第34話 個人面談 ヴィンヴィン編

「エマは優さしいだけの女じゃないわよ。後で本性を知って逃げ出さいことね」


 エマの本性?

 行き遅れ年増女であることを気に病んでいる厳格な女司祭で聖母のような包容力があること意外にどんな性質を持っているというんだ。

 しかも俺が逃げ出すような恐ろしい性質をまだ隠し持ってるというのか?

 ちょっと想像がつかないな。

 

「どういう意味ですか?」


「今に分かるわ。嫌でもね。その時のアナタがどんな顔をするのか楽しみだわ」

 えー、教えてくれないのかよ。

 俺の腕の中で幸せそうに蕩けていたエマに実は怖い本性が眠ってるとか言われたらメッチャ気になるのに酷いじゃないかぁ。

 まぁいいさ。たとえエマにどんな属性があろうと俺は逃げん。絶対にだ。


 

「それでどんな結論が出たのかしら?」

 ヴィンヴィンの部屋に入って一人用の高級ソファーに向かい合って座ったあと、ガラステーブルのワインで口を湿らせたツンドラ魔導師がいきなり本題に入った。

 そうだな。俺たちはもう行くとこまで行ってしまってる。

 今さらあーだこーだ言うことなんて何も無い。

 あとは答えを出すだけだ。


「ヴィンヴィンさん、僕と結婚して下さい」

  

「・・・ま、当然よね」

「え、当然なんですか?」

「私にあれだけの事をしておいて責任も取らないつもりだったのかしら?」

「もちろん取るつもりでしたよ。でも・・・」

「でも何なの?」

「僕でいいんですか?」

「ええ、アナタなら文句なく合格よ」

 おおぅ、青肌の女王様が俺をここまで評価してくれてたとは!

 俺は感動と愛情を滲ませた視線でヴィンヴィンを見つめた。


「私が求めているのは愛する夫ではなく優秀な種馬だもの」

 ですよねー。

 15歳男子の無尽蔵の子種とそれに含まれる大量の魔力がツンドラ魔導師の目当てだった。ああ、よく分かってたさ。

 でもいいんだ。このエレガントで高慢な生ける芸術品と子作りできるなら、結婚できるなら、理由なんて何だって構わない。

 

「ヴィンヴィンさんと結婚できるなら種馬で十分です!」


「そ、そうよね。光栄に思いなさい」

 ふふふ、侮辱したはずが喜ばれてちょっと照れてますね。

 いま一つ冷酷になり切れないところが可愛くて素敵ですよ僕の女王様。


 さて、ここまでは想定内。

 ここからどう話が転がるかは神のみぞ知るだ。

 よし、覚悟を決めて突撃開始。


「昨夜、エマと最後の一線を越えました」

 

「今さらね。皆知ってるわ」

「いやでも、エマの喘ぎ声だけでは判断できないでしょう?」

「エマだけでなく、アナタの声も聞こえてきたのだけど」

「えっ!? 僕が何か決定的なことを言ってましたか?」


「俺の子をはらめ!はらめ!と何度も叫んでたわね」

 うわちゃー。


 つばめ返しや秘技ハーケンクロスだけでなく言葉責めまでやってたかぁ。

 憶えてないからエマのラブジュース飲んで魔力中毒になった後だなきっと。

 まぁとにかく、エマと一線を越えたことに怒ってる様子はない。

 正直ホッとした。でも次だよなぁ。本当の難関は。さあ行くぞ。


「僕はエマとも結婚します」


「そう」

 それだけかーい!

 アッサリ納得してくれたけど本当にそれでええのん?

 いや、何も言うまい。

 せっかく、たった一言でこの件は片付いたんだ。蒸し返したら駄目だ。

 それよりも、その次の最大の難所に踏み込もう。よし行け!


 「他のパーティーメンバー4人とも結婚します」

 

 「どうしてかしら?」

 さすがにこれは物言いがついたか。

 ヴィンヴィンは桜色の唇を一文字に引き結び漆黒の両眼で俺を睨みつける。

 ひゃー、下手なこと言ったら一瞬で消し炭にされそうだ。

 でも、本当のことをちゃんと説明しないとな。真っ白な灰にされようとも。


「エマとの結婚のためです」

「いつかギルドの食堂で言ってたギルマスが授けた策がこれなの?」

「そうです。聖職者のエマが12歳成人になったばかりの僕と年の差婚をすれば迫害を受けます。でもメンバー全員と結婚すれば6つの婚姻の中に埋もれて悪目立ちしませんし、何も知らない子供の僕を誘惑したなどと下衆な中傷をされることもないはずです」


「フーン、つまり私に夜這いを仕掛けたのもエマの為だった訳ね」

 ツンドラ魔導師の胸に輝くペンダントが浮き上がって威嚇的な音を立て始めた。

 遺憾!られる!

