第23話 夜這い 第2ラウンド 決死戦

「計算機ですか? ええ、もちろんありますわ」


 あるんかーい!


 えー、この世界ってば車はあるし家に大浴場もあるし照明もあるしで凄いのは分かってたけど、そのうえ計算機まで出てきちゃうの?

 あのイカサマ天使は現代知識チートで楽に生活できるとか言ってたが、学も専門知識も無い俺の出番なんか何処にもねーよ!

 この辺もちゃんと考えておかないとダメだな。

 ま、とりあえず今はせっかくの計算機を借りるとしよう。


「申し訳ありませんが借して頂けませんか?」

「もちろんですわ。少々お待ち下さいませ」

 エマさんは足取り軽くリビング正面のドアの向こうへ消えた。

 あ、今チャンスだな。


「レイラちゃん、僕にこの国の文字を教えてよ」


「もちろんいいよ!」

 嬉しそうに快諾してくれた。

 きっと兄である俺に頼られるのと一緒にいられるのを喜んでくれたんだ。


「どこか二人きりで邪魔されずに勉強できる場所はあるかな?」


 そう囁くように言いながら右手でスキンシップをしてみた。

「ん・・・それだと私の部屋だけど・・・皆が揃うまでダメェ・・・なの」

 抜け駆け禁止ルールか。

 俺の部屋もダメなんだよな。ナデナデ。さてどうしたものか。ナデナデ。

 

「ん・・・そうだ、屋根裏部屋なら・・・イイ・・・と思うの」


 屋根裏部屋か。まだ行ったことないが二人きりになれるなら何処でもいい。

「じゃあ決まりだね。明日からお願いするよ。あと皆には秘密だからね」

「OKだよ。なんか楽しみー」

 スキンシップで親密度が増したせいか、レイラちゃんは甘えモードに入って俺を抱き締め頬をスリスリしてきた。

 さっきお風呂でエマさんに抜いてもらってなかったらヤバかったな。

 

「お待たせ致しました」ガチャ


 このパターンは!

 まさかまたドアのとこで聞き耳を立てていたのか・・・ゴクリ

 

「もぉレイラったら、あまりイクゾー様に甘えすぎてはいけませんよ」

 えっ!?

 エマさんがこの密着を見ても荒ぶってらっしゃらない。

 一体どうしたんだ・・・?

 ニコニコと上機嫌のまま俺の左隣に座ってきた。

 

「もう少しだけー」スリスリ

 レ、レイラちゃん駄目ですよ!

 さすがにこれ以上は不味いと思いまぁす。


「本当にレイラったら仕方ないですわね」

 おやおやおやぁ。

 いつもならとっくにゴゴゴゴってなってるのに何故だ?

 怒ってくれないと逆に不安になってしまうじゃないか。

 本当にどういうこと。サッパリ分からん。


「恋人の余裕ですネ。さすが栗の花を咲かせるだけはあるのデス」


 ローラまだいたのか!

 高速移動だけじゃなく気配まで消せるとか凄いな。

 しかも妖術まで使えるらしいし。

 実はお前ってとんでもなく有能なんじゃね?


「栗の花のことは知りませんが、ワタクシはイクゾー様の言葉を信じているだけですわ」


 そうか、俺が言った巨乳好きとか二人は恋人とか女性として惹かれてるという言葉を全部信じてくれたんだな。

 それに恋人らしいことも結構やっちゃったもんね。ムフ

 何にせよこれは良い傾向だ。

 あとは俺がこの状況に胡坐 あぐら をかかず豆にエマさんとラブイチャすればいい。


 という訳でお尻をナデナデナデナデ。

「ん・・・イクゾー様・・・これが・・・計算機ですわ」

 エマさんの手には長方形の布袋があった。

 本当に計算機が出てきちゃったな。

 どんなものかも使い方も分からんからエマさんに教えてもらおう。


「エマさん、袋から出して使い方を教えて下さい」ナデナデナデナデ

「・・・はい・・・」

 エマさんは布袋の口紐を解いて中に手を差し込む。

 

 ジャラ、ジャラジャラ

 

 んんん?

