第5話 三つの頭を持つ女司祭

「ど、ど、ど、ど、ど、どんな女かですかぁ?」


 町長のきょどり方が尋常じゃない!

 俺を迎え入れる女冒険者たちってどんな化物オールスター集団なんだよ。


「女たちの特徴を聞いただけだぞ。何故そんなに震える必要がある?」

「こ、こ、この辺は道が悪いんで、ゆ、ゆ、ゆ揺れてしまうんでさあ、あ、あ」

 運転席だけ揺れる車があるか。逆にノーベル賞もんだろ。


「もういい。覚悟は決まってるから正直に話してくれ。何を聞こうが俺は逃げはしないし、お前を責めもしない」

「はぁ、さすが貴族様ですな。少年といえる若さですのにまるで熟年のような肝の太さ。感服しましたです」


「世辞はいい。早く教えてくれ」

「そう言われましても何から話していいやら・・・」

「乳だ。乳の大きさについて嘘偽りのない事実を知りたい」


「げぇ、パイオツ! まさかアレー様、既にご存じなんでは?」


「どういう意味だ。俺は何も知らんぞ」

「いきなり急所を突いてこられたんで、てっきり全て分かっいてアタシを糾弾しているのかと」

「乳が急所とは、まさか女たちはみんな・・・ゴクリ」


「お察しの通りです。まるで子供を6人も育てた母親のような巨乳です。本当に申し訳ないです、はい」

「は?」

 いやそれで良いんだよ! 何であやまってるんだこいつは?

「え?」

 町長は俺のリアクションの真意を測りかねて困惑しとる。

 ただ、相手の反応が理解できないのは俺も同じだ。


 町長というか、この国、若しくはこの世界では、巨乳より貧乳がステータスなのかもしれんな。

 もしそうなら、俺の性癖は隠しておいた方が得策とみた。


「ゴホン、謝罪の必要などない。俺にはたとえどんな巨乳だろうと受け入れる用意がある!」

「おおおおう、さすが、さすがです! なんという度量の大きさ! 間違いなく女たちも感涙して股を濡らしますです、はい」

 やはり巨乳は外道の世界みたいだ。なんという好都合。夢が広がるな。


「参考までにどれぐらい大きいのか聞いておこうか」

「一番小さな者でも手から随分こぼれる程の大きさになりますです」

「最小でそれか。最大はどうだ?」


「一番大きな女ですともう顔と同じかそれ以上に・・・」


「な、それは本当か!? 嘘だったら許さんぞ」

「恐ろしいことに事実なんですなぁこれが。彼女は非常に優れた聖職者なんですが、そのせいで、三つの頭を持つ神官とか、ケルベロス司祭なんて中傷する罰当たり者が出るほどでして。実力だけなら司教になっていても不思議じゃないんですが、乳のせいで出世できないとは勿体ないというか残念なことです、はい」


 うおおおおおおおおお、スイカップ獲ったどー!


 嫁はもうその女神官で決定だ。ケルベロス、君に決めた!

 ビキニアーマーも捨てがたいが、修道服も素晴らしいよな。


 実際、グロリアさんの修道服姿なんてミニスカ太もも丸出しで目のやり場に困ったし、顔も胸も足も最高でどこ見ればいいのか迷いまくった。

 嫁候補の女神官も同じ修道服だったらええなぁ。ジュルル


「お、見えてきやしたよ。あれがウェラウニの町になりますです」

 町長の言葉でスイカップ・ドリームから覚めた俺は、前方の先へ目を向ける。

 へぇ、町って言うから村に毛が生えた程度のショボさを想像してたけど、割と栄えてるんじゃないかこれ。

 人口2万5千は伊達じゃないってか。ここに集中して生活してるみたいだな。


 数分後には町の入口へ到着した。

 この町には城壁みたいなものはないようだ。そういや最初の都市にも壁なかったわ。ただ、町の周囲をぐるっと堀というか水路が巡っていた。たしか都市の方もそうだった。


「この堀みたいな水路はなんだ?」

「え、ご存じない?」

「知らん」ものは知らんのだ。


「そ、そうですか。これは魔獣返しです」


 魔獣返し!