「違いますよぉ。夜這いとハーレム婚計画は全く関係ありませんからっ」

「本当かしら?」

「本当ですって!純粋にヴィンヴィン(の魔力)が欲しかっただけです!」

 空中遊泳していた金のペンダントが引力に従い女王様の胸の上に着地した。

 ふぅ、どうやら大炎上バッドエンドは回避できたようだ。セーフセーフ


「ま、分かってたわ。初日の夜這いはギルドに行く前だったものね」

 あっ、そうだよ。意地が悪いなぁもう。

 ヴィンヴィンは唇の端を吊り上げてニヤリと笑ってる。

 さっきまで睨んでたのに急に上機嫌になったな。

 そんなに俺を焦らせたのが嬉しいのかよ・・・いや、そうじゃないか。


「僕に言わせたかったんですね」

「何のことかしら?」

「夜這いはエマの為じゃなくて僕がヴィンヴィンさんを欲しかっただけと言って欲しかったんでしょ?」

「自惚れもいいいところね」

 まったく素直じゃないなんだから。

 でもこれからはビシバシ愛情表現してやるぞ。もう俺の嫁二号なんだから。

 おっと、話が少し逸れたな。肝心な案件の了承を得ないと。


「話を戻しますが、ハーレム婚の件、承諾して頂けますか?」


「そうね、認めてあげてもいいわよ」

「ありがとうございます!」

「ただし条件があるわ」

 まぁそう来ると思ってた。お願いだから無茶ぶりは止めてくれよ。

 自分だけ特別扱いしろとか最初に子を産ませろとか言いそうだなぁ・・・

「・・・僕にできることなら何とかします」


「エマと私を妻として対等に扱いなさい」


「そ、それだけで良いんですか?」

「あら、まるで簡単みたいに聞こえるけど出来るのかしら?」

「え、いや、その、多分できると思います・・・けど」

「ではエマとやった回数だけ私ともやるのよ。良いわね?」

 そんなことならむしろ願ったり叶ったりだよ。

「喜んで!」

「フン、自分の言葉には責任持ちなさいよ」

「もちろんです。じゃあ早速今夜から実行しますね」

 やったー、今日はエマとヴィンヴィンを二人とも抱けるぞー。

 何だかすっごいウキウキしてきた。早く夜にな~れ~。


 しかし、思いの外すんなりと話がまとまったな。

 もっとこじれて即死エンドまであると覚悟してたのが馬鹿みたいだ。

 あ、そういえば、エマが皆それぞれに事情があると言ってたな。

 それで伴侶に選ばれなかった者は愛人になる予定だったらしい。

 その点もクリアにしておいた方がいいか。今後の為にも。


「伴侶に選ばれなかった時は愛人になるつもりだったのですか?」


「・・・そうね。相手次第でそうしたと思うわ」

「そこまでする事情とは何なのです?」

「私の故郷イースラントを襲った災厄の話はアナタも聞いたはずよ」

「数十年前から男性が生まれなくなったんでしたっけ?」

「ええ、若い男たちがいなくなって大変なことになってるわ」

「そうでしょうね」

 人口激減は待った無しだろうし、適齢期の女性たちが売れ残った中年男性を奪い合わないといけない地獄絵図が繰り広げられてるかもな。


「私は長女だから子孫を残す責任があるの」

 それで男を求めてはるばる海を渡りこの国まで来たってことか。

「なるほど。事情は分かりました。僕に任せて下さい」

「子供なんてそう簡単に出来るものじゃないわよ。分かってるの?」

 えっ、危険日にガンガン中出しすれば簡単にできるんじゃないの?

 三日前まで童貞だったから分からんわ。

 んんん?

 もしかして、この異世界にはまだオギノ式が普及してないのか!


「安全日とか危険日って聞いたことありますか?」


「知らないわ。日によって安全とか危険とか意味が分からないわね」

 やっぱりかー。

 そういうことなら矢張り任せてもらいましょーか。

 ツンドラ女王様の危険日を把握して直ぐにも孕ませてやらー。

 ふふふ、諦めていた現代知識チートが初めて炸裂しそうだな。

 

「不気味ね。何をうすら笑いしてるの。気持ち悪いから止めなさい」

 おっと、ヴィンヴィンのボテ腹を妄想してたらつい表情が緩んじまった。

「すみません。でも大丈夫ですよ。来年には僕たちの子を抱かせてあげます」

「な・・・フン、もしそうなったら何でも言うこと聞いてあげるわ」

 マジでっ!

「約束ですよ!絶対ですからね!」

 うはっ、この高慢女王様に好きなことできるなんて。ありがとう荻野博士!


「その代わり、駄目だったらアナタが私の言うことを聞くのよ?」

「分かってます。分かってます」

 よっしゃー、やる気満々で体中がみなぎってきたー。

 とりま危険日とか関係なくガンガンやりまくるぞー。

 あっ、俺をその気にさせるのが狙いだった? 腹黒魔導師の手で踊らされた?

 子供欲しさに演技までして俺の前に餌をぶら下げた可能性あるな。


 ま、計略だろうが素だろうがどっちでもいいさ。

 俺はもうとっくにこの青い肌をした美少女の身体と魔力の虜なんだから。

 俺の子種とその魔力を求めてる彼女とは実はお似合いかもしれない。

 だからきっと上手くいくさ。そんな気がする。

 よし、今日のところはこれで引きあげるとするか。


「では失礼します。僕の求婚を受けてくれてありがとう、ヴィンヴィン」


「だから呼ぶ時は『さん』を付けなさいって言ったでしょこのエロ助!」

 ひゃー、もう夫婦みたいなもんなのにこの扱い。

 上手くいくどころか前途多難な気がしてきたー。

 俺は致死レベルの魔法が飛んでこない内に這う這うの体で逃げ出した。

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