 今なんか聞き覚えのある音が聞こえたな。何の音だっけ?

 エマさんは差し込んだ手を抜いて取り出したものをテーブルに置いた。

 明らかにそれは俺にも馴染み深く懐かしいブツだった・・・


「これが計算機のエイバックスですわ」


 ソロバンじゃーい!!


 いや、うん、そうだね。

 ソロバンだって手動計算機と言えないこともないよね。

 電卓がないだろうこの世界ではこれが計算機だよね。

 間違っちゃいない、間違っちゃいないよ。だけど・・・

 

 コレジャナイ感が半端ないっすわー。


 だがそれを表情に出してはイカン。

 エマさんを困らせては悲しませてはイカン。


「ああ!これ知ってます!祖国ではソロバンと言ってました!」


 努めて明るく嬉しそうに言ってみた。

「まぁそうでしたか。では使い方もご存じですのね」

「はい、分かります。少しの間お借りしても宜しいですか?」

「もちろんですわ。ワタクシはもう暗算ができますので必要ありませんから」

 暗算できるのか!

 俺は小学生の頃に学校でソロバン習ったけど暗算なんて全然できんかったわ。

 エマんさんやっぱり頭が凄く良いんだなぁ。惚れ直すわ。

 あ、ちょうどいいから時間の計算してもらうか!


「エマさん、暗算を少しお願いしてもいいですか?」


「もちろんですわ。イクゾー様のお役に立てるならいくらでも」

 お役に立ちますとも。

 んん、だが待てよ。計算せずともこの世界の時間なら把握してそうだな。

「ちなみに、1日は何分になるか、何秒になるかご存じですか?」

 この世界の1日は36時間、1時間は36分、1分は36秒でキリが悪いが。


「はい、1日は1296分で、46656秒になりますわ」


 おぉ、さすがだ。頭のいいエマさんなら知ってると思ったぜ。

 あとは地球の時間を計算してもらってその差も出してもらおう。

 1日24時間で1時間は60分、1分は60秒。これからだな。

「24かける60はいくつになりますか?」

「はい、1440になりますわ」

「それにまた60をかけると?」


「・・・・・・86400ですわ」

 

 そんなになるか!

 この世界との差が大き過ぎるだろ。

 さっきこの世界の一日の秒数は4万6千いくつと言ってたから4万秒も差があるぞ。

 この世界の一日は地球の半分ってことじゃないか。

 それは絶対にない。あり得ない。

 今日一日過ごしていて時間的にはほとんど違和感なかったからな。


 ふぅ、また新たな謎が浮上してしまった。名探偵求む!


「イクゾー君、変な顔してどうしたのー?」

「何かお悩みですかイクゾー様?」

 うっ、心配は有難いのだけど今は推理に集中したいのだ。

 という訳で二人を黙らせるために仕方ないのだ。ムフ


 お尻ナデナデナデナデナデナデナデナデ


「んん・・・」

「あぁ・・・」

 よし、成功だ。今の内に考えをまとめよう。


 ・・・・・・・・・・・・

 時計だな。

 謎を解く鍵は時計にあるはずだ。

 俺はリビングを見渡して時計を探した。

 うーん、大きなのっぽの置時計は見当たらないね。

 あっ、リビング正面側の壁にある棚に普通の置時計発見!


 時計の文字盤はやはり1から18で正午が18時となっている。

 各数字の間には一つだけ目盛りが振られていた。

 それによって36分割になり1時間の36分が長針の位置で分かる。

 秒針はついてないようだ。

 とりま俺は長針の動きに注目した。


 んんんんん、これって遅くね?


 1分が36秒ならもっと早く進むはずだ。

 この動きだとまるで地球の1分の60秒と変わらないよな・・・


 あっ!!!


