女冒険者パーティー セクスエルム・シスターズの婿殿 R苺
イクゾー
第1話 四級天使の甘い罠
「ウェルカム・トゥ・間違い殺人クラブ!」
極上の笑顔で先輩が私を歓迎してくれた。
そんなに私のミスが嬉しいのだろうか。
人として、いや、天使として終わってる。
確かに私は命数の尽きかけた魂を昇天させるプロデュースに失敗した。
大勢の命を巻き込んで突然死するはずだったバス運転手を、ビルから飛び降り自殺させたのだが、場所とタイミングが良くなかったのは認めざるを得ない。
だけど、まさか、
………その馬鹿が飛び降り自殺に巻き込まれて一緒に昇天してしまった。
あぁ、ここまでトントン拍子で昇級してきたのに、こんな馬鹿のために私の天使キャリアが終わるのか!?
藁をも掴む心境で先輩に相談した。
彼女はその道のベテランなのだ。
間違い殺人に関して先輩の右に出るものはいない。
そのくせ、最下層まで降級することはなく四級天使に留まっている。
つまり、間違い殺人を
だから私は我慢した。
たとえ彼女に満面の笑みで
全てはこの
「どう対処したら良いんでしょうか?」
「こんなの何でもないって、間違いで10人殺したらやっと一人前だよ」
「そんなの先輩だけです。殺しちゃった馬鹿、いや、人間になんて説明すれば・・・」
そんな事も分からないの~と先輩はニヤニヤしている。本当にムカつく。
だがここは我慢だ。私はどうか教えてくださいと目で訴える。
すると、満足したらしい先輩は私には思いもつかないイカサマを口にし始めた。
「まだまだだね。そんなの逆におめでとうって言えばいいんだよ!」
「えっ!?」
一体なにを言ってるんだこの人、いや、この天使は。
私が過失で殺しおいて煉獄センターにも連れていけずに隣でぐったりしているこの霊魂に、謝罪ではなく、よりにもよって「おめでとう」と祝福しろと言うのか?
私はそんな心の内を思いっきり表情に出して先輩を見た。
「だからぁ、貴方は10年に1人の特待転生に選ばれましたとか言っちゃえばいいの」
「あ・・・」
なるほど。
どうせ人間ごときが煉獄のシステムを知るわけがない。
適当なことを言って後退転生の書類にサインさせればいいのか。
昇天ラッシュで激務が続いてる煉獄センターの上級天使たちもいちいちチェックしないだろうし、しても黙認するだろう。
しかし悪どい。とても天使の発想とは思えない邪悪さだ。
「でも、そんなに上手くいくものなんですか?」
「そこは天使の腕の見せどころだね」
天使の腕の見せどころは決してそんな場ではないと激しく思うが否定はしない。
「確かに・・・難しくはなさそうです」
実際、人間なんて本物の天使がちょっと優しく対応してやれば、涙を流して喜び感謝しながら退転して行くだろう。
「そういうこと。適当なスキル与えて喜ばせて、適当な異世界に放り込めばいいのよ」
「なるほど!」
自分に言い聞かせるように、ちょっと大袈裟に同意してみせた。
それに、本当にこれで上手くいくという気がしてきた。
そもそも、先輩はそうやってこれまで間違い殺人の隠ぺいに成功しているのだ。
「もちろん、先の世界に送ることはできないから霊魂的には一歩下がることになるけど、外界の人間はそんなこと知りもしないんだから問題ナッシンナッシン」
「ふふふ、先輩も悪ですねぇ」
だがそれでいい。これで大丈夫だ。私のキャリアは守られた。
「話はすべて聞かせてもらった!」
「きゃ!」
「な、なんだってー!?」
くっ、また失敗した。
この人間、意識が戻っていたのか。しかも全て聞いていただと・・・
もうダメだ。絶体絶命だ。今度こそ私のキャリアは終わってしまう。
一縷の望みをかけて先輩を見ると、私に任せておけと目で語ってきた。
まさか、ここから一発逆転の奇策がさらにあると言うんですか?
本当だったら心の底から尊敬します。だからお願いします。大逆転を!
