第89話 清純派行員クルーラ・パストライトの青春
「このルーラをアレー様の愛人にしてやってよ!」
なーんだそんなことかー。
いーよいーよ、おやすいご用さ。
こんな美少女ならこっちからお願いして友人に…………ってちゃうわ!
今、友人じゃなくて『愛人』って言ったよな?
お友達すっ飛ばしてイキナリ愛人!
しかも向こうからお願いしてくるとか棚ボタにもほどがあるだろ。
話がうますぎる。絶対これ罠だ。毒まんじゅうだ。
そういやレインはあのイカサマ天使にどっか似たとこあるわ。
迂闊に信じたらアカン。最悪、ハニートラップBADエンドもあるでー。
「ちょっと何を言ってるのか分からないんですけど」
「えーなんでー? この子を愛人にしてって言ってるだけじゃん」
その意味が分からんのじゃい!
「そもそも、このお願いってルーラさんは承知してるの?」
その渦中の人物に目を向けると見事に固まっていた。
( ゚д゚)ポカーンという絵文字さながらに両目を見開きお口も半開きの状態で。
「ちょ、ちょっと待ちなさいレイン! 何を馬鹿なこと言ってるのよ!」
あ、やっと我に返って顔を真っ赤にしながらクレーム入れてきた。
「あー、馬鹿って言うほうが馬鹿なんだぞー」
「はぁ~~~、すいませんアレー様、この子は本当にただの考え無しなんです。悪気は無いので許してあげて下さい」
どうやら本当にそうみたいだな。
この二人がグルになって俺をハメようとしてるのかと思ったが、ルーラは見た目のまんま真面目で純粋なクラス委員長タイプのようだ。
「気にしないで下さい。レインさんは良かれと思って言ったのでしょうから」
「そうだぞ。ルーラは16になるってのに男っ気が全然ないから、ボクが一肌脱いであげたんじゃん。感謝しろよー」
ほぉ、ルーラは16歳で処女ってことか。これは良いことを聞いた。
妄想が、いや、夢が広がるな。ムフ
「私のことはいいから、レインこそ早く良い人見つけなさいよ」
「そうなんだけどさー。銀行もギルドも良い男がいないんだよなー」
へぇ、そりゃ意外だな。
銀行ならインテリ系、ギルドならワイルド系のモテ男がいそうなもんだが。
実はこいつメッチャ理想が高いのかもしれん。
「レインさんのお眼鏡に叶う人は見つかりませんか?」
「そもそも銀行って女ばっかりなんだよ。入ってみてビックリした」
「それは知りませんでした」
「窓口業務やお金の計算、管理は女性向きの仕事ですから」
「なるほど。ちなみに男性の行員はどんな仕事をされてるのでしょう?」
「外回りの営業や倉庫の担当は男性が多いですよ」
要するに体力勝負の現場ってことかい。ま、順当だな。
「冒険者の中に、鍛えられた頼りがいのある男性はいませんでしたか?」
「あーダメダメ。あいつら口を開けば文句ばっかりで酷いもんさ」
「そうね。私もあまり好きになれないわ」
「ギルドなら少しはマシな男がいると思ったのに完全に当てが外れたよ」
うへぇ、このギルドを弱小から強豪へ成長させんといかんのになぁ。
「そんなにダメでしたか。このギルドの男性冒険者たちは……」
「なに言ってんの。アレー様だって奴らにメチャクチャ言われてるじゃん」
「あぁ……尾ヒレのついた心ない噂が広がってしまってるんですよ」
「本当に酷いですよね。あんな根も葉もないことで人を中傷するなんて」
「ルーラさんたちは、ヒモ男の噂を信じてないのですか?」
そういえば、冒険者たちと違って銀行員たちは普通に接してくれてるよな。
「当ッたり前じゃーん!」
え、当たり前なんだ?