 ビビビッと来たわ。

 恐らくこれで間違いない。

 あとは確認するだけだ。


「レイラちゃーん、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なーにぃ?」

 尻ナデ効果でトロンとしたレイラちゃんは少し気だるげだ。


「10秒を声に出して数えてみてくれるかな?」

「うん、いいよー」

 それでも素直にお願いを聞いてくれるレイラちゃん、ホント大好きだよ。

 

「いーちぃ、にーいぃ、さーーん、しぃーい、ごぉーお、」


 やっぱりか・・・

 謎は全て解けた!

 しかし、こいつはちょっと意表を突かれたぜ。



 1秒のテンポが、長さが違うとはな!



 時計の長身の動きを見る限りこの世界の36秒と地球の60秒は同じだ。

「・・・きゅーう、じゅーう、終わったよ」

「レイラちゃんありがとう!凄く為になったよ!」ナデナデナデ

「んん・・・良かったぁ」

 よし、これで秒数を気にする必要はなくなった。


 となれば、地球の1日1440分とこの世界の1日1296分の差だな。


「エマさん、1440から1296を引くといくつですか?」


「はい・・・144になりますわ」


 あ、無意識にスキンシップを継続してたからエマさんもトロンとされてらっしゃる。

 いつまでも触っていたいけどこの辺にしておかないときりがないな。

 俺は最後にギュッと尻肉を掴んでたら手を離した。

 エマさんはたっぷりと濃厚接触されて満ち足りた顔をしている。よかよか。


 さて、144分というと2時間24分ほどこの世界は一日が短いのか。


 意外と差があったな。

 でも、昼と夜でそれぞれ1時間ちょいの差と考えれば、ほとんど違和感を覚えなかったのも理解できる。


 あとは、この差が1年でどのぐらいになるかだな。

 この世界は1年が432日だけど、それを加味すれば地球と1年の長さが大して変わらないのかもしれない。

 だが今日はもう頭を使い過ぎたんでその辺はまた今度にしよう。


「僕はそろそろ休ませて頂きますね」


「はい、本当にいろいろとお疲れ様でした」

 そうですね。本当にいろいろやりましたよね。ムフ


「レイラ、そこで寝てはいけませんよ。お部屋に戻りなさい」

 あ、尻ナデでトロンとしてると思ったけど実はお眠だったんだな。ハハハ

 素直なレイラちゃんはおやすみなさいと言ってお部屋に帰っていった。


 ん? そうえいばいつの間にかローラの姿がない。

 ほんと神出鬼没な奴だ。

 ローラほど見た目を完全に裏切ってる奴も珍しい。

 しかし、そうなると今はここに俺とエマさんの二人きりか!

 お風呂で二回も抜いてもらったのにまた疼いてしまうな。


 エマさんも夜のリビングで二人きりという状況に何かを期待してるご様子。

 うん、恋人としてここはその期待に応えるべきだな。

 俺は両手でエマさんの顔をしっかりとホールドして突撃した。


 むちゅぅぅううううじゅるじゅるじゅる プハァ~

 むちゅぅぅううううじゅるじゅるじゅる プハァ~

 むちゅぅぅううううじゅるじゅるじゅる プハァ~


 俺はキスの間の息継ぎを会得した!


 お陰でなんとかベロチューに成功したな。

 あとは回数をこなしながらエマさんのツボを掴むだけだ。

 まぁ今でもエマさんは十分に満足してくれてるようだけど。


「このままだと最後の一線を越えそうなので行きますね」

 