「おめでとうございまーす!!」パンパパーン
「貴方は10年に1人の特待転生に選ばれました! いよっ、憎いよ大将!」
先輩の言葉とクラッカーの煙が虚しく部屋に漂っている・・・
ダメだこの人、いや、この天使。
万年中級天使に期待した私が馬鹿だったんだ。
「だから、話は全て聞いたと言っただろーが」
「チッ、どうやらハッタリじゃなかったみたいだね」
「そっちの天使のポカで俺は殺されたそうだな。どう落とし前つけてくれるんだ?」
あぁ、やっぱり全てバレている。
この隠ぺい工作まで報告されたら二階級降格まであるかも・・・
「まぁそんなに興奮しないで私の話をお聞きよ。損はさせないから」
「俺が損する話しかしてなかったろーが」
「それはアンタが事情を知らなかったさっきまでのことさ。ここからはお互い有意義な相談を始めようよ」
「ほぅ、どんな相談をしようっていうんだ?」
「後退転生の書類にサインしてくれたら、一つ条件を飲もうじゃないか」
先輩の提案に人間の男は少し考えてから口を開いた。
「スキルの他にも特典を付けてもらおうか」
「な、なにが欲しいのかな?」
見るからに強欲で未熟そうな人間だ。不老不死にしろとか海賊王にしろとか中二心満載の条件を突きつけて来るに違いない。そんなの飲めるわけがない。
「・・・よ、嫁が欲しい・・・ポッ」
「ほっ、なんだそんなこゲフゥ!」
見えないパンチが私のみぞおちにクリティカルヒットし言葉をかき消された。
「そいつは難しいね」
「な、何故だ?」
「アンタこれまで一度もモテたことないだろ」
「くっ・・・」
「一度も女と付き合ったことがない男がイキナリ嫁を貰うなんておこがましいと思わんかね?」
「ぐぬぬ」
「そんな男の嫁になる女性が哀れだとどうして考えないのかね?」
「ああああああ・・・」
人間は泣きながら小さくうずくまっている。
いやでも、ここから先輩はどうするつもりなのか。
条件が嫁なんて破格の簡単さなのに断ってどうする?
この人間には後退転生してもらわないと私が困るんだけど・・・
「まぁ私だって鬼じゃない。見ての通り天使さね」
「え、それじゃあ・・・」
「叶えてやるよ。アンタの望みを」
「あぁぁ、ありがとうございます!」
「嫁さんに逃げられないように肉体も若返らせてあげようじゃないか」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
人間はもうお礼を言う人形と化している。凄いな先輩。見習おうこの交渉術。
「その代わり、スキルはあげられないねぇ」
え、ここからさらに交渉して条件を下げようとするのか。恐ろしいな先輩。
「そんなぁ、何も分からない世界でスキルもなしに俺にどうやって生きろと?」
「大丈夫だよ。厳密に言えば転生じゃなくて転移させてあげるからアンタには地球での知識と記憶が残ってる。それを使えば楽勝で生活できるさ。それに地球人の身体の特性だって活かされるからね。特に夜には。ムフフ」
「そうか、現代知識チートってやつだな!」
「そういうこと。一歩下がった世界に行くのも悪い事ばかりじゃないってことさ」
「そ、それで・・・夜にムフフってのはどういうことなんだ?」
「それは行ってからのお楽しみだよ。グフフ」
「き、期待していいんだな?」
「間違いなく私に感謝することになるさ。ウシシ」
「よし決めた! スキルはいらないから嫁をくれ!」
「よく言った! スキルより女を取るなんて男だねぇ。あとは書類にサインするだけで嫁はアンタのものさ」
先輩はそう言いながら私に早く書類を用意しろと目で催促してくる。
「ここにフルネームでお願いします」
私が書類を差し出すと、人間はおうと元気よく返事をして力強くサインした。
その書類を確認のために先輩に渡すと、何やら渋い顔をしている。何か不備があったかな?