 ただのねずみ返しみです、みたいに平然と言われたぞ。

 こんな幅も深さも大してない水路ごときで魔獣が阻まれるというのか?

 この世界の魔獣ってヘタレ揃いなのかもな。正直助かる。


「こんな水路が魔獣除けとは驚いたぞ」


「魔獣は泳げませんからねぇ。町まで悪さしにくるゴブリンやオークならこの程度の水路で十分防げますです」


 ゴブリンとかって泳げないのか!


 言われてみれば、その手のモンスターが泳いでる映画やアニメって見たことないな。しかし、この深さなら歩いて渡ってきちゃうんじゃないか?


「この水深で大丈夫なのか?」


「奴らは流れる水の中に入ることさえしませんです。体の軽いゴブリンなんてあっさり流されてしまうんですなぁ。初夏には春に生まれたばかりのゴブリンの川流れがよく見られますです、はい」

「ほぅ、そういうものか。だが人間より大きいオークは?」


所詮しょせんオークは豚人間ですからねぇ。二足歩行が人間ほど上手くねぇんですよ。だもんで水の流れでバランスを崩してずっこけてパニックになるんですなぁ。膝ほどの深さかしかない川で溺れるオークがたまにおりやすです。はい」

 なるほど。勉強になった。この情報は役立ちそうだ。


「少し内町インナーで休んでいかれやすか? それとも直ぐに冒険者の家へ行きやしょうか?」

 もちろん一刻でも早く嫁候補たちに会いたい。

 だが、俺は手荷物一つない。せめて替えの下着は欲しいな。


「町で着替えを買っていきたい。悪いが金を貸してくれないか?」

「そいつは気が付きませんで申し訳ないです。じゃあ服と一緒に手土産も買いやしょう。今日はめでたい日ですからね。祝杯のための酒にしときやすか」

 お、それは気が利くな。パッとしない男だが町長だけのことはある。


 着替え一式と手土産の上等なブランデーを買うと、俺たちはまたスチームカーに乗り、水路にかかる跳ね橋を渡って内町を出て女冒険者たちの家を目指した。


「あの右手に見える家がそうです」

 ほぅ、結構でかいな。

 平屋じゃなくて二階建てだ。それも屋根裏部屋までありそうじゃないか。


 さらに近づいてくると、T字の形をしてるように見える。

「昔ながらの十字架様式ですが作りはしっかりしてますし、家具も丈夫なのを揃えてありやす。だから安心して励んでください、はい」

 T字じゃなくて十字だったか。

 それに激しくしても壊れないというのは確かに大事だな。ムフ。


 町長はスチームカーを道から家の庭へ走らせて停めた。

「心の準備はできてやすか?」

「大丈夫だ。不安などない。期待しかない」


「・・・たとえ期待を裏切られたとしても、決して態度には出さんでください。下手したら消される可能性までありますです。ほとぼりが冷めた頃に救出しますんで、しばらくは耐え忍んでください、はい」


「お、脅かすな」

 いやマジで大丈夫なはず。天使のシナリオ通りに来てる・・・筈だよな?

「では、冒険者たちを呼びやす」


 ポッポーーー!


 町長が車のクラクションらしきものを鳴らした。

 すると即座に正面玄関が開いて4人の女たちが現れる。

 あまりの早業に一瞬固まったが、慌てて車から降りて玄関へ向かう。


 黒い修道服を着た女性が彼女たちを代表するように一歩前に出た。

 ス、スゴイ・・・町長の話は本当だったんだ・・・


 三つの頭を持つ女神官は実在したっ!


 彼女は胸に注がれる俺のガン見視線などまったく気にする風もなく、真っすぐ俺を見据えて凛とした一声を発した。


「冒険者パーティー、セクスエルム・シスターズの家へようこそ!」

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