第51話 恋泥棒ルークの金言

「嘘だろぉ? お前そんなことも分からないのか・・・マジかよ、イクゾー?」


 3月11日の土曜日の午後2時過ぎ。

 レイラちゃんのクエスト兼昇格試験『養殖場の鯉を襲うフカヤミンクの討伐』が無事に終わり、その場でアイリーン&ピーナと車内変則3Pになった。

 その帰路、ルークと一緒にギルド社用車の荷台に乗っていた俺は、情報収集のためにコイツの身の上話を聞いていたのだが、自慢話ばかりでもうウンザリ。

 ルーク曰く『俺は学校一のモテ男』だったそうだ。

 そこまで言うのならと、目下最大の悩みである恋バナの相談を切り出した。

 俺ではなく、友人の話というていで。

 恋バナとはもちろん、昨夜ヴィンヴィンにフラれた件のことだ。


「え、君には分かるの? どうしたら二人が仲直りできるのか分かるの?」

 それこそ、嘘だろぉ。

 クエストの戦闘で毎回腰を抜かして失禁してるような無能剣士が、いくら童貞だったとはいえ現代日本の中年男だった俺でも分からない男女の機微を一発で看破したっていうのか・・・もしそれが本当なら素直に降参してやんよ。


「そんなの誰でも分かるって。簡単すぎて欠伸あくびがでらー」

 コイツ、俺の話をちゃんと聞いてたか。

 それまで魔力目当てとはいえ、一度もエッチを拒んだことが無かったヴィンヴィンが、急に俺を拒絶してしばらく部屋に来るなとまで言ったんだぞ。


「ぜひ、その答えを教えてほしい」

「しょーがねーなー。耳の穴かっぽじってよく聞けよ」

「くっ、早く言ってくれ」

「待ってれば良いんだよ。ただ、それだけさ」

「何じゃそりゃー!?」

 そんな時間が癒してくれるなんてポエムは要らんねん。

 思わず素が出てルークの間抜け面を睨みつけた。


「おいおい、まだ分からないのかよ」

 だが無能剣士は俺の怒りなど意に介さず、呆れた顔をしている。

 何だよ、何が分かってないって言うんだ?

「ぼ、僕にも分かるように、言ってくれるかなぁ」プルプル

「ラブラブだったのにその夜は急にエッチさせずに追い返されたんだろ」

「その通りだよ」

「だったら、急に来ちゃっただけさ」

「はぁ? 何が?」

 まさか、急に婆さんが来たから、QBKとか言うなよぉ・・・


「生理だよ! んなもん、生理が来たにきまってんだろ」


 ああぁっっっっっっっ!!!


 それだっ! 間違いない! なんで気付かんかったぁああ。ホント馬鹿。

 そうだよ。帰ってくれと言った時のヴィンヴィンの顔は、拒絶でも嫌悪でもなく、困惑だった。急に生理が来たのなら、それで筋が通る。

 あ、前日のコスプレHが大事おおごとになってたのは、もしかしたら、既にあの最中に来てたのかもしれん。それなのに俺は夢中になって気付かずに続けた・・・

 これなら、帰れと言われても強引に迫ろうとした俺をバッサリ拒絶したの頷ける。さすがに呆れたんだろう。最初のも困惑じゃなくてドン引きだな。

 しかもあの動揺ぶり、『実は初潮だった』まであるかも。


「お見事です。感服しました」

 俺は公約通り、素直に降参し、ルークを称賛した。

「こんなの大したことねーよ」

「いやいやいや、さすが学校一のモテ男、女のことを分かってらっしゃる」

「ま、まーな。ファルザーク小の恋泥棒とは俺のことさ」

 恋泥棒!

 小学生が使うようなセリフじゃないが、まぁ良しとしよう。

 こいつが良い気分になってる内にもっと情報を集めるとするか。


「もしかして、エイミーもルークの女だったりする?」

「ねーよ!」

 もの凄い嫌な顔で全否定されたでござる。

「そうなんだ」

「さすがの俺もあの乳じゃあピクリとも息子が反応しねーよ」

 じゃあ俺がエイミーにエロいお仕置きしても問題なしだな。ククク

「もう一人いたソフィアって女の子は?」

「アイツは見た目はまぁまぁなんだけど、性格がちょっとなー」

「ちょっと何?」

「悪い奴じゃないんだけどサバサバしすぎてて男みたいなんだよなー」

 へぇ、それはちょっと意外だ。

 まだ話したことないけど、見た感じは良い所のお嬢様っぽいのにな。


「そのソフィアとエイミーとルークは、都会でアイリーンさんにスカウトされてウェラウニのギルドに来たんだよね。どういう経緯だったの?」


「おう、港湾都市ベルディーンで俺がブイブイ言わせてたら、姐御あねごが是非にって言うからよ。こんな田舎町まで来てやったわけさ」

 嘘だっっっ!