またもレインは薄い胸を張って鼻息を荒くするほど自信満々。なんでだろ。
「私たちはギルドの借入金を一括返済したのがアレー様だと知ってますから」
あっ、そういうことかー。
俺がジェシカにそう言ったんだったわ。
実際はギルドの裏金で払ったんだけど、正直にそう言う訳にはいかんし。
ともかく、ジェシカは行員たちにも伝えたようだ。
俺は金持ってるからカモにしなさいとでも言ってるんだろう。やれやれ。
「あんな大金をポンと出せるアレー様がヒモなわけないのに馬鹿だよなー」
「この祝宴会もアレー様が費用を出されてるのですよね」
「え、どうしてそう思うの?」
「私たちはこのギルドの財政状態を知ってますから」
「けっこうヤバイもんな。こんな大パーティーやる余裕なんかないって」
うはっ、銀行テラコワス。懐具合が筒抜けですやん。
油断したらケツの毛まで抜かれてボロ雑巾のように捨てられそうだわ。
「ギルドのおごりってことになってますから秘密にして下さい」
これも実際はギルドの裏金だけどなー。
「はい、本当にアレー様はお優しいですよね。自分に悪意を持っている冒険者たちのためにお金を出してパーティーを開いてあげるんですもの」
いや違うんだけど、美少女に褒められて気分イイから墓場まで持ってこ。
「ホントかっこい~。だからぁ、ルーラのことも面倒みてやってよ!」
そこ蒸し返すんかい。本人にその気がないんだから諦めろん。
「もぉいい加減にしなさい。あんまりしつこいと怒るわよ」
「本だけ与えてれば満足する安上がりな女だからさ。ね、お願い!」
「人の話を聞きなさい!」
「そうそう、とりまルーラの話を聞いてやって。あっちの静かなところで」
マイペースの極みのレインは俺とルーラの背を押して歩き出す。
そしてパーティーの喧騒から少し離れた場所までくると、じゃあ頑張るんだよとメガネっ娘にバチンとウインクしてから戻っていった。
取り残された俺たちは呆気にとられて立ち尽くしていたが、これは降ってわいたチャンスだよな。せっかくだからこのメガネっ行員と親睦を深めよう。
あたりを見回すとギルドの体力テストで登った木があった。あそこにするか。
「良かったら、向こうで少しお話ししませんか?」
「でも私となんて……話をしてもツマらないですよ…きっと…」
うぉおおおお、モジモジしながら恥じらう姿が堪らんっ。じっくり見よう。
身長は155センチぐらいか。
レインと同じくスレンダー体系で胸も尻も小さめだ。この世界なら男の理想に近いスタイルなのに、何でこれまで男と無縁だったんだろうな。
長いまつ毛のパッチリした目は薄紫色で知性と落ち着きを感じさせる。
その上には色気のない黒縁メガネが掛けられているがよく似合っていた。
小さな口にはルージュが塗られておらず自然な桃色をしてるがツヤツヤと輝いている。リップグロス的なものを使ってるのかもしれん。とにかくキュートだ。
装いは膝上5センチの黒いヒラッとしたスカートに、シンプルながら品のある白シャツ。首元の大きな黒のリボンがアクセントになっていた。
第一印象の通り、真面目なクラス委員長JK美少女といった風情だ。
ただ一つだけ、その雰囲気にそぐわない特徴がある。
腰まである長髪がチェリーピンクというのか赤味の強いピンク色だった。
キラキラした派手さはない落ち着いた色合いなんだが、赤系統なだけにやっぱり目立つ。一見地味な少女だから余計に違和感を覚えるよなこれは。
とにかく、俺のタイプでさっきからトキメキっぱなしなのは間違いない。
こりゃオッパイ星人の称号を返上してでもハーレムに加えないと。
てなわけで、レインを見習ってちょっと強引にでも二人きりになろう。
俺は、まだモジモジしているルーラの手を取って歩き出した。
「本が好きなんですね。どんなものを読まれてるのですか?」
裏庭の壁の近くに立つ木の下で、初球に変化球から入ってみた。
興味のある話題から切り出した方が良いだろうという判断からだ。
「歴史ものをよく読んでいます。好きなんです。とっても」
照れながらもやっぱり喰い付いた。表情も明るくなったし掴みはOKやわ。
「僕も歴史とかそれを題材にした絵物語が大好きですよ」
嘘やない。横山三国志は5周くらい熟読しとる。
「嬉しい。私もエレノア女帝やロビン・モアの伝記や小説が大好きなんです!」