「・・・はい、ワタクシもこれ以上は自分を抑えられそうにありません」

 力強く抱きしめてからおやすみなさいと言って俺は階段を上っていった。

 エマさんは俺の姿が見えなくなるまで見送ってくれていた。



 部屋に戻って直ぐに左奥にある机に向かった。

 引出しから紙を取り出し備え付けのガラスペンを手にした。

 少し状況整理をする必要がある。

 現在の課題とその対策を書き上げていこう。

 まず俺が異世界に来た最大の目的である嫁取りからだな。


 ・エマさんロリ婚問題

 俺の嫁はもうエマさんと決めている。しかし障害が発生した。

 この世界では暦の違いで俺は12歳になるので行き遅れ年増聖職者のエマさんには醜聞になってしまい下手したら除籍・破門になってしまう。

 この対策はこの家に住む女冒険者6人全員を嫁にすることだ。

 それによってエマさんとの結婚が埋没し話題・問題にされることがなくなる。

 俺は貴族として認められたのでこの国では6人まで妻を娶ることができる。

 あとは、既に攻略したエマさん以外の女を落とすだけだ。ま、そこが一番難しいが。


 ・魔力の無い俺は深夜に凍死する

 この国の深夜はとにかく寒い冷たい。普通に凍死する。

 この対策は魔力を他人から摂取することだ。

 昨夜はヴィンヴィンの汗を飲むことで魔力を吸収することができた。

 今現在も寒さを全く感じない。だがいつまで持つか分からない。

 エマさんとレイラちゃんの汗には魔力が含まれていなかった。

 ダークエルフのローラは汗に毒がある可能性もあるので迂闊に試せない。

 現時点ではヴィンヴィン頼みだがこれ以上弱みを握られたくないし、そもそもまた大人しく汗ペロさせてくれるとは思えない。

 エマさんに相談するべきだろうが、エマさんも魔力循環障害を抱えているし、俺も正直知られたくない。俺に魔力が無いと知ったエマさんの反応が怖い。

 だから可能な限り自分自身で解決したい。

 それが無理ならば最初にギルマス兼町長のラムンに相談しよう。

 

 ・この世界の文化・習慣が分からない

 異世界なんだから当たり前だが文化が違い過ぎる。

 一刻も早く学習しなくてはならない。

 この対策はこの国の文字を学んで新聞や本を読むことだ。

 その為にレイラちゃんから文字を教わることにした。

 すっかり妹になったレイラちゃんをまた恋愛モードにするチャンスでもある。

 エマさんに教わったこの世界の暦・時間もさらに理解を深める必要があるな。

 

 ・地球からの転生者ロビン・モア

 300年ほど前に転生してきたようだ。メトリック法をこの国に導入した。

 彼のことを調べれば何か得るものがあるはずだ。

 何しろ俺と同じ転生者なのだから。

 俺に今起こっていることこれから起こることは彼にも起こったはずだ。

 それにどう対処して、将軍・名宰相にのし上がったのか知りたい。

 この対策は、ラムンからもらったロビン・モアゆかりのお宝(眉唾)や図書館・記念館、彼の遺跡を探索したエマさんなどから情報を得ることだ。


 ふぅ、ざっとこんなところか。

 他に特筆することがあるとしたら、この三つかな。


 ・この世界は中世ではなく近世・近代ぐらいの文明がある

 頭の悪い俺には現代知識チートなんて無理のようだ。

 

 ・ギルマス兼町長のラムンから裏仕事の男娼を勧められた

 15歳思春期の有り余る性欲解消と金儲けができるがリスクもありそうだ。

 性欲問題はエマさんの下着とスキンシップで乗り越えられる目途はついた。

 ただエマさん似の熟女だけはお相手してみたい。熱烈に。ムフ


 ・弱小ギルドをテコ入れし町を発展させやがて支配する

 協力者であるラムンを利用し権力を手に入れる。

 いざという時にエマさんたちを守るためにも。

 テコ入れの方法はまずギルドの内情を調べるところからだな。


 細々とした事はもっとあるがザックリとこんなもんだろ。

 しかし、本当にやる事が山盛りだ。

 まぁ一つ一つ焦らずにやって行くしかない。

 とりあえず明日からでも取り掛かれるのは、エマさんたちとギルドに同行しラムンからギルドの運営状況を聞くことと、その後に家でレイラちゃんに文字を教わることか。


 よし、今日はもうこの辺にして寝よう。

 だが状況が整理できてやるべき事がクリアーになると妙に覇気が出てきて眠気が吹き飛んでしまった。

 さてどうするか。

 今できることは・・・おぅ、持ち帰ったロビン・モアのお宝があったな。

 少しチェックしておくか。


 ドアに近い応接セットへ移動してソファーに座る。

 テーブル脇に置いた二つの木箱を見やると一つは書物類、もう一つは遺品らしきものが入っていた。

 書物を一冊手に取ってみる。

 ペラペラペラペラ

 ・・・うん、読めん。

 分かっちゃいたが、悲しいものがあるな。


 あっ、待てよ。

 これをレイラちゃんとの文字勉強会に使ってもらおう!

