第98話 町営住宅から漂う財政難
「これが町営住宅かよ………時代を感じるというか、ぶっちゃけボロいな!」
アトレバテスからウェラウニに戻って来た俺たちは、そのままこの町に移住させる家出人6名の住居へ直行した。
そのあばら家は、町の魔獣返しである水路を東に出て、徒歩なら20分ほどになる
今はその木造づくりのアパートの前で呆然と立ち尽くしているところだ。
「なぁにぃイクっち~、アタシが用意した家に文句でもあるの? 田舎町の財政難を舐めちゃダメだってば。ぶっちゃけボンビーなのよ~♪」
マジかぁ。俺の町(予定)なのによぉ。ま、薄々分かっちゃいたけどな。
「アレー様、我々はこれで引き上げますが、他に何かご用や署長への伝言はありますでしょうか?」
アトレバテス南署から車を出してくれたハラデイ警部補が、うな垂れている俺とは対照的にビシッと直立不動で声をかけてきた。
「特にない。強盗殺人課の警部補に運転手などやらせてすまなかったな」
「とんでもありません。アレー様は署長だけでなく南署全体の恩人ですから」
警部補の言葉に隣で立っている新米刑事もうんうんと頷いてる。
ふむ、都市ともなると、分署同士が対抗して手柄争いが激しいのだろう。
「あ、そうだ。そっちに残したディアーナたちのことはくれぐれも頼む」
「承知しました。生活保安部と機捜にも重点パトロールを命じておきます」
「感謝する。また近い内によらせてもらうのでよろしくな」
「はっ、では失礼致します!」
警部補はビシっと敬礼して別れを告げると、若い刑事と一緒に警察車両に乗り込んで帰路へついた。俺もラムンじゃなくてあんな部下が欲しいわ……
「さて、ここで突っ立ってても始まらん。とっとと部屋割りを済ませよう」
俺はティアが作った資料をめくって目を通す。ま、名前しかまだ読めんが。
「えーと、ギルバートとルビーのギース兄妹はどこにいる?」
「俺たちです」
170センチくらいの筋肉質の男が、左腕で妹を抱いて前に出てきた。
そうそう、こいつがギルバートだったな。
ダボンヌ製糸工場で奴隷扱いされてきた家出人たちは皆、10代なのに人生に疲れた中年のような暗い顔をして気力を失っていたが、ディアーナとこのギルバートだけは違った。体は痩せていたが気迫は衰えていなかった。
その理由は、左腕の中にいる妹だ。
兄として守るべき存在があったからこそ心を折らずに耐え忍んでこれたのだ。
それは、やはり妹が一緒にいたディアーナも同じだった。
「お前たちは手前のA棟の5号室だ。直ぐに掃除と片付けを始めてくれ。そして足りないもの必要なものをリストアップするんだ」
「はい」
ギルバートは返事だけをして鍵を受け取ると、妹と一緒に部屋へ向かった。
「次は、マッシュとネッドだ」
「……僕たちです」
うん、二人ともヒョロい。今は栄養失調で痩せてるってのもあるが、もとからこんなだろ。とても冒険者は務まりそうもない。他の仕事を探してやらねば。
「お前たちも手前のA棟の6号室だ。以下同文」
「……はい。頑張りまっしゅ。デュフ」
え、今ちょっと軽くボケて、しかも自分で笑った?
二人は鍵を受け取ると、部屋に向かってトボトボと歩き出した。
こいつはまた別の意味で前途多難っぽいなぁ。
しかし、ティアはどうしてあんなのを採用したんだよ。マジ解せん。
「最後に残った君たちがミランダとロレッタだね。部屋はB棟の3号室だ。僕も室内を見てみたいから一緒に行くよ」
A棟の東隣になるB棟へ歩き出したが、肝心の少女二人がついてこない。
ピッタリと抱き合って小刻みに震えながら泣きそうな目で俺を見ている。
いや、ちげーよ。そんなつもりは1ミリもないってばよ。
「アタシも一緒に行ってあげるから大丈夫よ~♪」
ティアに背中を押されてやっと覚悟を決めた少女たちはおずおずと歩き出す。
むぅ、この子たちもトラウマが深そうだ。何とかしてやらねば。
「へぇ、中はわりと広いし住みやすそうじゃないか」
右端にある玄関から入って左が12畳くらいのリビングで、その奥にキッチンがあった。リビングの左側には個室に繋がるドアが2つ見える。
リビングの右側にはトイレと風呂までついていて、脱衣場には魔道具の洗濯機がドンと存在を主張していた。
キッチンにも冷蔵庫があったし、個室にはちゃんとベッドもあるようだ。
日本的に言うなら、家具付き2LDK風呂トイレ別といった感じの物件だな。
うむ、これなら若者が新しい生活をおくる拠点として十分だ。ボロいけど。
「ローラは二人を手伝ってやってくれ。ティア、ちょっと外へ行こう」
俺たちはA棟とB棟の中庭に植えられた木々の下にあるベンチに座った。
「住人に見せつけながら種付けなんて犯罪よ~。ハ・ン・ザ・イ♬」
「嬉しいお誘いだがそれはまた今度な。今は聞かねばならんことがある」
「なぁにぃ?」
