったのは、野良犬シェフがいる高級レストランだ。

 ぼちぼち昼前だったし、ローラが「肉…肉…」と歩きながら寝言を言い始めたので少々早めのランチとなった。そして特ステ熱は今日も美味だった。

 帰り際に厨房のレオンとアイコンタクトして頑張れと伝えておいた。

 その後、腹ごなしのために中央公園へ出向いた。


「ローラ、このベンチでひと眠りしていてくれ」

「仕方ないですネ。肉の上にも三年なのデス」

 ちょっと何を言ってるのか分からないけど、ツッコんではやらん。

「じゃあ、俺たちはちょっと食後の運動をしてくる」

「急にどうしたのよイクっち~♪」ニヤニヤ

「午後の種付けの時間だ」キリッ

 俺はティアの腰に手を回してちょっと臭うハッテン場へとしけこんだ。ウホッ

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