 学習しながらロビン・モアの情報が得られて一石二鳥じゃないか。

 ふふふ、覇気が充満して冴えてきたな俺。


 ブルブルブルブル


 あれ、本が、いや俺の手が、震えてる?


 ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル



 ヴィンヴィンから摂取した魔力が切れたんだ!!



 そう自覚した途端に一気に寒さが深夜の冷たさが身体を襲ってきた。

 おいおい、これって昨夜よりも寒くないか?

 いや、気温は昨夜と変わってなくて俺の感じ方が変わったのかもしれん。

 これまで魔力で守られていた分、その揺り返しが酷いんだ。


 ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル


 そうだった。喉元過ぎて忘れてた。凍死しそうなこの寒さを。

 いやだ死にたくない。エマさんを残して逝きたくない。

 今の俺には選択肢なんてない。行くべき道は一つしかない。


 またヴィンヴィンに夜這いを仕掛けるしかない!


 そう決意した時にはもうドアノブに手をかけていた。

 あとは昨夜と一緒だ。

 細心の注意を払ってヴィンヴィンの部屋へ侵入した。


 ほぼほぼ暗闇なのも昨夜と同じだった。

 また匍匐前進ほふくぜんしんでベッドの下まで進みペラペラの掛け布団をめくりスネークした。


 ヴィンヴィンの寝相も昨夜と一緒だ。

 こちらに背を向けて安らかな寝息を立てている。

 俺は寝汗を求めてその背中へとゆっくり近づいた。

 ここまで来たら焦りは禁物だ。

 魔力の含まれた汗を確実に大量にゲットしなくてはならない。


 まずクンクンと匂いを嗅いだ。

 ヴィンヴィンの汗は甘酸っぱい芳香を放つからだ。


 だが無い。嗅覚が何も感じない。

 今日はどういう訳かあの甘く人を狂わせる匂いがしない。

 ど、どうしてだ?

 不味い、このままでは凍死する、考えろ、考えるんだ!

 昨夜との違いは何だ・・・・・・


 あっ、分かった。


 昨夜はまず背中に張り付いてその後に背後から抱き着いたんだった。

 きっと俺の体温によってヴィンヴィンは寝汗をかいたんだ。

 となると今夜も抱き着くしかない。

 恐らく目を覚ますだろうけどその時はその時だ。他に手はない。

 よし!覚悟完了!突撃開始!

 

 俺が抱き着いた瞬間、女体がビクンと反応した。

 やっぱり、起こしちまったか・・・・・・?

 スースースースー

 ふぅ、穏やかな寝息が聞こえる。セーフセーフ。

 あぁ、人肌の体温は本当に温かいナリ~。


 3分程そうしていただろうか、今夜もまた肌が接触していない部分がどうしようもなく寒くて震えが止まらなくなっていた。

 早く、早く汗をだしてくれ、頼むから、汗をお与え下さい女王様!

 無意識にヴィンヴィンを抱きしめる腕に力がこもった。

 その時、あの甘酸っぱい匂いが俺の鼻腔をくすぐった。


 寝汗キター!

 

 俺はもう夢中になって背中に浮かび上がる汗を舐めていく。


 ぺロペロぺロペロぺロペロぺロペロぺロペロぺロペロ


 昨夜はここでヴィンヴィンが声を上げたけど今夜は無反応だ。

 よく分からんが俺にとっては好都合。

 そのまま舐めとった汗をゴクリと飲み干した。


 すると即座にジュワーっと体が内側から温まっていく。

 これだ、これだよ。やっぱヴィンヴィンの汗はモノが違う。

 体が熱くなるだけじゃなくて神経まで研ぎ澄まされていく。

 五感が鋭敏になった俺はまたヴィンヴィンの脇の下に汗の匂いを嗅ぎ取った。

 魔力に浮かれた俺はもうその誘惑に耐えられない。

 細くて優美な右腕を持ち上げて脇に溜まった汗を舐めとっていく。

 