「私ってば、漢字って読めないんだよねぇ」
先輩はそう言って書類を私に付き返してくる。
どうしてこんなポンコツが私と同じ四級天使なのか・・・はぁ~
「これは、荒井戸幾蔵(アライド イクゾー)と読むんですよ」
「違う! アレイド イクゾウだ」
どうでもいい。本当にこの馬鹿は面倒くさいな。死ねばいいのに。
「漢字すらまともに読めないなんて本当に天使か? 嫁の確保は大丈夫だろうな? 急に不安になってきたぞ」
「なんだいなんだい、男のくせにリバース・ブルーなんて情けないよ」
「いやしかし・・・」
「この四級天使ハチベエル様がきっちりとプロデュースしてやるさ!」
「アンタはドーンと構えて転生したらいいんだよ」
自信満々で先輩が畳み掛けると一応納得したようだが不安は消えていない。
「異世界に行ったら俺はまずどうすればいいんだ?」
「何もしないでいいんだよ。成り行きに任せれば嫁にたどり着くように私がシナリオを書いたからね」
「そ、そうか。流れに身を任せればいいんだな」
「そうそう。それじゃあ覚悟は決まったね。ボチボチ逝ってもらうよ」
「あ、天使なら分かってると思うが、俺の女の趣味は──」その先は先輩が言わせなかった。
「分かってるって。アンタすっごくオッパイ好きなんだろ? 朝100回・夜100回揉めばいいさ。嫁の巨乳をね」
「日課の腹筋みたいに言うのはよせ。あと、オッパイ以外も大丈夫だろうな?」
「全部分かってるから安心しな。なにせアンタのベッドの下とハードディスクの中は全て見させてもらったからね」
「ああああああ・・・」
人間はまた、むせび泣きながら小さくうずくまっている。
「じゃあ向こうの世界でも達者でやりなよ。グッドラック!」
人間の隣に黒い穴が出現したと思ったら、先輩が人間を蹴り落とした。
あああああというドップラー効果を残して私が殺した男は消えていった。
「さ、あとはこの書類を上長へ提出するだけだね」
それが問題だ。上長に痛い腹を探られるのが怖い。
「任せときなって。私が上に出しといてやるから」
「あ、ありがとうございます!」
「そーゆーわけだから、アレ買ってきといてよ」
「分かってますよ先輩。M78星雲カレーおごらせて頂きます」
「あのウルトラ肉が絶品なんだよねぇ。ジュルジュル」
先輩の気が変わらない内に私はビューンとカレーを買いに飛んだ。
「おお、うっかりハチベエルじゃないか。その書類、また悪さしたんだろ?」
「うっかりは止めなよ。そんなのはもう昔の話さ」
「今度はどんな初心者をカモにしたのか聞かせてくれよ」
「かくかくしかじかって感じかね」
「かぁー相変わらず悪い天使だなぁおい、どうせその男だってお前がビルの下に誘導したくせによー」
「アイツは地球に居たって死んだように生きてるだけだったんだから、これも人助けってなもんさ」
「言うねー。昇級ポイント稼ぎのために殺人を犯しといてその言い草。悪徳天使ここに極まれりだな」
「いやホントホント。あの男だって嬉し泣きしながら異世界トンネルくぐって行ったし」
「まあいいじゃねーか。アタシに綺麗ごと言ったってしょーがねーって」
「そーゆーマチガエルだってその書類、またやからしたんじゃないの?」
「うっ、まーな。似た名前の霊魂を取り違えちまった。テヘ」
「よくそれで私にうっかりだなんて言えるもんだよ」
「ま、天使なんて10人取り間違えてやっと一人前ってなもんだろ」
「そんな天使はアンタだけだって」
「フン、そんなことより、後退転生させたその男ヤバイんじゃないか?」
「なにがさ?」
「魔力の無い地球人でもちゃんと生きていける世界に飛ばしたのかって話だよ」
「あっ・・・」
「やっぱりお前はうっかりハチベエルだったな」
「いやいやセーフセーフ。向こうで生まれた命には魔力が宿るからワンチャン助かる・・・はず・・・」
まぁ直ぐに死んじまって煉獄センターに昇天しても私たちのことは口外できないから問題ナッシン。フヒヒ
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