「いや、お前が選んでココへ連れてきた家出人たちだが、どう見ても冒険者が務まるようには見えんぞ。ギルバートくらいだろ使えそうなのは」
「アタシは彼女たちを冒険者にするつもりはないわよ~」
「は? 冒険者としてウェラウニに住まわせるとお前が言ったんじゃないか」
「無職だと町営住宅に入居できないから便宜上そうしてるだけよ~」
「そういうことか。納得した。で、実際は何をさせるつもりなんだ?」
「ミランダとロレッタは家事が得意で、工場の社員寮でも料理や裁縫をやってたんだって。だから、エマ道場でメイドにするのが適任だと思うわ~♪」
「なるほど。とりま料理人のレオンの下につけてみるか」
「マッシュとネッドの二人はとにかく手先が器用らしいわ。工場では逆にそれが災いして扱き使われてたみたいだけどね~」
「仕事ができる奴あるあるだな。不憫なことだ」
「その手先の器用さをペーターの印刷工房で発揮してもらうわ~♪」
「そうだな。木工細工でもいいが、人手が足りないのはペーターの方だ」
「ギルとルビーは難しいわね。ギルだけなら冒険者で問題ないけど、妹と離れるのは嫌がりそうでしょ。二人セットの仕事をどうするかよね~」
「ルビーは何が得意なんだ?」
「それが何の取り柄も無いって言ってたわ~」
「うーん、兄が過保護すぎて何もやらせてくれないからってことはないか?」
「鋭いじゃな~い。実は私も、ルビーは良い足してると睨んでたのよ~♪」
「おい、良い足してるってエロい意味じゃないだろうな?」
「イクっちと一緒にしないでくれる。運動能力のことに決まってるでしょ~」
「ならいい。ともかく、ピーナに判断してもらって、冒険者としての適性があれば、兄と一緒にユニットを組ませよう」
「それが良いわ。この家もアウターにあるから物騒だしね。ガチの冒険者がいれば少しは防犯に役立つってもんよ~♪」
「そうだな。町営住宅をぐるっと水路が囲ってるから魔獣は大丈夫そうだけど、野盗が来たらどうにもならんもんな」
「まぁ、貧乏人しかいない町営住宅を襲うマヌケな野盗なんていないはずよ」
「なるほど。それに、彼女たちがココに住むのも半年程度だしな」
「どうしてそうなるの?」
「そりゃ、この辺は全部、商工業地区にして再開発するからだろ」
「え~、こっちの東側にするの? てっきりアトレバテスに近い町の南側にするんだと思ってたわ」
「だけど向こうは森が多いから開拓に時間がかかるだろ。その点、こっちは荒野ばかりだから直ぐに開発ができる」
「その分、土地に栄養がないけど、商工業地区なら問題ないわね~♪」
「だよな。そういえば、悪徳不動産王のアーク・ドイルが南側の土地を買い占め始めてるらしいぞ」
「イクっちがここを町から市にすることを知ってるから、先回りしのたのね~」
南側を開発するとそれとなくアイツに伝わるように噂を流していたからな。
まんまと引っかかりやがった。ギリギリまで教えてはやらん。
「アイツも町議員だから、その内に本当のことを知るだろうさ」
「その時にどんな顔をするのか見モノよね~♪」
「ああ、その為にもサクサクと開発を進めよう」
「商工業地区が完成したらこの町の財政もやっと潤うわね」
「そうそう、その辺が聞きたかった。この町の財政ってどんな塩梅なんだ?」
「うーん、アタシもまだ詳しく調べてないんだけど、カツカツなのは確かよ」
「もうちょっと具体的に頼む」
「たしか去年の収入が2000万ドポン(40億円)くらいで、赤字だから領主に支援金をもらってる有り様ね。当然、繰越金なんてまったく無いわ」
町の予算がたったの40億円かよ!
これってかなり少ないよな。たぶん。知らんけど。
実際、赤字だから、この町営住宅だってオンボロのままなんだろうし。
「どうしてこんなにビンボーなんだ?」
「圧倒的に法人税が少ないからよ」ズバーン
「なるほど。それで商工業地区が完成すればってことか………」
「大工房や大工場、大会社がどんどんできれば税金ガッポリでウハウハよ~♬」
「ここはアトレバテスのベッドタウンだからそういうの全然ないもんなぁ」
「まともな歓楽街すら無いから酒税とかもションボリなのよ~」
「お父ちゃんたちはアトレバテスで飲んでから最終バスに乗ってるんやろなぁ」
くたびれた中年サラリーマンの姿が目に浮かぶようだわ。
「ビジネスマンすらあまり来ないし、ましてや観光客なんて来るわけがないんだから、宿泊税とかもションボリルドルフなわけ~」
「分かった。もういい。もう十分だ────」
これ以上聞いたらモチベがゼロになってまうわ。
「そういうの全部ひっくるめて、俺が何とかするっ」
「アハッ、イクっち格好いい~、マジ濡れしちゃうわ~♬」
「ほぅ、どれどれ」
俺は隣に座るギャル子のミニスカから手を入れて確認してみた。
マジマンドリルですやん!