パッと顔を輝かせて笑うルーラがマジ可憐だ。
「へぇ、この国の文字をおぼえたら読んでみたいなぁ」
「ぜひそうして下さい。絶対に面白いですよ。ウフフフ」
この無垢な笑顔がマジ尊い。やっぱ本が大好きなんだな。
んんん……それなら何でそっち方面に就職せずに銀行員になったんだ。
図書館とか出版社に務めたら毎日ハッピーだろうに。
「どうして本関係の仕事に就かなかったのですか?」
「本当は司書になりたかったのですが───」
ルーラは少し寂しそうな顔をして夢を阻んだ障害を語ってくれた。
「この町には図書館が無いんです」
そうきたかー。
相変わらず残念な町だよココは。
「隣のアトレバテスにはありますよね?」
「はい、でも両親が家を離れるのを許してくれなくて……」
アトレバテスなら実家から通える筈だけど、年頃の若い娘が一人で通勤ともなると心配だよな。都会での一人暮らしはなおさら。うむ、俺が親でも許さんわ。
それはさておき、ちとムードが暗くなった。話題を変えよう。
「レインさんとは長い付き合いなのですか?」
「あの子とは家が近所で、小中と同じ学校なんです」
ふーん、幼馴染みってやつか。あのキャラだと腐れ縁かもしれんな。
「ちょっと暴走気味ですけど、楽しい人ですよね」
「昔からずっとあの調子なんです。女子だけでなく男子ともよく遊んでました」
「ルーラさんは男の子と一緒に遊んだりしなかったのですか?」
「私なんて……可愛くもないですし…男子ともうまく話せませんから……」
いやいやいやメッチャ可愛いですし。それに───
「僕とはうまく話せてるじゃないですか」ニッコリ
「あ、本当にそうですね。ウフフフ」
「僕は、ルーラさんはとても可愛いと思いますよ」
「そんなこと絶対にありません!」
言い切った。謙遜じゃなくてマジで自己評価が低いんだな。謎だ。
「スタイルだってエルフのように細身で素敵じゃないですか」
「エルフだなんて言い過ぎです……」
「凄くモテそうなのにこれまで男性に縁がなかったなんて不思議です」
やはりアレか。眼鏡がダメなんか。この世界的に。
「私は目が悪くて眼鏡をかけてますし────」
ビンゴ。俺にはご褒美でしかないのに残念な異世界だよまったく。
「赤い髪もあまり好まれませんから」
それは初耳だ。赤い目が不吉として嫌われるってのはピーナの時に聞いたが、髪の毛もNGとは。赤毛のレイラちゃんもそれで銀髪のカツラしてたのか。
とりま俺的には大好物のルーラがモテなくて処女な理由は分かった。
あとは上手いこと仲良くなればいいだけだ。さあ、口説こう。
「ルーラさんは、どんな男性がタイプなんですか?」
「……ありのままの私を好きになってくれる人です」ポッ
甘酸っぺえ!
前世の俺の周りには、イケメンとか金持ちとか社会的地位を求める女ばっかりだったから、このピュアさが眩しすぎるわ。ホッコリなんてもんじゃねーわ。
この湧き上がる懐かしいトキメキは、まるで初恋のような甘酸っぱさだよ。
「その眼鏡も赤い髪も含めてルーラさんの全部が僕は好きですよ」
俺はイノセント少女の細い腰にを手を回して引き寄せた。
間近にある顔がハッと息を呑んだが、腕の中から逃れようとはしない。
そのままお互い何も言わずに穏やかで甘い沈黙を楽しむ。
ピッタリとくっ付いて火傷しそうなほど熱くなった右半身から、ルーラの体温だけじゃなく感情までビンビンと伝わってくる。
それは、まだ愛や恋にまでは至ってないが、純粋で真っすぐな好意だ。
さっきの俺の告白に対する無言の了承と解釈していいんじゃないかこれは。
そう考えたら初恋が成就したかのような歓喜が溢れ、体が痺れて震えた。
───あぁ、こんな青春を送ってみたかったんだよなぁ……
この子を誰にも渡したくない。
この幸せを永遠に繋ぎ止めたい。
今はかなりイイ感じになってるけど夜が明けたら魔法が解けるかもしれん。
だからここはもっと攻めるべきだ。よし、さらに踏み込むぞっ。
「どれだけ本を贈ったら、僕の愛人になってくれますか?」
冗談めかした口調でルーラの形の良い耳に甘く囁いてみた。
「もぉアレー様ったら……私…たくさん読みますから…高くつきますよ…」
レインが言った『本だけでいい安上がりな女』を意識して言ってるなこれは。
だけどその声色には淡い色香が漂っていた。これはイケる。
ここで大風呂敷を広げて度肝を抜いてやるぜ!