 お前はいつもいつも、ブイブイじゃなくてヒイヒイ言ってただけだろ。

 ちゃんとレイラちゃんからリサーチ済みだからな。

 ま、ここで本当のことを言って追い詰めてもしゃーない。

 調子に乗せたままいろいろ吐いてもらうとしよう。


「それは凄いね。じゃあエイミーとソフィアも相当な実力なのかな?」


「エイミーは魔法の威力は大したことないんだけど、不思議とよく当たるんだよな。味方も気付かない内に敵にダメージを与えてることがあるぐらいだ」

 分かるわー。味方が気付かない内にそばに来て覗きをするような女だからな。


「ソフィアは女で神官のくせに動きが戦士みたいに速ぇー。癒しの奇跡だけじゃなくて物理攻撃もできる。ありゃいつか前衛に立ちそうな勢いだな」

 ほぅ、お嬢様じゃなくてお転婆ガールだったか。

 しかし、戦える神官というとエマと一緒だな。

 そうだ、計画中のエマ道場にソフィアも招集しよう。

 上手く育てば、エマの後継者になるかもしれん。


「みんな将来有望じゃないか。アイリーンさんも能力を見抜く目が凄いね」

「ま、まーな。姐御は王都でバリバリやってた軍人だから当然さ」

「たしか怪我か病気で軍を辞めたんだっけ。残念な話だよ」

 だが、ピーナによればアイリーンは怪我も病気もしたことがない身体をしているようだ。なぜ嘘を吐いたのか・・・あの元女軍人には何か秘密がある。

 軍を辞めてまでウェラウニのギルドまで来た理由が何かある筈だ。


「・・・それだけどな、姐御はたぶん怪我も病気もしてねー」


「そ、それってどういうこと?」

 まさか、予想外過ぎるがこいつ何か知ってるのか。何か気付いてるのか。

「戦闘中の姐御を見れば分かるさ。怪我人や病人の動きじゃねーよ。それに治療や薬を飲んでるところを見たことねーしな」

 へぇ、こいつただの無能剣士じゃないな。

 伊達に冒険者やってないってところか。


「じゃあ、どうして軍を辞めてギルドに?」

「派閥争いで飛ばされて嫌になって辞めたと俺は踏んでる」

「それは・・・確かにあるかもしれないね」

「だろ? 姐御の軍人としての実力は相当だったはずだ。でも、人間関係を築くのは得意じゃなさそうだからな」

「ギルドでも何度かトラブったって聞いたよ」

 現在進行形で俺やピーナとも面倒なことになってるしなぁ。


「そうなんだよ。俺も随分と酷い扱いを受けてるんだぜ」

 いや、それはお前が無能だからだ。

「早いとこ昇格して待遇を改善してもらわねーとな」

 そういや、エイミーは既に五等なのにこいつはまだ最低ランクの六等だったわ。

 恐らくソフィアも五等になってて一人だけ置いていかれた状況だろう。


「お前も早く昇格ポイント貯めろよ」

 そう言われてもな。実はちょっと今、ガタ落ちなんだよモチベーションが。

 滞納野郎から大金をせしめることができたから、金に困らなくなった。   

 だから急いでトノサマインコを捕獲する必要もないし、ましてや冒険者ランクを上げる必要なんて最初からない。

 それに、遅くとも3カ月後にはティアに爵位を買ってもらって貴族になるしな。

 そんなわけで、俺の冒険魂は風前のともしびなのだった。合掌。


「僕はとくに昇格したいとか思ってないから」

「お前がそんなだと、師匠まで悪く言われちまうんだよ」

 は? 師匠ってレイラちゃんのことだよな。これは聞き捨てならん。

「どういうことか詳しく教えてくれ!」

「お、おう、エイミーが言ってたけど、お前、師匠に婿入りするんだろ?」

「ん、んんん、その件は、まだ言えないんだよ」

「とにかく、エイミーのせいでそういう噂がギルド中に流れてんだ」

「それで?」

「お前は、ヒモ扱いされてるよ」

 ヒモ!

 くっそ、酷いこと言われてたんだな。

 あ、でも間違ってないわ。これまでレイラちゃんたちセクスエルム・シスターズのの金で飲み食いしてきたのは確かだ。言われてもしゃーないか。だが・・・


「レイラちゃんまで悪く言われてるのか?」


「そうだよ。実力はあっても男を見る目が無いただの馬鹿だとな」

 ・・・許さん。

 俺のことを悪く言うのは理解できるし我慢もできる。

 だがあの天真爛漫で下手な天使よりエンジェルなレイラちゃんを悪く言うのは、絶対に許さん。絶対の絶対にだ!

 黙らせてやる。

 俺が冒険者としての実力を見せつけて必ず黙らせてやる!


「よく分かったよ。ありがとう、ルーク」

「分かってくれりゃあいいんだ。これから頑張れよ」

「うん、でも君は僕のことをヒモだと馬鹿にしないの?」

「してたさ。昨日まではな」

「じゃあ、今は?」 

「魔獣との戦闘の恐ろしさはやってみたもんじゃないと分からねー」

 そうだな。今日の敵は弱い魔獣だったけど、それでも十分ビビったわ。


「魔獣に立ち向かったお前はもう立派な冒険者さ」

「ルーク・・・」

「それに、一緒に戦った俺たちはもう戦友だ。そうだろ?」

「そうだね。僕たちは戦友だ」

 ルーク、お前って無能かもしれんが、良い奴かもな。

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