これは夫として責任を取ってヤルしかない。ない。
直ぐにズボンとパンツを下して愚息の上に座ってもらった。
誰かに見られてるかもという興奮も相まって直ぐに出た。いっぱい出た。
「もぉイクっち~、こんなところを獣に襲われたらどうするのよ~♬」
着衣を整えながら荒い息をしているティアが甘えた声で抗議してきた。
「でもほとんどの魔獣は水路の中に入ってこれないだろ?」
「猪豚みたいな野獣は泳いで渡って来ちゃうのよね~」
「イノブタって何か強そうだ。無防備なところに乱入されてたらヤバかったな」
「ま、イザって時はアタシが守ってアゲたけどね~♪」
あっ、すっかり忘れてたけど、こいつも一応は
たしか、魔法具使いとか言ってたっけ。
「勇ましくて結構だが、実際どうやって戦うんだ?」
「もちろん、コレよコレ」
まぁ、やっぱりソレだよな。
ティアが指さしたのは右の太ももに締めている大きなレッグホルスターだ。
前から気になってたが、なんとなく聞きそびれてた。この機は逃すまい。
「どんな魔法具なのか見せてくれるか?」
「了解ちゃ~ん♪」
気の抜ける返事をした女監督は俺の正面3メートルに立ち向かい合う。
そのまま10秒くらい見つめ合いが続き、フッと気が抜けた瞬間────
ティアは右手にリボルバーを握って俺の眉間に照準を合わせていた。
いわゆる早抜きってやつでほとんど見えんかったわ。予備動作なかったし。
「やるじゃないか。でも、その回転式拳銃みたいなものはなんだ?」
「魔法銃よ。魔弾に込められた魔術を敵に撃ち込むってわけ~♪」
「へぇ、メチャクチャ便利な武器じゃないか」
それがあれば誰でも魔術師になれるじゃん。魔術が使えない男でも!
「威力はどれぐらいあるんだ?」
「スッゴイわよ~、今は水術弾が装填されてるから自分で体験しとけば~」
「ちょ、よせ、止めろー」
「大丈夫よ~、死にはしないって~♪」ガチャ
─────ピューーーーーーーピュルピュ
水鉄砲かーい!
そんなお約束いらんねん。ボケはローラだけでお腹一杯なんじゃい。
指で目をこすりながら遺憾の意を表明しようとした俺の頭に何か降ってきた。
ん、んんん……これは小枝……あっ、まさか……!!!
「いつから錯覚していたのかにゃ。アタシが一発しか撃ってないと」ドンッ
なん…………だと……………!?
俺の顔に水を浴びせて目を閉じさせた瞬間に、威力のある二発目を頭上の木に撃ち、こんな細い小枝に命中させていたというのか……こんなくっそエロい体をしといて、のび太クラスのガンマンとか、天は二物を与えたよったぁ。
だがそれでいい。
エロくてチートな嫁は何人でもウェルカムさ。
それに、この魔法銃なら俺が今やってる特訓のステージを上げることができる。
「素晴らしいじゃないか! その魔法具ならきっと
「そんなの基本中の基本でしょ~」
イエス! これであの技に挑戦できる!
「ティア、この後、俺の特訓に付き合ってもらうぞ」
そうと決まったらさっさと用事を済ませて帰るべし。帰るべし。
「こっちがハムベエで、こっちがハムゾウですヨ」
「「はわわわわわ~~~」」
すっかり掃除と片付けが終わってお茶をしていたミランダとロレッタは、ローラが巨尻の谷間から出したハムスターに
どうやらこの娘たちにもアニマルセラピーは効いたようだ。ローラGJ!
「このヒマワリの種を朝と夜にあげてくださいネ」
「……はい。ありがとうございます」
「キュキュキュッ、キュッキュー」タタタタタ ゴロンゴロン
「「はわわわわわ~~~」」
もうちょっと見ていたい心温まる光景だが、今は時間が惜しい。
「必要な物のリストはできたか? 買い物に行くから一人付いて来てくれ」
と言われてもハムスターと離れたくないし、俺と一緒も嫌よな。
「ミランダ来てくれ。ローラ、どっちか一匹をお供につけてやれ」
「ハムゾウ、ミランダの肩の上に乗って付いて行くのデス」
ハムゾウと呼ばれたハムスターがその通りにすると、ミランダは意を決して腰をあげ、玄関で待つ俺たちのところへ緊張しながらやって来る。
そのまま、A棟でギルバートとマッシュを拾い、スチームカーで
その後、今は体力回復につとめろ、明後日にまた様子を見に来る、何かあったら冒険者ギルドに来いと伝えて俺たちは町営住宅から撤収した。
女冒険者パーティー セクスエルム・シスターズの婿殿 R苺 イクゾー @eichieye
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