「では、ルーラさんには図書館ごと本をプレゼントしましょう」ドンッ
「ふぇっ……!?」
信じられないオファーの衝撃で変な声を出すルーラだった。
計算通りに度肝を抜いたが、お陰で甘いムードも消し飛んだぜ。HAHAHA
「冗談ではありませんよ。僕はこの町に図書館を作ると今決めました」
「ほ、本気なんですか?」
「早ければ3年以内。遅くとも6年以内には必ず図書館を建てます」
実は、町から市に昇格する条件の一つが図書館だったりする。
だから本当は前から作る予定だったのさ。ま、嘘も方便ってやつだ。
「私のために……図書館を……そんな無茶な…!」
「名称は、クルーラ・パストライト記念図書館にしますね」
「ちょっ…やめて下さい! だいたい記念て何をですか……絶対にダメですっ」
「分かりました。名称はまた改めて二人で一緒に考えましょう」
「……でも、本当にこの町に図書館ができたら、私とっても嬉しいです」
「貴族の名誉にかけて必ず作ります。僕を信じて下さい」
ルーラの腰を抱く右手にギュッと力を込めた。
そしてまた俺たちは口を閉ざし、恍惚とした沈黙を楽しむ。
お互いの息遣いと体温だけを感じ合う甘美なひとときに終わりを告げたのは、何かを決意した表情のルーラの言葉だった。
「本当にありのままの私でも好きになってくれますか?」
「もちろんです」
今さらこんなことを言い出すのは、何か隠し事でもあるってことか……
だが、実は男の娘なんですとでも言われん限り大丈夫。ドンと恋だ。
俺はルーラが自分の秘密か何かを打ち明けてくれるのを待ち続ける。
ところが、彼女がやっと切り出したのは全く別の話だった。
「レインって昔からすごく思い込みが激しいんです」
「……確かにそんな感じですよね」
ここでヤンチャ娘とか肩透かしだわー。
知り合ったばかりなのに愛人だ図書館だってことになっちゃったから、強引に話を変えてブレーキを踏んだのかもな。ま、しゃーない。だって清純派行員だもの。
「私が本ばかり読んでると心配して男子を紹介しようとするんですよ」
「まさに今日の僕がそうですよね」
「はい、だけどそれもレインの思い込みのせいなんです」
「というと?」
「あの子は私が本にしか興味がないって勝手に思い込んでるんです」
「えっ……」
この子が踏んだのはブレーキやない、アクセルや!
つまり、これって、もしかしなくても、要するに、そういうことだよね。
───本だけじゃなくて、実は男の子にも興味津々……だったりする?
俺の視線を正しく読み取ったルーラは大胆な行動で返事をしてきた。
真横で引っ付いていた体をずらして俺の真正面にくると、少し背伸びをして柔らかいお尻を押し付けてくる。不意打ちを喰らった愚息は何のリアクションもできなかったが、状況を理解するとすぐさま持ち前の若さを発揮してしまう。
しかし、俺の股間が質量と熱量を一気に増してもルーラはひるまない。
むしろ嬉しそうにグイグイと小さなお尻を密着させてきた。
こうなると俺の獣欲も一気にレッドゾーン突入だ。
背後から激しく抱きしめてこっちからも愚息を思いっきりこすり付けた。
髪から漂うフローラルな香りと無垢な美少女の荒い吐息が興奮を加速させ、あっという間に俺は昇天し崩れ落ちるように尻もちをつく。
「こんな私でもまだ好きでいてくれるなら……また二人きりで会って下さい」
ルーラは俺に背を向けたまま紅潮した顔を少しだけ振り向かせて想いを伝えると、返事も聞かず足早に去っていった。
そんな美少女行員の後姿を、熱いマグマを解き放って賢者タイムに突入したピュアな心で見つめていた俺は、湧きあがる想いを脳内で絶叫するのだった。
────こんなん惚れてまうやろぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!
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