 ぺロペロぺロペロぺロペロぺロペロぺロペロぺロペロ


「アン!」

「アン?」ヤ、ヤバイ。

 さすがに乱暴すぎて起きちまったか・・・

「アン・シャーリーはギルバートと結婚するのよ」スースースー

「ホッ、なんだ寝言か」

 俺は舐めとった汗を全て飲み干していく。

 うおおおおおおおおおキタキタキター!

 体中がホカホカしまくり全身の感覚が覚醒したような心地がたまらんわ。


 その効果と凍死を免れた安心感で余裕が出来た俺は今さらながら気づいた。

 ヴィンヴィンは昨夜は着ていたベビードールを今夜は着てない。

 どういうことなんだろう?


 童貞の俺には女の子の寝巻事情なんてサッパリ分からないよ。

 とにかく、ヴィンヴィンが今身に付けているのは一つだけ。

 メッチャ幅の狭いローライズみたいな下着だけ穿いていた。


 そんなヴィンヴィンと深夜に同じベッドで密着しているという状況が俺を興奮させた。

 既に十分な魔力を摂取していたが、下着ギリギリのお尻付近を舐め回す。


 ぺロペロぺロペロぺロペロぺロペロぺロペロぺロペロ


「ラァメェ!」

「ラァメェ?」へ、下手こいた。

 さすがに尻舐めはトリッキーで攻めすぎだったか・・・?

「ラ、ラァ・・・ラーメンマンとモンゴルマンは同一人物よ」スースースー

「ホッ、なんだ寝言か」


 そんな訳あるかーい!!


 これ起きてますね。

 ヴィンヴィンさん、確実に気付いてますよ・・・


 いや、そんなの最初から全部分かってたよ!!

 

 昨夜だってそうだったからな。

 気づいていたのに放置してあとから脅しをかけてきた。

 だが今はどうして気付かない振りをしてるんだ?

 これ以上まだ俺の弱みを握ろうとでもいうのか?

 

 だがそんな疑問はゴクリと飲み干した汗が全て吹き飛ばしてしまった。


 昨夜の倍ぐらい摂取した魔力によって俺の頭はハイになっていた。

 体中の神経が覚醒して万能感に支配されてしまっていた。

 ヴィンヴィンが何を考えていようが知ったことじゃない!

 そっちがその気なら俺は好きなようにさせてもらうぜ!!


 ぺロペロぺロペロぺロペロぺロペロぺロペロぺロペロ


 顔と胸と下着ゾーン以外は全身くまなく舐め尽くした。

 髪の下に隠れていた上品なうなじ美味しゅうございました。

 形の良い足指の間を舐める背徳感素晴らしゅうございました。

 太ももに滴る濃厚な匂い付きの汗大変興奮いたしました。


 それらの汗を全て体内に取り込んだ俺は魔力ハイが極まった。


 今なら出せそうな気がする!


 炎玉 ファイアボール が打てそうな気がする!!


 俺はフラフラとベッドから抜け出し窓際へと歩いていった。

 ほとんど真っ暗に近い部屋の中なのに何故か薄っすらと見えていた。

 俺は窓を開け放つと二三歩下がり、ふぅ~と息を吐いた。


 ぐっと腰を下ろして左足を前に右足を後ろにして踏ん張る。

 アレだ。

 ドラゴンボールの必殺技の体勢だ。


 体内を駆け巡る魔力により何でも出来そうな万能感が俺を突き動かしていた。


 打てる。今なら放てる。


 炎玉かアレか分からないが何かが出るはずだ。そんな確信があった。

 俺は両手をアレの形にしてへその前へ持ってくる。

 気を集中させてココだというタイミングを待ち続けた。


 キタ! 今だっ!


「・・・かーーめーーはーーめーー波ァァァアアアアアアア!!!」

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